# 失敗の本質
## 戦略上の失敗要因分析
- 大本営の戦略目的があいまいであったため、関東軍の独断専行や兵力の分散・判断ミスの原因となった
- そもそも大本営は戦争終結へのシナリオがなく、短期決戦を志向していた準備が失敗の原因となった
- cf. 米軍は海軍による日本の都市への爆撃というグランドストラテジーに向けて集中した
- 上層部は部下とのコミュニケーションを怠った
-- cf. アメリカの将軍は参謀と行動を共にした
- 戦略策定は一定の原理や論理に基づくのではなく情緒や空気が支配する傾向があった
-- インパール作戦、大和特攻、沖縄作戦の会議
-- スリム英第十四軍司令官「日本軍の欠陥は、作戦計画がかりに誤っていた場合に、これをただちに立て直す心構えがまたくなかったことである」
-- 日本軍の最大の特徴は「言葉を奪ったことである」(山本七平・「一下級将校の見た帝国陸軍」
- 海軍要務令、歩兵操典への固執(高級指揮官の行動を細かく規制したものはドイツにも英米にもない)→戦略オプションが狭くなる
- アンバランスな戦闘技術体系
-- 歩兵の装備・戦車などは第一次大戦レベル、大和・零戦の優秀さ、防空装備の不足やジュラルミンの使用による大量生産の難しさで活かせない
-- 武器体系: 名人芸が必要な日本、平均的軍人が操作可能な米軍
-- レーダーの未装備、ハードに対してソフト開発が弱体(情報システムの軽視など)
-- ロジスティック・システムの遅れ、兵器があっても弾丸がない、艦艇があっても石油がない(短期決戦思想による)
## 組織上の失敗要因分析
- 人的ネットワーク偏重の組織構造
-- 官僚制のなかに情緒性を混在させ、インフォーマルな人的ネットワークが強力に機能する組織であった
-- 階層による意思決定システムが効率的に機能せず根回しと腹のすり合わせによる意思決定が行われていた(インパール。ガダルカナル作戦の中止の遅れ)
-- 「日本的集団主義」― 組織とメンバーの共生を志向するために人間と人間との間の関係それ事態が最も価値あるものとする価値観
-- cf. 米軍の高速な意思決定: ニミッツ太平洋艦隊司令長官の指揮官交代システム・海軍作戦部長キング元帥の作戦部員の少人数化・一年ごとの交代制→緊張感・作戦に個人のシミがつくことがない、将官の任命制度(みんな少将で必要に応じて中将・大将になる)
- 属人的な組織の統合
-- 海兵隊による水陸両用作戦のドクトリン
-- 陸海軍の仮想敵国の違い、大本営による統合の不足(天皇以外調整機関がない)
-- 統合は一定の組織構造やシステムによって達成されるのではなく、個人によって実現された(東条の首相・陸相兼務、陸海軍の参謀の個人的調整)
- 学習を軽視した組織
-- 敵戦力の過小評価・自己の戦力の過大評価
-- ガダルカナルで無効であった一斉突撃を改めない
-- 情報の共有システムの欠如(作戦を立てる参謀が現場を知らない、同一パターンの作戦を繰り返して失敗)
-- 艦隊決戦思想から脱却しない、本土決戦思想が捨てられない
-- 対人関係・人的ネットワーク関係に対する配慮が優先し、失敗の経験から積極的に学び取ろうとする姿勢の欠如
-- 教育機関において模範解答が用意されその解答への近さが評価基準となるような教育がなされた(これは軍がそのような体質を持っていたために学校がそうなったという面も強い)→「前動続行」(海軍用語、従来どおりの行動を取り続ける)
-- 事故の行動を絶えず現実に照らして修正し、学習する主体としての自己を作り替えていく
- プロセスや動機を重視した評価
-- 失敗しても責任が厳しく問われない(ノモンハン事件の辻参謀がその後もやらかす・南雲長官が次の作戦にも責任者となる)
-- 戦闘結果よりもリーダーの意図ややる気が評価された
-- 米軍は大佐の中から適格者を選び昇進委員会の投票・上官による合議、で選定プロセスに感情が入り込む余地をなくす
|項目|日本軍|米軍|
|---|-----|----|
|1. 目的|不明確| 明確|
|2. 戦略志向|短期決戦|長期決戦|
|3. 戦略策定|インクリメンタル|グランド・デザイン|
|4. 戦略オプション|狭い(統合戦略の欠如)|広い|
|5. 技術体系| 一点豪華主義|標準化|
|6.構造|集団主義|構造主義|
|7.統合|属人的|システム|
|8.学習|模範解答|自己変革|
|9.評価|動機・プロセス|結果|
# 失敗の教訓
組織・戦略を環境の変化に合わせて主体的に変革できるかどうかがポイントとなる
- 組織特性: 白兵銃剣主義と大艦巨砲主義によって統合の必然性が下がる、
- 管理システム: 年功序列の人事、(理解力・記憶力が必要な)陸大の成績が昇進を左右し、不確実性の高い状況下での判断に向く人材とは限らない
- 組織行動: リーダーが過去の戦略原型の具現化だった(「日露戦争の戦訓で太平洋戦争を戦った」)
- 組織学習: 既存の知識を強化しすぎて学習棄却に失敗した
- 組織文化
## 自己革新組織の原則と日本軍の失敗
自己革新能力のある組織は以下の条件を満たさなければならない
### 不均衡の創造
- 環境を利用して組織内に変異、緊張、危機感を発生させる
-- 異質な情報・知識の交流、ヒトの抜擢による権力構造のたえざる均衡破壊
-- 学校の卒業席次の重視「予測のつかない不測事態が発生した場合に、とっさの臨機応変の対応が出来る人物は、定型的知識の記憶にすぐれる学校秀才からは生まれにくい」(池田清「海軍と日本」)
### 自律性の確保
- 組織の単位を柔構造にしないといけない
- 第一線の高級指揮官に人事権が与えられていなかった
-- 米軍は必要な自律性を与える代わりに業績評価を明確にしていた
「責任多く権限なし」ー「天佑神助」などの空虚な命令を出し、現地軍の責任を問う→自律性の喪失
### 創造的破壊による突出
- 一次大戦不参加による近代戦の未経験
- 米軍は真珠湾で戦艦を失ったことで空母機動部隊への自己革新が容易になった
- 余裕がないから自己革新ができなかった?
### 異端・偶然との共存
- ボトムアップによるイノベーションが困難
- 組織内の構成要素感の交流、異質な情報・知識の混入が少ない組織
### 知識の淘汰と蓄積
新しい情報を知識に組織化しなければならない。進化する組織は学習する組織でなければならない
### 統合的価値の共有
その構成要素に方向性を与え、その協同を確保するために統合的な価値あるいはビジョンを持たなければならない
## 日本軍の失敗の本質とその連続性
ダイナミズムをもたらすための
1. エリートの柔軟な思考を確保できる人事教育システム
2. 優れた者が思い切ったことのできる分権的システム
3. 強力な統合システム
がかけていたために過去の戦略には見事に適応したが、環境の変化に対して自己否定的学習ができなかった
近代的官僚制組織と集団主義の混合によって本来の官僚的組織とは異質な日本的ハイブリッド組織がつくられた。自由裁量と微調整が機能することが長所だが階層構造を利用して圧殺した
> **日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった、ということであった。**
日本企業の組織は、米国企業のような公式化された階層を構築して規則や計画を通じて組織的統合と環境対応を行うよりは、価値・情報の共有をもとに集団内の成因や集団間の頻繁な相互作用を通じて組織的統合と環境対応を行うグループ・ダイナミクスを生かした組織である。その長所は次のようなものである
1. 下位の組織単位の自律的な環境適応が可能になる
2. 定型化されないあいまいな情報をうまく伝達・処理できる
3. 組織の末端の学習を活性化させ、現場における知識や経験の蓄積を促進し、情報感度を高める
4. 集団あるいは組織の価値観によって、人々を内発的に動機づけ大きな心理的エネルギーを引き出すことができる
戦略については
1. 明確な戦略概念に乏しい
2. 急激な構造的変化への適応がむずかしい
3. 大きなブレイク・スルーを生み出すことがむずかしい
組織については
1. 集団間の統合の負荷が大きい
2. 意思決定に長い時間を要する
3. 集団思考による異端の排除が起こる
- これまでの成長期にうまく適応してきた戦略と組織の変革が求められている
- 学習棄却ができにくい組織になりつつあるのではないだろうか
> 日本的企業組織も、新たな環境変化に対応するために、自己革新能力を創造できるがどうかが問われているのである。