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tags: TrRun3
id: Arrg-A04_redherring.md
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$\newcommand{\conc}{\mathop {\#}}
\newcommand{\Sy}[1]{ \langle #1 \rangle } % symbole
\newcommand{\BL}{ \{\![ }
\newcommand{\BR}{ ]\!\} }
%$
# 檜山トレラン3 A04 何がレッドヘリングなのか
[A01 線形結合](https://hackmd.io/@m-hiyama/ByH_UZDR_) より引用:
> 副テーマは[レッドヘリング](https://hackmd.io/@m-hiyama/Bk8iYIRC_)、形式和〈formal sum〉のプラス記号/総和記号はかなり悪質なレッドヘリング。ゲンツェンのリスト記法に匹敵する悪質さ。
## 副テーマ「レッドヘリング」として、檜山は何の話をしたのか? なぜその話をしたのか?
- 数学のなかにはレッドヘリング〈目くらまし \| ミスリード \| 陥穽〉が潜んでいる。
- 線形結合の書き方〈構文〉もレッドヘリングのひとつだろう。人は、**書き方で惑わされる**ことがある。
- 我々の主要な道具である線形結合を正しくシッカリ理解してもらうために、このレッドヘリングを警告しておくべきだろう。
## ニセの演算、ホントの演算
「形式和」とか中立的な言葉ではなくて、より侮蔑的な「<strong style="color:crimson">ニセの和</strong>」を使う。一般的には「<strong style="color:crimson">ニセの演算</strong>」。
<strong style="color:crimson">ホントの演算</strong>は、集合に標準的に〈常識的に〉備わっている二項演算(集合の直積から当該集合への写像)のこと。
|番号 | 集合 | 書き方の例 | ニセの演算 | ホントの演算 |
|----|------|----------|----------|------------|
| 1 |$List(\{a, b, c\})$| $(a, b)\conc(c)$ | $,$ | $\conc$ |
| 2 |$List(\{a, b, c\})$| $(a, b), c$ | $,$ | $,$ |
| 3 |$LinComb[{\bf B}](\{a, b, c\})$ | $\{a, b\}\cup\{c\}$ | $,$ | $\cup$ |
| 4 |$LinComb[{\bf N}](\{a, b, c\})$ | $\BL a, b\BR\oplus\BL c\BR$ | $,$ | $\oplus$ |
| 5 |$LinComb[{\bf R}](\{a, b, c\})$ | $(\Sy{a} + \Sy{b})\oplus(\Sy{c})$ | $+$ | $\oplus$ |
| 6 |$LinComb[{\bf R}](\{a, b, c\})$ | $(a + b) + c$ | $+$ | $+$ |
この表で、ニセの演算は区切り記号のことで、ホントの演算は「連接、合併、和」などと呼ばれる二項演算(の中置演算子記号)である。補足説明をしておくと:
- 2番はゲンツェンのリストの書き方で、区切り記号と連接演算を区別しない。慣れてないと非常に紛らわしくて困惑する。が、慣れると**便利**で、結局愛用してしまう。
- 4番はバッグに対する演算を $\oplus$ で書いたもの。
- 5番は実数係数自由ベクトル空間の例だが、区切り記号に $+$ を使っているので、混乱を避けてホントの和には $\oplus$ を使ったもの。
- 6番は中学校以来普通に使っている書き方。ゲンツェンのリスト記法と同じく、区切り記号と演算を区別してない。我々は慣れている(慣らされている)ので違和感を感じない。
**書き方で惑わされる**ことは非常に多い。同じ概念を表す書き方が**無闇とたくさんある**ことは、次の練習で体験して欲しい。
- [基本スキルの確認と練習 (G2 A6P3, C A7P3)](https://m-hiyama-second.hatenablog.com/entry/2019/11/17/134521)
少数の概念に山のような表現があり、その表現のなかには人を惑わすもの〈レッドヘリング〉もあるのが実情。
上の表の3番から6番はすべて線形結合という共通構造を持っている。一番慣れ親しんでいるはずの6番の書き方が実は一番悪質なレッドヘリングだった、という顛末。**汎用共通構造としての線形結合**を学ぶ上では、6番がむしろ障害(邪魔な先入観)になる -- アンラーン、リラーン〈unlearn and relearn〉する必要がある。==それが僕〈檜山〉が言いたかったこと。==
[B11 の「補足: やさしい例」](https://hackmd.io/@m-hiyama/H17ehFQ1t#easy-example) にも概念的実体とその表現(書き方)のやさしい例がある。
## ゼロっぽいもの
ついでに、ホントの演算の単位元〈中立元〉をどう書くかも表にまとめておく。
|番号 | 集合 | 書き方の例 |
|----|------|----------|
| 1 |$List(\{a, b, c\})$| $()$ または $\varepsilon$ |
| 2 |$List(\{a, b, c\})$| ゲンツェンは何も書かない |
| 3 |$LinComb[{\bf B}](\{a, b, c\})$ |$\{\}$ または $\emptyset$ または ${\bf 0}$|
| 4 |$LinComb[{\bf N}](\{a, b, c\})$ |$\BL \BR$ または $0$ |
| 5 |$LinComb[{\bf R}](\{a, b, c\})$ | $0$ または $()$ |
| 6 |$LinComb[{\bf R}](\{a, b, c\})$ | $0$ |
## 余談
- ゲンツェンの記法や理論構成は、初見では非常に分かりにくくて腹が立つのだが、分かってしまうと「これしかない」感がする。それがまた癪に障る。
- 学習には「ラーン→アンラーン→リラーン」のサイクルがあるのだが、一度定着した知識や考え方をアンラーンする(一旦は捨てる)ことはだいぶ難しい。あるレベル以上の数学の学習だと、ラーン能力よりアンラーン能力で差がつく気がする。