--- tags: TrRun4 id: Theo-X01_atmarkNotation.md --- # 檜山トレラン4 X01 アットマークによる識別ヒント この文書は、自然言語による説明の**書き方**について述べているものなので、事例として出てくる数学的概念を知らない/理解できないとかは==気にしない==こと。 ## 困った事例 次の文は実際の数学的内容を述べている。 - **セオリーからの関手がモデルである。** 檜山は同義語を山形括弧に入れて示す書き方をしている。セオリーは自由代数と同義であり、モデルは代数と同義だから次のように書ける。 - **セオリー〈自由代数〉からの関手がモデル〈代数〉である。** 山形括弧内の同義語のほうを使うと: - **自由代数からの関手が代数である。** 2回出現する「代数」はまったく意味が違う。 自由代数の代数は「モナドの代数」のことであり、2番目に出現する代数は「ローヴェアの意味の代数」である。したがって丁寧に言えば: - **自由なモナドの代数からの関手がローヴェアの意味の代数である。** 「自由なモナドの代数」の係り受けが曖昧だ。 1. “自由なモナド” の代数 2. 自由な “モナドの代数” 実際は2番目の意味。「モナドの代数」の同義語である「アイレンベルク/ムーア代数」を使えば係り受けはハッキリするだろう。 - **自由なアイレンベルク/ムーア代数からの関手がローヴェアの意味の代数である。** このような問題が起きることは予想できたことではある。第0回資料でも注意しておいた。 - [セオリー論で出てくるエグい言葉](https://hackmd.io/@m-hiyama/BJYkXGAKY#%E3%82%BB%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E8%AB%96%E3%81%A7%E5%87%BA%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8B%E3%82%A8%E3%82%B0%E3%81%84%E8%A8%80%E8%91%89) - [「代数」という言葉](https://hackmd.io/@m-hiyama/BJYkXGAKY#%E3%82%AA%E3%83%9E%E3%82%B1%EF%BC%9A-%E3%80%8C%E4%BB%A3%E6%95%B0%E3%80%8D%E3%81%AE%E7%94%A8%E6%B3%95) - [「セオリー」という言葉](https://hackmd.io/@m-hiyama/BJYkXGAKY#%E3%82%AA%E3%83%9E%E3%82%B1%EF%BC%9A-%E3%80%8C%E3%82%BB%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%80%8D%E3%81%AE%E7%94%A8%E6%B3%95) ## 識別ヒント 同義語、曖昧多義語、オーバーロード(意図的な同綴異義語の使用)、コンフリクト(意図せぬ偶発的な同綴異義語の使用)は、STEM〈science, technology, engineering and mathematics〉コミュニケーションの障害になる。 同義語に対しては標準的に使う語を選択すればいいが、ひとつの語に複数の意味があるときは誤解のリスクがある。通常は「文脈から判断せよ」だが、文脈ではない識別ヒントを付けたほうが親切だろう。 本来的な多義語(もともと多義的に使用する語)であれ、オーバーロード(約束)であれ、コンフリクト(事故)であれ、必要があれば、多義語の直後に識別ヒントの語を添えることにする。多義語と識別ヒントはアットマークで区切る。以下に事例: - ジョイン@DB : データベース分野で使われている「ジョイン」 - ジョイン@束論 : 束論〈lattice theory〉に出てくる「ジョイン」 - 代数@ローヴェア : ローヴェア流の「代数」 - 代数@モナド : モナドに付随する「代数」 = アイレンベルク/ムーア代数 - 代数@自己関手 : 自己関手に付随する「代数」 = 無法則代数 - 代数@線形代数 : 加群の線形代数で出てくる「代数」 = 多元環 - モデル@バーワイズ : バーワイズの意味の「モデル」 = モデル論に出てくる「モデル」、モデル@モデル論 とも言える。 - モデル@機械学習 : 機械学習の分野で使われている「モデル」 - モデル@統計 : 統計分野で使われている「モデル」、これでも曖昧かも知れない。 - 指標@抽象的 : インスティチューション理論で出てくる抽象的な「指標」、指標@インスティチューション、指標@ゴグエン とも言える。 - 指標@具体的 : 具体的な定義を持つ指標。 - 生成@generate : "generate" の翻訳語としての「生成」 - 生成@produce : "produce" の翻訳語としての「生成」 アットマークの読みかたは: 1. ~ の意味の〈in the sense of ~〉 2. ~ 流の〈à la ~〉 3. ~ としての〈as ~〉 4. ~ としても知られる〈{a.k.a. \| also known as} ~〉 5. ~ に関する〈{w.r.t. \| with respect to \| with reference to} ~〉 6. 換言すれば ~ 〈in other words ~〉 アットマークの後に添えるヒントの語は: - 分野 - 人名 - 関連する概念 - 形容詞、副詞 - 対応する英語 - … など色々 前節の例文を識別ヒント付きで書くと: - **セオリー@セオリー論〈自由代数@モナド〉からの関手がモデル@セオリー論〈代数@ローヴェア〉である。** うるさすぎる印象だが、多義語の識別はできる。ここまでうるさく書かないにしても、必要があれば、アットマークに続く識別ヒントを使う。 今まで使った/今後使う、同義語・多義語・オーバーロード・コンフリクトに対する対策は: 1. 山形括弧内に同義語を書く。 2. 正規表現を使ってバリエーションを表現する。 3. アットマークに続く識別ヒントで多義語の識別を助ける。