## 線型結合 <details> 長さの同じ複数のベクトルを定数倍して足し合わせることで別のベクトルを作ることを、線型結合と呼ぶ: $$ \boldsymbol{c} = p\boldsymbol{a}+q\boldsymbol{b}+\cdots. $$ </details> ## 線型独立、線型従属 <details> 複数のベクトルの組 ($\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2, \dots \boldsymbol{a}_k$) を持ってきて、これらのうちのどれか1つがそれ **以外の** ベクトルの線型結合で書けるとき、はじめに与えられたベクトルの組は **線型従属** であると言う: $$ \boldsymbol{a}_i = p_1 \boldsymbol{a}_1 + p_2 \boldsymbol{a}_2 + \cdots +p_{i-1} \boldsymbol{a}_{i-1} + p_{i+1} \boldsymbol{a}_{i+1} + p_{i+2} \boldsymbol{a}_{i+2} + \cdots +p_{k} \boldsymbol{a}_{k} = \sum_{j\neq i}p_j \boldsymbol{a}_j. $$ これを少し書き換えると $$ p_1 \boldsymbol{a}_1 + p_2 \boldsymbol{a}_2 + \cdots + p_k \boldsymbol{a}_k = \sum_{j}p_j\boldsymbol{a}_j = \boldsymbol{0}, \tag{☆} $$ (ただし、$p_i=-1$)の形に書けるので、こちらをもって線型従属とすることが多い。ここで、☆式をよく見ると、係数 $p_j$ が全て $0$ であればベクトルの組 ($\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2, \dots \boldsymbol{a}_k$) の内容に依らず常に成立することに気付くであろう。一方で、上の式変形から分かるように、線型従属であるためには、これらの係数のうち少なくとも1つは $0$ でないことが必要となる。そこで、$p_1=p_2=\cdots=p_k=0$ という場合を、☆式の **自明な解** と呼ぶ。すなわち、線型従属である条件は、「☆式が **自明な解以外の解持つ**」ことと同値である。逆に、**線型独立** とは、「☆式が **自明な解しか持たない**」ケースとして定義される(**非自明解** を持たないと言ってもよい)。☆式のことを *線型関係式* と呼ぶ。 本資料冒頭の式は、ベクトルの組の中から選んだ1つ($i$番目のベクトル)が、その他のベクトルの線型結合で書けることを言ったものだが、線型独立性を見るために、あらゆる $i$ について調べるのは如何にも筋が悪そうである。そこで、線型関係式の解を調べることで、いずれかの $i$ を特定することなく、もともとのベクトルの組について線型独立か線型従属かまとめて調査することができる。 例えば、2つのベクトルが線型従属であるとき、これらのベクトルは平行(反平行の場合も含む)で、線型独立であるときには平行でない、ということことは極めて自明である。これは考えているベクトルの次元の数に依らず常に成り立つ。次に、3次元空間で3つのベクトル $\boldsymbol{a}$, $\boldsymbol{b}$, $\boldsymbol{c}$ を考える。もしこれらが線型従属であれば、$\boldsymbol{c}$ は $\boldsymbol{a}$ と $\boldsymbol{b}$ の線型結合で書けるので、$\boldsymbol{a}$ と $\boldsymbol{b}$ が張る平面内に収まっている。従って、3つのベクトルの線型結合により、新たに$$ \boldsymbol{d}=p\boldsymbol{a}+q\boldsymbol{b}+r\boldsymbol{c},$$ というベクトルを作ったとしても、このベクトルは上記の平面内しか動けない。一方で、($\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}, \boldsymbol{c}$) が線型独立であれば、上のように定めた $\boldsymbol{d}$ は3次元空間を自由に動ける。ちなみに、3次元空間ではなく2次元空間の場合には、3つのベクトルを持ってくると必ず線型従属となっている。言い方を変えると、2次元空間には線型独立なベクトルを2つまでしか取れない。$n$ 次元空間であれば、独立なベクトルの数は$n$が最大である。 </details> ## 線型独立性と行列式 <details> $n$ 次元ベクトル空間において、$n$ 本のベクトル $\boldsymbol{v}_1, \boldsymbol{v}_2, \dots, \boldsymbol{v}_n$ が与えられたとする。これらが線型独立かどうかを判定する方法のひとつとして、次の手順がある: 判定手順(正方行列の行列式を使う): 1. 各ベクトル $\boldsymbol{v}_i$ を列ベクトルとみなし、$n \times n$ の行列 $A$ を作る: $A = (\boldsymbol{v}_1\ \boldsymbol{v}_2\ \cdots\ \boldsymbol{v}_n)$ 2. 行列 $A$ の行列式 $\det A$ を計算する。 3. 次のように判定する: - $\det A \ne 0$:ベクトルは線形独立である。 - $\det A = 0$:ベクトルは線形従属である。 </details> ## 線型独立なベクトルの数と行列の階数 <details> $n$ 本のベクトルの組が線型独立であるとき、そのままズバリだが、「線型独立なベクトルの数」は$n$であると言える。一方で、線型従属である場合、独立なベクトルの数がどうなっているのか、直ちには分からない。例えば、$4$つのベクトル ($\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}, \boldsymbol{c}, \boldsymbol{d}$) が線型従属であったとしよう。線型従属の定義により、$4$ つのうち少なくとも $1$ つは、残りの$3$つの線型結合で書けるはずである。ここでは、そのようなベクトルとして $\boldsymbol{c}$ を考えよう。$\boldsymbol{c}$ は独立なベクトルでないのでリストから外して、$3$つのベクトル ($\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}, \boldsymbol{d}$) を残しておこう。もしこれらが線型独立であれば、線型独立なベクトルの数は $3$ ということになり、$\boldsymbol{c}$ を加えたもともとの組に対しても $3$ つの独立なベクトルがあると言ってよい。一方で、$3$ つのベクトル ($\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}, \boldsymbol{d}$) が線型従属である場合には、上記の操作を繰り返していくことで、リストを小さくしていき、残ったリストが線型独立になるまで繰り返す。こうして得られた数を、ベクトルを並べて作った行列(今の場合は$\begin{pmatrix}\boldsymbol{a} & \boldsymbol{b} & \boldsymbol{c} & \boldsymbol{d}\end{pmatrix}$)の **階数**(**rank**)と呼ぶ。 </details> ## (参考)次元定理〜「未知数の数」と「制約の数」の関係〜 <details> $n$ 個の未知数に対して、$m$ 本の一次方程式(=制約条件)を課すと、解の自由度(つまり、連立方程式の解空間の次元)はふつう「$n - m$ 個」となる。 これはなぜかというと: - $m$ 本の一次方程式が互いに独立であるとき、それぞれが1つずつ自由度を減らす - よって、$n$ 次元の空間に $m$ 個の独立な制約を課せば、残る自由度は $n - m$ ただし、連立方程式の中で、「無駄なもの」が含まれている場合には、自由度は減らない。この、「意味のある独立な方程式が何個含まれているのか」というのが、階数の持つ意味である。 上記の関係は一般に、次のような「次元に関する公式」として知られている: $$ \boxed{\text{(解の自由度)} = \text{(未知数の個数)} - \text{(独立な制約の数)}} $$ この「独立な制約の数」は、係数行列の 階数(rank) に他ならない。もう少し抽象的な書き方をすると $$ \boxed{\text{解空間の次元数} = \text{未知数の個数} - \text{係数行列のランク}} $$ あるいは、解空間を $V$、連立一次方程式の係数行列を $A$ として $$ \boxed{ \dim V = n - \mathrm{rank}\,A } $$ となる。このあたりの議論は、次週の「線型空間」において詳しく扱うが、今回の演習問題の【1】(3)や【3】(2)は、すでにこの考え方を下敷きにしている。 </details> ## 正方行列の行列式、階数、線型独立性に関するまとめ <details> $n$ 次正方行列について、以下の3つは同値である - 行列式が $0$ でない - 階数が $n$ - 構成する $n$ 本の列ベクトルは線型独立 - 構成する $n$ 本の行ベクトルは線型独立 </details> ## (以下復習)行簡約階段形行列と階数 <details> 以下の条件をすべて満たす行列を、行簡約階段形行列と呼ぶ: - 全ての成分が0である行は、0以外を1つでも含む行より下にある。 - 各 **行** を左から右に見ていったときに、0でない最初の成分を **主成分** と呼び、主成分は *下に行くほど右* に現れる。 - 主成分はすべて1である。 - 主成分が含まれる **列** は、主成分以外のすべての成分は0である。 具体例で見ていこう。以下は行簡約階段形行列である: $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 2 & -1\\ 0 & 1 & 3 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 4 \\ 0 & 1 & 0 & 2 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0\\ 0 & 1\\ 0 & 0\\ 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & -3 \\ 0 & 0 & 1 & 3 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}.$ これらの行列の階数は **階段の段数(0以外を含む行の数)** に一致し、左から順に、$2$, $3$, $4$, $2$, $2$ である。 一方で、上記とよく似た以下の行列は行簡約階段形ではない(条件に違反している成分を赤字で示す): $\begin{pmatrix} 1 & \color{red}{1} & 5 & -1\\ 0 & \color{red}{3} & 3 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 4 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & \color{red}{1} & 0 & 2 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & \color{red}{5} & 0 \\ 0 & \color{red}{2} & 0 & \color{red}{4} \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0\\ 0 & 1\\ 0 & \color{red}{1}\\ 0 & \color{red}{1} \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & \color{red}{-3} \\ 0 & 0 & 1 & \color{red}{3} \\ 0 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}.$ 任意の行列は、下記で紹介する行基本変形を繰り返すことで必ず行簡約階段形に持ち込める。行基本変形の重要な性質として、*行列の階数を変えない* ことが挙げられる。よって、行列の階数を調べるときに、行基本変形の利用が有用である。 </details> ## 行列の標準形 <details> 行簡約階段形行列に課された条件と全く同じものを今度は行と列の立場を入れ替えて適用したものを、列簡約階段形行列と呼ぶ。列簡約階段形行列は実用上出てくることは少ない。しかし、行についても列についても簡約階段形になっている行列を{\bf 標準形}は便利なので覚えておくべきである。以下は標準形の行列の例である: $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0\\ 0 & 1\\ 0 & 0\\ 0 & 0 \end{pmatrix},$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}.$ これらからわかるように、標準形の行列は、成分が0か1しかない。しかも、$1$は左上角の$1$-$1$成分からはじまり、右下のマスにのみ続いていく。任意の行列は、下記に紹介する行基本変形および列基本変形(合わせて単に基本変形)を繰り返すことで標準形に持ち込める。行基本変形と同様、*列基本変形も行列の階数を変えない*。行列の階数を調べるとき、場合によっては行基本変形だけでなく列基本変形も利用することで計算が楽になる。 </details> ## 行列の基本変形 <details> 行列の **行** 基本変形は、以下の3つの操作の総称である: - 2つの行を入れ替える - ある行を0でない定数倍する - ある行に別の行の定数倍を加える 上記の「行」を「列」に置き換えることで、**列** 基本変形も同様に定義される。これらを合わせて行列の基本変形と呼ぶ。以下は、基本変形を繰り返すことで、ある行列を標準形に変形する例である \begin{eqnarray*} &&\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4\\ 0 & 2 & -1 & 1\\ 1 & 1 & 0 & 2 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 4 & 3\\ 0 & 2 & -1 & 1\\ 1 & 1 & 0 & 2 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 4 & 3\\ 0 & 2 & -1 & 1\\ 0 & 1 & -4 & -1 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 3\\ 0 & 2 & -1 & 1\\ 0 & 1 & -4 & -1 \end{pmatrix} \\ &\to& \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 2 & -1 & 1\\ 0 & 1 & -4 & -1 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 7 & 3\\ 0 & 1 & -4 & -1 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & -4 & -1\\ 0 & 0 & 7 & 3 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & -1\\ 0 & 0 & 7 & 3 \end{pmatrix} \\ &\to& \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 7 & 3 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 7 & 0 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray*} この結果、元の行列の階数は $3$ であると分かる。 このように、行列の階数を調べるには行、列基本変形をいずれ利用できるが、多くの問題では行のみの基本変形が許される(例: 拡大係数行列を用いた連立方程式の解法、逆行列の導出)。いずれも行簡約階段形にすればそのまま解答に至る。 </details>