人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業の「研究開発項目〔1〕-3 人の意図や知識を理解して学習するAIの基盤技術開発」枠で採択された、理研AIP橋田浩一先生を代表とするプロジェクトです。名工大の白松研では、意思決定支援を担当します。
気候変動や感染症,少子高齢化といった社会の持続可能性を脅かす諸問題については,政治力学等に基づく非合理な政策決定を繰り返すうちに破局的状態に繋がる恐れがある.破綻を回避できる合理的な意思決定を促進するため,データや専門家の知見を根拠として活用できるEvidence-based policy making (EBPM) の支援技術の開発が急務である.そのために,以下3つの部分課題を設定する.
(1) 意思決定の根拠として活用可能なコンテンツやデータを探索・推薦可能にする支援技術
(2) 社会問題の周辺コンテキストや解決策の根拠を,市民・行政・専門家とAIの協働によって構造化し,説明可能にする支援技術
(3) 最終的な政策決定に至った過程を,政策決定者・専門家とAIの協働によって構造化し,説明可能にする支援技術
初年度は,意思決定の根拠として実際に活用できるコンテンツやデータの性質を明らかにし,課題(1)~(3)の技術的要件を洗い出す.社会学の専門家とも連携し,行政や政策決定者へのヒアリングを行った上で,Semantic Editorを用いて過去の政策決定事例についてその根拠の構造化を試みる予備実験を行う.その実験結果を踏まえて,意思決定の根拠を構造化するのに必要な談話関係セットを明らかにし,EBPM支援のためのシナリオやユースケースの定義を試みる.課題(1)については特に,議会議事録や行政オープンデータを対象に,意思決定の根拠として活用可能なコンテンツ・データを抽出する手法を検討する.具体的には,ALBERT等の汎用言語表現モデルの再訓練のために,根拠として活用し得るコンテンツのコーパスを構築する.この根拠コーパスの構築方法としては,クラウドソーシングや市民参加型の議論を通じた構築を試行する.
前年度に定義したシナリオやユースケースに基づき,課題(1)の根拠推薦機構と課題(2)の根拠構造化機構を試作する.課題(1)の根拠推薦機構は,入力としてSemantic Editorで作成したグラフを与えると,議会議事録や行政オープンデータから根拠となる候補を出力する.前年度に構築した根拠コーパスで再訓練した汎用言語表現モデルを用いる.課題(2)の根拠構造化機構については,Semantic Editor上で専門家を含む複数ユーザが協調編集することで,社会問題の周辺コンテキストや解決策の根拠を説明するのに適したコンテンツを作る実験を行う.このとき,課題(1)の根拠推薦機構の有用性も同時に検証する.また,Code for Japanなどシビックテックコミュニティと連携し,試作したプロトタイプを市民や行政,地方議会議員,社会学の専門家が体験する機会を設ける.これにより,前年度に定義したシナリオやユースケースの妥当性を検証する.
前年度に試作したプロトタイプを洗練化し,社会問題について議論する市民参加型イベント等での社会実験を行う.これにより,合理性のある意思決定根拠が説明可能か否かを検証する.さらに,課題(3)の政策決定過程の構造化機構について,社会学や政治学の専門家からヒアリングし,Semantic Editorを用いた予備実験を行う.予備実験の結果を踏まえ,政策決定過程の構造化機構のプロトタイピングを試みる.
課題(3)の政策決定過程の構造化機構についてプロトタイプの検証をするため,地方自治体の過去の政策決定について政策決定者と専門家が構造化する実験を行う.このとき,課題(1)の根拠推薦機構,課題(2)の根拠構造化機構の検証も同時に行い,EBPM支援システムとしての性能を評価する.この結果を踏まえ,課題(1)~(3)の機構の統合手法を再設計する.
課題(1)~(3)の機構を統合したEBPM支援システムを用いた社会実験を行い,社会学や政治学の専門家とも連携してELSI的観点から妥当性を評価する.