# リーン顧客開発(1章~4章) ## 1章 なぜ顧客開発が必要なのか ### 1.1, 1.2 顧客開発とは何か 顧客開発とは、ビジネスが成立する大前提である「顧客」について、仮説検証を繰り返すアプローチである。 * 顧客は誰か。 * 顧客の問題やニーズは何か。 * 顧客の現在の行動は何か。 * 顧客が進んで購入するソリューションは何か * 顧客の意思決定、調達、購入、使用に合わせたソリューションの提供方法は何か。 こうした仮説に対して徹底検証する。 ### 1.3 リーン顧客開発とは何か。 リーン顧客開発は、実用的で手軽な使いやすい=リーンな顧客開発である。 以下の5ステップで行われる。 1. 仮説を立てる。 2. 潜在的な顧客イメージを明確化する。 3. 適切に質問する。 4. 受け取った答えを正しく解釈する。 5. 製品の仕様を明確化し、学びを取り込み続ける。 ### 1.4 顧客開発と誤解されるもの * スタートアップだけのもの?:顧客開発はスタートアップのみならず、既存の企業でも役立つ。 * 顧客開発=製品開発?:製品開発→顧客はいつ買えるのか。 顧客開発→顧客はそもそも買うか。顧客開発は製品開発を顧客面で補完する独立した活動である。 * 顧客開発=プロダクトマネジメント?:プロダクトマネージャーは、バックログ重要度の優先順位などをつける大事な役割が残る。一方で、顧客開発は製品ビジョンは作らない。立てた仮説や、顧客ニーズを深く理解するためのコミットメントを求める。 * 顧客開発=ユーザーリサーチ?:誰のための仕事かが異なる。ユーザーリサーチはユーザーのための仕事。一方で顧客開発は持続可能なビジネスを行えるようにする、会社のための仕事。 ### 1.5 なぜ顧客開発をするのか ビジネスで失敗しないため。スタートアップの75%は失敗し、4〜9割のプロダクトは陽の目すら見ない。 Mycrosoftですら成功確率は1/3であり、どの企業も5割を超えることはない。 なぜなら、自分の直感や創造性などの能力を過信し、成功すると思い込んでいるからである。 その成功確率を高めるためのツールの一つが顧客開発である。 ### 1.6 成功確率を高めるには * フィードバックループ(アイデア→構築→製品→計測→データ→学習→・・・):リーン・スタートアップでエリック・リースが描いたループ。 * ThinkーMakeーCheckサイクル:考える→作り→確認する→・・・):ジャニス・フレイザーが描いたサイクル。顧客開発はThinkフェーズにあたる。もっとも費用のかからないフェーズにいる間に、繰り返し探索ができる。 #### 顧客開発のメリット * 顧客や競合(企業・製品・習慣・ルーチンetc...)をはっきりとイメージできる。 * 差別化の新たな機会を見つけやすくなる。 * 開発しなければならない量を減らせる。 * MVPの量を小さくできる。→予想していた機能のうち、本当に必要な機能の数が少ない、あるいは想定外の機能が見つかるといったメリットがある。 #### 認知バイアスと確証バイアス 人間は生まれつき強い認知バイアスを持っていて、自分の都合の良いように解釈してしまう。また、確証バイアスによって、顧客からの意見をさも自分の考えをサポートするものとして解釈してしまう。こうしたバイアスに振り回されると、大きな失敗を生んでしまう。 自分の思い込みと顧客からのフィードバックを客観的に分けて書き出せば、矛盾や誤りにも気づきやすくなる。 ## 2章 どこから始めるべきか ### 3つの演習 #### 2.1 仮説を明確化する。 顧客・製品・パートナーについての想定を素早く書き出す。(制限時間10分) 具体例:課題、課題解決のための顧客の投資額、ステークホルダー、パートナー、必要リソース、流通パートナー、リソース、既存の代替品、製品の価値、顧客のテクノロジー力の有無、顧客の変化への対応、開発期間の概算見積もり。市場占有率の目標値など その他:ビジネスモデルキャンバスなど。 #### 2.2 課題仮説を明確に記述する。 * [顧客像]は、[タスクを]をするとき、[調査の内容]という課題がある。 * [顧客像]は、[制限・制約]のために[課題]を体験している。 4W1Hを意識すると良い。また、すでに製品がある時には、そこに遡って仮説を立てられる。 曖昧だと仮説で誤りを絞ることが難しくなるため、はっきりと絞っておく。 #### 2.3 顧客プロフィールをマッピングする。 * 顧客は何か。 * 誰が課題を掲げているか。 この相反する2つの概念に対し * 抱える議題に関連しているか。 * 関連している場合、顧客はこの特性の中のどこに配置できるか。 の質問をぶつけてみるとより深まる。 ##### 対極的な気持ちの動向一覧 * 節約重視⇄時間重視 * ノーサプライズを好む⇄新しいことを試そうとする * 指示に従う⇄意思決定を行う * 健康重視⇄味覚重視 * 他人の考えを気にする⇄自分で決断する * テクノロジーに弱い⇄強い * 物持ちが悪い⇄良い * 変わらないことを望む⇄変化を楽しむ * 企業文化が保守的⇄進歩的 * リスクに回避的⇄積極的 * 価値の安定性⇄復元性 * すぐに使えるソリューション⇄カスタマイズしたソリューション #### 顧客と話す作業のメリット インタビュー後、想定との差が根拠を持って比較できる。 ## 3章 誰と話をすべきか ### 3.1 顧客の見つけ方 * メディアでの宣伝 * セールスピッチ、デモ、サンプル配布 * 想定顧客に直接商品を見せる。 * 補助的な製品と抱き合わせて販売する。 * ウェブサイトを作り、サイトに流れてくるチャネルを特定する。 ### 3.2 エバンジェリストユーザの重要性 熱心で情熱的で、課題を解決したいを強く思っている人を探す。 未完成の製品をリスク承知で積極的に使う人を「エバンジェリストユーザ」という。 アーリーアダプターはどのようなものであっても意欲的に使うため、仮説検証には向かない。 顧客が負担を感じているとしたら、それはエバンジェリストユーザとは言えない。 ### 3.3 人を動機づける3つのこと 仮説検証に付き合ってくれる人は、意外にも多い。なぜか? 1. 他者を助け、役立つことに幸せを感じるため。 2. 他者から賢いと思われたいため。 3. 物事をより良いものにしたいため。:物事を解決しようとすると、目的意識が生まれる。→苦痛や苦情を言うことで、かえってカイゼン策を提示しやすい雰囲気となることもある。 ### 3.4 どのように顧客を見つける? #### 3.4.1 身近な人に紹介してもらう 〇〇な友人を紹介してもらえませんか? 誰かの紹介を依頼すること自体が、相手のプライドをくすぐり、嬉しく感じてもらいやすい。 しかし同時に警戒もされるため、こちらが求めていることを明確にしなければならない。そして、友人側とのコミットメントや、プライバシーへの配慮等を怠らないこと。 電子メールでの依頼が最も良く、テーマ、インタビューの価値、転送のお願い、助けてもらえることのありがたみ、所要時間や内容、プライバシーの保証などを明記する。一斉送信はスパム扱いになる可能性が高いため避ける。 #### 3.4.2 インターネットで呼びかける * LinkedIn LinkedInは、肩書を持った人を探す人材検索サービスである。 特定の肩書を持った人を容易に探し当てられるため、顧客を絞りやすい。 * Quora Quoraは、消費者/企業向け製品のユーザを見つけるためのツールである。 コミュニティをの質を重視しているため、コミュニティに貢献しておく必要はあるが、そこから見返りも得やすい。 * その他オンラインツール * オンラインコミュニティ * ブログの投稿 * Twitter なお、Craigslistは怪しい情報が多いため避ける。 * ランディングページ ランディングページを作成すれば、トラフィックを誘導できる。 但し、近年は価格が高騰しており、コストがかかる。 ### 3.5 どのようにインタビューを実施すべきか * 顧客の自宅やオフィスを訪問する:最も直接的かつシンプルなアプローチ。顧客が置かれている状況をそのまま観察でき、信頼性が最も高い。但し、プライバシー等の問題があり調整は困難。(適する場面)既存製品の顧客や、物理的環境が課題である場合など。 * 中立的な場所での対面インタビュー:公共の場所でインタビューを行う。相手の身振り手振りなどが観察でき、親密な関係を築きやすい。但し、場所は適切な場所を選ぶ必要があり、雑音・風などでメモが取りにくい場合がある。(適する場面)連続した複数人へのインタビュー * 電話インタビュー:電話をかけてインタビューを行う。手短に実施でき、短時間で多くを学べるためコスパが高い。また、メモも取りやすく、移動時間もかからない。但し、直接的な振る舞いは確認できない。(適する場面)相手が多忙や遠隔地にいる場合や、短時間でこなしたい場合。 * ビデオチャット:電話インタビューのデメリットである直接的な振る舞いが確認できるメリットがある。また、画面共有ができるためPC画面を出しながらのインタビューも可能。但し、チャットを使える環境が必要。(適する場面) * インスタントメッセージ:テキストメッセージを用いたインタビュー。文面では適切なコミュニケーションが取れない場合が多いため避けた方が良い。 ### 3.6 フォローアップ インタビューの依頼メッセージには、具体的なスケジュールは記さない。長ったらしいメールは見られない可能性が高いため簡潔にする。返信が来た後に具体的なスケジュールを示すようにする。特にモバイル端末の場合、スクロールしないと重要事項がわからないようではアウト。見開きで訴えられる程度にシンプルに。 #### スケジューリング * 電話インタビューの場合、3~4つのインタビュー時間の候補を設定しておく。その際同じ日や同じ週にならないように配慮する。 * 対面インタビューの場合、同様に候補を設定する以外に、双方がアクセスしやすい場所を選定する。日時指定後に、改めて携帯番号が書かれたメールを送ると良い。 * インタビューは準備時間や、頂いたフィードバックをまとめる時間も大切。インタビューを詰め詰めに入れるのではなく、間隔を開けるようにする。また、前後のインタビューやその他の予定が定刻に終わるとは限らない。最低30分〜最大45分までインタビューできるよう、前後の間隔を開ける。連続の場合は休憩時間もとること。 ### 3.7 トラブルシューティング * 誰も反応してくれなかったら?:メールの場合、数日はそのまま待ってみる。その後再度依頼メールを送る。ここで帰ってこなければ見切りをつけるのが吉。メールの文面見直しなどの改善の余地がある場合も。ただし、それでも帰ってこなければ仮説自体が正しくない可能性がある。 * インタビューをドタキャンされたら?:約5〜10%はインタビューにこない。それも踏まえた日程を立てるべし。1〜2日待ってリスケジュールメールを送るのも良い。 ## 4章 何を学習すべきか ### 4.1 顧客開発の基本的質問 * 現在は○○をどのような方法で行っていますか。(代替手段の把握) * ○○を行うときに、どのような[ツール・製品・アプリ・裏技etc...]を使っていますか。(代替手段の詳細の把握) * もしも魔法が使えたら(できないことができたら)何をしますか。(顧客の期待の把握) * 前回○○を行ったとき、その直前には何をしていましたか。終了後には何をしていましたか。(前後のユーザーストーリーの把握) * ○○について、他に私が尋ねるべきものはありますか。(確認と思い出しを促す) 以上の最低5つの質問を行う。Yes/Noではなくオープンエンド型の質問をする。話を深める第2の質問を行う。 * その手順について具体的に教えてくれませんか? * その決定は誰かに影響されましたか? * 前回○○した時、どれくらいの時間がかかりましたか。 * ○○はどこで購入しましたか。 * なぜその製品をそこで購入したのですか。 ### 4.2 顧客は自分たちが何を欲しがっているのかを知らない 製品開発でよく陥る失敗が、「間違ったものを正しくつくった」結果、顧客に全く必要とされず自滅するパターンである。 顧客の話すことを誤った課題として理解し、仮説検証にフィードバックしてしまうと、誰も必要としない「間違ったもの」を作る羽目になる。 フィードバックを得ながら開発したのに売れない原因は、以下に挙げる「話しづらい理由」を顧客が話したがらないためである。 * 顧客は**文化的・時間的・物理的な制約**を自発的に話そうとはしない。:制約は**前提条件化**しているため、顧客が意識しにくい。 * 顧客が**過去に失敗した経験**を話そうとはしない。:人は最近の出来事に注意を向ける傾向がある。過去の黒歴史をわざわざ話そうとする人はいない。 * 顧客が感じている**自らの能力の程度やその限界**を話そうとはしない。:不得手なスキルやプロセスをわざわざ話そうとする人はいない。 * ツールやプロセスに詳しくても、**仕組みまで理解している人**は少ない。:どれだけ手慣れたユーザであっても、その処理手順まで理解するような人はまれである。 * 何が欲しいかは分からないけれど、**必要としているものは隠せない。**:「何が必要か」はインタビューで引き出せる。正直に語れるような雰囲気作りが大事である。 #### 顧客の目線で考える 顧客を理解した製品を作るためには、**顧客サイドからの視点を取り入れる**必要がある。 (例)ミルクセーキに対し「どんな仕事をさせるために雇ったか」という質問により、**顧客は購入したWhyを答えやすくなった。** 製品に向いていた視点を製品を購入する理由にシフトした(**視野を広げた**)結果、成功したのである。 **課題は開発サイドが考えるものとは違うことが多い。** ### 4.3 何を聞くべきか #### 4.3.1 顧客の今日(現状)の行動はどのようなものか(ユーザーストーリーの把握) * 顧客が今何ができるか。 * 現在どのような行動に慣れ親しんでいるか。(理由も) * どのような意思決定をしているか。 #### 4.3.2 顧客の行動や選択肢に影響を与える制約 * 課題が課題と認識されていない。(機能的固定性:最適なものよりも、自分が精通しているタスクやプロセスばかりに目が行きがち。)また、頭の中でプロセスを簡略化しがち。 * 技術的に可能かどうかの認識の欠如。 * リソースが限られている。 * 行動を制限する文化的・社会的期待。(上司に意見するのをためらう。製品を肯定する→自己否定につながる。等) #### 4.3.3 顧客のフラストレーションorモチベーションを高めるもの * 製品の分かりにくさ(フラストレーション) * 目的に合致した満足のいく説明(モチベーション) #### 4.3.4 顧客はどのように意思決定し、お金を使い、製品に価値を求めているか * 見えないステークホルダーの存在(配偶者、子供、社会的集団、支払い権限者、エンジニアリングチームや弁護士などの関係者、コンプライアンス責任者等) #### インタビューしないはあり? 基本的に必須であるが、顧客・製品が既にあり、迅速にリリースし変更を評価できるインフラがあれば必要ない場合もある。 但し、一度のピボットで全てが解決するわけではない。最適化を何度も繰り返すことで、長期的な効果を実感することができるのである。 #### 質問のポイント * **抽象化のレベルを一つ上げる。**:課題を一段階広く捉えることで、顧客の発言を制約しないことが重要である。 * **現在の行動をベースに考える。**:顧客が新しい行動に適応することを想定するのではなく、顧客が現在取っている行動に即してソリューションを考えていく。 * **結果ではなく手順に注目する。**:行動の結果は、環境や能力などの制約が前提となる。したがって、手順を質問することでどのように物事を捉えているかが明確になる。 * **基本的な言葉の前提を確認する。**:「わたしたち」のように、「いつ」「誰と」「なぜ」がはっきりしない相手の言葉には、詳細を聞き返すようにする。 * **将来ではなく現在に注目する。**:将来の行動は人によってさまざまで不正確。現実あるいは直近の過去に着目する。 * **一般的部分化技法を用いる。**:各オブジェクトを分解し、「これ以上分解できないか」「その説明は特定の用途を示しているか」の2種類の質問を投げかけ、より一般的な用途になるよう分解する。 * **課題がどれほど顧客に痛手を伴っているかを掘り下げる。**:顧客が気づいていない課題を提示し、どれだけ痛手を伴っているかを認識してもらう。 * **魔法が使える想像をしてもらい、現実的制約を無くす。**:顧客が現実的な考えに縛られないよう、「魔法を使う」ことで自由な想像をしてもらう。 * **どうしたら満足してくれるかを考える。**:顧客からの質問に適切に解答できるだけでなく、顧客の目的を捉え、満足のいくような説明を行わなければならない。 * **課題を共有している人はいるかを尋ねる。**:見えないステークホルダーのつながりを理解できるようにする。 * **客観的な質問を投げかけて、主観的な答えを引き出す。**:直接主観的な回答を求めると、失礼なだけでなく背景事情が掴みにくい。客観的な質問から入って掘り下げることで、相手の抵抗感無く背景事情まで知ることができる。 * **特性尺度を作ってみる。**:2章で紹介した正反対の特性を両端に置いて位置を図る特性尺度を自ら考えて置くことで、インタビューの手掛かりになる。 ###### tags: `読書`
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