## はじめに  ホモロジー代数の一般論を論じ、トーラス、クラインの壺について計算する。 ## アーベル群 1次独立な生成系をもつアーベル群を自由アーベル群という。 $s_i$ を適当な集合の要素としたとき、 $$ A = \{m_1s_1 + m_2s_2 + \cdots + m_ns_n | m_i ∈ \mathbb{Z}\} $$ を有限生成な自由アーベル群という。 これは $$ A = \oplus\mathbb{Z}s_i $$ などとも書く。 $\mathbb{Z}$ 自身は、$1$ で生成される自由アーベル群、$\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}$ は $(1,0)$、$(0,1)$ で生成される自由アーベル群である。 $A$ がアーベル群、$B$ がその部分群で、$a, b ∈ A$ が $a - b ∈ B$ を満たすとき、$a$ と $b$ を同値類という1つの元と考えて新しいアーベル群を作ることができる。これを $A/B$ と書く。 たとえば、$A = \mathbb{Z} s$、$B = \mathbb{Z} (3s)$ とすると、$A/B = \mathbb{Z} s / \mathbb{Z} (3s)$ となる。このような場合、しばしば $s$ を省略して、$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$のように書く。これは $$ \mathbb{Z}/3\mathbb{Z} = \{0, 1, 2\} $$ として、和や積は、$1+2 = 0$ や $2×2 = 1$ のように通常の整数として計算して、その答で3の倍数を0にしたものと同じである。 以下でこのような代数が図形の形状を表すことを見る。 ## トーラス、クラインの壺、クロスキャップ 四角形の辺を同一視することで、種々の図形をつくることができる。下図では、向かい合う辺を矢印の方向に貼り付けると考える。するとトーラスになる。 ![](https://hackmd.io/_uploads/rkiXGyka3.jpg) 一辺の貼り合わせる向きを逆にるするとクラインの壺になる。 ![](https://hackmd.io/_uploads/HJtWX11Th.jpg) クラインの壺は、3次元内で実現できないが、高次元内では実現できる。 さらに、もう1辺も逆にして貼り合わせるとクロスキャップになる。 ## ホモロジー ホモロジーは、これらの図形的特徴を代数的に表そうとするものである。ここでは、特にループを考える。 たとえば、トーラスの場合、下図のように三角形($T$ と $U$)に分割し、それぞれに辺に $a$、$b$、$c$ と名前を付ける。 ![](https://hackmd.io/_uploads/HJ-uVkkT3.jpg) <u>トーラス</u> 辺の貼り合わせにより、$a_1 = a_2 = a_3 = a_4$ となる。 したがって、$a$、$b$、$c$ はすべてループである。 三角形の周囲を $∂T$、%∂U$ と書くと、これらは次のように表すことができる。   $∂T = c - a - b$   $∂U = a + b - c$ これらは三角形の周囲なので、変形してつぶしてしまうことができる。つまり、実際のループではない。この状況をアーベル群を使って表現すると、   $(\mathbb{Z}a \oplus \mathbb{Z}b \oplus \mathbb{Z}c)/(\mathbb{Z}(c-a-b)\oplus\mathbb{Z}(a+b-c)$   $= \mathbb{Z}a\oplus\mathbb{Z}b$ となる。ここで $A\oplusB$ は、$A$ と $B$ が独立したアーベル群であること表す記号である。この結果は、トーラスには独立したループが2つあることがわかる。 ![](https://hackmd.io/_uploads/B1oFtyJpn.jpg) <u>クラインの壺</u> 同様のことをクラインの壺を行うと次のようになる。   $a_1 = a_2 = a_3 = a_4$   $∂T = c - a - b$   $∂U = a - b - c$ より、   $(\mathbb{Z}a \oplus \mathbb{Z}b \oplus \mathbb{Z}c)/(\mathbb{Z}(c-a-b)\oplus\mathbb{Z}(a-b-c)$   $= \mathbb{Z}a\oplus(\mathbb{Z}b/\mathbb{Z}(2b))$ となる。これは、クラインの壺にもループが2つあることを示しているが、ループ $b$ は2周するとほどけるループであることを示している。 <u>クロスキャップ</u> この場合、貼り合わせによっても $a_1 = a_2 = a_3 = a_4$ とはならない。 $a_1 = a_3$、$a_2 = a_4$ である。 このとき、$a$ と $b$ は単独ではループにならない。ループになるのは $c$ と $a-b$ である。   $∂T = c + a - b$   $∂U = a - b - c$ より、   $(\mathbb{Z}c \oplus \mathbb{Z}(a-b))/(\mathbb{Z}(c+a-b)\oplus\mathbb{Z}(a-b-c)$   $= \mathbb{Z}c/\mathbb{Z}(2c)$ となり、独立したループは2周するとほどける $c$ のみであることがわかる。