## 7.3.2 因果律と時空の分類
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Minkowski 時空において、2点間の「間隔」には、Euclid 空間とは異なる分類が存在する。これにより、**因果律**(因果関係があるか否か)が決定される。
### Minkowski間隔の分類
2点 A: $(ct_\mathrm{A}, x_\mathrm{A}{}^i)$, A: $(ct_\mathrm{B}, x_\mathrm{B}{}^i)$ の世界間隔:
$$
s^2 = -c^2 (t_\mathrm{B} - t_\mathrm{A})^2 + (x_\mathrm{B} - x_\mathrm{A})^2 + (y_\mathrm{B} - y_\mathrm{A})^2 + (z_\mathrm{B} - z_\mathrm{A})^2,
$$
の符号に基づいて、2点間の関係は、以下の3つに分類される:
- **Timelike(時間的)間隔**: $s^2 \lt 0$
- 時間差の方が空間差より大きい
- 2点間で因果関係が可能(光速以下で通信可能)
- 一方が他方の未来または過去にある
- **Lightlike(光的・null)間隔**: $s^2 = 0$
- 光速で移動するものがたどる経路
- 因果関係はあり得るが光でのみ可能
- **Spacelike(空間的)間隔**: $s^2 \gt 0$
- 空間差の方が時間差より大きい
- 因果関係なし(信号は光速を超えて届かない)
### 光円錐(Light cone)
- 原点を出発点とした光の伝播を描いたもの。
- 光円錐の**内部**:timelike(因果関係あり)
- 円錐の**表面**:null(光が通る軌道)
- 円錐の**外部**:spacelike(因果関係なし)
> **因果律**(Causality):ある出来事が別の出来事に影響を及ぼすためには、その2点の間隔がtimelikeまたはnullでなければならない。
この後学ぶが、より一般の Lorentz ベクトル(4元ベクトル)$A^\mu$ に対してもそのノルムに応じて上記の分類を行うことができる。
$$
\boldsymbol{A}^2 := \eta_{\mu\nu}A^\mu A^\nu
$$
として、$A^\mu \lt 0$, の場合、$A^\mu$ は timelike、$A^\mu \lt 0$, の場合、$A^\mu$ は null、$A^\mu \gt 0$, の場合、$A^\mu$ は spacelike のように呼ぶ。
### 時空図での視覚的理解
- 原点を中心とする45度の光の世界線(円錐の斜線)
- 円錐の内側:未来領域・過去領域(causal future/past)
- 外側:elsewhere(同時に起こるが因果関係をもたない出来事)
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## 7.4 時間と長さ再考
### 7.4.1 固有時
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Lorentz変換の帰結として、異なる慣性系では時間の流れも変化することが分かった。Newton 力学で暗黙のうちに仮定されていた **絶対時間** が破れた今、時間について議論するときに、「誰にとっての時間なのか」をいちいち明らかにしなくてはならなくなり、極めて不便である。そこで、以下のように明確かつLorentz不変な時間である **固有時(proper time)** を導入する。
固有時は、時空上を運動する個々の物体それぞれに定められた時間変数である。ある物体の描く世界線を $x^\mu(\tau)$ のようにパラメータ表示する。パラメータ $\tau$ が固有時であり、これは、「この物体の静止系で測った時間」として定義される。文字通り、この物体は静止しているので、$\mathrm{d}x^i=0$ である。この時の時間が $\tau$ なので、線素は
$$
\mathrm{d}s^2 = -(c\mathrm{d}\tau)^2 + 0^2 + 0^2 + 0^2,
$$
となって、固有時と対応がつく。逆に、この物体が動いているように見える任意の慣性系に座標変換しても、線素は不変なので、
$$
\mathrm{d}s^2 = -(c\mathrm{d}\tau)^2 = -(c\mathrm{d}t)^2 + \mathrm{d}x^2 + \mathrm{d}y^2 + \mathrm{d}z^2.
$$
これを $\mathrm{d}{\tau}$ について解くと
$$
\mathrm{d}\tau = \dfrac{\mathrm{d}t}{\gamma_v},
$$
となる。ここで、$\gamma_v = 1/\sqrt{1-(v_x^2+v_y^2+v_z^2)/c^2}$ は移った先の系でこの物体がどんな速度で動いているように見えるかを表す Lorentz 因子である。定義より、Lorentz 因子は $1$ 以上なので、固有時よりも観測される時間間隔 $\mathrm{d}t$ の方が常に長い。例として、宇宙から降り注ぐ宇宙線が地球上空の大気と反応することで生じる $\mu$ 粒子は、半減期がおよそ $1.5\times 10^{-6}\,\mathrm{s}$ と極めて短い。いくら光速に近い速度を持っていたとしても、このような短時間で飛来する距離は高々 $500\,\mathrm{m}$ 程度であり、地上まで届くことはほぼない。しかし、地上の観測者からすると、この粒子の寿命は遥かに長く観測されるのだ。このため、実際に $\mu$ 粒子は地上でも観測されている。
少しだけ注意が必要なのは、今考察している物体の世界線は任意に取れるので、「物体の静止系」が必ずしも慣性系である保証がない点である。特に、物体がある慣性系に対して加速度運動していると、物体の静止系はもはや慣性系ではない。実は、以下の通り、そのような場合にも上記の議論は成立する。
上記の話とは逆に、物体の運動を観測している慣性系の方から話を始める。ある時刻において、この物体の速度 $(v_x,v_y,v_z)$ を測定したとしよう。これは、この物体が加速しているかどうかに依らず決まる概念である。速度が決まれば、Lorentz ブーストして、その瞬間にこの物体が静止している系に移ることができるが、Lorentz 変換で移れる先はやはり慣性系である。少し時間が経つと、この物体は加速して、もはや $(v_x,v_y,v_z)$ の値は変化しているかもしれない。その場合には、新しい速度 $(v_x,v_y,v_z)$ を使って、別の慣性系へと Lorentz ブーストすればいいのだ。このように、瞬間瞬間で別の慣性系に移って時間間隔 $\mathrm{d}\tau$ を評価することで、加速度運動している物体に対しても、特殊相対論の枠内で問題なく固有時を定めることができるのだ。
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### 7.4.2 固有長
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特殊相対性理論は、時間と空間を平等に扱う理論体系であった。時間の測り方が問題になったのと全く同じように、距離の測り方にも煩雑さが現れる。
ここでは、$x=0$ から $x=\ell_0$ の範囲に伸びる棒の長さを調べてみよう。この棒は、慣性系 S では静止しており、常に上記の $x$ の範囲に置かれているものとしよう。これを、$x$ 方向に速度 $V$ で運動する S' 系から眺めたらどうなるであろうか?これまで通り、2つの系の空間原点は $t=t'=0$ において一致するように取ると、S' 系でも棒の一端は $t'=0$ において $x'=0$ に存在する。同じ時刻に他端がどこにあるのかが問題となる。これは、Lorentz 変換の式から
$$
\begin{pmatrix}
ct'=0\\
x'
\end{pmatrix}
= \begin{pmatrix}
\gamma & -\beta\gamma\\
-\beta\gamma & \gamma
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
ct\\
x=\ell_0
\end{pmatrix},
$$
を満たすように $x'$ を決めることで分かる。ここで、S' 系では時刻 $t'=0$ に着目しているが、S 系で見ると必ずしも $t=0$ となっていないことが重要である。未知数 $x'$ と $t$ に対し、連立方程式が2本なので、この問題には解がただ一つ定まる:
$$
ct = \beta \ell_0,\quad x' = \dfrac{\ell_0}{\gamma}.
$$
やはり、Lorentz 因子 $\gamma$ が観測される長さ $\ell = x'-0$ と本来の長さ $\ell_0$ との関係を決めている。今、$\ell_0$ は棒本来の長さなので、 **固有長** と呼ぶべき量になっている。この棒が動いているように見える別の慣性系からは、棒の長さは $1/\gamma$ 倍に縮む($\gamma\geq 1$ に注意)。この、長さが縮んだように観測される現象を、 **Lorentz-FitzGerald 収縮**、または単に **Lorentz 収縮** と呼ぶ。
ここまでで学んだように、特殊相対論では、時間も空間の伸び縮みするようなものであり、これは日常生活の直感に反するものであろう。このことを利用したいくつかの興味深いパラドックスが知られている。詳しくはMiro講義資料及び講義本体を参照されたい。
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