2021年5月??日(金)論文紹介ゼミ # [Size does not matter after all: No evidence for a size-sinking relationship for marine snow](https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S007966112030183X) --- ## バックグラウンド マリンスノーや動物プランクトンの糞粒などの大型な有機物粒子は海洋深層まで有機物を輸送し、物質の鉛直輸送や生態系、大気二酸化炭素濃度に大きく影響している。  --- #### 沈降粒子による炭素隔離 冬季混合層深度より深い水塊(200-1000 m)へと輸送されると、海洋への炭素の貯蔵に効くとされる(Limpitt et al., 2008a)。 **沈降速度が速い粒子は遅い粒子より深海への炭素フラックスへの寄与が大きい**と考えられる。 >#### Limpitt et al., 2008a Fig3より > Martinカーブを基に描かれた図。沈降速度と分解速度が赤い曲線の形状を定める。 --- #### 海洋粒子の沈降速度推定 :::danger **海洋粒子の沈降時の挙動、ほとんど分かっていない** 流れのある環境中で、凝集体構造に影響を与えず沈降速度を測定するの難しい。 ::: 1. セジメントトラップ 異なる深度にトラップを設置し、ブルーム終盤の沈降粒子が増える時期に、ピークフラックスの到達時間を測定することで凝集体”群”の沈降速度を推定。 1. 表層、スキューバダイビングで Alldredgeらが1980年代後半に行っていた手法。直接海中で円筒内を沈降させる。 1. マリンスノーキャッチャー 近年用いられ始めた方法。大きなニスキンボトルで大量の海水をとってきて、船上で静置。沈降したものを取り出し、実験に。 1. 実験室内で培養した粒子などなどを用いて 過去の研究で、同じようなタイプの凝集体の沈降速度はサイズに影響されることが報告されている。また、==空隙率や粒子組成、形状==も効いていそう (Iversen and Ploug, 2010。 > #### Iversen and Ploug, 2010より >  > S.c. -incはSkeletonema costatum > E.h. -incはEmiliania huxleyi > mixは両者のmix また、摂餌や糞粒への変換、動物プランクトンによる崩壊、物理的なせん断による崩壊など、多くのプロセスによって沈降しながら変動するので、in situのデータが欲しいところ。 そこで、 :::danger **光学的手法による現場の沈降粒子の情報取得** 本研究では、光学的手法を用いることでin situでの凝集体沈降速度を直接測定し、凝集体サイズと沈降速度の相関を調べた。 ::: --- ## Material and Methods ### 海域ほか * PAPサイトで、2013年5月31日から6月18日までのクルーズ。 * 水平方向の粒子の流入が少なく、渦が小さく、流れが弱い条件。  https://projects.noc.ac.uk/pap/cruise-reports <details><summary>PAPサイトとは</summary> <div> >大西洋北東部の大陸斜面や大西洋中央海嶺から離れた場所に位置。外洋の時系列データを取得しており、EUの多くの港から簡便にアクセスできる。 > </div></details> ### PELAGRA-中性浮力セジメントトラップ * [PELAGRA](https://www.hydro-sys.com/detail.php?pid=50)をベースにしたセジメントトラップ。能動的に浮力制御しラグランジュ式の観測ができる。 これにカメラとフラッシュライトを設置して、沈降粒子を撮影した。  <details><summary>システム詳細</summary> <div> > カメラ: 50 mmマクロレンズを装着したEOS 6D > フラッシュ: nCanon Speedlite 600EX-RT > 撮影範囲は高さ14.9 cm、幅22.3 cm、深度10 cmで、体積は3.32 Lに相当。 </div></details> 2秒間隔で10枚を連続撮影したものを1シーケンスとし、1時間ごとに1枚。 2013年6月は3日、6日、9日の3回、2台のPELAGRAを同時に設置した。 ### 画像シーケンスの選択 * PELAGRAが目標とする深度に達するまでのデータは、ラグランジュ式の観測になっていないと判断し破棄。画像に乱流の影響がみられるものも破棄。結果、**55のシーケンス**が得られた。  * ほんのちょっとした動きでも絶対的な沈降速度は変動しうるが、サイズと沈降速度の関係のみに着目する場合、問題ない。 * 絶対的な沈降速度は、撮影の前10分間にCTDで測定された温度範囲が3ミリ℃以内の変動だったシーケンス(12シーケンス)から算出。 ### 画像処理 C++でOpenCVライブラリを使って解析した。Qt環境で開発。動物プランクトンを除くものについてピクセル面積、長軸長さ、短軸長さ、x,y位置を取得した。 <details><summary>詳細</summary> <div> グレースケールにして、シーケンスの最初の画像を基準にして他の9枚は背景を除去。閾値17で2値化。光学ノイズは3x3ピクセルのカーネルサイズでeroding→dilateして除去。1ピクセル当たり40.8 um。490 um2より大きい粒子が得られた。ESDの最小は80 um。 </div></details> ### 実験室での沈降速度とサイズのキャリブレーション カメラの近くの粒子、後方より大きく、速く沈む。この不確かさの検証のため、色の異なる寒天ビーズで校正。サイズについて±9 %、沈降速度について±13 %の不確かさ。 ESDと沈降速度の標準偏差として加えた。 ### 現場の沈降速度 異なる深度、異なる時間帯の55枚のシーケンス。1つの画像内の凝集体を識別し、後続の画像内の同じ凝集体を検索。サブシーケンス画像の長方形の領域内を探索することで行った。範囲はもともとの粒子サイズの最大20 %ずれた領域を持つ粒子を検索。 ### 統計処理 Shapiro-Wilk検定で正規性を検定。パラメトリックなPearson相関またはノンパラのスピアマンの順位相関を用いた。画像シーケンスの凝集体サイズと沈降速度の両方が正規分布している場合、Pearson。一方あるいは両方が正規分布していない場合、Spearman。 --- ## 結果 :::info ***得られた凝集体はマリンスノーとして典型的な特徴を有していた*** 凝集体の大部分は楕円形。Fecal pelletを除きほとんどは凝集体でアモルファス(非定常)。白色。 本文に記載されていたデータ↓ | 画像シーケンス | 凝集体数 | ESD | アスペクト比 | | -------- | -------- | -------- | ----- | | 55 | 1060 | 0.04 - 2.98 mm (平均0.69±0.40 mm)| 平均1.40 ±1.21| ::: * 55シーケンスのうち、ESDと沈降速度に相関関係(p<0.05)があったのは10シーケンスのみ。うち2つは負の相関関係がみられた。 * 絶対的な沈降速度は55シーケンス中、12シーケンスで得られた (Fig.2)。 * 沈降時、回転などはみられなかった。 #### 沈降速度とESD >### Fig.2 > > 画像撮影前の10分間、温度変化が3ミリ℃以下のシーケンスについて、ESDと沈降速度。PAとPBは2つのPELAGRA。標準偏差は被写界深度による測定値の不確かさを表している。 * 沈降速度: 4 - 416 m/day (平均156±98 m/d)。 * ESD: 0.1 - 1.9 mm (平均0.6±0.3 mm)。 * ESDと沈降速度の間に有意な相関関係はみられなかった(図2)。 * 沈降速度のばらつきに対して被写界深度に起因する不確かさは小さかった。 >### Fig.3 > > 画像撮影前の10分間、温度変化が3ミリ℃以下のシーケンスについて、ESDと沈降速度。PAとPBは2つのPELAGRA。標準偏差は被写界深度による測定値の不確かさを表している。 * 沈降速度と長軸短軸比の関係もとくに有意な相関なし(p>0.05)(図3)。 * また、記載していないが他の特徴量(投影面積、円形度、沈降方向に垂直な再長軸、cory形状因子。データは示していない。)についても相関は見られず。 >### Fig.4 > * 各画像の沈降速度を水深や撮影時刻に対してプロットしても明確な傾向はみられず(fig.4)、沈降速度に鉛直方向や日周方向のパターンがないことが示唆された。 ::: danger **凝集体サイズと形状はどちらも、沈降速度を支配するパラメータではなさそう。** ::: --- ## Discussion ### 沈降速度 * 12シーケンスから得られた沈降速度は20 - 300 m/dと、in situ測定で典型的にみられる値だった。 * 同じクルーズで、マリンスノーキャッチャーで捕集した凝集体の沈降速度をフローチャンバーで測定したところ、0.2 - 1.7 mmの凝集体について10 -450 m/dの速度が得られている(van der Jagt et al., 2020)。 :::info PELAGRAは現実的な範囲の沈降速度と凝集体サイズを測定できていた。 ::: * ESDと沈降速度の相関関係について、8シーケンス/55シーケンスのみが正の相関。 :::info 少なくともPAP-SOのこの時期については、サイズは沈降速度の重要なファクターではない ::: ### なぜサイズが沈降速度に影響しなかったか * 類似した組成の凝集体はサイズと沈降速度の関係が明確だが、いろんな種類の凝集体をまとめてプロットするとその関係性が失われる(Iversen and Ploug, 2010 (上のほうに示した図))。 * 凝集体中の植物プランクトン細胞割合が沈降速度に効く(Cornec et al., 2015)。 :::info in situの粒子は均一ではなく、凝集体の組成によって大きく沈降速度が変動したものと考えられる。 ::: :::danger 凝集体のサイズ分布と存在量のin situ観測のみから輸出フラックスを推定する試みは難しい。in situ撮影で炭素フラックスを推定するには**沈降速度の直接測定が必須**。 ::: --- ## まとめ * in situのサイズ分布と量からのフラックス算出、難しい。組成を分けて解析できる工学システムが必要。 * 中性浮力システム、よさそう
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