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ヴェヌス・クリ・ガタ(Vénus-Khoury Ghata)を読む(担当:森田俊吾)

  • Vénus Khoury-Ghata, Eloignez-vous de ma fenêtre, Mercure de France, 2021.より2篇

私の窓から離れてなさい
星が完全に閉ざされたら戻ってきなさい
それは私の骨が乾いた石になり
私の身振りが控えめな風になるときだ

ランプの油が枯れる前にあなたの輪郭を持つことなく出て行きなさい
飼い主に愛されない犬がごとき頭は膝に挟み
滝のように聞き入れず
小石を貪る角蟻のように押し黙る
交わることなく出て行きなさい
私は自分の鎧戸を釘で打ち付けた
私の本を黙らせた
その日の顔に投げつけられたシャベル一杯分の土の中に寝床を作った

何一つ期待しない 助けも
慰めも

Éloignez-vous de ma fenêtre
ne revenez qu’après la fermeture définitive de la planète
quand mes os seront de pierre sèche
mes gestes de vents retenus

partez sans vos contours avant que ne tarisse l’huile de la lampe
tête entre les genoux comme chien mal aimé de son maître
sourds comme les cascades
muets comme les fourmis à cornes qui se nourrissent de cailloux
partez sans vous croiser
j’ai cloué mes volets
fait taire mes livres
creusé ma couche dans la pelletée de terre lancée à la figure du jour

je n’attends aucune aide
aucune consolation



聞け
おまえの頭の上の地球に耳を澄ませよ
道を見失わぬよう暗闇の迷宮を辿って行け
扉は屋根の上にある
おまえの部屋はひっくり返った

誰も見当たらない
雨の音にかき消されるおまえの名前を地球の端から端まで叫んでいる人の声
おまえが無を選んだことを覆せ

あのひとに黙るように言うんだ
おまえが一時的に住まい、忘却でおまえを満たしている
その沈黙の空間に敬意を示すために

Écoute
écoute la terre au-dessus de ta tête
suis les dédales de l'obscurité pour ne pas t'égarer
la porte est sur le toit
ton habitacle est renversé

personne en vue
le bruit de la pluie couvre la voix de celle qui crie ton nom d'un bout à l'autre de la terre
réfute ton choix du néant

dis-lui de se taire
par respect du silence qui t'héberge
et t'emplit d'oubli

ヴェヌス=クリ・ガタとは?

  • 1937年、レバノンのブシャーレ出身(ベストセラー『預言者』の著者ハリール・ジブランと同じ故郷)。父親がフランス委任統治時代に通訳をしていたこともあり、早くからフランス語に親しんだ。
  • 1957年、実業家2世と結婚。ベイルートのÉcole supérieure de lettresで文学を学ぶ。
  • 1959年に、ミス・ベイルート(ヴィーナス)に選ばれる。1966年頃から詩を発表。
  • 最初の夫と離婚し、内戦から逃れるためにフランス人の医者と結婚して1972年からパリに住む。
  • 娘のヤスミーヌ・ガタも小説を出している。
  • MandelstamやMarina Tsvétaïévaに関する本とか書いている。
  • 兄が詩を書いていたが、厳格な父親によって精神病院に入れられてしまう、兄を受け継ぐ気持ちで詩を書いている。
  • やたらと受賞している(アポリネール賞、マラルメ賞、シュペルヴィエル賞、ギュヴィック賞、アカデミー・フランセーズ賞、ゴンクール詩賞、ルノードー賞、レジオンドヌールなどなど)

参考URL:

https://excerpts.numilog.com/books/9782715256736.pdf
https://pierresel.typepad.fr/la-pierre-et-le-sel/2012/03/vénus-khoury-ghata-une-grande-dame-brisée-de-lintérieur.html

解釈・コメント

  • fourmi à corneは白亜紀後期にいた長い角を持ったケラトミルメクス(Ceratomyrmex)のことだと解釈
  • 関係ないが、読んで高橋新吉の「留守」を思い出した(留守と言へ/ここには誰れも居らぬと言へ/五億年経ったら帰って来る)

〈個人的な感想〉

  • 転倒した世界観、大きなものと小さなものの対比が印象的。
  • また、力強い(一行が凄い長かったりするもの)、暴力的な声、イメージがある(シュルレアリスムのような突拍子のないイメージにも近い?)一方で、孤独と静寂が激しいコントラストとしてある(sourds comme les cascadesなど)。
  • 読み甲斐はめちゃめちゃあることがわかった。
  • ただこれをフランス詩をはじめて読む人たちと読めるかと聞かれたら、う〜〜んといったところ(おいてけぼりをくらう)。
  • 論理ではなく、フィーリングを楽しみ、突き刺さる一行に引き込まれるかどうかが大事(今日の結論)。
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