# 言語学のサーベイ論文読んでみた
[物工/計数 Advent Calendar 2022 - Adventar](https://adventar.org/calendars/7701)の2日目です.
どうも皆さんこんにちは, 韓国語喋れるようになりたいけど喋れない計数数理3年の[Ronz (@new_box_)](https://twitter.com/new_box_)です.
いきなりですが, 数学や物理ばかり勉強してると他の分野も勉強してみたいという謎の前期教養気分になります. (なりませんか?)
なので, せっかくの機会だし自分が興味持ってる言語学の論文を読もうという感じになり, 本記事は[The Handbook of Phonological Theory, Second Edition](https://onlinelibrary.wiley.com/doi/book/10.1002/9781444343069)のChapter 15, Intonation MARY E. BECKMAN AND JENNIFER J. VENDITTIを読んで要点まとめ+自分ができる範囲の解説というものになります. では早速見ていきましょう. (論文の選択は[言語科学基礎理論演習Vのシラバス](http://webpark1019.sakura.ne.jp/timetable/2014_g/0150S.html)が参考になりました.)
## Intonation(イントーネーション)とは?
Intonation $\simeq$ Toneであると, 筆者は主張する.
では, Toneの定義を調べると,
- “(in some languages, such as Chinese) a particular pitch pattern on a syllable used to make semantic distinctions” = 音の高さの違いで意味が変わる
- 北京官話の"馬"(3声)と"嗎"(軽声)
- 日本語の"橋"(LH)と"箸"(HL)とか
- “(in some languages, such as English) intonation on a word or phrase used to add functional meaning." = 機能的な意味を発話に加える. 単語を強調するときとか
とConcise Oxford English Dictionary (eleventh edition)で二つの意味が定義されているが, controversialである. (特定の言語に限定してるなど) 定義が曖昧であるゆえ, 以下ではIntonationと意味的に似ているProsody, Toneと併せて詳しく調査することにする.
## Prosodyは何?
日本語=韻律. 本文での定義は
- the set of syntagmatic relationships that hold among an utterance’s **tone**, **vowel**, and **consonant** specifications, as distinct from the paradigmatic relationships of similarity and contrast that hold between these specifications and any other tone, vowel, and consonant specifications that might stand in closely analogous syntagmatic relationships to each other in some other utterance.
- 要するに人が**区別可能な音声特徴**のこと
となる. Prosodyは,
- Prosodic tree
- Autosegmental-Metrical(AM) framework
などで表現される.
<figure><img src="https://static.cambridge.org/binary/version/id/urn:cambridge.org:id:binary:20170505071811140-0672:9781139022064:figu3_5.png?pub-status=live" alt="Prododic tree" width=500 ><figcaption><b>Prododic treeの例</b></figcaption></figure>
<figure><img src="https://www.researchgate.net/profile/Martha-Dalton-2/publication/264880303/figure/fig2/AS:392205895258116@1470520580531/Display-of-Autosegmental-Metrical-analysis-of-an-Irish-utterance-showing-from-top-f0.png" alt="AM framework" width=500><figcaption ><b>AM frameworkの例</b></figcaption></figure>
[音素・音節・モーラ(拍)の違いをわかりやすく解説 – Senwisdoms (sengakuhisai.com)](https://sengakuhisai.com/onso-onsetu-moura-tigai/)
[日本語音声学 第17回 音節・モーラ](http://francais.la.coocan.jp/j_onseik17.html)
[Introduction to Phonology, Part 3: Phonetic Features (pdarragh.github.io)](https://pdarragh.github.io/blog/2018/04/26/intro-to-phonology-pt-3/)
## ToneとIntonationの表現方法
### 音声的表現
人の声は基本的に周期的なものでできてるので, 基本的にToneとIntonationは音高と基本周波数(f0)によって表現できる. しかし, この表現方法にはいくつかの問題が存在している:
- creaky voice(きしみ声)[Why do girls have creaky voices? - YouTube](https://www.youtube.com/watch?v=w7BBNEwyOjw&t=18s)など不規則なものになるとf0を推定できなくなる
- f0がwell definedのとき(音源が周期的なもので構成される)でもallophoneを区別できない(中国語の"王"wangと"黄"huang) ※[異音(allophone) - Wikipedia](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%B0%E9%9F%B3)
- 対立分布にある子音を発音するとき, 発生した気流によりその子音と和まりの母音の基本周波数に変化が起こる可能性がある(micro-prosodic effect) (対立分布とは: [【定義と具体例】音韻論の対立分布と相補分布をわかりやすく図解で解説 | 英文法のスパイス (spice-of-englishgrammar.com)](https://spice-of-englishgrammar.com/distribution/#:~:text=%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,%E5%AF%BE%E7%AB%8B%E5%88%86%E5%B8%83%20%E3%81%9F%E3%81%84%E3%82%8A%E3%81%A4%E3%81%B6%E3%82%93%E3%81%B7%20contrastive%20distribution%E9%9F%B3%E9%9F%BB%E8%AB%962,%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%9E%E3%82%8C%E7%95%B0%E3%81%AA%E3%82%8B%E9%9F%B3%E7%B4%A0%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82))
以上の3つの問題は合成による分析([“合成による分析”法によるホルマント周波数の抽出.pdf (nict.go.jp)](https://www.nict.go.jp/publication/kiho/09/043/Kiho_Vol09_No043_pp155-165.pdf))で解消できる. 例として, close-copy stylizationが使われている. これは, 合成によって発話を近似するものであり, 以下の2条件を満たす必要がある.
- 聴覚上区別できないこと
- 合成するセグメントに音素が含まれていること. つまり, 話者が認識できる言語の特徴量が含まれていること
### 合成による分析(Analysis by Synthesis)
合成による分析とは, 実際に人工モデルをつくり, 強調された音節とフレーズの間の連結部分に注目し, 人間が区別できないくらい元の発話を正規表現で近似することでIntonationを表現する手法.
### 記号表現
以上Intonationの表現方法をいくつか列挙したが, ならばIPAみたいに言語によらず普遍的にIntonationを表す記号あってもよさそうなものであるが, そう簡単にはいかず, 普遍的な記号システムは存在しないのが現状である. 言語環境によらず, 赤ちゃんが最初に発する言葉が"子音-母音"(CV)構造であること([初期言語とは - コトバンク (kotobank.jp)](https://kotobank.jp/word/%E5%88%9D%E6%9C%9F%E8%A8%80%E8%AA%9E-2099794)) から, 各母音と子音が普遍かつ明確に決められるのに対し, 音高とIntonationはそのような明確な分割はないのである. (∵各言語で"子音-母音"(CV)構造の強調方法が違う.) このため, アルファベットでIntonationなど表記を試みようとしても単一の言語でしか意味を持たないことになる.
<figure><img src="https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/02/Cantonese_tones.svg" alt="AM framework" width=500><figcaption ><b>広東語における異なるtoneの例</b></figcaption></figure>
## 終わりに
後半らへんになってくると興味なくなっていき, 選んだ論文ミスったんじゃね?って思いながら読んでいったが, 全体的に面白かったかなと思います.
飛ばし飛ばしでサマリーして+言語学をちゃんと勉強したことがない人が書いた文章なので, 間違いあったらぜひ教えていただける幸いです.