# 上古漢語の子音体系Ⅱ(2):鼻音と唇音の末子音の再構・補足 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳(部分)である。 - Pulleyblank, Edwin G. (1962). The Consonantal System of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265. 鼻音と唇音の末子音の再構に係る部分と補足(pp. 228–239)のみを抜粋した。それ以外のページは、パートⅠ[(1)切韻体系の再構](/@YMLi/rJIytCsGT)、[(2)軟口蓋音と喉音の再構](/@YMLi/r1YL4JDV6)、[(3)歯音・側面音の再構](/@YMLi/SydgEgbKa)、[(4)歯擦音と唇音の再構・上古漢語音韻体系のまとめ](/@YMLi/rkb4b8_FT)、パートⅡ[(1)去声と上声の起源](/@YMLi/HyoFRGJc6)、[(2)鼻音と唇音の末子音の再構・補足](/@YMLi/S1x7mGPca)。 誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 Pulleyblankによる中古漢語・上古漢語の音形の表記には以下の修正を加えた。 - 切韻体系の再構音および中古漢語の音素は太字で表記する。 \ 上古漢語の再構音はアスタリスク形で表記する。 \ それ以外の音はイタリック体で表記する。 - 中古漢語の母音 **ɑ** は、表示環境によっては **a** と混同する可能性があるため、Karlgrenにならって **â** と表記する。 - 平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。 ::: ## 1. 鼻音の末子音 仄声に関する問題を別にすれば、鼻音の末子音に関する最も重要な問題は、末子音 \*-n の音価に関するものである。これは語中でも語末でも、初期には外国語の *n* だけでなく *r* にも用いられる。既に多くの例を引用してきた。注目すべきは、これが日本における初期の漢字の表音的用法の特徴でもあるという事実である。例えば、以下のような用法が見られる(Wenck 1954: II 21, 73, 111, 141, 257, 271 参照)。 - 雲 **ɦi̯uən¹** は *u-*, *una*, *une*, *uno* だけでなく *uru* に用いられる - 訓 **hi̯uən³** は *kuni* だけでなく *kuru* に用いられる - 讚 **tsân³** は *sanu*, *sana* だけでなく *sara* に用いられる - 駿 **tsi̯win³** は *suru* に用いられる - 篇 **phyen¹** は *heri* に用いられる - 萬 **mi̯wân³** は *ma-*, *mani* だけでなく *mara* に用いられる この現象を、特に \*-δ も存在していた時代に、外国語の *r* に正確に対応する音を持たなかったという理由だけで説明できるかは疑問である。さらに同等の可能性があるのが \*-t である。この音は、中国北部で摩擦音に弱化したと思われる唐代には、外国語の *-r* の通常の対応となった。しかし、*-r* に対する漢語 \*-t は、より早い時代にも散発的に見られる。初期にこの役割で \*-n が顕著に好まれたことを説明するには、漢代とその直後の数世紀に主流だった漢語方言における末子音 \*-n の発音に何らかの特殊性があり、単純な歯鼻音よりも *-r* に近いものだったと考える必要がありそうである。現代方言、特に長江流域の方言では、*l* と *n* が一つの音素として混同されている場合がある。実際の発音は、一種の鼻音化した側面音と表現され、他の地域の人々には *l* または *n* と解釈されやすい。 チベット語には、*-d*, *-n*, *-l*, *-r*, *-s* の5種類の歯音の末子音があり、そのうち *-d* は明らかに漢語の \*-t に、*-s* は去声の起源である \*-s に、*-l* はおそらく \*-δ に対応している。したがって、チベット語の *-n* と *-r* は両方とも漢語 \*-n とのみ対応することになる。シナ・チベット祖語の音素 \*-r は、シナ・チベット祖語の頭子音 *r-* と同様に音韻的には漢語 \*l に対応し、シナ・チベット祖語 \*-n と合流したと考えられる。しかし、少なくともいくつかの方言では、単純に \*-r (= \*-l) が \*-n に変化したのではなく、2つの音素が融合して、両方の特徴を持つ1つの音素になったと考えられる。 諧声系列・詩韻・転写の証拠では、\*-l 型単語(=チベット語の *-r* 型単語)と \*-n 型単語を別々に区別することはできないようだ。転写では両方に同じ文字が使われている。例えば、安敦 **ꞏân¹-tuən¹** = Anton(inus) に対して、安息 **ꞏân¹-si̯ək** = *Aršak*、敦煌 **tuən¹-ɦwâŋ¹** = ソグド語 *δruʾʾn**, ギリシャ語 Θρόανα *Thróana* がある。つまり、この2つの音素は早い時期に合流したに違いない。 漢代の \*-n が *r* や *l* の特徴を持っていたとすれば、それは外国語から漢語への転写だけでなく、漢語から外国語への転写にも反映されていると予想される。漢語からの借用、あるいは漢語名の転写は、その逆よりもはるかに少ない。しかし、漢語 \*-n の外国語 *-r* による転写と疑われるケースもいくつかある。漢語 \*-n が *-r-* となる日本の地名のほとんどは、おそらく音仮名(和語を表現するための漢字の表音的用法)によるものである。しかし、古くは *Kuruma* と読まれた群馬(**gi̯uən¹-ma²**)は、容易に漢語として解釈でき、実際に現代では日本漢字音による複合語として *Gumma* と読まれている。地方行政単位を表すさまざまな漢語(郡, 縣, 府, 州)の訳語として使われている朝鮮語 *kol* または *koŭl*、あるいはそれ以前の *kovŭl* は、郡 **gi̯uən³** に由来する初期の借用語かもしれない。この単語について親切にメモを送ってくれたW. E. Skillend博士が示唆するように、朝鮮語の古い綴りにおける語中 *-v-* は、漢語の原語における円唇化要素を表現する努力から生じたものかもしれない。日本語における 郡 の訓読み *kōri* (コホリ *ko-ho-ri* と綴られる)は、通常、この朝鮮語の単語に由来するものとされ、したがって最終的には **gi̯uən³** に由来することになる。 漢語 \*-n が外国語の *-r* で表されるという可能性は、西洋で知られていた中国人の最古の名称、ギリシャ語 Σῆρες *Sêres*, ラテン語 *Seres* の新しい解釈を示唆している。最も広く受け入れられている見解は、Klaproth(1826: 58)による、この単語は漢語の 絲 **si̯ə¹** 「絹糸」に由来するというものである。絹はギリシャ語 σηρικόν *sērikón* として知られており、そこからラテン語 *serica*, フランス語 *serge* などが生まれたという事実から、ある程度の信憑性を得ている。しかし、**si̯ə¹** は \*sə̄ɦ (< \*sīɦ) に遡り、歯音の末子音の痕跡を持たないため、この等式は音声的には満足のいくものではない。また漢代の \*ə は通常、外国語の *a* に相当するため、母音もうまく対応しない。さらに、Σῆρες *Sêres* から σηρικόν *sērikón* 「絹」が形容詞的に形成されたと考えるべきで、その逆ではない。もちろん逆方向もありえないことではないが、生地の名前が国名に由来する方がより自然なことのように思える。 中国のもう一つの古典的名称、Gk. Θῖναι *Thînai*, Lat. *Sinae* 等、さらには Skt. चीन *Cīna*, Eng. *China* も、王朝名 秦 **dzi̯in¹** < \*dzēn に由来するものに違いないことは、よく証明されている。先の Σῆρες *Sêres* も、外国人通訳者が末子音 \*-n を *-r* と聞き取ったことによって、同じ名前に由来する可能性が高いと思われる。ただし、漢語では頭子音 \*dz- が有声音であるのに対して、Θῖναι *Thînai*, *Sinae* には無声音の頭子音があることは、Σῆρες *Sêres* と同様に問題である。これは、==子音に清濁の対立がない== トカラ語を経由した伝達を意味しているのかもしれない。 σηρικόν *sērikón* 「絹」については、おそらくギリシャ語内における Σῆρες *Sêres* からの派生語ではなく、中央アジアの言語、おそらくトカラ語の「絹」を意味する単語(もちろん中国を意味する同様の単語が由来)をそのまま継承したものだろう(トカラ語における接尾辞 *-ik* の可能性については、Sieg et al. 1931: 13参照)。モンゴル語 *širkäg*, 満州語 *sirge* 「生糸、絹糸」, 朝鮮語 실 *sil* は、σηρικόν *sērikón* などに関連しているように見えるが、そこから派生したとは考えにくいことが以前から指摘されている。ペルシャ語 *säräh* 「白い絹の幅」, アラビア語 *saraq* 「絹、白い絹」, シリア語 *šéràyâ* 「絹」なども同じ単語に関連付けられる(最近ではPelliot 1959: 265–266を参照)。これまで気づかれなかったようだが、漢代に同じ単語が漢語に転写されている。『説文』には、縞 **kâu²** 「白絹、未染絹」の語釈に 鮮巵 **si̯en¹-ci̯e¹** < \*sɑ̄n-kēɦ という用語があり、縳 **ḍi̯en²** の語釈にも「白鮮巵」と記されている[^1]。『廣雅・釋器』 ==:bulb: 「䋷、繱、鮮支、縠,絹也。」== (『疏證』7B: 855)では同じ単語が、二文字目を同音の 支 とした表記で、「絹」の同義語として登場する。二音節形とその異表記から、漢語への借用語であることは明らかだ。しかし、なぜ中国人が「絹」の単語を借りなければならないのだろうか。それはきっと、中国にやってきた外国人商人の間で「絹」を意味する単語だったからに違いない。彼らにとっては「秦のもの」という意味であったが、中国人はその由来を知らず、外国語として受け取ったのである。 - 注:この 鮮支 という表現は『漢書・司馬相如傳上』57に登場し、顔師古はこれを「支子」または「梔子」の木、すなわち黄色い染料を与えるクチナシの木を意味すると解釈した。しかしこれは一文字目を考慮に入れていない。沈欽韓は 燕支 「紅花」と解釈したかったようである。これはあまり納得のいくものではないが、文脈からして何らかの染料や化粧品を意味しているように思われ、「生糸」は確かに合わないだろう。テキストが損壊している可能性がある。あるいは、「中国の」という形容詞が別の製品に使われている可能性がある。 --- 漢語 \*-n の特殊性は、貴霜 **ki̯wəi³-ṣiâŋ¹** = Kushan ([p. 128](/@YMLi/rkb4b8_FT#2-歯擦音のそり舌音化))や、ソグド語 *δruʾʾn*, ギリシャ語 Θρόανα *Throána* に対応する 敦煌 **tuən¹-ɦwâŋ¹** のように、外国語の *-n* を \*-ŋ で表記することがある理由を説明するのに役立つかもしれない。 さらに珍しい \*-ŋ の用法が 丁零 **teŋ¹-leŋ¹** < \*teŋ-leŋ に見られる。Sinor(1946–47)は反論しているものの、これは 狄歷 **dek-lek**, 勅勒 **ṭh̯iək-lək**, 特勒 **dək-lək**, 鐵勒 **thet-lək** という名前の初期の転写であることは間違いない。\*-ŋ を伴う初期の形は、紀元5世紀の中国南部で見られ、それは北部で \*-k を伴う形が見られるのと同時期である(Maenchen-Helfen 1939)。ウイグル人はこのグループから生まれたので、彼らはテュルク語を話していた可能性が高い。原語の形はおそらく \*Tïɣrïɣ のようなものだったのだろう(私の発言に基づくClauson 1960: 113参照)。漢語の \*-ŋ と \*-k は、外国語の \*-ɣ の代替表現と考えられる。中国北部における末子音 \*-k が弱化して摩擦音 \[-ɣ] になる傾向が、後の転写の採用を後押ししたのは間違いない。これは、唐代における漢語 **-k** によるサンスクリット語のヴィサルガ *-ḥ* の転写に反映されている(Maspero 1920: 41–44)。最も遅い 鐵勒 **thet-lək** という形は、外国語で *-r-* の前の *-ɣ-* が失われたことを示すか、あるいは漢語音節を **thet** ではなく \***thek** と読んだことに基づく可能性もある(Pulleyblank 1960: 64および前述 [p. 116](/@YMLi/SydgEgbKa#4-歯摩擦音) 参照)。 ## 2. 仄声における鼻音の末子音 鼻音の末子音を持つ単語に上声と去声があることから、\*-ŋꞏ, \*-nꞏ, \*-mꞏ と \*-ŋs, \*-ns, \*-ms を再構する必要がある。 去声に関しては、初期の転写に歯擦音が維持されている痕跡はなく、漢代にはすでに失われていたと考えて良いだろう。理論的な理由から、\*-ŋh, \*-nh, \*-mh という有気音形を仮定したい。これを顕著に裏付ける転写のひとつが、梵 **bi̯am³** < \*blɑ̄mh = Skt. ब्रह्मा *brahma-* である。これに反して、非常に多くの初期の転写の基礎となっているガンダーラ語プラークリットでは *braṃma* あるいは *brama* の形であり、*brahma* はその帯気性を失ったようである(Bailey 1946; Brough 1962: 99)。他のケースでは、外国語の原語が(後述する上声のように)鼻音+閉鎖音であった場合に、鼻音の末子音の去声が使用されるようである。例えば、 - 阿羅漢 **ꞏâ¹-lâ¹-han³** = Skt. अर्हन्त् *arhant* (ガンダーラ語版『法句経』では Skt. *arhantaṃ* を *arahada* としており、Brough 1962: 98はこの *-d-* を \[ṃd] と解釈している。==:bulb: Baums 2009: 158–160も参照。==) - 信他 **si̯in³-thâ¹** = Skt. सिन्धु *Sindhu* ==:bulb: Gd. *sidha*== (『彌蘭王問経』、Pelliot 1914: 409) カローシュティー文献では、サンスクリット語 *-ndh-* に対応する特別な文字 *n̄* が見られ、Broughはこれを \[-nnh-] と解釈している。これでは、漢語転写における明確な閉鎖音である無声有気音 **th-** の使用が説明されていない。しかし、漢語の有声音+無声有気音の組み合わせでインド語の有声有気音を表現する場合もある。例えば、竺法護によるT.222『光讚經』におけるアラパチャナ文字の転写 陀呵 **dâ¹-hâ¹** = *dha* がある(同じ文字に対する、漢語の無声閉鎖音+有声有気音による代替表記については、前述 [p. 87](/@YMLi/r1YL4JDV6#1-上古漢語における頭子音-g--と-ɦ-) 参照)。 烏暫婆利 **ꞏou¹-dzâm³-bâ¹-li̯i³** = Skt. उदुम्बरिका *Udumbarikā* (『長阿含經』T.1: 0047a19)。Brough(1962: 86)は、語中 *-d-* が摩擦音 *-δ-* になる傾向について言及している。ここでは、破擦音の中間段階 *-dδ-* があるのかもしれない。現在のところ、並行する例を引用することはできない。Brough(1962: 99)によれば、*-mb-* はガンダーラ語 \[-mm-] を与えるはずである。 羼提 **tṣhan³** (**tṣhan²**) **-dei¹** = Skt. क्षान्ति *kṣānti*, ガンダーラ語版『法句経』 *kṣadi* (上記の *arhant* と比較されたい)。 烏遲散 **ꞏou¹-ḍi̯i³-sân³** (**sân²**), 澤散 **ḍak**-**sân³** (**sân²**) = Alexandria でも同様に、去声と上声の間の曖昧さがある(Hirth 1885: 182参照)。ここでもまた、仄声の単語の使用は、鼻音+有声閉鎖音の存在と関連しているように思われる。 震越 **ci̯in³-ɦi̯wâd** = Skt. चीवर *cīvara* では、漢語の語中 \*nh-ɦw- は、おそらくプラークリットの鼻音化 *-ṽ-* を表している。Burrow(1936: 427; 1937 §50)を参照されたい。Burrowによるカローシュティー文字 *cimara* とサンスクリット語 *cīvara* の同定をBrough(1962: 88)が否定したのは正当ではないようだ。*cīvara* は本来「ぼろ布」を意味するが、後に僧侶の豪華な衣服にも使われるようになった。Przyluski(1918–19)を参照(この情報を提供してくれたHarold Bailey教授に感謝する)。このことは、\*-nh が、完全な鼻音とは対照的に、外国語の鼻音化を表現するために使われることがあったことを示唆している。 上声は、外国語の先行鼻音を持たない有声閉鎖音(摩擦音?)を表すと思われるケースで見られることもある。 - 波利産 **pâ¹-li̯i³-ṣaən²** = Skt. (ब्रह्म)पारिषद्य (*Brahma-*)*pāriṣadya* - 奄蔡 **ꞏi̯em²-tshâi³** < \*ꞏɑ̄mꞏ-tshɑts および異表記 闔蘇 **ɦâp¹-sou¹** < \*ɦɑp-sɑɦ = Gk. Ἄορσοι *Áorsoi*, Lat. *Abzoae* (前述) 一方、呵盡 **hâ¹-tsi̯in²** (or **-dzi̯in²**) = Skt. हस्तिन् *hastin* における声門化鼻音には、特別な音価を想定することは難しい。 初期の末子音 **-m** と **-n** の仄声音節を用いた転写の意図については証拠が乏しく不確かであるが、鼻音の発音に何か特徴があったことを示すには十分であり、理論的根拠に基づいて要求される再構と矛盾するようには思われない。 **-ŋ** の仄声を用いた転写の例を見つけるのは難しいが、並行例から、\*-ꞏ と \*-ŋ < \*-ŋs の再構は自信を持って採用できる。 上声における **-ŋ** の分布には制限があることには注意しなければならない。『広韻』には 東(董)3韻 **-i̯uŋ²** や冬(腫1)韻 **-oŋ²** の単語はない。上古漢語の観点からすると、これは末子音 \*-ŋ +声門閉鎖音という組み合わせが、後舌狭母音 \*ū̆ の後には生じなかったことを意味する。また、登(等)韻 **-əŋ²**, 蒸(拯)韻 **-i̯əŋ²** < \*-ī̆ŋꞏ の単語もほとんど存在しない。蒸(拯)韻 **-i̯əŋ²** の一般的な単語は 拯 **ci̯əŋ²** だけである。登(等)韻 **-əŋ²** には 等 **təŋ²** があるが、これは **təi²** とも読まれ、また 肯 **khəŋ²** はいくつかの現代方言(例えば北京語 *kěn*)で \***khən²** を意味する形の読みを持っている。これは、狭母音が先行する場合、そうでない場合よりも、軟口蓋鼻音の後の声門化を維持するのが難しいことを示唆しているようだ。音声的な説明がどうであれ、このパターンは一貫しており、母音 **ə**/**i̯ə** < \*ī̆ と **o**/**i̯u** < \*ū̆ が、(狭母音と仮定できる)共通の特徴を持っていたことを裏付けている。 ## 3. \*-ŋ と \*-ɦ または \*-ꞏ の交替 上記で言及した 等 **təŋ²**, **təi²** のような同じ単語の又音はこれに限ったものではない。能 **nəŋ¹** も同様に **nəi¹** とも読まれ、『詩経』では \*-iɦ として韻を踏んでいる。態 **thəi³** < \*nhiɦs と比較されたい。 \*-ŋ と \*-ɦ または \*-ꞏ の二重語は、母音 \*ā̆ で特に一般的である。 :spiral_note_pad: **表1: 同源と思われる \*-ā̆ŋ の単語と \*-ā̆ɦ/\*-ā̆ꞏ の単語** | \*-ŋ | \*-ɦ/\*-ꞏ | | :------------------------------------------------------ | :------------------------------------------------------------------------ | | 亡 **mi̯âŋ¹** < \*mɑ̄ŋ 「失う、ない」 | 無 **mi̯ou¹** < \*mɑ̄ɦ 「ない」 | | 娘 **ṇi̯âŋ¹** 「若い女性(古典期以降)」 | 女 **ṇi̯o**² < \*nlɑ̄ꞏ 「女性」 | | 相 **si̯âŋ¹** 「互いに」, **si̯âŋ³** 「検査する」 | 胥 **si̯o¹**, 「検査する」 | | 方 **pi̯âŋ¹** 「たった今」 | 甫 **pi̯ou²** 「初めて」 | | 刱創 **tṣhi̯âŋ³** 「始める、作る」 | 初 **tṣhi̯o¹** 「始める」 | | 將 **tsi̯âŋ¹** 「今まさに」 | 且 **tsi̯o¹**, **tshi̯a²** 「今まさに」 | | 往 **ɦi̯wâŋ²** 「行く」 | 于 **ɦi̯ou¹** < \*ɦwɑ̄ɦ 「行く、~へ」 | | 汪 **ꞏwâŋ¹** 「池」 | 汙洿 **ꞏou¹** < \*ꞏwɑɦ 「池」 | | 卬 **ŋâŋ¹** | 吾 **ŋou¹** 「私」 | | 揚 **yâŋ¹** 「持ち上げる、称賛する」 | 舁 **yo²** 「持ち上げる」, 輿 **yo²** 「与える」, 譽 **yo¹** 「称賛する」 | | 庠 **zi̯âŋ¹** 「学校」 | 序 **zi̯o²** 「学校」 | | 迎 **ŋi̯âŋ¹** 「会う」, **ŋi̯aŋ³** 「出迎える、受け取る」 | 迓 **ŋa³** 「出迎える」 | 象 **zi̯âŋ¹** 「象」 : 豫 **yo³** 「象」とも比較されたい。 この現象を説明する最も有力な方法は、方言混合だと思われるが、そのような仮説が実証されるまでには、さらに調査が必要だろう。 ## 4. 唇音の末子音 諧声系列における唇音の末子音と母音との交替にはここまで触れてこなかった。最も明白なケースとして、去声の **-i** の二重母音が **-t** ではなく **-p** と交替して韻を踏んでいる単語は非常に多く見られる。このような場合、かつての \*-ps がまず同化によって \*-ts になり、その後 \*-ts として規則的な発展をたどったと考えることができる。 - 位 **ɦi̯wi³** < \*ɦwlīts < \*ɦwlə̄ps 「位置、階級」 : 立 **li̯ip** < \*ɦlə̄p < \*ɦwlə̄p 「立つ」 \ これは、接尾辞 \*-s によって動詞から派生する名詞の規則的なケースである。動詞の場合、唇音の末子音との異化によって頭子音の \*w が失われ、クラスター \*ɦl- は規則的に來母 **l-** に単純化された。名詞の場合、唇音の末子音が失われたため、異化は起こらなかった。前述 [pp. 122–3](/@YMLi/SydgEgbKa#9--l--クラスター) 参照。涖 **li̯i³** < \*lə̄ps (or \*vlə̄ps (?)) とも比較されたい。 - 計 **kei³** < \*kets < \*keps : 十 **ji̯ip** < \*gēp (前述 [p. 100](/@YMLi/r1YL4JDV6#9-軟口蓋音と喉音の口蓋化:介音--i̯--y--の起源) 参照) - 内 **nwəi³** < \*nuts < \*nups 「内側」 : 内納 **nəp** < \*nup 「入れる」; cf. 入 **ńi̯ip** < \*nə̄p < \*nūp 「入る」(チベット語 ནུབ་པ་ *nub-pa* 「入る」と比較) - 荔 **lei³** < \*ɦleps : 劦 **ɦep** - 蓋 **kâi³** < \*kɑps 「覆い」 : 蓋 MC **ɦâp** < \*gɑp 「覆う」 - 瘞 **ꞏi̯ei³** < \*ꞏlēps, 瘱 **ꞏei³** < \*ꞏeps : 夾 **kaap** < \*klep - 對 **twəi³** < \*tuts < \*tups 「応答、適切な」 : 答 **təp** < \*tup 「答える」 - 世 **śi̯ei³** < \*θɑ̄ps (-e̯ɑ̄ps?) 「世代」 : 葉 **yep** < \*δɑ̄p (-e̯ɑ̄p?) 「葉、世代」 - 自 **dzi̯i³** < \*sbδīts < \*sbδə̄ps : 習 **zi̯ip** < \*sδə̄p; \ cf. 洎 **gi̯i³** < \*glāps 「~と、共に」 : 及 **gi̯ip** < \*glə̄p 「及ぶ、~と」 \ 関連語には他に 暨 **ki̯i³** 「~と」がある。しかし、これは固有名詞として **ki̯it** < \*klīt という読みもあり、すでに \*klīts に変化した後に「~と」に適用された可能性もある。また、\*gl- の代わりに \*gδ- を用いた次のグループとも関連する可能性がある。==:bulb: 古文字の形状からして 自 ~ 習 の諧声関係は成り立たない。== - 隶 **dəi³** (also dei³) < \*δəps < \*gδəps (?), **yi³** < \*δə̄ps (< \*gδ-) 「及ぶ、到達、~まで」 : 眔 **dəp** < \*δəp < \*gδəp (?) 「比較する、共に、~と」 \ 軟口蓋音との接触は、諧声系列における 鰥 **kwaən¹**, 褱 **ɦwaəi¹** に見られるが、これらの単語における母音と末子音の再構は難しい(後述)。==:bulb: 眔 ~ 鰥褱 の諧声関係は疑わしい。== 我々の理論によれば、\*gδ- は後舌母音の前で \*δ- に簡略化されるはずであり、同じことが中舌母音 \*ə̄̆ の前でも起こったと考えられる(前述 [p.118](/@YMLi/SydgEgbKa#6-δ--θ--クラスター) 参照)。「~と」を意味する単語と 合 **ɦəp** < \*gəp 「結合する」との関連も考えられる。 - 摯 **ci̯i³** < \*tə̄ts < \*tə̄ps 「持つ、送る」 : 執 **ci̯ip** < \*tə̄p 「つかむ、持つ」 \ Dong(1948)は、標準的な文字の形や現存版『説文』の記述に反して古文字の声符は 埶 **ŋyei³**, **śi̯ei³** であると考え、Karlgrenによるこの2語の接続を否定している。確かに『説文』の版によっては ⟨摯⟩ の声符が ⟨執⟩ であるとは書かれておらず、段玉裁はこの文字を会意構造とみなしたが、徐階の『説文解字繫傳』には ⟨執⟩ が声符であると記されている。さらに、これらの単語は語源的にも明らかに関連している。 少なくともある主要な方言では、『詩経』の押韻に \*-ps の痕跡が見られないため、\*-ps > \*-ts の同化はかなり早い時期に起こったに違いない。同じ系列に **-t** の単語がある場合は、\*-ts の単語が \*-t の声符として使われている可能性がある。例えば ⟨内⟩ の系列には **nəp** の他に 訥 **nuət** がある。 :::warning :bulb: **補足** \*-ps > \*-ts は現在では広く認められている。その他の証拠はBaxter(1992: 309–311, 349–351, 565–566)、Zhang(2019)参照。 ::: 全ての開音節と唇音の間の諧声接触に \*-ps > \*-ts を仮定できるわけではない。例えば、以下のようなものがある。 - 那 **nâ¹** : 冉 **ńiem¹** - 褱 **ɦwaəi¹** : 眔 **dəp** (前述) - 爾 **ńi̯e²** : 籋 **nep**, **ṇi̯ep** \ 異体字の 尒 は 入 **ńi̯ip** を声符としている可能性がある。==:bulb: この推測は誤りである。⟨尒⟩ は ⟨爾⟩ の下部を省略した形に由来する。== - 去 **khi̯o²**, **khi̯o³** : 蓋 **ɦâp** \ ==:bulb: Qiu(1979; 1988b: 13–14)以来、一般にこの諧声関係は異なる起源の書記素の形状的収束による偽りのものとされている。== - 纔 **dzəi¹**, **ṣaəm¹** : 毚 **dẓaəm¹** \ ==:bulb: おそらく 纔 **dzəi¹** という単語は 暫 **dzâm²** の同源語で、もともと \*-m を持っていたが、音声的に類似する同義語 才 **dzəi¹** との混交によって異なる韻へと不規則的な変化を経たと思われる。Qiu(1988a: 263)参照。== - 九 **ki̯u²**, 厹 **ńi̯u²** < \*ne̯ūꞏ : 染 **ńi̯em²** \ ==:bulb: 古文字の形状からしてこれらの諧声関係は成り立たない。== - 慘 **tshâu³** (= 慒), **tshəm²**, 犙 **si̯u¹**, **səm¹** : 參 **tshem¹** など \ ==:bulb: 『新撰字鏡』では 犙 に山函反(= **səm¹**)という読みのみが与えられている。韻書に見られるこの文字の **si̯u¹** という読みは「山函反」を「山幽反」と誤記したことに由来する架空の読みである。Yang(2018: 233–4)参照。== - 冘 **yu¹** : 冘 **yim¹** \ ==:bulb: この2つの ⟨冘⟩ は同形異字と思われる。== - 焦 **tsi̯eu¹** (=𤓬) : 雥 **dzəp**, 集 **dzi̯ip** \ ==:bulb: 現在、この諧声関係は一般に認められていない。Zhou(2014)参照。== - 𩂢 **ŋaəi¹**, **ŋi̯im¹** : 乑 **ŋi̯im¹**; cf. 閦 **tṣhi̯uk** < \*-p (?) (前述 [p. 129](/@YMLi/rkb4b8_FT#2-歯擦音のそり舌音化) 参照) - 古 **kou²** は『説文』によれば 敢 **kâm²** の声符である。 \ ==:bulb: 古文字の形状からしてこの諧声関係は成り立たない。== - 于 **ɦi̯ou¹** < \*ɦwɑ̄ɦ : 㶣 **dâm¹** < \*δɑm < \*vδɑm (?), **ḍi̯em¹** < \*δlɑ̄m < \*vlɑ̄m (?), 覝 **li̯em¹** < \*ɦlɑ̄m < \*ɦwlɑ̄m (?) \ 現存版『説文』は 干 **kân¹** を声符としている。ただし後述 p. 236 参照。 これらに対する \*-δ と \*-ɦ の再構に沿った解決策は、弱化した唇音の末子音 \*-v を再構することであろう。これを支持する詩韻の証拠はなく、\*-v は『詩経』の本文が成立する以前に既に失われていた(一部は \*-δ に、一部は \*-ɦ に推移した)と考えるべきだろう。一方、上記の全てではないものの多くのケースは、\*-ū̆- が単独で、あるいは \*-ɑ̄̆u, \*-e̯ū̆, \*-e̯ɑ̄̆u と共に、\*-m または \*-p と交替することがあると仮定することで解決できるかもしれない。これとは別に、唇音には頭子音と末子音の両方で異化(および同化)によって広範囲に影響を受けたという証拠がたくさんある。この理論が解明されれば、追加音素を仮定する必要がないことがわかるかもしれない。 ## 5. 異化による唇音の消失 Karlgrenはかなり前に、末子音 \*-m が同音節内の先行する唇音要素との異化によって \*-ŋ になることがあることを指摘した。その最も明確な例が 風 **pi̯uŋ¹** 「風」という単語で、その文字に声符 凡 **bi̯am¹** が含まれるだけでなく、『詩経』では \*-m として韻を踏んでおり、また間違いなくタイ語 ลม *lom* 「風」に関連している。漢代の詩においても \*-m として韻を踏むことがあり、ある方言では \*-ŋ に推移していたが、他の方言ではまだ推移していなかったことがわかる。『釈名』では \*-m と \*-ŋ の2つの音注が与えられており、この2つの発音はそれぞれ異なる地域と関連付けられている(Bodman 1954: 119; Luo and Zhou 1958: 112)。Karlgrenは『*Grammata Serica*』においてこの再構の原理を 窆 **pi̯em³**, **pəŋ³** と 熊 **ɦi̯uŋ¹** (明記されていないが、これは明らかに、『説文』が 炎 **ɦi̯em¹** を声符とみなしていることに基づく)に拡張しているが、それ以外ではほとんど用いられていない。董同龢はより保守的で、Karlgrenによる 熊 **ɦi̯uŋ¹** の再構を否定している。一方で陸志韋は、『詩経』の特定の韻部で \*-m と \*-ŋ との押韻がかなり一般的であることに注目し、これは方言の特徴であると考え、後の **-ŋ** 単語に対して非常に広範に \*-m を再構した ==(Lu 1947: 208–221)==。 韻の証拠だけでは明確ではないかもしれないが、異化や同化による唇音要素の消失が、これまで考えられてきたよりもはるかに広範囲に及んでいたことは明らかである。近年Forrest(1961)がこの線に沿って議論を展開したが、彼が利用できる上古漢語再構の不十分さによって、その提案の多くが非常に疑わしいものとなっている。同音節内の唇音要素に対する不寛容性は、ある時は頭子音、またある時は末子音に影響を及ぼしており、また母音体系もさまざまな形で影響を受けているため、初期の段階について正確で確信の持てる結論を出すのは困難である。したがって以下では、完全な体系を示すことは避け、唇音の消失を示すと思われるい諧声関係をいくつか指摘するにとどめる。 以下の例は、主に唇音の末子音と歯音または軟口蓋音の末子音との間の交替を示している。 - 夅 **ɦauŋ¹** < \*gluŋ < \*glum (?) : 贛 **kəm²**, **kəm³** < \*kumꞏ, \*kums (?) \ ==:bulb: 古文字の形状からしてこの諧声関係は成り立たない。== - 肜 **yuŋ¹** < \*δūŋ < \*δūm (?), 彤 **doŋ¹** < \*δuŋ < \*δum (?), 彡 **ṣam¹** < \*shom (\*shum ?), 𢒫 **zi̯im¹** < \*sδə̄m < \*sδūm (?) \ ==:bulb: 現在、肜 ~ 彤 を除いてこれらの諧声関係は一般に認められていない。== - 昱 **yuk** < \*δūk < \*ɦwδə̄p (?), 翊 **yək** < \*δīk < \*vδə̄p (?), 立 **li̯ip** < \*ɦwlə̄p (前述 p. 233 参照) - 興 **ɦi̯əŋ¹** の古文字字形は 凡 **bi̯am¹** < \*blɑ̄m < \*blōm (?) が声符であることを示唆しており(Karlgren 1957: #889)、また周・漢代には **-m** との押韻が頻繁に見られる。このことは \*fə̄m (< \*fūm (?))の再構を支持している。==:bulb: 現在、この諧声関係は一般に認められていない。== - 凭 **bi̯əŋ¹** < \*bə̄m (?) : 任 **ńi̯im¹** < \*nə̄m \ 後者の単語はかつての \*mə̄m に遡る可能性があり、末子音ではなく頭子音の異化を伴う。日本語で *Mimana* と呼ばれる韓国の国家名には、任那 **ńi̯im¹-nâ¹** という表記が使われている。==:bulb: 現在、この諧声関係は一般に認められていない。== - 息 **si̯ək** < \*sθīk (あるいは唇音の頭子音を伴う \*sfδ- (?), (or \*fδ- > \*sθ-?), 前述 [p. 135](/@YMLi/rkb4b8_FT#6-唇閉鎖音) 参照) : 習 **zi̯ip** < \*sδə̄p. \ ==:bulb: 古文字の形状からしてこの諧声関係は成り立たない。== - 嗇 **ṣi̯ək** : 濇 **ṣi̯ip**, **ṣi̯ək** - 从 **dzi̯oŋ¹** < \*dzōŋ は 㦰 **tsi̯em¹** < \*tsōm (?), 韱 **si̯em¹** の声符となっているようである。坐 **dzwâ²**, **dzwâ³** < \*dzoδꞏ, \*dzoδs の声符の可能性もある。 \ ==:bulb: 現在、これらの諧声関係は一般に認められていない。== - 兇 **hi̯oŋ¹**; 㚇 **tsuŋ¹** : 鍐 **mi̯âm¹** (前述 [p. 138](/@YMLi/rkb4b8_FT#8-唇摩擦音) 参照) \ ==:bulb: 現在、これらの諧声関係は一般に認められていない。== - 舌 **źi̯et** < \*δɑ̄t < \*vδɑ̄p (or \*vδe̯ɑ̄p) (?) 「舌」 : 恬 **dem¹** < \*(v)δe̯ɑm \ 『説文』によれば 干 **kân¹** が声符である。これは代わりに 于 **ɦi̯ou¹** < \*ɦwɑ̄ɦ と読まなければ理解しがたく、後者は 㶣 **dâm¹** < \*vδɑm (?) の声符である。頭子音クラスターについては、夸 **khwa¹** < \*khwlaɦ などを比較することができる。チベット語の ལྕེ་ *lče* や ལྗགས་ *lǰags* は頭子音にも末子音にも唇音を持たず、Benedict(1948)はチベット・ビルマ祖語 \*s-lay 「舌」を提唱しているが、アンガミ語 *melü*, ツェメ語 *balē*, ネワール語 *mē*, カムブ語 *lem* のような形があることに注意すべきである。==:bulb: ⟨舌⟩ は他の文字から独立した象形文字であり、何らかの声符を持つということはない。Chen(2014)によれば、⟨恬⟩ の声符は 舌 **źi̯et** 「舌」ではなく 𦧥 **thəm¹** 「舌」という単語に由来する音価を持つ。== - 彬 **pi̯in¹** < \*plīn : 林 **li̯im¹** \ これは単なる異化ではなく、前舌母音の後で \*-m が **-n** に同化する散発的なケースである。==:bulb: 『説文』は ⟨彬⟩ の声符を 焚 **bi̯uən** の略体と記している。== 以下のケースでは、異化の明らかな原因はなく、同種の同化が最良の仮説と思われる。 - 顯 **hen²** : 㬎 **ŋəp**, 䜙 **ŋəm¹**, 濕 **śi̯ip** など \ ==:bulb: 古文字の形状からしてこの諧声関係は成り立たない。== - 天 **then¹** : 忝 **them²** \ この系列は頭子音 \*nh- として再構できるかもしれない。その場合 天 \*nhem 「天」は、チベット語 གནམ་ *gnam* 「天、空」などのチベット・ビルマ諸語の同源語と比較することができる。 - 矜 **gi̯in¹**, **ki̯əŋ¹** (\*-m と韻を踏む) : 今 **ki̯im¹** \ ==:bulb: 段玉裁が改めているように、⟨矜⟩ は ⟨矝⟩ の訛変形で、その声符は 今 **ki̯im¹** ではなく 令 **li̯eŋ¹** である。Baxter and Sagart(2014: 237–8)、Zhao(2014: 400–1)も参照。== - 朕 **ḍi̯in²** 「縫い目」, **ḍi̯im²** 「私」 \ この文字の声符は 灷 **yəŋ³** で、諧声関係を持つ 媵 **yəŋ²**, 勝 **śi̯əŋ¹** などにも **-ŋ** がある。この例と上の例では、ある段階で母音が円唇化したか、あるいは痕跡を残していない頭子音の唇音要素があったと仮定しない限り、\*-m が \*-ŋ に異化される明白な理由ははない。 :::warning :bulb: **補足** 今日の見解では、唇音異化とは別に、特定の詩経韻部・特定の方言で頭子音に関係なく末子音が \*-m > \*-ŋ の変化を経たとされる(Bexter 1992: 548ff.; Baxter and Sagart 2014: 306–7)。特にSagart(2021)を参照。 ::: 上記のような末子音に影響する場合とは別に、頭子音から \*-w- が失われた、あるいは唇摩擦音の頭子音が唇音の末子音の影響を受けて歯音になったと考えなければならない場合があることはすでに述べた(前述 [pp. 105](/@YMLi/r1YL4JDV6#10-ɦw--gt-yw-), [140](/@YMLi/rkb4b8_FT#8-唇摩擦音) 参照)。もし 任 **ńi̯im¹** が本当に \*mīm に由来するとすれば(前述)、同じような状況で歯(> 硬口蓋)鼻音が唇鼻音に置き換わるケースである。私は今では、このようなケースは、前稿で(摩擦音は別として)唇音の頭子音は一般的に中古漢語までそのまま維持されてきたと述べたときに考えていたよりも、はるかに多いのではないかと思うようになった。唇音は、単に唇音の末子音がある場合だけでなく、円唇母音と接触している場合にも、歯音(場合によっては軟口蓋音)に置き換えられることがあったようである。その場合、丑 **ṭhi̯u²** は、諧声系列の 粈 **ńi̯u²**, 紐 **ṇi̯u²** などをもとに \*nhlū と再構したが、実際にはタイ語形が暗示するように \*flūꞏ ~ \*phlūꞏ に由来するのかもしれない(前述 [p. 121](/@YMLi/SydgEgbKa#7-歯鼻音) 参照)。したがって 紐 **ṇi̯u²** < \***ṣṇi̯u²** は \*smlūꞏ に、粈 **ńi̯u²** は \*mūꞏ に遡るだろう。 これは 柔 **ńi̯u¹** < \*nūɦ : 矛 **mi̯u¹** も説明するかもしれない。しかし 柔 **ńi̯u¹** 「柔らかい」は明らかに、もとから \*n- を持っていたに違いない。耎 **ńi̯wen¹** 「柔らかい」, 懦 **ńi̯ou¹** 「弱い、柔らかい」といった単語と関連しているように思われる。==:bulb: ⟨柔⟩ は他の文字から独立した象形文字であり、矛 **mi̯u¹** との諧声関係は偽りのものである。Liu(2021)参照。== そのほか以下のようなケースで、唇音の頭子音が歯音に推移した可能性がある。 - 婦 **bi̯u²** 「妻」 : 帚 **ci̯u²** < \*tūꞏ/\*te̯ūꞏ < \*pūꞏ/\*pe̯ūꞏ (?) 「ほうき」 \ 同じ系列に 掃 **sâu²**, **sâu³** < \*sf- (?) 「掃く」がある。チベット語 *phyag-ma* 「ほうき」と比較されたい。==:bulb: 掃 との諧声関係は疑わしい。== - 廟 **mi̯eu³** < \*mlɑ̄uɦs : 朝 **ṭi̯eu¹** < \*tlɑ̄uɦ < \*pl- (?) 「朝」 \ 間違いなく同源語である 晝 **ṭiu³** 「昼間」と比較されたい。この文字は 聿 **ywit** < \*vδūt (or \*vūt) を声符としているようである。==:bulb: 晝 ~ 聿 の諧声関係は疑わしい。晝 **ṭiu³** はチベット語 གདུགས་ *gdugs* と比較可能で、朝 **ṭi̯eu¹** との同源関係も疑わしい。== - 般 **pan¹** < \*plɑn < \*plon, **pân¹** < \*pδon (?) : 殳 **ji̯ou¹** < \*dōɦ < \*bōɦ (?) \ 同じ声符は 又 を欠いた形で 鳧 **bi̯ou¹**, 几 **ji̯ou¹** に見られる。==:bulb: 古文字の形状からしてこれらの諧声関係は成り立たない。== - 表 **pi̯eu²** < \*plɑ̄uꞏ : 土 **dou²**, **thou²** < \*δaꞏ, \*θaꞏ \ 『切韻』には **bya²** という変則的な読みも与えられている。『説文』では 表 **pi̯eu²** に 毛 **mâu¹** を声符に持つ別の字形が与えられている。一方で、『説文』は 土 を 牡 **mu¹** の声符と見なしている。この諧声関係による \*pl- クラスターは、単純に \*-u の二重母音による異化 \*v-, \*f- を仮定するのではなく、土 の原始的な読みとして \*vδɑuꞏ, \*fδɑuꞏ を再構する必要があることを示唆している。これと並列する上古漢語 \*-ɑuɦ > \*-ɑɦ の例として 奴 **nou¹** < \*nɑɦ 「子供、扶養家族」があり、これは 呶 **ṇau¹** < \*nlɑuɦ の声符であり、間違いなくチベット語 ནུ་བོ་ *nu-bo* 「弟」, ルシャイ語 *nao*, カチン語 *nau* 「弟妹」と同源語である(Shafer 1940: 331参照)。==:bulb: 古文字の形状からして、表 ~ 土 や 土 ~ 牡 の諧声関係は成り立たない。== 同じような例をさらにいくつも挙げることができ、その中には広範な意味を持つものもあるが、関係する音変化がさらに解明され、比較証拠からさらに確証が得られるまで、この問題を追求するのは得策ではないように思われる。 ## パートⅠに関する補足 唇音の頭子音と末子音の完全な再構はおそらく、上古漢語の体系を完全に満足のいく形で提示できるまでに残された、最大の課題であると思われる。また、私が確立したもの以外にも、他のタイプの頭子音クラスターが存在した可能性がある。特に、声門化鼻音の頭子音が存在した可能性が高いと思われる(cf. Forrest 1961: 120)。 - 垔 **ꞏyin¹** < \*ꞏn- (?) : 西 **sei¹** < \*snh- (前述 p. 132 参照) - 憂 **ꞏi̯u¹** : 擾 **ńi̯eu²** :::warning :bulb: **補足** 古文字の形状からして、このどちらの諧声関係も成り立たない。⟨擾⟩ の声符は 夒 **naw¹** である。 ::: --- なお、このパートⅡでは \*-eu, \*-ēū, \*-eɑu, \*-ēɑ̄u, \*-eɑ, \*-eɑ̄ の表記を \*-e̯u, \*-e̯ū, \*-e̯ɑu, \*-e̯ɑ̄u, \*-e̯ɑ, \*-e̯ɑ̄ に修正した。私は今、これらは本当の二重母音ではなく、この \*e̯ はシナ・チベット祖語 \*y と同源だと考えている。現時点で私が提示できる最良の例は以下である。 - 八 **paət** < \*ple̯ɑt 「8」 : チベット語 བརྒྱད་ *brgyad* < \*bryad; \ cf. 罷 **bae¹** < \*ble̯ɑδ 「疲れる」 : チベット語 བརྒྱལ་ *brgyal*, レプチャ語 *pyal* (前述 [p. 215](/@YMLi/HyoFRGJc6#2-平声の単語における失われた歯音の末子音) 参照)。 チベット語の連音現象としての挿入子音 *-g-* についてはLi(1959: 59)を参照されたい。==この \*-e̯- を== 漢語で \*-y- と表記すると、中古漢語の **-i̯-**/**-y-** と混同される危険性があるが、それらは部分的かつ間接的な関係でしかない。最終的には、これまで上古漢語と大雑把に呼んできたものは、少なくとも2つの主要な段階を区別する必要があるだろう。すなわち、(1)前漢代の中国語、(2)文字の分析を通じて到達できる中国語の最も古い形式(おそらく紀元前2千年紀の終わり頃)である。 もし漢語 \*e̯ がチベット・ビルマ祖語 \*y と同源であれば、\*ū̆, \*ɑ̄̆, \*ɑ̄̆u 以外の母音の前でも見られるはずである。実際、\*ō の前にはそのような証拠があるようだ。 - 樞 **chi̯ou¹** < \*khe̯ōɦ (?) : 區 **ꞏu¹**, **khi̯ou¹**, **khyiu¹** 前舌母音 \*ī̆, \*ē̆ の前に存在したという明確な証拠は今のところ見つかっていない。おそらく中和されたのだろう。 また、\*-e̯- = \*y が歯音の末子音を伴う \*ū̆ と \*ō̆ の前にあることも予想される。このことは、次のような 諧声関係を説明する一つの方法となるかもしれない。 - 出 **chi̯wit** **chi̯wi³** < \*khe̯ūt, \*khe̯ūts (?) : 屈 **khi̯uət**, **gi̯uət** < \*khūt, \*gūt この系列では、咄 **tuət** のように歯閉鎖音の頭子音を持つ単語も見られる。これらは、**keu¹** < \*ke̯uɦ, **ken¹** < \*ke̯ɑn などのように母音のウムラウトを引き起こすのではなく、この場合、半母音が失われても短母音 \*u > \*wə は影響を受けなかったが、頭子音は \*k から \*t に前進したと考えれば説明できる。同様に、黜 **ṭhi̯wit** は中間段階の頭子音 \*thl- を経由して \*khle̯ūt に遡る。以下のケースも同様に説明することができる。 - 涒 **thuən¹** < \*khe̯un (?) : 君 **ki̯uən¹** < \*kūn - 𠂤 **twəi¹** < \*ke̯uδ (?) : 歸 **ki̯wəi¹** < \*kūδ \ ==:bulb: 現在、この諧声関係は一般に認められていない。== - 貙 **ṭhi̯ou¹** < \*khle̯ō̆ɦ (前述の系列を参照) - 貪 **thəm¹** < \*khe̯um (?) : 今 **ki̯im¹** < \*kə̄m \ ==:bulb: おそらく 貪 **thəm¹** という単語は 欿 **ɦəm²** の同源語で、もともと軟口蓋音の頭子音を持っていたが、音声的に類似する同義語 婪 **ləm¹** との混交によって不規則的な変化を経たものと思われる。== - 湛 **təm¹** < \*ke̯um (?), 椹 **ṭi̯im¹** < \*kle̯ūm, 堪 **khəm¹** < \*khəm, 斟 **ci̯im¹** < \*khe̯ūm \ ==:bulb: おそらく 堪 **khəm¹** という単語は 抌 **təm²** の同源語で、もともと歯音の頭子音を持っていたが、音声的に類似する同義語 𢦟 **khəm¹** との混交によって不規則的な変化を経たものと思われる。したがってこの諧声系列に \*k- を再構する必要はない。== - 答 **təp** < \*ke̯up : 合 **ɦəp** < \*gəp ただし、他の解決策も可能だろう。 ## 参考文献 - Bailey, H.W. 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