明解ヤンデレ中級編:第二話 == こんばんわ、52代takowasabiです。 [みす 52nd Advent Calendar 2018](https://adventar.org/calendars/3216)にて週刊連載している明解ヤンデレ中級編第二話の時間がやって参りました。 今回は自分の中の性癖が暴走した結果、R15的な内容を少し含んでいます。 15歳以下の方、鬱展開が嫌いな方はご注意ください...。 ヤンデレが好きな方は、先週以上にヤンデレ成分マシマシでお送りしますので、ぜひお楽しみください。それでは、どうぞ! --- ——————12月11日 僕は今日も毎週のごとく部活に来ている。しかし、珍しいことに、部長よりも早く教室に来てしまったようだ。まあ、それでもやることは変わらない。部長が来るまで本を読むことにして、カバンの中にあるはずの本を探す。 思ったよりもカバンの奥に入っていた本を見つけ、机の上に置くと、タイミングよく教室のドアが開く音がした。 「やぁ、もう来ていたんだね。待たせてしまってすまないな」 部長はそう言うと、僕の座る隣の机の上に、自分のカバンと箱に入ったままの蛍光灯を置いた。 「どうやら教室の蛍光灯がひとつ切れてしまったらしくてな、どうせここで部活をするならついでに交換してくれと頼まれたのだ。すまないが少し手伝ってくれないか?」 部長は成績が良い分、先生には頼られることが多い。部活でも時折彼女はどこかの先生に頼まれたであろう仕事をしているときがあるが、今回の頼みごともその類なのだろう。頭が良いというのはうらやましい限りだが、しっかりしすぎているというのも考えものである。 「教卓を持ってきて、その上に上って私が蛍光灯を取り換えるから、君は下で教卓を抑えていてくれないか?」 天井を見上げると、確かに、やってみたことはないが蛍光灯を取り換えるぐらいであれば、脚立がなくても教卓の高さ何とかなりそうである。脚立を持ってきて使うのも面倒だし、ここは先輩の言う通りにするのが得策だろう。 さっそく切れた蛍光灯の下まで教卓を運び、蛍光灯の取り換え作業を開始した。 「うむ...すまないが教卓を抑えている間は出来るだけ下を向いていてもらえるかな...」 教卓に上り、何かに気づいた部長は、顔を赤らめ、スカートの裾を抑えながらそう言う。 うん、まあ何でそんなことを改めて言うんだといった気持ちである。そんなことを言われるとこちらも余計に意識してしまうものだ。 古い蛍光灯を外し、僕が手渡した新品の蛍光灯を部長が取り付ける。何はともあれ、蛍光灯の取り換えは思ったよりもスムーズに終わり、後は部長が教卓から降りるのみという状況になった。 しかし、トラブルというものは人間が油断したときにこそ訪れるものである。 「ひゃっ!寒っ...」 何故か締め切っていなかった窓から、急に風が舞い込んできて、部長が小さく悲鳴を上げた。この季節の風は言うまでもなく冷たく、悲鳴を上げるのも無理はない。普段であれば部長の聞きなれない女性らしい声に驚くところであるが、今回はそうもいかなかった。 悲鳴につられて上を見上げてしまったのがまずかった。寒さで部長が両手を縮めてしまったのがまずかった。風が彼女のスカートを巻き上げ、僕はその中を見てしまったのだ。 普段は絶対見ることのできない領域の中に、僕は おびただしい数の傷跡を見た... * * * 私、高原花奈は母親からの虐待に耐えながら今までの人生を生きてきた。 もう、思い出したくもないことだが、小学生時代に父親が不倫相手と家を出て行ったことが、悪夢の始まりだった。 怒り狂った母親は、その矛先を、父の面影を残す私に向けた。 叩き、殴られ、気分の悪いときには家にすら入れてもらえないこともあった。それでも私は、幼少の頃の暖かい家庭がいつか戻ってくるんじゃないかと、信じることをやめなかった。 その内、私は信じる暖かい家庭を現実で求めることに、無意味さを感じるようになった。私は本を読むようになった。本の中には、私を置いていく残酷な父親も、私を傷つける脆弱な母親もいない。 こんなに不幸な私を、だれかが助けてくれると信じていた。しかし、現実の人間は、私の薄っぺらな頭のよさや成績ばかりを褒める。私がどんな思いで日々を生きているのかなんて、微塵も考えていない。 だれも私を愛さないし、だれも私の気持ちを理解することなんて出来ない... そんな諦めが、心を支配しかけていた頃、私の所属する文芸部に、一人の男が入部してきた。名前は青木晴翔というらしい。彼は物静かで、何を考えているのか分からない不気味な男だった。 しかし、ある日私は見てしまったのだ、ふと覗いた彼の胸元に、私と同じ傷を。 衝撃だった、こんな世界で、私と同じ苦しみを味わう人が、こんな近くにいるなんて。 そこからは夢中だった。彼のことを想うだけで、私は一人じゃないんだと思うことが出来た。彼のことを考えるだけで、悪意に染まった世界が色鮮やかに塗り替えられていくようであった。 部活から、彼と私以外の人間を排除した。そのために、多少手荒いこともしたが、そんなことは何の問題でもなかった。彼と私だけの空間を、彼と私だけの世界を作りたかった。 傷が、私たちを繋いでくれた。 運命なんて曖昧なものよりも確かに、より深い繋がりを、私に見せてくれた。 だから、彼にも私との繋がりを知って欲しかった。 でも、彼に傷を見せることは出来なかった。一人の女として、自分の体を這う醜い歪みを、彼の前に晒すことが恐ろしかったのだ。この傷を見て、彼が私を嫌いになったなら、私はもう二度と立ち直ることは出来ないだろうから。 しかし、そんな日々もどうやら今日で終わるらしい... 彼に、見られてしまったのだから... * * * 「見た...のか…?」 僕は茫然としていた。その傷に見覚えがあったからこそ、動揺せざるをえなかった。あれは、ベルトで殴られた跡や、火傷の跡、どれも自分の受けた傷と同じものだ。 「そうか...見たんだな...」 部長は、教卓の上にへたり込み、顔を俯かせてしまった。 「...ぃ...だろ...か?」 消え入りそうな細い声で、彼女は言葉を繋いでいく。 「...醜いだろうか?君から見て、この傷は...醜いものか?」 僕は、混濁した思考の中自分でも気づかぬほど自然に首を横に振り、その言葉を否定した。 数瞬後、彼女の...部長の傷に何故か魅了されているような、強い引力で吸い込まれるような感覚を自覚した。 僕が首を振る様子を見た部長は、顔を上げこちらを見つめた。その表情は、喜びと恍惚で満ちており、まぎれもなく幸福を表したものであったが、彼女の瞳だけは、底の見えない暗闇に満ちていた。 「そうか!そうだよな!君がこんな傷を気にするはずがないよな!それよりもむしろ君は喜んで受け入れるはずだ!」 ひとしきり喜んだようなそぶりを見せた後、教卓の上に腰を掛けたまま、部長は僕の頭を抱き寄せた。 「...あぁ、私はなんて幸せ者なんだろう。君に受け入れて貰えるだけで、私はこんなにも満たされる...」 全く状況は理解できないが、部長が自分と同じ傷を持っているという事実に、喜びに近い感情を抱いてしまっていることは理解できた。だからこそ、常識とはかけ離れた部長の欲求に、僕は応えてしまったのかもしれない。 「なぁ、何だか傷が痛むんだ、さっき君に見られた傷が、どうしようもなく疼くんだ。...だから...君が舐めとってくれないか?」 「きっと良くなると思うんだ。うん。君にしかできないことなんだよ。」 そういって部長は僕の顔を太ももに押し付ける。 目の前に彼女の傷が見える。彼女の匂いが僕の鼻を包み、彼女の肌の感触を顔全体に感じる。 頭は彼女の手によって固定されてはいるが、抵抗する気は起きなかった。言われるがまま、僕は彼女の傷に舌を伸ばし、そして触れる。 「ひゃっ...ぅん...」 部長は扇情的な声をあげ、僕の頭を抑える手に力をこめる。 たった一度舌をつけただけで過剰な反応をする彼女に、今まで感じたことのないような背徳感と高揚感を覚える。 「そうっ…その調子で頼む...んぁ...」 彼女の傷に舌を這わせ、だんだんとその行為に夢中になっていったその時、僕の携帯電話が鳴った。 甘美な儀式から一転、僕は全身から血の気が引くような感覚を覚えた。 僕に電話をしてくるような相手は少ない。数少ない友人や部長、もしくは美夏の入院している病院である。 電話の通知画面を見ると、案の定、そこには美夏の入院先の病院の名前が映されていた。 美夏の病状は日々変化する。まるで病気などないかのように普通に話すことのできる日もあれば、病状が急変し、突然生死の境をさまようこともある。だからこそ、僕は毎日病院に足を運ぶのだ。 電話の応答ボタンを押し、自分のカバンを手に取り、呆然とする部長を横目に見ながら僕は教室を駆けだした。 * * * 外も暗くなり、室内の明かりのみが照らす空き教室に、破裂するように大きな打撃音が響く。 「あと、あともう少しだったのに...。なんで君は、いつもいつも妹のことばかり。本物の家族でもないのに。そんなにそいつが大事なのか?なんでなんだ、なぁ...なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデ...」 * * * 電話の内容は、予想通り美夏の容態の急変だった。昨日までは、何事もなく容態が安定していただけに、いっそう不安が募る。 幸いなことに、僕が病院につく頃には処置も済んでおり、美夏は病室で寝ている状態だった。最悪の結末すらイメージしてしまっていた僕は、気力も尽き果て、ベッドの横の椅子に座りこんだ。 目の前で安らかに寝息を立てる義妹の姿に、心から安堵するとともに、僕の頭には、病室に入ったときに医者から言われた言葉が引っかかっていた。 (「今回の容態の急変なのですが、実はこちらの方でも原因を特定しきれていません。体内に病状を悪化させる物質が見つかったのは事実なのですが、それがどうにも、彼女が口から摂取したとしか思えない位置に見つかったのです。食べ物には含まれない成分ですので、全く何処から発生したのやら...。」) まさか、美夏が自分から病状を悪化させるようなものを口に入れるはずもなく、原因は僕にも見当がつかない。 不安が残る顛末ではあるが、何よりも、美夏が生きていてくれて良かった。 そう思うと、急に眠気が襲ってきた。今日は驚くことばかりだった。少しばかり寝てしまっても誰にも文句は言われないだろう。そう思い、僕は意思を手放すことを決意した。 僕は、どうあっても、今度こそ妹を失うわけにはいかないんだ... * * * 目を覚ますと、最愛の人が目の前で無防備に寝姿をさらしている。 私には、それがかけがえのないようなことに思えて、寝ぼけた頭で精一杯の幸せを感じる。 病気がちの私では、当たり前のように朝の挨拶を交わすことも、食卓を共にすることも叶わないだろうから。家族としての当たり前が、こんな形であれ実現するのは、想ってもみない幸運である。 思えば、私、青木美夏は、家族というものの当たり前を感じたことがなかった。 物心ついたころから父親はおらず、病弱で手のかかる私を、母親は一人で育ててくれた。昼も夜もなく働き、私はいつも家に一人だった。 中学校に入るころには、病気が悪化し、ほとんど学校に通うことが出来なくなってしまった。ますます私は一人になっていき、母と顔を合わせることもほとんどなくなった。 私は生まれてくるべき人間じゃなかったのではないかと、考えない日はなかった。私が生まれてこなければ、母はこんなに苦しまなくて良かったのではないか、私が生まれてこなければ、私がこんな孤独を感じることはなかったのではないだろうか。 母の再婚も、結婚の直前まで私に知らされることはなかった。しかし、その母の再婚が私の人生を大きく変える転機となった。 私に兄が出来たのだ。 彼は、本当の家族でもない私のために、毎日病院に来てくれた。私が病気を悪くするたびに、まるで自分のことのように苦心してくれた。 私が生きることを望んでくれる人がいる、そう思うだけで、今までの全ての苦しみから開放されるようであった。私は、生きていていいんだと、初めてそう思うことが出来た。 私を絶望から救い出してくれた彼に、兄としてではない、別の感情を抱くのに時間はかからなかった。今では彼のことを想うだけで、胸が締め付けられるような気持になった。彼なしでは私は生きてはいけないのだと、本当に心の底から思えるほどに。 ただ、ひとつだけ、分からないことがある。ふと、彼が私を見ているのに、どこか私でない遠くのものを見ているような気がして、虚しくなるのだ。そのときの彼の表情は、とても悲しげで、その理由を聞くことのできない自分自身が、何よりも歯がゆかった。 目の前の彼は、静かな寝息を立てながら、ベッドの端に突っ伏して眠っている。 その姿がたまらなく愛おしく感じ、衝動的に髪を軽くなでる。 私の病状が悪化したと聞いて、すぐに私のもとに駆け付けてくれたのだろう。そう思うと、どうしても顔が緩んでしまう。あぁ、彼は何て優しいのだろうか。もっと彼に、私のことを見てほしい...。彼...晴翔さんは、私のだけものだ...。 * * * 鳥がさえずるような、繊細で美しい声で目が覚める。 先に目を覚ましていた美夏が、僕の名前を呼んでいるようだ。 「晴翔さん、やっと起きてくれましたね。おはようございます。」 僕が視線をあげると、美夏は僕に向かって微笑みながら、まるで朝の挨拶のような言葉を口にする。 「私が体調を崩してしまって、急いで駆けつけて下さったそうですね...本当に...ありがとうございます。晴翔さんはこんなにも私を気にかけてくれるのに、私...こんな心配をおかけするばっかりで...」 どうやら、美夏は僕に心配をかけたことを申し訳なく思っているらしい。僕としては、そんなことは気にせず、自分の心配だけをしてほしいものなのだが...。 そんなことを考えていると、ベッドの下に見慣れないビンが落ちているのが見えた。何のビンなのか、拾い上げてラベルを見ると、 医師から聞いた、美夏の体内にあった物質と同じ名前が記されていた。 「どうしたのですか?晴翔さん?」 反射的にビンを後ろ手に隠し、何事もなかったかのようにごまかす。 出所の分からない汗が、僕の頬を伝っていくのを感じた。 * * * 暗闇の中、月明かりに照らされた病院の一室で、少女がベッドの下を覗いている。 「おかしいですね、確かにこの下に隠したはずなのですが...。あれがないと、あの人は私を見てくれないのに...。あれがないと、私は生きていけないのに...。」 * * * 隠した勢いで、ビンを持ったまま、家に帰ってきてしまった。 いったい何でこんなものが美夏のベッドの下に...。 思考を巡らせながら、家のドアを開ける。家の中は静まり返っている。父は飲んだくれて眠ってしまったのだろう。 美夏の病状の変化は、もちろんこの家にも伝えられたのだろう。しかし、病院に父の姿は見えず、起きてすらもいないのだ。今更父に怒りを覚えることはないが、それでも、どこか胸の奥が騒ぐような、そんな気持ちになった。 --- いかがだったでしょうか。もうなんか、だいぶ好き勝手やらせていただきました。 これでも、誰かの心に、少しでもこの作品が響いてくれればと願っています。 来週は皆さんお待ちかねの"""修羅場"""をお送りする予定です!ぜひお楽しみに! そして、明日のみす52代アドカレの寄稿者は真理の神(ΙΔΈΑ)です。生きとし生けるこの世の人間たちよ、神の啓示に震えるがいい!