[cardboard メモ](/C9dhik-YQWWQikd6qxKFeg) > ニュートリノ振動の振動長の単位変換
# ニュートリノ振動の振動長の単位変換
このページは、自然単位系の単位変換に慣れていない人を対象に、ものすごく回りくどい説明を提供することを主たる目的としています。
題材としては、2世代ニュートリノ振動の計算に出てくる謎の $1.27$ がどこからやってくるのかについて、扱いたいと思います。
## 大前提
自然単位系 $c = \hbar = 1$ の次元
Length $[L]$, Mass $[M]$, Time $[T]$
| physical quantity | length | time | velocity | angular momentum | mass | energy |
| -- | -- | -- | -- | -- | -- | -- |
| standard units | $[L]$ | $[T]$ | $[LT^{-1}]$ | $[L^2 M T^{-1}]$ | $[M]$ | $[L^2MT^{-2}]$ |
| natural units | $[M^{-1}]$ | $[M^{-1}]$ | $1$ | $1$ | $[M]$ | $[M]$ |
- 自然単位系では、速度と角運動量の次元は unity (定義)。
- 質量とエネルギー (もっと言えば運動量も) の次元が等しくなる (最重要)。
- **長さと時間の次元は等しく「質量の逆数」である (重要)。**
> <s>この表が正しいことの確認は読者の演習問題としよう。</s>
> $E = mc^2, \ E^2 = \textbf{p}^2 c^2 + m^2 c^4, \ p = \hbar k, \ E = \hbar \omega$ などを使えばいけると思います。
上の 2 つは既にほとんどの方が認識されていると思う。
今回重要になるのは 3 つめ、特に **長さの次元が「質量の逆数」になる** ことだ。
他の物理量も、質量のべき乗の形で書けている点にも注目。
EMAN の物理に分かりやすい解説が載っているので、そちらも参照。
- [自然単位系を採用する - EMANの素粒子論](https://eman-physics.net/elementary/natural_unit.html)
## 目標
自然単位系で $\dfrac{\Delta m^2 L}{4E}$ と書かれるものが、近似的に
$$
\dfrac{1.27 \Delta m^2 L}{E}
$$
と書けることを確かめたい。ここで $\Delta m$ は [eV], $L$ は [km], $E$ は [GeV].
> これは自然単位系でも MKSA 単位系でもない中途半端な単位系。
> 恐らく、理論的には気持ち悪くとも実験的にはこの単位の方が便利なのかも。
## 式変形
単位が明確になるように、書き方を工夫する。
$$
\dfrac{\Delta m^2 L}{4E}
= \frac{1}{4} \left( \frac{\Delta m}{\mathrm{eV}} \right)^2
\left( \frac{L}{\mathrm{eV}^{-1}} \right)
\left( \frac{\mathrm{eV}}{E} \right).
$$
> このような書き方は最初戸惑いそうになるが、PDG や論文でもよく見かける形。
> 慣れてくると気持ちよくなれる。
> 単位はつじつまさえ合えばどう取ってもよいが、今回は $\Delta m$ が eV になって欲しいからこないにした。
> 自然単位系では、長さ $L$ が質量の逆数の次元を持つことに注意。
目標は、
$$
\dfrac{\Delta m^2 L}{4E}
= \mbox{(何か)} \times
\left( \frac{\Delta m}{\mathrm{eV}} \right)^2
\left( \frac{L}{\mathrm{km}} \right)
\left( \frac{\mathrm{GeV}}{E} \right)
$$
の形にすることである。やるべきことを整理すると、
- $E$ の上の $\mathrm{eV}$ を $\mathrm{GeV}$ にする
- $L$ の下の $\mathrm{eV^{-1}}$ を $\mathrm{km}$ にする
$E$ の eV を GeV に変えるのは、$1 \,\mathrm{eV} = 10^{-9} \,\mathrm{GeV}$ を使うだけなので造作ないはずだ。
$$
\dfrac{\Delta m^2 L}{4E}
= \frac{1}{4} \left( \frac{\Delta m}{\mathrm{eV}} \right)^2
\left( \frac{L}{\mathrm{eV}^{-1}} \right)
\left( \frac{10^{-9} \,\mathrm{GeV}}{E} \right).
$$
> ここでちょっとアレ? って思うかもしれない。
> $10^{-9}$ はほんとうに分子でいいのかな。いいんです!!!
問題は $L$ の方である。 $\mathrm{eV}^{-1}$ を $\mathrm{km}$ に直さなければならない。~~ナニソレイミワカンナイ~~ どうしたことか。
そういえば、自然単位系では $\hbar$ も $c$ もともに $1$ という無次元量になるのであった。
つまり、この $\hbar$ と $c$ の組み合わせを、好き勝手に掛けたり割ったりする自由は生まれながらに保証されているのである。極論、 $\dfrac{\Delta m^2 L}{4E}$ を $\hbar c \, \dfrac{\Delta m^2 L}{4E}$ と書こうが $\hbar^{114514} \, c^{810} \dfrac{\Delta m^2 L}{4E}$ と書こうが何も問題はない。実際はそう書いたところで特にメリットがないのでそうしていないだけで。
ところで、貴方方の中には
$$
\hbar c \simeq 197 \, \mathrm{MeV \cdot fm}
$$
という関係を覚えさせられた経験がある人がいるかもしれない。
よく見ると、eV × m の形をしている。これをうまいこと使って単位を変換できないだろうか。
> この $197$ という数字は $\mathrm{MeV}$ と $\mathrm{fm}$ を採用した時の値なだけで、 自然単位系では ($\mathrm{MeV \cdot fm}$ と合わせることで) 当然 $1$ である。
> 何度も繰り返すように、自然単位系では、長さは「質量の逆数」の次元を持つので、$\mathrm{MeV \cdot fm}$ は無次元になって、次元のつじつまが合っていることは分かるはずだ。
>
> $\hbar$ と $c$ それぞれが $\mathrm{eV}$ と $\mathrm{m}$ を使ってどう書けるか考えるのは正直しんどい (し、そんなに重要ではない)。ツン。
> ところが、 $\hbar c$ の組にしてあげると、$\mathrm{eV} \cdot \mathrm{m}$ という比較的簡単な次元になってくれる。デレ。
> そういう意味で、この $\hbar c$ は貴重であるし、(おおよそ $200$ と覚えやすい面もあって) 実用的でもあるので、ひじょ~に重要なファクターなのです。
> <s>そんなかわいいかわいいツンデレ美少女ちゃんのことはちゃんと覚えてあげよう。「にひゃくメガエレクトロンボルト、フェムトメートル」...</s>
今の式と目標の式をにらみ合うと、分母に $\mathrm{eV} \cdot \mathrm{m}$ が来てくれると $L$ の下の $\mathrm{eV}^{-1}$ が $\mathrm{m}$ に変わってくれそうなことに気付くだろうか。なんかいけそうだよね。
今のうちに単位を直しておこう。今の場合、$\mathrm{MeV}$ よりも $\mathrm{eV}$ の方がいいし、$\mathrm{fm}$ よりも $\mathrm{km}$ の方がうれしいよね。メガは $10^6$、フェムトは $10^{-15}$、キロは $10^3$ だから、
$$
\hbar c \simeq 197 \times 10^{-12} \, \mathrm{eV \cdot km}
= 0.197 \times 10^{-9} \, \mathrm{eV \cdot km}
$$
> ここでわざわざ $10^{-9}$ を出してきたのは、さっき $E$ のところで $\mathrm{eV}$ を $\mathrm{GeV}$ に直した時に出てきた $10^{-9}$ とうまいことキャンセルさせるためのもの。先見の明ってやつだ。
よし、善は急げじゃ。分母に $\hbar c$ を掛けてみよう。
\begin{align}
\dfrac{\Delta m^2 L}{4E}
&= \frac{1}{4} \cdot \frac{1}{\hbar c} \cdot
\left( \frac{\Delta m}{\mathrm{eV}} \right)^2
\left( \frac{L}{\mathrm{eV}^{-1}} \right)
\left( \frac{10^{-9} \,\mathrm{GeV}}{E} \right)\\
&\simeq \frac{1}{4} \cdot
\left( \frac{1}{0.197 \times 10^{-9} \, \mathrm{eV \cdot km}} \right) \cdot
\left( \frac{\Delta m}{\mathrm{eV}} \right)^2
\left( \frac{L}{\mathrm{eV}^{-1}} \right)
\left( \frac{10^{-9} \,\mathrm{GeV}}{E} \right)\\
&= \frac{1}{4 \times 0.197} \cdot
\left( \frac{\Delta m}{\mathrm{eV}} \right)^2
\left( \frac{L}{\mathrm{km}} \right)
\left( \frac{\mathrm{GeV}}{E} \right)\\
\end{align}
どうやらうまくいったみたい。
最後に出てきた係数が $\dfrac{1}{4 \times 0.197} = 1.2690 \dots \simeq 1.27$ となって、ちゃんと $1.27$ が出てきてくれる。