# 数学演習1 第12回資料
## 線型空間とは何か?
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これから学ぶ「線型空間」「次元」「基底」という概念は、ベクトルの集合をより深く理解するための重要なステップとなる。
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### 次元の直感的理解
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まずは「次元」の感覚をつかんでおこう:
- **数直線($\mathbb{R}$)**: 1つの数(例:$x$)で点が表される ⇒ **1次元**
- **平面($\mathbb{R}^2$)**:2つの数(例:$(x, y)$) ⇒ **2次元**
- **空間($\mathbb{R}^3$)**:3つの数(例:$(x, y, z)$) ⇒ **3次元**
ここでの「次元」とは、**その空間の任意の点を表すために必要な最小限の座標数(ベクトルの数)** と考えることができる。
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### 線型空間の定義(いつでも定義が最重要!)
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$c_1, c_2 \in \mathbb{R}$ (実数)とし、ある集合 $V$ から任意の2つの元 $a_1$, $a_2$ を取り出して、**線型結合** $c_1 a_1 + c_2 a_2$ を取ったとき、その結果が再び集合 $V$ の中に含まれているとき、$V$ を **線型空間(vector space)** と呼ぶ。
ここでは、$a_1$, $a_2$ は単なる数でもベクトルでも、それどころかより一般的なもの(行列、数列や関数など、あるいはそこに一定の条件を課したもの)でもよいことに注意。重要なのは、「足し算」や「定数倍」が数学的に妥当な意味を持ち、かつ線型結合が集合の中に収まることだけ。
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### 線型空間の例
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- **数直線 $\mathbb{R}$**
任意の2つの実数 $x_1$, $x_2$ を取ると、その線型結合 $c_1 x_1 + c_2 x_2$ はまた実数であり、$\mathbb{R}$ の中にある。
- **平面 $\mathbb{R}^2$**
平面上の2点 $(x_1, y_1)$, $(x_2, y_2)$ に対して、$c_1(x_1, y_1) + c_2(x_2, y_2) = (c_1x_1 + c_2x_2, c_1y_1 + c_2y_2)$ はまた平面上の点。
- **$n$ 次元ベクトル空間 $\mathbb{R}^n$**
実数を成分とする $n$ 次元ベクトル全体の集合。線型結合をとってもまた $n$ 次元ベクトルになるのは極めて当たり前。
- **$0$ だけからなる空間**
$\{ \boldsymbol{0} \}$ は自明な線型空間 ($0$次元) である。この集合から2つ取ってきて($\boldsymbol{0}$ と $\boldsymbol{0}$ しか取れない)、その線型結合($c_1\cdot \boldsymbol{0} + c_2 \cdot \boldsymbol{0}$) を取ると、やはり $\boldsymbol{0}$ となり、元の集合に入っている。これは $0$ 次元の線型空間。
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### 線型空間でない例
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- **途切れた数直線 $[a, b)$**
線型結合 $c_1 x_1 + c_2 x_2$ が範囲外に出る可能性がある。
- **有限範囲の平面領域**
上と同様に、線型結合で外に出てしまう。
- **原点を通らない直線 (例:$x + y = 1$)**
特別な場合を除いて線型結合は元の直線上にない。上の例では、$x_1+y_1=1$, $x_2+y_2=1$ を満たす 2 点 $(x_1, y_1)$, $(x_2, y_2)$ を持ってきて、その線型結合を取ると
$$
x_3 + y_3 = c_1(x_1, y_1) + c_2(x_2, y_2) = (c_1x_1 + c_2x_2, c_1 y_1 + c_2 y_2),
$$
だが、新たに得られた点 $(x_3, y_3)$ は
$$
x_3 + y_3 = (c_1 x_1 + c_2 x_2) + (c_1 y_1 + c_2 y_2) = c_1 (x_1+y_1) + c_2 (y_1+y_2) = c_1 + c_2,
$$ となり、$c_1+c_2=1$ となるような特別な場合以外には、直線外に出てしまう。(線型空間であるためには*任意の*線型結合に対して元の空間に収まることが必要。)
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## 部分空間
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線型空間 $V$ の部分集合で、自身も線型空間を成すような空間 $W$ を、$V$ の **部分空間** と呼ぶ。
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### Span: 部分空間の生成
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ある線型空間 $V$ の中の複数のベクトル $\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_k$ が与えられたとき、それらの**線型結合全体の集合**を
$$
\text{Span}(\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_k) = \left\{ c_1 \boldsymbol{v}_1 + \cdots + c_k \boldsymbol{v}_k \mid c_1, \dots, c_k \in \mathbb{R} \right\}
$$
と書き、**これらのベクトルが張る空間**(=生成される部分空間)と呼ぶ。
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### 例:
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- $\mathbb{R}^2$ において、$\boldsymbol{v}_1 = \begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$ のみを使うと、横軸($x$軸)の直線を張る。つまり、$\text{Span}(\boldsymbol{v}_1)$ は $x$ 軸。
- 同じ空間において、$\boldsymbol{v}_1 = \begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$, $\boldsymbol{v}_2 = \begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$ を使えば、平面全体を張る:$\text{Span}(\boldsymbol{v}_1, \boldsymbol{v}_2) = \mathbb{R}^2$。
> 💡 Spanは常に線型空間になる。定義から明らか。
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## 線型空間の次元と基底 (Basis)
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ある線型空間 $V$ において、
- 線型独立なベクトルの組 $\{\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_n\}$
- $V$ のすべてのベクトルがこの組の線型結合で表される
このとき、このベクトルの組を **基底** といい、基底の本数 $n$ をその空間の **次元** と呼ぶ。線型空間 $V$ の次元のことを
$$
\text{dim}\,V,
$$
と書く。
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### 例:
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- $\mathbb{R}$ の基底:$\{1\}$ ⇒ 次元は1
- $\mathbb{R}^2$ の基底:$\left\{\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}\right\}$ など ⇒ 次元2
- $\mathbb{R}^3$ の基底:標準基底など ⇒ 次元3
> 💡 基底の選び方は一通りではない。例えば、上の最初の例では、基底を $\{2\}$ に取ることもできる。線型独立かつ全体を生成できれば、それは基底だ。
$V = \text{Span} (\boldsymbol{v}_1,\cdots, \boldsymbol{v}_n)$ に対し、$n$ 個のベクトル $\boldsymbol{v}_1,\cdots, \boldsymbol{v}_n$ が線型従属であれば、もっと少ない数のベクトルでこの空間は書けるはずである。この中から、他のベクトルの線型結合で書ける「無駄な」ベクトルを消していき、最後に残った最小限のベクトル $\boldsymbol{u}_1, \cdots, \boldsymbol{u}_m$ を使って
$$
V = \text{Span}(\boldsymbol{u}_1, \cdots, \boldsymbol{u}_m),
$$
と書くことができ、このとき、$\{\boldsymbol{u}_1, \cdots, \boldsymbol{u}_m\}$ は基底であり、この空間の次元は $m$ である。
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### 行基本変形を用いた基底の特定
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1. 「列ベクトルの集合が空間を張る」とは?
- ベクトル $\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_k$ が空間 $V$ を張るとは、$\text{Span}(\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_k) = V$ ということ。
- このとき、これらのベクトルが互いに線型独立であれば、その集合は基底になる。
2. 行列に並べてみる(列ベクトルを横に並べる)
$$
A = [\boldsymbol{v}_1\ \boldsymbol{v}_2\ \dots\ \boldsymbol{v}_k],
$$
- この行列 $A$ の列ベクトルが空間を張る対象。
3. 行基本変形で「構造」を炙り出す
- 行基本変形は、 *列ベクトル間の線型関係を壊さずに、全体の構造を可視化する* 操作。
- 行簡約階段行列にすると、非ゼロ行から「独立な方向」が見えてくる。
4. ピボット列 = 基底の候補
- ピボット(= 左から順に最初に1が出る位置、主成分とも)に対応する元の列ベクトルたちは、線型独立。
- よって、それらは空間の基底をなす。
- ピボットでない列は、前の列の線型結合になっている。
→ 実際に、非ピボット列が「どのように他の列の線型結合で書けるか」は、行基本変形で得た式の中に明示されている。
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### 具体例を使って見てみよう
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たとえば行列
$$
A = \begin{bmatrix}
1 & 2 & 3 \\
0 & 1 & -1 \\
1 & 3 & 2 \\
\end{bmatrix},
$$
を行基本変形すると:
$$
\begin{bmatrix}
\color{red}{1} & 0 & \color{blue}{5} \\
0 & \color{red}{1} & \color{blue}{-1} \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix}
$$
- ピボット列は1列目と2列目。
- よって、元の $\boldsymbol{v}_1$, $\boldsymbol{v}_2$ が基底。
- 3列目 ($\boldsymbol{v}_3$) は $\color{blue}{5\boldsymbol{v}_1 - \boldsymbol{v}_2}$ になっている。
➡ これは行基本変形中に「ある行に別の行の定数倍を加減して簡単にする操作」の結果であり、ある行が別の行の線型結合で書けないか調べたことの結果である。「行」に関する基本変形によって「列」の線型独立性が分かるのは、一見すると不思議だが、「行基本変形は列の間の構造(線型独立性、従属性)を変えない操作」であることから理解できる。
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🎯 まとめ
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「行基本変形は、列ベクトルの独立性と、冗長な列が他の列でどう書けるかを“見える化”してくれる操作。ピボット列が基底、それ以外は“構造上の無駄”である。」
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## 和空間と交空間
### 和空間
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線型空間 $V$ と $W$ の **和空間** $V+W$ とは、$V$ の元と $W$ の元の線型結合全体からなる空間であり、これもまた線型空間となる。
$$
V + W = \{a+b \mid a\in V, b \in W\}.
$$
$V$ と $W$ の基底がそれぞれ $\boldsymbol{v}_1, \cdots \boldsymbol{v}_m$、 $\boldsymbol{w}_1, \cdots \boldsymbol{w}_n$ で与えられるとき、和空間は
$$
V + W = \mathrm{Span}(\boldsymbol{v}_1, \cdots \boldsymbol{v}_m, \boldsymbol{w}_1, \cdots \boldsymbol{w}_n),
$$
と書ける。
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### 交空間(共通部分)
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線型空間 $V$ と $W$ の **交空間** (共通部分) $V\cap W$ とは、$V$ にも $W$ にも属する元全体からなる空間であり、これもまた線型空間となる。
$$
V \cap W = \{a \mid a\in V \;\text{and}\; a \in W\}.
$$
</details>
### 和空間と交空間の次元
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以下の関係が成り立つ
$$
\mathrm{dim} \, V + \mathrm{dim} \, W = \mathrm{dim} (V+W) + \mathrm{dim}(V\cap W).
$$
例えば、$V$ が3次元、$W$ が4次元であるとき、これらを合わせた空間である $V+W$ は7次元になるような気がするが、これは、$V$ と $W$ が共通部分を持たない(正確に言うと、原点は常に共通部分に含まれるので、共通部分が0次元)のときに限られる。もし、$V+W$ が5次元しかないとすれば、このとき $V\cap W$ が2次元持っていることになる。つまり、$V$ と $W$ がダブっているため、和空間を取っても大して次元が増えなかったと解釈できる。
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## 連立一次方程式の解空間
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連立一次方程式
$$
A \boldsymbol{x} = \boldsymbol{b},
$$
の解が作る空間について考えてみよう。$A$ が $m \times n$ 行列、$\boldsymbol{x}$ が $n$ 次元ベクトル、$\boldsymbol{b}$ が $m$ 次元ベクトルであるものとする。
まず、方程式が何も与えられていない場合、$\boldsymbol{x}$ は $n$ 次元空間を好きに動くことができ、ここに **条件を加えることで、動ける空間が狭くなる** と考えることができる。この、「狭くなった空間」が線型空間であるためには、原点 $\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$ が解に含まれなければならないので、一般に $\boldsymbol{b} = \boldsymbol{0}$ であることが必要である。
そこで、$\boldsymbol{b} = \boldsymbol{0}$ に取って、連立一次方程式
$$
A \boldsymbol{x} = \boldsymbol{0},
$$
に注目する。このような方程式を **斉次方程式** と呼ぶが、この方程式が解を持つとき、解が作る空間
$$
V = \{\boldsymbol{x} \mid A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0} \},
$$
は必ず線型空間となる。これは、この空間の2つの元 $\boldsymbol{x}_1$, $\boldsymbol{x}_2$ を取り、これらの線型結合 $\boldsymbol{x}_3 = c_1 \boldsymbol{x}_1 + c_2\boldsymbol{x}_2$ を作ると、
$$
A\boldsymbol{x_3} = A(c_1\boldsymbol{x_1} + c_2\boldsymbol{x_2}) = c_1 A\boldsymbol{x}_1 + c_1 A\boldsymbol{x}_2 = c_1 \boldsymbol{0} + c_2 \boldsymbol{0} = \boldsymbol{0},
$$
となって、これもやはりこの空間の元であることから分かる。
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### 解空間の次元
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行列 $A$ が $m \times n$ のとき、斉次方程式 $A \boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$ の解空間 $V$ の次元は、次のように求められる:
$$
\text{dim}\,V = n - \text{rank}\,A.
$$
つまり、「もともと $n$ 次元空間を自由に動けたベクトル $\boldsymbol{x}$ は、*有効な方程式の数* だけ動ける空間の次元が減ることを式で書いたもの」であることを示している。
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### 例:
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連立方程式の
$$
\begin{cases}
x + 2y + 3z = 0 \\
2x + 4y + 6z = 0 \\
3x + 6y + 9z = 0
\end{cases}
$$
は、3本とも実は同値な方程式なので、実質的に1本分しか価値がなく(rank = 1)、解空間の次元は $n - 1 = 3 - 1 = 2$。つまり、無数の解が存在し、それらは2次元の平面をなす。
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### 補足:非同次方程式の解の構造
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非同次方程式 $A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \neq \boldsymbol{0}$ の解空間は、斉次方程式の解空間(これは線型空間)に、ある1つの特解 $\boldsymbol{x}_p$ を加えた集合:
$$
\left\{ \boldsymbol{x}_p + \boldsymbol{x}_0 \mid \boldsymbol{x}_0 \in \text{解空間}(A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}) \right\}
$$
つまり、特解を「基準点」として、その周りに解空間が広がるイメージ(**アフィン空間**)である。原点を通らないので、線型空間ではないことに注意。
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