# 学生への懲戒処分 ## はじめに  本ページでは京都大学における学生に対する懲戒処分とその不当性について解説していきます。 ## 1.懲戒処分とは  京都大学における学生に対する懲戒処分は「京都大学学生懲戒規程」(詳細は後述)により下されます。処分の種類は 1.譴責(けんせき):その責任を確認し、及びその将来を戒めること 2.停学:6月未満の期間を定めて、又は期間を定めずに、学生としての権利を停止すること 3.放学:学生としての身分を失わせること 以上の3種類です。 ## 2.処分の歴史  京都大学における学生処分の歴史は古く、1951年に起きた関西巡検中の昭和天皇に全学自治会同学会が「公開質問状」を提出しようとしたり、群衆が反戦歌を歌ったりして景観と小競り合いを起こした「京大天皇事件」の際には委員長青木宏をはじめとした同学会委員8名の無期停学処分と同学会の解散が京大当局から発表されました。1955年にも学生が滝川幸辰総長(当時)を交渉の延長を求め取り囲んだところ警察が動員された「第二次滝川事件」でも学生が逮捕・起訴された上処分されました。再度同学会の解散命令も出されました。(その後再度同学会は全学公認団体となり、今に至っています。)  その後しばらく処分問題というのは話に挙げられることはありませんでしたが、2016年、前年に行われた吉田南1号館バリケードストライキに参加したとして学生4名に無期停学処分が下されました(翌年放学処分)。2018年になると巨大立て看板を建てたとして学生2名に譴責処分、オープンキャンパスにて職員にタックル「された」学生1名に無期停学処分が下されました。2019年には厚生課窓口前での職員の暴行に抗議した学生3名に無期停学処分が下されました。(うち2名は巨大立て看板譴責処分者)  2019秋、2月の入試で折田先生像のパロディ「オルガ像」を制作、キャンパス内に設置した学生に処分検討の呼び出しが来ていることが発覚し、それを阻止するため同年12月、吉田南構内の広場(通称総人広場)にて学生主体の集会が行われました。集会には学生のほか、2名の教員も登壇しました。2020年初頭、処分検討されていた学生は譴責処分になりました。2020年12月にも同様の場所で集会が行われ、学生はもちろんのこと教員4名の登壇、さらに教員7名の賛同メッセージも集まりました。 2021年2月、前年11月に行われた熊野寮祭の恒例企画、「時計台占拠」に参加したとして学生9名に処分検討の呼び出しが来ました。この事態を重く見た全学公認団体同学会員有志(京大生有志)同学会のもとに「全学処分対策委員会」を設置し、3月には緊急集会をクスノキ前で行いました。  初めはバリケードストライキ、巨大立て看板設置といった少数行動かつ目立つ行動から、入試応援、行事参加などこれまでたくさんの人がやっていた、中には京大の文化ともとれるような行動まで、処分の対象がより身近になってきていることがわかります。 ## 3.処分に至るまで 処分に至るまでのプロセスを解説します。まず、学生の懲戒処分が検討される段階で京都大学研究科長部会特別委員会が設置され、学生に対しメール、内容証明郵便にて「聞き取り調査に応じるもしくは弁明書を提出する、少なくともどちらかはすること」と言った趣旨の文書が届きます。聞き取り調査は数名の教職員によって行われます。その文書には「確認された行為・言動」と称された特別委員会側で把握したとされる行為・言動の一覧が書かれたものも同封されています。聞き取り調査ないし弁明書提出ののち、それに基づき所属部局の長が懲戒処分案を作成し、総長に上申します。その後総長が当該学生に対し陳述書の提出を要請し、それをもとに学生懲戒委員会を設置します。その後所属部局の長は懲戒委員会の調査に基づいて、教授会等で審議して処分案を再度検討します。総長に処分案が再度上申され、総長が最終的な処分の可否・内容を決定します。 ## 4.処分の不当性  本項では処分の不当性について述べていきます。 ・処分理由が恣意的で、「確認された行為・言動」も恣意的な見方をしている 「京都大学学生懲戒規程」によると処分理由は (1) 京都大学(以下「本学」という。)の諸規程又は命令に違反した者 (2) 本学の教育研究活動を妨害した者 (3) 刑罰法令に触れる行為を行った者 (4) 本学の名誉・信用を著しく失墜させた者 (5) 前各号に準ずる不適切な行為を行った者 以上の5点です。(1)の「京都大学」とは本来全学生、教職員、その他学籍を有する者など、構成員は幅広いはずなのに、総長をはじめとする運営陣のみが規程や命令を一方的に定めていることは大きな問題であります。職員の暴行に抗議して無期停学処分が下された事実から、「京都大学の命令」に「職員の命令」も含まれていると考えざるを得ません。となると現場職員のさじ加減一つで学生の今後の人生を大きく変えることになる「処分」というもののきっかけを作り上げることができてしまうのです。 また、(2)の規程を当てはめれば「オルガ像」のような京大顔をも呼べる「自由の学風」からおおよそ外れていないように見えるようなものも恣意的に処分の対象にできてしまうのです。 ### ・処分に当てはめる人が恣意的で、目立っている人や顔と名前が判明した人を処分してくる。 先ほども述べましたが、処分の対象ははじめバリケードストライキを主催した人や二人で京大運営陣を批判する巨大立て看板を設置していた人など、目立っている人でした。また、オルガ像や職員への抗議、時計台占拠への参加との共通点を考えると、処分の対象は「京都大学運営陣が良いと思わない行動をする人」と言えるのではないかと考えられます。今は政治的な運動や大学批判の立て看板などを大学運営陣は良いと思っていないのかもしれませんが、その対象がどう変わっていくかわかりません。運営陣のさじ加減ひとつでその裁量が変わってしまうのは正常な状態ではないと言えるでしょう。 ### ・聞き取り調査が秘密裁判的で、弁護士の同席すら認められない。 聞き取り調査は密室に学生側は1人しか出席できず、代理人として法的にも認められている弁護士の同席すら認められません。その理由も「教育的観点」とのことで、気に食わない学生をつるし上げることをどうやら京都大学運営陣は「教育」だと思っているようです。弁護士の同席を認めないことは法的観点から問題があるのではないかとも考えられます。 ### ・聞き取り調査と称し、「やっただろ」と当該行為に対する自白を強要すること 聞き取り調査は「弁明の機会」、「行為の事実確認」と称されて行われるものですが、行為に対して「やった」と言えば自白になるし、「やっていない」と言うとうそをついたとみなされかねません。また、「謝れば処分が軽くなるから謝るべきだ」という言葉をかけられることもあります。これらは現代社会における警察の不当取り調べと同様の構図であり、法的、倫理的に問題のある行動であると言わざるを得ません。 ### ・教授会が処分内容を決めても、上申先の総長をはじめとした運営陣がそれを正当な理由なく覆す可能性がある。 懲戒規程の本文を読むと、前述したように所属部局の長や教授会には総長に上申する権限しかありません。ということは仮に教授会レベルでは「処分の必要なし」や「譴責処分」であっても、総長の一存で「無期停学」や「放学」にできるということです。この処分決定プロセスに民主的な決定や合理性があるとはとても考えられません。 ### ・処分の終了・軽減の際や聞き取り調査の時に思想の転向を迫ること。 2020年12月集会の際に無期停学処分を受けている学生が「無期停学を解除してほしいのならば、今すぐ熊野寮から退寮すること」と村中孝史現学生担当理事・副学長に言われたことを明かしました。また、他にも聞き取り調査などの際に「今後一切自治活動・集会に参加しないこと」という約束を迫られたという話もあります。これは思想の転向を迫っていることと同義であり、日本国憲法に定められた「思想・信条の自由」を侵害していると言えます。 ## 5.なぜ我々が京都大学学生懲戒規程・学生処分に反対する必要があるのか 大学の構成員の中で最も大きな割合を占めているのは我々学生です。にもかかわらず、懲戒規程は総長をはじめとした運営陣が恣意的に運用し、恣意的に人間を選び、恣意的に処分を下しているのです。いまあなたが処分の対象でなくても、その基準は時によって変わりうるのです。このままの規程では我々に今ある自由が担保される保障は限りなく低いと考えられます。我々の学問の自由を守るには、処分問題は処分された、されそうになっている者だけで取り組めばいいという話ではありません。処分問題は決してやり玉にあげられている人が悪いから起きているのではありません。明日は我が身という気持ちで取り組んでいく必要があるのです。 ## おわりに  以上のように現在の京都大学における学生処分問題は不条理さや民主的プロセスの著しい欠如が見られます。はっきり言って、現在の京都大学学生懲戒規程は不当です。これを読んだ新入生の皆さんにもそれが伝われば幸いです。