~ Quantum mechanics of elastic colliding particles ~
簡単なところから始めるために,壁に衝突して完全反射する1粒子の量子力学を考えることにします.
まずはじめに,時刻
であったと仮定します.つまり,確率密度
というように,
でなければなりません.そして,この
要するに,
であるということです.
粒子の位置
で与えられます.この状態での値は
また,
したがって,
となります.
粒子の運動量
で与えられるのですが,今考えている状態の波動関数は
だったので,波束の境目のところで微分ができません.そこで,「運動量表示の波動関数」というものを考えます.それは,通常の「座標表示の波動関数」
で求められます.この関数は元の関数と
の関係にあります.要するに,フーリエ変換と,その逆変換の関係です.実際に計算すると,
この運動量表示の波動関数から,運動量の確率分布が得られます.
fig. EC-1 (
運動量の期待値は
で与えられますが,上の図より明らかに確率分布が
であることがわかります.
次に,運動量の2乗の期待値を考えますが,これは
という積分になります.この形のままではよくわからないので,変数変換してみます.
となります.この
fig.EC-2 (青:第1項,橙:第3項,紫:1項と3項の和)
すると,二番目の項の被積分関数は奇関数なので積分した値は
ということです.したがって,運動量の標準偏差も無限大
ということになります.
それでは,初期状態が指定された後の時刻で状態がどのようになるか考えていきます.手始めに最も簡単な,ポテンシャルのない自由粒子の場合を考えます.シュレーディンガー方程式は
ですので,たとえば初期状態が
であれば,
と仮定して
すなわち
となります.また,たとえば初期状態が
であれば
となります.したがって
であれば
なので
そこで,
なので,上の積分では
とおけて
となるので
となります.もし,時間の変数を
とシンプルに書けます.
任意の関数はδ関数を使って
と表せますから,初期状態の波動関数も
と書けます.これは
という状態に変わるのですから,任意の初期状態の波動関数の時間
となります.ここで
と定義すれば,自由粒子の波動関数は,初期状態が与えられれば
で求められる,ということになります.
ここで求めた積分方程式
は,時間を2分割してみると,
ですから,
一方,当然
なので関数
という,重要な性質があることがわかります.これはもともとシュレーディンガー方程式に波動関数の初期状態を
さて,今は時間を2分割しましたが,少し考えると,これは何分割しても同じように成り立つものであることがわかります.例えば
のようになります.この式のイメージは,時間を
ここで
とおくと,
すると,
と一つにまとまります.それで,
とみなし.一つの記号
で表すことにします.
積分される関数は,自由粒子のラグランジアン
より,
の形になっているので,次のような式で表すことができます.
これが量子力学の経路積分の方程式です.今回の自由粒子の場合は,具体的には次のようになります.
ここで少し寄り道して,シュレーディンガー方程式と経路積分の方程式が同等なものであることを確認してみます.
以下,ブラ・ケット記法を使って考えます.
量子状態
を使って
と表せます.ここで,位置の固有状態は
ですので,波動関数は
です.あらためて
と書けば,状態
のようになります.この方程式を解くと
となります.この
この状態が時刻
これは時刻
とかけます.これが前節までにもとめた積分核
で
となります.そこで,前節の
この式の各々の
となります.そこで,運動量の固有状態
というような完全系をとるので,ハミルトニアン
のように,ハミルトニアンを位置と運動量の固有値の関数に置き換えることができます.すると,
したがって,
が得られます.ここでハミルトニアンは
の形をしているものと仮定すると
すると,一般に
なので
以上より,
が得られます.ハミルトニアンに対応するラグランジアンは
なので,定数を
として書き直すと
となります.この結果より,
そして,
とみなし.一つの記号
で表すことにすれば,
でしたから,
は次のように表します.
波動関数の時間発展を表す方程式
の積分核をこのように求めることを経路積分の方法と呼びます.
すでに求めた自由粒子の積分核は
でしたが,自由粒子の古典力学で実現する経路の作用,いわゆる古典的作用が
だったことを考えると,あらゆる経路について積分したにも関わらず,古典的経路の作用の成分しか効いていないようにみえます.
これはどういうことかというと,もともと経路積分は「可能な限りすべての経路」について
だったのですが,古典的経路で作用が停留値を持つ時(つまり,古典的に方程式が解けて軌道が求まる時)は,
の因子が停留値とその周辺の軌道の分だけが,重ね合わせの干渉によって残る成分となり,停留力大きく離れたところの軌道とその周辺の軌道との干渉は,位相の変化が速いため干渉によって実質相殺されてしまうのです.
作用を古典的作用とその変分に分けて
と書くと,
となります.この式の
この中の
となります.したがって自由粒子の場合は積分核が
に等しくなるのです.
そこで,いよいよ
一つは自由粒子と同じもの,もう一つは壁で速度が反転して
すると,積分核全体は二つの和に分解できて
この
もう一つの
この時,反射した前後での速度は
となっています.
ところが,
なので,
ですから,壁の反対側の仮想的な場所
であることがわかります.ここに出てきた定数
でなければなりませんから,この定数は
だったことがわかります.
以上をまとめると,
を用いて
で表される,ということです.
前回求めた結果を,波数
これは物理的には,例えば与えられたハミルトニアン
この時,任意の波動関数は
であらわされます.ここで,係数の
で求められます.これをブラ・ケット記法で書くと
また,
で表わされます.
さて,経路積分の積分核は
でした.上の式で
つまり,積分核は
というように,エネルギー固有値と固有関数を使った和で表されます.
このように固有値が離散的な場合は和で表されますが,固有値が連続的な値を取る場合,つまりシュレーディンガー方程式が連続的なパラメータ
となる場合は,積分核は
のように,パラメータ
すると,自由粒子の場合は
ですから,自由粒子の積分核は,
となって,前回求めた積分核が
として得られます.この式をもう少し計算すると
となりますから,
それでは§1で考えた,初期状態の波動関数が
である場合の時間発展について,経路積分の式を使って計算してみたいと思います.ただ,この式のままでは
に変更して考えていきます.それで,波動関数の時間発展を表す方程式は
で,この
として
で表されます.また,
なので,一般に
が成り立ちます.
それでは
を計算していきます.1項目を
ここで,
したがって,
また,
なので,2項目を
ここで,
なので
さて,これらの積分はどう計算したら良いものだろうか?
フレネル積分とは次のように定義された関数である.
この図の青線が
ここで,
のフーリエ逆変換,すなわち
を考えると,
なので
となる.
より一般的に,
のフーリエ逆変換
を考えると,
この積分は,関数
に等しいので,まとめると
である.
これで,§10の積分が実行できそうだ.
§10の結果を改めて書くと
ここで,
とおけば,求めるべき任意の時刻の波動関数は
で表わされて,以下のようになる.
これらの項はそれぞれ,§11で求めた
で計算できる.ここで
と定義された関数としている.
一つ一つ計算すると,
次の項は
その次の項は
最後の項は
あとは,これら4つの式をつなげれば,波動関数が求まるということになる.
§12の結果をまとめて一気に書くと
となる.
この関数の時間発展の様子を具体的に見てみよう.波動関数の初期状態のパラメータを
と定めて,その上で時刻を表す変数を
に書き換えよう.すると,この状態での任意の時刻の波動関数は
となる.
この関数のグラフをMathStudio(http://mathstud.io/) を使ってプロットしてみた.
う〜〜ん..波束がくずれ過ぎちゃって,壁に反射するイメージが全然出てないですね..
初期状態の選定が失敗だったようです.
次回は初期状態の波動関数を変えて,どうなるか見てみたいと思います.
前回の結果は予想以上に,パッとしないものでした.
そもそも初期状態を§1で定めた形にしたのは,「こうすれば計算が楽になるかな〜」という期待があってのことでした.計算は全然楽ではなかったので,自分としては不満が残っています.
そこで,初期状態の波動関数を別の形にして,もとめた積分核を使って波動関数の時間発展がどうなるかいろいろ試したいと思います.
初期状態の関数形はいくつか候補があるのですが,とりあえず試したい関数形が二つほどあるので,順番に調べたいと思います.
..さて,平面波を表す波動関数は,規格定数を無視すると
で,このとき運動量は
そこで,運動量
つまり,(以下,規格定数は無視し続けます)
この波動関数の絶対値の2乗,つまり確率密度は
となります.たとえば
となります.確率密度は
運動量の分布の標準偏差が
という特徴を持ちます.いま求めた波動関数は
で,これは,位置の平均が
(ここで
になります.
さて,この関数を初期状態として計算してもいいのですが,この関数は
ここで,思い出してしてみると,そもそも任意の時刻の波動関数は積分核を使って,
で,計算されるのでした.
そこで,初期状態の波動関数が,別のある複素関数を使った奇関数(の半分のようなもの)であったと仮定します.
(ここで
すると,単純に上の式に代入してみると,こんな感じになります.
ところが,
なので,
ということになります.
まとめると,
初期状態の波動関数が
で与えられたとき,任意の時刻の波動関数は
として,
で求められます.そしてもし,関数
で与えられていたのなら,任意の時刻の波動関数は関数
で求められます.
ということなのですが,この方法が正しいなら,いろいろと応用ができそうです.
それでは,今回想定している初期状態での具体的な計算を,次回以降で行っていきます
次のように定義された関数
から作られる奇関数
を使って,初期状態の波動関数が
であるとき,
として,任意の時間の波動関数
となりますが,これは
としても同じ結果が得られます.
注:ここでは波動関数の規格化は省略して考えています.
ここで,
とおけば,
ですので,まず,
簡単のため
とおくと,
なので,
である.
しかしこれは,またしても「フレネル積分」になってしまっている.
せっかく,簡単に計算できる状態を探していたはずなのに,これではぜんぜん簡単ではないではないか.
もうこうなったら,初期状態は,最もシンプルな「ガウス分布」で考えるのがいいだろう.
数学が知りたいのではない.ザックリとでいいから,物理が知りたいのである.
気分をリセットして,計算が簡単なガウス分布で考えてみましょう.計算の基本となる 関数
とます.もし波動関数が
であり,位置の期待値が
このとき確率分布
のように,
さて,次のように定義された関数
から作られる奇関数
を使って,初期状態の波動関数が
であるとき,
として,任意の時間の波動関数
となりますが,これは
としても同じ結果が得られます.
注:今回以降も波動関数の規格化は省略して考えています.
この波動関数は二つの部分の和
で表わされています.つまり
と
という状態の重ね合わせと「
と符号を置き換えたもですので,実際の計算の手間は,
だけで済むでしょう.計算のために,
と置き換えます.すると,
となります.これは,
となり,公式
を使えば,
として,
となります.それでは,この式の
なので
次に,
を計算します.
を計算しますが,その前に
としておきます.
また,
と書いておけば,
すると,
であり,
なので,
ここで,
と置き換えてみると
すると,
であり,
なので,
となります.この式が求められれば,あとは簡単に進められます.
と符号を置き換えたものでしたから,
となります.したがって,求めるべき任意の時刻の波動関数は
および,
となりました.(ただし,規格化定数は考えていません.)
最後に,この波動関数の時間発展の様子を具体的に観察すつるために,数値計算した様子を動画にしてみました.
パラメータの値は
画面中央の再生ボタンを押すと,私が手で時刻の数値を動かした時の波動関数の絶対値の2乗,つまり確率分布の挙動を見ることができます.
なお,今回も使用したツールはhttp://mathstud.io/です.
実際に使用したスクリプトはこちらにあります.
http://mathstud.io/qB32qM
時刻
それではごきげんよう.