--- tags: TrRun2 id: ProbCHL-A12.md --- # 檜山トレラン2 A12 学習障害と対策 (1) - ☆前回「この話は次回にする」と予告した内容。 - ☆多言語・多文化環境への耐性がないと、容易に挫折する。 - ☆扱う話題に依らずに、普遍的・汎用的にに必要とされる数学スキルがある -- 本トレランはそのスキル養成も目的。 ## 法則と取り決めを区別する 数学の形式的な部分は、定義、公理、定理(とその証明)だけからなる。概念をどう呼ぶか、どんな記法/図法で書くか/描くかは偶発的に決まり、==必然性はまったくない==。そう決まったのだから守るだけ。一方、恣意的な取り決めは、恣意的なゆえに変更可能だし、実際に変更されることもある。 数学的な記述や約束ごとには、 1. 論理的な必然性があること(数学的な世界における法則) 2. 人間の集団が恣意的に根拠なく偶発的に決めたこと がある。恣意的な取り決めは、いつ変わってもいいように心の準備をしておく。 例: - 添字を右肩(指数の位置)に書く。$x_i^j$ - 自然数をギリシャ文字で書く。$\alpha, \beta \in \bar{\nu}$ - 集合をラテン文字小文字で書く。$a, b\in {\bf Univ}$ - ベクトルを無印のノーマル体で書く。$x, y\in V$ - 関手をラテン文字小文字で書く。$f:A \to B \mbox{ in } {\bf Cat}$ - その他、習慣的多数派と異なる文字の使い方をする。 - 第一座標を縦方向で上から下に取る。 - タプルを右から左に書く。$(a_3 \mid a_2 \mid a_1)$ - 足し算を掛け算と呼ぶ。[過去の問題](https://hackmd.io/@m-hiyama/SknLOJnZu#%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E6%A1%88-2) $\mbox{semiring }({\bf Z}\cup\{-\infty\}, max, -\infty, +, 0)$ ==記法/図法などの恣意的取り決めの変化にイチイチ惑わされない力==を付ける。 - トレーニング → [基本スキルの確認と練習 (G2 A6P3, C A7P3)](https://m-hiyama-second.hatenablog.com/entry/2019/11/17/134521) - 心構え → [焼畑農業式コミュニケーション](https://m-hiyama-memo.hatenablog.com/entry/2020/03/09/171747) ## 余計なことで時間を無駄にしない 1. 言葉の問題にしない。 2. 哲学/神学の問題にしない。「~ とはなんぞや?」 3. 「なんぞや」じゃねーよ! 形式的定義とローカルな規約・合意(言い方・書き方の約束)を基盤に議論する。 4. 学習や理解としては、心理的な問題(わかった気がするとか)も重要ではある。 言葉からの連想や詮索をしない! - 「無理数」 → 何が無理なのか? 無理なことをやるのか? - 「虚数」 → 虚しいのか? うつろなのか? - 「主観確率」 → 主観とは何か? 客観と主観の境界線は? - 「事前確率」 → 事前とは何の前か? (一応、ベイズ更新の文脈では事前/事後が意味を持つが) - 「信念」〈belief〉→ [信念が伝搬するとは?](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A2%BA%E7%8E%87%E4%BC%9D%E6%90%AC%E6%B3%95) 宗教か政治か!? ここでは、余計な気の迷いをさけるために、「主観確率」も「事前確率」も「信念」も使わない。<strong style="color:crimson">域分布</strong>〈domain distribution〉と呼ぶ。意味は、注目しているマルコフ核/マルコフ・テンソルの域側の分布 -- それ以上でもそれ以下でもない。 「分布」は、トービアス・フリッツに従い、 - 域が単位対象(マルコフ・テンソルなら空リスト)であるマルコフ射のこと。 - バート・ジェイコブスは「状態」と呼んでいる。「分布 by フリッツ」=「状態 by ジェイコブス」 マルコフ射はマルコフ圏の射。マルコフ・テンソルの圏はマルコフ圏(の実例)。徹底的にドライになる。 ### 歴史やエピソードが有効な場合 1. 歴史やエピソードが記憶の助けになることがある。特に人名形容詞。 2. 歴史やエピソードから、不適切な名前の由来が分かり、心理的な納得感が得られる。拘りを捨てられる。例:「無理数」の由来。 3. が、歴史やエピソードはオマケであり、それに頼らないでも拘りを捨てられるようにしよう。 ## 「難しい/よく分からない/腑に落ちない」と思ったとき: - ほんとにそれは論理的/技法的に難しいことですか? 超絶トリッキーな計算術や神示のごとき天才の閃きが使われている話ですか? -- 自問しよう。 - 「分かりたくない」と思っているから分からないのかも知れませんよ。 - 先入観やこだわり、新しい概念への拒否反応など、「それを受け入れたくない感情」が理解を阻害しているケースも多い。 - 新概念を拒絶する感情や、理解の枠組みの歪みを矯正しないと、ずっと「腑に落ちない」ままで停滞するリスクもあり。 - 心のなかに「~でなくてはならない」「~であるべき」「~でないと気持ち悪い」などの勝手な思い込みがありませんか? ほんとに複雑で難しい話もあるが、多くの場合は「クリア・ドライに考えるモード」にスイッチしてないことが原因。曖昧で感情的な解釈・判断に支配されたまま数学をボンヤリやっている。 - 対策:自然言語を捨てる。人工言語なら、必然的に注意力と緊張感を要する。慣れ親しんだ自然言語だから==だらける==。 - 参考: [B14 論理式を利用した命題の分析例](https://hackmd.io/@m-hiyama/B10LBM7XO) - 参考: [B07 数学のための文法講座](https://hackmd.io/@m-hiyama/ryND05Bgu) - 参考: [文の解釈の実例](https://hackmd.io/@m-hiyama/ryND05Bgu#%E8%BF%BD%E8%A8%98%EF%BC%9A-%E6%96%87%E3%81%AE%E8%A7%A3%E9%87%88%E3%81%AE%E5%AE%9F%E4%BE%8B) - トレーニング: [翻訳の問題](https://hackmd.io/@m-hiyama/ryBjzQsyu#%E7%BF%BB%E8%A8%B3%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C) 具体的なケーススタディは[次の資料](https://hackmd.io/@m-hiyama/S1qvHjkNu)。