# 上古漢語の単語形成 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳である。 - Baxter, William H.; Sagart, Laurent. (1998). Word formation in Old Chinese. In: Packard, Jerome L. (ed.). *New approaches to Chinese word formation: Morphology, phonology and the lexicon in modern and ancient Chinese*. Berlin: De Gruyter Mouton. 35–76. [doi: 10.1515/9783110809084.35](https://doi.org/10.1515/9783110809084.35) 誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 ::: --- > 吃飯國宴化! *Chī fàn guóyànhuà!* \ > 穿衣西裝化! *Chuān yī xīzhuānghuà!* \ > 全國亭子化! *Quán guó tíngzihuà!* \ > 走路轎車化! *Zǒu lù jiàochēhuà!* > > 食事の国事宴会化! \ > 衣服の洋装化! \ > 国全体の休憩所化! \ > 交通機関のセダン化! ——中国の精神病患者Mèng Qìnglínによる四つの(現代)化(Montagnon 1988) ## 1. 議論の前提 本論文は、上古漢語(おおよそ、紀元前11世紀から3世紀にかけての周代の中国古典文献の言語)の既知の主要な形態論的過程のいくつかを説明するものである。上古漢語の形態論的過程と聞いて驚く読者もいるかもしれない。というのも、初期の中国語は、形態論が存在していたとしてもそれは貧弱なものでしかなかったという考えが広まっているからだ。A. C. Grahamのような洞察力ある研究者でさえ、中国語についてなされた突飛な主張に反論しながらも、古典中国語の「統一された不変の単音節」について、「統語論のみによって組織化された」と語っている(Graham 1989: 390, 403)[^1]。 この主張は、ここ数世紀の間に使われた古典中国語の書き言葉に関して言えば、おそらく一定の妥当性がある。死語(少なくとも話し言葉としては死語)に生産的形態論があるわけがない。後述するように、上古漢語はさまざまな接頭辞、接尾辞、その他の形態論的過程を持っており、古典文献が書かれた時点でもまだ生産的なものもあれば、それ以前の時代から継承した痕跡が残っているだけのものもある。実際、上古漢語における広範な形態論的過程は以前から知られており、広く研究されてきた(例えば、Maspero 1930; Karlgren 1933, 1956; Downer 1959)。 上古漢語の形態論について包括的な説明をすることは、本論文の範囲をはるかに超えるだろう。我々の主な目的は以下の通りである。(1)「単語」の概念そのものを批判的に検証することによって、「単語形成」の議論を明確にする。(2)特によく理解されている上古漢語の形態論的過程について、それがどのようなものであったかを読者自身が評価できるよう、十分な例を挙げて概説する。(3)この分野における最近の、そして現在進行中の研究の成果の一部を紹介する[^2]。 読者は、上古漢語が今日話されている中国語とは類型的にかなり異なっていたことに気づくだろう(現代中国語にも明白な形態論的過程がないわけではないが)。他の言語の歴史を知れば、これは驚くべきことではない。実際には、上古漢語と現代中国語は類型論的な特徴をいくつか共有しているが、そのような特徴の存在は事実の問題であって必然ではない。我々は、中国語がその歴史のどの段階においても他の人類の言語とは異なる本質的な特徴を持っていたに違いないという仮定を否定する。先験的にその存在を仮定できる唯一の特徴は、すべての人間の言語に必然的に共有される特徴であろう。 ### 1.1. 単語とは何か 上古漢語の「単語形成」について論じるには、単語とは何かを理解することが前提となる。これは単純な問題ではない。自然言語ではよくあることだが、通常使われる英語表現の単語の意味は、厳密な定義によってではなく、おそらく一連の典型的性質によって特徴付けられるのが最適であろう。英語話者に対して言えば、典型的な英単語には発音、綴り、意味、そして「品詞」があり、それらは「辞書」で調べることができる。書き言葉では、これらは左右を空白や句読点で囲まれ、内部には空白や句読点が挟まらない。話すこと、書くことは、「単語を選択」し、それらを数珠つなぎのように一直線に言葉を並べていくプロセスと考えることができる。与えられたテキストの単語は互いに重なり合わず、(「声の調子」や句読点のような補助的なものを除けば)発話に含まれるすべてが正確に1つの単語に属することが暗黙の前提となっているようだ。そのため、テキストの長さは単語数を数えることで測ることができる。 アルファベットで表記される言語があり、それを教えるための入念な教義があり、印刷産業があり、書いたり話したりすることで報酬を得る人々がいる英語圏では、この典型的特徴の束は明らかに有用なものであり、他の類似した言語共同体にも並行するものがある。しかし、趙元任が指摘したように、中国語の状況はやや異なっていることは注目に値する。文字体系はアルファベットではなく音節ごとに書かれ、スペースは入れない。「単語」を意味する 詞 *cí* という表現はあるが、これは学術的な用語であり、言語学の議論以外では一般的ではない。一般には文章や発話は 詞 *cí* ではなく 字 *zì* の連続として考えられ、字 *zì* こそが社会言語学的実在を持ち、それによって作家は報酬を得ているのである(Chao 1968: 136–138)。 したがって、英語の *word* という表現が、中国語の 字 *zì* 以上に、言語分析に有用な単一の理論的概念と正確に一致することを当然視すべきではない。実際、我々は少なくとも3つの異なる単語の概念を区別することが有益だと考えている。すなわち、(1)音韻的な観点での単語、(2)形式的意味論の伝統における「基本表現」、(3)構文の最小またはゼロレベルの単位である[^3]。 おそらく全てではないが、いくつかの言語では、純粋に音韻論の観点から単語のような単位を定義することが可能である。スワヒリ語やポーランド語のように、単語の特定の音節を強調する規則がある言語では、発話を単語のような音韻単位に明確に分割することができる。古代ギリシャ語では、各単語は通常正確に1つのピッチ・アクセントを持つが、その位置と同一性は一般的規則からは予測できない。『イーリアス』の冒頭を見てみよう。 1. 「歌え、女神よ、ペーレウスの息子アキレウスの怒りを」 | μῆνιν | ἄειδε | θεά | Πηληϊάδεω | Ἀχιλῆος | | :------ | :------- | :------ | :--------------- | :--------- | | *Mênin* | *áeide,* | *theá,* | *Pēlēiádeō* | *Akhilêos* | | 怒り | 歌う | 女神 | ペーレウスの息子 | アキレウス | ここでは、5つのピッチアクセントがあるので、5つの音韻語があるはずだとわかるが、音韻的根拠だけでは実際の単語の境界を引くことはできない。他の言語では、こうした情報さえ不足しているかもしれない。 形式的意味論の伝統では、「表現 *expression*」という用語は、意味的価値を持つ言語内のあらゆる整った形式に対して使われる[^4]。表現は規則に従って再帰的に組み合わせてより大きな表現を作ることができる。各規則は、関連する表現が構文的にどのように組み合わされるかを指定し、新しい表現に意味的価値を与えるために、それらがどのように組み合わされるかを指定する。通常の英語の *word* とは異なり、表現は紐につながれた数珠のようなものではない。これらは入れ子構造になっており、小さなものが大きなものの中に埋め込まれている。 「基本表現 *basic expression*」とは最小限の表現のことで、その構成要素である部分表現から構文規則によって意味的価値を導くことができないものである。したがって、その価値は形式体系の一部として規定されなければならない。自然言語で説明すれば、基本表現とは、部分表現からは予測できないため、その意味を個別に学習しなければならない表現のことである。例えば、*cat* のような典型的な単語、*bláckbìrd* 「クロウタドリ *Turdus merula*」のような複合語(*blàck bìrd* 「黒い鳥」という表現とは対照的)、*kick the bucket* 「死ぬ」のような慣用表現が含まれる。 最後に、「統語論的単語 *syntactic words*」は、Xバー理論のゼロバー・レベルの形として定義することができる。言語によっては、このレベルは、ある種の修飾語や指示語を加えることができるという特徴がある。例えば、現代中国語の文章における 睡覺 *shuì-jiào* 「眠る」の使い方を考えてみよう。 2. 「彼は少しの間眠っていた。」 | 他 | 睡了 | 一會兒 | 覺 | | :--- | :-------- | :-------- | :----- | | *tā* | *shuì-le* | *yì-huǐr* | *jiào* | | 彼 | 眠る-PF | 少しの間 | ― | 覺 *jiào* は決定詞 一會兒 *yì-huǐr* 「少しの間」と組み合わされて名詞句 一會兒覺 *yì-huǐr jiào* を作るので、統語論的には 覺 *jiào* そのものがN⁰(おそらくN¹でもある)と考えられる。しかし意味論的には、覺 *jiào* は基本表現ではない。これは、単独で言語記号として使うことはできず、単なる 睡覺 *shuì-jiào* 「眠る」という基本表現の一部である。 引用した例は、*cat* のような典型的な単語では音韻語、基本表現、ゼロレベル統語カテゴリーの概念が一致するが、すべての場合で一致するわけではないことを示している。 この3つの概念は、英語の *bláckbìrd* 「クロウタドリ *Turdus merula*」でも一致している。意味論的な観点からは、これは基本表現である(部分から意味を構成することができないため)。音韻論的な観点からは、その強勢パターンが、これが音韻語であることを示している(対立がない場合でも、第一音節が第一強勢を持つため)。そして統語論的には形容詞名詞句ではなく単語である(*bláck* は修飾語をとらないため;\*a vèry bláckbìrd は非文法的である)。 他の項目についても、基本表現が音韻語であるかどうかについては、発話コミュニティによってさまざまである。*French fries* は、意味論的にはアメリカ英語のすべての方言において基本表現である(その意味は部分からは予測できないため)。統語論的にもこれはN⁰とみなすべきだろう(*French* も *fries* も展開できないため;\*\[very French] fries も \*French \[crisp fries] も、熟語的な意味を欠いている)。しかし音韻論的にはバリエーションがある。筆者も含め、アメリカ南部の話者の多くは *Frénch frìes* と言い、*bláckbìrd* と同じ強勢パターンを持つ。しかし北部の話者は句の強勢をよく用いる(*Frènch fríes*)。そのため、音韻論と意味論・統語論の間にミスマッチが生じる。 我々の見解では、現代中国語の慣用的な動詞-目的語複合語である 睡覺 *shuì-jiào* 「眠る」は、意味論と構文論のミスマッチに過ぎない。意味論的には基本表現であるが(その意味は一つの単位として学ばなければならないため)、統語論的には句である。覺 *jiào* が一般的な意味での「単語」であるかどうかを心配する必要はない。これは意味論的には基本表現 睡覺 *shuì-jiào* の一部だが、基本表現そのものでは無い(したがって、睡覺 *shuì-jiào* から独立した発話には含まれない)。統語論的にはN⁰である。音韻論については、現代中国語では2音節の句と2音節の単語を区別する一般的な方法がないため、音韻語かどうかはわからない。 最後に、標準官話の所有格 的 *de* のような接語助詞は、音論韻と統語論のミスマッチを示している(英語の所有格 /s/ ~ /z/ ~ /ɪz/のように)。音韻語は無声調の音節では始まらないので、音韻論的には、的 *de* は先行する単語の一部と考えなければならない。しかし統語論的には、これは直前の句全体と一緒に構成される標識である。Sadock(1991)の表記法を応用すると、統語論と音韻論の構造はおおよそ次のように表すことができる。 3. ![tā shuō de huà](https://hackmd.io/_uploads/B1GXVTw-R.jpg) このように、中国語には「単語」という一般的な概念と重なる理論的概念はいくつかあるが、正確に一致するものはないため、中国語の「単語」を構成するものの一貫した基準を探求することは非現実的である。 ### 1.2. 単語形成 それでは「単語形成」とは何を意味するのだろうか。本論文では、ある言語が既存の形態素から、句レベルではなく語彙レベルで新しい表現を構築する過程を表すために、この用語を使用する。句レベルで表現を形成するのは統語論の役割である。一方、単語形成過程は、統語論的過程への入力可能な要素を追加することで、語彙そのものを拡張する。 例えば、現代中国語の接尾辞 化 *-huà* 「~化する、~化」を考えてみよう。一般的に、この接尾辞は名詞・形容詞的要素に付加され、その結果、名詞語根または形容詞語根に関連する意味を持つ、語彙レベルの動詞またはV⁰となる。Chao(1968: 225–226)が挙げた例をいくつか挙げよう。 4. - a. 科學化 *kēxuéhuà* 「科学化する」(科學 *kēxué* 「科学、科学的な」から) - b. 機械化 *jīxièhuà* 「機械化する」(機械 *jīxiè* 「機械、機械的な」から) - c. 美化 *měihuà* 「美化する」(美 *měi* 「美しい」から) - d. 美國化 *měiguòhuà* 「アメリカ化する」(美國 *Měiguó* 「アメリカ」から) こうして形成された動詞は、名詞としても使うことができる。上記の例は、「科学化」「機械化」「美化」「アメリカ化」を意味する名詞にもなる。この動詞から名詞への変化も、V⁰からN⁰を作る単語形成の過程と考えることができる。 すなわち、話し手が必要に応じてその場でその言語の語彙を拡張できるようにすることと、語彙に内部構造を持たせることで学習しやすくすることである。先に引用した中国人の精神病患者による次の発話を考えてみよう。 5. 吃飯國宴化! *Chī fàn guóyànhuà!* \ 穿衣西裝化! *Chuān yī xīzhuānghuà!* \ 全國亭子化! *Quán guó tíngzihuà!* \ 走路轎車化! *Zǒu lù jiàochēhuà!* 食事の国事宴会化! \ 衣服の洋装化! \ 国全体の休憩所化! \ 交通機関のセダン化! 我々が知る限り、轎車化 *jiàochēhuà* 「セダン化する、セダン化」という単語は他には出てこない。発話者は新しいゼロバーレベルの表現を考案したのである。他の母語話者はこの単語を聞いたことはないだろうが、使用される単語形成過程に関する知識によって、少なくとも一般論として、その意味的価値が何であるかを推測することができる。「セダン化」とは、セダンをもっと使うことで中国の交通を変えることである。 そのような単語は一度しか使われないかもしれないが、他の話者がその単語を語彙に加えるのが有用だと判断すれば、その単語は音声コミュニティーを通じて広まる可能性がある。このような過程は、話者が完全に新しい形態素を構築したり学習したりする必要なく、変化する状況に応じて語彙を変化させる柔軟性を言語に与えるものである。これは潜在的な単語のコレクションを数多く提供してくれるが、実際に使用されるのはそのうちのほんの一部である。これは免疫系の抗体に似ている。非常に多くの潜在的抗体が存在し、状況に応じて活性化することができるのである。そして必要な抗体は増殖して体中に広がるのと同様に、便利な新しい語彙は音声コミュニティーの中で広がっていく。 単語形成の過程もまた、その言語の語彙ストックを、その内部構造に加えることによって、学びやすく、覚えやすくする。もし科学と意味的に関連する単語が全て関連性のない別々の形態素から作られていたとしたら、それは全体として話し手や聞き手の記憶に過度の負担を強いることになるかもしれない。またこれは音韻体系にも、(異なる形態素を十分に区別できないという意味で)負荷をかけることになるかもしれない。派生語が語彙に入った場合、規則的には予測できない特異な性質を持つこともあるが、それでもなお、他の場合よりも効率的に情報を表現することができる。たとえば、名詞を形成する接尾辞 子 *-zi* は、さまざまな意味的価値を持つことがあるが(Chao 1968: 238–242は14の一般的なパターンを挙げている)、その存在は、その項目が名詞(あるいは場合によっては量詞)であることを示す確実な標識である。 ### 1.3. 上古漢語の単語形成過程の証拠 中国語の文字体系は発音に関する直接的な情報をほとんど伝えていないが、中国の古典文献には豊富な注釈書や辞書の歴史があり、そこから初期の中国語の単語形成過程について多くのことを学ぶことができる。例えば、陸德明の『経典釈文』(Lu \[583] 1985)には、主要な古典についての音韻的注釈が掲載されている。例えば、『詩・鄭風・將仲子』76.2を考えてみよう。 6. 將仲子兮 *Qiāng Zhòng zǐ xī* \ 無踰我牆 *wú yú wǒ qiáng* \ 無折我樹桑 *wú zhé wǒ shù sāng* お願いだ、中子、 \ 壁を乗り越えないで、 \ 私たちが植えた桑の木を折らないで。[^5] 『経典釈文』(Lu \[583] 1985: 247)はこの箇所の 折 *zhé* の発音と意味について次のように注釈を加えている。 7. 「無折」:之舌反、傷害也、下同。 “無折”: *zhī shé fǎn, shāng hài yě, xià tóng*. 「折らないで」:之舌反(すなわち中古漢語で *tsy(i)* + *(zy)et* = *tsyet* と読む)、「害する」を意味する。以下も同様。 陸德明は、この文章を声に出して朗読する際の補助として、反切を用いて 折 *zhé* の中古漢語の発音を「之舌反」と示している。すなわち、折 *zhé* の頭子音は 之 *zhī* 「それ」と同じ(章母 *tsy-*)であり、音節の残りの部分は 舌 *shé* 「舌」と同じ(薛韻 *-(j)et*)である。 一方、『尚書・洪範』24の 短折 *duan zhé* 「早死にする」という表現には同じ文字の 折 *zhé* が登場する。ここでの陸德明の注釈は以下の通りである(Lu \[583] 1985: 178)。 8. 「折」:時設反,一音之舌反 “折”。 *shí shè fǎn, yì yīn zhī shé fǎn.* 「早死にする」:時設反(すなわち中古漢語で *dzy(i)* + *(sy)et* = *dzyet* と読む)。他に之舌反という読み(すなわち中古漢語で *tsy(i)* + *(zy)et* = *tsyet*)もある。 このように陸德明は、折 という文字には2通りの読み方があるという記録を残している。「私たちが植えた桑の木を折らないで」という一節では、ここでは *tsy-* と表記される無声の頭子音を持つ中古漢語 *tsyet* であるが、『尚書』の一節のように「早死にする」を意味する場合は、有声の頭子音 *dzy-* を持つ中古漢語 *dzyet* と読まれる(ただし、ここでも *tsyet* と読まれることがあった)。我々は、この例や他の類似例に基づいて、中古漢語の習慣における *tsyet* と *dzyet* の2つの発音は、上古漢語の1つの語根に由来する2つの形を反映していると推測している。*tsyet* は「切り離す、断ち切る」という意味の能動態・他動詞で、*dzyet* は「切られる、折れる」という意味とそこから拡張された「早死にする」という意味を持つ受動態・自動詞の形である。また、この交替を説明するために、上古漢語に接頭辞 \*N- を仮定する(詳細は後述)。したがって、我々の再構は次のようになる[^6]。 9. - a. 折 *zhé* < *tsyet* < \*tjet [^7] 「切り離す、断ち切る;決める」 - b. 折 *shé* < *dzyet* < \*N-tjet 「切れる、折れる」 清代(1644–1911)の中国の研究者は、このような1つの文字の複数の読みの実在性を疑い、それは単に古典学者による創作ではないかと考える傾向にあった。しかし、習慣的な読みの中に、類推によって作られた人為的な発音が含まれている可能性は高いが、その根底にある過程の実在性は疑う理由はほとんどない。チベット語のような関連言語に、同源要素を含む正確な並行例が見つかれば、我々の信頼は高まる。Jäschke(\[1881] 1975)から引用した次のようなチベット文語の形を考えてみよう。 > *gcod-pa*, pf. *bcad*, fut. *gcad*, imp. *chod*: 「1. 切る、…切り離す、…切り落とす、手を切り落とす;切り落とす、木を伐る」… > > (Jäschke \[1881] 1975: 145) > *ʼchad-pa*, pf. *chad*, vb. n. to *gcod-pa* … 「切り刻まれる、断ち切られる、腐敗する、…止まる、終わる、停止する、…死に絶える、絶滅する」 > > (Jäschke \[1881] 1975: 168) チベット語の動詞の語根はどちらも \*cad で、これは先チベット語 \*tyat を表している可能性がある[^8]。自動詞 *ʼchad-pa* のアポストロフィは「ʼa-chung」と呼ばれる文字を表し、その音韻的性質はともかく、おそらく上古漢語の接頭辞 \*N- と同源である(Pulleyblank 1973)。チベット語の *-ya-* はOC \*-e- と規則的に対応するため[^9]、中国語のペアとチベット語のペアは音韻的に非常によく一致している。さらに、意味的にもほぼ正確に一致しており、両言語とも、この語根は木を切り倒したり、体の一部を切り落としたりするときに使われる(折首 *zhé shǒu* 「首を切り落とす」は中国語の初期の文献によく出てくる表現である)。どちらの言語でも、自動詞の「(\*断ち切られる→)死ぬ」という意味的拡張に加えて、他動詞の「(刑事事件などを)判断する」という意味的拡張も並行して存在する。Schuessler(1987: 821)は、『尚書・呂刑』から次の一節を引用している。 10. 非佞折獄 *fēi nìng zhé yù* \ 「刑事事件の判決を下すのは、悪賢い人間ではない。」 同様に、Jäschkeは *zhal-che* という目的語を伴う他動詞形 *gcod-pa* 「判決を下す、裁く、非難する」の使用を挙げている[^10]。 この例は、『経典釈文』などの注釈書だけでなく、陸法言らによって紀元前601年に編纂された韻書『切韻』のような辞書的著作にも保存されている、中国古典読解の伝統の豊かさを示している(さらなる考察については、Baxter 1992: 13–14, 32–44を参照)。 さらに、中国語の現代方言には、もはや生産的でないかつての形態論的過程の痕跡が残っていたり、場合によっては上古漢語から継承されたと思われる完全に生産的な過程が維持されていることもある。例えば次の形は、初期の \*s-接尾過程([§2.2.1](#221-接尾辞--s)で後述)の痕跡のある。 11. - a. 傳 *chuán* < *drjwen* < \*drjon 「渡す、伝える」 - b. 傳 *zhuàn* < *drjwenH* < \*drjon-s 「(伝えられたもの→)伝票、伝記」 12. - a. 度 *duó* < *dak* < \*dak 「測る」 - b. 度 *dù* < *duH* < \*dak-s 「基準、はかり」 13. - a. 宿 *sù* < *sjuwk* < \*sjuk 「一晩泊まる」 \ および *xiǔ* (口語の発音) < *sjuwk* < \*sjuk 「一晩」 - b. 宿 *xiù* < *sjuwH* < \*sjuk-s 「二十八宿(月が毎夜通る領域にある星座)のひとつ」 14. - a. 劃 広東語 *waahk* < *hwɛk* < \*wrek 「描く」 - b. 畫 広東語 *wah* < *hwɛɨH* < \*wrek-s 「絵」 これらの例のいくつかでは、真の継承ではなく伝世記録にある読みからの借用が疑われるかもしれないが、他の例(例14など)では、関係する単語は完全に口語的であり、おそらくその過程の現実性を示す独立した証拠を与えてくれるだろう。 現代中国語には、個々の項目に残された痕跡以外にも、上古漢語から継承した思われる、完全に生産的な形態論的過程を示す方言もある。例えば、後述するように、いくつかの山西省の方言(陽曲方言など)には、動詞に付加することで短時間の動作や反復動作を表す接頭辞 \[koʔ²] があるが、これは、後述する上古漢語の接頭辞 \*k- に酷似している。 本研究の残りの部分では、上古漢語に再構可能な単語形成過程のいくつかを検討する。基本的には、接辞([§2](#2-上古漢語における接辞))、重複([§3](#3-重複))、複合語([§4](#4-複合語))に分けられる。 ## 2. 上古漢語における接辞 上古漢語の単語形成過程として、接頭辞や接尾辞、そして接中辞を再構することができる。以下の各節でそれぞれについて述べる。 ### 2.1. 上古漢語の接頭辞 #### 2.1.1. \*N- あるいは「有声化」接頭辞 いくつかの形では、有声阻害音と無声阻害音の頭子音の交替が見られる。このような場合、我々は、後続する無声音を中古漢語の有声音に変化させる接頭辞 \*N- を再構する[^11]。 15. - a. 敗 *bài* < *pæjH* < \*prats 「破壊する、破滅させる」(他動詞) - b. 敗 *bài* < *bæjH* < \*N-prats 「破滅する」(他動詞), 「破滅、敗北」(名詞) 16. - a. 見 *jiàn* < *kenH* < \*kens 「見る」 - b. 見、現 *xiàn* < *henH* < \*N-kens 「現れる」 17. - a. 付 *fù* < *pjuH* < \*pjos 「手渡す、与える」 - b. 附 *fù* < *bjuH* < \*N-pjos 「付く」 18. - a. 著 *zhuó* < *trjak* < \*trjak 「置く、配置する、当てる;着る」 \ 『広韻』[^12]:「服衣於身」(衣服を身に付ける) - b. 著 *zhuó* < *drjak* < \*N-trjak 「触れる、触る、付く」 \ 『広韻』:「附也」 (付く;一つ前の例を参照) 19. - a. 屬 *zhǔ* < *tsyowk* < \*tjok 「取り付ける、つなぐ;当てる;触れる」 \ 『広韻』:「付也」(付ける;他動詞) - b. 屬 *shǔ* < *dzyowk* < \*N-tjok 「加わる、取り付く;所属する、~のカテゴリーに属する」 \ 『広韻』:「附也」(付く;自動詞)[^13] 20. - a. 別 *bié* < *pjet* < \*prjet 「分ける」(他動詞) \ 『広韻』:「分別」 - b. 別 *bié* < *bjet* < \*N-prjet 「異なる、離れる」(自動詞) \ 『広韻』:「異也、離也、解也」 21. - a. 張 *zhāng* < *trjang* < \*trjang 「結ぶ、取り付ける、弓を張る」 - b. 長 *cháng* < *drjang* < \*N-trjang 「長い、背が高い、長持ちする」 22. - a. 繫 *jì* < *kejH* < \*keks 「結ぶ、取り付ける、つなぐ」 - b. 系、繫 *xì* < *hejH* < \*N-keks 「付く、繋がる」 23. - a. 夾 *jiā* < *kep* < \*krep 「両側にある;挟む、留める」 - b. 狹 *xiá* < *hep* < \*N-krep 「狭い」 名詞の語幹に接頭辞 \*N- がついて動詞や形容詞になる例も見られる。 24. - a. 倉 *cāng* < *tshang* < \*tsʰang 「倉庫」 - b. 藏 *cáng* < *dzang* < \*N-tsʰang 「隠す、保管する」 25. - a. 斨 *qiāng* < *tshjang* < \*tsʰjang 「四角い斧、手斧」 - b. 戕 *qiāng* < *dzjang* < \*N-tsʰjang 「傷つける、虐待する」 #### 2.1.2. 接頭辞 \*k- 上古漢語には、一方の単語が軟口蓋音で、もう一方はそれ以外の頭子音を持つが、しばしば同じ声符で表記され、関連する意味を持つ、これまで不可解だった単語のセットが数多く存在する。このような場合、接頭辞 \*k- を再構することができる。 \*k- の最も明確な例は流音やわたり音の前に現れるが、おそらく \*k-t- や \*k-p- のような組み合わせも存在し、これは後に第2要素を完全に失う(おそらく \*k-t- > \*k-)か、あるいは部分的にいくつかの特徴を残しながら簡略化されたと思われる(例えば以下の例29のような \*k-p- > \*kw-)。 接頭辞 \*k- の機能を確実に特定することは難しいが、多くの場合、\*k- が動詞に付加されると、関連する意味を持つ具体的な可算名詞が生成されるようである。 26. - a. 匀 *yún* < *ywin* < \*wjin 「均等な、均一な」 - b. 鈞 *jūn* < *kjwin* < \*k-wjin 「ろくろ(< \*粘土を均等にするもの ?)」 27. - a. 尹 *yǐn* < *ywinX* < \*ljun-ʔ (or perhaps \*ljur-ʔ) 「真っ直ぐな;真っ直ぐにする、整える、治める;為政者」 - b. 君 *jūn* < *kjun* < \*k-ljun (or \*k-ljur) 「(\*支配する者→)君主、夫人;王子、支配者;長」 28. - a. 威 *wēi* < *ʔjwɨj* < \*ʔjuj 「畏怖させる、恐怖させる;畏敬の念を抱かせる、威厳ある;恐怖、威厳」 - b. 畏 *wèi* < *ʔjwɨjH* < \*ʔjuj-s 「恐れる、おびえる;恐ろしい、威厳ある」 - c. 鬼 *guǐ* < *kjwɨjʔ* < \*k-ʔjuj-ʔ 「(\*恐るべきもの→)霊魂、幽霊、悪霊」 Karlgren(1957 #573a)が指摘するように、初期の文字では、畏 *wèi* 「恐れる」の文字には 鬼 *guǐ* 「幽霊」が要素して含まれている。 29. - a. 方 *fāng* < *pjang* < \*pjaŋ 「正方形、規則的なもの、パターン;正方形の辺、側面」 - b. 筐 *kuāng* < *khjwang* < \*k-p(ʰ)jaŋ (?) 「(\*四角いもの→)四角い箱」 30. - a. 舁 *yú* < *yo* < \*lja 「上げる、持ち上げる」 - b. 車 *jū* < *kjo* < \*k-lja 「荷車、馬車、乗り物」 - c. 車 *chē* < *tsyhæ* < \*k-hlja (?) 「荷車、馬車、乗り物」[^14] さらに、接頭辞 \*k- を持つ動詞の形 舉 *jǔ* < *kjo* < \*k-lja-ʔ 「持ち上げる、上げる」と、接頭辞を持たない名詞形 輿 *yú* < *yo* < \*lja 「馬車、乗り物」もあるようだ。 31. - a. 域 *yù* < *hwik* < \*w-r-jɨk 「境界、地域、領土」 - b. 囿 *yòu* < *hjuwH* < \*w-j-ɨk-s 「囲い、庭園」 - c. 國 *guó* < *kwok* < \*k-wɨk 「国」 32. - a. 嶸 *róng* < *hjwæng* < \*wr-j-eŋ, also *hwɛng* < \*wren 「高い、遠い」 - b. 坰 *jiōng* < *kweng* < \*k-weŋ 「辺境の地、都から遠く離れた」 舉 *jǔ* < \*k-ljaʔ 「持ち上げる」のように、動詞に \*k- が付加されて他の動詞になる場合、\*k- を持つ形と持たない形とでは、もともとアスペクトが異なっていた可能性がある。多くの例で、\*k- を持つ形は特定の時間枠で行われる具体的な行動を指すように見えるが、対応する \*k- を持たない形は一般的か非定形的である傾向がある。\*k- を持たない次の単語を見てみよう。 33. 滅 *miè* < *mjiet* < \*mjet 「消す、滅ぼす、破壊する」 次の 滅 *miè* を用いた2つの例(Schuessler 1987より)において、言及されている「破壊」は特定の出来事に限定されたものではなく、仮説的あるいは一般的なものとして語られている。 34. 寧或滅之? *níng huò miè* (\*mjet) *zhī?* \ 「どうやってこれ(火)が消せるだろうか。」(『詩・小雅・正月』192.8) 35. 履校滅趾 *lǚ jiào miè* (\*mjet) *zhǐ* \ 「足袋を履いて歩くと足が駄目になる。」(『易経』21.1) 次の接頭辞 \*k- を持つ形と比較してほしい(この諧声系列には他にも \*m- の証拠があることに注意されたい。袂 *mèi* < *mjiejH* < \*mjets 「袖」, 袂 *jué* < *kwet* < \*k-met 「袖」)。 36. 缺 *quē* < *khwet* ~ *khjwiet* < \*k-hm(j)et 「壊れる」 次の一節では、この形は具体的な特定の行為を指しているように見える。 37. 又缺我斨 *yòu quē* (\*k-hm(j)et) *wǒ qiāng* \ 「我々は斧を壊した」(『詩・豳風・破斧』157.1) 別の例として、次の \*k- を持つ形と持たない形のペアがある。\*k- を持たない形は一般的な言及に見え、\*k- を持つ形はより具体的である。 38. - a. 育 *yù* < *yuwk* < \*ljuk 「産む、育てる、養育する、育つ、養う」 - b. 鞠 *jū* < *kjuwk* < \*k-ljuk 「養う」(あるいは「授乳する」) この2つの形は、『詩経』の同じ節に登場する(『小雅・蓼莪』202.4、Karlgren 1974による翻訳)に登場する。 39. 父兮生我, *fù xǐ shēng wǒ,* \ 母兮鞠我。 *mǔ xī jū* (\*k-ljuk) *wǒ.* \ 拊我畜我, *fǔ wǒ xù wǒ,* \ 長我育我。 *zhǎng wǒ yù* (\*ljuk) *wǒ.* ああ父よ、あなたは私を生んでくれた、 \ ああ母よ、あなたは私を養ってくれた(授乳してくれた?)、 \ 私を慰めてくれた、私を大事にしてくれた、 \ 私を成長させてくれた、私を育ててくれた。 原文の中国語は、訳文と同様、3行目と4行目の *yù* < \*ljuk 「育てる」などの動詞の主語が両親なのか母親なのか曖昧である。しかしいずれにせよ、2行目の *jū* < \*k-ljuk が母親のみに適用されることは明らかであり、「授乳する」あるいは「看護する」というのが、この \*k- 接頭形のもっともらしい解釈である。 このパターンは、山西省のある現代晋語方言の動詞に見られる軟口蓋音接頭辞と並行している。例えば、孟慶海(Meng 1991: 110–111)によれば、陽曲方言では、単音節の動詞に音節 圪 \[kəʔ²] が比較的自由に前接される。その結果生じる形は、動詞の動作が短時間であること(「短暫」)を示すこともあれば、繰り返されること(「反複」)を示すこともある。 40. - a. 圪涮 *kəʔ² sue³⁵³* 「少しすすぐ」 - b. 圪洗 *kəʔ² ɕi⁵³* 「少し洗う」 - c. 圪躺 *kəʔ² tʰɔ²¹³* 「少し横になる」 - d. 圪刷 *kəʔ² sua²¹³* 「ブラシをゴシゴシかける」 - e. 圪抽 *kəʔ² tsʰei⁵³* 「前後に引っ張る;少し引っ張る」 上古漢語の接頭辞 \*k- がこのような方言の形に残っている可能性はある。 最後に、興味深い例として、\*k- を伴う形の民族名、氏族名、地名がある。おそらく接頭辞 \*k- にはもう一つ、この種の名前を派生させる機能があったのだろう。次の例では、接頭辞のない形は、動物の名前(トーテム?)か、身体部位である。 41. - a. 爲 *wéi* < *hjwe* < \*w\(r)jaj 「する、為す」 - b. 嬀 *guī* < *kjwe* < \*k-w\(r)jaj 「川の名前;氏族の名前」 - c. 潙 *guī* < *kjwe* < \*k-w\(r)jaj 「川の名前」 『説文解字』によれば、爲 *wéi* は「母猿」を意味し、その文字は 爪 *zhǎo* 「手、爪」とその下の猿を表す要素から構成されている。甲骨文や金文では明らかに「手」+ 象 *xiàng* 「象」であり、「猿」ではない。いずれにせよ、動物の表現が関与していることは明らかである。 42. - a. 禹 *yǔ* < *hjuX* < \*w\(r)jaʔ 「昆虫または爬虫類」(『説文』「蟲也」) - b. 萭 *jǔ* < *kjuX* < \*k-w\(r)jaʔ 「氏族の名前」(Karlgren 1957 #99e参照) 43. - a. 羊 *yáng* < *yang* < \*ljaŋ 「羊」 - b. 姜 *jiāng* < *kjang* < \*k-ljaŋ 「姜族;出席婦人」 - c. 羌 *qiāng* < *khjang* < \*k-hljaŋ 「中国西部の古代民族の名前」 44. - a. 翼 yì < *yik* < \*ljɨk 「翼」 - b. 冀 jì < *kiH* < \*k-ljɨks 「北部の地域名;姓」 45. - a. 頤 *yí* < *yi* < \*ljɨ 「あご」 - b. 姬 *jī* < *ki* < \*k-ljɨ 「姫族;姫族の婦人;周王朝の王族の姓」 上古漢語に見られるさまざまな接頭辞 \*k- の痕跡は、現代中国語方言や近隣諸言語における軟口蓋音接頭辞との間に興味深い類似性を示している。これらの様々な形態素の正確な関係はまだ不明だが、上古漢語にこのような形の接頭辞が1つ以上あったという証拠は強いと考えられる。 #### 2.1.3. 接頭辞 \*t- 中古漢語の端母 *t-*, 知母 *tr-*, 章母 *tsy-* が上古漢語の接頭辞 \*t- を反射していると思われる例が多数存在する。接頭辞 \*k- の機能のひとつは可算名詞を作ることであったと思われるのとは対照的に、接頭辞 \*t- の付加は不可算名詞を派生させることが多い。 46. - a. 實 *shí* < *zyit* < \*m-ljit (or \*N-ljit?) 「果実;富;満ち足りた;しっかりした;本当の」 \ (cf. タイ祖語 \*mlet D2S or \*mret D2S 「穀物」(Li 1977: 93, 269)) - b. 質 *zhì* < *tsyit* < \*t-ljit 「(\*満たすもの→)物質、固形部分;本質的な」 47. - a. 育、毓、鬻 *yù* < *yuwk* < \*ljuks 「養う」(上記の例38参照) - b. 粥、鬻 *zhōu* < *tsyuwk* < \*t-ljuk 「(\*養うもの→)粥」 興味深いことに、「粥」を意味する別の単語は、別の語根から接頭辞 \*t- によって派生したようである。 48. - a. 芑 *qǐ* < *khiX* < \*k-hljɨʔ 「キビの一種」 - b. 饎 *chì* < *tsyhiH* < \*t-hljɨ(ʔ)-s 「調理した犠牲用の粟」(Karlgren 1957 #955m;「熙」を声符とする文字でも書かれる、#960k) 動詞にも接頭辞 \*t- がつくと思われる例がある。これも、その機能をはっきりさせるのは難しいが、自動詞につく例が多い。 49. - a. 碾 *niǎn* < *nrjenX* < \*nrjenʔ 「踏みつける」 - b. 展 *zhǎn* < *trjenX* < \*t-nrjenʔ 「転がる」 ==:bulb: ⟨碾⟩ の声符は 𡰫 *niǎn* < *nrjenX* の訛変であり、碾 ~ 展 は諧声関係を持たないため、展 \*t-nrjenʔ という再構は非常に疑わしい。== 50. - a. 攝 *shè* < *syep* < \*hnjep 「怖がらせる、怯えさせる」(『経典釈文』による『左伝・襄公11年』の注釈に見られる読み) - b. 懾 \[*shè*] < *tsyep* < \*t-njep 「落胆する;恐れる」 接頭辞 \*t- は、多 *duō* 「多くの」に従う諧声系列に \*t- と \*l- の両方の反射が見られるという異常を説明するのに役立つかもしれない。これはおそらく、多 *duō* 自体が、上記の例と同様の不可算名詞を作る接頭辞 \*t- を持っていたためであろう。 51. 多 *duō* < *ta* < \*t-laj 「多くの」 中国語からの借用語と思われるタイ祖語の \*hlai A1 「多数の」を参照(Li 1977: 137, 287)[^15]。\*t-laj という再構は、多 *duō* を声符とする \*l- の単語が見られることを説明するものである。 52. 移 *yí* < *ye* < \*ljaj 「移す、動かす、変える、替える」(チベット・ビルマ祖語 \*lay 「変える、交換する」ないし「通過する、超える」と比較されたい、Benedict 1972: 64 #283, 66 #301) #### 2.1.4. その他の接頭辞 初期の中国語には他にも接頭辞の痕跡がある。中古漢語における心母 *s-* または生母 *sr-* と他の頭子音との交替は、チベット・ビルマ語に広く見られる *s-* を前接した使役構造を想起させる。 53. - a. 麗 *lì* < *lejH* < \*(C-)re-s 「対、組」[^16] - b. 灑 *sǎ* < *sreiX* ~ *srjeX* < \*s-(C-)rjeʔ 「(? \*分ける、二分する→)振りまく、分配する」 54. - a. 吏 *lì* < *liH* < \*(C-)rjɨ(ʔ)-s 「書紀、役人」 - b. 使 *shǐ* < *sriX* < \*s-(C-)rjɨʔ 「(\*使者とする→)送る」 多くの場合、\*s- を持つ形と持たない形が関連していることは明らかだが、現在のところ \*s- の機能は不明である。 55. - a. 逆 *nì* < *ngjæk* < \*ŋ-r-jak 「逆らう、会う、受ける;反対する」 - b. 蘁 *wù* < *nguH* < \*ŋak-s 「抵抗する、反対する」 - c. 溯、泝 *sù* < *suH* < \*s-ŋak-s 「遡る;逆方向の」 - d. 訴 *sù* < *suH* < \*s-ŋak-s 「告発する;知らせる」 56. - a. 攘 *ráng* < *nyang* < \*njaŋ 「取り除く、盗む」 - b. 讓 *ràng* < *nyangH* < \*njaŋ-s 「ゆずる、道を譲る」 - c. 襄 *xiāng* < *sjang* < \*s-njaŋ 「取り除く」 57. - a. 齧 *niè* < *nget* < \*ŋet 「かじる、噛み砕く」 - b. 楔 *xiē* < *set* < \*s-ŋet 「くさび、死体の歯の間の木片」 上に挙げた接頭辞 \*s- の例は、中古漢語における心母 *s-* または生母 *sr-* と他のタイプの頭子音との間の交替を伴うものである。それとは別に、全く異なる交替を接頭辞 \*s- に起因させる考えがある(例えばStarostin 1989)。これはBaxter(1992: 187-218)の再構では、以下の例のように、有声音と無声流音・わたり音・鼻音の交替とされる。 58. - a. 墨 *mò* < *mok* < \*mik 「墨刑(犯罪者に対する伝統的な刑罰)」 - b. 黑 *hēi* < *xok* < \*hmik 「黒い」 59. - a. 葉 *yè* < *yep* < \*ljap 「葉;世代」 - b. 世 *shì* < *syejH* < \*hljap-s 「世代、時代、年代」 60. - a. 難 *nán* < *nan* < \*nar 「難しい」[^17] \ *nàn* < *nanH* < \*nar-s 「困難」 - b. 歎 *tàn* < *than* ~ *thanH* < \*hnar(-s) 「ため息をつく」 我々は例53から例57のようなタイプの交替を接頭辞 \*s- で説明することを好む。しかし、\*m-, \*l-, \*n- と \*hm-, \*hl-, \*hn- との交替も形態論的な性質があるように思われる。これらは別の接頭辞(おそらく単なる \*h-)を持っていたかもしれない。 ### 2.2. 接尾辞 #### 2.2.1. 接尾辞 \*-s 上古漢語の接尾辞として最も確立しやすいのは、派生接尾辞 \*-s である。これは、中古漢語における去声の形とそれ以外の声調の形との間の交替を生み出す。多くの場合、接尾辞 \*-s は形容詞や動詞に付加され、派生名詞を形成する。 61. - a. 乘 *chéng* < *zying* < \*m-ljɨŋ 「登る、乗る」(動詞) - b. 乘 *shèng* < *zyingH* < \*m-ljɨŋ-s 「(\*乗り物→)4頭立て戦車」 62. - a. 陳 *chén* < *drin* < \*drjin 「のべる、並べる、陳列する」(動詞) - b. 陳、陣 *zhèn* < *drinH* < \*drjin-s 「(\*並べられるもの→)戦陣」(名詞) 63. - a. 傳 *chuán* < *drjwen* < \*drjon 「伝える」(動詞) - b. 傳 *zhuàn* < *drjwenH* < \*drjon-s 「(\*伝えられるもの→)記録」(名詞) 64. - a. 量 *liáng* < *ljang* < \*C-rjaŋ 「測る」(動詞)(cf. チベット語 *grang-ba* 「数える、判断する、考慮する」, *bgrang-ba* 「数える、計算する、計上する」) - b. 量 *liàng* < *ljangH* < \*C-rjaŋ-s 「はかり」(名詞)(Cf. チベット語 *grangs* 「数」) 65. - a. 數 *shǔ* < *srjuX* < \*s\(C)rjoʔ 「数える」(動詞) - b. 數 *shù* < *srjuH* < \*s\(C)rjo(ʔ)-s 「数」(名詞) いくつかの程度形容詞には対応する名詞の形があり、接尾辞 \*-s は、英語の *-th* と同じように、*deep*/*depth* 「深い/深さ」, *broad*/*breadth* 「広い/広さ」, *wide*/*width* 「幅広い/幅広さ」などのペアで機能する。 66. - a. 高 *gāo* < *kaw* < \*kaw 「高い、背が高い」(形容詞) - b. 高 MC *kawH* < \*kaw-s 「高さ」(名詞) 67. - a. 深 *shēn* < *syim* < \*hljɨm 「深い」(形容詞) - b. 深 MC *syimH* < \*hljɨm-s 「深さ」(名詞) 68. - a. 長 *cháng* < *drjang* < \*N-trjaŋ 「長い」(形容詞) - b. 長 MC *drjangH* < \*N-trjaŋ-s 「長さ」(名詞) 69. - a. 廣 *guǎng* < *kwangX* < \*kʷaŋʔ 「広い」(形容詞) - b. 廣 MC *kwangH* < \*kʷaŋ(ʔ)-s 「広さ」(名詞) 70. - a. 厚 *hòu* < *huwX* < \*goʔ 「厚い」(形容詞) - b. 厚 *hòu* < *huwH* < \*go(ʔ)-s 「厚さ」(名詞) \*-p, \*-t, \*-k で終わる形(すなわち入声)に接尾辞 \*-s が付加されると、それによって生まれたクラスター \*-ps, \*-ts, \*-ks は簡略化され、最終的に元の閉鎖音が失われた。最も早い変化は、\*-ps から \*-ts への同化である(『詩経』の押韻に既に反映されている)。その後、\*-s の前の閉鎖音が失われ、\*-ts は \*-js に、\*-ks は \*-s になった。\*-s が失われた結果、その音節は中古漢語における去声のカテゴリー(我々の転写では *-H* と表記)に属するようになった。これらの変化をまとめると次のようになる(「V」は任意の母音を表す)。 - \*-Vp-s ↘ - \*-Vt-s → \*-Vt-s → \*-Vj-s → MC *-VjH* (= original \*-Vj-s) - \*-Vk-s → \*-Vk-s → \*-V-s → MC *-VH* (= original \*-V-s) したがって、以下の例のように、中古漢語では入声形と去声形の交替が見られる。まず、\*-k と \*-k-s の例を示す。 71. - a. 度 *duó* < *dak* < \*dak 「測る」(動詞) - b. 度 *dù* < *duH* < \*dak-s 「測定、定規」(名詞) 72. - a. 宿 *sù* < *sjuwk* < \*sjuk 「宿泊する」(動詞) - b. 宿 *xiù* < *sjuwH* < \*sjuk-s 「星宿(月が毎夜通る領域)」(名詞) 73. - a. 塞 *sè* ~ *sāi* < *sok* < \*sɨk 「塞ぐ、止める」(動詞) - b. 塞 *sài* < *sojH* < \*sɨk-s 「国境、辺境」(名詞) 74. - a. 責 *zé* < *tsrek* < \*tsr(j)ek 「強いる、支払いを要求する」(動詞) - b. 債 *zhài* < *tsreiH* < \*tsr(j)ek-s 「借金」(名詞) 以下の例は、元々の \*-t と \*-t-s を示している。 75. - a. 帥 \[*shuài*], MC *srwit* < \*srjut 「導く」(動詞) - b. 帥 *shuài* < MC *srwijH* < \*srjut-s 「先導者」(名詞) 76. - a. 結 *jié* < *ket* < \*k-lit 「結ぶ」(動詞) - b. 髻 *jì* < *kejH* < \*k-lit-s 「結び目、まとめた髪、シニヨン」(名詞) 77. - a. 脱 *tuō* < *thwat* < \*hlot 「脱ぐ」(動詞) - b. 蜕 *tuì* < *thwajH* < \*hlot-s 「(\*脱がされたもの→)昆虫の抜け殻」 78. - a. 鍥 *qiè* < *khet* < \*kʰet 「切る、切り開く」(動詞) - b. 契 *qì* < *khejH* < \*kʰet-s 「刻まれた文字」(名詞) 以下の例は、\*-p と \*-p-s を示している(後者は \*-t-s のように発展した)。 79. - a. 接 *jiē* < *tsjep* < \*tsjap 「つなぐ」(動詞) - b. 際 *jì* < *tsjejH* < \*tsjats < \*tsjap-s 「関係」(名詞) 80. - a. 納、内 *nà* < *nop* < \*nup 「送付する」(動詞) [^18] - b. 内 *nèi* < *nwojH* < \*nuts < \*nup-s 「内部」(名詞) - (入*rù* < *nyip* < \*n-j-up 「入る」も参照) 81. - a. 執 *zhí* < *tsyip* < \*tjip 「つかむ、保持する、取る、奪う」(動詞) - b. 鷙 *zhì* < *tsyijH* < \*tjits < \*tjip-s 「(\*捕らえる者→)捕食する鳥」(名詞) しかし、動詞や形容詞から名詞を作ることだけが接尾辞 \*-s の機能ではなかった。時には、形容詞や自動詞から他動詞を、あるいは他動詞から二重他動詞や使役動詞を作ることもあった。また、現在の証拠からはその機能を復元することができない場合もある。そのため、英語の *-ness* のように形容詞から名詞を派生させる接尾辞(*quick*/*quickness* 「速い/速さ」, *short*/*shortness* 「短い/短さ」)や、*-ly* のように形容詞から状態副詞を派生させたり(*quick*/*quickly* 「速い/素早く」, *deep*/*deeply* 「深い/深く」)、時には他の品詞から形容詞を派生させたり(*lovely*, *homely*, *comely* など)する接尾辞に比べると、その機能ははるかに限定的で、画一的でもない。以下の例は \*-s の様々な機能を示している。 82. - a. 好 *hǎo* < *xawX* < \*xuʔ 「良い」(形容詞) - b. 好 *hào* < *xawH* < \*xu(ʔ)-s 「(\*良いと考える→)好む」(他動詞) 83. - a. 惡 *è* < *ʔak* < \*ʔak 「悪い、邪悪な」(形容詞) - b. 惡 *wù* < *ʔuH* < \*ʔak-s 「(\*悪いと考える→)憎む」(他動詞) 84. - a. 遠 *yuǎn* < *hjwonX* < \*wjanʔ 「遠い」(形容詞) - b. 遠 *yuàn* < *hjwonH* < \*wjan(ʔ)-s 「~から距離を置く」(他動詞) 85. - a. 近 *jìn* < *gjɨnX* < \*gjirʔ 「近い」(形容詞) - b. 近 *jìn* < *gjɨnH* < \*gjir(ʔ)-s 「近づく」(他動詞) 86. - a. 雨 *yǔ* < *hjuX* < \*w\(r)jaʔ 「雨が降る」(自動詞) - b. 雨 *yù* < *hjuH* < \*w\(r)ja(ʔ)-s 「降らせる」(他動詞) 87. - a. 語 *yǔ* < *ngjoX* < \*n\(r)jaʔ 「話す」(自動詞) - b. 語 *yù* < *ngjoH* < \*n\(r)ja(ʔ)-s 「話しかける、述べる」(他動詞) 88. - a. 受 *shòu* < *dzyuwX* < \*djuʔ 「受け取る」(他動詞) - b. 受 *shòu* < *dzyuwH* < \*dju(ʔ)-s 「(\*受け取らせる→)与える」(二重他動詞) 89. - a. 飲 *yǐn* < *ʔimX* < \*ʔ\(r)jumʔ 「飲む」(他動詞) - b. 飲 *yìn* < *ʔimH* < \*ʔ\(r)jum(ʔ)-s 「飲み物を与える」(二重他動詞) 90. - a. 借 \[*jiè*], MC *tsjek* < \*tsjAk 「借りる」(他動詞) - b. 借 *jiè* < *tsjæH* < \*tsjAk-s 「貸す」(二重他動詞) 91. - a. 假 *jiǎ* < *kæX* < \*kraʔ 「借りる」(他動詞) - b. 假 *jià* < *kæH* < \*kra(ʔ)-s 「貸す」(二重他動詞) 92. - a. 集 *jí* < *dzip* < \*dzjup 「集める、集合させる」 - b. 萃 cuì < *dzwijH* < \*dzjuts < \*dzjup-s 「集める、集合させる」(違いは不明) #### 2.2.2. その他の接尾辞 上古漢語の接尾辞 \*-s は最も再構が容易で、説明もしやすいものであるが、他の接尾過程も、おそらく古典文献が書かれた時点で既にほとんど生産的でなかったが、その痕跡を残しているようである。中古漢語の上声の起源として再構された声門閉鎖音 \*-ʔ を持つ形と、それを持たない形が関連する例について、既にいくつか見てきた。 93. - a. 尹 *yǐn* < *ywinX* < \*ljun-ʔ (or perhaps \*ljur-ʔ) 「真っ直ぐな;真っ直ぐにする、整える、治める;為政者」 - b. 君 *jūn* < *kjun* < \*k-ljun (or \*k-ljur) 「(\*支配する者→)君主、夫人;王子、支配者;長」 94. - a. 威 *wēi* < *ʔjwɨj* < \*ʔjuj 「畏怖させる、恐怖させる;畏敬の念を抱かせる、威厳ある;恐怖、威厳」 - b. 鬼 *guǐ* < *kjwɨjʔ* < \*k-ʔjuj-ʔ 「(\*恐るべきもの→)霊魂、幽霊、悪霊」 95. - a. 舁 *yú* < *yo* < \*lja 「上げる、持ち上げる」 - b. 舉 *jǔ* < *kjoX* < \*k-lja-ʔ 「上げる、持ち上げる」 96. - a. 張 *zhāng* < *trjang* < \*trjaŋ 「長くする、伸ばす、(弓を)張る」 - b. 長 *zhǎng* < *trjangX* < \*trjaŋ-ʔ 「長い、背が高い、長持ちする」 上声の形とそれ以外の声調の形との交替が、声門閉鎖音そのものが接尾辞であったことを示すのか、それとも他の形態論的過程の二次的な結果として生じた・消滅したのか、確信をもって言うことは難しい。場合によっては、声門閉鎖音は強勢や失われた接尾辞によって条件付けられた \*-k の弱化形かもしれない。また、音節内の他の位置に声門音要素(おそらく今では検出不可能)が現れた場合には、異化によって消滅した場合もあるかもしれない。以下の例に見られる、異なる音節末子音間の交替も、現在では失われてしまった接尾辞の影響と思われる。 97. - a. 辨 *biàn* < *bjenX* < \*brjenʔ (or \*N-prjenʔ ?) 「区別する、識別する、適切に配置する」 - b. 別 *bié* < *bjet* < \*N-prjet 「分離する、分かれる」 98. - a. 廣 *guǎng* < *kwangX* < \*kaŋʔ 「広い」 - b. 廓 *kuò* < *khwak* < \*kʷʰak 「大きい、贅沢な」 - c. 寬 *kuān* < *khwan* < \*kʷʰan 「広大な、心が広い、寛大な」 - d. 闊 *kuò* < *khwat* < \*kʷʰat 「広い、幅広い、大らかな」 99. - a. 迎 *yíng* < *ngjæng* < \*nrjaŋ 「会う」 - b. 逆 *nì* < *ngjæk* < \*nrjak 「逆らう、迎える」 100. - a. 膺 *yīng* < *ʔing* < \*ʔ\(r)jɨŋ 「胸、胸当て」 - b. 臆 *yì* < *ʔik* < \*ʔ\(r)jɨk 「胸中」 101. - a. 遠 *yuǎn* < *hjwonX* < \*wjanʔ 「遠い」 - b. 越 *yuè* < *hjwot* < \*wjat 「過ぎ去る、通り過ぎる」 102. - a. 昏 *hūn* < *xwon* < \*hmun 「暗い、見識のない、愚かな」 - b. 忽 *hū* < *xwot* < \*hmut 「不注意な、混乱した」 末尾の鼻音と対応する無声閉鎖音の交替(例えば \*-n/\*-t, \*-ŋ/\*-k)の交替だけでなく、軟口蓋音と歯音の交替も見られる(例98)ことに注意されたい。これらの交替がすべて形態論的なものであるとは限らない。方言混合や、テキストの誤伝達に起因するものもあるだろう。しかし、少なくとも部分的には、現在のところ確信を持って整理することが難しい形態論的過程によるものと考えられる。 ### 2.3. 接中辞 上古漢語の形は、音節の両端だけでなく、中間にも形態的交替が見られる。いくつかの形は介音要素 \*-j- や \*-r- の有無の違いを見せる(\*-j- や \*-r- の全てが接中辞に由来するのか、それとも一部だけなのかは、完全には明らかではない)。まず、\*-∅- と \*-j- との交替について考えてみよう[^19]。 #### 2.3.1. \*-∅- と \*-j- の交替 \*-j- を持つ形と持たないとの交替が見られることは、Karlgren(1933)によってかなり早くに指摘されていた。この交替の正確な機能を確立するのは難しいが、明確な例がたくさんある。 103. - a. 皇 *huáng* < *hwang* < \*waŋ 「威厳のある、風格のある」 - b. 王 *wáng* < *hjwang* < \*w-j-aŋ 「王」 104. - a. 雜 *zá* < *dzop* < \*dzup 「混ざった、雑多な」 - b. 集 *jí* < *dzip* < \*dz-j-up 「集める、集合させる」 105. - a. 納、内 nà < *nop* < \*nup 「送り込む」 - b. 内 *rù* < *nyip* < \*n-j-up 「入る」 106. - a. 諾 *nuò* < *nak* < \*nak 「認める、承諾する」 - b. 若 *ruò* < *nyak* < \*n-j-ak 「こうして、このように」 107. - a. 乎 \[hū] < *hu* < \*wa 「~において」 - b. 于 *yú* < *hju* < \*w-j-a 「~において」 108. - a. 銘 *míng* < *meng* < \*meŋ 「刻む、碑銘」 - b. 名 *míng* < *mjieng* < \*m-j-eŋ 「名前」 109. - a. 俄 *é* < *nga* < \*ŋaj 「厳かな」 - b. 儀 *yí* < *ngje* < \*ŋ\(r)-j-aj 「礼儀、正しい態度、儀式」 110. - a. 旁 *páng* < *bang* < \*baŋ 「わき」 - b. 房 *fáng* < *bjang* < \*b-j-aŋ 「(\*わきの部屋→)寝室」 111. - a. 蔑 *miè* < *met* < \*met 「破壊する;~ない」 - b. 房 *miè* < *mjiet* < \*m-j-et 「消す、滅ぼす、破壊する」 112. - a. 土 *tǔ* < *thuX* < \*tʰaʔ 「大地」 - b. 社 *shè* < *dzyæX* < \*N-tʰ-j-aʔ 「大地への祭壇、大地への犠牲」 113. - a. 倪 *ní* < *ngej* < \*ŋe 「弱い」 - b. 兒 *ér* < *nye* < \*ŋ-j-e 「子供」 #### 2.3.2. 接中辞としての介音 \*-r- 当然ながら、介音 \*-r- が接中辞として機能する可能性を認識できるのは、\*-r- が再構形に存在する場合だけである。例えば、Karlgrenによる上古漢語の再構では、この交替は様々な主母音間の、どちらかといえば非体系的な交替として現れる。Jaxontov(1960, 1963)とPulleyblank(1962, 1973)が上古漢語の再構に \*-r- (当初は \*-l-)を体系的に取り入れた後、Pulleyblank(1973)は \*-r- が接中辞として機能していると思われる多くの事例に気づいた。梅祖麟もこの研究方針に沿って探求を行った(Mei 1987)。さらに最近では、Sagart(1993d)がより多くの例を挙げ、\*-r- の機能は複数形や集合形(名詞の場合)、反復・持続や努力を示す形(動作動詞の場合)、強意(状態動詞や形容詞の場合)を表すものであると提唱した。確かに、全てのケースの正確な機能について確信することは難しいが、そのような過程が存在したことを確信するには十分な例がある。ここでは、最小限の対立をいくつか挙げるにとどめる。完全な議論については、Sagart(1993d)を参照されたい[^20]。 114. - a. 至 zhì < *tsyijH* < \*tjit-s 「到着する」 - b. 致 zhì < *trijH* < \*t-r-jit-s 「持ってくる」 115. - a. 出 *chū* < *tsyhwit* < \*thjut 「出る、出て行く、去って行く」 - b. 黜 *chù* < *trhwit* < \*th-r-jut 「追い出す」[^21] Pulleyblank(1973)はこれらの \*-r- を使役接中辞の例として挙げているが、Sagart(1993d: 271)が論じているように、\*r-接中形を特徴づけているのは、動作の力強さかもしれない。 116. - a. 洗 xǐi < *sejX* ~ *senX* < \*sɨrʔ 「洗う」 - b. 汛 \[xùin] < *senH* < \*sɨr(ʔ)-s 「洗う、ばらまく」 - c. 汛 xùin < *sinH* < \*s-j-ɨr(ʔ)-s 「ばらまく」 - d. 洒 sǎi < *srjeX* ~ *srɛɨX* < \*s-r-j-ɨrʔ 「ばらまく」(反復) 上の例の形は、\*-j-, \*-r- や接尾辞 \*-s の有無(さらに末子音 \*-r の反射の違い)を反射しているようで、様々な形を示している[^22]。初期の文献では、これらの文字がしばしば入れ替わっており、その接辞の機能を確信を持って整理することは難しい。 117. - a. 空 *kōng* < *khuwng* < \*khon 「空の、空洞の」 - b. 腔 *qiāng* < *khæwng* < \*kh-r-on 「人体の空洞部分」(集合形?)(漢代以前の文献には見られない) 118. - a. 諤 *è* < *ngak* < \*nak 「率直に無愛想に話す」 - b. 詻 *è* < *ngæk* < \*n-r-ak 「主張する、権威的な;論争する、争う;攻撃する」(強意) - c. 頟 id. 「荒々しい」(強意) 119. - a. 行 *háng* < *hang* < \*gaŋ 「行、階層」 - b. 行 xing < *hæng* < \*g-r-aŋ 「行く、進軍する、旅行する」 120. - a. 闇 *àn* < *ʔomX* ~ *ʔomH* < \*ʔɨmʔ ~ \*ʔɨm(ʔ)-s 「暗い」 - b. 暗 *àn* < *ʔomH* < \*ʔɨm(ʔ)-s 「暗い」 - c. 黯 *àn* < *ʔɛm* ~ *ʔɛmX* < \*ʔ-r-ɨmʔ 「深く暗い」(強意) 121. - a. 貫 *guàn* < *kwanH* < \*kons 「~の中心を通る」 - b. 貫、慣 *guàn* < *kwænH* < \*k-r-ons 「親しんでいる、行う、慣れている;習慣;用法」(反復) 122. - a. 奸 \[*jiān*] MC *kan* < \*kan 「裏切り者;背信者;違反者」 - b. 姦 *jiān* < *kæn* < \*k-r-an 「極悪非道、裏切り者;邪悪;姦通」(強意?) 123. - a. 挾 *xié* < *hep* < \*N-kep 「つかむ、しっかり持つ」 - b. 狹 *xiá* < *hep* < \*N-k-r-ep 「狭い」 124. - a. 眼 *ěn* < *ngonX* < \*ŋɨnʔ 「膨らむ、突き出る」 - b. 眼 *yǎn* < *ngɛnX* < \*ŋ-r-ɨnʔ 「眼球」(集合・複数?) 125. - a. 齊 *qí* < *dzej* < \*N-tsʰɨj 「同じ、等しい、並んだ」 - b. 儕 *chái* < *dzrɛj* < \*N-tsʰ-r-ɨj 「種類、分離、同等」(集合) - (妻 *qī* < *tshej* < \*tsʰɨj 「妻」とも比較されたい) 126. - a. 函 *hán* < *hom* < \*gom 「含む」 - b. 咸 *xián* < *hɛm* < \*g-r-om 「全ての;兼ねる;完全に;すべて」(強意?) 次の並行する2つの例は、親族用語が \*r-接中過程によって派生する可能性を示しており、興味深い。 127. - a. 博 *bó* < *pak* < \*pak 「広い、大きい」 - b. 伯 *bó* < *pæk* < \*p-r-ak 「長男(周代初期), 父の兄(後世)」(Schuessler 1987: 43) 128. - a. 芒 *máng* < *mang* < \*maŋ 「広大な」 - b. 孟 *mèng* < *mængH* < \*m-r-aŋ-s 「長男」 現代方言における接中辞の痕跡(Li 1991参照)や、さまざまなオーストロネシア語族の言語における接中辞は、これと並行するものかもしれない[^23]。 ## 3. 重複 上古漢語における重複の過程はよく知られており、広く議論されている(例えば、Zhou 1962: 96–201を参照)。例えば、『詩経』の最初の詩には次のような重複形が見られる。 129. 關關 *guānguān* < *kwæn-kwæn* < \*kron-kron 「(ミサゴの鳴き声)」(完全な重複) 130. 窈窕 yǎotiǎo < *ʔewX-dewX* < \*ʔiwʔ-liwʔ 「優雅な、美しい」(韻のみが関与する部分的な重複、伝統的な用語では「畳韻」) 131. 參差 *cēncī* < *tsrhim-tsrhje* < \*tsʰ-r-jum-tsʰ-r-jaj or \*s-hlrjɨm-s-hlrjaj (Sagartの提案) 「不均等な、不規則な」(頭子音のみが関与する部分的な重複、伝統的な用語では「双声」) 132. 輾轉 *zhǎnzhuǎn* < *trjenX-trjwenX* < \*t-n-r-jenʔ-t-n-r-jonʔ 「めぐりめぐる」(上記の例49参照) この最後の例は、主母音の交替を除けば重複音節が同一であるという重要なサブタイプを示している。これは(頭子音は同じで韻が異なるため)伝統的には 双声 *shuāngshēng* 「頭子音のペア」と呼ばれるタイプの重複と考えられているが、別グループとして扱う価値がある。Karlgrenによる上古漢語再構では、母音の交替は非常に混沌としているように見えるが、上古漢語の母音の再構を改良することでパターンはより明確になる。重要なタイプのひとつに、\*e/\*o 二音節語(Baxter 1992等を参照)がある。これは、第1音節が \*e を持ち、第2音節が \*o を持つ以外は同一の音節で構成される。上記以外の例をいくつか挙げよう。 133. 刺促 *qìcù* < *tshjek-tshjowk* < \*tsʰjek-tshjok 「忙しい」 134. 間關 *jiānguān* < *kɛn-kwæn* < \*kren-kron 「戦車のくさびの音」 135. 繾綣 qiǎnquǎn < *khjienX-khjwonX* < \*kʰjenʔ-kʰjonʔ 「しがみつく、固執する」 136. 契闊 *qièkuò* < *khet-khwat* < \*kʰet-kʰot 「束縛される」? [^24] 137. 鞞琫 *bǐngběng* < *pengX-puwngX* < \*peŋʔ-poŋʔ 「鞘飾り」 138. 郤曲 \[*xì*]*qū* < *khjæk-khjowk* < \*kʰrjek-kʰrjok 「歪んだ歩き方」 139. 邂逅 *xièhòu* < *hɛɨX-huwX* < \*greʔ-groʔ 「のんきで幸せ」 140. 踟蹰 *chíchú* < *drje-drju* < \*drje-drjo 「歩幅を前後させる」 141. 蜘蛛 *zhīzhū* < *trje-trju* < \*trje-trjo 「蜘蛛」 142. 町疃 *tǐngtuǎn* < *thenX-thwanX* < \*tʰenʔ-tʰonʔ or \*tʰenʔ-tʰonʔ 「足下に踏みつけられる、踏みつぶされる」。 \*i と \*u の交替も見られる。 143. 觱沸 *bìfú* < *pjit-pjut* < \*pjit-pjut 「(風や水の流れが)速い」 144. 蟋蟀 *xīshuài* < *s\(r)it-srwit* < \*srjit-srjut 「コオロギ」 145. 伊威 *yīwēi* < *ʔjij-ʔjwɨj* < \*ʔjij-ʔjuj 「ワラジムシ」 これ以外にもさまざまなパターンがある。このような表現形式は東アジアや東南アジアの言語に広く見られるが、決してその地域に限ったことではない。英語にも、*zigzag*, *riffraff*, *seesaw* (*teeter-totter* とも)などの「双声」表現や、*willy-nilly*, *even-Stephen*, *helter-skelter* などの「畳韻」表現がある。 ## 4. 複合語 音韻的単語、構文的単語、基本的表現の区別を思い起こすことで、この概念を明確にすることができる。この用語が通常使われるように、複合語として認定されるためには、表現は通常、音韻論的基準か統語論的基準のいずれか、あるいは両方によって「単語」でなければならない(例:blackbird、turnkey)。*black sheep of the family* のように、意味的に基本的な表現(つまり、その部分からは意味が予測できない)でありながら、単語の他の典型的な性質を持たないフレーズは、通常、複合語ではなくイディオムと呼ばれる[^25]。 上古漢語には音韻論的単語を識別する信頼できる方法がなく、また形態素境界とは対照的に単語境界を示すものがないため、統語論的な観点から見ると、一連の形式が単語なのか句なのかに判断するのは困難なことが多い。例えば、『詩経』に見られる次の表現を考えてみよう。 146. 黄鳥 *huáng-niǎo*, MC *hwang tewX* < \*N-kʷaŋ tiwʔ 「黄色い鳥」[^26] これが英語 *bláckbird* のような複合語なのか、英語 *blàck bírd* のような構文句なのかはわからない。 とはいえ、場合によっては、統語論的基準によって複合語を識別できることもある。特に、通常の統語論的処理によってより単純な表現から導出できない複合表現は、統語論的単語とみなされなければならない。 例えば、次の表現を考えてみよう。 147. 君子 *jūnzi* < *kjun-tsiX* < \*k-lju\[r,n]-tsjɨʔ 「君主、王子」 これは 君 *jūn* 「支配者」と 子 *zǐ* 「子供」という2つの名詞からなる。名詞句を結合させる規則的な統語論的過程は存在するが、その結果は所有構造ではなく、等位構造になる(例えば、父母 *fù mǔ* 「父と母」, 仁義 *rén yì* 「博愛と正義」)。「支配者の子供」という意味の句を作るには、おそらく「君之子 *jūn zhī zǐ*」と言わなければならないだろう。つまり、統語論的理由から、君子 *jūnzi* は句ではなく複合語「支配者-子供」(つまりN⁰、統語論的単語)であることは明らかである。もちろん、これは基本表現(意味論的単語)でもあり、文字通りの「支配者の子供」という意味ではなく、「紳士」というような意味である。 この議論は非常に多くの表現に当てはまり、所有格標識 之 *zhī* を使わずに、名詞が第1要素が第2要素を修飾する形で結合している場合(英語 *shoelace* ⇔ *a shoe's lace* と比較されたい)、その表現は句ではなく1つの統語論的単語であると考えるのが妥当であろう。その他の上古漢語の例には次のようなものがある(Schuessler 1987より引用)。 148. 邦君 *bāngjūn* < *pæwng-kjun* < \*proŋ-k-lju\[r,n] 「(\*国-支配者→)国の支配者、領主、地主」 149. 木瓜 *mùguā* < *muwk-kwæ* < \*mok-kʷra 「マルメロ *Cydonia oblonga*」 150. 中日 *zhōngrì* < *trjuwng-nyit* < \*trjuŋ-ŋjit 「(\*中間-太陽・日→)昼」 上古漢語において統語論的単語と考えなければならないもう一つの複合表現タイプは、*turnkey* や *scofflaw* タイプの複合表現、すなわち動詞の後に目的語の名詞が続くもので、一般的に指示された行為や機能を実行する人物を指す。上古漢語には、次の動詞を使ったこのような表現が数多くあった。 151. 司 *sī* < *si* < \*sjɨ 「責任を持つ、担当する」 次の例は典型的な 司 *sī* の複合語(2音節の苗字として残っている)である。 152. 司馬 *sīmǎ* < *si-mæX* < \*sjɨ-mraʔ 「(\*管理する-馬→)王室や封建的な世帯を担当する役人」 司馬 *sī mǎ* 「馬の世話を担当する」は、通常の構文規則では完全に正しい動詞句となるが、名詞句としての使用を許可するような構文規則はないため、名詞用法においては、1つの統語論的単語とみなさなければならない。その他の例(苗字としても使われるものもある)には以下のようなものがある。 153. 司工 *sīgōng* < *si-kuwng* < \*sjɨ-koŋ 「(\*管理する-労働者→)職人の監督者」 154. 司寇 *sīkou* < *si-khuwH* < \*sjɨ-kʰos 「(\*管理する-犯罪の→)犯罪者を担当する役人」 155. 司徒 *sītú* < *si-du* < \*sjɨ-da 「下働きを担当する役人(すなわち、強制労働者)」 156. 趣馬 *cǒumǎ* < *tshuwX-mæX* < \*tsʰoʔ-mraʔ 「(\*急ぐ-馬 ?→)安定した支配者」 157. 作冊 *zuòcè* < *tsak-tsrhɛk* < \*tsak-tsʰr(j)ek 「(\*作る-筆記→)書記、記録者」 このように、上古漢語の複合語に関する情報は不完全だが、新しい統語論的単語を作る手段として複合語が使われていたことを示す証拠は十分にある。 ## 5. 結論 上古漢語には形態論がないどころか、さまざまな形態論的過程が存在し、一つの語根から機能的・意味的に異なる形を導き出したり、繊細な形や表現的な形を作り出したり、語根を組み合わせて新しい単語を作り出したりすることができた。この点で、チベット文語のようなシナ・チベット語族の他言語や、台湾のタイヤル語のようなオーストロネシア諸語と類型的に類似していた。これらの過程は、屈折ではなく派生が主であった(ただし、自動詞・受動形を派生させるための接頭辞 \*N- は、多くの屈折体系におけるヴォイス標識と類似している)。チベット・ビルマ語族には、主語と動詞の一致を表す屈折を持つ言語もあるが、現在のところ、それがこれらの言語における革新的なものなのか、それとも中国語で失われた古い屈折体系を保存しているのかはまだ不明である。 さらに、上古漢語の形態論的過程のいくつかは、現代方言にも残っている可能性がある(接頭辞 \*k- や接中辞 \*-r- など)。残りは失われたのではなく、他のものに置き換えられたと考えられる。なぜなら現代中国語の形には、標準官話やその他のよく知られた方言に代表されるものに限らず、多様な形態論的過程が見られるからである。派生形態論には、学習しなければならない形態素の数を減らし、必要に応じて新しい語彙を作り出す適応的なメカニズムを提供するという機能的な利点があるため、これは予想されることである。 上古漢語について、統語論のみによって結合され(あるいは統語論さえも無かったかもしれない)、明白な文法的標識のない不変の単音節で構成されているという印象が広まっているのは、おそらくさまざまな歴史的状況によるものだろう。 第一に、中国語の古典文献は現代的な発音で読まれるのが普通であり、音変化や形態論の平準化によって、本来の音韻的対立の多くが失われている。その結果、もともと発音が異なっていた多くの文字が、今では同じ読み方になっている。 第二に、書かれた当時でさえ、初期の中国語文献には発音に関して不完全な情報しかなかった。すなわち多くの文字は、当時から意味論的・統語論的文脈に応じた複数の発音を持っていたのである。どの発音をどこで使うべきかという慣習は、『経典釈文』のような文献に部分的に残っているだけである。 最後に、中国語をヨーロッパ諸語の型に押し込めないという(これ自体は称賛に値する)目標は、中国語を「西洋」あるいは「インド・ヨーロッパ」諸語とはまったく異なる特別な、あるいは少なくとも根本的に異なる種類のエキゾチックな言語と見なすという反対の極端につながることもある。 中国語が他の言語、少なくとも西洋言語と、本当にこれほど異なる種類のものだとしたら、それはとても興味深いことである。しかし、言語間の類似点と相違点には、まだ不完全にしか理解されていない多くの異なるパラメータが関係している。「孤立型」「膠着型」「屈折型」といった少数の言語類型が存在するという19世紀的な考え方では、我々が目にする多様性を正当に評価するには明らかに不十分である。また、どのような理論的枠組みを持つにせよ、古今東西を問わず、中国語を全く異なるもの、あるいは人間の通常の言語変異の範囲外のものと見なそうとする願望については、いかなる場合も疑ってかかるべきである。 ## 参考文献 - Baxter, William H. 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(1962). *Zhōngguó gǔdài yǔfǎ: gòucí biān* 中國古代語法:構詞編. Taipei: Institute of History and Philology, Academia Sinica. [^1]: 初期の中国の言語と思想に関する最近の言説では、屈折形態論と派生形態論の区別がしばしば見落とされてきた。前者については(我々が知る限り)、中国語には形態論がまったくなく、統語論だけが残されていたと考えられてきた。統語論すらもなかったと指摘する人もいる(Rosemont 1974、Graham 1989: 392が反対しつつ引用)。音韻論については、Grahamは上古漢語が現代中国語よりも「多くの音韻的対立」を持っていたことを認めながらも、「文字の豊かさと音韻論の乏しさとの組み合わせが、単語の語源や類似の音を持つ単音節間の関係が、語彙の構造ではなく文字の構造に表れるという結果をもたらした」(1989: 389)と主張している。 [^2]: 本論文の二人の著者の役割分担について述べておく。論文全体の文章はBaxterが起草したものだが、接頭辞 \*k- と \*t- に関する部分と接中辞に関する部分はSagartの研究に基づいている。最終的な編集には両著者が参加しており、誤りの責任は共同で負う。上古漢語の音韻論と形態論に関する我々の見解は同一ではないが、実質的な共通点を見出しており、この共通点こそが本論文の基礎となっている。もちろん、いくつかの疑問は未解決のままである。意見の相違がある場合もあれば、単に決心がついていないだけの場合もある。それについては適宜注釈で扱う。Baxterは、1995年の夏、Centre de Recherches Linguistiques sur l'Asie Orientaleに招待していただいたことに感謝の意を表したいと思う。この訪問によって、我々は友好的で刺激的な環境の中で、これらのアイデアを共に議論し、発展させることができた。 [^3]: また、形態論的単語(Sadock 1991: 26–29参照)、そしてもちろん、正書法上の単語が存在する場合は、それも認識すべきであろう。 [^4]: この伝統に関する優れた入門書としては、Dowty, Wall, and Peters(1981)を参照。 [^5]: Waley(1960: 35)をローマ字表記に変えて翻訳した。 [^6]: それぞれの例は、「文字、ピンイン、中古漢語、上古漢語、語釈」の形で示す。ピンインの形は現代標準官話を表し、中古漢語の読みと一致しないものは角括弧で囲む。中古漢語の形は、Baxter(1992: 45–85)で用いられている転写を用いる。この転写は、中国の伝統的文献学における文書資料に見られる音節の扱いを表すことを意図している。上古漢語の形にはアスタリスク「\*」を付している。これらはほぼBaxter(1992)の体系に従っているが、以下の修正を加えている。 1. 中古漢語の有声化を生み出す接頭辞(Baxter 1992: 218–220)は \*ɦ- ではなく \*N- と表記する。Baxter(1992: 221–222)の \*N- は使われていない。 2. 上古漢語の軟口蓋鼻音は \*ng ではなく \*ŋ と表記する。 3. Starostin(1989)にしたがって、音節末子音に \*-j とも \*-n とも区別される \*-r を追加する。 4. いくつかの特定の単語は、証拠の再検討、再構体系の修正、または形態論的証拠の考慮のため、Baxter(1992)とは異なる再構がなされている。 形態論的構造に注意を促すため、部分的にハイフンを用いる。Sagart(1993c)が指摘したように、Baxter(1992)は形態論には比較的注意を払っていない。再構体系の修正版はBaxter(forthcoming)に掲載される予定である。 [^7]: 中古漢語の音節 *tsyet* は、OC \*tjet または \*tjat の反射と考えられる(*dzyet* も同様)。これを \*(N-)tjet を再構したのは、押韻の証拠があるからである。折 は『詩経』では韻を踏んでいないが、\*-at と \*-et の区別を保っている他の文献では \*-et として韻を踏んでいるようである。例えば、『老子』第76章のいくつかの版では 滅 *miè* < *mjiet* < \*mjet 「滅ぼす」と韻を踏んでいる(Lau 1963: 130–131; Baxter 1998)。また \*e の再構は、チベット語の同源語と思われる *gcod-pa* (後述)とも一致する。 [^8]:現在形 *gcod-pa* と命令形 *chod* の母音 *-o-* は二次的なものであり、硬口蓋音 *c-* は \*ty- または \*tsy- の反射である。Beyer(1992: 81–84, 164-165 note 2)参照。 [^9]: 例はBaxter(1995)を参照。 [^10]: 仮にチベット語の形が中国語から借用されたものだとしても(その可能性はある)、この例は中国語の形態論的過程を示す証拠であることに変わりはない。もちろん、その形がチベット語から中国語に借用されたものだとすれば、チベット語における交替が中国語で化石化したに過ぎないと考えられるが、チベット語が同源語を持たない中国語の並行例(後述の 敗 *bài* 「打ち負かす」など)が存在することから、このシナリオは考えにくい。 [^11]: 注6で述べたように、この接頭辞はBaxter(1992: 218–220)では \*ɦ- と再構されていたが、ここではSagart(1993c: 244)に従って、(中国語からヤオ語への借用語に基づいて)何らかの鼻音接頭辞として再構する。Baxter(1992: 221–222)では、後続の阻害音を鼻音に変化させるものとして \*N- と書かれた接頭辞が仮定されていたが、その根拠がほとんど見いだせないため、バランスを考慮して本論文では省略した。 [^12]: 『広韻』は紀元1007年に編纂された『切韻』の改訂版である。引用はChen(1970)の版に基づく。 [^13]: この単語はBaxter(1992: 788)では単に \*djok と再構されていた。 [^14]: 中古漢語の硬口蓋音 昌母 *tsyh-* を説明するのは難しいが、多くの例から、*tsyh-* < \*k-hlj- という規則的発展があったことがうかがえる(Axel Schuessler, 私信)。 [^15]: これは、Baxter(1992: 297, 844 note 212)における、多 *duō* 「多くの」を \*taj と再構し、チベット・ビルマ祖語 \*tay 「大きい、偉大な」と比較する提案とは相反するものである。 [^16]: Baxter(1992: 199–200)では、中古漢語の來母 *l-* は常に上古漢語のクラスター \*C-r- を反射していると仮定されているが、これは決して確実なことではない。この例と続く例では、上古漢語の頭子音 \*r- も來母 *l-* の起源である可能性を残している。 [^17]: ここでは、Starostin(1989)に従って、末子音 \*-j と \*-n の両方と対立するものとして \*-r を再構している。これはBaxter(forthcoming)に含まれる変更である。Baxter(1992: 380)による再構は \*nan であった。 [^18]: 上古漢語において円唇母音と非円唇母音が唇音 \*-m, \*-p の前で区別されていたかどうかについて、二人の著者の意見は一致していないが(Sagart 1993c: 252–254参照)、ここで議論する形態論的過程を説明する目的で、この問題に関してはBaxter(1992: 537–560)の体系に従うことで同意した。 [^19]: Baxter(forthcoming)は、Baxter(1992: 269–290)のように \*-j- の有無ではなく、Starostin(1989: 325-329)に従って主母音の長さの違いを再構している。Baxter(1992)の \*-j- を持つ音節は短母音で再構され、\*-j- を持たない音節は長母音で再構される。本論文ではBaxter(1992)の再構に従う。 [^20]: Sagart(1993d)は、実際には介音 \*-r- は常に接中辞であって語根の一部ではないと提案している。ここではこの問題については保留とする。 [^21]: 出 と 黜 の頭子音の再構は、この諧声系列に軟口蓋音が含まれるため不確実である。すなわち、軟口蓋音形は接頭辞 \*k- を持つのか、あるいは系列全体が軟口蓋音を持っているのか。また、一部あるいは全ての形に、\*-l- を含む頭子音クラスターがあるのだろうか。これらの質問に肯定的に答えるなら、おそらくここには \*kʰl-jut と \*kʰl-r-jut があるのだろう。 [^22]: Starostin(1989: 338–341)に従って、我々は末子音位置におけるかつての \*-r は、通常はMC *-n* になるが、時には *-j* になることもあると仮定する。 [^23]: Sagart(1993a, 1993b, 1994)が提唱した、中国語とオーストロネシア語の遺伝的関係の可能性は、本論文の範囲外である。しかし一方で、Sagartは現在、中国語とチベット・ビルマ語は、どちらかがオーストロネシア語に近いというよりも、お互いに近い関係にあるかもしれないと認めている(1994: 303)。他方、中国語とオーストロネシア語の間で重要な語彙が共有されていることには両著者とも同意しており、これが遺伝的な関係を反映している可能性を否定するつもりはない。 [^24]: 契闊 *qièkuò* の意味については疑問がある。Baxter(1992: 409–410)参照。 [^25]: 実際には、中国語の研究における複合語という用語は、2文字以上を要する表現全般を指す言葉として緩やかに使われることがある。そのため、間關 *jiānguān* < \*kren-kron 「戦車のくさびの音」のような重複表現も複合語と呼ばれることがある。本論文では、この用語を、構成要素が独立した表現として存在する表現に限定する。 [^26]: 黄 *huáng* 「黄色」に対する \*N-kʷaŋ という再構は、それが 光 *guāng* < \*kʷaŋ 「光」の派生語であるという仮定を前提としている。「黄色」のもう一つの可能性として、皇 *huáng* < \*waŋ 「威厳のある、風格のある」に関連していると仮定して \*waŋ が再構できる。