# 400行でわかる政治の全て --- ## 要旨(Abstract) 本稿は、社会的・政治的遷移を状態集合と到達可能性の写像のみから定式化し、「Open / Close / Limbo」を価値判断ではなく遷移型として定義する最小公理系を与える。 その上で、Open–Close–Limbo の循環構造は不可逆性と有限処理能力から必然的に生じ、いかなる操作によっても停止できないことを不可能性定理として示す。一方で、同一の公理系の下で、循環を維持したまま Limbo の品質のみを改善し続ける写像が存在することを存在定理として与える。 これにより、「循環は不変であるが、Limbo は可変である」という構造的分離が示される。 ## Disclaimer 本稿が提示する Open / Close / Limbo の定義は、社会構成員のFuture Coneに対する操作ポリシーの変遷を予測したりその良し悪しを評価するものではなく、純粋構造から導かれる状態遷移の幾何学的・集合論的特性を記述するものである。個別の政治的・経済的営為がどのように $FC(s)$ を操作するかという実装上の精緻化は、本最小公理系を継承する具体的な下位モデル(経済系・法体系モデル等)に委ねる。本稿では、集合の内容、操作の「動機」や「手段」をブラックボックス化し、遷移型そのものが持つ構造的必然性の導出を優先する。 --- ## 1. 基本構造 ### 定義 1(状態集合) 可能な世界状態の集合を $$ S $$ とする。 --- ### 定義 2(遷移関係) 状態間の遷移関係を $$ \to ;\subseteq; S \times S $$ とする。 --- ### 定義 3(到達可能性) 状態 $s,s' \in S$ に対し、 $$ s \Rightarrow s' $$ を、「$s$ から有限回の遷移によって $s'$ に到達可能である」ことと定義する。 $\Rightarrow$ は $\to$ の推移閉包である。 --- ### 定義 4(フューチャーコーン) 状態 $s \in S$ のフューチャーコーンを $$ FC(s) := {, s' \in S \mid s \Rightarrow s' ,} $$ と定義する。 --- ## 2. 不可逆性公理 ### 定義 5(状態更新) 状態更新を表す写像を $$ u : S \to S $$ とする。 --- ### 公理 1(到達可能性の単調縮小) 任意の $s \in S$ に対し、 $$ FC(u(s)) \subseteq FC(s) $$ が成立する。 --- ## 3. 主体と主権 ### 定義 6(主体集合) 行為主体の集合を $$ A $$ とする。 --- ### 定義 7(主権写像) 各状態において実効的に遷移を制御する主体を与える写像を $$ \sigma : S \to A $$ と定義する。 --- ## 4. Open / Close / Limbo ### 定義 8(Close) 状態遷移 $s \to s'$ が **Close** であるとは、 $$ FC(s') \subsetneq FC(s) $$ が成立する場合をいう。 --- ### 定義 9(Open) 状態遷移 $s \to s'$ が **Open** であるとは、 同時点で可能な任意の Close 遷移 $s \to t$ に対して $$ FC(s') \supseteq FC(t) $$ が成立する場合をいう。 --- ### 定義 10(Limbo) 状態遷移 $s \to s'$ が **Limbo** であるとは、 $$ \sigma(s') \neq \sigma(s) $$ が成立する場合をいう。 --- ## 5. Limbo 候補と不可逆切り捨て ### 定義 11(Limbo 候補集合) 状態 $s \in S$ における Limbo 候補の集合を $$ \mathrm{Sw}(s) := {, s' \in FC(s) \mid \sigma(s') \neq \sigma(s) ,} $$ と定義する。 --- ### 定義 12(不可逆切り捨て集合) Limbo 遷移 $s \to s'$ によって到達不能となる状態の集合を $$ D(s \to s') := FC(s) \setminus FC(s') $$ と定義する。 --- ## 6. Limbo 品質 ### 定義 13(Limbo 品質) $s' \in \mathrm{Sw}(s)$ に対し、その Limbo 品質を $$ Q_s(s') := \bigl(\Delta E(s \to s'),; |FC(s)| - |FC(s')|,; |D(s \to s')|\bigr) $$ と定義する。 品質の比較は成分ごとの大小による半順序 $\preceq$ で行う。 --- ## 7. 平和状態と多様性 ### 定義 14(平和状態) 状態 $s \in S$ が平和状態であるとは、 1. 主権写像が局所的に一定である $$ \exists a^\star \in A ;\text{s.t.}; \sigma(s)=a^\star $$ 2. 近傍遷移において不可逆切り捨てが発生しない ことをいう。 --- ### 定義 15(社会的処理容量) 社会が同時に扱える到達可能性の最大数を $$ C_{\max} \in \mathbb{N} $$ とする。 --- ## 8. 循環の必然性 ### 定理 1(多様性過負荷定理) Open 的遷移が継続し、 $$ |FC(s)| > C_{\max} $$ となるとき、Close 型遷移が必然的に発生する。 #### 証明 処理容量を超える到達可能性は調整コストを増大させる。 エネルギー効率の観点から $FC$ を縮小する遷移が選好される。 これは Close の定義そのものである。∎ --- ### 定理 2(Close 信任崩壊定理) Close 型遷移が継続し、不可逆切り捨てが累積するとき、 Limbo が必然的に発生する。 #### 証明 不可逆切り捨ての累積は、現在の主権主体の継続的制御を不可能にする。 よって $\sigma$ の像が変化する遷移が生じる。∎ --- ### 定理 3(平和回復定理) Limbo 後には局所的に平和状態が成立する。 #### 証明 主権主体が切り替わった直後、不可逆切り捨ては一時的に停止する。 定義14を満たす。∎ --- ### 定理 4(循環不可停止定理) Open–Close–Limbo の循環を有限回で停止させる写像 $$ J : S \to S $$ は存在しない。 #### 証明 循環を停止するには Open, Close, Limbo のいずれかを恒久的に排除する必要がある。 Open の排除は多様性過負荷を防げず、Close が再発する。 Close の排除は Open による多様性拡大を止められない。 Limbo の排除は主権写像の定数化を意味し、遷移系自体が定義不能となる。 いずれも矛盾。∎ --- ## 9. Limbo 改善 ### 定義 16(Limbo 改善作用) 写像 $$ I : S \to S $$ が Limbo 改善作用であるとは、 $$ \forall s \in S,; \exists s^\star \in \mathrm{Sw}(I(s)) ;\text{s.t.}; Q_{I(s)}(s^\star) \preceq Q_s(t) \quad(\forall t \in \mathrm{Sw}(s)) $$ が成立することをいう。 --- ### 定理 5(Limbo 改善存在定理) 循環不可停止定理の条件の下で、 Limbo 改善作用 $I$ は存在する。 #### 証明 Limbo は必然的に発生する(定理4)。 Limbo が必然である以上、その候補集合 $\mathrm{Sw}(s)$ に対し、 不可逆切り捨てを事前に分散・緩衝する操作を構成できる。 これにより最良 Limbo の品質は単調改善される。∎ --- ## 10. 主結果 ### 系 1(循環不変・Limbo 可変系) 本稿の公理系の下で、次が成立する: 1. Open–Close–Limbo の循環構造は不変である 2. Limbo は必然的に発生する 3. Limbo の品質は改善可能である すなわち、 > **循環は止められないが、 > Limbo をマシにすることだけはできる。** --- ## 結論 本稿は、歴史的・政治的循環を価値判断から切り離し、 到達可能性と不可逆性のみから説明した。 循環の停止は不可能であるが、Limbo の品質改善は可能であるという分離は、 改革・革命・最適化といった語彙に依存しない最小の行為原理を与える。 それは「正しい社会」を作る理論ではない。 **次の社会への移行を、より破壊的でないものにする理論**である。 --- --- ### 付録 A(AI Alignment的エネルギー主権写像の解釈) #### 定義 A.1(エネルギー主権解釈) 主権写像 $$ \sigma : S \to A $$ を、各状態において**実効的にフューチャーコーン $FC(s)$ の縮小・維持・再配分を制御する主体**を与える写像として解釈する。 この解釈の下で、$\sigma$ を**エネルギー主権写像**と呼ぶ。 > 注:本定義は新たな公理を追加しない。 > 既存の定義7の意味論的精緻化にすぎない。 --- ### 命題 A.1(主権写像の定数化) ある状態 $s^\dagger \in S$ が存在して $$ \forall s \in FC(s^\dagger),\quad \sigma(s) = a^\star $$ が成立するとき、$FC(s^\dagger)$ 上で $\sigma$ は定数関数である。 --- ## 追加する系(目的の統合点) ### 系 2(政治の定義不能性) 主権写像 $\sigma : S \to A$ が、ある状態 $s^\dagger$ のフューチャーコーン上で定数関数となるとき、 $$ \mathrm{Open}(s^\dagger),; \mathrm{Close}(s^\dagger),; \mathrm{Limbo}(s^\dagger) $$ のいずれも定義不能となる。 すなわち、そのような状態以降において、 > **政治的循環そのものが定義不能となる。** --- #### 証明 * Limbo は定義10より $$ \sigma(s') \neq \sigma(s) $$ を要請するが、$\sigma$ が定数であるため不可能。 * Close / Open は、Limbo を含む循環構造(定理4)を前提として定義されており、 Limbo が排除されると循環全体が構成不能となる。 * よって、政治的遷移型そのものが定義域を失う。∎ --- ## 論理的な位置づけ(読者向けの一文) この系は、 * **循環は止められない(定理4)** * **ただし、主権写像が定数化した極限では、循環自体が定義不能になる** という二つの主張が**矛盾しない**ことを示している。 前者は「政治が存在する世界」の内部構造であり、 後者は「政治という概念が消失する境界条件」である。