probability-theory
ある確率分布に従う確率変数の期待値
を分布の平均といい、で表す。
確率変数がからどれぐらいずれることが期待されるかを、
を計算すると評価できる。例えばがゴルフのあるクラブを用いてスイングした時のゴルフボールの飛距離として、
である場合は、飛距離と180mとの差の期待値は-3.5m、言い換えると、飛距離は平均して180mに3.5mだけ足りない、となる。
ある籤は、確率で当たり、確率で外れが出るとする。また1回の抽籤に円が必要で、当たると円をもらえるが、外れると何も貰えない。
籤の結果を表す確率変数をとし、この確率変数は当たりの時にとなり、外れの時にとなる。
このような状況を確率変数 を用いて表すと、籤を1回引く人の得失差は
と表現できる。この籤の期待損失は、得失差の期待値を求めて
となる。
長さを計測する機器がある。真値がのものを計測すると、平均はになるが、誤差を伴う。計測を確率変数、誤差を確率変数で表すと、
の関係にある。
この誤差の従う確率分布は、の影響を受けないものと仮定する。長いものを測ろうが、短いものを測ろうが、誤差の中心はで、が従う確率分布は真値に依存せず共通とする。
このとき、計測値と真値の差は
また計測値と真値の差の2乗は
という期待値を持つ。
嵌合は私たちの身の回りにとても多い、複数のパーツをはめ合わせることである。
たとえばこのような持ち帰り食品の容器は、蓋の部分と器の部分は別々の製造工程で作られて、最後にはめ合わせる。もし蓋の部分の外径の内側の直径の平均が、容器の部分の外径の外側の直径の平均がであったとすると、
は蓋が嵌まらない確率を表わし、
は蓋と器の間の隙間の平均値を表し、
は隙間の大きさの二乗の期待値を表す。
1次元ユークリッド空間(=数直線)上の2点の間の距離を考える。すぐに思いつく距離は次の3種類。
は符号付き距離という。これは、多めと少なめが相殺される。
どれぐらい離れているかを調べる場合には、絶対距離
もしくは二乗距離
など、方向を持たない距離が用いられる。
点と点との距離を、グラフに描いてみた。横軸は、縦軸は。
距離には符号のない距離と、符号のある距離がある。符号がないとは、向きがないことと同じである。赤色と青色の向きのない距離を用いると、とは、に対して同じ距離を持つ。緑色の向きのある距離を用いると、この2点はを堺に、互いに逆方向にあることが分かる。
確率変数は、一つの値に留まることはなく、試行の都度、移ろう。そのため確率変数ととの距離を考えるには、それらの間の距離の期待値を考えるしかない。
絶対距離の期待値
は、場合分けと条件付けの2つを用いて計算する。
二乗距離の期待値
はそのまま計算できることが多い。このために、確率論では後者を確率変数と点の間の離れ具合の評価に用いることが多い。
他に4乗距離の期待値
や6乗距離の期待値
も、離れ具合の評価に用い得るが、これらは2乗距離に加えて必要ならば用いる程度である。
6次までの距離関数のグラフ。
被積分関数のグラフ。
赤の点線は、確率変数が従う確率分布の密度関数。
ところで、例えば確率変数と点の間の2乗距離は次のように計算する。
この計算で必要になるのは、の計算、またはとの計算である。この後者をモーメント、または原点モーメントという。
確率変数のべき乗の期待値をモーメントという。確率変数そのもののべき乗、確率変数の期待値がになるように変換してからのべき乗、確率変数を標準化してからのべき乗、それぞれで名前が異なる。
ある確率分布に従う確率変数の正の整数によるべき変換 の期待値
を、確率分布の次の原点モーメントという。最もよく用いられる原点モーメントはとした平均
である。
(とを重ね描いたグラフと、を重ね描いたグラフの2枚を挿入)
ある確率分布に従う確率変数の、平均からの偏差の正の整数によるべき変換 の期待値
を、確率分布の次の中心モーメントという。のときはとなるため、中心モーメントはの場合のみを考える。
最もよく用いられる中心モーメントはとした分散
である。分散をと置くことが多い。
(とを重ね描いたグラフと、を重ね描いたグラフの2枚を挿入)
ある確率分布に従う確率変数を、平均と標準偏差を用いた標準化の正の整数によるべき変換 の期待値
を、確率分布の次の中心モーメントという。のときは、のときはになるので、標準化モーメントはの場合のみを考える。
の標準化モーメント
を歪度、の標準化モーメント
を尖度という。それぞれ および で表す。
(を重ね描いたグラフを挿入)
確率変数の期待値をと置く。
原点モーメントを
と置く。である。また中心モーメントを
と置く。である。
二項定理から
であり、中心モーメントは
のように原点モーメントで表せる。ただしおよびの項のみ、まとめることができて
となる。
例えば
また
などである。
中心モーメントから原点モーメントを求めるには、中心モーメントの定義から導く関係式を、原点モーメントについて順に解いていく。
などである。