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Strogatzらの論文。ネットワーク上の振動子が同期するかについて議論している。微分方程式は
である。はネットワークの隣接行列の成分である。ネットワークとして特にErdos-Renyiグラフを考える。これは各頂点間に枝を張るかを確率で決めるランダムネットワークである。が大きいほどネットワークが密になるので同期しやすいと考えられるが、このときある閾値があってが頂点数に対してどれほどであれば必ず同期するだろうか?という問いが立つ。arXiv:1809.11083では、であればで高い確率で同期することが示されている。この論文ではであればで高い確率で同期することを示している。
arXiv:1809.11083ではであれば高い確率で同期するのではないか、とは予想されている。これの証明はまだである。
以下で証明の概略を紹介する。大きく分けると2ステップあって、1つ目はランダムネットワークのスペクトラムノルムと同期の関係に関する十分条件を求めている(section 3,4,5)。その後に、Erdos-Renyiグラフのスペクトラムノルムに関する公式を用いて同期の具体的な評価を求めている(section 6)。
この論文の中の定理11は特に大事である。この定理でODEが同期することとネットワークの性質(特にスペクトル)に対する関係(十分条件)を与えている。
ここで、をラプラシアンとしてで定めている。はすべての要素がの行列である。これらはそれぞれ平均が零行列になるように定数行列でシフトを入れたものである。すなわち、である。も同様である。
この定理の証明にはErdos-Renyiグラフに関することは何も使っていないが定理の主張の中にが入ってるのでそれは適宜翻訳が必要のように思う。
としたとき、
である。これを定理11に代入することで色々な評価ができる。例えば、
がわかる。
Erdos-Renyiグラフのスペクトルに関するより強い評価が存在して、の結果を用いることで、
であれば同期する、という結果を得ることができる。
上の不等式は行列に対する平均からのずれがどれくらい抑えられるのか、という形になっている。特に、Erdos-Renyiグラフは各枝が独立に張られることから、を独立な行列の和の形で書ける。独立な確率変数たちを足し合わせたものが平均からどれくらいずれるかを評価するものが集中不等式として広く知られていて、今回の不等式は特に(行列バージョンの)Bernsteinの不等式から得られるものである。
今回はBernsteinの不等式からErdos-Renyiグラフのスペクトルの評価を得て、それをもとに同期の判定の十分条件を与える、ということを行った。他にもこれまでの研究では(この評価はoptimalではなく更に良い評価も存在する)であればで高い確率でErdos-Renyiグラフが連結になることが知られていて、これも集中不等式から得られる結果である。
上の話からErdos-Renyiグラフがであれば連結になるらしい。一方でであれば同期すると信じられている。これは偶然???同期するためにはネットワークは少なくとも連結でなければいけないから同期するためののオーダーは連結するためののオーダーより小さくはなりえないが。。。
今よねだが考えているのはかんたんに言えばErdos-Renyiの話をrandom regular graphに焼き直す、ということである。なので最終的にほしい結果は、
頂点の-正則グラフ全体の集合をとおく。から一様ランダムに行列を選んで、その上の振動子モデルを構成したときに、であればで高い確率で振動子は必ず同期する。
のようなものであり、このときのを何らかの形で表現したいのである。これは完全に妄想だが、次数の数を考えるとErdos-Renyiグラフは平均的にはなのでとかあたりで評価できるのかもしれない。
random regular graphを考えるモチベーションは密なネットワーク側のcritical connectivityの話から来ている、となんとなく書いておく。ここも深く吟味しているわけではないので。
Strogatzらの論文の手法をそのまま使おうと思うならば、やるべきことは、
の2つに分かれる。(もちろんStrogatzの手法が最善ではない可能性だってあるのでこれ以外のやり方もあり得るかもしれないけどね。)Erdos-Renyiグラフにおいてはスペクトルの評価に集中不等式を用いていたが、これは隣接行列の各要素が独立に選ばれることを利用していた。しかし、random regular graphにおいては各頂点の次数が固定されているため、隣接行列の各要素を確率変数とした場合にはそれらは独立にはならない。そのため、random regular graphにおけるのスペクトルの評価に集中不等式を使うことができない!!なので、かんたんな焼き直しができるわけではないのが現状である。
まずrandom regular graphの隣接行列の平均はいくらだろうか??自己ループや重複した枝がないと思うと非対角成分にが立つ確率はどれも等しいように思える。また、のいずれも各行の和はである。これを考えると、一様ランダムに選んだについて、
になりそうに思える。
このことを確認しようと思って、pythonのnetworkx
のrandom_regular_graph
を使って隣接行列の平均値がどうなるかを見てみようと思っていくらか計算していたら、何遍やっても生成されたrandom regular graphの成分がになってしまう。何かがおかしい??下のコードを動かしたら全部1になるのが確認できると思う。
上の話が正しいとしよう。random regular graphの平均をshiftする前の隣接行列についてのスペクトルの評価はいくらか知られている。その結果からshiftしたのスペクトルの評価につなげることができるか??はとからなっている。単位行列は固有値を平行移動させるから問題ないとして、要素がすべての行列の摂動で固有値はどのように変わるのだろうか??なにか明確な計算方法があるのかな。計算してみようと思ったけど何かうまい法則があるのかはわからなかった。ググってみるとmathoverflowで
っていうドンピシャなページがあった。ただ、明確にこうなる、ってのはなかったからすぐにはなにかわかるわけではない。いくらか数値計算をしてみて固有値分布の様子を見てみる必要があるのかもしれない。
厳密性は置いておくと、は大体になる。そうすると、をrandom regular graphに置き換えたはだいたい成り立ちそうな気がする。あと、ラプラシアンについての定数行列になるから、であってになる。ので評価も少しかんたんになるかもしれない。
定理11の形でネットワークの同期に関する十分条件を与えているけど、それはそもそもErdos-Renyiグラフの場合に集中不等式が使えての評価を与えることができるからな気もする。そう思うと、あまりrandom regular graphに対しての評価を考えようとするのも良い道筋ではないのかもしれない。その意味では、定理11を別の形で表現するのも一つの手だと思う。Strogatzの論文の流れを注意深く追っていってrandom regular graphがいい感じに評価できる形に読み替えていくことも大事なのかもしれない。