# 数学演習1 第10回資料
## 1. 行列式の定義と計算方法
### 1.1. 2×2 行列の行列式
<details>
2×2 行列
$$
A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix},
$$
の行列式 $\det A$ は以下で定義される:
$$
\det A = ad - bc.
$$
これは「主対角線の積から副対角線の積を引く」形となっている。また、行列式のことを
$$
\det A = \left|\begin{matrix} a & b \\ c & d \end{matrix}\right|,
$$
とも表記する。$|...|$がついているからと言って、**絶対値記号のように正の値を取るわけではないので注意**。
> 例.
> $$
> \det \begin{pmatrix}-3 & 1 \\ 0 & 2\end{pmatrix} = \left|\begin{matrix}-3 & 1 \\ 0 & 2\end{matrix}\right| = -3\times 2 - 1\times 0 = -6.
> $$
</details>
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### 1.2. サラスの方法(3×3 の場合)
<details>
3×3 行列
$$
A = \begin{pmatrix}
a & b & c \\
d & e & f \\
g & h & i
\end{pmatrix}
$$
の行列式を計算する直感的な方法として **サラスの方法**(Sarrus' Rule)がある:
1. 行列の左隣に最初の2列を再掲:
$$
\begin{array}{ccc|cc}
a & b & c & a & b \\
d & e & f & d & e \\
g & h & i & g & h \\
\end{array}
$$
2. 右下がりの対角線(↘)の積を足す:
$$
aei + bfg + cdh
$$
3. 左下がりの対角線(↙)の積を引く:
$$
ceg + bdi + afh
$$
4. まとめて:
$$
\det A = aei + bfg + cdh - ceg - bdi - afh
$$
この方法は **3×3 に特化した視覚的手法であり、4×4 以上には拡張できない**。
</details>
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### 1.3. 置換による一般的定義(任意の n 次正方行列)
<details>
$n \times n$ の行列 $A = (a_{ij})$ の行列式は、**置換 $\sigma$ の全体 $S_n$ にわたる総和**として定義される:
$$
\det A = \sum_{\sigma \in \mathfrak{S}_n} \operatorname{sgn}(\sigma) \cdot a_{1\sigma(1)} a_{2\sigma(2)} \cdots a_{n\sigma(n)}
$$
- $\sigma$:$\{1,2,\dots,n\}$ の置換
- $\operatorname{sgn}(\sigma)$:$\sigma$ の符号(偶置換なら +1、奇置換なら -1)
この定義により、行列式は**反対称性・線形性**などの重要な性質を自然に満たす。
この定義はやや抽象的ですぐには分かりにくいが、以下のように考えればよい。以下の例を元に考えてみよう。
$$
\left|\begin{matrix} 1 & \color{red}{2} & \color{blue}{3} & 4\\ \color{red}{5} & 6 & 7 & \color{blue}{8}\\ 9 & \color{blue}{10} & 11 & \color{red}{12}\\ \color{blue}{13} & 14 & \color{red}{15} & 16\end{matrix}\right| = \cdots + \color{red}{2\times 5 \times 12 \times 15} + \cdots - \color{blue}{3\times 8 \times 10 \times 13} + \cdots,
$$
まず、行列式を計算するためには、$1$ 行目から $1$ つ、$2$ 行目から $1$ つ、$3$ 行目から $1$ つ、$4$ 行目から $1$ つ取ってきて掛け算する。このとき、選ばれた $4$ つの成分は、行だけでなく列で見ても、各列から $1$ つを取ったものになっているものに限る。赤や青で示された成分は、この条件を満たすものの例である。
次に、$2\times 2$ 行列であれば $bc$ が、$3\times 3行列であれば 右上から左下に向けて並ぶものが引き算として、その他の組み合わせは足し算として計上されていたことを思い出す。一般の場合には **「偶置換か奇置換か」に基づいて符号が決まる**。これも上記の行列式の計算において赤字と青字で表されているものを例に考えていく。まず赤字で表されたものは、1行目から第2列を、2行目から第1列を、3行目から第4列を、そして4行目から第3列を選んだものとなっている。置換 $\sigma$ とは、これらの数値を並べて
$$
\sigma = \begin{pmatrix}1 & 2 & 3 & 4\\ 2 & 1 & 4 & 3\end{pmatrix},
$$
と書いたものである。さて、その時の符号、$\text{sgn}(\sigma)$ であるが、これは「上段にある $(1,2,3,4)$ の中から2つを選んで交換する操作(互換)を何度繰り返せば下段に至るか」を持って判断する。上段から下段に至るまで、どのような互換をどの順で行えばいいか、は1つには定まらないが、**そのような互換の回数の偶奇は唯一に定まる** ことが知られている(証明略)。上の場合は、まず1と2を交換し、次に3と4を交換すれば下段に至ることはすぐ分かるであろう。互換2回で到達できるので、これは **偶置換** である。偶置換 $\sigma$ に対し、$\text{sgn}(\sigma)=1$ と定める。一方で、青字で書かれた成分の組み合わせは、
$$
\sigma = \begin{pmatrix}1 & 2 & 3 & 4\\ 3 & 4 & 2 & 1\end{pmatrix},
$$
に対応している。一例を示すと、上段から下段に至るには
$$
(1,2,3,4) \to (4,2,3,1) \to (4,3,2,1) \to (3,4,2,1),
$$
と3回の互換が必要であり、これは奇数なので「奇置換」である。よって、この置換に対しては $\text{sgn}(\sigma) = -1$ と定める。
上の例では、赤字と青字で示した2つの積を含め、全部で $4!=24$ 通りの積が考えられ、その半数の12項は偶置換(つまり、足す)、残りの12項は奇置換(つまり、引く)として現れる。$3\times 3$ 行列のときに紹介したサラスの方法のように、「右下に向けた斜めの積」と「左下に向けた斜めの積」では、これら24項を調べ尽くすことができないことに注意する。実際、上記の例で青地で示された成分の積は、「斜めの積」とはなっていない。
以上で、$4\times 4$ 行列以上でも通用する一般的な行列式を定義したが、この定義はもちろん $2\times 2$ や $3\times 3$ の場合にも当てはまる。$ad-bc$ を見たとき、$ad$ は偶置換(置換0回で到達)なので正号が、$bc$ は奇置換(置換1回で到達)なので負号が付くと見ればいいのだ。
一般に、この定義を使って大きな行列の行列式を調べる際には、膨大な数の組み合わせを考えなければいけないが、$0$ となっている成分が多い行列の場合には、サクッと計算できることがある。いずれにせよ、定義なので覚えるしかない[^1]。定義を愚直になぞる形で計算する以外の方法については、次節以降の内容(特に余因子に関するもの)、および演習問題【2】で学ぶ性質を参考にされたい。
[^1]: ちなみに、内田先生の講義では、以下で紹介する余因子展開という方法で、$2\times2$ の行列から順次再帰的に定義(導入)している。もちろん、この資料で紹介した定義と等価である。(証明略)
> ※ 行列式の持つ対称性や線形性、基本変形による変化などの性質については演習問題【2】で確認すること。
</details>
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## 2. 余因子
### 2.1 小行列式と余因子
<details>
- **小行列式**(minor)
$n$次正方行列 $A$ において、第 $i$ 行・第 $j$ 列の成分を除いてできる $(n-1)\times(n-1)$ 行列の行列式を **$(i,j)$ 成分の小行列式** という。ここではこれを $D_{ij}$ と表記することにする。
> 例
> $$
> A = \begin{pmatrix}
> 1 & 2 & 3\\
> 4 & 5 & 6\\
> 7 & 8 & 9
> \end{pmatrix},
> $$
>
> について、その $(2,3)$ 成分の小行列式は
> $$
> D_{23} = \left|\begin{matrix}
> 1 & 2\\
> 7 & 8
> \end{matrix}\right| = -6.
> $$
- **余因子**(cofactor)
同じく $(i,j)$ 成分の小行列式に $(-1)^{i+j}$ を掛けたものを $(i,j)$ 成分の余因子と呼ぶ。ここではこれを $C_{ij}$ と表記することにする。
> 上と同じ例では
> $$
> C_{23} = (-1)^{2+3} D_{23} = (-1)^{2+3}\left|\begin{matrix}
> 1 & 2\\
> 7 & 8
> \end{matrix}\right| = 6.
> $$ が $(2,3)$ 成分の余因子。
</details>
### 2.2 行列式の展開(余因子展開)
<details>
行列 $A$ の $(i,j)$ 成分の余因子を $C_{ij}$ と書くと、 $i$ 行目、または $j$ 列目に沿った **余因子展開** により、$\det A$ は次のように表せる:
- 第 $i$ 行に沿って:
$$
\det A = a_{i1}C_{i1} + a_{i2}C_{i2} + \cdots + a_{in}C_{in}.
$$
- 第 $j$ 列に沿って:
$$
\det A = a_{1j}C_{1j} + a_{2j}C_{2j} + \cdots + a_{nj}C_{nj}.
$$
> 上記の例では例えば
> $$
> \det A = (-1)^{3+1}\cdot 7 \cdot \left|\begin{matrix}2 & 3\\ 5 & 6\end{matrix}\right| + (-1)^{3+2}\cdot 8 \cdot \left|\begin{matrix}1 & 3\\ 4 & 6\end{matrix}\right| + (-1)^{3+3}\cdot 9 \cdot \left|\begin{matrix}1 & 2\\ 4 & 5\end{matrix}\right|.
> $$ (第3行に対する余因子展開)
>
> $$
> \det A = (-1)^{1+1}\cdot 1 \cdot \left|\begin{matrix}5 & 6\\ 8 & 9\end{matrix}\right| + (-1)^{2+1}\cdot 4 \cdot \left|\begin{matrix}2 & 3\\ 8 & 9\end{matrix}\right| + (-1)^{3+1}\cdot 7 \cdot \left|\begin{matrix}2 & 3\\ 5 & 6\end{matrix}\right|.
> $$ (第1列に対する余因子展開)
> 実際の運用上は、0をたくさん含む行や列を選んで余因子展開すれば計算が楽になる。
</details>
### 2.3 余因子行列と逆行列
<details>
- **余因子行列**(cofactor matrix; 随伴行列 adjugate matrix とも):
余因子を並べて **転置をとった** 行列:
$$
\mathrm{adj}(A) = {}^{t\!}(C_{ij})
$$
- **逆行列の公式(正則な場合)**:
$$
A^{-1} = \frac{1}{\det A} \, \mathrm{adj}(A)
$$
> 例.
> $A = \begin{pmatrix}1 & 2\\ 3& 4\end{pmatrix}$ について、まず、小行列式 $D_{ij}$ は
> $$
> D_{11} = 4, \quad D_{12} = 3, \quad D_{21} = 2, \quad D_{22} = 1,
> $$ よって余因子は
> $$
> C_{11} = 4, \quad C_{12} = -3, \quad C_{21} = -2, \quad C_{22} = 1,
> $$ 余因子行列は
> $$
> \mathrm{adj}(A) = {}^{t\!}\begin{pmatrix}4 &-3\\-2 & 1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}4 &-2\\-3 & 1\end{pmatrix}.
> $$ また、行列式は
> $$
> \det A = 1\times 4 - 2\times 3 = -2.
> $$ よって逆行列は
> $$
> A^{-1}=\dfrac{1}{-2}\begin{pmatrix}4 &-2\\-3 & 1\end{pmatrix}
> = \begin{pmatrix}-2 &1\\3/2 & -1/2\end{pmatrix}
> $$ これはおそらく覚えているであろう逆行列の公式
> $$
> A^{-1} = \dfrac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b\\ -c & a\end{pmatrix},
> $$ そのもの。
</details>
## 3. クラメルの公式(Cramer's Rule)
<details>
$A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b}$ の解を $\boldsymbol{x} = {}^{t\!}(x_1, \dots, x_n)$ とするとき、$A$ が正則であれば:
- 第 $i$ 成分は次のように与えられる:
$$
x_i = \frac{\det A_i}{\det A}
$$
ただし、$A_i$ は $A$ の第 $i$ 列を $\boldsymbol{b}$ に置き換えた行列。
> 例.
> $$
> \begin{pmatrix}
> 3 & 1 & 2\\
> 5 & 1 & 3\\
> 1 & 0 & 1
> \end{pmatrix}\begin{pmatrix}
> x_1 \\ x_2 \\ x_3
> \end{pmatrix} =
> \begin{pmatrix}
> 3 \\ -1 \\ 2
> \end{pmatrix}
> $$
>
> 左辺の係数行列の行列式は
> $$
> \left|\begin{matrix}3 & 1 & 2\\5 & 1 & 3\\1 & 0 & 1\end{matrix}\right| = -1.
> $$
>
> クラメルの公式から
> $$
> x_1 = \dfrac{\left|
> \begin{matrix}
> \color{red}{3} & 1 & 2\\
> \color{red}{-1} & 1 & 3\\
> \color{red}{2} & 0 & 1
> \end{matrix}\right|}{-1} = \dfrac{6}{-1} = -6,
> $$$$
> x_2 = \dfrac{\left|\begin{matrix}3 & \color{red}3 & 2\\5 & \color{red}{-1} & 3\\1 & \color{red}2 & 1\end{matrix}\right|}{-1} = \dfrac{-5}{-1} = 5,
> $$$$
> x_3 = \dfrac{\left|\begin{matrix}3 & 1 & \color{red}3\\5 & 1 & \color{red}{-1}\\1 & 0 & \color{red}2\end{matrix}\right|}{-1} = \dfrac{-8}{-1} = 8.
> $$
>
</details>