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弾性衝突する粒子の量子力学

~ Quantum mechanics of elastic colliding particles ~

§1

簡単なところから始めるために,壁に衝突して完全反射する1粒子の量子力学を考えることにします.

まずはじめに,時刻

t=0 の初期状態の波動関数が
Ψ(x,0)={0,x<x0L/2Aeik0(xx0),x0L/2xx0+L/20,x0+L/2<x

であったと仮定します.つまり,確率密度
P(x)=ΨΨ

P(x,0)={0,x<x0L/2|A|2,x0L/2xx0+L/20,x0+L/2<x

というように,
x0L/2xx0+L/2
の範囲にだけ,ある一定の値を持ち,それ以外は
0
であるという状態にあると考えます.この
A
は規格化定数で,
|A|2L=1A=1L

でなければなりません.そして,この
L
についてもう一つ仮定を付け加えます.
2πL=k0L2=πk0

要するに,
L
k0
を波数とした時の波長である,ということです.まとめると,初期状態の波動関数は
Ψ(x,0)={0,x<x0π/k0k02πeik0(xx0),x0π/k0xx0+π/k00,x0+π/k0<x

であるということです.

§2

粒子の位置

x の期待値は
<x>=Ψ(x)xΨ(x)dx

で与えられます.この状態での値は
<x>=x0π/k0x0+π/k0k02πxdx=k02πx0π/k0x0+π/k0xdx=k02π12[(x0+π/k0)2(x0π/k0)2]=k02π124πk0x0=x0

また,
x2
の期待値は
<x2>=x0π/k0x0+π/k0k02πx2dx=k02πx0π/k0x0+π/k0x2dx=k02π13[(x0+π/k0)3(x0π/k0)3]=k02π13(6x02πk0+2π3k03)=x02+13π2k02

したがって,
x
の標準偏差は
σx=<x2><x>2=13πk0

となります.

§3

粒子の運動量

pの期待値は
<p>=Ψ(x)(ixΨ(x))dx

で与えられるのですが,今考えている状態の波動関数は
Ψ(x,0)={0,x<x0π/k0k02πeik0(xx0),x0π/k0xx0+π/k00,x0+π/k0<x

だったので,波束の境目のところで微分ができません.そこで,「運動量表示の波動関数」というものを考えます.それは,通常の「座標表示の波動関数」
Ψ(x)
から
Ξ(p)=12πΨ(x)eipx/dx

で求められます.この関数は元の関数と
Ψ(x)=12πΞ(p)eipx/dp

の関係にあります.要するに,フーリエ変換と,その逆変換の関係です.実際に計算すると,
p0=k0
として
Ξ(p)=12πx0π/k0x0+π/k0p02πeip0(xx0)eipx/dx=p02πx0π/k0x0+π/k0eip0(xx0)eipxdx=p02ππ/k0π/k0eip0xeip(x+x0)dx=p02πeipx0π/p0π/p0eip0pxdx=p02πeipx0i(p0p)[eip0px]π/p0π/p0=12πieipx0p0p0p[eiπ(1p/p0)eiπ(1p/p0)]=1πeipx0p0p0psinπ(1p/p0)=1πeipx0p0p0p(sinπcosπpp0cosπsinπpp0)=1πeipx0p0pp0sinπpp0

この運動量表示の波動関数から,運動量の確率分布が得られます.
P(p)=ΞΞ=1π2p0(pp0)2sin2πpp0

fig. EC-1 (

p0=0.5)

運動量の期待値は

<p>=Ξ(p)pΞ(p)dp
で与えられますが,上の図より明らかに確率分布が
p=p0
をピークにして左右対称なので,運動量の期待値は
<p>=p0=k0

であることがわかります.

次に,運動量の2乗の期待値を考えますが,これは

<p2>=Ξ(p)p2Ξ(p)dp=1π2p0p2(pp0)2sin2πpp0dp

という積分になります.この形のままではよくわからないので,変数変換してみます.

a=p/p0とすれば,
p=p0a
dp=p0da
なので
<p2>=1π2p0p02a2(p0ap0)2sin2πap0da=p02π2a2(a1)2sin2πada=p02π2I,I=a2(a1)2sin2πada

となります.この
I
b=a1
とおけば
I=(b+1)2b2sin2π(b+1)db=(1+1b)2sin2(π+πb)db=(1+2b+1b2)sin2πbdb=sin2πbdb+2bsin2πbdb+1b2sin2πbdb

fig.EC-2 (青:第1項,橙:第3項,紫:1項と3項の和)

すると,二番目の項の被積分関数は奇関数なので積分した値は

0,三番目の項は積分値は有限で
π2
,ところが一番目の項は積分が無限大に発散しています.ということは,運動量の二乗の期待値は
<p2>=

ということです.したがって,運動量の標準偏差も無限大
σp=<p2><p>2=

ということになります.

§4

それでは,初期状態が指定された後の時刻で状態がどのようになるか考えていきます.手始めに最も簡単な,ポテンシャルのない自由粒子の場合を考えます.シュレーディンガー方程式は

itΨ(x,t)=22m2x2Ψ(x,t)
ですので,たとえば初期状態が
Ψ(x,0)=Aeik0x

であれば,
Ψ(x,t)=Aeikxeiωt

と仮定して
k=k0ω=(k)22m

すなわち
Ψ(x,t)=Aexp(ik0xi2mk02t)

となります.また,たとえば初期状態が
Ψ(x,0)=F(k)eikxdk

であれば
Ψ(x,t)=F(k)exp(ikxi2mk2t)dk

となります.したがって
Ψ(x,0)=δ(xx0)=12πeik(xx0)dk

であれば
Ψ(x,0)=12πeik(xx0)dk=12πeikx0eikxdk

なので
Ψ(x,t)=12πeikx0exp(ikxi2mk2t)dk

そこで,
X=xx0
とおいてこれを計算していくと,一般に
eax2+bx+cdx=πaeb2/4a+c

なので,上の積分では
a=it2m,b=iX

とおけて
b24a=X2m2it=im2X2tπa=2πmit

となるので
Ψ(x,t)=12π2πmitexp(im2X2t)=m2πitexp(im2(xx0)2t)

となります.もし,時間の変数を
T=(2/m)t
とおけば
Ψ(x,T)=1iπTexp(i(xx0)2T)

とシンプルに書けます.

§5

任意の関数はδ関数を使って

f(x)=f(x)δ(xx)dx
と表せますから,初期状態の波動関数も
Ψ(x,0)=Ψ(x,0)δ(xx)dx

と書けます.これは
δ(xx)
で表される状態の重ね合わせと見ることができます.ある一つの
δ(xx)
で表される状態は,時間
T
の後に
1iπTexp(i(xx)2T)

という状態に変わるのですから,任意の初期状態の波動関数の時間
T
の後の状態もこれの重ね合わせの状態になります.つまり
Ψ(x,T)=Ψ(x,0)1iπTexp(i(xx)2T)dx

となります.ここで
K0(x,x;T)=1iπTexp(i(xx)2T)

と定義すれば,自由粒子の波動関数は,初期状態が与えられれば
Ψ(x,T)=K0(x,x;T)Ψ(x,0)dx

で求められる,ということになります.

§6

ここで求めた積分方程式

Ψ(x,T)=dxK0(x,x;T)Ψ(x,0)
は,時間を2分割してみると,
Ψ(x1,t1)=dx0K0(x1,x0;t1)Ψ(x0,0)Ψ(x1,t2)=dx1K0(x2,x1;t2t1)Ψ(x1,t1)

ですから,
Ψ(x1,t2)=dx1K0(x2,x1;t2t1)dx0K0(x1,x0;t1)Ψ(x0,0)=dx1dx0K0(x2,x1;t2t1)K0(x1,x0;t1)Ψ(x0,0)

一方,当然
Ψ(x2,t2)=dx0K0(x2,x0;t2)Ψ(x0,0)

なので関数
K
について
K0(x2,x0;t2)=dx1K0(x2,x1;t2t1)K0(x1,x0;t1)

という,重要な性質があることがわかります.これはもともとシュレーディンガー方程式に波動関数の初期状態を
δ
関数とした時の解が
K
であることから導かれるので,自由粒子でなくても,一般にポテンシャル
V(x)
がある場合の
K
についても成り立つ話です.

さて,今は時間を2分割しましたが,少し考えると,これは何分割しても同じように成り立つものであることがわかります.例えば

N分割した場合の式は
K0(xN,x0;tN)=dxN1dxN2dx2dx1K0(xN,xN1;tNtN1)K0(xN1,xN2;tN1tN2)K0(x2,x1;t2t1)K0(x1,x0;t1)

のようになります.この式のイメージは,時間を
Δt
N
等分した場合で考えると分かりやすいです.
K0(xN,x0;NΔt)=dxN1dxN2dx2dx1K0(xN,xN1;Δt)K0(xN1,xN2;Δt)K0(x2,x1;Δt)K0(x1,x0;Δt)

ここで
A=m2πiΔt

とおくと,
K0(xN,x0;NΔt)=1AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp(im2(xNxN1)2Δt)exp(im2(xN1xN2)2Δt)exp(im2(x2x1)2Δt)exp(im2(x1x0)2Δt)

すると,
eAeB=eA+B
より指数関数の積の部分は
exp[ii=1NΔtm2(xixi1Δt)2]

と一つにまとまります.それで,
x1
から
xn1
までの多重積分を.
x0xN

とみなし.一つの記号
x0xND(x)

で表すことにします.
積分される関数は,自由粒子のラグランジアン
L(x,x˙)=m2x˙2

より,
x0
から
xN
に至る,ある経路
x(t)
に対する作用
S[xN,x0]=L(x,x˙)dt=i=1NΔtLi=i=1NΔtm2(xixi1Δt)2

の形になっているので,次のような式で表すことができます.
K0(xN,x0;t)=x0xND(x)exp(iS[xN,x0])

これが量子力学の経路積分の方程式です.今回の自由粒子の場合は,具体的には次のようになります.
K0(xN,x0;NΔt)=limΔt01AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp[ii=1NΔtm2(xixi1Δt)2],  A=m2πiΔt

§7

ここで少し寄り道して,シュレーディンガー方程式と経路積分の方程式が同等なものであることを確認してみます.

以下,ブラ・ケット記法を使って考えます.
量子状態

Ψ を表すケット・ベクトル
Ψ
は,位置の演算子
x^
の固有状態
x^x=xx

を使って
Ψ(t)=Ψ(x,t)xdx

と表せます.ここで,位置の固有状態は
xx=δ(xx)

ですので,波動関数は
xΨ(t)=Ψ(x,t)xxdx=Ψ(x,t)δ(xx)dx=Ψ(x,t)

です.あらためて
Ψ(t)=Ψ(x,t)xdx

と書けば,状態
Ψ
に対するシュレーディンガー方程式も
itΨ(t)=itΨ(x,t)xdx=itΨ(x,t)xdx=H^Ψ(x,t)xdx=H^Ψ(x,t)xdx=H^Ψ(t)

のようになります.この方程式を解くと
Ψ(t)=exp(iH^(tt0))Ψ(t0)

となります.この
Ψ(t0)
は初期状態のことですから,初期状態が位置の固有状態の場合
x0,t0;t=exp(iH^(tt0))x0

この状態が時刻
t
の時に位置
x
にある確率振幅は,つまり波動関数は
xx0,t0;t=xexp(iH^(tt0))x0

これは時刻
t0
に位置
x0
の固有状態にあったものが,時刻
t
に位置
x
の固有状態に遷移する確率振幅を意味しているので,
xx0,t0;t=x,tx0,t0

とかけます.これが前節までにもとめた積分核
Ψ(x,t)=K(x,x0;Δt)Ψ(x0,t0)dx0,(Δt=tt0)


K(x,x0;Δt)=x,tx0,t0=xexp(iΔtH^)x0,(Δt=tt0)

となります.そこで,前節の
K(xN,x0;NΔt)
を考えてみましょう.
K(xN,x0;NΔt)=dxN1dxN2dx2dx1K(xN,xN1;Δt)K(xN1,xN2;Δt)K(x2,x1;Δt)K(x1,x0;Δt)

この式の各々の
K

K(xi+1,xi;Δt)=xi+1exp(iΔtH^)xi

となります.そこで,運動量の固有状態
p
を考えると,これは
1=dppp

というような完全系をとるので,ハミルトニアン
H
が位置と運動量の演算子の関数だったものが
xi+1exp(iΔtH^)xi=xi+1exp(iΔtH(x^,p^))xi=xi+1dpipipiexp(iΔtH(x^,p^))xi=xi+1dpipipiexp(iΔtH(xi,pi))xi=dpixi+1pipixiexp(iΔtH(xi,pi))

のように,ハミルトニアンを位置と運動量の固有値の関数に置き換えることができます.すると,
xp=eipx//2π
なので
xi+1pipixi=ei(xi+1xi)pi/2π=eiΔtxi˙pi/2π

したがって,
K(xi+1,xi;Δt)=dpi2πeiΔtxi˙pi/exp(iΔtH(xi,pi))=dpi2πexp{i(xi˙piH(xi,pi))Δt}

が得られます.ここでハミルトニアンは
H=p22m+V(x)

の形をしているものと仮定すると
dpi2πexp{i(xi˙piH(xi,pi))Δt}=dpi2πexp{i(xi˙pipi22mV(xi))Δt}=dpi2πexp{iΔt(pi22m+xi˙piV(xi))}=dpi2πexp{iΔt12m(pi22mxi˙pi+m2xi˙2)}exp{iΔt(m2xi˙2V(xi))}=dpi2πexp{iΔt2m(pimxi˙)2}exp{iΔt(m2xi˙2V(xi))}

すると,一般に
dxeiax2=πia,(a>0)

なので
dpi2πexp{iΔt2m(pimxi˙)2}=12π2πmiΔt=m2πiΔt

以上より,
K(xi+1,xi;Δt)=m2πiΔtexp{iΔt(m2xi˙2V(xi))}

が得られます.ハミルトニアンに対応するラグランジアンは
L(xi,xi˙)=m2xi˙2V(xi)

なので,定数を
m2πiΔtA1

として書き直すと
K(xi+1,xi;Δt)=1Aexp{iΔtL(xi,xi˙)}

となります.この結果より,
K(xN,x0;NΔt)=1AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp{iΔtL(xN1,x˙N1)}exp{iΔtL(xN2,x˙N2)}exp{iΔtL(x1,x˙1)}exp{iΔtL(x0,x˙0)}=1AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp{ii=1NΔtL(xi1,x˙i1)}

そして,
x1
から
xn1
までの多重積分を.
x0xN

とみなし.一つの記号
x0xND(x)

で表すことにすれば,
x0
から
xN
に至る,あるひとつの経路
x(t)
に対する作用
S

S[xN,x0:x(t)]=L(x,x˙)dt=i=1NΔtL(xi1,x˙i1)

でしたから,
K(xN,x0;NΔt)=1AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp{ii=1NΔtL(xi1,x˙i1)}

は次のように表します.
K(xN,x0;t)=x0xND(x)exp(iS[xN,x0])

波動関数の時間発展を表す方程式
Ψ(x,t)=dxK(x,x;t)Ψ(x,0)

の積分核をこのように求めることを経路積分の方法と呼びます.

§8

すでに求めた自由粒子の積分核は

K0(xN,x0;T)=m2πiTexp(im2(xNx0)2T)
でしたが,自由粒子の古典力学で実現する経路の作用,いわゆる古典的作用が
x˙=xNx0TScl=0TLdt=m2x˙2T=m2(xNx0)2T

だったことを考えると,あらゆる経路について積分したにも関わらず,古典的経路の作用の成分しか効いていないようにみえます.
K0(xN,x0;T)=m2πiTexp(iScl)

これはどういうことかというと,もともと経路積分は「可能な限りすべての経路」について
K(xN,x0;T)=x0xD(x)exp(iS[xN,x0])

だったのですが,古典的経路で作用が停留値を持つ時(つまり,古典的に方程式が解けて軌道が求まる時)は,
exp(iS[xN,x0])

の因子が停留値とその周辺の軌道の分だけが,重ね合わせの干渉によって残る成分となり,停留力大きく離れたところの軌道とその周辺の軌道との干渉は,位相の変化が速いため干渉によって実質相殺されてしまうのです.

作用を古典的作用とその変分に分けて

S[x]=Scl+δS=Scl+Sx˙|clδx˙+Sx|clδx
と書くと,
K0(xN,x0;T)=limΔt01AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp(iδS)exp(iScl(xN,x0)),  A=m2πiΔt

となります.この式の
e(i/)Scl
は途中の経路に関係なく得られます.ポテンシャルの存在によって
e(i/)δS
の項が重ね合わされて干渉するのですが,こと自由粒子に限って言うと,
δS=(Lx˙dt)clδx˙=(ddtLx˙dt)clδx=(mx¨dt)clδx

この中の
mx¨
が古典経路の場合常にゼロなので
δS=0exp(iδS)=1

となります.したがって自由粒子の場合は積分核が
K0(xN,x0;T)=limΔt01AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aexp(iScl(xN,x0)),  A=m2πiΔt

に等しくなるのです.

そこで,いよいよ

x<0
V(x)=
のポテンチャルがあった場合を考えます.この場合古典経路が下の図のように2本あります.
Imgur
一つは自由粒子と同じもの,もう一つは壁で速度が反転して
xN
に到達する経路です.

すると,積分核全体は二つの和に分解できて

K(xN,x0;T)=K0(xN,x0;T)+K1(xN,x0;T)
この
K0
は自由粒子の積分核そのもので
K0(xN,x0;T)=m2πiTexp(iScl)

もう一つの
K1
は壁で反射した時間
t
で分割した二つの自由粒子の積分核の積に位相の変化の因子がかかったもので表されます.
K1(xN,x0;T)=limΔt01AdxN1AdxN2Adx2Adx1Aeiθexp(iScl1(xN,x0))=eiθK0(xN,0;Tt)K0(0,x0;t),  A=m2πiΔt,eiθ=exp(iδS)

この時,反射した前後での速度は
x0t=xNTt

となっています.

ところが,

K0(xN,0;Tt)=K0(xN,0;Tt)
なので,
K0(xN,0;Tt)K0(0,x0;t)=K0(xN,0;Tt)K0(0,x0;t)=K0(xN,x0;T)

ですから,壁の反対側の仮想的な場所
xN
に向かう自由粒子の積分核が出てきます.つまり,
K

K(xN,x0;T)=K0(xN,x0;T)+eiθK0(xN,x0;T)

であることがわかります.ここに出てきた定数
eiθ
を定めるには
xN=0
つまり,ちょうど壁にぶつかるところへの積分核を考えれば良いです.このとき波動関数の絶対値は必ずゼロになるので,
K
もゼロになります.ということは,
0=K0(0,x0;T)+eiθK0(0,x0;T)

でなければなりませんから,この定数は
eiθ=eiπ=1

だったことがわかります.

以上をまとめると,

x=0で絶壁ポテンシャルがある場合の経路積分の積分核は自由粒子の積分核
K0(xN,x0;T)=m2πiTexp(im2(xNx0)2T)

を用いて
K(xN,x0;T)=K0(xN,x0;T)K0(xN,x0;T)

で表される,ということです.

§9

前回求めた結果を,波数

kによる積分の形で求めてみましょう.

これは物理的には,例えば与えられたハミルトニアン

Hに対するシュレーディンガー方程式で,エネルギー固有値
En
と固有関数
φn(x)
が求められた場合で考えますと,
Hφn(x)=Enφn(x)

この時,任意の波動関数は
Ψ(x,t)=ncnφn(x)eiEn(tt0)/

であらわされます.ここで,係数の
cn

cn=φn(x)Ψ(x,t0)dx

で求められます.これをブラ・ケット記法で書くと
cn=φnΨ(t0)

また,
xφn=φn(x)
より任意の波動関数は
xΨ(t)=nxφnφnΨ(t0)eiEn(tt0)/

で表わされます.

さて,経路積分の積分核は

K(x,x0;tt0)=x,tx0,t0=xx0,t0;t
でした.上の式で
Ψ(t0)=∣x0,t0
とすると,
xx0,t0;t=nxφnφnx0,t0eiEn(tt0)/

つまり,積分核は
K(x,x;t)=nxφnφnxeiEnt/

というように,エネルギー固有値と固有関数を使った和で表されます.

このように固有値が離散的な場合は和で表されますが,固有値が連続的な値を取る場合,つまりシュレーディンガー方程式が連続的なパラメータ

kを使って
Hφk(x)=Ekφk(x)

となる場合は,積分核は
K(x,x;t)=dk xφkφkxeiEkt/

のように,パラメータ
k
による積分で表されます.

すると,自由粒子の場合は

<k< として
φk(x)=12πeikx,Ek=2k22m

ですから,自由粒子の積分核は,
K0(x,x;t)=12πdk eik(xx)ei(t/2m)k2

となって,前回求めた積分核が
K(x,x;t)=K0(x,x;t)K0(x,x;t)=12πdk ei(t/2m)k2(eik(xx)eik(x+x))

として得られます.この式をもう少し計算すると
K(x,x;t)=12πdk ei(t/2m)k2(eik(xx)eik(x+x))=12πdk ei(t/2m)k2eikx(eikxeikx)=2i2πdk ei(t/2m)k2eikxsinkx=iπdk ei(t/2m)k2sinkx(coskx+isinkx)=iπdk ei(t/2m)k2sinkx(isinkx)=1πdk ei(t/2m)k2sinkxsinkx=2π0dk ei(t/2m)k2sinkxsinkx

となりますから,
k>0
として,エネルギーの固有値は
Ek=2k2/2m
で,そのエネルギーの固有状態は
sinkx
であるといえます.この式を見ると,
x=0
で確かに
K
はゼロになっていることがよくわかります.

§10

それでは§1で考えた,初期状態の波動関数が

Ψ(x,0)={0,x<x0π/k0k02πeik0(xx0),x0π/k0xx0+π/k00,x0+π/k0<x
である場合の時間発展について,経路積分の式を使って計算してみたいと思います.ただ,この式のままでは
k0>0
の場合,壁から離れる方向に動いていくので,初期状態の波動関数は
Ψ(x,0)={0,x<x0π/k0k02πeik0(xx0),x0π/k0xx0+π/k00,x0+π/k0<x

に変更して考えていきます.それで,波動関数の時間発展を表す方程式は
Ψ(x,t)=dxK(x,x;t)Ψ(x,0)

で,この
K

K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(xx)2t)

として
K(x,x;t)=K0(x,x;t)K0(x,x;t)

で表されます.また,
K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(xx)2t)=12πdk eik(xx)ei(t/2m)k2

なので,一般に
12πiTexp(iX22T)=12πdk eikXeik2T/2

が成り立ちます.

それでは

Ψ(x,t)=dxK(x,x;t)Ψ(x,0)=x0π/k0x0+π/k0dxK(x,x;t)k02πeik0(xx0)=x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)
を計算していきます.1項目を
Ψ+(x,t)=x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)=12πk02πx0π/k0x0+π/k0dxdk eik(xx)ei(t/2m)k2eik0(xx0)=12πk02πdk eikxei(t/2m)k2eik0x0x0π/k0x0+π/k0dxei(k+k0)x=12πk02πdk eikxei(t/2m)k2eik0x0ei(k+k0)(x0+π/k0)ei(k+k0)(x0π/k0)i(k+k0)

ここで,
ei(k+k0)(x0+π/k0)ei(k+k0)(x0π/k0)i(k+k0)=ei(k+k0)x0i(k+k0){ei(k+k0)π/k0ei(k+k0)π/k0}=eikx0eik0x0i(k+k0){eiπk/k0eiπeiπk/k0eiπ}=ieikx0eik0x0k+k0{eiπk/k0eiπk/k0}

したがって,
Ψ+(x,t)=12πk02πdk eikxei(t/2m)k2eik0x0eik0x0eikx0ieiπk/k0eiπk/k0k+k0=i2πk02πdk eik(xx0)ei(t/2m)k2eiπk/k0eiπk/k0k+k0

また,
K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(x+x)2t)=12πdk eik(x+x)ei(t/2m)k2

なので,2項目を
Ψ(x,t)=x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)=12πk02πx0π/k0x0+π/k0dxdk eik(x+x)ei(t/2m)k2eik0(xx0)=12πk02πdk eikxei(t/2m)k2eik0x0x0π/k0x0+π/k0dxei(kk0)x=12πk02πdk eikxei(t/2m)k2eik0x0ei(kk0)(x0+π/k0)ei(kk0)(x0π/k0)i(kk0)

ここで,
ei(kk0)(x0+π/k0)ei(kk0)(x0π/k0)i(kk0)=ei(kk0)x0i(kk0){eiπ(kk0)/k0eiπ(kk0)/k0}=eikx0eik0x0i(kk0){eiπ(k/k01)eiπ(k/k01)}=ieikx0eik0x0kk0{eiπk/k0eiπk/k0}

なので
Ψ(x,t)=12πk02πdk eikxei(t/2m)k2eik0x0eikx0eikx0ieiπk/k0eiπk/k0kk0=i2πk02πdk eik(x+x0)ei(t/2m)k2eiπk/k0eiπk/k0kk0

さて,これらの積分はどう計算したら良いものだろうか?

§11

フレネル積分とは次のように定義された関数である.

  • フレネル正弦積分
    S(x)=0xsin(π2t2)dt
  • フレネル余弦積分
    C(x)=0xcos(π2t2)dt

この図の青線が

S(x) ,赤線が
C(x)
である.

ここで,

F(k;A)=eiAk2k,A>0
のフーリエ逆変換,すなわち
f(x;A)=12πeiAk2eikxkdk=12πcos(Ak2)eikxkdk+i2πsin(Ak2)eikxkdk

を考えると,
12πcos(Ak2)eikxkdk=iπ2(C(x2πA)+S(x2πA))

12πsin(Ak2)eikxkdk=iπ2(C(x2πA)S(x2πA))

なので
f(x;A)=12πeiAk2eikxkdk=iπ2(C(x2πA)+S(x2πA))π2(C(x2πA)S(x2πA))=1+i2πC(x2πA)+1i2πS(x2πA)

となる.

より一般的に,

G(k;A,C)=eiAk2kC,A>0
のフーリエ逆変換
g(x;A,C)=12πeiAk2eikxkCdk

を考えると,
kk+C
と置き直して
g(x;A,C)=12πeiA(k+C)2ei(k+C)xkdk=ei(CxAC2)2πeiAk2eik(x2AC)kdk

この積分は,関数
f(x2AC;A)=12πeiAk2eik(x2AC)kdk

に等しいので,まとめると
g(x;A,C)=12πeiAk2eikxkCdk=eiC(xAC)f(x2AC;A)f(x;A)=12πeiAk2eikxkdk=1+i2πC(x2πA)+1i2πS(x2πA)

である.

これで,§10の積分が実行できそうだ.

§12

§10の結果を改めて書くと

Ψ(x,t)=dxK(x,x;t)Ψ(x,0)=x0π/k0x0+π/k0dxK(x,x;t)k02πeik0(xx0)=x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)
ここで,
Ψ+(x,t)=x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)Ψ(x,t)=x0π/k0x0+π/k0dxK0(x,x;t)k02πeik0(xx0)

とおけば,求めるべき任意の時刻の波動関数は
Ψ(x,t)=Ψ+(x,t)Ψ(x,t)

で表わされて,以下のようになる.
Ψ(x,t)=i2πk02πdk eik(xx0)ei(t/2m)k2eiπk/k0eiπk/k0k+k0i2πk02πdk eik(x+x0)ei(t/2m)k2eiπk/k0eiπk/k0kk0=i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(xx0+π/k0)k+k0i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(xx0π/k0)k+k0i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(x+x0+π/k0)kk0+i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(x+x0π/k0)kk0

これらの項はそれぞれ,§11で求めた
g(x;A,C)=12πeiAk2eikxkCdk=eiC(xAC)f(x2AC;A)f(x;A)=12πeiAk2eikxkdk=1+i2πC(x2πA)+1i2πS(x2πA)

で計算できる.ここで
S(x)
C(x)
はフレネル積分で
S(x)=0xsin(π2t2)dt,C(x)=0xcos(π2t2)dt

と定義された関数としている.

一つ一つ計算すると,

i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(xx0+π/k0)k+k0=ik02πg(xx0+π/k0;t/2m,k0)=ik02πeik0(xx0+π/k0+k0t/2m)f(xx0+π/k0+k0t/m;t/2m)=ik02πeik0(xx0+k0t/2m)f(xx0+π/k0+k0t/m;t/2m)=ik02πeik0(xx0+k0t/2m)[1+i2πC(2m2πt(xx0+πk0+k0tm))+1i2πS(2m2πt(xx0+πk0+k0tm))]=π2k0eik0(xx0+k0t/2m)[1+i2C(mπt(xx0+πk0+k0tm))+1i2S(mπt(xx0+πk0+k0tm))]
次の項は
i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(xx0π/k0)k+k0=π2k0eik0(xx0+k0t/2m)[1+i2C(mπt(xx0πk0+k0tm))+1i2S(mπt(xx0πk0+k0tm))]=π2k0eik0(xx0+k0t/2m)[1i2C(mπt(xx0πk0+k0tm))+1+i2S(mπt(xx0πk0+k0tm))]

その次の項は
i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(x+x0+π/k0)kk0=π2k0eik0(x+x0k0t/2m)[1+i2C(mπt(x+x0+πk0k0tm))+1i2S(mπt(x+x0+πk0k0tm))]=π2k0eik0(x+x0k0t/2m)[1i2C(mπt(x+x0+πk0k0tm))+1+i2S(mπt(x+x0+πk0k0tm))]

最後の項は
i2πk02πdkei(t/2m)k2 eik(x+x0π/k0)kk0=π2k0eik0(x+x0k0t/2m)[1+i2C(mπt(x+x0πk0k0tm))+1i2S(mπt(x+x0πk0k0tm))]

あとは,これら4つの式をつなげれば,波動関数が求まるということになる.

§13

§12の結果をまとめて一気に書くと

Ψ(x,t)=π2k0eik0(xx0+k0t/2m)×[1+i2C(mπt(xx0+πk0+k0tm))+1i2S(mπt(xx0+πk0+k0tm))+1i2C(mπt(xx0πk0+k0tm))+1+i2S(mπt(xx0πk0+k0tm))]+π2k0eik0(x+x0k0t/2m)×[1i2C(mπt(x+x0+πk0k0tm))+1+i2S(mπt(x+x0+πk0k0tm))+1+i2C(mπt(x+x0πk0k0tm))+1i2S(mπt(x+x0πk0k0tm))]
となる.

この関数の時間発展の様子を具体的に見てみよう.波動関数の初期状態のパラメータを

x0=10,k0=π
と定めて,その上で時刻を表す変数を
T=πt/m

に書き換えよう.すると,この状態での任意の時刻の波動関数は

Ψ(x,T)=π22{cos[π(x10+T/2)]isin[π(x10+T/2)]}×{(1+i)C[(x9+T)/T]+(1i)S[(x9+T)T]+(1i)C[(x11+T)/T]+(1+i)S[(x11+T)T]}+π22{cos[π(x+10T/2)]+isin[π(x+10T/2)]}×{(1i)C[(x+11T)/T]+(1+i)S[(x+11T)T]+(1+i)C[(x+9T)/T]+(1i)S[(x+9T)T]}

となる.

この関数のグラフをMathStudio(http://mathstud.io/) を使ってプロットしてみた.
EC-0
EC-2
EC-4
EC-6
EC-8
EC-10
EC-12
EC-14
EC-16
EC-18

う〜〜ん..波束がくずれ過ぎちゃって,壁に反射するイメージが全然出てないですね..
初期状態の選定が失敗だったようです.

次回は初期状態の波動関数を変えて,どうなるか見てみたいと思います.

§14

前回の結果は予想以上に,パッとしないものでした.

そもそも初期状態を§1で定めた形にしたのは,「こうすれば計算が楽になるかな〜」という期待があってのことでした.計算は全然楽ではなかったので,自分としては不満が残っています.

そこで,初期状態の波動関数を別の形にして,もとめた積分核を使って波動関数の時間発展がどうなるかいろいろ試したいと思います.
初期状態の関数形はいくつか候補があるのですが,とりあえず試したい関数形が二つほどあるので,順番に調べたいと思います.

..さて,平面波を表す波動関数は,規格定数を無視すると

Ψ(x)=eiKx

で,このとき運動量は

p=Kの値を持つ固有状態です.
そこで,運動量
p
K
を中心に
±κ
の成分が一様に分布している状態を考えます.

つまり,(以下,規格定数は無視し続けます)

Ψ(x)=KκK+κeikxdk=eiKxκ+κeikxdk=eiKxeiκxeiκxix=eiKxeiκxeiκxix=2eiKxsinκxxeiKxsinκxx
この波動関数の絶対値の2乗,つまり確率密度は
P(x)=sin2κxx2

となります.たとえば
κ=π
のときのグラフは

となります.確率密度は

0を中心におおよそ
±1
の範囲に分布しているのが見えます.
運動量の分布の標準偏差が
Δpκ=π=h/2
,位置の分布の標準偏差が
Δx1
なので,この状態は
(Δp)(Δx)h/2

という特徴を持ちます.いま求めた波動関数は
Ψ(x)=eiKxsinκxx

で,これは,位置の平均が
x=0
の点にある状態なので,任意の点
x=c
を中心に分布している場合は,この関数を
x
方向にずらした
Ψ(x)=eiK(xc)sinκ(xc)xceiKxsinκ(xc)xc

(ここで
eiKc
は,ただの定数なので無くしました)
になります.

さて,この関数を初期状態として計算してもいいのですが,この関数は

x<0の領域で,ゼロではない値を持っています.それはよくないです.もっといけないのは,ちょうど壁のあるところ
x=0
で波動関数の絶対値は常にゼロになっていなくてはいけないのが,そうでないところです.

ここで,思い出してしてみると,そもそも任意の時刻の波動関数は積分核を使って,

Ψ(x,t)=0[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]Ψ(x,0)dx,K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(xx)2t)
で,計算されるのでした.
そこで,初期状態の波動関数が,別のある複素関数を使った奇関数(の半分のようなもの)であったと仮定します.
Ψ(x,0)={0,x<0f(x)f(x),x0

(ここで
f(x)
x<0
の領域も定義された関数とします)

すると,単純に上の式に代入してみると,こんな感じになります.

Ψ(x,t)=0[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]Ψ(x,0)dx=0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)][f(x)f(x)]=0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)=0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)+0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)=0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)+0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)=0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)+0dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)=dx[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)
ところが,
[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]f(x)dx=K0(x,x;t)f(x)dxK0(x,x;t)f(x)dx=K0(x,x;t)f(x)dx+K0(x,x;t)f(x)dx=K0(x,x;t)f(x)dxK0(x,x;t)f(x)dx=K0(x,x;t)[f(x)f(x)]dx

なので,
Ψ(x,t)=0[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]Ψ(x,0)dx=K0(x,x;t)[f(x)f(x)]dx

ということになります.

まとめると,
初期状態の波動関数が

Ψ(x,0)={0,x<0g(x),x0
で与えられたとき,任意の時刻の波動関数は
K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(xx)2t)

として,
Ψ(x,t)=0[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]g(x)dx

で求められます.そしてもし,関数
g(x)
が別の関数をつかって
g(x)=f(x)f(x)

で与えられていたのなら,任意の時刻の波動関数は関数
f(x)
を使って
Ψ(x,t)=K0(x,x;t)[f(x)f(x)]dx

で求められます.

ということなのですが,この方法が正しいなら,いろいろと応用ができそうです.

それでは,今回想定している初期状態での具体的な計算を,次回以降で行っていきます

§15

次のように定義された関数

f(x)
f(x)=eiKxsinκ(xc)xc

から作られる奇関数
g(x)

g(x)=f(x)f(x)

を使って,初期状態の波動関数が
Ψ(x,0)={0,x<0g(x),x0

であるとき,
K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(xx)2t)

として,任意の時間の波動関数
Ψ(x,t)

Ψ(x,t)=0[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]g(x)dx

となりますが,これは
Ψ(x,t)=K0(x,x;t)[f(x)f(x)]dx

としても同じ結果が得られます.
注:ここでは波動関数の規格化は省略して考えています.

ここで,

Ψ+(x,t)=K0(x,x;t)f(x)dx
Ψ(x,t)=K0(x,x;t)f(x)dx

とおけば,
Ψ(x,t)=Ψ+(x,t)Ψ(x,t)

ですので,まず,
Ψ+(x,t)
を求めましょう.
簡単のため
m2t=β

とおくと,
K0(x,x;β)=βπiexp(iβ(xx)2)

なので,
Ψ+(x,t)=βπiexp(iβ(xx)2)eiKxsinκ(xc)xcdx=βπiexp(iβ(x+cy)2)eiKysinκyydy=βπiexp(iβ(x+cy)2)eiKyeiκyeiκy2iydy=12iβπiexp(iβ(x+cy)2)eiKyeiκyydy12iβπiexp(iβ(x+cy)2)eiKyeiκyydy

である.

しかしこれは,またしても「フレネル積分」になってしまっている.

せっかく,簡単に計算できる状態を探していたはずなのに,これではぜんぜん簡単ではないではないか.

もうこうなったら,初期状態は,最もシンプルな「ガウス分布」で考えるのがいいだろう.

数学が知りたいのではない.ザックリとでいいから,物理が知りたいのである.

§16

気分をリセットして,計算が簡単なガウス分布で考えてみましょう.計算の基本となる 関数

f(x)
f(x)=Aea(xb)2icx

とます.もし波動関数が
Ψ(x)=f(x)
なら,それは
<x>=+b,<p>=c

であり,位置の期待値が
+b
,運動量の期待値が
c
のガウス分布で表わされる状態になります.
このとき確率分布
P(x)
は,
x=b
を中心にだいたい
1/a
の範囲にかたまっているので,
P(x)<<P(x),(b1/a<x<b+1/a)

のように,
x=b
付近の確率分布がほぼゼロとみなせるように,
a
b
を値が定められていれば,「近似的には初期状態は
Ψ(x)f(x)
である」ような状態を設定して波動関数の時間発展が計算ができます.


さて,次のように定義された関数

f(x)
f(x)=ea(xb)2icx

から作られる奇関数
g(x)

g(x)=f(x)f(x)

を使って,初期状態の波動関数が
Ψ(x,0)={0,x<0g(x),x0

であるとき,
K0(x,x;t)=m2πitexp(im2(xx)2t)

として,任意の時間の波動関数
Ψ(x,t)
は,
x0
の範囲で
Ψ(x,t)=0[K0(x,x;t)K0(x,x;t)]g(x)dx

となりますが,これは
Ψ(x,t)=K0(x,x;t)[f(x)f(x)]dx

としても同じ結果が得られます.
注:今回以降も波動関数の規格化は省略して考えています.

この波動関数は二つの部分の和

Ψ(x,t)=K0(x,x;t)ea(xb)2icxdxK0(x,x;t)ea(x+b)2+icxdx
で表わされています.つまり
Ψ+(x,t)=K0(x,x;t)ea(xb)2icxdx


Ψ(x,t)=K0(x,x;t)ea(x+b)2+icxdx

という状態の重ね合わせと「
x0
の範囲では」同じものになります.この
Ψ
の式は,
Ψ+
の式に対して
bb,cc,K0K0,

と符号を置き換えたもですので,実際の計算の手間は,
Ψ+(x,t)=K0(x,x;t)ea(xb)2icxdx

だけで済むでしょう.計算のために,
t
x

β=m/2t,y=x

と置き換えます.すると,
Ψ+

Ψ+=βπieiβ(xy)2ea(yb)2icydy

となります.これは,
Ψ+=βπieiβ(xy)2ea(yb)2icydy=βπieiβx22iβxy+iβy2eay2+2abyab2icydy=βπieab2+iβx2e(aiβ)y2+(2ab2iβxic)ydy

となり,公式
eAx2+Bxdx=πAeB2/4A

を使えば,
A=aiβ,B=2ab2i(βx+c/2)

として,
Ψ+=βπieab2+iβx2πAeB2/4A=βiAeab2+iβx2eB2/4A

となります.それでは,この式の
βiA
eB2/4A
を計算していきましょう.
βiA=11ia/β=112ia(/m)t

なので
βiA=112ia(/m)t

次に,
B24A=[abi(βx+c/2)]2aiβ

を計算します.

§17

B24A=[abi(βx+c/2)]2aiβ
を計算しますが,その前に
T=1β,v=c2

としておきます.
B24A=[abi(βx+c/2)]2aiβ=β2iβ[abTi(x+vT)]21+iaT=iβa2b2T2(x+vT)22iabT(x+vT)1+iaT=ia2b2T1+iaTiβx2+2ixv+iv2T1+iaT+2ab(x+vT)1+iaT

また,
βiA=112ia(/m)t=11iaT

と書いておけば,
Ψ+

Ψ+=βiAeab2+iβx2eB2/4A=11iaTeab2+iβx2×exp(ia2b2T1+iaT)×exp(iβx2+2ixv+iv2T1+iaT)×exp(2ab(x+vT)1+iaT)

すると,
eab2=exp(ab2(1+iaT)1+iaT)=exp(ab21+iaT)×exp(ia2b2T1+iaT)

であり,
eiβx2=exp(iβx2(1+iaT)1+iaT)=exp(iβx21+iaT)×exp(ax21+iaT)

なので,
Ψ+

Ψ+=11iaT×exp(ab21+iaT)×exp(ax21+iaT)×exp(2ixv+iv2T1+iaT)×exp(2ab(x+vT)1+iaT)

ここで,
ax2=a(x+vT)2+2axvT+av2T2

と置き換えてみると
Ψ+=11iaT×exp(a(x+vT)21+iaT)×exp(2ab(x+vT)1+iaT)×exp(ab21+iaT)×exp(2ixv+iv2T1+iaT)×exp(2axvT+av2T21+iaT)

すると,
exp(2ixv+iv2T1+iaT)×exp(2axvT+av2T21+iaT)=exp(2ixv+2axvT1+iaT)×exp(iv2T+av2T21+iaT)=exp(2ixviv2T)=exp(2iv(x+v2T))

であり,
a(x+vT)2+2ab(x+vT)ab2=a(xb+vT)2

なので,
Ψ+=11iaTexp(2iv(x+v2T))exp(a(xb+vT)21+iaT)

v=c/2
だったので,戻して書けば
Ψ+=11iaTexp(ic(x+c4T))exp(a(xb+c2T)21+iaT)

となります.この式が求められれば,あとは簡単に進められます.

§18(最終回)

Ψの式は,
Ψ+
の式に対して
bb,cc,K0K0,

と符号を置き換えたものでしたから,
Ψ=11iaTexp(+ic(xc4T))exp(a(x+bc2T)21+iaT)

となります.したがって,求めるべき任意の時刻の波動関数は
T=2t/m
として,
x0
の範囲で
Ψ(x,T)=11iaTexp(ic(x+c4T))exp(a(xb+c2T)21+iaT)11iaTexp(+ic(xc4T))exp(a(x+bc2T)21+iaT)

および,
x<0
の範囲で
Ψ(x,T)=0

となりました.(ただし,規格化定数は考えていません.)

最後に,この波動関数の時間発展の様子を具体的に観察すつるために,数値計算した様子を動画にしてみました.

パラメータの値は

a=1.b=5,c=10としました.

画面中央の再生ボタンを押すと,私が手で時刻の数値を動かした時の波動関数の絶対値の2乗,つまり確率分布の挙動を見ることができます.

なお,今回も使用したツールはhttp://mathstud.io/です.
実際に使用したスクリプトはこちらにあります.
http://mathstud.io/qB32qM
時刻

tがスライドバーになっていますので,試しに動かしてみて下さい.

それではごきげんよう.