# 孤独に酔う 〜 一人旅のすすめ 〜 ### 人には人の旅の形がある タイトルの通り、旅の楽しみ方は人それぞれだ。未知に触れ好奇心を刺激するも良し、友や恋人と友情、愛情を深めるのも良し、都会の喧騒から離れるも良し。 私にとっての旅とは心休まる場所を見つけたり、退屈で単調な日々にメスを入れるためのものといった役回りが強い。このような性質を帯びているため、事前に計画して旅に出るという事はあまりなく、旅行したくなった時に旅行するといったものが多い。このため、私は一人旅をすることが多い。なぜなら、突発的な旅に親しい人を誘うのは気が引けてしまうからだ。 さて、本題に入ろう。この記事で私が最も伝えたいのは突発的な旅行のススメではなく、一人旅は最高だって事だ。 勘違いしないで欲しいのだが、私は決して友人と旅するのが嫌いというわけではない。むしろ好きだと言ってもいい。なので、ここでは誰かとの旅と一人旅は全く異なったものであると捉えて欲しい。 ### 移動式引きこもりについて 私は自分の事を引きこもりだと思っている。家からあまり出ないのは勿論なのだが、不特定多数との接触が大の苦手だ。コミュニケーションはなくとも、視界に自分と無関係の人間が入っているだけで負の感情が生まれるため、積極的に外に出ていこうと思わない。しかもこの時期は寒い。外に出るメリットはない。暖房の効いた自宅で温かい紅茶を淹れ、静かな音楽を流し、外界との隔絶を感じていたい。 そんな私が一人旅を好む理由には、「移動式引きこもり」という単語が強く関係している。外に出たくないし無関係の人間を視界に入れたくない、でもずっと家にこもっていると単調な生活で頭がどうにかなりそうになるから移動を通して単調な生活にメスを入れたい。そんな感情に駆られがちな人々を私はそう呼んでいる。 つまり、移動式引きこもりとは、生活を彩りで飾る為に積極的に外出する引きこもりの事だ。 ### 旅について 無関係の人間を視界に入れたくないのにわざわざ視界に入れるような事をどうしてするのかと反論したくなる人が多くいると思う。ただ、少し考えてみて欲しい。 高田馬場駅の雑踏と同じ旅をする目的を持った人々で集まる田舎の単線、そして終着点である緑と青空に囲まれたぽつねんとした古い木造の駅舎を比較してみたい。前者の場合、視界に入る各々はみんな別々の思いで動いている。つまりエントロピーが高い。後者の場合は比較的人の多い電車内であっても、旅をするという目的で動いている人が多い。終着駅の駅舎なんて数少ない地元民くらいしか利用者なんていない。エントロピーが高いというのはつまり認知的負荷が高いという事だ。引きこもりは外界に敏感なため、エントロピーの高さを感じるだけで認知的負荷が上昇する。結局、旅で出会う人と都会の喧騒の中で生活する人々は私の脳内では全く別物なのだ。 一人旅は、認知的負荷を軽減しつつ、移り行く景色や知らない街を味わい、生活に彩りを与えてくれるのだ。勿論行き先は選ばねばないが、一人旅で有名な観光名所に行く人はあまりいないと思う。せいぜい片田舎の地元民に親しまれる神社くらいのものだ。 ### 孤独に酔う 私が一人旅を好む最大の理由。それは「最大限孤独を感じられる」からだ。 私は孤独を愛している。自分が孤独であるにも関わらずこの世に存在しているという事実が、自己認識を最大限高めてくれる。 「僕は確かにこの世に存在している。」そんな気持ちで胸が満たされる。 田舎のローカル線は、木々を掻き分け、時に海を望みながらひたすら、ただひたすらに走る。電車って無機物だけど孤独で不自由な存在だと思う。全ては運転手の意思に委ねられる。孤独な存在は孤独な私を載せて走る。 「僕らって孤独だよね。」って、自分以外誰も座っていないボックスシートの座席に向かってそう呟きたくなるくらいに孤独であるという事実は最高なんだよね。 私は書を読み、自分だけの世界に閉じこもる。ひたすら孤独な旅。最高だ。最大限自分の存在を感じることが出来る。そんな孤独に酔う。 温泉街の住宅街の散歩。あれはいい。温泉街の住宅街の散歩を嬉々として楽しむ観光客なぞどこにおるねん。 散歩を目的としてこのような場所を歩いている人間なぞ他にいない。孤独だ。 地元の空気を孕んだそよ風を頬に感じつつ、ふと周囲を見回すとゆらゆらしたナップザックを背負った自分の影と、無機物の姿しか見えない。そうして私は孤独を感じる。そんな孤独に酔いしれる。 人々が寝静まった深夜に世界に自分しかいないといった妄想をした事があるだろうか。まだ純粋だったあの頃に抱いた感情の欠片を閉じ込めた鈴が遠くに響く潮騒のように鳴り響く。ノスタルジーと孤独って相性いいんだよ。 晩夏。客もぐっと減った海水浴場。数週間前にあったであろう喧騒はどこへやらといった佇まいの海の家。一人旅で訪れる晩夏の海は陽光に照らされてキラキラと輝く。晩夏の海ってなんか淋しいんだよね。でもそれが自分の孤独を際立てる。 海沿いを歩く。いつ訪れても変わらない磯の匂いはなんだか安心させてくれる。心の中に訪れた安寧と、そして孤独。人間ってもしかしたらみんな孤独なんじゃないか。って思ったりもする。 ### 最後に 旅と孤独について語らせていただいた。こんなポエムは真に受けなくて良いが、一人旅はオススメしたいと思う。一人で行くくらいだったら旅行なんて行かなくていいやって言う人結構いるんだよね。もったいないなあ。是非孤独という感情を旅を通して楽しんでほしい。