# 何らかの短編5 こんにちはもひょ(G2)です。 この記事は、[みす老人会 Advent Calendar 2022](https://adventar.org/calendars/7674) の3日目の記事です。 この先は業の深い地獄なので、覚悟のある方はどうぞ読み進めていってください。 興味のある方はぜひ以前の Advent Calendar で書かれた過去作もお読みください。 - [何らかの短編](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/BkY_oXIeE?type=view) - [何らかの短編2](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/SJgIKWNhH) - [何らかの短編3](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/rkc78qlaD) - [何らかの短編4](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/rkaqueStt) zuzuさんによる次の記事も読むと深みが増すかもしれません。 - [51代受肉勢の独断と偏見による関係性](https://hackmd.io/s/S1FUIqfxN) 注釈:ここから先は別位相の話であり、実在する人物、団体とはそんなに関係ありません。HackMDはスペースがうまく効かないので行の頭にたまに空白がないのは許してね。 # 挨拶  夕食を終えて、紅茶を飲みながらソファに身体を沈める。私はテレビの情報番組をなんとなく眺めて、クランクは横でノートパソコンを開いてカタカタと何かをしている。  テレビでは近年結婚する人が減っているとか、晩婚化しているとか、そんな感じの特集がやっていた。コメンテーターが言うには、出会いの機会が減っているという話だった。別のコメンテーターは、若者は趣味に生きるようになって恋愛を重要視しなくなっているんじゃないかというコメントをした。  なるほど趣味か。一理ある。などと趣味人な私はふんふんうなずいてみて、横で趣味に没頭しているパートナーの様子をちらりと見る。  趣味というものは厄介で、ときに手がつけられないくらい夢中になってしまうことがある。私自身がそうだ。女の子と女の子の関係性を描く作品――これはとっても重要なのだけど、恋や友情に囚われない全ての関係性の話だ――が好きで、社会人になってからは働いて手に入れたお給料を湯水の如く注ぎ込んできた。他にも音楽や車などいろいろな趣味があるから、時間もお金も際限なく使ってしまう。  私の同棲相手でありパートナーのクランクもまた、趣味で創作企画を立ち上げて人を集めてくるような人だ。横目に見えるパソコン画面には整然と画像や文字が並んでいて、今もなにかの企画書を書いているようだとわかる。私もクランクの開催する企画に参加することがあるが、そのときのスケジュール管理の様子は仕事人という感じでかっこよく、いつも惚れ直してしまう。  テレビの様子はスタジオからどこかのご家庭の映像に変わっていた。結婚を決めたカップルが、反対する親になんとか挨拶の約束を取り付けたので、なんとかして結婚を認めてもらうぞという話だ。どちらかのご実家が代々地元議会の議員を務める由緒正しいご家庭で、「どこの馬の骨ともわからない相手にうちの子はやらん!」ということらしい。 「ねえクランク、同棲を始めたときのこと覚えてる?」 「ん、何を急に」 「私さ、あれめちゃくちゃ嬉しかったんだよね」 「どれだよ」  同棲をすると私たちの間で決めて、両親の許可を取りに行ったときのことだ。クランクのご両親は遠くに住んでいるので、先に私の家へと二人で挨拶に行くことになった。  私は両親に私たちの関係を詳しく話したことが無かったし、今回の同棲も「仲良い友だちとシェアハウスをするんだ」くらいの気持ちで話すつもりだった。  少し緊張はしつつも、まあうちの親は私には甘いところがあるし大変なことはないだろうとあまり気構えていなかった。そんな私の耳に、クランクの口から出た衝撃的な言葉が飛び込んできた。 「娘さんは俺にとってすごく大事な人で、絶対に幸せにします。どうか同棲を許可していただけませんか?」  これはあれだ、相手の親に結婚の許可を取りに行くときのやつだ、と頭の中では妙に冷静に理解をしていた。いや、実際には冷静ではなくて現実逃避をしていたのだろう。自分が置かれているシチュエーションであるという理解が一向に進まず、私の口からはなかなか言葉が出てこなかった。  固まる私の横で、冷静さをいち早く取り戻した父が「それはその、そういうことなんだよな?」などと困惑しつつも、冷静に話を進めてくれたのが救いだった。その後なんやかんやあって、私の両親は同棲を認めてくれた。あの日は忘れられない思い出の日だ。 「ってことがあったじゃんクランク。覚えてる?」 「えーっと、まあ覚えてはいるけど」  頬をかくクランクの表情は変わっていないけど、私はこれが彼女の照れたときの仕草だと知っている。 「あのときはなんか俺だけ空回りしちゃってごめん。親御さんに紹介してくれるって言うから嬉しくて勘違いしてた」 「ううん。なんだろうな、すごく感動したんだ。あの引っ込み思案のクランクが私の親を前にここまで言ってくれるくらい想ってくれてるんだって」 「悪かったな引っ込み思案で」 「あはは、ギャップ萌えってやつかな。かっこよかったしもっと好きになった」 「そう」  ぷいとそっぽを向いて拗ねたように作業を進めようとしているクランクにさっきまでの集中力はなさそうだ。そんなところが可愛くて愛おしい。 「ごめんクランク、同棲を始めるときに決めた趣味はできるだけ邪魔しないってルール破っちゃったかな」 「いや全然。邪魔になってないし」  私は知ってるよ。バックスペースキーが何度も押されるキーボードの様子を見れば邪魔しちゃったのはわかるんだから。でも指摘はしない。私だけが知っている彼女の仕草に、優越感と幸福感を抱いていたいから。  ちなみに私がクランクの家に挨拶に行ったときは、「うちの無愛想な娘にそんな仲の人がいたのか」と言ってもはや涙ぐみながら喜んでくれたし、クランクもその言葉に不服は無さそうだった。無愛想な娘って、彼女はそれで良いのだろうか……。 == ここから先は会員登録が必要です。 == == 会員になると月額980円で色々な位相のなかクラが読み放題!? 受肉群像劇も続々追加。会員登録は… ==