Anovaで発酵食品をつくる -テンペ編改- === すずきゆき@s12bt s12bte@gmail.com この記事は「farmtory Advent Calendar 2018」に掲載した「Anovaで発酵食品をつくる-テンペ編-」の内容を元に、更に別パターンでの作成方法などをアップデートしたものです。 farmtory Advent Calendar 2018 : https://adventar.org/calendars/3464 Anovaで発酵食品をつくる-テンペ編- : https://s12bt.hatenablog.com/entry/anova-tempe # Anovaとは 各種肉を熱料理する際に肉のタンパク質の変性温度に着目し、適当な温度で熱することで肉を柔らかく調理する低温調理法が、日本では2016年頃から話題になっています。 Anovaは低温調理を一般家庭でも行うことができる機器の先駆けとして人気の出た機械です。ヒーターとモーターが内蔵されている本体を水が入った容器に差し込み、水温を設定した温度に一定に保つことができます。今ではAnova以外の機器の選択肢も増えていますが、どれも2万円程度で購入することができます。 Anova Webサイト https://anovaculinary.com/ <img src="https://i.imgur.com/nYevD6u.jpg" width="300" alt="Anova Webサイト" /> 楽しく低温調理ライフを送っていましたが、牛、豚、鶏、魚と一通りのタンパク質調理に使用し、肉料理以外の可能性はないかと考えていました。 ## Anovaの発酵機としての可能性 温度を一定に保つことができる点に着目し、発酵機として使用できないかを考えました。市販の発酵機の設定可能温度は20℃〜45℃のものが多く(ヨーグルトメーカーを含めると65℃程度まで)、一方Anovaの設定可能温度は0℃〜99℃までと、発酵機の設定可能温度域を完全にカバーします。また、市販の発酵機よりも省スペースに収納ができ、もちろん低温調理もできてしまいます。調理器具を収納するのに大きなスペースが確保できないため、コンパクトに収納できるのがとても魅力的です。 # 発酵食品をやってみよう ## テンペとは <img src="https://i.imgur.com/DHE6C1l.jpg" width="300" alt="テンペ完成品" /> テンペのカツレツというメニューをいただく機会があり、それをきっかけにテンペという食材のことを知りました。 テンペはインドネシア発祥の食品で、大豆をテンペ菌(クモノスカビ)で発酵させた発酵食品です。大豆がブロック状に固まった形をしており、肉の代替食品として扱われることもあるようです。 焼く、揚げるなどの調理を行って食べます。揚げて食べると、じゃがいもにも似たほくほくとした食感があり、クセのない大豆の味のため、大豆を食べることができる人であれば、好き嫌いなく食べることができそうです。 ## 発酵機の準備 ### 必要なもの - Anova - 発酵対象物をいれるための容器(以下、発酵容器) - 耐熱容器であることが必須 - 高さがあるもの - Anovaと容器が入るほどの大きな鍋 - 圧力鍋を使用しました - ネオジム磁石 ### 発酵容器を鍋に固定する <img src="https://i.imgur.com/4CH6kbD.png" width="400" alt="発酵容器を固定する" /> 発酵には酸素が必要です。肉を低温調理する際は、ビニールに調理対象をいれてAnovaをセットした水の中に入れ、水圧によって空気を抜きます。肉を調理する際には、空気層があると水温から伝わる熱量にロスが出てしまうため都合がいいのですが、発酵には酸素が必要なため、この方法を使うことができません。 そのため、容器の底に接着剤で磁石を固定し、鍋底に貼り付けられるようにしました。浮力に負けないように強力な磁石である必要があります。また、接着剤は耐水性のものを使用します。容器の口にはラップをかぶせ、輪ゴムで止めました。ラップには爪楊枝で空気穴を複数開けています。 鍋の中に容器を入れた様子です。この後、容器の蓋をラップに変更しています。 <img src="https://i.imgur.com/B29cChR.jpg" width="300" alt="発酵容器を固定した様子" /> ## 食中毒のリスクを回避するために この発酵機で作ることができる食品(今回作るテンペ、また納豆やヨーグルト)を発酵させる温度は30℃〜45℃程度の温度レンジで発行させるのですが、この温度帯は食中毒の原因となる菌が活動しやすい温度帯でもあります。食品を発行させているのではなく毒を培養していたとならないように、使用する器具の消毒をしっかりと行う必要があります。発酵容器が耐熱容器である必要はここにあります。 発酵容器、容器に移すために使用するスプーン等、使用する前に熱湯消毒を行い、水気を切って乾燥させておく必要があります。また、食品に直接手が触れないように、ゴム手袋やビニール手袋の使用を検討してもいいでしょう。 ## テンペを作る ### 材料 - 大豆の水煮 150g - テンペ菌(インターネットなどで購入可能) - 大豆の1%の量。150gであれば1.5g - 片栗粉 - 大豆の9%の量。150gであれば13.5g - 酢 50ml程度 ### 道具 - Anova + 鍋 + 発酵容器 - 上記とは別の鍋 - ざる - 温度計 - スプーンなど ### 手順 事前準備として、発酵容器、使用する道具などを熱湯消毒して乾燥させておきます。また、Anovaの電源をつけ、水温を35℃に設定し温めておきます。 1. テンペ菌と片栗粉を混ぜます - 大豆に十分にテンペ菌が行き渡るように、テンペ菌を増やすのが目的です 2. 大豆水煮を一度水に晒し、余計な煮汁を洗い流します 3. 大豆についている皮を剥きます - 剥かなくても発酵は可能ですが、出来上がりに差ができます(Tips参照) 4. 発酵に使用する鍋とは別の鍋に、水をいれて沸騰させ、お酢と皮を剥いた大豆をいれて3分ほど茹でます - 大豆の表面についた雑菌を消毒するのと、発酵に適した温度に豆を温めます - 茹ですぎると、できあがりの食感に差が出ます 5. 茹でた大豆をザルにあけ、十分に水気を切りながら豆の表面を少し乾燥させます 6. ザルにあけた大豆の温度が40℃くらいになるまで冷まします 7. 発酵容器に大豆を入れ、そこにテンペ菌と片栗粉を合わせたものを投入します 8. 発酵容器にラップをかけて輪ゴムで止め、全体にテンペ菌が行き渡るように振ります 9. Anovaをセットした鍋にいれ、35℃で20時間ほど発酵させます 10. 大豆の表面が菌糸でおおわれ、大豆がひとかたまりになったら完成です <img src="https://i.imgur.com/MhEQXkp.jpg" width="300" alt="完成したテンペ1" /> <img src="https://i.imgur.com/yZpizvk.jpg" width="300" alt="完成したテンペ2" /> <img src="https://i.imgur.com/eZb36B5.jpg" width="300" alt="完成したテンペ3" /> 容器をひっくり返して底を叩くと、するっとテンペが出てきます。触ってみると、表面は菌糸のふわふわを感じるけど、大豆のもちっとした弾力があり硬め。食べ物なのか不安なヴィジュアルをしています。 ## Tips ### 乾燥大豆を使うか水煮を使うか 乾燥大豆を使うことで、できあがったときにより歯ごたえのあるテンペをつくることができます。野菜炒めなど、他の素材と一緒に調理することを考えると、乾燥大豆を使用したほうが調理幅が広がりそうです。 しかし、乾燥大豆を使用するためには、事前に一晩水(酢水)につけ、更に豆がやわらかくなるまで煮る工程が発生します。水煮を使用することで、大幅な時短短縮をすることができます。 ### 大豆の皮を剥かなくてもつくることはできる 皮をむく工程に時間がかかるので、水煮大豆を使用して皮あり/なしによる発酵の違いがでるかどうかを実験してみました。結果として、発酵状況に違いは見られず、大豆同士の結合の強さと食感が僅かに変わるというところに違いが見られました。 <img src="https://i.imgur.com/JvckJpY.jpg" width="300" alt="皮による違い" /> 上記写真で、左が皮を剥いたもの、右が皮を剥かなかったもの、それぞれ包丁で切って油で焼いたものです。皮を剥かなかったものは、発酵させた容器の中ではブロック状になっていましたが、包丁でカットするときにボロボロと崩れ、フライパンで熱すると豆単位で分離していきました。皮を剥いたものは、包丁で切っても崩れず、焼いている際にも崩れがほとんど見られませんでした。 食感については、皮を剥いたもののほうがなめらか #### 食べ方、保存について 一口サイズに切って揚げる、もしくは揚げ焼きにして、塩、こしょう、カレー粉などの調味料をつけて、おやつ感覚で食べることができます。油との相性がとてもいい食品で、出来上がりの不安なビジュアルも油を通すことで解消されます。肉の代用品としてはまだ使用したことがないのですが、「テンペのレシピ」を検索するといろいろなレシピを見ることができます。 揚げるとフライドポテト感覚で食べることができ、じゃがいもの炭水化物ではなく大豆のタンパク質なので、罪悪感なくたくさん食べることができます。 <img src="https://i.imgur.com/cDQ1E9v.jpg" width="300" alt="調理テンペ" /> 冷蔵で2-3日、冷凍で長期保存が可能です。冷凍するととても硬くなるので、あらかじめ1-2cmほどの幅にスライスしてから保存したほうがよさそうです。 ## 家で気軽に発酵食品が作れる Anovaの温度を長時間一定に保つことができる仕組みを使って、食品を発酵させることができました。大豆が実際に菌糸に覆われている姿が見れると、なにかすごいものを錬成してしまった感覚がでるので、少しテンションがあがります。テンペ菌を手に入れるに少しハードルがありますが、一度手に入れたら作り放題です。テンペおすすめです。