# 投資信託の裏話をしてみます <head> <script type="text/javascript" asyncsrc="https://cdnjs.cloudflare.com/ajax/libs/mathjax/2.7.5/MathJax.js?config=MML_SVG"></script> </head> 皆様 平素より大変お世話になっております。MIS.W53代のろろと申します。 [みす老人会 2nd Advent Calendar 2023 ](https://adventar.org/calendars/9335)の12/1の記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。 皆様は、投資信託のファンドをご購入されたご経験はございますでしょうか。NISAや企業年金にて投資するファンドを選んだ方もいらっしゃるかもしれません。今回は、その投信ファンドの中のお金がどのように管理されているか、つまり投資信託の計理について**ざっくりと**記載いたします。 ・投資信託って何? ・資産管理業務って何? ・基準価額って何? あたりからいきます。 #### Q.なぜこんな記事書いてるんですか? A.私が「資産管理業務」2年目だからです。 社会で人間をしていくために資産管理業務に就いてから2年が終わろうとしています。OJTで教えていた後輩に、次の新人のトレーナーたる力をつけてもらう仕上げのため、その準備として自分の知識整理のため、この記事を書いております。つきましては、**2年目の業務経験と本の知識で書いている**点をご了承くださいませ。嘘は書かぬよう気をつけます。誤りを見つけた有識者の方は是非ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします。 後半は外債についてのお話です。読むのに疲れた方はお休みしましょう。私はアドカレでビジネスメール調は限界を感じたのでやめます。 ## Q.そもそも投資信託ってなんですか? A.お金をプロに運用してもらう商品と考えましょう。 ファンド購入者のお金を元手にファンド運用者が様々な投資を行い、その運用結果が購入者に還元されます。どんな投資(株か債券か先物取引かSWAPかなど)で運用されるかはファンドを作った運用者の特徴に依るため、ご購入される皆様は、どれくらいお金が増えるかだけでなく何に投資するかで選ぶこともあるのではないでしょうか。最近はSDGsや環境に配慮した会社の株への投資を売りにしているファンドもあると耳にいたします。「どれくらいお金が増えるか」と記載しましたが、あくまで運用結果を還元するもののため、お金が減ることもあります。 > ファンドの投資内容は運用者の特色がよく出ます。大手は幅広いファンドを持っていますし、外資系は投資対象が特殊であったり前のめりであったり、アセマネ会社のグループ会社の特性(証券会社や損保、生保系)を活かした投資対象を選んでいたりします。 ## Q.資産管理業務ってなんですか? A.お客様の意向に沿って資産を出入りさせ、帳簿をつけてお知らせする**事務**です。 投信領域での資産管理の大まかな目標は、受益者のために**正しく**、かつ**迅速に**計理を行うことです。毎日のゴールは**基準価額の算出**です。まず、資産管理をする人たち(受託銀行)の立ち位置を図で確認してみます。 <center> ![IMG_4A7EE2988E5C-1](https://hackmd.io/_uploads/BkS1UiBw6.jpg) 図1 手書きの温かみのある関係者図 </center> 「信託」には受益者、委託者、受託者の3者が登場します。例えば、父親(委託者)が信託銀行(受託者)に資産を預けて運用を任せ、息子(受益者)が将来的に受け取るという場合が典型的ですが、受益者・委託者は一致することもあります。 投資信託においては、受益者から集めたお金を、委託者が受託者に預けて保管しつつ運用指図を出し、最終的に受益者へ還元するという形態です。 図1の関係図の中で、受託銀行としているところが資産管理をしている人たちです。大抵は受託銀行から更に再信託された信託銀行で実質的に資産管理事務を行なっています。受益者は投信ファンドをご購入された方々です。受託銀行から見た直接のお客様は委託会社ですが、受益者である投信ファンド購入者のために業務を行うことも求められています。 > 受益者、委託者第一のFiduciary Dutyと呼ばれる理念・責務です。法律の遵守以上に受託者として責務を果たしていかなければなりません。サービス向上への努力が必要ということですが、具体的に定められているわけではないため一朝一夕にはいきませんね。 ## Q.基準価額ってなんですか? A.投信ファンドのその日の値段です。 投信ファンドの資産価値は日々変動しており、その資産価値が1口当たりいくらか、というものが基準価額です。すなわち、次の式のように計算されます。 *基準価額 = 信託財産純資産総額 ÷ 残存受益権口数 (×計算口数(1万口))* 「信託財産純資産総額」はファンドが持っている資産から負債を差し引いて、日々変化する価値(評価損益)を足し引きした結果です。 以下は資産、負債、評価損益のイメージです。 ・資産:株や債券、もちろんお金など ・負債:購入者への未払金、受託者への報酬など ・評価損益:為替レートや株の時価など > 貸借対照表がわかる方向けですが、ファンドの貸借対照表上の資産科目合計-負債科目合計、と評価損益で純資産が計算されるということですね。 基準価額は委託会社(事務代行会社)と受託銀行の2者で計算、照合して合致したのち、販売会社を通じて受益者へ公表されます。二者照合のため、受託銀行からの計上報告(や委託の計上指図)に基づき、計理は委託会社側でも日々同様に行われております。 ここからは私の担当である、外国債券の利金の視点から記述いたします。 > 日本では慣例的に二者照合を行っており、もちろん、1円の不一致も許されません。基準価額の誤りが減るようにという目的ですが、これは日本が「お金のズレ」に敏感だからなのか、海外では受託銀行の一者計算のみの場合が多いようです。「**やりすぎ**」「海外資本が日本の投信に参入しづらい」という意見から最近は日本でも一者計算が推進されてきています。 ## Q.外国債券の「利金」ってなんですか? A.債券を通して貸したお金に対する利息です。 外国債券とは基本的に海外の発行者である債券です。(外貨建債券を外債扱いしている場合もあります。)債券を買うことで、債券の保有者は発行者にお金を貸している状態になります。いつかお金の返済(債券の償還)が行われますが、それまでは発行者から保有者に対し、利息(クーポン)が支払われ、これを利金と呼んでいます。利金の支払い、利払の方法や金額は債券の発行時に取り決められていますが、基本的に利金額は以下の通り計算されます。 *利金額 = 保有額面 × 年利率 × 日数 ÷ 年日数* 例えば、 ・保有額面 1,000,000 ・利率7.3% ・利渡日は6/20、12/20の年2回 ・1年を365日と考える という条件の場合、 *1,000,000 × 7.3% × 183(6/20〜12/20) ÷ 365 = 36,600.00* が12/20の利払いで受け取る利金額となります。 >利息と呼んでも全く問題ないのですが、債券の売買にかかる「経過利息」と区別するためかもしれません。 ## Q.決まった支払いの資産管理って人間の仕事あるの? A.支払いは世界中の様々な発行者が行うため、案外マニュアル対応が必要です。 外債の利金が入金される時の関係者を図2で確認してみます。 <center> ![IMG_F36C45D3214D-1](https://hackmd.io/_uploads/HJSwDjBvp.jpg) 図2 手書きの温かみのある関係者図その2 </center> 入金とは言っても、ネットバンクと似て現金は動かず、口座への入金の記録が行われています。受託銀行では利金の入金をSWIFTのMT566およびMT950の受信により感知し、利金の入金計上と委託会社宛報告を行います。入金計上を行うことで、その日のファンドの純資産、ひいては基準価額に反映されます。先述した通り、資産管理は**正しく**、かつ**迅速に**行わなければなりません。 > SWIFTは国際銀行間通信協会という銀行同士でお金や証券の移動の際に用いる通信でMT(メッセージタイプ)によって通信内容が決まっています。566は利払など権利イベント、950は単に資金の移動に関するSWIFTです。利払の場合、566でイベントと金額の予告が来て、950で実際に入金されたことを確認、という2本セットとなります。 「正しさ」については、 ・入金した金額は予定していた金額どおりか? ・予定外の金額の場合、なぜ相違しているのか? ・税額は正しいか? ・予定外の入金ではないか? といった点から考え、妥当と判断できない利金は計上を保留します。図2で言うカストディの口座に入金はされていても、誤ったお金を基準価額には反映させてはならないからです。懸念点についてカストディや外部情報ベンダーへ調査を行い、妥当であると結論が出た時に初めて計上を行い、基準価額へ反映されます。 しかし、計理には「迅速さ」も求められます。これには2つの観点があります。 1つめは**短期間**という側面です。正しいお金であれば即日、基準価額へ反映させるべきです。また口座にはお金があっても計上していないお金は更なる運用に使えず、ファンド全体への不利益となるため、調査に時間をかけすぎてはいけません。2つめは**短時間**という側面です。その日の基準価額の算出に間に合うよう、決められた時刻までに計上と委託会社宛報告を行う必要があるため、計上可否を迷う時間はありません。計上するか保留するかを素早く判断します。 ## Q.利金の金額が予想外ってどういうことですか? A. 利金額の算出に用いる要素(額面、利率、日数etc...)のいずれかが異なることが多いです。 金融の決まった支払いに対して、事前に情報収集しておけば予想外など滅多にないだろうと思われるかもしれません。私はそう思っていましたが、よく計上保留は起こります。 **あるある**としてわかりやすい事例は、 ・認識していた利率情報が古い ・他の国の休日を考慮する可能性 ・利払直前の売買が反映されていない可能性 ・債券の種別、運用者の性質により認識していた税率と異なる などです。 > あるあるから外れたもの、そもそも予定していないお金や予定額からかけ離れた金額のときは誤入金、2重入金のことも多いです。どうしてそんなことが起きるのでしょう、不思議ですね。 ## Q.利金の計理って具体的に何するの? A.利金計上と未収利息の管理です。 債券は、保有を開始した日を起点として、直近で受け取る利金額を日割りした未収利息(資産)を毎日計上します。なぜ日々未収利息を計上するのかについて確認するために、全く未収利息を計上していない場合を考えてみます。 例として、設定は以下の通りとします。 ・投信ファンドの残存受益権口数は10,000口 ・銘柄名:ABC債を額面100,000保有 ・ABC債は通貨USD、利率7.3%、利渡日6/20と12/20、ひと月30日&年360日計算 ・JPY/USD=140.00 この時、6/20利渡時の利金額は$3,650.00(=100,000×7.3%×180/360)です。 日々の未収利息を計上しない場合、利金の入金計上日に次の仕訳が切られます。 <center> ![IMG_5492DB4F7602-1](https://hackmd.io/_uploads/HJilOiHw6.jpg) 図3 手書きのため図となった利金入金の仕訳 </center> 計上日が6/21のとき、この利金計上によって6/21の純資産は前日に比べて+$3,650.00=+¥511,000と急激に増大し、基準価額も51円(=¥511,000/10,000口)の上昇となってしまいます。 6/20にファンドを解約した受益者Aさんと6/20に購入した受益者Bさんにとって、この基準価額の急上昇は損でしょうか、得でしょうか。 Aさんは間接的にABC債の保有者だったはずですが、6/20まで保有していたことによる利息が反映されていない基準価額で解約金を受け取ることになってしまいました。対してBさんは購入した次の日6/21には1口あたり51円も資産価値が上昇しておりウハウハ気分で、保有期間に対して不公平なようです。さらに、大抵の債券は決まった日付(米国債は15日など)で支払われるため、この投信ファンドは「20日あたりに購入して21日あたりに解約する」のが最もファンド購入者にとって得な投資方法となります。ファンドを長く保有するだけ損なわけです。これではファンドを長く保有する受益者は減り、ファンド運用上も全く好ましくありません。 保有している期間が基準価額に反映されず不公平、という問題を解消するため、将来受け取る利金額を、日割りして未収利息(資産)として計上することで基準価額に反映させます。例に挙げたABC債の場合、毎日$20.00(=100,000×7.3%/365)の未収利息を以下の仕訳で計上します。 <center> ![IMG_B3B33B3D6C27-1](https://hackmd.io/_uploads/HkiIdiHva.jpg) 図4 手書きのため図となった日々の未収利息計上の仕訳 </center> 将来の利金額を予測して未収利息を計上するため、予測材料である利率や税率など銘柄情報について、いつも最新情報を得ていなければなりません。予測を見誤ると、未収利息から乖離した利金額が入金され、基準価額の急激な変動に繋がってしまいます。 ## Q.債券に関する仕訳っていつ何が起こるの? A.買付・利金の入金・(一部売却・)償還といったイベントが起こります。  例に挙げたABC債の買付から償還までの仕訳の動きを見てみましょう。 <center> ![IMG_A9169006FBD4-1](https://hackmd.io/_uploads/S1vxCfoPT.jpg) 図5 手書きの温かみの増した仕訳 </center> ## おまけ よくみる外債のジャンルを列挙します。おまけです。 * 変動利付債:ジャンルというか利率が利払いごと変化していく債券のこと * 物価連動債:各国の物価指数に連動して利金額が変化する債券。 インフレだと金額が上がります。 * モーゲージ債:個人の住宅ローンをまとめて債券化したもの。 住宅ローンで個々人が返済するからか一部の元本が早めに償還されるペイダウンがおきます。サブプライムローン問題に関わるものです。 * CAT債:CATはカタストロフィーの略。 損保会社が災害での保険金支払いリスクを債券に肩代わりしてもらう形式の債券。リスクは金融商品になるという分かりやすい例、だと思います。 * PIK債:PAY IN KINDの略。 発行者は利金(CASH、お金)の代わりに一定利率の元本で支払うことで保有者の額面を増やし、次回以降の利金額が増えるようにすることで、お金で支払うことを先延ばしにする形式の債券です。性質上、資金繰りが不安定な発行者が多く債務不履行にもなりやすい印象です。 * DUAL債:Dual CurrencyのDUALで、元本と利金や償還金の通貨が異なる銘柄。マイナー通貨建USD支払をよく見ます。FXの利益のようなものも込みだろうと思います。 # おわりました 知識整理にご協力いただき、ありがとうございました。知る機会はなく知っても役立つ情報ではないと思いますが、話のタネになれたら嬉しい裏話でございました。 明日12/2付の記事はG2さんのあの短編、クランクさんの好きコンテンツ記事です。 ##  参考文献 * [SWIFT](https://www.swift.com/ja) * [「資産運用立国」の実現に向けた資産運用業等の抜本的な改革への対応に係る投資信託協会としての基本的な考え方](https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sisan-unyo/siryou/20231003/02-3.pdf) * [投資信託協会 投資信託を学ぼう](https://www.toushin.or.jp/investmenttrust/about/what/index.html) * [信託協会 信託について](https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/base/) * [野村證券 証券用語解説集](https://www.nomura.co.jp/terms/) * [三井住友DSアセットマネジメント わかりやすい用語集](https://www.smd-am.co.jp/glossary/) * [投資信託の計理ハンドブック 制度の仕組みから決算・開示まで](https://honto.jp/netstore/pd-book_32618615.html)