# 何らかの短編6
こんにちはもひょ(G2)です。
この記事は、[みす老人会 Advent Calendar 2023](https://adventar.org/calendars/7674) の2日目の記事です。
この先は業が深いため、覚悟のある方のみ読み進めていってください。
興味のある方はぜひ以前の Advent Calendar で書かれた過去作もお読みください。
- [何らかの短編](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/BkY_oXIeE?type=view)
- [何らかの短編2](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/SJgIKWNhH)
- [何らかの短編3](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/rkc78qlaD)
- [何らかの短編4](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/rkaqueStt)
- [何らかの短編5](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/r1m89lUvs)
zuzuさんによる次の記事も読むと深みが増すかもしれません。
- [51代受肉勢の独断と偏見による関係性](https://hackmd.io/s/S1FUIqfxN)
注釈:ここから先は別位相の話であり、実在する人物、団体とはそんなに関係ありません。
「人生のイベントを教えてください。なければ異世界転生します」という感じのツイートをしたんですが、まだ書いていない人生のイベントの例が無かったのでこうなりました。
## ハロー、異世界
この世界、アスフィアに迷い込んでから5年が経った。元の世界の日数換算で、だが。
わたしとクランクは、気づいたときにはこの世界の街なかにいて、あっという間にこの世界の軍隊により保護された。
異人保護法という法律により、わたしたちのような迷い込んだ存在は保護されるらしい、という事実を知ったのは随分あとだ。当時は恐怖に震えていたものだが、5年も経てばもう笑い話である。ずっと疑っていた相手が、ただわたしたちを保護してくれていただけで、にも関わらず私たちは半年は疑い続けていたのだ。
「いざとなったらわたしが囮になるから逃げて」
「そんなことできるわけないだろ。俺がそのときはなんとかするよ」
「わたしもなんとかする」
「なんとかってなんだよ」
なんてことを、ちょっと硬いけど眠れないほどではないベッドの上で言い合っていたほどだ。
彼らのおかげでわたしたちはこの世界の言葉を覚え、この世界の常識を学んだ。そうしてようやく彼らがただ善意と法に基づいてわたしたちを守ってくれていたのだと理解したときには、わたしたちは魔法の力を得て冒険者として働くことができるほどになっていた。
異人保護法はその昔、異世界からの迷いびとが国に発展をもたらしたことから制定された法律らしい。と言ってもわたしたちのような迷いびとはそれなりにいるようで、わたしたちの持つくらいの知識で国の発展に寄与できることはあまり無さそうだった。それでも彼らは、わたしたちを保護し、そして市井で渡っていけるほどまで教育をしてくれた。そんな優しいお国の方々にお礼を言って別れを告げ、わたしたちは晴れて冒険者となった。
わたしたちが保護されていた期間に知ったことの中には、絶望的な事実があった。残念なことに、本当に残念なことに、元の世界に帰る方法は見つかっていないらしい、という事実だ。
この世界ではときおり、何かの拍子に時空が乱れ、何かの拍子に異世界から人がやってくる。この世界の住人にとってそれは常識であり、時空の乱れはわたしたちにとっての皆既月食のようなちょっとしたイベントごとだった。だからこそ、わたしたちが街に突然現れたとき、すぐに通報が行って時空魔法隊と呼ばれる部隊が駆けつけてくれたのだ。
異世界の住人が迷い込んでくることは常識だからこそ、研究もよく進んでいた。その学術的成果によれば、この世界の時空は極めて安定しているため、他の世界の乱れが流れ込んでくるのだと言う。さながら増水した川の流れを、海が凪に返すように。
この世界の安定な時空の状態を乱すのは難しい。だからこの世界から別の世界へと行くことも難しい。曲がりなりにも理系の大学を出たわたしたちは、その説明をすんなりと理解できた。
だからこそ、希望を感じた。
安定な状態を、不安定な状態にするほどエネルギーを加えれば、励起させることができるのではないかと。そうすれば元の世界に帰れるのではないかと。
そして私たちは元の世界に帰る方法を探すべく旅に出た——なんてこともなく、保護してくれた軍隊が駐留しているこの国第二の都市で、ときおり異世界知識を活かしながら冒険者として日々を営んでいた。
何をするにも、まずは「力」が必要だから。この場合の力は、様々な魔法の道具を手に入れて研究できるだけの経済力と、時空に干渉できるだけの魔法力だ。
だから、わたしは筋トレをするように毎日魔トレをしている。魔法を使い、魔物を狩ることが、この世界における魔法トレーニングだ。そうして得られた魔物素材を、冒険者のための役所で換金をする。
もはや慣れたもので、わたしたちは国から冒険者としての中堅等級であるゴールドクラスの資格を付与されるまでに至った。
そして今回、特別依頼として受けた「レッサードラゴンの討伐」を終えれば、プラチナクラスとしての資格を得ることができる。プラチナクラスになれば、国が保有する魔導書の閲覧許可が増える。魔導書で増やした知識の中に、日本への帰還の糸口があるかもしれない。まさしく5年の節目としてふさわしい依頼だ、なんて考えとともに、わたしたちは街を出た。
+++ +++
「どうして、レッサードラゴンだって話じゃ」
「少し前まではそうだったんじゃないか? 多分、ほんの何日か前までは」
茂みに身体を隠し、小さな声で会話をする。
困惑するわたしを諭すように、クランクは目の前の状況を冷静に分析していた。
森の中の小さな泉の近くで、レッサードラゴンの身体がずたずたに”ついばまれ”た様子を、呆然と見る。その下手人と思しき巨大な鳥が、レッサードラゴンの死体を守るように鎮座している。
「あれは、多分怪鳥だ」
「怪鳥?」
「この前見た冒険者向けの雑誌記事に書いてあった。怪鳥と呼ばれる特別クラスの魔物について。詳しいことはあと。なかさん、逃げよう」
「う、うん。そうだね。早くここから離れた方が……っ!」
まずい。
まずい、まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずい。
わたしはクランクよりも魔力に関する察知力が高い。だからこそ彼女より先に気づいてしまった。
怪鳥の魔力が膨らむように圧を増したことを。
怪鳥が、わたしたちの存在に気づいて魔力で威嚇したということを。
そのおぞましき怪物が、見知らぬ魔法を組み、わたしたちに狙いを定めていることを。
「クランク、逃げて!」
声を潜めることをやめ、わたしは叫んだ。そうすれば、怪鳥の気がわたしに向くと信じて。そうしてわたしも走ろうとして、しかしその場で足を止めて目をぎゅっと閉じる。逃げることはできないと悟ったから。
魔法発動時の波動は、魔法よりも早く伝搬する。だからこそ、その波動を感じた今、もう手遅れだと気づいた。わたしが叫んで数秒も経たないうちに、魔物とは思えない展開速度でその魔法は発動されてしまったのだ。
身体能力の強化が得意なクランクなら、わたしの叫びに応じて逃げられるだろう。どうか、生きて、逃げ延びて——
しかし、来るはずの衝撃が来ない。いや、衝撃は来た。けれどもそれは、わたしが予期していたような物理的な衝撃ではなく、音と光と風圧による衝撃。
目を開ければ、クランクがいた。クランクはわたしの正面に立ち、両腕を前に出している。その手にいつも握っていた大剣は、柄と少しの金属だけを残して消え去っていた。
「一瞬だけ身体強化の魔法を発動して、その魔法を崩さないよう剣にまとい、剣を強化する」
「な、なんで」
「剣士としては基礎的な技術だからこそ、これまでしっかり訓練してたのが役に立った。逃げて、なかさん」
そう言うと、クランクは受け身も取らずに崩れ落ちた。
「なんで、無理だよ、クランクを置いてなんか」
「なんか静かだな。ああ、そっか。耳が聞こえないのか。これは眩しいんじゃなくて、目が見えないんだ。もう身体の感覚もないのかも。はは、俺、喋れてるのかなこれ」
「ねえ、どうして」
「俺のぶんまで生きて、なかさん。言ってみたかったんだこれ。ちゃんと言えてるかな。あーあ、なかさんの返事が聞こえないのが心残りかも」
わたしは走った。どうしようもない生への衝動と、クランクを置いて逃げる苦しみを胸に抱え、ぐちゃぐちゃになりながら走った。
半ば無意識の状態で走りながらも、最後に見えた、彼女の悲しそうな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
そうして気づいたときには街なかにいて、あっという間に警邏隊に保護されていた。
病院のベッドに寝転ぶ自分の意識をはっきりと自覚したときには、もうあの日から半月が経っていた。看護師さんの話によれば、わたしが茫然自失としている間に、怪鳥は軍隊によって追い払われていたとのことだった。わたしはきちんと、あの場で起きたことを誰かに話せたらしい。あるいはわたしの様子を見て誰かが調査してくれたのか。
街の近くに特別クラスの魔物が現れるのはとても危険なことで、あなたは多くの命を救ったのだと、面会に来てくれた人はみんながそう言ってくれた。
けれどもわたしの心が晴れることはない。きっと死ぬまで、言葉に表せない後悔を抱え続けるのだ。
そして、ふとしたときに、彼女の泣きそうな顔や、彼女としたこんな会話を思い出すのだ。
「ねえクランク、言ってみたい言葉ランキングトップ10にここはオレに任せて先に行け!ってあるじゃん」
「急にどうした」
「これって死亡フラグに見せかけた生還フラグだよね」
「まあ、ちょっとわかる。一周回ってな」
「そう! だからさ、わたしたちのどっちかがもう一人を庇って逃がすときはさ、オレに任せて先に行け!って言おうよ」
「そんな縁起でもない」
「逆だよ、むしろ生き残るための験を担いでるの!」
「はあ。まあ人生で一度は言ってみたいって気持ちはわかるし、わかったよ」
そして、長い時が経——
+++ +++
「という夢を見たんだ」
「あっ、そう……」
「なに。そのリアクションは」
「だってさ、なんか、夢の中の俺が俺っぽくなくて」
「ん?」
わたしは思わずクランクを見る。どういうことだろうと疑問を頭に浮かべ、彼女の続く言葉を待つ。
クランクは何かを少し迷ったあと、口を小さく動かした。
──たぶん、本当の俺ならお前を守れたことが嬉しくて笑ってるだろうから。
小声でそう言った彼女の声を、わたしはきちんと聞いていた。
濃密な夢が、わたしの心を深い悲しみに落としていたことに、クランクは気づいたのだろうか。
彼女に夢の内容を吐露することで、彼女を失う恐怖をどうにか抑え込んでいたことに気づいたのだろうか。
うん、気づいたに決まってる。
きっと気づいて、こんなガラでもないカッコつけをしてくれたんだ。
悲しみは薄れ、愛しさが胸に満ちる。凪いでいた心はうって変わって、あふれ出る喜びがさざなみを立てる。
何も言えなくなって、彼女のことをじっと見詰める。そっぽを向いた彼女の小さな耳が、果実のようにほんのり赤く色付いていくのを見て、わたしは我慢できずに抱きついたのだった。
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