明解ヤンデレ中級編:最終話 == すみません、思ったより忙しくなってしまい投稿が遅くなってしまいました。52代takowsabiです。 明解ヤンデレ中級編も今回で最終話です!早いものですね。したがって、[みす 52nd Advent Calendar 2018](https://adventar.org/calendars/3216)も最終日です。お疲れ様です! ツイッターの方で投票いただいた方はありがとうございます。非常に僅差で、両キャラを生み出した私としてはとてもうれしかったです。 投票の結果、選ばれたのは義妹でした。やっぱり妹属性は正義ですね。 ということで、さっそく本編の方始めていきたいと思います。 --- ——————12月24日 家を出てから一週間がたち、日付は、いつの間にか部長と学校前で会おうと言われた日の前日になっていた。 あれから、学校にも行かず、駅近くのネットカフェやカラオケボックスを転々とする生活を送っている。通帳を持ち出したとはいえ、我が家の蓄えは少ない。長くホテルに泊まるほどのお金は手元にはなかった。 父が僕に対して捜索願を出すことも、通報をすることもないだろう。父を瀕死に追い込むようなあの行為が、正当防衛であることの証拠は、この体に長年刻み込まれている。 しかし、それでも、これからの暗い人生を思い浮かべると、何もする気は起こらなかった。 あれから、美夏のお見舞いにも行っていない。病院から容態が回復した連絡を聞き心底安心したが、彼女の縋るようなあの表情を思い出すと、これからどうやって顔を合わせていいのか、分からなくなっていたからだ。 そんなことを考えていると、ネットカフェの机の上に置いた僕の携帯がバイブレーションを起こし、メールの着信を伝えた。携帯の画面を見ると、青木美夏の名前が映っている。 ついさっきまで彼女のことを考えていた僕は、奇妙なタイミングの一致に一瞬血の気が引いていくのを感じた。 恐る恐るメールを開くと、本文は以下のようだった。 『晴翔さん、この前は非常にお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません。 私がしてきたことを許してくれとはいいません。それでも、一度だけ、あなたに謝らせていただけないでしょうか。 明日の25日、私の病室でお待ちしています。』 まず、あれから一度も会っていなかった美夏が、大事なさそうであることに安堵する。 そして、偶然なのか、それとも知ってのことなのか、部長と同じ明日の25日に会いたいという義妹の要求に、僕は大きな選択を迫られていることを直感する。 どちらにも行けばいいじゃないか、なんていう選択肢はきっとないのだろう。何となくだが、それだけは分かっていた。 どちらかを選ばなくてはならないなら、僕は... ——————12月25日 お世辞にも寝心地がいいとは言えないネットカフェの椅子で僕は目を覚ます。 ベッド以外で寝ることにまだ慣れない体を起こし、今日行くべき場所を思い出す。選択は、もうすでに済ませてある。あとは、行動に移すのみである。 ネットカフェを出て、眩しすぎる朝の日差しを避けながら、僕は目的地へと急いだ。 * * * 面会の手続きをすませ、いつもの病室に向かう。そこには、いつもの通り、僕の義妹が、僕の到着を待っているはずだ。 病室に入ると、ベッドで上体を起こし、窓の外を眺める美夏の姿が目に入った。 そして、こちらに気付いた美夏は、信じられないものを見るかのように目を丸くしたかと思えば、口を手で覆い、堰を切ったようにその大きな瞳から涙をあふれさせた。 「は、晴翔さん...!来てくれたんですね!」 ベッドのそばまで近づくと、美夏は飛びつくようにして僕の体に抱きついてきた。 「もう...もう二度と...会えないかと思っていました。晴翔さんに嫌われてしまったんじゃないかと...本当に、本当に良かった!」 僕の胸の中で、美夏が今まで抱え込んでいたであろう不安を解き放っていく。思えば、いつも美夏は不安をため込む癖があった。今回は、今までの中でも特にそうだったのだろう。 兄として、ここは美夏の気持を受け止めなければならない。話をするのは、その後だって構わないだろう...。 「また、お見苦しい姿をお見せしました...。今日は、晴翔さんに謝らなくちゃいけなかったのに、申し訳ありません...」 ひとしきり泣き終えた美夏は、今度は自分の気持ちを抑えられなかったことを憂いているようだ。しかし、このままでは話が進まないので、少し急かすように美夏に視線を送る。 「ああ、すみません、私ったらまた...」 「はい、本当に今日は、来てくださってありがとうございます。今日、晴翔さんを呼び出したのは、これまでのことを謝らせていただこうと思ったからです」 「でも、その前に...」 そこまで言って、美夏はベッドを降りて身支度をし始めた。 「今日は外出の許可がとれたんです。少し外まで散歩しませんか?」 * * * 「ふふっ、こうやって晴翔さんと並んで外を歩くことなんて、今までなかったかもしれませんね」 病院の外に出ると、美夏には行きたい場所があるらしく、その場所に向かって一緒に横並びで道路を歩いている。往来には、クリスマスらしく男女で歩く二人組が目立つ。 そして、少し寒いのか、美夏は僕の手を握ったまま離さない。これでは、周りを歩く男女のように、クリスマスに外出するカップルのようにも見えるだろう。 「こんな風に手を握って歩いていると、まるでカップルみたいですね」 同じことを考えてしまっていたことに、何故か恥ずかしさを覚え、顔が熱を帯びていくのを感じる。美夏の方を見ると、自分の発言を顧みてか、同じく顔を紅潮させ俯いていた。 そのまま、お互い言葉を交わすこともなく、美夏の歩調に合わせてゆっくりと歩いていくと、地元の子供たちが遊びに来るような、小さな公園にたどり着いた。 「わぁ、遊具がたくさんありますね!せっかくだから少し遊びましょう、晴翔さん!」 公園に入ると、美夏は僕の手を引き、目を輝かせながら僕を遊具のもとに誘う。 子供の頃から病気がちだった美夏は、公園に来ること自体が珍しいのだろう。初めて見る彼女が無邪気にはしゃぐ姿に、こちらまで心が躍るような気分だ。 ブランコに乗り、滑り台に上り、年甲斐もなく遊び終えると公園のベンチに二人で座った。 「すみません、少しはしゃぎすぎてしまいました」 美夏は少し息を切らせながら、それでも笑顔を崩さず、僕に向かって語りかける。 「遊びに付き合っていただいてありがとうございます、私の気持ちを伝えるために、どうしても必要なことだったんです...」 「これまで、私は、晴翔さんに取り返しのつかないような多くのご迷惑をおかけしました...。盗聴器を仕掛けてプライバシーを奪い、挙句の果てには晴翔さんのトラウマにつけ込むような行為をしてしまいました」 「許してなんて、虫のいいことは言えませんが、これからは私の行為に見合った償いをさせて頂きたいのです...」 そう言って、美夏は少しうつむく。そして、呼吸を整えると、また言葉を続けた。 「今日、私と遊んでみて、楽しかったでしょうか?」 「普通の子供のように、元気に振る舞えていましたか?」 「”妹”の未果さんのように...、上手くやれましたか?」 「これからは...私があなたの”妹”になります。あなたの望む”妹”そのものになって、あなたの心の穴を埋めていきます。だから...」 「だから、今まで通り私を見てください。仮初の私だっていい、私のことを見て、そばにいてください。お願い...します...」 美夏の訴えは、あまりにも悲しい決意のように思えた。僕に見放されないためだけに、美夏は自分の人格も立場も、捨て去ろうとしている。 確かに、僕は美夏に妹を重ねていたことがあった、美夏のことが心配で眠れない夜を過ごしたこともある。その気持ちを利用されたことに、怒りを覚えないことはないが、すべては美夏を想うからこそのものである。 だからこそ、僕は... 「ああ、ここにいたのか、病院にもいないから少し探してしまったじゃないか...」 俯きがちに思考を巡らせていたからか、全く気付くことが出来なかった。顔をあげるとすぐそこにいる、文芸部部長の存在に。 「私を待たせるなんて、君は本当にいけないやつだな」 「さあ、私と一緒に行こうじゃないか、今ならまだ、私を待たせたのはなかったことにしてあげよう」 そう言い、部長が僕の手をとる。しかし、僕はまだ部長のもとに行くわけにはいかなかった。 まだ、美夏に伝えられていないことがあった、伝えなければならない言葉があった、だから、僕はまだここを離れるわけにはいかない。 その思いから、部長の手を振りほどく。そうすると、彼女は信じられないものを見たかのように目を見開き、美夏の方を一瞥した。 「あっははははは!そうかそうか、君は結局、過去に縛られたままというわけだな!」 部長はそう言って、大声で笑い始める。こんなに笑っている部長を見るのは初めてで、非常に良くない予感が、頭の中を駆け巡る。 「そうだったな、過去のトラウマはそんなに簡単に拭えるものじゃない!ましてやその女は君のトラウマそのものじゃないか!」 「うん、それなら、私が手伝ってあげよう!それが一番いい!君一人で解決できないなら、私が代わって君のトラウマを引き剥がしてやろうじゃないか!」 そう言うと、部長はカバンの中から何かを取り出した。それは、日の光を反射して銀色に光る、刃渡り10cmほどのサバイバルナイフだった...。 「...なぁ、晴翔くん。私が、君を過去の呪縛から解き放ってあげるよ...」 部長は、その刃をはっきりと美夏の方に向けた。 「え、い、嫌っ!」 突然のことに怯える美夏に、部長がナイフを突き立てようとする。 止めなくては どうやって? 誰が? 僕が 部長を止める? 体を動かせ 無理だ、間に合わない 声だ 声を...出せ 「やめろっ!!!!!」 自分でも信じられないような大きさで、僕の声が公園に響く。 部長は、突然の出来事に一瞬身を固める。その隙を見て、僕は部長の手を抑え、何とかナイフを奪った。 ナイフを奪われてなお、部長は驚愕で言葉を失っているようだった。美夏も、呆然とこちらを見つめている。まあ、驚く気持ちもわかる。何よりも声を出した自分が一番驚いているんだ。 訪れた静寂を破ったのは、ナイフを奪われ、漫然と立ち尽くしていた部長だった。 「君...言葉を、嘘だろ...喋れるのか?」 ああ、声を出したのは、いったい何年ぶりのことだろうか... * * * 妹の死をきっかけに、僕の口はたった一つの言葉ですら、発することがなくなってしまった。医者曰く、強い精神的ショックが原因の、非常に稀な現象だという。 思えば、父親が僕に暴力をはたらいたのも、このことが原因だったのかもしれない。妹の死という衝撃的な出来事に、何の言葉も感情も表に出すことのない僕を、気味悪がっての行動だったのだろう。 おかげで、それまでの友達の多くを失うことになった。今の高校に入ってからも、人間関係を構築するのは事実上不可能な状態だった。 それでも、僕が精神病院に行くようなことはなかった。そんなお金はなかったし、僕のことを心配するような人間は、周りに一人もいなかったからだ。 そんな中、僕の心の拠り所となったのは、本と文芸部の存在だった。言葉を必要としない静寂と文字だけの空間は、まさに僕の望む世界であった。 その中で、部長には、数えきれないほど多くの場面で救われた。喋れない僕を気味悪がって毛嫌いしていた部員を追い出し、学校の先生たちにも僕の事情を誤解のないように伝えまわってくれた。 部長がいなければ、僕は今と同じように学校に通うことは出来なかっただろう。それほどに、彼女には大きな恩があった。 しかし、それでも今回は、今回のことは、どうしたって部長には譲れなかった... * * * 「部長、あなたのしていることは間違っています」 何年も機能を失っていた声帯は、何事もなかったかのように流暢に、僕の言葉を次々と繋いでいく。 「美夏は、僕の呪縛でもなければ、トラウマでもありません」 「美夏は、美夏という一人の人間です。病気がちで、身体は弱くても、いつも僕のことを笑顔で迎えてくれる、大切な僕の義妹です」 「誰かの足枷なんかじゃない、誰かの代わりなんかじゃない...」 「だから、誰にも傷つけさせたりしない。僕が美夏を守ってみせる」 そこまで言って、美夏の方に振り返る。 「だから、妹の代わりになるとか、そんなこと言わないでくれ...」 「僕の過去もトラウマも、乗り越えて見せるから、美夏も僕と一緒に歩んで欲しい。一緒に並んで、何にも縛られない未来に...」 美夏は、僕の言葉を聞き、俯いて体を震わせている。彼女の足元に、水滴がひとつ、ふたつと落ちていく。 僕は美夏の両肩を引き寄せ、静かに抱きしめる。美夏の嗚咽が、身体全体から伝わってくる。美夏の手が、僕の背中の服を強く握りしめる。 「はい...私、一生...ついて行きます。あなたのそばで、ずっと...」 どさっ、と背中越しに部長が地面に崩れ落ちる音が聞こえる。これで、部長は自分の間違いを認めてくれるだろうか。 たとえ、部長がこれから何度僕たちの前に立ち塞がろうが、僕のやることは変わらない。何度だって僕が美夏を守ってみせる。今度こそ、失うわけにはいかないのだから。 美夏が泣き止むのを待ち、僕は美夏の手を引いて公園を出る。部長は最後まで地面にへたり込んだままだったが、今の僕が声をかけたところで、状況は好転しないだろう。 それよりもまず、今後のことについて美夏と話し合わなくてはならない... * * * 「ああ、そうか、君はどうしてもその女を選ぶんだな。君は、一度決めたら頑固な奴だからな、分かってるよ」 「さようなら、晴翔くん...君と過ごした文芸部での日々、本当に楽しかったよ...」 * * * 僕は、先週家で起こったことの一部始終を美夏に告白した。家にはもう帰れないこと、僕が実の父親に暴力を振るったこと、包み隠さず彼女にすべてを伝えた。 正直、失望されるかと思っていた。感情に任せて暴力を振るうような人間を、軽蔑するに違いないと、そう思っていた。 「晴翔さんに失望なんて、するはずないじゃないですか」 美夏は、終始笑顔で僕の話を聞いていた。 「私と、大切な妹さんのために怒ってくれたのでしょう?それなら、私が晴翔さんを責める道理はないです。むしろ、私は嬉しいです、晴翔さんが私のことをそんなに大切に思ってるなんて...」 そう言って美夏は顔を赤らめる。一応戸籍上の父親を病院送りにされてそれもどうかと思うが、何はともあれ大きな不安は一つ解消されたようだ。 「でも、帰る家がないのは大変ですね...。私はこれまで通り病院にいることになりますが...」 「そうだ、晴翔さん、私の母の家に行ってみてはどうでしょう。母は、あなたと私を置き去りにしてしまったことを心底悔いているようです。もしかしたら、力を貸してもらえるかもしれません」 正直願ってもない申し出だ、慣れないネットカフェでの暮らしは快適とは程遠いものであったし、いつまでもそれを続ける訳にはいかなかった。 「そうだね、もしそうだったら僕も助かるよ」 僕が返事をすると、美夏は微笑みながらこちらをじっと見つめてくる。僕が不思議そうに視線を返すと、美夏は少し慌てて口を開いた。 「いえ、すみません。こうやって声を返していただけるのが少し新鮮で...。でも、なんだかいいものですね。あなたの声を聞くたびに、何だか心が満たされるような気持ちになります」 そんなことを言われると、何だかこちらが喋りづらくなってしまう。しかし、確かに思ったことをそのまま伝えることが出来るのは、なんと便利なことだろうか。 「とりあえず、タクシーにでも乗って義母さんのところに向かおうか。美夏も、これ以上歩くのは良くないよね」 そう言って、偶然通りを走っていたタクシーを止める。 二人でタクシーに乗り込み、美夏に義母の家の住所を伝えてもらう。住所から考えるに、おそらく到着までは1時間もかからないだろう。 タクシーに乗ってから数分後、隣に座っていた美夏が僕の手を握り、こちらに体を預けてきた。 「ああ、晴翔さん...。私は幸せです。あなたと一緒にいられて、あなたに守ってもらえて。本当に、これ以上何も望むことがないくらいに幸せです」 僕は黙って頷き、手を握り返す。僕だって、美夏がいてくれるだけで、どうしようもないくらい幸福だ。こんなに自分を想ってくれる人間が、この世にいるなんて。 「こんな時間が、いつまでも続いて欲しいです...」 本当に、心からそう思う。 美夏の温もりと安堵感に、急な眠気が襲ってくる。美夏の方を見ると、同じく少し眠たげな様子である。 いっそこのまま、意識を手放してしまおうか そう思った瞬間、とてつもない衝撃を感じ、平衡感覚が大きく狂う。はじけ飛ぶガラスの音と、重力の変化を感じながら、視界がブラックアウトしていく... * * * 意識が戻ったとき、周りの景色は真っ赤に染まっていた。 体に感じる熱と轟音が、あたりを覆う炎が現実のものであると伝えている。僕は、さっきまで一体何をしていたのだろうか、いったい今何が起こっているんだ? 「晴翔...さん、お目覚めになられたのですね...」 声のする方に振り返ると、すぐそこで、美夏がこちらを見ている。 「どうやら、車が反転して、私たち二人とも...ここに閉じ込められてしまったようです...」 周りを見渡すと、確かに車はひっくり返っているようで、ドアだった場所はひどく歪み、とても外に出られるような状態ではなかった。 それに加え、不幸なことに二人共々下半身が車体に挟まってしまっているため、脱出は既に不可能であることがすぐに分かった。 「追突...されたのでしょうか...?気付いたらこうなっていました...」 「でも、私は運がいいです。事故にあっても、こうやって晴翔さんと離れ離れになることなく、一緒にいられるのですから...」 絶望的な状況に、一瞬自分の不幸を呪った僕に、その言葉が深く刺さる。 こんな状況ですら、美夏は僕と共に過ごせることに喜びを感じているのだ。彼女の微笑みが、その気持ちが嘘でないことを物語っている。 そうなれば、僕が泣き言をいうわけにもいかなくなってしまう。まったく、困った義妹をもったものだ。 「はは、そうだね、こんなときでも一緒にいられるなんて、僕たちは運がいいのかも」 「そうですよ、それとも、晴翔さんは私とじゃ不満なのですか?」 「そんなことないよ、僕は美夏と一緒ならどこにだって喜んで行くよ」 「うぅ...そういうことを平然と言うのはずるいです...」 「美夏だって、このくらいのことはいつも言ってるぞ」 「ふふ、そうかもしれませんね」 炎がだんだんと近づいてくるのが分かる、この車のガソリンに引火するのも、時間の問題だろう。 「晴翔さん、手を握って頂けますか?」 「ああ、もちろん」 「なんだかとても安心します...晴翔さんに手を握ってもらうと、いつでも私は幸せでした。そして今も...」 「僕もだよ...こうやって手を繋げば、どこにだって一緒に行ける気がする」 「そうですね、どこまでも、私は晴翔さんについて行きますよ...」 「嬉しいよ、今まで本当にありがとう...美夏」 「これからも、ですよ晴翔さん」 「そうだね、これからもよろしく頼むよ」 「はい、晴翔さん...愛してます...これからもずっと...」 「ああ、僕もだよ...」 爆音とともに僕の意識は途絶えた... * * * 「ああ、こんなにもぐちゃぐちゃになっちゃうなんて...でも大丈夫だよ。君だけは、絶対に死なせないから」 * * * ——————??月??日 授業が終わり、廊下が生徒たちで溢れかえっている。 部活動に、学校の最寄り駅に、校門で待つ恋人のもとに向かいながら、同じ学年の生徒たちが階段へと続く廊下を歩いていく。 かく言う僕も、これから始まる部活動に向けて、窓の外を何となしに見つめながら歩を進めていた。 何故だか窓の外を見るのが癖になっていた。そうしなくてならない理由がある気がした。 僕こと青木晴翔はつい最近のものを除いて、ほとんどの記憶がなく、学校での生活は全く慣れないもののように感じていた。そんな中唯一学校で居場所といえるのが、部活動であった。 僕が所属する文学部には、記憶をなくしてから唯一の知り合いである高原花奈さんがいる。彼女は、事故で瀕死の状態だった僕を助け出し、身寄りのない僕を家に置いてくれている大恩人だ。 僕が記憶をなくした事故は、僕の乗ったタクシーと、彼女の父が乗った車の追突事故だったらしい。らしいというのは、ほとんどの情報が彼女からの伝聞によるものだからだ。 というのは、僕が事件のことを調べる度に、花奈さんがひどく悲しい顔をするせいである。きっと、彼女の父があの事件で亡くなってしまったからだろう。僕だって彼女が悲しむようなことはしたくない。 それよりも、自分の父を事故で亡くしておきながら、その追突相手の僕の面倒を見てくれる花奈さんは、なんていい人なんだろう。彼女のような人と一緒になれる男は一体どれだけ幸せなのだろうか... 「ああ、来てくれたのか、ちょうど私もさっき来たところなんだ」 「ええ、こんばんは花奈さん」 「うむ...そのさん付けは無しでいいと言ったろう?仮にも生活を共にする仲なんだ、もっと気軽に呼んでくれていいんだぞ?」 「いやいや、花奈さんは僕の命の恩人ですから...そんなことは恐れ多いです」 「そうか...そんなに気にする必要はないのだぞ?私だって、全く君の思っているような善人じゃないのだから」 「謙遜しないでください、少なくとも私にとっては、花奈さんはいい人です」 「そ、そうか...まあいい、せっかく部活として集まったんだ、活動に移ろうか...」 * * * 文芸部の活動を終え、僕と花奈さんの家への帰り道をひとり歩いている。花奈さんは、生徒会の手伝いでもう少し学校に残るらしい。 まだ残る冬の寒さに身を縮めながら歩いていると、ふといつもとは違う道を歩いていることに気が付いた。花奈さんの家とは全く反対の方向ではあるが、何故だか自然と足が動いていくのを感じた。 奇妙な感覚に突き動かされるがまま、道を歩いていくと、とある病院にたどり着いた。中に入ってからも、自然と足は動いていき、とある空の病室にたどり着いた。 病室に入ると、ベッドの下から、紙のようなものが見えているのが目に入った。 拾い上げてみると、それは手紙のようだった。封筒には、丁寧な字で「青木晴翔さんへ」と書かれている。 何故僕がここにたどり着いたのか、何故僕宛の手紙がここに残されているのか、何一つ疑問の答えは分からなかったが、この手紙を読めば、全てが分かるような気がした。 封筒を開け手紙の中身を見ると、これまた丁寧な字で以下の文章が綴られていた。 『親愛なる青木晴翔さんへ こんなことを自分で書くことになるとは思いませんでしたが、この手紙を読んでいるということは、もう私はこの世にはいないのでしょう。 晴翔さんを残して去ってしまう私の無礼をどうかお許しください。 私の人生は悔いばかりが残るものでした。誰にも愛されず、唯一愛をくれたあなたにも、裏切るような行為をしてしまいました。 こんな私は、死んで当然の人間なのでしょう。 それでも、これだけは伝えさせてください。あなたと過ごした時間の数々は、私の人生そのものです。あなたがいたから、悔いがあっても私の人生は幸せでした。 これからも、あなたの信じた相手と、幸せに暮らしてください。それが、私の願いです。 P.S ベッドの下を覗く趣味はよくないですよ!次は絶対ゆるしませんから!』 手紙を読み、思い出す。僕の最愛の存在を、僕の信じた相手を。 同時に直観する。何故、部長があの事件のことを調べさせなかったのか。 あまりにも短時間の急激な感情と記憶の変化に耐えられず、その場で体が崩れ落ちていく。そして同時に、落とした封筒から鳴った奇妙な音に気が付く。 中に何も入っていないなら、封筒が地面に落ちたところで何の音もしないはずだ。 封筒を拾い、中を覗くと、一つの錠剤らしきものと、小さな手紙が入っているのが見える。 取り出して見てみると、手紙には、小さな字で以下の言葉が添えられていた。 『もし、あなたが信じた相手が私なら、これで私のもとに来てください。今度こそ、絶対あなたを離しませんから』 僕は、その錠剤を口に含み、躊躇なく飲み込んだ。 春の訪れを感じるように、病室の窓から見える桜のつぼみがひとつ、花を開いた。 --- ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。 個人の趣味に付き合っていただいて本当にありがたいです。やっぱり締め切りがあると完成物が出来るので良いですね。 このSSを読んで、ヤンデレもの良いなと思った方は、ヤンデレものの小説をぜひ調べてみてください。名作もたくさんあります。 もし私のおすすめが聞きたい方がいれば、みすの活動やTwitterでぜひ聞いてください。 それでは最後に、一つだけ言わせてください くぅ~疲れましたw これにて完結で(ry
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