# 恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす ## 2021/08/30 下田 啓太郎 ## 書籍情報 恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす エイミー・C・エドモンドソン (著) https://www.amazon.co.jp/dp/B08R8KBZKZ/ ## どんな本? 「心理的安全性」の提唱者であるエイミー・C・エドモンドソン教授による、心理的安全性の解説書です。 ### 心理的安全性 チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは「対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念」がメンバー間で共有された状態 ### 手にとったきっかけ 提唱者はハーバードビジネススクールの教授で、学術論文として概念が提唱されているもので、心理的安全性は学術用語です。 一切ブレる余地が無い語にも関わらず、調べれば調べるほどブレブレな説明ばかり出てきてわからなくなってしまったため、誤解を招きやすい語なんだろうなと思っていました。いったんフラットな心理的安全性についての知識を身に着けたかったため、提唱者が執筆した本を選びました。 ## 参考にすべきトピック ### 解説(早稲田大学商学部 准教授 村瀬 俊朗) 巻末についている解説が名文です。 本文より心理的安全性についての正しい理解と、使い方を知ることができます。 #### 信頼と心理的安全性の違い 「信頼」は個人が特定の対象者に抱く態度であり、「心理的安全性」は集団の大多数が共有すると生まれる場に対する態度です。 例えば「田邨さんに対して田邨さんに反する意見を言うことができる」のは田邨さんに対する信頼で、「会議で周りと田邨さんに反する違う意見を言うことができると思える」ことが共有されていることが心理的安全性です。 #### 効果の検証から促進要因の探求へ 心理的安全性が提唱された論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」の発表から20年が経過し、チームワークを向上させ、失敗の共有を促進するなど、効果は学会で確立しています。 「心理的安全性を造るにはどうしたらいいか」という促進要因の研究が主な対象になっている。 例えば高度なテクニックは不要で、「単純に耳を傾ける」という行為が促進要因であることが判明している。 今後も促進要因は発見されていくはず。 #### リーダーのパラドックス 心理的安全性はグループにおける場の「空気」のようなもので、場の空気に最も影響を与えるのはリーダーです。 一方でメンバーは場の空気を読んで周りと歩調をあわせることで居場所を作ります。結果的に場の空気を読む力が強くなります。 リーダーは場の空気を作らなければならなないのにメンバーより空気が読めなくなる、このズレがリーダーのパラドックスです。 このパラドックスは解消できるものではないことを、リーダーは自覚する必要があります。 解消できないならどうするか考えると、空気を読むスキルが長けた人に教えてもらう、つまりメンバーから話を聞くことが重要です。 ### 第1章 土台 心理的安全性を提唱するにあたっての、土台となる事実についての解説です。 - 誰しも小学生ごろから人間関係上のリスクをコントロールしている。リスクコントロールの有力な手段が傍観で、小学生から毎日鍛錬しているので達人級に上手く、無意識で体が勝手に動いてしまう - 病院において、1000患者*1日入院あたりで投薬ミスを計測したところ、2日に1回のチームと21日に1回のチーム、10倍の差があった。しかしミスの報告数は負の相関関係にある。優秀なチームはミスの報告数が多い - 心理的安全性は組織ごと(病院ごと)ではなく、グループごとに特徴がある。つまりリーダーが作るもの(おそらく名実問わないリーダー) - 心理的安全性は率直であること - 心理的安全性が高ければ、性格にはよらずアイデアを出し、懸念を述べる - 心理的安全性は業績と直接相関はなく、因子の1つでしかない。高い業績を出すには、高い目標もあわせて必要となる - 心理的安全性の測定は安定している。つまり統計的に予測したい結果(ミス率など)と有意に相関がある #### 心理的安全性に関する意識調査 1.非常にそう思う~7.全くそう思わない の7段階で計測する。(R)は1を7に、7を1にと逆にする 1. このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R) 1. このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。 1. このチームの人びとは、他と違っていることを認めない。(R) 1. このチームでは、安心してリスクをとることができる。 1. このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R) 1. このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。 1. このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。 ### 第2章 研究の軌跡 心理的安全性についての各研究についての紹介です。 - 心理的安全性とlearn-what(読書などの自主的な学習)は相関関係はなく、learn-how(チーム横並びで学習する学校のようなスタイル)は正の相関関係がある - 人/チームの対立は業績に対して良い効果がある場合と悪い効果がある場合がある。心理的安全性が高ければ良い効果があり、心理的安全性が低ければ悪い効果がある - リモートワークは業績に対して悪い効果がある場合と、ない場合がある。心理的安全性が高ければ問題なく、心理的安全性が低ければ問題がある ## 所感 「心理的安全性」はチームワークよる成果に対して、定量的な計測ができる、学術的に裏打ちがある指標の1つだと理解しました。 アンケートのみで計測可能なので、ラクーンでも定期的に計測してみてよいのではないかと思いました。 ミスの報告件数と心理的安全性の負の相関関係、ミスの発生件数と心理的安全性の正の相関関係、つまりミスの報告件数と発生件数の負の相関関係があることはなんとなく察していましたが、実際に言葉やデータで示されると理解に苦しみました。知ってはいるけど、飲み込みづらいと言うか。実体験だとCORECのリリース前のバグ票が数百件あり、田邨さんが焦っていたけど、結果的に致命的なバグはほとんど無かったことを思い出しました。 対立や衝突と生産性との関係性は、私の中で大きな謎の1つでした。いい商品を作ったり、強固なチームを作るには議論をしなければならないのに、議論をふっかけると上手くいかなくなるのはなぜだろう。小学生の時はみんな全身全霊で議論を受けてくれたのに、いつの間にか受け流してしまうようになってしまったのはなぜだろうというものでした。 心理的安全性という軸を足すと、対立はプラスになったりマイナスになったりするものというデータは腑に落ちました。 この本では「心理的安全性が高いとどうなるか」について解説しています。解説にもありましたが、心理的安全性の上げ方は研究中のフェーズで、ちらほら研究成果が出てきたところで、まだ解明されていないことだらけということは留意する必要がありそうです。組織が上手く機能しているか・問題がないかを表す指標となっても、組織を上手く機能させるための直接的な手段には現時点ではなっていないようです。 ## お勧め度(☆☆☆☆☆) ★★★☆☆ 良くも悪くも学者の先生が書いた本です。 根拠はデータに基づき、語の誤った理解はなく、心理的安全性について正しい理解を得るには最適です。 本書の構成は、第1章、第2章は論文ベース、第3章以降はケーススタディで進んで行きます。 第1章、第2章は有益でしたが読みづらさがあります。 第3章以降は他社の事例について、自論を頑張って当てはめた感が強く、自身の経験・調査から来るものではないためか、ちょっと視点がズレている印象を持ちました。 決して読みやすい本ではないので、万人におすすめする本ではないと思います。 提唱時の論文[Psychological safety and learning behavior in work teams](https://web.mit.edu/curhan/www/docs/Articles/15341_Readings/Group_Performance/Edmondson%20Psychological%20safety.pdf)を解説しているまともな記事があれば、そちらを読んだほうが良いと思いました。 ## 質疑応答 - 心理的安全性が高くなりやすい性格があるのでは? - 研究によると、相関関係がないとのこと - 上げやすさについては説明通り未解明 - そもそも風土の問題であるので、個人とは無関係