### 春を待つ アドカレ「徒々然々」の記事です。 この記事は[12/2の記事](https://idea-misw.hatenablog.com/entry/2021/12/02/000000)を読んでからの方が楽しめると思います。 # 春を待つ ###### 文 宮澤ブルー 京香「寒い!!!」 東子「12月なんだから当たり前だよ」 隣を歩く親友に軽くあしらわれてしまった。 季節はもう12月。時折冷たく吹く風に、改めて冬の訪れを感じる。 すっかり暗くなった空のもと、私と東子は京浜東北線の蕨駅から線路沿いの道を歩いていた。 京香「せっかく期末試験も終わって遊びたいというのに、世間は冷たいですなあ」 東子「遊びたいと言っても、私達受験生だし程々の方がいいんじゃないかな……」 京香「……東子も冷たいな」 文化祭が終わったらすぐに期末試験という地獄の11月も、この頼れる親友のおかげで乗り切ることができた。ちなみに津田ちゃんはまた補習になった。 文化祭といえば。 文化祭があった11月の頃から、私はちょいちょい東子の家に遊びに行くようになった。やることはそのときによるが、遊んだり勉強会をしたりしてる。 今日も今日とて東子の家に歩いている。 また泊まって勉強会のつもりだったけど、今日の訪問にはもうひとつ目的があった。 京香「そういえば、望遠鏡は見つかったの?」 東子「うん。叔父さんが持ってたのが押し入れに残ってたんだ」 京香「ナイスジョブ!」 東子「イェーイ」 京香「じゃ、それを担いで午前2時踏切に集合だ!」 東子「えっ、そんな時間に行くの!? 踏切ってどこ?」 京香「いや、歌の歌詞だよ……」 そう、今日は天体観測。星を見に出かける。 今夜がピーク、たくさんの星が夜の空に降り注ぐ「ふたご座流星群」。 東子の叔父さんが天体観測が趣味だったのは初耳だけど、それは東子には全く受け継がれてないらしい。BUMPの曲も知らないし…… 東子「おっと」 京香「もー、しっかりしてくださいよ東子様?優等生なんだから」 東子「いやー、京香に比べればそうかもだけど、私なんてとてもとても」 京香「言ってくれるな」 最近東子はくだけた一面を見せてくれることが多くなった。それこそ11月の頃は不安気な顔をしていることが多かったから、元気を出してくれて良かったと思う。 東子は勉強をいつも見てくれるしっかり者でもあり、私のくだらない話を楽しそうに聞いてくれる優しい友達でもある。だから辛い思いはして欲しくないし、いつも優しくしてもらってる分、私も力になりたい。 京香「……頑張らなきゃなー」 東子「何が?」 京香「え?……そりゃもちろん、天体観測だよ」 東子「ああ、寒いからね」 京香「そうそう、この寒さを乗り越えた者にしか流星群は見れないのだよ」 東子「ふふっ、何それ。あっ、ここ曲がるよ」 私達は線路際の道を離れ、路地に入っていく。さっきの道にはちらほらといた人通りや車通りは全くなく、いかにも「閑静な住宅街」といった感じだ。東子の家はその先にある。 京香「ところで東子、流星群の話をしたのは私だけど、よく家に誘ってくれたね」 東子「え?不満だった?」 京香「いや、いつも遊びに行くときは私が押し掛けてるから。何か誘われ慣れてなくて」 東子「あー、確かにそうだね。いや、星を見るなら、暗い場所がいいのかなって思ったから……うちの近所みたいな」 京香「自虐が過ぎない?」 東子「事実だよ」 京香「いやでも、駅前は賑やかだったし、線路沿いも団地が立ってて明るいじゃない?ここも大都市みたいなものだよ」 東子「うちの近所は昔からの住宅街だから。だから静かだし、邪魔するものも明かりもないし、空は広いわけじゃないけど星がよく見えるよ」 京香「さいですか……」 東子「そういえば、私も意外に思ったんだけど」 京香「何が?」 東子「そもそも私を天体観測に誘ってくれたこと。蒲田さん達と行くのかと思ってたよ」 京香「ああ、あの二人ね……」 蒲田さん達と東子が呼ぶのは、私の中学時代からの友人、蒲田美咲と渋谷さくら。 1年生のときは東子と同じクラスで、別のクラスになった私の方からよく二人の所へ遊びに行っていた。 京香「最近二人とはあんまり絡んでないなあ。それに、今は東子が一番の友達だよ」 東子「本当?嬉しいな」 自分で言ってみて気づく。確かに最近、あの二人とはあまり話していない。 東子と同じクラスになって一緒に行動することが増えたから気にならなかったけど、私が声をかけに行くことをやめてから、二人が私のところに来ることもなくなった。 私は昔から友達が多い方だった。と言うより、人と話すことに抵抗がないから、よく話すぐらいの友達はどんどん増えていった。 でも一度環境が変わってしまえば、みんな私のまわりから去っていく。 自分にはその程度の友達を作る力しか無かったのかもしれない。 でも、東子との関係はそれで終わりにしたくない。 東子は私よりも成績がいいし、私が進む場所よりももっと高みを目指せると思う。そうしたら、今までの友達と同じで、また離れ離れになってしまう。 さっきも回想した通り、東子はめちゃくちゃいいやつだ。だからこれからもこの関係を大切にしたいし、私も東子の力になりたいと思ってる。 あれ? 力になると言っても特別なことは何もできてないし、東子の元気がなさそうなときも、私には明るい話をしたり、普段通り接することしかできていない。 私は東子に支えられてるばかりで、支える役割は果たせてるのかな? 東子「どうしたの?」 京香「えっ?」 東子「急に静かになったなと思ったから」 京香「……さっき言った、美咲とさくらのこと」 東子「うん?それがどうしたの?」 京香「全く喋らなくなっちゃったなーって思ったから、東子とはそうなりたくないなって思って」 東子「うんうん、嬉しいよ」 京香「でも、考えてみたら東子の世話にはなってるけど、私は東子の力になれてるかわからなくなって」 京香「それに、東子は私よりも頭がいいじゃない?大学も私と違ってもっといいところに行くでしょ?だから一緒に入れるのもあとちょっとだなって思ったから……」 喋ってる途中で足が止まってしまい、気がつけば暗い路地で立ち話になっていた。 ここまで言って思ったけど、だいぶ独りよがりな話をしてるな。東子、引いてないかな…… 東子「……大丈夫、私も京香と同じだよ」 京香「え?」 思わぬ一言に、驚いてただ東子の顔を見てしまう。東子もこっちを見つめていて、その目は私の思う東子よりもずっと強く、優しい眼差しだった。 東子「京香がいつも一緒にいてくれるから、私は凄い勇気を貰ってるんだ。役不足なんかじゃないよ」 そのまま、東子の目は空へと向いた。街明かりのほとんどない空には、さっきまで見えていなかった、たくさんの星が輝いているのがよく見える。 東子「それに、私も京香と離れたりしたくない。別の道に進んだって、私はずっと京香と一緒に生きていくって、支え合っていくって決めたから」 星空を見つめたまま、東子はそう言いきってくれた。 京香「東子……」 東子「あっ!流れ星」 京香「えっ!?」 空に向かって東子は指をさす。 でもその指を目で追っても流れ星は見つからず、少し空を見渡すと。 京香「あっ、今度はあっちに!」 東子「えっ、それは見えなかったな……というか、もう流星群始まってるの?」 京香「そうみたいだね……って、早く望遠鏡を取りに行かなきゃ!急ごう、東子!」ドタドタッ! 東子「ええーっ、ちょっと待って京香!」 京香「ずっと私と一緒に来てくれるんでしょ!早く早く!」 東子「そうは言ったけれども〜!!」 東子が言っていた「暗くないと流星は見えない」ということ。 明るいから見えてないだけで、本当に綺麗な星はそばにある。 そして本当に暗くなったときに一緒にいてくれる仲間が必ず見つかる。 東子と流星を見つけて、そう確信した。 --- ブルー「こいつらこれといって何もないときにすぐ将来に不安感じるな……」 ツッコミのために生み出した空想のイデア「書いたお前がそれを言っちゃおしめえよ」 SS形式で後書きに書きたかったが、セリフを考えるのが面倒になった話 - 東子の家が蕨の辺りというのは、何となく決めていた。先日夜の蕨を歩いていて「いいなこの街」と思っていて改めて蕨に決めた - 続きを作ることは「雨の相」完成時には全く考えてなくて、夜の蕨を歩いてたとき急にアイデアが降りてきた - 二次創作OKって言われたし作るしかないよね!! - 流星のピークは13-14日だったのに、14日まで投稿が遅れちゃ意味ないじゃないですか - タイトル「春を待つ」は12月が「春待月」と呼ばれていることから。春からの新生活を見据えて進学の話とかをしてるのが申し訳程度の「春待ち」要素 - 本当は受験が終わって春からの新生活を書こうと思ったが、12月の一晩だけで話が纏まってしまいました 以上です。もう続きは無いので、誰かこの先の物語を作ってください。僕も見たいです。