# 第12回 相対論講義ノート
### 8.2 質量とエネルギーの等価性
<details>
前節では、4元化された速度と加速度に基づいて、等加速度運動という具体的な運動について議論した。高校物理における力学でもそうであったが、運動についてより深く理解するためには、運動量やエネルギーと言った保存量を考えることが重要である。そこで、まずは4元速度を元に4元運動量を導入するところから始めよう。
質量 $m$ (ここでは $m>0$ としておく)を持つ物体の4元運動量を
$$
\mathcal{P}^\mu := m \mathcal{V}^\mu = (mc\gamma,m\gamma v^i),
$$
で定義する。その大きさ(ノルム)は、
$$
\mathcal{P}^\mu\mathcal{P}_\mu = m^2\mathcal{V}^\mu\mathcal{V}_\mu = -m^2c^2,
$$
となって、確かに Lorentz スカラーとなっている。言い換えると、質量 $m$ は物体に固有の量であり、慣性系に依らず同じ値を取る。
まずは、この4元運動量の空間成分から詳しく見ていこう。これは
$$
\mathcal{P}^i = m\gamma v^i = \gamma p^i,
$$
(ただし、$p^i := m v^i$ は Newton 力学における運動量)となっており、ここでも Lorentz 因子 $\gamma$ が補正としてかかっていることが分かる。では、空間成分は何を表すのであろうか?やや天下り的であるが、これに $c$ をかけたものを見てみると
$$
\mathcal{P}^0c = mc^2\gamma = \dfrac{mc^2}{\sqrt{1-(v/c)^2}},
$$
となっていて、これをさらに $V$ が小さいと思って Maclaurin 展開すると
$$
\mathcal{P}^0c \simeq mc^2 + \dfrac{1}{2}mv^2 + \dfrac{3}{8}m\dfrac{v^4}{c^2} + \cdots,
$$
を得る。この第2項を見ると、これは Newton 力学における運動エネルギーそのものである。よって、この式全体が、特殊相対論におけるエネルギーであると見なすことにしよう。速度 $v$ が $c$ と比べて十分に小さければ、第3項以降は小さいが、速度の大小に関わらず第1項は残る。つまり、Newton 力学には登場しなかった全く新しい項、$mc^2$ がエネルギーの一部として自然に登場するのだ。これが、かの有名な **質量とエネルギーの等価性** を表す式
$$
E = mc^2,
$$
である。これを、物体の **静止エネルギー** と呼ぶ。Newton 力学では、動いていてはじめてエネルギー $(1/2) mv^2$ を持つが、特殊相対論では止まっていたとしてもエネルギーを持つと考えるのだ。
上の導出から明らかなように、$E=mc^2$ が成り立つのは $v=0$ の時だけであることに注意しよう。より一般の関係式は、上記の Maclaurin 展開を無限次まで考慮したものということになるが、これは Laurentz 不変量である $\mathcal{P}^\mu$ のノルムからスタートするのが早い。まず、$\mathcal{P}^0c$ のことをエネルギーと解釈したことから、これを $E$ と書き、あらためて
$$
\mathcal{P}^\mu = (E/c,\mathcal{P}^i),
$$
と書いておく。このノルムを取ると
$$
\mathcal{P}^\mu\mathcal{P}_\mu = -\left(\dfrac{E}{c}\right)^2+\mathcal{P}^i\mathcal{P}_i = -\left(\dfrac{E}{c}\right)^2+\mathcal{P}^2,
$$
となる。ここで、$\mathcal{P}^2$ は運動量の空間3次元部分のノルムを表す。これが、Lorentz 不変量 $-m^2c^2$ であることから
$$
-\left(\dfrac{E}{c}\right)^2+\mathcal{P}^2 = -m^2c^2.
$$
最後に、エネルギー $E$ について解くことで、
$$
E = \sqrt{m^2c^4+\mathcal{P}^2c^2},
$$
を得る。これが運動している物体のエネルギーの式となっている。もし静止しているのであれば、$\mathcal{P}^2=0$ であり、$E=mc^2$ に帰着する。この式は、しばしば **質量殻条件** と呼ばれる。これは、4元運動量 $\mathcal{P}^\mu$ の4成分は好きに選べず、空間3成分 $\mathcal{P}^i$ を指定すると、時間成分である $E$ は勝手に定まることを指す。逆に、エネルギー $E$ が定まれば運動量(の空間成分)は半径一定の殻に閉じ込められることから、このような呼び方となっている。
質量とエネルギーの等価性は、例えば核反応(原子力反応)の持つ莫大なエネルギーなどを通して実証され、利用されている。核種(原子)の変化を伴わない、単に原子と原子の組み合わせが変わるだけの化学反応と違って、核種が変わることで質量に変化を及ぼす核反応には質量の変化が伴い、その結果として放出されるエネルギーが莫大であることは周知の通りであろう。典型的には、化学反応では質量の変化は10億分の1程度に過ぎないが、核反応では$0.1 - 1\%$程度の質量変化が起きる。多数の陽子と中性子が強い相互作用により結びついて原子核を成すとき、その質量は単純に陽子の質量と中性子の質量を合計したものよりも小さくなっており、この差分を **質量欠損** と呼ぶ。核反応が起き、別の原子の組み合わせに変化すると、その前後で質量欠損の総量が変化するため、その際に余った質量(=エネルギー)が放出される。例えば原子炉や原子爆弾で使われるウラン235が中性子を吸収すると、より軽い原子2つと2, 3個の中性子に崩壊する。例えば、イットリウム95とヨウ素139に崩壊する反応が知られている:
$$
^{235}U + n \rightarrow {}^{95}Y + {}^{139}I+2n,
$$
ここで出てきた2つの中性子が再び$^{235}U$に吸収されることで、連鎖的に反応が起き、大きなエネルギーが発生する。実際には様々な崩壊チャンネルがあり、いずれかが確率的に起きる。
#### 練習問題
上記の反応の左辺と右辺で、それぞれの核種(ウラン235、イットリウム95、ヨウ素139および中性子)の質量を調べ、ウラン235原子1つの崩壊でどれだけのエネルギーが発生するか、$mc^2$の変化分を計算することで調べてみよ。
#### 解答例
当該の3つの核種および中性子の質量はそれぞれ$235.04393\,\mathrm{Da}$ ($^{235}U$), $94.91282\,\mathrm{Da}$ ($^{95}Y$), $138.92610\,\mathrm{Da}$ ($^{139}I$), $1.00867\,\mathrm{Da}$ ($n$)である。
ここで、$1\,\mathrm{Da}$ (ダルトン) は$1\,\mathrm{Da}=1.661\times10^{-27}\,\mathrm{kg}$ である。
よって、この核反応の前後で失われる質量は
$$
235.04393 - 94.91282 - 138.92610 - 1.00867 = 0.19634\,\mathrm{Da}
= 3.26030\times 10^{-28}\,\mathrm{kg},
$$
である。これに$c^2$を乗じてエネルギーに換算すると
$$
mc^2 = 2.93\times 10^{-11}\,\mathrm{J}.
$$
これが $^{235}U$ 原子一つの核分裂により発生するエネルギーである。仮に $^{235}U$ を $1\,\mathrm{g}$ 集めてきてその全てがこの反応を起こした場合、$7.5\times10^{10}\,\mathrm{J}$ のエネルギーが発生する。これは天然ガス約 $1.3$ トンを燃焼して得られるエネルギーに相当する。
</details>
### 8.3 特殊相対論的運動
### 8.3.1 自由粒子の運動
<details>
エネルギーと運動量の概念が特殊相対論ではどのように現れるかを確認したところで、いよいよ運動方程式を立てて本格的に運動の定式化を進めていこう。そのためには力の4元化が必要となるが、まずは力がなくても議論できるよう、何も外力の働かない、孤立した単一の **自由粒子** の運動について考えよう。
Newton 力学における運動方程式は
$$
\boldsymbol{F} = m\boldsymbol{a} = m\dfrac{\mathrm{d}\boldsymbol{v}}{\mathrm{d}t} = \dfrac{\mathrm{d}(m\boldsymbol{v})}{\mathrm{d}t} = \dfrac{\mathrm{d}\boldsymbol{p}}{\mathrm{d}t},
$$
と書ける。つまり、「力とは、運動量の変化率である」のように読める。自由粒子に対しては
$$
\dfrac{\mathrm{d}\boldsymbol{p}}{\mathrm{d}t} = \boldsymbol{0},
$$
となるので、これを真似て
$$
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}^\mu}{\mathrm{d}\tau} = 0,
$$
を特殊相対論的自由粒子の運動方程式とする。これは、運動量を4元運動量に、時間をこの自由粒子の固有時変更したものとなっている。非相対論的極限を取ると、この方程式の空間成分が、元の式に帰着することは明らかだろう。では、4元運動量の中身が
$$
\mathcal{P}^\mu = \begin{pmatrix}E/c\\\mathcal{P}^i\end{pmatrix},\quad E = m\gamma c^2,\quad \mathcal{P}^i = \gamma p^i = \gamma mv^i,
$$
であったことを使って、時間成分、空間成分の式をそれぞれ見てみよう。
まず、時間成分(第0成分)は
$$
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}^0}{\mathrm{d}\tau} = \dfrac{\mathrm{d}(\gamma mc)}{\mathrm{d}\gamma} = mc \dfrac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}\tau} = mc \dfrac{\mathrm{d}t}{\mathrm{d}\tau}\dfrac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t} = \dfrac{\gamma^4ma^iv_i}{c} = 0.
$$
よって、
$$
a^iv_i = 0, \quad \Leftrightarrow \quad \dfrac{1}{2}\dfrac{\mathrm{d}|\boldsymbol{v}|^2}{\mathrm{d}t} = 0,
$$ を得る。これは、「(Newton的な)加速度と速度が垂直である」つまり、速度の大きさは変わらない、という式となっていて、自由粒子なのである意味当たり前の結果を意味している。もちろん、このおかげでエネルギーは保存している。
次に、空間成分(第$i$成分、$i=1,2,3$)を見てみよう。これは
$$
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}^i}{\mathrm{d}\tau} = \dfrac{\mathrm{d}(\gamma mv^i)}{\mathrm{d}\tau} = \dfrac{\mathrm{d}(\gamma mv^i)}{\mathrm{d}t}\dfrac{\mathrm{d}t}{\mathrm{d}\tau} = \gamma^2 ma^i + \dfrac{\gamma^4m(a^jv_j)v^i}{c^2} = 0,
$$
となるが、共通因子を払って、両辺と $v_i$ との縮約を取ると
$$
c^2a^iv_i + \gamma^2(a^jv_j)v^iv_i = 0, \quad \Leftrightarrow \quad c^2a^iv_i(1+\gamma^2v^2/c^2) = 0, \quad \Leftrightarrow \quad \gamma^2a^iv_i = 0, \quad \Leftrightarrow \quad a^iv_i = 0.
$$
となり、空間成分と全く同じ式に帰着する。つまり、空間成分が表す「運動量の保存」は、自由粒子の場合には自動的にエネルギー保存を約束するようになっているのだ。
</details>
### 8.3.2 4元力と孤立2体系
<details>
外力が働く場合には、**4元力** $\mathcal{F}^\mu$ を導入して、運動方程式を
$$
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}^\mu}{\mathrm{d}\tau} = \mathcal{F}^\mu,
$$
と書く。むしろ、これが4元力の定義と言ってもいいだろう。つまり、「エネルギー・運動量の変化」を与える外的要因こそが力であると読める。そこで、今度は左辺を
$$
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}^\mu}{\mathrm{d}\tau}
= \dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}\tau}\begin{pmatrix}
E/c \\ \mathcal{P}^i
\end{pmatrix}
= \dfrac{\mathrm{dt}}{\mathrm{d}\tau}\dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
\begin{pmatrix}
E/c \\ \mathcal{P}^i
\end{pmatrix}
= \gamma \begin{pmatrix}
\dfrac{1}{c}\dfrac{\mathrm{d}E}{\mathrm{d}t} \\ \dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}^i}{\mathrm{d}t}
\end{pmatrix}
=\gamma \begin{pmatrix}
\dfrac{1}{c}\dfrac{\mathrm{d}E}{\mathrm{d}t} \\ F^i
\end{pmatrix},
$$
のように書いてみる。Newton力学における運動方程式では、力は $F^i = \mathrm{d}p^i/\mathrm{d}t$ によって与えたが、ここではこれを変更して $\mathrm{d}\mathcal{P}^i/\mathrm{d}t$ により定義した。実際、4元運動量の空間成分 $\mathcal{P}^i$ は非相対論極限でNewton力学の運動量 $p^i$ に漸近するので、この式はNewton力学を回復する[^30]。
[^30]: Newton力学では $f^i=\mathrm{d}p^i/\mathrm{d}t$ が成り立つので、 $\mathrm{d}\mathcal{P}^i/\mathrm{d}t$ ではなく $\mathrm{d}p^i/\mathrm{d}t$ を3元力と見た方が自然に思うかもしれない。実際、いずれを $F^i$ として定義したとしても、$v\ll c$ つまり $\gamma\simeq1$ の極限では $F^i=\mathrm{d}p^i/\mathrm{d}t$ に帰着し、Newton 力学を回復する。しかし、以下のように考えると、$\mathrm{d}\mathcal{P}^i/\mathrm{d}t$ の方を3元力と解釈した方が筋が良いことが分かる。区別のため、$\mathrm{d}p^i/\mathrm{d}t$ で定義される力を $\tilde{F}^i$ と書くことにする。力は $\tilde{F}_{(1)}^i+\tilde{F}_{(2)}^i$ のようにベクトル和として合成されるのが自然であろう。つまり、ある人が $\tilde{F}^i$ の力で物体を押したとして、同じ力を持った人をどんどん集めて($n$ 人としよう)一緒に押すと合計で $n\tilde{F}^i$ の力を加えることができる。
すると、運動量の変化は定義より $\Delta p = m\Delta v = n\tilde{F}^i\Delta t$ となるであろう。力を加える時間 $\Delta t$ を固定したとき、この式は、人数 $n$ をどんどん増やせば、どれだけでも速度の変化 $\Delta v$ を大きくできると言っているように読める。これでは、光速度を超えられないという特殊相対論の帰結を再現できないであろう。実は、力(のような量) $\tilde{F}^i$ は単純なベクトル和としての合成則に従わないのだ。一方で、本文で採用した $F^i=\mathrm{d}\mathcal{P}^i/\mathrm{d}t=\gamma \mathrm{d}p^i/\mathrm{d}t=\gamma m\mathrm{d}v^i/\mathrm{d}t$ の方の定義に従うと、$F^i$ がどれだけ大きくなっても、先ほどと比べて余分に掛かっている因子 $\gamma$ がどんどん増加するだけで、$p_i=mv_i$ の方は常に $mc$ 未満に収めることができるため、特殊相対論と無矛盾になっている。ベクトルとしての合成則に従うという、直感ともよく合う方を力として採用した方が都合が良く、Newton 力学から特殊相対論にアップデートされた運動量 $\mathcal{P}^i$ の変化率として力を導入すれば自然とこれを満たすものとなっていた訳である。
3元力$F^i$を使って、エネルギーの変化$\dfrac{\mathrm{d}E}{\mathrm{d}t}$の部分も書き換えてみよう。そのためには、質量殻条件の両辺を微分するのが見通しが良い:
$$
\dfrac{\mathrm{d}E}{\mathrm{d}t} = \dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\sqrt{m^2c^4+\mathcal{P}^2c^2}
= \dfrac{c^2 \mathcal{P}^i\frac{\mathrm{d}\mathcal{P}_i}{\mathrm{d}t}}{\sqrt{m^2c^4+\mathcal{P}^2c^2}} = \dfrac{c^2}{E}\mathcal{P}^i F_i
= \dfrac{c^2}{E}\gamma mv^i F_i = v^i F_i.
$$
これは「エネルギーの時間変化=仕事率」の特殊相対論バージョンとなっている。これを用いると、結局4元力は
$$
\mathcal{F}^\mu = \gamma
\begin{pmatrix}
v^iF_i/c \\ F^i
\end{pmatrix},
$$
と書ける。これが、3次元的な力 $F^i$ と4次元的な力 $\mathcal{F}^\mu$ の関係である。繰り返し述べている通り、時間成分は空間成分とは独立でなく、$F^i$ を与えれば自動的に決まるようにできている。
ここまでで、Newton力学をどのように書き換えれば特殊相対論的な記述にできるかが分かったであろう。特殊相対論的運動方程式に加え、作用・反作用の法則を認めると、力学で学んだような問題、例えば2つのボールが衝突して速度が変化する問題などに取り組むことができる。粒子1が粒子2から受ける3元力を$F_{12}^i$、その反作用である、粒子2が粒子1から受ける力を$F_{21}^i$としよう。作用・反作用の法則は単に
$$
F_{12}^i + F_{21}^i = \boldsymbol{0},
$$
を意味する。
今、2つの粒子は、基準となる慣性系に対してそれぞれ3元速度 $v_1^i$, $v_2^i$ で動いているものとする。これに対応して、2つの粒子はそれぞれ異なる Lorentz 因子 $\gamma_1$, $\gamma_2$ を持っている。また、2粒子が感じる固有時も違ってくるはずなので、$\tau_1$, $\tau_2$と表記しておく。このとき、対応する4元力は
$$
\mathcal{F}_{12}^\mu = \gamma_1 \begin{pmatrix}
\delta_{ij} v_1^i F_{12}^j/c\\
F_{12}^i
\end{pmatrix},\qquad
\mathcal{F}_{21}^\mu = \gamma_2
\begin{pmatrix}
\delta_{ij} v_2^i F_{21}^j/c\\
F_{21}^i
\end{pmatrix},
$$
となる。2粒子にはこれらの力以外の外力が働かないとすると、それぞれの運動方程式は
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}_1^\mu}{\mathrm{d}\tau_1} = \mathcal{F}_{12}^\mu,\\
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}_2^\mu}{\mathrm{d}\tau_2} = \mathcal{F}_{21}^\mu,
\end{array}
\right.
\leftrightarrow
\left\{
\begin{array}{l}
\gamma_1\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}_1^\mu}{\mathrm{d}t} = \mathcal{F}_{12}^\mu,\\
\gamma_2\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}_2^\mu}{\mathrm{d}t} = \mathcal{F}_{21}^\mu,
\end{array}
\right.
\leftrightarrow
\left\{
\begin{array}{l}
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}_1^\mu}{\mathrm{d}t} =
\begin{pmatrix}
\delta_{ij} v_1^i F_{12}^j/c\\
F_{12}^i
\end{pmatrix},
\\
\dfrac{\mathrm{d}\mathcal{P}_2^\mu}{\mathrm{d}t} =
\begin{pmatrix}
\delta_{ij} v_2^i F_{21}^j/c\\
F_{21}^i
\end{pmatrix},
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
となる。2本の式の和を取れば、
\begin{eqnarray}
\dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left(\mathcal{P}_1^\mu+\mathcal{P}_2^\mu\right) =
\begin{pmatrix}
\delta_{ij} v_1^i F_{12}^j/c + \delta_{ij} v_2^i F_{21}^j/c\\
F_{12}^i + F_{21}^i
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\delta_{ij}F_{12}^i(v_1^i - v_2^i)/c\\
\boldsymbol{0}
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
となる。このことから、2粒子の運動量の合計が保存されることがすぐに分かる。一方で、エネルギーの総和は必ずしも保存されていなくてもよい。エネルギーの和が保存されるのは、数式上では力 $F_{12}^i$ と相対速度 $v_1^i-v_2^i$ とが垂直であるような場合だと分かるが、これは2粒子間に働く力が **拘束力** である場合である。斜面を粒子が転がるような状況下で、垂直抗力は運動方向に対して垂直だったことを思い出そう。一方で、斜面と粒子の間に摩擦力が働く場合には、摩擦力は運動方向と同じ向きになっており、エネルギーは失われる。ただしこれは特殊相対論ではエネルギー保存が破れることを主張している訳ではないので注意されたい。非拘束力が働いて、2粒子の総エネルギーが減少したのであれば、同時にこれを補うだけの何らかのエネルギーが発生しているはずであると考える。摩擦の例では、摩擦熱という形でもともとのエネルギーの一部が熱エネルギーに転化されるのだ。この事情は Newton 力学と何ら変わりがない。
</details>
### 8.3.3 まとめ:特殊相対論的力学における基本4元ベクトルとNewton力学との対応
<details>
| 種類 | 特殊相対論における定義 | Minkowski ノルム | Newton力学における対応 |
|---------------|-----------------|----------------|--------|
| **位置ベクトル** | $x^\mu = (ct, \boldsymbol{x})$ | $x^\mu x_\mu = s^2$ | $t$, $\boldsymbol{x}$(時刻と位置は別々に扱う) |
| **速度ベクトル** | $\mathcal{V}^\mu = \dfrac{dx^\mu}{d\tau} = (c\gamma, \gamma \boldsymbol{v})$ | $\mathcal{V}^\mu\mathcal{V}_\mu = -c^2$ | $\boldsymbol{v} = \dfrac{d\boldsymbol{x}}{dt}$(通常の速度) |
| **加速度ベクトル** | $\mathcal{A}^\mu = \dfrac{d\mathcal{V}^\mu}{d\tau}$ | $\mathcal{A}^\mu\mathcal{A}_\mu = \tilde{a}^2$| $\boldsymbol{a} = \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt}$(通常の加速度) |
| **運動量ベクトル** | $\mathcal{P}^\mu = m \mathcal{V}^\mu$ | $\mathcal{P}^\mu\mathcal{P}_\mu = -m^2c^2$ | $\boldsymbol{p} = m \boldsymbol{v}$ (運動量) |
| **(時間成分)** $\times c$ | $E = \mathcal{P}^0 c = mc^2 \gamma$ $= \sqrt{m^2c^4+\mathcal{P}^2c^2}$ $=mc^2+\dfrac{1}{2}mv^2+\cdots$ (静止エネルギー$+$運動エネルギー$+\cdots$) | | $E = \dfrac{1}{2}mv^2$ (運動エネルギー) |
| **(空間成分)** | $\mathcal{P}^i = m \mathcal{V}^i = \gamma mv^i = \gamma p^i$ | | $\boldsymbol{p} = m \boldsymbol{v}$ (運動量) |
| **力ベクトル(4元力)** | $\mathcal{F}^\mu = \dfrac{d\mathcal{P}^\mu}{d\tau} = \left( \dfrac{dE}{c\,d\tau}, \dfrac{d\boldsymbol{p}}{d\tau} \right)$ $= \gamma (v^iF_i/c, \,F^i),$ (特殊相対論的運動方程式) |$\mathcal{F}^\mu\mathcal{F}_\mu = m^2\tilde{a}^2 = \tilde{F}^2$ | $\boldsymbol{F} = \dfrac{d\boldsymbol{p}}{dt}$(ニュートンの第2法則) |
- 固有時 $\tau$ による微分が用いられている点が、Newton力学との最大の違いである。
- 4元加速度と4元速度は常にミンコフスキー内積に関して直交する:$\mathcal{V}^\mu \mathcal{A}_\mu = 0$。
- エネルギーと運動量は同じ4元ベクトル($\mathcal{P}^\mu$)の成分として統一され、Lorentz 変換に対して共変な形式となっている。
</details>
### 8.4 具体例
### 8.4.1 粒子の崩壊
<details>
これまでに学んだことを利用すると、以下のような問題について取り組むことができる。質量 $M$ を持つ粒子(親粒子)が崩壊して質量 $m_1$ と $m_2$ の2つの粒子(小粒子)に変化するような状況を考える。それぞれの粒子が運んでいくエネルギーを調べてみよう。ここで、崩壊後の2つの子粒子以外にエネルギーを持ち去るような粒子、例えば光などは一切発生していない、つまりエネルギーは保存しているものとする。親粒子の静止系から見て、2つの子粒子は互いに反対向きに去っていくであろう。この運動方向を $x$ 軸に取ると、$y$, $z$ 方向については一切考える必要はない。この系では、親粒子の4元運動量は$\mathcal{P}^\mu={}^t\!(Mc,0)$ であり、子粒子の4元運動量を、$\mathcal{P}_{(1)}^\mu={}^t\!(E_1/c,\mathcal{P}_1)$ および $\mathcal{P}_{(2)}^\mu={}^t\!(E_2/c,\mathcal{P}_2)$ と書くことにしよう($y$, $z$ 成分は省略)。すると、質量殻条件より
$$
(E_1)^2 = m_1^2c^4 + (\mathcal{P}_1)^2c^2,\qquad (E_2)^2 = m_2^2c^4 + (\mathcal{P}_2)^2c^2,
$$
が成り立つ。ここまでは単に必要な物理量を記号で置いただけである。いよいよ、4元運動量の保存
$$
\mathcal{P}^\mu=\mathcal{P}_{(1)}^\mu+\mathcal{P}_{(2)}^\mu,
$$
を考える。時間成分はエネルギーの保存を表していた:
$$
M c^2 = E_1 + E_2.
$$
また、空間成分(今は $x$ 成分のみで十分)は、運動量保存則である:
$$
0 = \mathcal{P}_1 + \mathcal{P}_2.
$$
ここから、
$$
(\mathcal{P}_1)^2c^2 = (\mathcal{P}_2)^2c^2,
$$
を得る。この式に、質量殻条件の2式を $\mathcal{P}_1$ や $\mathcal{P}_2$ について解いたものを代入すると、
$$
(E_1)^2-m_1^2c^4 = (E_2)^2-m_2^2c^4,
$$$$
\Leftrightarrow \qquad
(m_1^2-m_2^2)c^4 = (E_1)^2-(E_2)^2
= (E_1+E_2)(E_1-E_2)
= M c^2 (E_1-E_2).
$$
最後の変形ではエネルギー保存則を用いた。ここから、
\begin{eqnarray}
E_1 - E_2 = \dfrac{(m_1^2-m_2^2)c^2}{M},
\end{eqnarray}
を得る。ここまでで、$E_1$ と $E_2$ の和と差が分かったので、それぞれについて解くことができて、結局
\begin{eqnarray}
E_1 = \dfrac{(M^2 + m_1^2-m_2^2)c^2}{2M},\qquad
E_2 = \dfrac{(M^2 - m_1^2+m_2^2)c^2}{2M},
\end{eqnarray}
を得る。これに対応して、子粒子の運動量は(子粒子$1$の進行方向を $x$ 軸正の向きに取ると)
\begin{eqnarray}
\mathcal{P}_1 = -\mathcal{P}_2 = \dfrac{\sqrt{(M+m_1+m_2)(M+m_1-m_2)(M-m_1+m_2)(M-m_1-m_2)}}{2M}c,
\end{eqnarray}
となる。この結果は以下のように解釈できる。
もともとは親粒子の静止エネルギーだけだったのが、崩壊後は2つの子粒子のエネルギーになる。子粒子は運動するので、エネルギーの一部は運動エネルギーに転化される。仮に$M=m_1+m_2$であれば、崩壊後も全エネルギーは質量によって担われることになるので、運動量はゼロ、つまり単に元の粒子が2つに割れて、その場で静止している状況となっている。つまり、分裂して飛び散るような状況には対応していない。一般には、崩壊した粒子はエネルギーの一部を運動エネルギーとして持ち去るため、質量は保存されない:$M > m_1+m_2$。当然、$M\lt m_1+m_2$ となるような崩壊を起こすにはエネルギーが足りず、禁止されている(何らかのエネルギー注入があれば可能)。また、$E_1$ と $E_2$ を比べると、より重い子粒子の方が多くのエネルギーを持ち去ることも分かる。ここから分かる大事な帰結として、*特殊相対論ではエネルギーは保存しても質量は保存する保証がない* ことが挙げられる。質量もエネルギーの一種であると認めた瞬間に、もともとは質量エネルギーだったものが、別の形のエネルギー(今は運動エネルギー)に形を変えても何ら不思議でないのだ。
</details>
### 8.4.2 2粒子の散乱問題
<details>
粒子の崩壊と並んで重要なのが散乱問題である。これは、ビリヤードを思い浮かべてもらえばよい。Newton 力学でもビリアードに類似した問題を扱ってきたと思うが、相対論的効果が重要となるのが加速器実験である。陽子や電子などを光速度近くまで加速させて衝突させ、どのような反応が起きるかを見ることで、素粒子物理学の基礎的な知見を深めることを狙いとしたものだ。また、人工的な設定を考えずとも、天体物理学を考える上でも高エネルギー天体現象(超新星爆発、ガンマ線バーストetc.)から生み出される高い速度を持った粒子の運動や反応、また今も絶えず地球に降り注ぐ高エネルギー宇宙線の物理を理解する上でも相対論的効果が重要となる。
ここではまず一般論として、質量 $m_1$ と $m_2$ を持った粒子が運動量 $\mathcal{P}_1$, $\mathcal{P}_2$ で入射し、散乱を経て質量 $m_3$, $m_4$、運動量 $\mathcal{P}_3$, $\mathcal{P}_4$ となって出ていく状況を考えよう。また、4つの添字に対応したエネルギーを $E_1, E_2, E_3, E_4$ と書くことにしよう。質量殻条件は、 $a=1,2,3,4$ に対して
$$
E_a^2 = m_a^2c^4 + \mathcal{P}_a^2c^2,
$$
となる。ここで、運動量の大きさ(の二乗)を $\mathcal{P}_a^2 = \mathcal{P}_a^i\mathcal{P}_{ai}$ で表した。粒子に対して走る脚 $a$ と空間3成分に対して走る脚 $i$ の違いに気をつけよう。この反応には、これ以外に一切の粒子が参加せず、したがってエネルギーを持ち去る粒子はいないものと考えよう。エネルギー、運動量の保存はまとめて
$$
\begin{pmatrix}
(E_1+E_2)/c\\
\mathcal{P}_1^i + \mathcal{P}_2^i
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
(E_3+E_4)/c\\
\mathcal{P}_3^i + \mathcal{P}_4^i
\end{pmatrix},
$$
と書ける。一般には、散乱過程を解くための条件はこれで尽くされている。何を既知の量とし、何について解くかはさまざまな選び方が可能であるが、一般に簡潔な形で綺麗に書き下すことは難しい。そこで、以下ではいくつかの簡単な場合に絞って考察を深めていこう。
最も単純なケースは、衝突により粒子のエネルギーや運動量が交換されるが、核種自体が変化しない場合であろう。つまり $m_1=m_3$、$m_2=m_4$ のように粒子 $1$ は $3$ に $2$ は $4$ に名前を変えるが、中身(質量)は変わらないまま飛び去っていくような場合だ。状況をさらに簡単にするために、粒子 $2$ ははじめ静止していたとしよう。Lorentz 変換を施すことで、いつでもそのような慣性系に移れるので、この仮定で何ら一般性を失うことはない。粒子 $2$ の静止系で考えたとき、粒子 $1$ の入射方向に対し、飛び去る粒子 $3$ および $4$ の進行方向が角度 $\theta$ および $\phi$ だけズレているものとしよう(Miroに参考図を掲載)。ここでは、粒子 $4$ が持ち去る運動エネルギー$T_4=E_4-m_2c^2$ について解くことにする。2つの粒子の質量 $m_1$, $m_2$ に加え、入射する粒子の運動量 $\mathcal{P}_1$ は既知とする。また、散乱方向 $\phi$ は衝突の詳細に依存するので、これも手で与えることとし、$\phi$ の関数として $T_4$ を調べるものとしよう。この問題の残る未知数の数は $\mathcal{P}_3$, $\mathcal{P}_4$, $\theta$ の3つで、$\mathcal{P}_4$ が得られれば直ちに $T_4$ も計算できる。やや計算が煩雑なので途中式を省略するが、角度 $\theta$ と粒子 $3$ のエネルギーや運動量を消す方針で計算を進めると、最終的に
$$
T_4 = \dfrac{2m_2c^2\beta_1^2E_1^2\cos^2\phi}{(E_1+m_2c^2)^2-\beta_1^2E_1^2\cos^2\phi},
$$
を得る。これは、期待通り正面に弾き飛ばされる場合($\phi=0$)に最大値
$$
T_{4,\mathrm{max}} = \dfrac{2m_2c^2\beta_1^2E_1^2}{(E_1+m_2c^2)^2-\beta_1^2E_1^2},
$$
を取る。また、非相対論近似のもとでは、分母で運動エネルギーを質量エネルギーと比べて小さいとして無視できて
$$
T_4 = \dfrac{2m_1^2m_2v_1^2\cos^2\phi}{(m_1+m_2)^2},
$$
となる。
</details>