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標本空間と事象と加法族

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事象

事象とは、起こり得る事物である。事象は一つの要素からなる場合と、複数の要素からなる場合、また数えられない数の要素からなる場合がある。

  • 今日の午後に降水がある
  • 今日の午後の天気が晴れまたは曇り
  • 今日の午後の最高気温は22度を超える
  • サイコロを投げたら1が出る
  • サイコロを投げたら偶数が出る
  • サイコロを投げたら6以外が出る
  • 次の電車はおよそ3分後に到着する

確率論は、事象が起こる確率に関する数学である。

標本空間

すべての事象が部分集合であるような集合を、標本空間という。標本空間は大文字のスクリプト体

X、また場合によってはギリシャ文字の大文字
Ω
で記す。

事象列

すべての事象を順不同で列挙する。

A1,A2,,Ak,,AL

これを事象の列という意味で、事象列と呼ぶ。標本空間には、

k=1LAk=X

が成り立つ場合と、これは成り立たず、

k=1LAkX

となる場合がある。

有限集合

有限個の要素からなる集合を有限集合という。標本空間

Xが有限集合の場合を考える。すべての要素に番号を付ける。
X={a1,a2,,aN}

標本空間の部分集合の中から、一部を選んで集合族
A={A1,A2,,AL}

を作る。この集合族が
Ak,AlAAkAlA

という性質を持つとき、これを加法族という。

コイン投げでは、標本空間は

X={表が出る,裏が出る}
となる。この標本空間のすべての部分集合は
A1=X,A2=,A3={表が出る},A4={裏が出る}

であり、これらを要素とする集合族
A={A1,A2,A3,A4}

は加法性を持つ。

例えば、天気予報を論じるために、天気を要素とする集合を

X={快晴,晴れ,曇り,天気雨,小雨,,大雨,雷雨,台風,氷雨,,}
と定める。ただし、興味があるのは降水の有無の場合には、事象を
A1={快晴,晴れ,曇り},A2={天気雨,小雨,,大雨,雷雨,台風,氷雨,,}

のみとしても良い。これらを含む集合族
{A1,A2,,X}

もやはり加法性を持つ。

可算集合

可算個の要素からなる集合を可算集合という。標本空間

Xが有限集合の場合を考える。すべての要素に番号を付ける。
X={a1,a2,,ai,}

標本空間の部分集合の中から、一部を選んで集合族
A={A1,A2,,Ak,}

を作る。この集合族が
Ak,AlAAkAlA

という性質を持つとき、これを可算加法族という。

整数集合

整数集合

Zは可算集合である上に、順序
と距離
d
が定義できる。順序とは、要素間の順序関係であり、数字に自然な順序の一つは、大小関係である。

aba<b

数字の間の距離もさまざまあるが、一つのよく用いられる距離は差の絶対値である。

d(a,b)=|ba|

方向を表すために、符号付き距離が用いられることもある。

d(a,b)=ba

たとえば正の整数の場合、

X={1,2,,i,}
標本空間の部分集合の中から、一部を選んで集合族
A={A1,A2,,Ak,}

を作る。この集合族が
Ak,AlAAkAlA

という性質を持つとき、これを可算加法族という。

連続集合

順序と距離が定められた集合で、任意の2点の間に別の2点が存在するような集合を、連続集合という。実数全体の集合

Rは、連続集合の一例である。連続集合の要素は、数え上げることができない。

たとえば

R のすべての要素に
a1,a2,,ai,

のように番号をつけて、それらの総和
i=1ai

を計算することができない。そもそもすべての要素に一意に定まる番号付けを定義できない。

そのため事象としての部分集合を、次のような範囲で定める。

a,bR,A={x;a<xb}=(a,b]

このような範囲を表す集合を集めて、加法族を作る。

a,b,c,dR,A=(a,b]A,B=(c,d]AABA
標本空間が連続集合の場合には、要素に番号づけができないのと同様、事象にも番号づけができない。