###### tags: `会計` # 在庫管理マニュアル ____ # 1.在庫とは ## 1-1. 在庫とはなにか 在庫とは、販売を目的とした資産(棚卸資産)。 お金が姿を変えたものであり、**お金とほぼ同義**である。 * 在庫をもつビジネスの場合(eg.小売) * 在庫が少ないと、販売をすることができず機会損失が生じる。 * 在庫が多いと、資金繰りを圧迫する。 ## 1-2.在庫は何のためにあるのか **生産と消費の、時間の差を埋めるため** 時間の差とは、モノが生産されるタイミングと、消費されるタイミングが異なり、そこに隔たりが生じている、ということ。 生産されたものが、その場ですぐに消費されるのであれば、在庫は必要ない。(ジャストインタイム方式) > たとえば、自宅で料理を作り(生産)、すぐに食べる(消費)のであれば、在庫として置いておく必要はない。 > しかし、料理を前の日に作り、翌日に食べる場合は、冷蔵庫などで保管(在庫)する必要がある。 そのように、生産と消費の時間の差を埋めるため、在庫が存在する。 ## 1-3.在庫管理の重要性 在庫の管理状態は、資金繰りに大きく影響する。業態を問わず、ほぼ全ての経営者が「在庫は極力減らしたい」と願っている一方、在庫管理の難しさに頭を悩ませている経営者がいることも事実。 在庫が多いことも、過剰在庫の置き場にかかる余計なコストも、目当ての物品を探し出すためにかかる時間も、全ては在庫管理の方法次第で解決することができる。 また、在庫は会社の利益を決める大切な指標である。 > 売上総利益(粗利)=売上-売上原価 > 売上原価 = **期首在庫棚卸高** + 当期在庫仕入高 - **期末在庫棚卸高** **在庫が分からない=利益が分からない** 会社は売上がどれだけ大きくても、会社に残るお金=利益が無いと存続できない。 在庫が分からないということは、会社が存続できるかどうか分からないと言っていることと同義。 ____ # 2.在庫の管理方法 ## 2-1. 在庫管理の必要性 ### 在庫管理が及ぼす影響 * 在庫は、帳簿を使っての管理が一般的である。仕入れの時点から、商品名、種類、個数などの帳簿付けを正確に行い、物品の出入りと共に帳簿を随時アップデートすることで、常に実際の在庫数が帳簿上の数と一致する。帳簿上の情報が正しければ、帳簿に基いて在庫の増減をコントロールすることができる。 * 在庫のコントロールは、必要な分だけ在庫を追加し、不要と判断した在庫は処分し、無駄を無くすことにつながる。商品にならなくなった在庫の処分または転用と必要に合わせた入庫によって、倉庫内のスペースを最大限に活用することができ、倉庫スペースにかかるコストの節約にもなる。 ### 在庫管理の5S 1. 整理:必要・不要の分類をし、不要なものは処分する。 2. 整頓:物品の出し入れがしやすい収納する。 3. 清掃:ゴミや汚れが無いように、定期的に掃除する。 4. 清潔:清掃された状態を常に保たれるように意識する。 5. 躾:関係者全員が、同じ意識を持ってルールを守る。 * 5Sを意識して、在庫置場の現状と向き合ってみる。 * 守れていない箇所があれば、すぐにでもとりかかりるべし。 ## 2-2. 在庫管理のルール 詳細は『[棚卸資産会計細則](https://drive.google.com/open?id=1sW5XNgyovHi2rBC68Cc9z3w-zQxp1Ch4)』を参照されたし。 **在庫管理の際のチェックポイント** 1. 在庫保管場所の設備状況確認 * 法規制による要求事項の変化 * 自社の設備設置状況 * 新規設備投資の要否判断状況 * (必要に応じて)在庫に関する損害保険契約の締結状況・内容 * 課題がある場合には、その課題への対応状況 2. 在庫管理データベースのマスター(基本情報)のメンテナンス * 登録情報の正確性の確認状況 * 流動品と非流動品(滞留在庫)の区分状況 * 非流動品(滞留在庫)とすべき品目の検討状況 * 不明瞭な登録項目の確認状況 * 課題がある場合には、その課題への対応状況 3. 廃売却の管理 * 廃売却の理由 * 廃売却の実施状況 * 売却先の妥当性(遵法性) * 課題がある場合には、その課題への対応状況 4. 実地棚卸の実施 * 棚卸差異の有無 * 不稼働在庫や製造委託先における在庫保管状況等の確認状況 * 課題がある場合には、その課題への対応状況 5. 管理状況の確認 * 保管場所のセキュリティ整備状況 * 災害時の被災リスクの棚卸状況 * 保管区域内の在庫配置情報の把握有無 * 保管場所の破損リスクの有無 * 課題がある場合には、その課題への対応状況 # 3. 実地棚卸作業について ## 3-1. 実地棚卸の目的 **実地棚卸**とは、決算期末の棚卸資産の残高を確認するために、実際に現物を点検・計量する手続きのこと。 * 商品の品種、性能、保管状況を調査し、**商品管理の維持向上を図る**とともに * 実地棚卸高と帳簿棚卸高とを照合して、**資産の保全、不正防止及び財務諸表における資産の表示の適正化を図る**ことを目的として実施する。 ## 3-2. 対象資産/対象倉庫 **対象資産** * 商品・・・・・販売の目的をもって所有する物品で営業主目的に係るもの。 * 仕掛品・・・商品にする目的のために現に仕掛中、または加工中のもの。 * 貯蔵品・・・カタログなど消費する目的で購入した物品で、未だその用に供されないもの。 **対象倉庫** * 保管場所が在庫品に対して責任を負わない倉庫はすべて実地棚卸の対象とする。 * 営業倉庫でない倉庫保管の商品 * 本社内保管の商品 * レンタルスペースに保管の商品 など * 預り証が発行されない倉庫に保管されている商品についてもすべて実地棚卸の対象とする。 * それ以外の倉庫については預り証による代替手続きが可能。 * 但し、預り証による実地棚卸の代替手続きを行う場合でも、以下の倉庫については倉庫でのサンプルチェックが必要となる。      1. **名義変更により商品の移動がないまま所有権のみが移転する商品がある倉庫** 2. **監査法人及び財務部が指定した倉庫(金額的重要性や立会回数が考慮される)** ## 3-3. 実施時期 * 最低限、**中間決算期末営業日および決算期末営業日の年2回**は必ず実施する。 * 店舗においては**毎月末営業日**に実施する。 * なお、上記以外に必要がある場合は臨時に実施する。 * 催事が終了した場合 * 店舗が閉鎖、統合した場合 * 販売が終了、販売内容に変更が生じた場合  など ## 3-4. 実地棚卸作業の事前準備 ### 帳簿データの整理 * 直近の棚卸明細表を検証し、実際に商品が保管されている倉庫に在庫データがある事を確認する。 * 何等かの理由により一時的に架空倉庫にある商品は、実在する倉庫へ在庫データの倉替えを行う。 * 実地棚卸以前に入出荷(社内付替、経費出荷も忘れずに)された商品については漏れなく計上処理を行い、帳簿上の在庫データを整理しておく。 ### 倉庫内の整理 * 同一品番・系列品番は可能な限り、一ヶ所に保管する。 * 売上先などより保管依頼を受けた商品(当社の所有でない商品)は明確に区分けし、先方より依頼があった場合は**預り証**を作成する。 * 無償サンプルなどの簿外商品についても明確に区分けし、棚卸不要であることを明示しておく。 * 全ての保管棚に棚番号票を貼付する。 * 倉庫内および店舗内の商品保管場所の見取図を作成する。 ### 商品保管の注意 * 不良品や破損商品といえども、販売目的のため廃棄しない商品は、同じ場所で保管する。 * 但し、通常の販売商品とは明確に区分けし、保管する。 * 全ての商品に棚札表を作成し添付する。 ### スケジュールの作成 棚卸実施中は、カウント漏れや二重カウントの防止のため、 **在庫の移動(入出庫、倉庫間)を一時的に停止する期間を設定する。** (必要に応じて取引先へその旨を連絡する。) ### ECCから棚卸表出力 * 実地棚卸の開始までにそれぞれの保管場所毎に**実地棚卸表**(作業用、清書用の最低2部)を出力する。(トランザクションコード:*ZMMRK01*) * **実地棚卸表**に出力漏れが無いよう、商品番号、ページ数が連番であることを確認する。 ## 3-5. 実地棚卸の作業方法 ### 実地棚卸人数編成について 実地棚卸人数は以下A.B.C.の3名体制を基本とする。 > A:商品の数量を数える者 > B:実地棚卸表(作業用)を記入する者 > C:実地棚卸表(清書用)を完結する者 尚、A.Bは必要に応じて増員しても良い。 ### 実地棚卸の立会いについて 実地棚卸時は、財務部または財務部が委嘱した部門が立会う。 ### 実地棚卸作業について 1. Aが倉庫の端より順に商品毎にカウントし、これを読み上げる。 同時にAは棚札表に、棚卸実施日、棚卸数量を追記し、検印を押印する。 2. BはAが読み上げる商品番号、商品名の棚卸数量を実地棚卸表(作業用)に記入する。 記入後Bは実地棚卸表(作業用)への転記に誤りが無いかを必ず棚札表と照合する。 3. Bは、実地棚卸表(作業用)がある程度の枚数に達したら、Cに届ける。 4. Cは、作業机にてBから受け取った実地棚卸表(作業用)をもとに、実地棚卸表(清書用)に清書する。 5. 全ての商品の実数を記入終えたら、Cは実地棚卸表(清書用))に記入されていない商品が無いかをチェックする。(未記入商品は、原因を即座に調査する。) 6. 不良品や破損商品といえどもカウントし実数に含めるが、通常の販売商品とは保管を明確に区分けし、評価減、廃棄申請が速やかに行えるよう備考欄に商品状態や数量を記入する。 7. 実地棚卸表(作業用)と(清書用)は、終了後に再度読み合せる。 8. 訂正がある場合は、Cが内容を訂正し訂正印を押印する。 9. 実地棚卸表(清書用)の本紙を財務部へ提出し、写しを自署で保管する。 * 棚卸実施期間中に、輸送中の商品がある場合、B/L、INVOICEなど輸送中であることを示す書類を財務部へ提出する。 * 仕入先などに保管依頼をしている商品(当社の所有である商品)があれば、先方へ*預り証*の作成を依頼し、これを財務部へ提出する。(実地棚卸表へは記載しない。) ### 預り証に記載すべき事項 * 預け先名 * 預け場所 * 預け商品の棚卸日 * 当社商品番号 * 商品名 * 数量 ## 3-6.棚卸調整作業 ### 差異の検証 * 実地棚卸表に記入した、棚卸数量と帳簿上の数量に差異がある商品について調査を行う。 * 入出庫の計上漏れがあった場合、バックデート有効期間内であれば速やかに計上処理を行う。 * 預け先倉庫についても、**預り証** をFAX等で早急に取得し、同様の差異検証を行う。 ### 差異の調整 実地棚卸数量と帳簿棚卸数量に差異があったとき * 差異理由が判明している場合:財務部にて内容確認のうえ棚卸調整入力をして実地棚卸数量に合わせる。 * 差異理由が不明な場合:財務部にて期末日での棚卸調整仮計上、および翌期首日での棚卸調整入力戻しを行う。 ### 棚卸差異調査 * 差異理由が不明なものについて、差異原因の継続調査を行う。(下記参照) * 差異の発生原因および再発防止策を財務部と協議する。 * 調査結果を**実地棚卸及び棚卸差異調査報告書**に追記したうえで財務部長宛の業務連絡に添付発信し(注:業務連絡の最終承認者は部室長としてください。)、 * 財務部にて棚卸差異調整入力を行う。 ### 追加調査事項 1. 実棚数量の数え間違い 2. 帳簿数量の入力間違い 3. 倉庫担当者の受け払い間違い 4. 入出荷伝票の入力漏れ  など ### 棚卸資産の評価減 商品の陳腐化または品質低下などにより、 * 商品の時価が取得原価より著しく下落し、 * かつ回復する見込みがない場合は、 財務部と協議のうえ、**棚卸資産の評価減申請書(兼)決裁書**にて、 職務権限基準表Ⅱ3-Cに基づく所定の社内決裁を得た後、時価まで評価減を行う。 * 申請の際には、**棚卸資産の評価減申請書**を添付する。 ### 不良品などの処理 * 値下げによる販売や、 * 社内販売でも処分する事が不可能な不良商品を廃棄処分する場合は、 JIM稟議申請にて、職務権限基準表Ⅱ3-Cに基づく所定の社内決裁を得た後、会計処理を行う。 * 申請の際には、**棚卸資産の評価減申請書**および廃棄委託業者からの**廃棄証明書**を添付する。 * 事務所内での廃棄など**廃棄証明書**が取得出来ない場合は、廃棄場面を写真撮影しその代わりとする。