11/22 私がやったこと > https://bpb-us-e1.wpmucdn.com/sites.harvard.edu/dist/b/845/files/2025/01/manipulation-aaai11.pdf のLMSRモデルをM&Tの環境にどのように埋め込みできるかを考えています。 この先行研究のモデルは以降はChenモデルと呼びます。 ## Chenモデル https://bpb-us-e1.wpmucdn.com/sites.harvard.edu/dist/b/845/files/2025/01/manipulation-aaai11.pdf - 真の状態 ($X \in {0, 1}$) - AliceとBobがそれぞれ私的シグナル $S_A, S_B \in {H,T}$ を観察 - LMSR(パラメータ$b$)が初期価格 $f_0$ からスタート - Alice が先に確率を $f_0 \to r_A$ に動かし、Bob が $r_A \to r_B$ 動かす。 - Alice だけが最終価格 $r_B$ の単調増加関数 $Q(r_B)$ という外部ペイオフを持つ($\alpha = 1$)。 - $H$:良いニュース寄りのシグナル($H$ を観察すると、$X=1$ である確率が 高くなる)$p_H = P(X=1 \mid S_A = H)$ - $T$:悪いニュース寄りのシグナル($T$ を観察すると、$X=1$ である確率が 低くなる)$p_T = P(X=1 \mid S_A = T)$ - H は、同じように価格を上げたときのコストと利益が T より有利となる。なぜなら、Q$ は単調増加なので $r=1$ で外部ペイオフが最大となり、先ほどのHとTの定義から、$p_H > p_T$ となるので、同じ報告値 $r$ に価格を盛るときでも、H の方が $r$ に近い分だけ、LMSR における期待損失 $$L(p,r) = p \log \frac{p}{r} + (1-p)\log\frac{1-p}{1-r}$$ が小さく、$L(p_T, r) > L(p_H, r)$ が成り立つ一方で、外部ペイオフ $Q(r)$ の増加分は両タイプで共通だからである。 - $Y_H$ は、アリスが $H$ シグナルを持っているときに、予測市場の中で失う利益と外部ペイオフで得られる利益が釣り合う境界を示す。$Y_H$ を超えた報告をすれば Alice は損をする。 - $Y_T$ は、$Y_H$ のT版。 結果としては、 - ある条件 ($Y_H \ge Y_T$) のもとで、情報が完全に集約される separating PBE が存在し、最終価格 $r_B$ は、$Pr(X = 1 | S_A, S_B)$ になる。 - このときAliceは予測市場の中で得られる利益を犠牲にして高い確率を報告することで、Bobに私はHを見たと信じさせることができる。 直観としては、 - 予測市場で確率を高く報告するほど、市場の中では損が増えるが、外部ペイオフが増える。 例えば、 - $Y_T$ = 0.7 - $Y_H$ = 0.9 だとすると、 - $T$ タイプ($T$ シグナルを持つ Alice)は $r > Y_T = 0.7$ を報告すると、"市場内の損失 > 外部ペイオフの増加" となり、損をするので合理的に選択しない。 - $H$ タイプは $r > Y_H ~ 0.9$ を報告すると損をするが、$r \in Y_T, Y_H$ の範囲なら、まだ外部ペイオフの増加 $\ge$ 市場内の損失で、合理的に選択できる。 したがって、$0.7 < r \le 0.9$ の範囲は、 Hタイプだけが合理的に選べることになる。 まとめると、 - 2者間の当事者は予測市場価格を通じて最終ペイオフを操作しようとするインセンティブを持つが、LMSRと外部ペイオフ $Q(\cdot)$ の関係が $Y_H \ge Y_T$ を満たす場合、たとえ当事者が戦略的に価格を動かしても、均衡における最終価格は正しい事後確率と一致する。従って、裁判所はこの価格を「非操作的」とまでは言えないにせよ、「情報的には信頼できる参照点」として用いることができる。 ## ChenモデルをM&T環境に埋め込み 1. 契約フェーズ(t=1) - 二者が LMSR をどのように動かすか、そこで形成される価格と $X$ に応じてペイオフをどう決めるか をex anteに合意する。 2. 投資フェーズ(t=2) - 投資 $e_S, e_B$ を行う。 - 投資の結果、自分のコスト・価値・成功確率に関する私的情報を得る。 - 二者はこの私的情報に基づいて、Chenらの方式でLMSR(順番に一回づつトレード)でイベント $X$ の確率について取引する。 - この時、最終価格 $p$ に応じてペイオフがt=0に定めた契約によって決まっているので、これがChenらのいう外部インセンティブ $Q(p)$ に相当する。 4. 状態実現・執行フェーズ(t=3) - その後、プロジェクト成功・失敗などの二値イベント $X \in {0,1}$ が実現する。 - 二者は 契約で事前に決められた$$ペイオフ = f(p, X) $$ に従って行動・資産転移を行う義務を追う。 - 裁判所はLMSRの最終価格 $p$ と実現した $X$ を観測して、契約で定められた $f(p ,X)$ が正しく適応されているかを検証・強制する。 上記のロジックでは、 - **M&Tの共通事前を緩和**:M&Tに比べて、状態の細かさを大きく落とした弱い共通事前となるので共通事前の仮定を緩和している。 - **M&Tのメカニズムと罰則を排除**: M&Tでは、メカニズムと罰則を通じて二者間と裁判所の間の情報の非対称性を埋めていたが、Chenでは申告メカニズムと罰則を設けなくても、信頼区間内なら操作されていないとみなし、契約に書かれたその情報ベースの取引及びtransferルールが執行されているかどうかを裁判所が検証することができる。 つまり、M&Tの複雑な申告ゲームを、ChenらのLMSRと価格ベース契約に置き換えることで、1) M&Tの共通事前の仮定を緩和することができ、2) 複雑な申告メカニズムと罰則を排除することができる。これによって、M&Tの強い仮定を緩和でき、かつメカニズムと罰則が必要ないといったより実装しやすい Approximate Irrelevance Therem を主張できる。 ## 外部ペイオフの扱いに関する2つの選択肢(論点) Chenモデルでは、Aliceのみが外部ペイオフを持っているという前提があった。M&T環境では、売り手も買い手も両方が外部ペイオフを持っていることになる。そこで、どのようにM&T環境で外部ペイオフを扱うかが重要な論点になるだろう。 ### 契約で外部ペイオフを一方に集約する 契約設計で、 - $p$ に依存する payoff を一方(例えば売り手)にすべて集約し、もう一方(買い手)は $p$ に依存しない定数ペイオフにする。 これによって、 - 売り手 = Alice:外部ペイオフ $Q(p)$ を持つ manipulator - 買い手 = Bob:市場内部利得だけを気にする投機家と理論的にみなす このとき、Chen の分析がほぼそのまま使える - $(X, S_A, S_B)$ 上の共通事前 $\pi$ - 外部ペイオフ $Q(\cdot)$ の存在が共通認識 - $Y_H \ge Y_T$ が成立すれば、 - 分離均衡で $p = \Pr(X = 1 \mid S_A, S_B)$ が実装される - 裁判所は、この $p$ が理論上の均衡価格集合(信頼区間)にある限り非操作とみなせる M&Tの投資・取引ルールを $p$ の関数として設計すれば、特定の環境では、M&T の complete contract benchmark と同じ(あるいは近似で)投資・配分を実装できる。 ただし、これは Chenモデルを契約理論に応用しただけなので、少し論文としては弱い気がする。 ### 選択肢 2:両方が Alice=2人とも外部ペイオフを持つ拡張 契約で外部ペイオフを一方に集約せず、 - 売り手:$Q_S(p)$ - 買い手:$Q_B(p)$ という、それぞれ $p$ に依存するペイオフを持たせる。 特に - 売り手:$p$ が高いほど得(上方向に操作したい) - 買い手:$p$ が高いほど損(下方向に操作したい) のような利害が逆方向のケースが自然になる。そしてこれは、Chenモデル の Alice だけが manipulatorのモデルを 2人に拡張した新しいゲームになる。 問としては、 - 2人とも外部インセンティブを持つ LMSR において、どのような $Q_S$, $Q_B$ の形や大きさなら、情報が依然として完全に集約されるか? ここで考えられる可能性は、片方が上に操作したい、もう片方が下に操作したいので、インセンティブが相殺されて、むしろ操作が抑えられ、価格が情報をよく反映する可能性があるのではないか、ということ。 この条件を(Chen の $Y_H, Y_T$ を一般化した形で)分析し、二者だけの予測市場かつ、両者が外部ペイオフを持っていたとしても、こういう条件なら操作がされていないとみなせるという新しい信頼可能性条件を出せる可能性がある。 これは Chenモデルを拡張し、かつ不完備契約の課題を解決しているため、非常にインパクトがあるように感じる。 #### 少しだけ選択肢2のロジックを考えてみた 達成目標: - 定理: 二者LMSR+外部ペイオフ $Q_S, Q_B$ のゲームで、 $Q_S, Q_B$ がある条件(不等式)を満たせば、最終価格 $p$ が $P(X=1 \mid S_S,S_B)$ を実装するPBEが存在する。 - 定理: 一方で $Q_S, Q_B$ が十分に大きくなると、 どのPBEでも価格は $P(X=1 \mid S_S,S_B)$ になり得ない(完全情報集約均衡は存在しない)。 発想としては、前述したとおり、売り手も買い手による予測市場内で逆向きのインセンティブを使って、どれくらいのインセンティブの強さなら打ち消しあってくれるのか?逆にどれくらい大きくなると、打ち消せなくて価格がゆがむのか?とした。これを不等式で表現したい。 なお、Chenモデルでは外部インセンティブは外生のもとされているが、M&T環境にchenモデルを適応させたモデルでは、事前に契約で将来のペイオフを定義することができる。売り手も買い手も(両方 Alice)Aliceの外部インセンティブ構造を内省のものとして共通認識しており、そこを契約時に調整することができる。つまり、外部インセンティブと呼ばれるものを事前にデザインすることができるかも!? 理想から考えると、 1. 各シグナルの組み合わせ(H/H, H/T, T/H, T/T)ごとに、本当の成功確率に相当する理想の価格 $P_{HH},P_{Ht}, P_{TH},P_{TT}$ の4パターンがある。 2. その理想価格を使って以下を比べる。 - 売り手が少し確率を上に申告することで、どれくらい外部ペイオフが増えるのか? vs. どれくらいLMSRで損をするのか? - 買い手が少し確率を下に申告することで、それくらい外部が増えるのか? vs. どれくらいLMSRで損をするのか? 3. どの方向にサバを読んで申告をしても、LMSRでの損失のほうが大きいような不等式が全部成立するような条件を "価格が信用できる条件" として定義してしまう。 形式的には、各プレイヤーごとにサバ読みメリット < サバ読みによるLMSRの損失という不等式が必要になり、その2条件が同時に成り立てば、そこが均衡になる。 引用 https://maskin.scholars.harvard.edu/sites/g/files/omnuum10606/files/maskin/files/unforeseen_contingencies_and_incomplete_contracts.pdf https://bpb-us-e1.wpmucdn.com/sites.harvard.edu/dist/b/845/files/2025/01/manipulation-aaai11.pdf ### 証明