# リーン・スタートアップ エリック・リース著 ## はじめに リーン・スタートアップとは、無駄を無くし、イノベーションを継続的に生み出せるマネジメント手法の一つである。 リーン生産方式(トヨタの無駄のない生産を実現する方式が始まり)をイノベーションに応用する。 ### リーンスタートアップの5原則 1. アントレプレナーはあらゆるところにいる。 2. 起業とはマネジメントである。 3. 検証による学び。 4. 構築-計測-学習 5. 革新会計(イノベーションアカウンティング) ## 第1部 ビジョン ### 第1章 スタート リーンスタートアップは、業務に関わるあらゆる分野で価値を生み出す活動と無駄な作業を分け、無駄を徹底的に排除する。 仮説をもとに細かな計画を立てて、その計画を正確に実現する方法ではなく、実際に構築・計測(=検証)を行い、その結果から事業継続(辛抱)や転換(ピボット)を判断する(学習→フィードバック)というサイクルを回す。 まずは事業の目的地となるビジョンを明確にし、その目的に応じた戦略を立て、戦略の成果物として製品を作り出す。その際に、検証による学びを通じて、製品を最適化したり、フィードバックでピボットによる戦略転換に出たりする。 ### 第2章 定義 アントレプレナー:一から会社を立ち上げる起業家や、企業内で活動する「企業内起業家」等、イノベーションを担う人材全般を指す。 スタートアップ:不確実性が極めて高い状況で、新しい製品・サービスを創り出す必要がある人的組織。 イノベーション:不確実性が高い状況下で、隠れた価値を見つけ出すこと。 イノベーションのジレンマ:大企業におけるイノベーションにおいて、既存商品の利便性を高める「持続的イノベーション」は得意だが、画期的な新商品を開発する「破壊的イノベーション」は不得意であること。 →ジレンマを打破するためには、**開発チームに資源などの裁量を認める経営層の理解が必要である。** また、破壊的イノベーションは先行利益を得られる期間が短いため、**「持続的」な「破壊的イノベーション」** を行う必要がある。 →1機能に絞らず**多様な機能を試す資源**を経営者が用意することで可能となる。 ### 第3章 学び 「学び」は「成果」に変えられないため、起業やマネジメントの世界では評判が悪い。 しかし、不確実性に対し適切な判断が必要なリーンスタートアップの世界では、**「検証による学び」は大きな効力を発揮する。** 実際に開発した製品に対する**顧客の反応は、その製品に対する紛れもない対外的評価となる。** ニーズに合わなければ誰一人利用してもらえないこともあり得る。 また、顧客と直接話をすることで、なぜそんな反応をするのか、原因を突き止めることができる。 作っても意味のないプロダクトを作ると、無駄になるものが多数生じる。しかし、こうした苦い経験をフィードバックにカイゼンされた検証に移ることで、目標に近づける。 数字という結果が伴わなければ意味がない。検証による学びを生かすことで、数字を素早く上げることができる。初期投資という大胆なゼロのダメージを減らすカギとなる。 虚栄の評価基準と「成功劇場」に頼りたい誘惑に負けず、少しずつ成功に近づく必要がある。 ### 第4章 実験 スタートアップの役割は、戦略を検証する実験を行うことである。 成功例としては、ビジョンは大きく、戦略は小さく始める事があげられる。シンプルで定量的なテストによって、顧客の動きやニーズ、予想外の展開まで、様々な面から定量的な学びが得られた。そこで得た学びを活用して事業を拡げることで、大きな成功につながった。 #### 実験のモデルケースを通じた実験のポイント * **価値仮説(製品が価値を与えるか)と成長仮説(製品がどのように広まり需要が成長していくか)** を実験する。 * 実験対象者は、**アーリーアダプター(製品を最も必要としていると考えられる人々)** に対して行う。 * **コンシェルジュ型MVP**を作り、必要最低限の動作する製品を提供して実験を行う。 * 実験を行うのは「製品」であり、成功すれば広報活動につながる。 * 顧客の苦情は製品が正しい道を進んでいる証拠!極めて高い価値を持つ顧客の意見を生かす! * 成功とは、顧客の問題をどうすれば解決できるかを学ぶこと。 ## 第2部 舵取り ### 第5章 始動 リーンスタートアップは、構築-計測-学習のサイクルを回し、ループに必要な合計所要時間を最小にする。 リーンスタートアップでの作成計画は、まずは仮説を立て、次にそのための計測方法を考え、最後に実際に検証の構築を行う。すなわちループの逆順で行えばよい。 **価値仮説(製品が価値を与えるか)と成長仮説(製品がどのように広まり需要が成長していくか)の検証は、挑戦の「要」である。** 従来型の仮説はアナロジー型(○○が成功したのはAという特性があったからだ。同様に新技術にAという特性があれば成功できる)で、要がどこにあるか分かりづらい。 リーンスタートアップでは、類例(過去の同様な事例)から反例(類例で解決できていない事例)を見出し、「要」となる仮説を明確にする。 スタートアップの成否は、**計画の正しさと誤りを見極め、戦略を状況に順応させられるかに懸かっている。** 大量の広告で成功していると見せかけたり、マルチ商法等短期的な利益が大きかったりと、偽りの成長で「成功劇場」を演じている事業は沢山あるが、最終的には価値を生み出せず破壊しているものばかりである。いかに価値を生むかを従来の会計手法とは異なる「革新会計」で見極める必要がある。 リーン生産方式の源流であるトヨタは、**「現地・現物」主義**であった。必ず自分の目で現地に出向いたり、現物を確かめたりして真実をつかみ、他人の情報を鵜呑みにしない。→**正しい理解は現場でしか得られない!** スタートアップの「現地・現物」主義は、事務所を出て直接情報収集しなければならない。検証の際は、「要」の仮説が現実に即しているか、解決したいという深刻な問題を抱えているかを確認する。 顧客の原型(ターゲットとする顧客)の選定も、従来型のデザイナー完結のものではなく、リーンの仮説検証を用いたリーン・ユーザエクスペリエンスを用いるとよい。 結局のところ、**「評価尺度の実体は人」** である。法人向けの製品開発でも各個人のことを念頭に置くとよい。 ### 第6章 構築・検証 構築・検証にあたっては、**動く最低限の製品:MVP(Minimum Viable Product)を用いる。** 最小限の労力と時間でリーンのサイクルを回し、手早く仮説を検証し、フィードバックを得るためには不可欠である。 アーリーアダプターは、ソリューションが不完全で機能不足でも、製品に興味を持ち購入してもらえる。アーリーアダプターは想像力で機能を補完しており、アントレプレナーは彼らの想像力から生まれるフィードバックを基に、製品を「カイゼン」するのが使命である。 MVPに搭載する機能の複雑さは、ケースバイケースだが、迷ったらシンプルにするのが得策。 (仮説検証を)やらなくても学べるようなことは、どれだけ重要に見えても全て無駄! MVPには様々な手段(動画型、コンシェルジュ型、オズの魔法使い型(裏で人間が処理する)etc...)があるが、いずれもアーリーアダプターの想いを読み取るための大切な一手である。 あらゆる成果物は品質が最重要で、最終成果物のみならず、制作過程から高品質を意識せねばならない。しかし、価値主体となる顧客が不明では、何が品質なのかもわからない。 MVPが低品質と評価されるのは、顧客の気にする属性を学ぶチャンスでもある。むしろ安直なプログラムのほうが、多くフィードバックを得られることもある。 「求める学びに直接貢献しない機能やプロセス、労力はすべて取り除く!」 MVPにおける問題点もある。リリースにより特許の出願期間が始まってしまう可能性がある。また、失敗したときに支援者に説明がしにくい。→革新会計へ ### 第7章 計測 スタートアップの立ち上げ当初は、紙に書かれた「理想」のモデルとしてステークホルダーに認知される。しかし、「現実」はそう上手くいかないのは当然である。 一生懸命やればできるの精神で「理想」を追い続けるのは危険である。**厳しい「現実」を認め、「理想」にいかに近づけるかを考え、アピールすることが重要である。** スタートアップは不確実性が非常に高く、通常の管理会計では正しい現状や進捗を測れない。そこで、不確実性に対応した革新会計を導入するべきである。 #### 革新会計 革新会計では、まず定量的な成長モデルを考え出す。目指すビジョンや検証したい「要」は企業ごとに異なるため、様々なモデルが生まれる。このモデルをもとに実体と比較することで、リーダーの客観的な人事評価が可能となる。 革新会計の機能は、3段階に分かれる。 1. MVPから、会社の現状を示すデータを得る。ここをベースラインとする。MVPから得た現状の検証数値は、ベースラインのみならず、成長モデルにも生かせる。MVPは「学びの中間目標」である。 2. ベースラインをもとに、理想状態へ向けてエンジンのチューニングを進める。少しずつ何回も繰り返して微調整し、成長モデルの原動力を強化する。 3. チューニング結果を基に、事業継続の可否を決断する。理想へと進んでいればそのまま続行、結果が芳しくなければきっぱりと諦め、ピボットを行いベースラインを引き直す。 #### コホート分析 コホート分析とは、総売り上げや総顧客数などの総計・累積値を見るのではなく、新規顧客層の売上高、既存顧客層のリピート率など、互いに独立する層(コホート)別の成績に着目する分析方法である。 #### ファンネル 顧客が行う一連の行動別に、割合を調べる分析手法である。行動の終わりになるほど割合が減っていく。具体例としては、会員登録→ログイン→コンテンツ利用→複数回利用といった具合である。 **☆コホート分析とファンネルを組み合わせて考えることで、問題点がどこにあるかを分析し、ピボットへつなげる。分析を行う事で、今までの思い込みが誤りだと気づき、正しい方向に進むことができる。** #### スタートアップが失敗するケース 革新会計による成長モデルがない場合、将来予測や戦略を立てるのが難しく、低い評価を下されるケースが多い。また、学びの中間目標が無いと、上層部からの意味のない成長計画を押し付けられるケースが発生する。 さらに、コホート分析を行わず、全体ばかりを見て評価基準を誤ってしまうと、マネージャーは「成功劇場」にはまりやすい。すると、革新会計もうまく機能しなくなる。 **「虚栄の評価基準」にとらわれず、「行動につながる評価基準」で事業の成否を判断するべきである。** #### アジャイル開発の問題点 アジャイル開発は、短期間でサイクルを回し不確実性に対応しやすく、エンジニアとしては効率の良い開発手法である。しかし、この手法に「学習」のプロセスが入ると、生産性が落ちる可能性がある。「開発」の最適化と、「プロジェクト全体」の最適化は相反する。 また、評価基準が「虚栄の評価基準」である場合、成功の尺度や重視すべき順番などの判断がしづらくなる。 #### 解決策 * コホート分析を取り入れ、「行動につながる評価基準」に変える。 * スプリットテスト(ユーザを2グループに分け、片方のグループに更新前の製品を、もう片方に更新後の製品を使ってもらう。両者を比較し、想定した効果が出るかを判断する。)を取り入れ、効率の良い学習法を取り入れる。→顧客の望みが何かが分かってくる。→顧客のための開発ができる。 * カンバンを応用し、ユーザーストーリーは検証による学びが得られて初めて完了とする。→仮説検証はエンジニア以外の視点を必要とするため手間取るが、この時点で必要な機能かどうかがハッキリするため、長期的に見ると、ユーザーの望みを過不足のなく反映した高品質な製品の完成につながる。 #### 3つの「しやすさ」の価値 * 行動しやすさ 正しい評価基準で価値を捉え、客観的評価を明確化する。 * わかりやすさ 専門用語は、非専門の人でもわかるように説明する。コホート型分析を取り入れたり、報告書もシステムの一つとしたりして、分かりやすい工夫をする。 * チェックしやすさ 社員が信じられるデータにする。(顧客と話したデータを残す) ### 第8章 方向転換(あるいは辛抱) どのようなスタートアップでも、ピボットをするか否かの岐路に立たされることがある。期待していた成長を描けなかった場合や、虚栄の評価基準に溺れてしまった場合、肝になる仮説があいまいであった場合等である。 ピボットを実行するには勇気が必要だが、士気が下がったり否定されたりする恐れから顔を背けず、誤った仮説を捨て、正しい仮説検証のベースラインを引き直せなければならない。 失敗に気づくのが早ければ早いほど、正しい道を進むことができる。 ピボットを体系的に行うには、定期的にピボットを行うか否かを検討する会議を開くのが良い。 ピボットには様々なタイプがある。 製品やビジネスモデル、成長のエンジンについて根本的な仮説を新しく立て直し、検証するための行動を戦略的に行えるかが重要となる。 ## 第3部 スピードアップ ### 第9章 バッチサイズ #### バッチサイズとは バッチサイズとは、ある段階から次の段階に進むまでの作業量を表す。バッチサイズが小さいほど、作業は効率的となる。 (例)ある作業を1から4までの工程で100回実行する時、工程1×100回分(バッチサイズ100)を4工程実行するよりも、工程1~4×1回分(バッチサイズ1)を100回実施するほうが効率的である。 バッチサイズの小ささは、品質の問題点を早期に解決できるメリットをもたらす。 (例)工程1終了後に、仕上がり(サイズ等)に誤りがあった場合、バッチサイズ100だと全てやり直しとなり手戻りは非常に大きいが、バッチサイズ1だと1回分のミスで修正できるため、手戻りが最小化できるメリットがある。 リーン開発の源流であるトヨタでは、「アンドン」と呼ばれる、製造ラインで欠陥等が見つかった場合、どの工程の誰でも即座にラインをストップできる仕組みを作り、早期の修正メリットを生かしている。 ☆アジャイル開発も、ウォーターフォール型よりもバッチサイズが小さく、こまめにフィードバックが入ることで変更に素早く対応できる。 #### リーンスタートアップにおけるバッチサイズ縮小~継続的デプロイメント~ 継続的デプロイメントとは、機能を集めてリリースするのではなく1機能に絞って開発し、直ちにリリースを行い、顧客のフィードバックを得る方法である。その機能は顧客が必要としているか、機能に誤りは無いか等の検証結果を短期間で学び、カイゼンに繋げることができる。また、アンドンのように、誤りや欠陥が見つかれば即座にメンバーに通知され、原因となったチームは問題が解決するまで変更禁止といった、意図しない変更を加えられないための仕組みづくりも必要である。 逆に、機能を沢山搭載してリリースを試みるバッチサイズの大きいプロジェクトは、従来型のマネジメントを支持する人に多く支持されている。これは、経済成長が著しかった大量生産時代の考え方である。製品開発はバッチに物理的な上限が無く、バッチをひたすらに大きくしがちである。これを巨大バッチ死のスパイラルという。現代に適合した継続的デプロイメントの考え方をマネージャーが採用せず、バッチサイズ大きいものを押し付けると、様々な部分で問題が生じ、プロジェクトが立ち行かなくなる。 #### プルの考え方 トヨタの場合、販売店で1つ在庫が消費されると、自動的に倉庫に発注がかかり在庫が消費されることで、さらに部品メーカーにも発注がかかる。 このように、在庫が消費されると、販売店→倉庫→部品メーカー…と順を追って1部品ずつ発注がかかる仕組みをプルという。 大量発注と比べて在庫を大幅に削減できるほか、需要がない場合に廃棄となる心配もない。 リーンスタートアップでは、直接応用はできない。顧客の望みが分からない場合が多く、仮説検証を必要とするためである。 そこで、フィードバックループの逆順での計画順序に基づき「顧客に関する仮説」を立てることをプル信号として、計測→構築が動いていく仕組みでなければならない。 ### 第10章 成長 #### 成長のエンジン 成長のエンジンとは、スタートアップが**持続的に成長**とするために必要なメカニズムである。 持続的な成長とは、**「過去の顧客の行動が、新しい顧客を呼び込む」** 流れをもたらすことである。そのためには、口コミや製品効果、有料広告、リピート購入等の「燃料」で、成長のエンジンであるフィードバックループを動かす必要がある。 #### 3つの成長のエンジン 全てフィードバックループが原動力である。 1. 粘着型成長エンジン 顧客が魅力を感じ、長期にわたって継続的に利用してもらえることを原動力とする。データベースベンダーやマニアご用達のショッピングサイトなど。 成長速度→自然成長率 - 離反率の複利。離反率が小さいと凄まじい成長となるが、離反率が成長率と同等だと伸び悩む。定着率を上げる戦略が重要となる。 2. ウイルス型成長エンジン ウイルスの伝達と同じように、製品を利用するだけで自然と顧客が増えるような工夫を原動力とする。製品宣伝リンクが付与されたメールや、ホームパーティーで製品を売ると収益が得られる仕組みなど。 成長速度→ウイルス係数(新規顧客1人当たり何人の新規顧客を獲得したか)。係数が大きいほどウイルス型ループの回転速度が高まり、急速に伝達する。 収入は広告収入であることが多く、価値仮説の検証が非常に難しい。金銭的な価値交換は成長の原動力にはならないが、広告主に対する製品価値を生み出す。 3. 支出型成長エンジン 顧客が企業に直接支払う支出を原動力とする。重要な指標は2つで、顧客の生涯価値(生涯顧客が企業に支払ってくれるであろう価値)と、顧客獲得単価(顧客を1人生み出すためのコスト)である。生涯価値はできるだけ高く、顧客獲得単価はできるだけ低く抑えることを目指す必要がある。 成長速度→顧客の生涯価値 - 顧客獲得単価。成長のカギは、一部の顧客から他社より大きな利益を引き出せるかである。 成長は生涯価値で測るため、広告など単発的な収入増は成長には無意味である。 #### 製品と市場のフィット 成長のエンジンが製品と市場のフィットを決める。フィットとは、自社製品に共感する顧客を十分に見つけた瞬間のことである。 成長の指標は定量的なので、製品と市場のフィットが実現できるか否かを判断できる。 ### 第11章 順応 #### 順応性の高い組織 順応性の高い組織とは、絶えず変化する状況に合わせて、プロセスとパフォーマンスを自動的に調整することである。 * MVPはできるだけ早く顧客に届ける。 * 顧客からの学びに必要な範囲を超える作業は無駄である。 * 仮説検証のサイクルは止まることなく続ける必要がある。 こうした品質の維持や・設計・インフラ等について手を抜くと、後日、作業がスローダウンする可能性がある。 #### 「5回のなぜ」 問題に直面した時、「なぜ」の問いを「5回」くらい繰り返すことで、真の原因を突き止めることができる。 技術的な要因であっても、突き詰めればいずれ人為的な失敗にたどり着くことが多い。 失敗のフィードバックを経て、極端すぎない適切な「比例投資」を行い、再発を防ぐ。 表面的な無駄をなくす作業を通じ、協力して働くとはどういうことなのかをチームに浸透させることができる。 #### 「5回のだれ」 「5回のだれ」は、「5回のなぜ」を行う際、陥りやすい失敗の一つである。 原因究明よりも、原因の責任が誰にあるのかを追及してしまう。原因をハッキリさせるどころか、チームの信頼関係が悪化してしまう。 #### 「5回のなぜ」を成功させるには * 人間ではなく、プロセスの欠陥が原因でトラブルが起きている事実を客観視するためとメンバーに認識させる。 * 初回のミスには寛大に接する。同じミスを繰り返さないように指導する。 * 関係者が互いを信頼し、任せる環境を整える必要がある。→心理的安全性を高める。 * 「なぜ」による学びの責任者を、分野ごとに置く。 * 範囲は小さく限定的に始めるとよい。 * 関係者の全員参加は必須である。 * 古い問題ではなく、新たに生まれた問題にのみ適用する。 ### 第12章 イノベーション 会社は成長して終わりではない。既存製品を継続的に保守・改良しつつ、新たな破壊的イノベーションに挑戦しなければならない。 #### 3つの特質 イノベーションには、以下の3つの組織的特質が必要である。 * 少なくても確実に資源が用意されている。 予算は多すぎても少なすぎてもダメ。途中で予算が変更されるのもよろしくない。絶対確実な用意が必要である。 * 事業を行う権限を保有する。 スタートアップチームに対し、自由に開発やマーケティング等を行う裁量権が与えられる必要がある。 また、業務の受け渡しや承認はスローダウンの原因になる。チームのサイズは小さく。 * 成果の個人的利害がかかっている。 成果には、金銭的インセンティブを与えることや、誰がイノベーターなのかを明確にすることが必要である。 明確なインセンティブが無いと、経営幹部に忖度するチームになってしまう。 #### 親組織を守りながら、イノベーションを成功させる 大企業など、既存の体力のある企業では、社内スタートアップのイノベーションは各部門間で合理的な恐れによる反発を招くことが多い。 こうした部門間での不信感や裏切りを感じてしまう場合、イノベーションにつながる文化を再創造し、維持する必要がある。 * サンドボックス環境で、自由にイノベーションチームが動けるようにする。→サンドボックスはチームと親組織の両方を守る仕組み。 * 実験期間、実験対象の顧客に上限を設定する。 * チームを部門横断的にするリーダーを置く。 #### マネジメントポートフォリオの醸成 企業は4種類のマネジメントをしなければならない。 1. 製品開発 2. スケールアップ 3. 生産ラインの拡充、段階的グレードアップなど 4. アウトソーシング・自動化によるコスト削減 企業は4つのマネジメントを同時に行わなければならず、成長や最適化に才能という人的資源を奪われるケースが多い。 そこで、4種類それぞれに異なるマネジメントを行い、それぞれの領域で部門横断的なチームが生まれるようにすればいい。 製品が次の段階に進むときに、チーム間で役割をバトンタッチする。 #### アウトサイダーから体制派への転換 アウトサイダーでの活躍が認められ体制派へと移行すると、自分のアイデアの拡大と、寄せられるカイゼン提案を検討する必要がある。 チームの生産性について、その定義を機能的な卓越性から、検証による学びに変換すると問題が発生する。 そこで、機能横断的に仕事をして、検証による学びを得るチームにすることを試みる。 ### 第13章 エピローグ-無駄にするな #### テイラーの訴え テイラーは「科学的管理法」にて、次のように訴えた。 * 形があるものは無駄を見たり感じたりできるが、形のないものは見たり感じたりできる痕跡を残さない。 * 形ないものは日々の記憶・作用の努力が必要になる。 * 世界の進化には古いアプローチでは対応しきれず、経営幹部の責任にされることも多い。この苦境に立ち向かうのがリーンスタートアップである。 * 将来的には、正しく生まれて正しく訓練された人のみがリーダーになるべきである。 #### 見失われた科学的管理 テイラーの科学的管理法は、すぐに忘れ去られてしまい、ボーナスや職長制などでの生産性改善があまりにも大きく、見過ごされてきた。 アントレプレナー達は、自身のビジョンに都合のよいデータを選んで成功劇場に酔うチームが多すぎる。因果関係が不明な「ニセ科学」に踊らされないよう、検証による学びへと変革すべきである。 テイラーが生きていた時代のものの味方は、今となっては偏見ばかりだが、リーンスタートアップも将来は偏見ばかりとみられるかもしれない… #### 新たな研究プログラム リーンスタートアップ普及のための提案↓ * スタートアップ試験ラボ * 大学とアントレプレナーコミュニティとの提携 * 長期株式取引所の設立(革新会計の普及) ###### tags: `読書`