明解ヤンデレ中級編:第一話 == こんばんわ、MIS.W52代のtakowasabiです。 今年も明解ヤンデレの時期がやってまいりました。あの黒歴史記事からもう一年が経ちます。はやいですね。 ヤンデレ、いいですよね。 今回は、ヤンデレの良さをもっと皆さんに知っていただくために、いわゆる短編小説を[みす 52nd Advent Calendar 2018](https://adventar.org/calendars/3216)にて12/4から12/25まで週刊連載することにいたしました。 素人の駄文ではありますが、ぜひ目を通していただければ幸いです。 --- ——————12月04日  授業が終わり、廊下が生徒たちで溢れかえっている。 部活動に、学校の最寄り駅に、校門で待つ恋人のもとに向かいながら、同じ学年の生徒たちが階段へと続く廊下を歩いていく。  かく言う僕も、これから始まる部活動に向けて、窓の外を何となしに見つめながら歩を進めていた。  僕こと「青木晴翔(あおき はると)」はあまり友人の多い人間ではなく、唯一学校で居場所といえるのが、部活動であった。  入学してすぐに入部した「文芸部」は、今はもう二人しかいなくなってしまったが、毎週火曜日放課後、教室棟のはずれの空き教室で”活動”を行っている。活動といっても、教室の椅子に座ってただ本を読むだけのものである。ただ本を読むだけではあるものの、静まり返った教室の中で、ひたすらに文字を追っていく時間は、僕の中で何にも代えがたいものである。  教室に入ると、一人の女性が席に座っているのが目に入った。他に誰もいない教室の中で、静かに本を読んでいる。  扉を閉める音でこっちに気が付いた様子の彼女は、セミロングの黒髪を揺らしてこっちに振り返った。 「ああ、今週も来てくれたのか、ちょうど私もさっききたところなんだ」  そう言って顔を綻ばせる彼女は、この文芸部の部長を務める「高原花奈(たかはら かな)」だ。こちらをとらえる大きな黒い瞳と、本が非常によく似合う知性的な雰囲気を持つ彼女は、こんな平凡な高校にいることが信じられないほどの才女である。学内テストでは不動の1位を保持し続けており、全国模試でも上位に入るほどだという。その影響力は強く、二人しかいないこの部活が存続を許されているのは、彼女が部長をしているからだという噂もあるほどだ。  部長とは二年来の付き合いで、週に一度しか会わない関係ではあるが、僕が気を許せる数少ない人物の一人である。 「ふふっ、どうしたんだ扉の前でボーっとして。私の顔に何かついているか?まあ、とりあえず私の隣にでも座るといい」  そう言って彼女は自分の隣の席の椅子をずらし、僕が座るように誘導する。  特に断る理由もないので、言われるがまま部長の隣の席へと座り、今日読む予定だった本をカバンから取り出す。すると、部長はさっきまで読んでいた本の表紙をこちらに見せて、意気揚々と話し始めた。 「見てくれよ、最近恋愛小説にはまっていてな、少女趣味だとは自分でも分かっているのだがな、これがなかなか面白いんだ」  部長が手にしているのは、最近ドラマ化もされた有名な恋愛小説だった。その頭の良さもあって、普段何かと難しい本を読むことの多い部長の中では、確かに珍しい選択だ。 「私にはなかなか理解できないものだが、多くの人間は出会いや出来事に運命を感じるものらしい。たった一人の自分の運命に対して、たった一人の人間を当てはめるんだ。自分と相手、それがお互いに一人を特別な存在として認めあっていくんだよ。  ふふっ、本当はそんなもの、存在しないって分かりそうなものなのだけどね。ああ、本当に面白いな...」  そう言って部長は、再び本の世界へと没頭していってしまった。その顔は本当に楽しそうで、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。  本の世界に吸い込まれてしまった彼女を横目に、僕も手元にある本を開き、だんだんと未知の世界へと意識をゆだねていくことにした。 * * *  下校時間を知らせるチャイムが鳴り響き、ふと意識を現実へと戻す。  あれからずっと楽しげに本を読んでいた部長の方を見ると、いつの間にやら本を閉じ、なにやらこちらの頭を気にしているようだった。 「ふむ、さっきから気になっていたのだが、頭にごみがついているようだ。どれ、ここは私がとってやろう」  そう言うと、部長は席を立ち、僕の頭の方に顔を寄せてきた。すると、ふと甘い匂いが鼻を打ち、いつものことながら身をこわばらせてしまった。 「うーん、なかなかとれんぞこれは...。おっ!取れた取れた」  見事ごみを取り除くことに成功したようだが、強く引っ張ったからだろうか、鋭い痛みが走り、髪の毛が抜けたことを見なくても確認することができた。    最近は何故かこのようなことが多く、最近は部活に来るたびに部長に髪の毛を引き抜かれているような気すらしてくる。普段人と話すこともなく、ボーっとしていることも多い僕の頭にごみが乗ったままになっていることは、そんなに珍しいことではないとはいえ、何かしら他の理由があって僕の髪の毛を抜いているのではないかと勘繰ってしまうほどだ。  無論、そんな突拍子もない行為の理由に、心当たりはないが。 「さあ、そろそろ帰ろうか、いつまでもここにいては怒られてしまうからな」  そう言うと、彼女は本をカバンにしまい、帰る用意を始めた。僕もこの後は用事があるのだし、早めに準備をして向かわなければ。  校門までつくと、この後はそれぞれ反対方向である。部長に別れをつげ、僕は凍えるような寒さの中、次の目的地へと足を速めた。 * * * 「ふふっ、今日も”彼”と一緒に帰れるな。ああ、これでいったいどれくらい集まったろうか...。うん、大丈夫...これだけあれば...怖くない。これだけあれば...独りじゃない.....。」 * * * 用事といっても毎日のことであるが、午後6時、僕は学校から10分程度歩いたところにあるある病院に来ている。 ここには、長期間の入院が出来る病室が多くあり、その中の一つが僕の目的地である。 病室の入り口の脇にあるネームプレートの「青木 美夏(あおき みか)」の文字を確認し、病室の中に入ると、水色のパジャマを着た少女がベッドで上半身を起こし、もう暗くなった外の景色を眺めていた。 病室の引き戸を閉め、ベッドのもとに向かうと、あちらも足音に気付きこちらを振り返った。 「晴翔さん、こんばんわ、今日も来て下さったのですね...」 彼女、美夏は僕の義妹にあたる人間だ。数年前僕の父の再婚したときに、再婚相手である今の母が連れていた一人娘が彼女である。華奢な体に今にも消えてしまいそうな儚さを纏う彼女は、生まれつき病気がちで今もこの病院に長期間入院している。 「ふふっ、晴翔さんは部活のある日でも毎日お見舞いに来てくださいますね。最近は外も寒そうなのに...」 「こんな病院に毎日通うなんて、晴翔さんは苦痛ではないですか?」 そんなことはない、というように首を振ると、彼女はいつものようにおぼろげな微笑みを浮かべる。 「あぁ...ありがとうございます。そう言っていただけるだけで私は嬉しいです。」 美夏は本当によくできた妹だ。僕のお見舞いや気遣いを心底喜んでくれているように振舞ってくれる。毎日病室に来る僕を、いつも笑顔で迎えてくれる。兄として、これ以上望むものがあるだろうか。 「でも、時々不安になるんです。いつか晴翔さんが、私に愛想をつかしてここに来なくなってしまうんじゃないかって。こんな病気ばかりの私のことが嫌いになってしまうんじゃないかって...。晴翔さんはそんな人じゃないって、分かってるのに...」 そう言って美夏は目を伏せてしまった。最近の彼女はいつもこんな調子である。病気ばかりの自分に彼女自身嫌気がさしているのだろう。いつもやっていることだが、こんな時にはそっと頭をなでてやるのが一番である。 「んぁ...晴翔さん...」 頭に手が触れると、美夏は一瞬驚いたように体を震わせ、少し上を向くようにして目を細める。表情も先ほどの陰りが消えたようである。 僕の右手を無防備に受け入れている彼女を横目に、少し病室を見渡す。殺風景な病室だが、美夏のベッドの横にリンゴがいくつかカゴに入れて置いてあるのが見える。 「あぁ、それは私の友達に先ほど頂いたものです。その時はあまりお腹がすいていなかったもので、まだ食べられていないのですが。」 カゴの中には、丁寧に果物ナイフも添えられている。 このままにしておくのももったいないだろうし、せっかくだから一つ剥いてあげた方が良いだろう。 そう考えて一つリンゴを手に取ったはいいものの、如何せん慣れない皮むきに苦戦してしまう。どうにかならないものかと試行錯誤していると、ナイフで指を少し切ってしまった。綺麗に切れたようで余り痛みはないが、少し血がにじみ出ている。 「だっ、大丈夫ですか晴翔さん!?」 そう言うと、美夏は僕の手を取って傷口をながめる。 「あぁ、良かったです、そんなに深くは切れてないみたいですね...」 安心した様子の美夏は、傷口を自分の口元に近づけると、当然のことのように傷口の血を吸い始めた。 「んっ、ちゅ...」 少し顔を赤らめ、夢中で血を吸う彼女は、どこか扇情的であったが、兄としてはただ驚くばかりである。自らの義妹が自分の血を吸うその奇妙な光景を、僕はただ眺めるばかりであったが、ひとしきり吸い終えると、彼女は満足げな笑顔を浮かべた。 「血が止まりましたよ、晴翔さん...」 まるで何事もなかったかのようにそう言ってのける彼女の心境が僕には何も分からない。いや、ただ単に分かりたくないだけなのかもしれない。 そんなことを考えながら、まるで何事もなかったかのように僕は再びリンゴに手を伸ばした。 * * * 「晴翔さん...。どこにいても、何をしていても、あなたは私の...。晴翔さん...。あなたがいなくては私は...。」 * * * 病院へのお見舞いも終わり、僕はいつものように自宅へと戻る。 この家には、今は僕と父しか住んでいない。再婚相手の母は、もうどこにいるのかも僕には分からない。家といっても、そこにあるのは安息などではなく、孤独と暗闇に寝床が添えられるのみである。 玄関を抜けると居間の電気がついていることが分かる。父の付け忘れかもしれないと部屋をのぞくと、不運にも居間の椅子に座る父と顔を合わせてしまった。 「おい!お前!どの面下げて俺の前に現れやがった!!」 父の怒鳴り声と、鼻を刺すアルコールの臭いがこちらまで届き、少しだけ吐き気を催す。 「役立たずの人形が!さっさと部屋にでも戻ってろ!」 どうやら今日の父は機嫌が良いらしい、何事もなく解放されるとは運がいい。そうなれば、言いつけ通り僕は自分の部屋に行くこにしよう。 居間から聞こえてくる罵詈雑言を背に受けながら、今日も僕は部屋に戻る。 --- いかがでしたでしょうか? まだまだこれからといった感じですが、今回はリアルタイムに沿った進行ということで、物語内の一日の出来事をクリスマスに向けて毎週掲載していく予定です。 そして、明日のみす52代アドカレの寄稿者はアルティメット(ueta)です。いったいどんな記事を書いてくれるのでしょうか?お楽しみに。