アニメにおける「演出」の観かた
この記事はデジクリのアドベントカレンダー16日目の記事です。デジクリとは?という方はこちらをご覧ください。
はじめに
今回は皆さんにアニメーション作品における演出の話をしたいと思います。「演出」といってもそこまで難しい話ではなないので「そんな観かたがあるんだ、ふーん。」程度に読んでいただいて大丈夫です。こんかいはひとつのアニメを例にとりそれを紹介していきます。
ここでの「演出」とは
この記事でお話する演出についてざっくり定義すると「キャラの動きやセリフ以外で表現される心理描写」となります。小中学校の国語の授業で「しばらくすると雨は止んで、天気は快晴に変わっていた。問題:このときの太郎くんの気持ちを答えましょう」みたいなめんどくさいやつがあったでしょう。あんな感じです。
「やがて君なる」における演出
では実際どんな感じのものなのか具体的に紹介していきます。今回例にとるのは2018年12月現在放送中のやがて君になるという作品です。ストーリーも繊細でとても素晴らしいのですが今回は敢えて触れないでおきます。(物語の話までするとこの終わらないので)
とりあえずここでは下の写真の右のピンクの髪の子が主人公、左の黒髪の子がヒロインとだけ覚えておけば大丈夫です。
やがて君になる
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原作:仲谷鳰
監督:加藤誠
制作:TOROYCA
アニメ公式サイト:http://yagakimi.com/
境界で語る登場人物の立ち位置
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いきなり本編の画像です。こちらは第六話、生徒会室での何気ない会話の場面です。このカットではカメラの位置が意図的に部屋の外側にあり窓枠を通しての描写となっています。この窓枠によって隔離されているのは黒髪の生徒、この作品のヒロインです。この回では後半ヒロインの詳しい素性があきらかになってきますが、これはその布石として彼女の孤独を表現しています。この境界によりヒロインと他者との間にある大きくはないが明らかな壁がうまれています。
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同じく六話、ある事実に関して調べものをする主人公とそこに訪れた先生との会話の場面。同じ部屋にいるはずの二人ですが大きな壁があるように見えます。ここではその事実を知る者と知らない者との境界が表現されています。この後主人公はその事実に関して先生から話を聞く場面がありますがそこでは両者の壁はなくなっており、この場面はその前段階の表現ととれます。
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さらにもう一枚、六話最大の見せ場です。ここでは川辺で主人公とヒロインが重要な会話をする場面です。印象的な意図的なカットですね。鉄道橋のコンクリート橋脚と川の飛び石、二つの要因が二人の距離を大きく引き離しています。実際ここでは六話までの内容で二人の関係が一番ゆらぐ場面になっています。いかかがでしょうか、境界の演出一つとっても様々な表現がなされています。ここでは六話だけの紹介になってしましましたがこの作品では境界の表現が多用されており後の回では登場人物の核心に関わる表現も見て取れる場面もでてきます。
花で語る登場人物の心情
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こちらは八話序盤、ヒロインがその隣にいる彼女の親友に対して「何色の紫陽花が好き?」と聞く場面。ここでの紫陽花は青と白(黄)です。
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同八話中盤、今度はヒロインの親友が主人公に対して同じ質問をしています。ここでの紫陽花は白(黄)と赤紫です。
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そして八話の終盤、一周まわって最後は主人公がヒロインに対して同じ質問をします。このときの紫陽花は紫と青。さて以上の三つの場面から三人の人物の色が決定します。そしてこれと花言葉を対応させてみます。(紫陽花の花言葉は色によって違います)
ヒロイン:(色)青(花言葉)辛抱強い愛情 高慢 あなたは美しいが冷淡だ 無常
ヒロインの親友:(色)白(花言葉)寛容
主人公:(色)紫、赤紫(花言葉)元気な女性
青の紫陽花の字面がすごいですね。ですがこの花言葉、しっかりと三人に合致します。花言葉に関する表現はいろんな作品に登場します。自分の好きな作品にもあるか探してみてもおもしろいかもしれません。
この場面ですが実は花言葉だけでは終わりません。二枚目の主人公色の紫陽花と三枚目のそれとではちょっと色味が変化しています。最初は赤に近い紫、最後は青に近い紫となっていますが紫陽花の場合この色の変化の行き先は青となています。これは主人公の心情が青色つまりヒロイン側に少しだけ近づいているということを示しています。この心情の変化は次の回で顕著に表現されますがこれはその伏線となっています。
そしてもうひとつ、ヒロインの親友の色が白となっています。白い紫陽花というのは色素にアトシアニンという物質が含まれておらずほかの紫陽花のように色が変化しません。これは彼女が二人の関係に入り込めないのではという可能性に関して暗に表現しているともとれます。
やがて君になるではこのような表現が盛りだくさんになっています、時間がある方はぜひ観てみましょう!
考えすぎでは?
おそらく皆さんこう思っているでしょう。そうです、考えすぎです。でもそれこそがアニメにおける「演出」の観かたと私は考えています。作品においてストーリーや作画の綺麗さに感嘆するのももちろん楽しいですが、こういった観点からアニメを観察して何度も見直したりするのも非常におもしろいです。考察が好きな人は無意識のうちにこうして鑑賞してるひとが多いと思われますが、まさにそんなかんじですね。
他作品の例
やがて君になるばっかり紹介するのもくどいと思うのでここでほかのアニメも見てみましょう。意識してみると演出にメッセージを残す作品は意外と多いです。
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こちらは同じく現在放送中のアニメ「SSSS.GRIDMAN」の九話です。ここでは主人公とある人物が対話している場面です。墓石が手前にありそれが両者の大きな壁になっています。やがて君になるでもあった境界の表現ですね。この境界が墓石というのも意味があるのでしょうか、想像が広がります。
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こちらは2018年1月から放送されていたアニメ「宇宙よりも遠い場所」の二話です。主要人物の一人である女の子が南極観測隊員から逃げて走っている場面です。彼女は高校にはいっておらずコンビニでバイトをしていましたが主人公たちと一緒に南極を目指すために一緒に行動するようになります。この場面ではコンビニの内側から彼女が外を走っている場面を移すことで彼女がコンビニから外に出て「動き出した」ことを表現しています。たった2秒ほのカットですがちゃんとしたメッセージが込められていますね。おわりに
アニメーションは映画やドラマと同じ映像作品です。物語、役者、音楽など様々な要素が詰まっているため総合芸術と呼ぶ人もいます。そんなアニメで明確には表現されないが確かに意味のある「演出」というものを注意深くみるのはとても趣があります。皆さんの好きな作品でもぜひこの観点で作品を観てみましょう、いままで気づかなかったことがあるかもしれません。アニメは見るものではなく観るものとして、骨の髄まで楽しんでいきましょう!