# ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法 ## 2021/08/05 齋藤 ## 書籍情報 「ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法」 本間 浩輔 https://www.amazon.co.jp/dp/4478069786 ## どんな本? 1on1についてのかなり有名な本。 ヤフーで実際に導入されている1on1を題材に、その効果ややり方、どのように浸透させたかなどが詳細に書かれています。 以下章立て - 第1章 マンガで学ぶ1on1ミーティングの基本 - 1on1ミーティング 上司と部下の対話 ケースA - 1on1ミーティング 上司と部下の対話 ケースB - 部下に十分に話をしてもらう - 話は最後まで聞く - 上司は先に自分の考えを言わない - 上司依存の関係にしない - 行動で終わる - 第2章 1on1とは何か - 1 ヤフーが1on1に取り組む理由 - 2 1on1の効果 - 3 1on1の基本形 - コラム 初めは1on1に懐疑的だった - 4 対談❶ 中原淳・東京大学大学総合教育研究センター准教授に聞く「対話とは相手の背後にある前提を探り合うこと」 - 第3章 1on1における働きかけ - 1 信頼関係の構築 - 2 学びの深化 - 3 次の行動の決定 - コラム 1on1ミーティング前史 - 4 対談❷ 守屋麻樹・ローレルゲート代表(プロフェッショナルコーチ)に聞く「対話のテクニックより目の前の相手に真剣に対峙することが大事」 - 第4章 1on1導入ガイド - 1 ヤフーが実践する仕組み - 2 対談❸ 松尾睦・北海道大学大学院経済学研究科教授に聞く「人事が理想を語らなければ、いったい誰が語るのだろう」 - 3 1on1のFAQ - 第5章 ヤフーが人財開発企業を目指す理由 - 1 組織と働く個人のかかわり方のギャップを修正する - 2 対談❹ 由井俊哉・ODソリューションズ代表(組織・人材開発コンサルタント)に聞く「社員に成長の場を与えることは企業の役割だ」 ## 参考にすべきトピック 4章以降は、企業に根付かせるためにどうしたかや、ヤフーの企業文化の説明などだったので、 まず参考にするのは、1on1の効果とやり方のブブかなと思いました。 ### 1on1をやる理由 - 「7:2:1」理論 人の成長を決める要素の比率 - 7割:仕事の経験から学ぶ割合 - 2割:他者から学ぶ割合 - 1割:研修や書籍から学ぶ割合 - 1on1は成長要因の7割を占める「経験学習」を促進するために行う - 具体的には、1on1は経験を学習に変換するアクション(振り返り)のことを指す - ちなみに同じ過ちを繰り返す人は、経験を学習に変換するアクションができていない人 - ヤフーでは社員が経験から学ぶプロセスを想定して1on1を活用している ### 経験学習のサイクルについて - デービット・コルブの経験学習サイクル - 具体的経験 - 内省(省察的観察) - 教訓を引き出す(概念化) - 新しい状況に適用する - 1on1ではこのサイクルをまわすことをイメージする - 社員の具体的経験をもとに - その経験を掘り下げて(省察的観察) - 教訓を引き出し - 次の仕事に活かしていく ### 1on1のやり方 - 基本的には上司と部下という立場で行う - 頻度は毎週か隔週に30分ぐらいが効果が高い - **1on1は100%部下のための時間でなければならない(重要)** - 「今日は何を話そうか」から始める - テーマは部下が決める - 上司が聞きたいことを聞く場ではないから ← これを上司が理解できるかが成否を分ける - テーマを掘り下げる「もう少し詳しく話してみてください」 - 部下の内省を深めるために、頭を整理させる効果 - ニュートラルな返しを意識する - 心理的安全性の確保 - 沈黙を受け入れる - 部下の言葉を先取りして「つまりこういうことなんだね」と言いたくなるのをぐっと抑える。依存関係が生まれる可能性がある - 沈黙は部下が考える時間の確保となる - 意思決定の場面は特にここを意識する - 必ず行動で終わる - 行動へのコミットを引き出す。「A社の提案書、どうする?」など - 行動に日付を入れる。「いつまでにやろうか?」など ### 1on1の効果 - 経験学習の促進になる - コミュニケーションのきっかけになる - 現代となっては「飲みニケーション」などの昭和のコミュニケーションは、万人には難しい - 1on1は業務として行うので、定期的にかつ対話に集中できる環境を仕事で確保できる - 苦手な上司、苦手な部下にも有効。仕事と割り切れる。 - 相談や評価をタイムリーに受けることができる(部下目線) - 目標管理制度等がある場合は、それらを定期的に振り返るなども有効 - 部下の情報を得ることができる(上司目線) - 100%部下のための時間といったが、副次的な効果として期待できる - 人となりを知ることで、マネジメントの成功確率はぐっと上がる - もちろん部下の同意を上での把握であって、無理に聞き出すようなことではない。 - 近年のリモートワークやフリーアドレス化にも対応できる ### 1on1のテクニック - **コーチング** ~部下が自力で答えを見つけるためのサポート - コーチングは部下が経験から学び、次の行動をうながすための質問を主とするコミュニケーション手法 - 1on1ではコーチングが主体となる - **ティーチング** ~コーチングとの違いを意識して、使い分ける - ティーチングとは、「知識や技術を知っている人から知らない人に教える行為」 - コーチングとの違いを意識して使用する - 例えば社内ルールのように、上司が答えを持っていて、かつ部下にとっては単に知っていれば良いことなど - 経験から内省して学習する意味がないものや、知っていなければ始まらないことなど - **フィードバック** ~耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直す - 部下の行動(アウトプット)が周りからどう見えているのか、主に上司が部下に伝えることにより、部下の成長を支援するための方法」として用いる - 1on1のフィードバックは下記 - 「上司が部下に期待する仕事の水準と、部下がもたらした成果との差を示す」もの - 「一緒に働く周囲にとって、対象者(部下)がどのように見えているか返す」もの - 耳の痛いことをしっかりと伝える他に、もう一つ大事なこと - 「相手が気づかないこと」を伝える - 月曜日の朝はいつも機嫌が悪そうに見える。 - 仕事量が多い口調が早くなる。など ### 1on1で気をつけること - 上司と部下の関係であることを前提として理解する - 一般的に上司は部下の評価権限を持っていて、さらに異動や業務アサインについても影響力を持っている - 上記の関係性から、通常部下は上司から嫌われるような発言はしない - 上司はよほど気をつけないと、部下は本音を話してはくれない - 部下が上司に忌憚なく話すための条件 - 上司と部下の信頼関係が1on1のベース、まずは信頼関係を構築することから始める - 前提として、上司と部下という関係は、通常コーチングやカウンリングには向かない - しかし、業務上関係のある立場であるからこそ、より具体的な助言がFBを得ることもできる - 信頼関係は言葉や態度でしっかりと伝える必要がある - そこで使えるのが*応答技法* - アクティブリスニング - レコグニション - アクティブリスニング - うなずく、相槌を打つ、相手が発したキーワードを繰り返す - ヤフーでは頭の中を整理したい時、あえてアクティブリスニングが得意な社員に対して壁打ちを依頼することもある - レコグニション(無条件の肯定的配慮) - 直訳は「相手が存在することを認める」 - ヤフーの1on1では、目の前にいる部下の存在を認め、部下をありのままを受け止める、そしてそれを相手がわかるように伝える - 例えば、部下が「業務量が多い」と言っている時、「給料的にはもう少しやってもらいたい」とか「自分が若い頃はもっとやってた」などは上司の感情であり、これを押し付けると「自分の事をわかってくれない」となる - 一旦感情を横において、「業務量が多いと思っているんだな」と共感し、それを相手に伝えることが大事 - 注意点として、共感するのであって同意することではない。 ## 所感 自分が1on1をやっていることもあり、かなり参考になりました。 実際に1on1を導入し長く続けている経験からのナレッジで、ヤフーにしか通用しないというものではなく、一般化されている内容だと感じました。 1on1を実施してみたいと思っている人(リーダーでなくても、リーダーにやってほしいと思っている人も)は読んで損はないと思います。 反面、コストが結構かかる(主にリーダーに)ものなので、やってみてのコスパは考える必要はありそうです。 ラクーンはリモートワーク中心で、フリーアドレス化もされたところなので、コミュニケーション面での物足りなさを感じている人には刺さる部分は多いと思います。 ## お勧め度(☆☆☆☆☆) ★★★★★ ※1on1をやってみたい、やってほしいと思っている人のにとってはの評価 ## 質疑応答 - コーチングとティーチングの切り分けとプライオリティーはどのようにするのが良いか? - ヤフーだと、「部下の可能性を信じろ!」と書いてあるので、部下の中に必ず答えはあるという考えからコーチング主体となります。 - ただし、「これは知っとかないと答えが出せなくてもしょうがない」というものに関してはティーチングをしてもいいと、個人的に思いました。 - 1on1は双方理解している(部下が意図を理解している)方がいいと思うが、そのあたりはどのように書いてあったか? - ヤフーでは上司側、部下側でそれぞれ1on1の研修があり、双方の1on1に対する理解を深めることが仕組み化されています。 - つまり、双方の理解がないと効果が出ないことの証明にもなるかなと思います。 - 更に余談ですが、ヤフーではアセスメントという1on1を健全に回すための1on1評価制度もあります(部下が上司の1on1に対して点数をつける) - 1on1の人数キャパシティはどの程度ですか?またキャパシティ的に無理そうならどういう対応策があるか? - キャパシティの具体的な数値は載っていませんでしたが、週イチ30分なら8人ぐらいが限界かなと言う感じです。 - ヤフーでは「ナナメ1on1」という手法も載っていたりして、上司役で1on1ができる人(実際にはリーダーではない)とやる1on1もあるので、そういったやり方を取ればキャパシティは広がると思います。 - 1on1と同じような効果が出るものはあるか? - 「経験学習の促進ができるもの」という軸で考えればあるかもしれませんが、本にはありませんでした。 - ただ、上司と部下で行う1on1には副次的効果が色々あるので、それらを全て加味すると、なかなか他の方法では難しいような気がします。