みす51代 Advent Calendar 2018 5日目の記事です。
この文章は合作らしいです。誰がどのパートを書いたのでしょう? 私気になります!
パートごとの執筆者の解答とコメントは最後にあります。
さきに手記の添付資料を読んでから来るとノリがわかるかもしれません。
――俺たちは語り継がなければならない。
あの戦線に立ち続けた彼らのことを。帰るべき場所を目指し、山に立ち向かった男たちのことを。
前線指揮官 Ryo Seno の手記より
添付資料
対小田原戦線奮闘記
潜む。歩く。また歩く。潜む。歩く。
走ってはいけない。走る体力もない。荒くなりそうな呼吸を必死に整える。苦しい。苦しいから呼吸を整えようとしたのではない。呼吸を整えるという行為に苦しさを感じたのだ。深呼吸が苦しいなんて経験、これが生まれて始めてだった。あるいは生まれたとき以来かもしれないが、そんなことは詮無きことだろう。と、わずかに散逸しかけた思考を脳髄の奥に押し込み、もう一度大きく息を吐く。わからない。もはや感覚がわからない。感覚が消えゆく中で、しかし、寒いということだけはわかった。そして苦しいと感じることは、もはや感覚ではないことを理解した。これはもっと精神的なものだ。五感の内側にあるもの。腰が抜け、肺が力を失い、喉元を掠れた空気だけが通り抜けてゆく。苦しいとき、呼吸が本当にひゅうひゅうと言うことも、初めて知った。無様だ。なにがエリートだ。なにが将来有望だ。俺はこれまで浮かれきっていた。どんなに浮いた人生だろうと、死ぬ直前、人はひとしく無為な有機物に成り果てる。死ぬ前ではない。死ぬ瞬間にはもう無為だ。そして、無為なまま果てる。
俺は苦しみを紛らわせようと、デバイスを衣服の中に隠し、そっと時間を確認する。明かりが漏れないように慎重に、奴らにバレないように。時刻は午前一時三十一分――俺が歪みきった空間を離脱してからおよそ三十分後のことだった。
思い出す。崩壊した駅を。俺は気づけばそこにいた。ただ、曖昧な敗北の記憶だけがあった。あたりを見渡せば、おおよそのモノが歪みきっていた。そこがどこか知るため、駅名が書かれているはずの柱を探したが、それらはすべて付け根から崩壊し、もはやその意味を成していなかった。そもそも駅としての機能が残っていないのだ。なんなら空間すら機能を失い始めているのだ。オアシスを探しているときにほんの小さな水たまりを見つけても問題は解決しないように、たとえ駅名を示す符号を見つけることができても、それに大きな意味があるとは思えない。
どこからともなく立ち上がる土煙がうるさく舞う。まるで温泉街の湯気のように、あたり一面を粉っぽさが覆い尽くしていた。それは、どうしようもない絶望とともに、終わらない悪夢を見ているようで。
本当に夢のようだったのだ。
「煩い、もう聞きたくもないー」
脳裏によぎる、刹那。
「聞きたくなくてもチャイムは鳴ってんだよ遅刻野郎」
ふと、目の前で男の声がした。
男は髭面に角刈りで全身ジャージ姿、そして目を引くのはその右手にしっかりと握られている竹刀。体育教師の辻井だ。
気づくと俺は校門の目の前で立ち尽くしていた。毎日の通学路を共に駆け抜ける愛車も一緒だ。
「聞いてんのか?」
だめだ、何も思い出せない。今の今まで、俺はあの地獄のように歪んだ空間から逃げていた。そのはずだった。
首をぐるりと回し、あたりを眺める。
すっかり葉を落として寂しく枝だけを伸ばす街路樹。しっかりと舗装された道路と、ときどき過ぎ去っていく自動車。少し遠くを見ればビルが立ち並び、コンビニの看板や公園もある。
見慣れた高校の前だ。間違いない。見間違うはずもない。
「夢……?」
「おい」
確かに、あれは悪夢だった。夢であってくれとは何度も願っていた。しかし、ただの夢にしてはあまりにもリアルすぎた。まるで本当に体験したような生々しさが、そこにはあった。
あの荒い呼吸も、感覚が消えていく中で唯一残った寒さも、もはや原型を留めないほどに崩壊した駅も、立ち上る湯気のような土煙も。
俺が目の前で見て、体験してきた、あれらがすべて夢だったというのか。
「おい!」
と、辻井の怒鳴り声で意識が現実――正確には『現実だと思われる方』――に引き戻される。
そうだ。あれはきっと夢だ。悪い夢だったのだ。
昨日夜遅くまでFPSに興じていたせいで寝坊し、焦って家を出てきたのは事実だ。きっと校門前で意識が限界を迎え、立ったまままどろんでしまったのだ。我ながら曲芸じみていると苦笑してしまうが、あり得ない話ではない。悪夢の内容も、ゲームに影響されたものだとすれば納得できる。
というより、それ以外に説明がつかない。そういうことにしておこう。
俺は辻井に思いつく限りの謝罪と反省の言葉を並べて落ち着かせ、スキありと見るやいなや逃げるように玄関へと向かった。
走った拍子に少し肺が痛んだ気がしたが、きっとこの寒さのせいだ。
『目覚めなさい』
あなたは…………
『目覚めなさい、あなたはそこにいてはいけない』
どうして…………
『均衡点たる君を失った世界はその因果律を正しい形で保てない―――まもなく世界の崩壊が始まる』
均衡点…?因果律…?そもそも君は…?
『時間がないわ、目覚めなさい、あなたは――――』
…………
「はっ」
目が覚めるとそこは教室だった。教室の黒板の上にかかっている壁掛けの時計を見ると、既に昼の12時を回っていて、周りの生徒達はというと思い思いにグループを作って昼食をとっていた。
今日の一時限目は現国の中田だった。中田ののっぺりとした喋り方はいつも聞いているだけで眠くなってくる。辻井を巻いて教室にたどり着いた俺はというと、意気揚々と教科書を開いたはいいものの、中田の話を聞いているうちにいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「それにしても…」
さっきのは一体何だったのだろう。均衡点やら因果律やらさっぱりだけど、『目覚めなさい』という言葉は今朝の悪い夢を連想させる。
今朝の夢で、俺は何からか逃れるように隠れていた。苦しくて仕方がなくてこれが夢だったらいいのにと思ったら本当に夢だった。夢とは思えないリアルさが、今こうして学生をしている方が夢で、あの悪夢の方が現実だったんじゃないかって不安にさせるけど、あまりの馬鹿げた考えに失笑してしまう。こんなリアルな感覚が夢であるわけがない、現におなかもグーって鳴ってるしね。
その後は購買で買ってきたパンを食べて、午後の授業を受けて、何事もなく一日は終わった。
…………
次の日、昨日に引き続き寝坊してしまったらしい俺は、走って学校に向かっていた。
「また辻井に怒鳴られるな…」
憂鬱な気分になりながら、ふと、俺は違和感を覚えた。
何か…あるべきものが…ないような…。
具体的には股のあたり。
いつも走っていると擦れてしようがないアイツが。
ない、そう、ないのである!つるっつるなのである!
「え!うそ!なんで!え!」
服の上から、ズボンに手を入れてみて、まさぐってもまさぐってもないものはやっぱりない。
「え!は!うそ!なんで!え!どうして!え!」
混乱してきた俺は何が何だか分からなくなってきた。あまりの意味の分からなさに頭はとうにオーバーヒートしていて、周りの視界も歪んできた。道路とブロック塀、屋根と空、世界の境界が曖昧になって、自分が立っているのか座っているのか分からない。
「え!うわ!え!うわっ!あ!ア!あああああ!あぁあぁああああアアアア!!!」
自分が誰か、何者なのか、何?ナニモン?ナニモンなんです???分からない、ワカラナイワカラナイああああklなくぁwせdrftgyふじこlp????
『こっちよ!!!』
誰かがこちらへ手を伸ばしてくる。薄れゆく意識の中でもその声だけははっきりと聞こえて、差し伸ばされた手を掴んだところで俺の意識はプツリと途切れた――――
……………
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
脳が蕩けるほど強烈な睡魔の中、夢現で朦朧とする俺は必死に体を持ち上げる。
周りを見渡す。
大きく開かれた窓からは一杯に光が射し込んでおり、白を基調とした部屋と相まって、とても眩しい空間だ。吹き抜けるそよ風はカーテンをたなびかせ、微かに頬を撫でる。そして、枕元には座る一人の少女の姿があった。
「目が覚めたか。」
その声は俺の精神を現に呼び戻す契機となった。
「ここはどこだ」
「ここは通称”秦野駅”と呼ばれる場所。一種のシェルターのようなものだ。この秦野駅は、歪みの影響を一切受けない座標に位置するため、あらゆる空間的、時間的な歪みを受けない。」
枕元に座っていた一人の少女….彼女は抑揚のない声でそう語った。彼女の鋭利な視線はまるでモルモットを見つめる科学者のようであり、彼女の姿を見ているとまるで自分自身も彼女の実験に使用される実験動物であるかのような感情を覚える。
「数日前ーー」
彼女の語るところによると、数日前に宇宙は終着点ーー小田原駅と呼ばれるーーに到達した。それは「起こってはいけない」事象であり、何らかの外的作用によりその事象が引き起こされたことによって、宇宙の因果律が崩壊してしまったという。
この世界は、あらゆる事象が確率という枠組みで成り立っていると人間には認識されている。それは確かであるが、見方を変えると正しいとは言えない。
この宇宙において絶対である時間軸において起こりうる事象は全て「時刻表」に記録されているという。つまり、あらゆる事象はあらかじめ規定されている事であり、そこにランダム性というものは存在しない。その「時刻表」には我々の寿命や明日のお昼ご飯の弁当の具材から、ある一つの素粒子の単位プランク時間後の状態までが詳細に記録されている、所謂神のスケジュール帳だ。どうやら、今起こっているのはこのスケジュール帳に書かれていない事が起こってしまった事に起因するらしい。
「俺以外の人はどうなったんだ。」
「我々が今存在する世界には”人間”という概念が存在しない。その質問は愚問だ。」
「どうして俺はここにいるんだ。」
「私には分からない。どうして君がここに存在しているのか。この世界において、君はなんなのか、私にはさっぱり分からないのだよ。仮説はある…..元の世界における君は、均衡点における存在….所謂神だったのではないか、ってね。」
俺が神だと。自慢じゃないが、俺はそんな崇高な存在とはかなり程遠い生活を過ごしてきたんだ。朝起きて、薄明のような眠気のまま登校し、友人と他愛もない話をして家に帰り、FPSに興じる…..なんて日々を繰り返す、平凡な高校生だった。そんな俺が実は神だっただなんて、世界が崩壊する前の俺に話したらどんな反応するだろうな。きっと質の悪い冗談として笑い飛ばすんだろう。
「自惚れるな。私のは仮説にすぎないのでな。」
「なんだよ….俺神扱いされるなんて生まれて始めてだったのに…」
「随分寂しい人生を送ってきたんだな。」
「否定はしないさ。ただ、俺ずっと思ってたんだ。自分には何か秘められた能力があって、いつか….具体的にいつなのかは分からないが….その能力が解放されて世界救っちゃったりとかしねーのかなって」
「そんな妄想してたのか、本当に寂しい奴だな。君は」
能面のようだった彼女の顔に微かに笑みが溢れる。なんだ、笑うと結構可愛いじゃないか。
「一つ気になってることを質問してもいいか?その…..お前は一体何者なんだ?俺が神だとして、お前は何なんだ?」
「ああ、私はだな…..」
「私は……ココを管理するシステム、とでも言っておこうか。」
「ココって……その秦野駅ってやつか?」
「ああ、私はここを守るべく生まれ、育ってきた。」
「AIみたいなもん?」
「AI……?知らないな……君の世界では当たり前にあるものなのかもしれんが。」
そもそも人間の概念が存在しない世界で人工知能なんて、的外れもいいとこだな、と反省した。やれやれ。
しかし……この場所は一体?俺は何故ここにいる?
そしてここを管理する少女……ここはそれほど大事な所なのだろうか。
「この場所は……その、何なんだ?歪みの影響を一切受けないとかなんとか言っていたが。」
「君は質問だらけだな……少しは考えようという気概はないのか?」
「聞いた方が早い、俺はそうやって生きてきた。」
「はぁ……まぁそうだな、合理的かもしれん。教えてやる前に、世界が何故崩壊したか、もう少し詳しく話そう。」
彼女によると、世界は本来"トウキョウ"という領域内に留まるべきなのだという。
この"トウキョウ"という領域は歪みがない。故に世界はここに留まる限り安定し、全ての事象が予定通りに進んでいく。
しかし、突如起こった"何か"によって、世界は"トウキョウ"を離れ"カナガワ"という領域へと入り込んでしまった。
世界は"カナガワ"の奥へ入り込む程大きくなる歪みに耐えきれなくなり、ついには"カナガワ"の奥地たる小田原駅に到達し、崩壊したのだ、と彼女は言った。
「ちなみに、ココはどの領域なんだ?」
「秦野駅は特別な場所だ。強いて言えば"カナガワ"に存在するが……極めて安定している、特異点のようなものだ。」
「なんか都合が良いな……」
「私が頑張って管理しているんだ、私がいなかったら、この駅もとっくに崩壊していた。」
「すごいんだな、お前って。」
「褒めても何も出ないぞ?」
なんだか女の子とこう長く会話するのはとてつもなく久しい。
かつて機械みたいに日々を過ごしていた俺は、この突拍子もない状況に混乱しつつも、彼女との会話を楽しんでいた。
「んで、ココの目的は何なんだ?」
「うむ、本題だな。この駅は、崩壊した世界をリセットする、つまり、世界を再び"トウキョウ"に戻すための場所だ。」
「そんなことが出来るのか?」
「秦野駅の北東にしばらく進んだ所に町田駅という場所がある。まぁそこは"トウキョウ"なのか"カナガワ"なのか良く分からんような所なのだが……」
「なんだそれ。」
町田駅という場所は、"トウキョウ"と"カナガワ"の両面を併せ持つ曖昧な場所。
だからこそ、その2つの領域を繋ぐ唯一の場所でもあるのだという。
「つまり……元の世界の神を町田駅まで連れていけば、世界は元に戻る……?」
「君にしては珍しく察しがいいな。そういうことだ。で、秦野駅はそのための宿場、といった所だな。」
なるほど、なんとなく全てがつながってきた。
「ってことはつまり……俺がココに連れてこられたのは?」
「ああ、君が元の世界の神なのでは、という仮説はここから来ている。」
「んじゃ、俺がその町田駅ってところに行くしかないよな。」
「……待て!外は危険すぎる。そもそも、君が本当に神かどうかなんて……」
「でも、今はそれしか出来ないだろ?世界をリセットするためにさ。」
「じゃあ……私も連れて行ってくれ。」
彼女の目は薄っすらと潤んでいた。不覚にもドキッとした。
「でも、お前はココを守らなきゃいけない……そうだろ?」
「私は……外の世界を見てみたい、みんな楽しそうだ。私は……ずっと一人だった。」
「お前……」
「私は悪い子だな……私が生まれた目的も、もう忘れかけて……」
「……いいぜ、行こう、町田駅に。お前と一緒に。」
「……いいのか?」
「俺はお前のこと、嫌いじゃない、というか、ぶっちゃけ好きだ。」
「………そ、そんなこと言われたって動揺しないんだからねっ!!」
「お、え、ど、どうした急に……」
「で、でももう1回言って欲しいかなって……」
「え、えと……僕は何をしましたか?」
「言ったじゃない、私のことが、す、す、好きだって!!」
少女は、まるでマシュマロのごとく柔らかいーーまあ触ってはいないのであくまでも推測ではあるがーー両頰を、収穫直前の林檎のように赤らめる。
俺は、突如変貌した彼女に対して、逆に動揺してしまう。
「……………」
俺はいろいろと考えるうちに頭が真っ白になり、何も返答することはできなかった。そして、両者の間には暫時沈黙が続いた。すると突然、彼女は、まるで悪いものでも食べたかのように狂い出し(いや、これが本性なのかもしれないけど)、突然わけのわからないことを言い始める。
「『町田』っていうのはね、"トウキョウ"の生殖器なの……」
「は?」
「下品な話だ、ってことくらい分かっているわ。でも、世界の存続のためには必要なの。」
彼女は徐ろに"トウキョウ"の地図を広げる。確かに「町田」は"トウキョウ"の生殖器と言われても仕方のない位置に、それらしき形で鎮座しているし、一応道理には適っている……のだが。
俺は一つの疑問を呈す。
「でも、なんというか、さすがに明からさまな……。こんなことをして、こ、公然わいせつ罪にならないのか……?」
「あら、コウゼンワイ……何のことかしら?」
ああ、そうか。そういった類の質問は愚問であった。なんとも言えない「何か」のやり場がなく、とりあえず頭をかきむしる。
「ていうか、おい、ちょっと待て。となると、俺は"トウキョウ"の生殖器たる場所に行く、ってことなのか!?」
「うむ。そういうことになるな。」
「はい…………。」
「……っ」
陽の光を感じる。鈍い頭痛のせいか、意識は依然朦朧としている。
「ここはーー」
目をゆっくりと開く。そこに広がるのは、見慣れた天井だった。
「そうか、全て終わったのか。」
視線を自分の隣に移す。そこには、あの「少女」が、安らかな顔で眠っていた。
「…………」
世界は救われた。しかし、残されたこの「少女」はどうなるのか。
全てが終わった今、「秦野駅」という存在は、その存在意義を失う。
そうなれば、「秦野駅」を守る彼女も、その存在意義を失い、消滅してしまうかもしれない。
「やるしか……ないよな」
そうつぶやきながら、ゆっくりと目を閉じる。
「こいつはーーー」
薄れゆく意識の中で、彼は心に固く誓う。
「ーーー俺があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
あれからとても時間が経った。
重なり合う世界の中で、きっと俺とあいつらは重なっていたのだろう。幾重にも。
だから、俺はそこにいたし、いなかった。あのときの俺は、俺ではなかったのかもしれない。
可能性はいくらでも広がっていたし、そのうちのいくつかを、俺たちは曖昧なまま、それぞれ別々に――少しは同時に――体験していたのだ。
歪みきった世界では、そうあることが存在のルールだった。胡蝶の夢を多少なりとも定義に含むことが、世界のルールだった。
けれども、あのとき抱いた決意とそこから成された結果だけは、レプリカでも合成でもない。それぞれの、本物だったと信じている。
だから良かったのだ。俺たちは救われたのだ。
だから、俺はもう一度、あの場所に向かっている。
結局、俺は今ここに「俺」として収束できた自信はない。
存在を担保してくれた時空の最終列車はもうない。
行き過ぎてしまった俺を、「秦野駅」に戻してくれる乗り物はもうない。
だから、ここから先は俺自身でやらなければならない。
一輪駆動マシンのハンドルを握り直す。エンジンをふかし山を登る。降りるときのことなんて考えることもせずに。勢いのまま。
今度こそやり直すんだ。
この先で彼女と会って。
そして、俺たちが取り戻した秩序と。
この夕陽を、見せるんだ――
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あ、明日のアドカレ記事はアルケンさんの「例のアレ」です。例のアレ、どれ? お楽しみに! 私も楽しみ!