# 上古漢語の子音体系(4):歯擦音と唇音の再構・上古漢語音韻体系のまとめ
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:pencil2: 編注
以下の論文の和訳(部分)である。
- Pulleyblank, Edwin G. (1962). The Consonantal System of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265.
歯擦音と唇音の再構に係る部分と論文末尾の上古漢語音韻体系のまとめ(pp. 126–144)のみを抜粋した。それ以外のページは、パートⅠ[(1)切韻体系の再構](/@YMLi/rJIytCsGT)、[(2)軟口蓋音と喉音の再構](/@YMLi/r1YL4JDV6)、[(3)歯音・側面音の再構](/@YMLi/SydgEgbKa)、[(4)歯擦音と唇音の再構・上古漢語音韻体系のまとめ](/@YMLi/rkb4b8_FT)、パートⅡ[(1)去声と上声の起源](/@YMLi/HyoFRGJc6)、[(2)鼻音と唇音の末子音の再構・補足](/@YMLi/S1x7mGPca)。
誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。
Pulleyblankによる中古漢語・上古漢語の音形の表記には以下の修正を加えた。
- 切韻体系の再構音および中古漢語の音素は太字で表記する。 \
上古漢語の再構音はアスタリスク形で表記する。 \
それ以外の音はイタリック体で表記する。
- 中古漢語の母音 **ɑ** は、表示環境によっては **a** と混同する可能性があるため、Karlgrenにならって **â** と表記する。
- 平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。
引用されているKarlgren(1957)による中古漢語表記には以下の修正を加えた。
- 有気音の記号「*‘*」は「*ʰ*」に置き換える。
- 平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。
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## 1. 頭子音の歯擦音系列
中古漢語には、精母 **ts-**, 清母 **tsh-**, 從母 **dz-** の3つの歯破擦音と、心母 **s-**, 邪母 **z-** の2つの摩擦音が見られる。しかし、有声摩擦音 **z-** は **-i̯-** の前にのみ出現し、諧声系列において他の歯擦音と自由に交替することはない。したがって、これが上古漢語で独立した音素として存在していたかどうかは疑わしい。いくつかのケースでは、從母三等 **dzi̯-** の変種として見られる。例えば、慒 **dzoŋ¹**, **zi̯u¹**, 抯 **dzi̯a¹**, **zi̯a¹** (また **tṣa¹**, **tsi̯a¹**), 賮 **dzi̯in³**, **zi̯in³**, 鬵 **dzi̯im¹**, **zi̯im¹** 等の又音に注意されたい。それ以外の **z-** は、ほとんど \*δ- 型の諧声系列にしか見られない。
司 **si̯ə¹** : 嗣 **zi̯ə¹** のように邪母 **z-** が心母 **s-** と交替するケース、あるいは例えば 兕 **zi̯i²** のように諧声関係を伴わずに単独で出現するケースは、非常に少ない。嗣 **zi̯ə¹** 「後継ぎ」の場合、この単語は確実に 襲 **zi̯ip** 「受け継ぐ」と同源である。『説文』は ⟨襲⟩ について 龖 **dəp** を声符と解釈しており、これは 讋 **ci̯ep** の声符でもある。したがって、邪母 **z-** を他の歯擦音ではなく \*δ- または \*t- と結びつける理由がここでも見られる。
もし独立して \*z- が存在し、単なる **s-** や(まれに) **dz-** から何らかの条件によって発展した変種でないとすれば、非ヨード化母音の前にもその反射が見られるはずだが、それを示すと思われるものは何もない。
邪母 **z-** が \*δ- 系列に最も多く見られるという事実は、これが \*sδ- に由来する可能性を示唆している。この発達は次のように推測できる。
1. かつての長母音に由来するヨードが後続しない場合: \*sδ- > \*zδ- > \*zd- > 定母 **d-**
2. ヨードが後続する場合: \*sδi̯- > \*zδi̯- > *zy-* = 邪母 **zi̯-**
その例は非常に多い。
:spiral_note_pad: **表1: 邪母 z- と \*δ- が含まれる諧声系列**
| 邪母 | \*δ- |
| :------------------------------------------------------------------ | :------------------------- |
| 象 **zi̯âŋ¹** < \*sδɑ̄ŋ | 𢠽 **dâŋ²** < \*(s)δɑŋ |
| 祥 **zi̯âŋ¹** < \*s(g)δɑ̄ŋ | 羊 **yâŋ¹** < \*(g)δɑ̄ŋ |
| 夕 **zi̯ek** < \*sδɑ̄k 「夕方」 (cf. チベット語 ཟླ་བ་ *zla-ba* 「月」) | 夜 **ya³** < \*δɑ̄ks 「夜」 |
| 䄂 **zi̯u³** | 由 **yu¹** |
| 俗 **zi̯ok** | 谷 **yok**, **kuk** |
| 習 **zi̯ip** (cf. チベット語 སློབ་ *slob* 「学ぶ」) | 熠 **yip** |
| 似 **zi̯ə²** | 以 **yə²** |
| 續 **zi̯ok** | 𧶠 **yok**, 讀 **duk** |
| 循 **zi̯win²** | 盾 **duən²**, **źi̯win²** |
また、この種の系列には、心母 **s-** の単語がヨード化韻と非ヨード化韻の両方に見られることがある。どちらについても \*sθ > **s-** と仮定できる。
:spiral_note_pad: **表2: 心母 s- と \*δ- が含まれる諧声系列**
| 心母 | \*δ- |
| :---------------------- | :------------------------------------------------ |
| 枲 **si̯ə²** | 台 **thəi¹**, **yə¹**, 飴 **zi̯ə²** |
| 修 **si̯u¹** | 攸 **yu¹**, 條 **deu¹** |
| 賜 **si̯e³**, 錫 **sek** | 易 **yek**, **ye³** |
| 髓 **si̯we²** | 隨 **zi̯we¹**, 墮 **dwâ²**, **hywe¹**, 䔺 **ywe¹** |
| 肆 **si̯i³** | 隶 **yi³**, **dəi³** |
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循 **zi̯win²** を \*sδūnꞏ とする私の再構が正しければ、中国が紀元前77年に駐屯地を置いた楼蘭領の都市 伊循 **ꞏyi¹-zi̯win²** < \*ꞏē(δ)-sδūnꞏ は、プトレマイオスの Ἰσσηδών *Issēdṓn* の背後にある名称の転写である可能性が高い。唐代の地誌は伊循をロプノールの南側にある都市 七屯 **tshet¹-duən¹** と同定している(Haneda 1930)。ここで榎は、伊循との同一視を正当化するために、七屯 を 一屯 **ꞏyit-duən¹** に改めることを提案しているが(Enoki 1961)、これは不要である。七屯 **tshet¹-duən¹** は、\*ꞏē(δ)-sδūnꞏ, Ἰσσηδών *Issēdṓn* の根底にある単語の後期の形を表す可能性が非常に高い(第一音節の末尾 \*-δ は、時には転写において無視することができる)。また、チベットの文献に記載されている *Rtse-ḫthon*, *Rtse-ḫton*, *Rtse-mton*, *Se-toṅ*, *Se-to* とも間違いなく同じ場所である(Thomas 1951: 160–4)。七屯 を Ἰσσηδών *Issēdṓn* と同一視する提案は、既にHerrmann(1938: 126)によってなされていた。名前に関するもうひとつの最近の推測については、Hamilton(1958: 120)を参照されたい。Pulleyblank(1952: 352)で行った 七 を「7」とする提案については撤回する。
\*sθ- を再構できる可能性があるもう一つの例は、四 **si̯i³** 「4」である。これは表面的には、Benedictが祖形として \*b-li を再構したチベット・ビルマ語の数詞の形とはあまり似ていない(1948: 202, cf. Wang 1931)。しかし、諧声系列には 駟 **ṭhi̯i³** と 呬 **hi̯i³** があり、どちらも \*θ = チベット・ビルマ語 *lh* を指している可能性がある。さらに、数詞「4」の代替表記 ⟨肆⟩ は声符として 隶 **dəi³**, **yi³** < \*δits, \*δīts を持つ。したがって、**si̯i³** < \*sθīts を再構することができる(チベット・ビルマ語との比較をさらにうまく説明するために、\*sθīts はかつての \*fθīts (= \*fδīts) に由来すると推測することもでき、したがって **ṭhi̯i³** ~ **hi̯i³** は \*fl- を指す可能性がある;後述)。
## 2. 歯擦音のそり舌音化
歯擦音の頭子音は、上古漢語から中古漢語に至る過程で口蓋化を受けなかったが、介音 \*-l- の影響下では他の歯音と同様そり舌音化を受けた。そのような場合、表3に示すように、來母 **l-** と中古漢語のそり舌歯擦音 ==(莊組)== との間に諧声接触が見られる。
:spiral_note_pad: **表3: 來母 l- と莊組の諧声接触**
| 來母 | 莊組 |
| :-------------------- | :-------------------------------------------- |
| 吏 **li̯ə²** | 史 **ṣi̯i²**, 使 **ṣi̯i²**, **ṣi̯i³** |
| 六 **li̯uk** | 鼀 **tṣhi̯uk**, 𣤶 **tṣi̯uk**, **dẓi̯uk** |
| 婁 **lu¹**, **li̯u¹** | 數 **ṣi̯ou²**, **ṣauk** |
| 梁 **li̯ao¹** | 刅 **tṣhi̯âŋ³** (cf. 初 **tṣhi̯o¹** < \*tshlɑ̄ɦ) |
| 麗 **li̯e¹**, **lei¹** | 釃 **ṣi̯e¹**, 灑 **ṣae²**, **ṣi̯e²** |
| 率 **li̯wit** | 率 **si̯wit**, **ṣi̯wi³** |
| 林 **li̯im¹** | 罧 **ṣi̯im³** |
しかし、特定の短母音の前では、そり舌音化は起こらなかったようである。
:spiral_note_pad: **表4: 來母 l- と心母の諧声接触**
| 來母 | 心母 | 莊組 |
| :---------------------- | :--------- | :----------------------------------------------------------- |
| 立 **li̯ip**, 拉 **ləp** | 颯 **səp** | |
| 婁 **lu¹**, **li̯ou¹** | 藪 **su²** | 數 **ṣi̯ou²**, **ṣi̯ou³**, **ṣauk**, cf. 籔 **su²**, **ṣi̯ou²** |
Benedict(1948: 199)は、中古漢語の生母 **ṣ-** を \*śr- に由来するものと見なすことを提案し、その証拠としてチベット・ビルマ祖語 \*śrik : 虱 **ṣi̯t** 「シラミ」、チベット・ビルマ祖語 \*śring : 生 **ṣi̯aŋ¹** 「生まれる」を引用している。この比較は非常に説得力があるが、おそらくチベット・ビルマ語の \*ś は歯音 \*s から派生したものだろう。\*sl- > **ṣ-** を支持する転写の証拠は先に引用した通りである。
もし紀元2世紀に \*sl- がまだ存在していたとすれば、いくつかのケースの生母 **ṣ-** については、それとは異なる起源を考えなければならない。なぜなら、それらはより早い時期の、*r* や *l* の可能性がない転写に見られるからである。
- 山 **ṣaən¹**: 烏弋山離 **ꞏou-yək-ṣaən¹-li̯e¹** = Alexandria (前述 [p. 116](/@YMLi/SydgEgbKa#4-歯摩擦音))
- 霜 **ṣi̯âŋ¹**: 貴霜 **ki̯wəi³-ṣi̯âŋ¹** = Kušan (『漢書・西域傳上』96A)
- 師 **ṣi̯i¹**: 師子 **ṣi̯i¹-tsi̯ə²** 「ライオン」 = トカラ語A *śiśäk*, B *ṣecake* 「ライオン」([p. 109](/@YMLi/SydgEgbKa#2-歯閉鎖音の口蓋化) 参照)、貳師 **ńi̯i³-ṣi̯i¹** = Nesef ([p. 120](/@YMLi/SydgEgbKa#7-歯鼻音) 参照)
このような場合の生母 **ṣ-** の起源を知る手がかりとなるのが、喉音や軟口蓋音、特に疑母 **ŋ-** と交替する諧声系列である。
:spiral_note_pad: **表5: 生母 ṣ- と喉音・軟口蓋音が含まれる諧声系列**
| 生母 | 喉音・軟口蓋音 |
| :--------------------------------- | :------------------------------- |
| 嗄 **ṣa³** | 嗄 **ꞏai³**, 夏 **ɦa²**, **ɦa³** |
| 所 **ṣi̯o²** | 戸 **ɦou²**, 雇 **kou³** |
| 疋 **ṣi̯o²** | 疋 **ŋa²** |
| 朔 **ṣauk**, 愬 **ṣaək**, **sou³** | 𧊜 **ŋâk**, 屰 **ŋi̯ak** |
| 産 **ṣaən²** | 彦 **ŋi̯en³**, 顔 **ŋan¹** |
最も可能性の高い説明は、*s* + *h* (または *s* + *h* < \*ŋh)の組み合わせであると思われる。後述するように、\*s- が他の頭子音系列の前に付加される接頭辞として機能したと考えるには十分な理由がある。この展開は音声学的にも非常にもっともらしいもので、インド諸語 *kṣ* における *k* の後の *s* のそり舌音化 ==(RUKI規則)== と比較されたい。
十二支の 午 **ŋou²** のタイ語借用形はかつての \*zŋ- を示す(Li 1945)。これを説明するためには、*s* がまず*ŋ* の前で有声化し、その後消失したと仮定しなければならない(\*sŋ- > \*zŋ- > **ŋ-**)。おそらく、戸 **ɦou²** < \*sgɑꞏ 「扉」(チベット語 སྒོ་ *sgo* 「扉」参照)の \*g の前や、雇 **kou³** < \*skɑh の \*k の前でも、同様に消失したのだろう。疋 の2つの音価は、おそらく \*sŋ- と \*sŋh- に由来する。一方、ある諧声系列の1つの単語が接頭辞 \*s- を持っていたからといって、系列全体でそれを再構しなければならないと考えることはできない。したがって 許 **hou²**, **hi̯o²** は、我々の理論において \*sŋh- ではなく \*ŋh- を意味する。また、これらの単語に 所 **ṣi̯o²** が使われるのは(Karlgren 1957:42 #91a–c)、\*s- が移動可能な接頭辞として扱われたことを意味するものと思われる。さらに、地名としての 許 **hi̯o²** は同じ発音の ⟨鄦⟩ でも表記される。しかし ⟨鄦⟩ の声符は 無 **mi̯ou¹** < \*mɑ̄ɦ で、諧声系列には頭子音 \*s- の痕跡はない。これは、\*mh- と諧声関係を持つ \*m- 系列の声符が、\*ŋh- の単語に使われた例に違いない。なぜなら、\*mhɑ̄ꞏ は母音の円唇化を受けて **hi̯ou²** となるからである(膴 **hi̯ou²** 等を参照)。
この種の諧声系列では、初母 **tṣh-** も頻繁に見られる。
:spiral_note_pad: **表6: 初母 tṣh- と生母・喉音・軟口蓋音の諧声接触**
| 初母 | 生母・喉音・軟口蓋音 |
| :------------------------------ | :------------------- |
| 鏟 **tṣhan³** | 産 **ṣaən²** |
| 楚 **tṣhi̯o²** | 疋 **ṣi̯o²**, **ŋa²** |
| 羼 **tṣhaən²** | 羴 **haən¹** |
| 閦 **tṣhi̯uk** (< \*-p (?)) [^1] | 乑 **ŋi̯im¹** |
また、生母 **ṣ-** と初母 **tṣh-** が交替する諧声系列や、心母 **s-** と交替するが、他の歯擦音系列の頭子音との接触がない諧声系列も、このタイプと関連付けるべきだろう。
:spiral_note_pad: **表7: 生母 ṣ- と初母 tṣh- の諧声接触**
| 生母 | 初母 |
| :--------------------- | :------------------------ |
| 殺 **ṣaəi³**, **saət** | 刹 **tṣhaət**, 摋 **sât** |
| 爽 **ṣi̯âŋ²** | 䫪 **tṣhi̯âŋ¹** |
諧声系列において曉母 **h-** と溪母 **kh-** は頻繁に交替することから、これらの系列の初母 **tṣh-** は \*skh- に由来すると考えられる。この解決策の理論的な難点は、多くの場合、\*skh- ~ \*sh- ではなく \*skh- ~ \*sŋh- の交替を意味するように思われることである。したがって、私はこの提案を暫定的かつ予備的にのみ採用する。
そり舌歯擦音は、\*sl-, \*tshl- 由来でも \*sh-, \*sŋh-, \*skh- 由来でも、母音に同じ影響を与えたと思われることは注目に値する。これはまったく驚くべきことではない。説明するのが難しいのは、すべてではないが、\*s- が \*ŋ-, \*ɦ-, \*ꞏ- の前で失われたと思われるいくつかのケースで、二等母音が見られることである。これを頭子音 \*s- の影響とすることはできない。\*sŋ- クラスターの明確な証拠がある1つのケース、すなわち 午 \*sŋɑꞏ > **ŋou²** では、歯擦音は母音に何の影響も及ぼさなかった(吾 \*ŋɑh > **ŋou¹** と同様)からである。したがって、\*sŋl-, \*sgl- などのより複雑なクラスターを仮定しなければならないこともあるようだ。この関連で特に注目すべきなのは、切韻体系において珍しい頭子音である俟母 **ẓ-** の多くを含む次の諧声系列である。
- 矣 **ɦi̯ə²** \
俟 **ẓi̯ə²** (, **gi̯ə²**, **ɦi̯ə²**) \
騃 **ŋaəi²**, **ẓi̯ə²**, **ꞏaəi²** \
欸 **haəi³**, **ꞏəi²** \
䀵 **ṣi̯ə¹** (この文字は『説文解字』にない)
この声符は 已 **yə²** < \*δə̄ꞏ (< \*ɦδ- ?) であるとされている。これは、矣 を不規則的な \*ɦ- の維持を伴って **ɦi̯ə²** < \*ɦlə̄ꞏ と再構し、また 俟 を \*sɦlīꞏ > \*zɦlə̄ꞏ > **ẓi̯ə²** (, **gi̯ə²**, **ɦi̯ə²**) と仮定することを正当化するかもしれない。漦 **ẓi̯ə¹** < \*svliꞏ (?) にも注意されたい(後述)。矣 を \*ɦlīꞏ とする再構は、これを官話の完了助詞 了 *le* と結びつける興味深い可能性を提起する。しかし、類似の事例や比較の証拠がないため、この系列の再構はまだ推測の域を出ない。
## 3. \*ŋδ-, \*sŋδ- クラスター
邪 **zi̯a¹**, **ya¹** には、\*sŋδ-, \*ŋδ- を再構すべきかもしれない。\*δ の存在は、**zi̯a¹** 「斜めの、曲がった」が 斜 と同じ単語であり、その ⟨斜⟩ の文字が 叙 **zi̯o²** の通仮字として使われていることから確証される(Karlgren 1957: 33 #47a)。余-系列は典型的な \*δ 系列であるが(前述)、『釈名』による 語 **ŋi̯o²** : 叙 **zi̯o²** の声訓も、やはり \*sŋδ- の可能性を示唆している(Bodman 1954: 61)。さらに、余 **yo¹** 「私」は 吾 **ŋou¹** 「私」と同源かもしれない。しかし、現時点でこれらの提案をさらに追求することは、果てしない道のりとなるだろう。
\*sŋδ- を再構しても、叙 **zi̯o²** と 斜 **zi̯a¹** の母音の違いを説明する助けにはならない。これを説明するために、上で二重母音 \*eɑ/\*ēɑ̄ の仮説を提案した ==(前述 [p. 100ff.](/@YMLi/r1YL4JDV6#9-軟口蓋音と喉音の口蓋化:介音--i̯--y--の起源) 参照)==。すなわち \*sŋδɑ̄ꞏ > **zi̯o²**, \*sŋδēɑ̄ɦ > **zi̯a¹** となる。これに基づけば、牙 **ŋa¹** 「歯」は \*(s)ŋlɑɦ ではなく \*(s)ŋeɑɦ と再構すべきだろうが、諧声系列において \*-δ- と \*-l- が交替した可能性もある[^2]。
次の系列は、\*ŋ- と \*ŋh- の交替を表しているようである。
- 埶藝 **ŋyei³** : 埶勢 **śi̯ei³** < \*hyei³ < \*ŋh-
しかし、\*ŋy- が日母 **ń-** に口蓋化しなかったことを説明しなければならない。\*ŋδi̯- または \*ŋδy- は以母 **y-** を与えるはずであるため、\*ŋδ- (前述 [p.118](/@YMLi/SydgEgbKa#6-δ--θ--クラスター) 参照)の観点からの解決策は除外されるだろう。答えはおそらく、\*sŋ- ~ \*sŋh- である。\*ŋ- の口蓋化は語頭の歯擦音によって妨げられたが、\*h- < \*ŋh- は妨げられなかった。接頭辞 \*s- の存在は、いずれも 衵 **ṇi̯it²** など(前述 [p. 120](/@YMLi/SydgEgbKa#7-歯鼻音) 参照)と同源の 暬 **si̯et** < \*snhēɑ̄t 「親しい」, 褻 **si̯et** 「肌着」でも示されている。疑・書母 **ŋ-**, **ś-** < \*sŋ-, \*sŋh- と心母 **s-** < \*snh- の間をつなぐのは間違いなく \*s- である。日母 **ń-** < \*n- < \*sn- (?) の例は、然熯 **ńi̯en¹** 「焼く」と同源の 熱 **ńi̯et** 「熱い」に見られる。
## 4. \*s- + 円唇化喉音のクラスター
狭い介音の半母音 **-y-** が生まれる状況で、\*ɦw- は以母合口 **yw-** となり、\*δ- に由来するものと合流したことは前述した。したがって、上古漢語にもし \*sɦw- という組み合わせがあったとすれば、それは同じような状況で **zi̯-** < \*sδ- に対応する邪母合口 **zi̯w-** に発展すると予想される。実際、邪母 **z-** は円唇化軟口蓋音+前舌狭母音の系列に見られる。
:spiral_note_pad: **表8: 邪母合口 zi̯w- を含む円唇化軟口蓋音・喉音の諧声系列**
| 邪母 | 軟口蓋音・喉音 |
| :----------------------- | :--------------------------------------------------------------------- |
| 㘣 **zi̯wen¹**, **hwen¹** | 捐 **ywen¹**, 肙 **ꞏwen³** |
| 旬 **zi̯win¹** | 勻 **ywin¹** 眴 **ɦwen¹** など [^3] |
| 穗 **zi̯wi³** | 惠 **ɦwei³** |
| 彗 **zi̯wei³**, **zi̯wi³** | 慧 **ɦwei³** |
| 爓 **zi̯em¹** | 閻 **yem¹** < \*ɦwēm (?) [^4] |
| 還 **zi̯wen¹** | 睘 **zi̯wen¹**, **ɦwan¹**, **gyweŋ¹**, 譞 **hywen¹**, 繯 **ɦwen²** [^5] |
また、この種の系列に頭子音 \*s- が見られることもある。
:spiral_note_pad: **表9: 心母三等合口 zi̯w- を含む円唇化軟口蓋音・喉音の諧声系列**
| 心母 | 軟口蓋音・喉音 |
| :--------------------------- | :------------------------ |
| 恤 **si̯wit** | 血 **hwet**, 洫 **hi̯wək** |
| 荀 **si̯win¹**, 洵 **si̯win¹** | 洵 **hwen¹** |
| 繐 **si̯wei³** | 惠 **ɦwei³** |
これらの頭子音 \*s- と \*hw- の密接な関係は明らかに見える。これは \*shw- が、\*sh- > **ṣ-** と並行的な **ṣw-** への発展を遂げなかったことを意味する。その代わりに、非ヨード化母音(短母音)の前では \*s- が失われたが、ヨード化母音(長母音)の前では \*s- が維持され、後続の \*h が失われた。
- 血 **hwet** < \*shwit (< \*-k ?) 「血」(シナ・チベット祖語 \*s-hwi 「血」参照、Benedict 1948: 198 の再構)
- 恤 **si̯wit** < \*shwīt
これは、ヨード化母音と非ヨード化母音の両方の前で心母 **s-** をもたらしたと考えられる、\*sθ- の発展とは異なる。さらに、\*hw- は **-y-** の前では口蓋化されなかったので、\*sɦwy- > \*zɦwy- > *zyw-* = **zi̯w-** と並行して単純に \*ɦwy- > **yw-** と説明することはできない。次のケースは、\*shw- > **si̯w-** という変化が、介音 **-y-** の生じる状況に限定されなかったことを示している。
- 亘 **si̯wen¹** [^6]: 桓 **ɦwân¹**, 垣 **ɦi̯wân¹**
## 5. \*s- + 歯音のクラスター
\*s- と \*n- の間の諧声接触は、\*s- と \*ŋ- の間よりも一般的である。
:spiral_note_pad: **表10a: 心母 s- と \*n- の諧声接触**
| 心母 | \*n- |
| :----------------------------------------- | :----------- |
| 羞 **si̯u¹** | 杻 **ṇi̯u¹** |
| 娀 **si̯uŋ¹** | 戎 **ńi̯uŋ¹** |
| 需 **si̯ou¹** | 儒 **ńi̯ou¹** |
| 絮 **si̯o³**, **ṇi̯o²**, **ṇi̯o³**, **ṭhi̯o³** | 如 **ńi̯o¹** |
| 襄 **si̯âŋ¹** | 禳 **ńiâŋ¹** |
| 隼 **si̯win²** | 𣯍 **ńi̯win¹** |
| 璽 **si̯e¹** | 爾 **ńi̯e²** |
| 綏 **si̯wi¹** | 桵 **ńi̯wi¹** |
また、次の2つの系列にも注目してほしい。これらの韻は非常に乖離しているが、文字の形と『説文』によってつながりが示されている。
:spiral_note_pad: **表10b: 心母 s- と \*n- の諧声接触**
| 心母 | \*n- |
| :------------------------------------- | :--------------------------- |
| 西 **sei¹** | 迺 **nəi²** |
| 囟 **si̯in³**, 細 **sei³**, 思 **si̯ə¹** | 𣳦 **ṇau¹**, 農 **noŋ¹** [^7] |
\*sŋ- から類推すると、\*sn- はまず \*zn- になり、そして泥母 **n-** になると予想される。この系列に見られる心母 **s-** には \*snh- を仮定することができる。これは、\*nh- の反射が \*θ- の反射と同じであるという一般的規則と一致している。もちろん、\*s- が接頭辞である可能性もあるため、\*n- が \*s- と接触するすべてのケースで \*sn- を当然のものとして仮定できるわけではない。
十二支の名前のタイ語借用形は、\*zŋ- (< \*sŋ-) と \*sm- の証拠を与えたが、\*sn- の証拠はない。このギャップを埋める証拠となるのは、胡荽 (葫荾, 葫䕑) **ɦou¹-si̯wi¹** 「コリアンダー」という単語である。この単語が外国語からの借用語であることは、異表記によって証明されている。コリアンダーは、石崇の紀元300年頃の文献(『太平御覧』980.5b)に、完全に家畜化された状態で登場しているので、古い輸入品であることは間違いない。Laufer(1919: 198)は、中期ペルシャ語 *gošniz*、新ペルシャ語 *kišniz*, *kušniz* などと比較している。彼はこの比較を正当化するために、それ以前のイラン祖語 \*koswi, \*košwi, \*gošwi を仮定しているが、これは言語学的に疑わしいだけでなく、不必要なことである。第2音節を表すのに使われている文字 ⟨荽⟩, ⟨䕑⟩ は、諧声系列から \*sn- クラスターを仮定することができ、したがって \*snhwə̄δ と再構できる[^8]。
- 第一音節にはある問題がある。私はH. W. Bailey教授とI. Gershevitch博士にイラン語形について相談した。新ペルシャ語 *kišniz*、トルコ語 *kišniš*、ロシア語 *kišnets* のような形は無声音の頭子音を指しているが、初期の形にはむしろ *g-* を支持する証拠があるという。Lauferの挙げた中期ペルシャ語 *gošniz* は、短本(インド版)『ブンダヒシュン』27.15に見られるパフラヴィー語 *gwšnyč* が元になっているらしい。長本(イラン版)『ブンダヒシュン』117.15には *kšnyč* があるが、この *k* には有声音を示す2つの点がついており、テキストが修正されたかのようである。『*Frahang-ī Pahlavīg*』6.2(ed. H. Junker 1912)では、パフラヴィー語 *gšnyč* = \*gašnīč (*g* には2つの点が付く), パザンド語 *gašnīz* は、アラム語 *kwzbrtʿ* = \*kuzbartā 「コリアンダー」に相当する。アルメニア語 գինձ *ginj* 「コリアンダー」は旧約聖書に登場するため、紀元4~5世紀のもので、おそらくイラン語からの借用であろう(イラン語における *n* の前の *-š-* の消失については、バローチー語 *gēnīč*, *kīnīč* を参照。注:Gilbertson and Mayerには *kínich* がある)。アフガニスタン北部のイシュコシム語で見られる *gašnīz* という形にも注意されたい。それとは別の植物名として、パフラヴィー語 *kāšnīč*, 新ペルシャ語 *kāšnī*, *kāsnī* 「エンダイブ」がある。これは『*Frahang-ī Pahlavīg*』では *gašnīč* の直前にある。この2つの単語の同化により、*gašnīč* が *kašnīč* に変化したのかもしれない。このことから、漢語の第一音節は、単に「外国の」を意味するのではなく、外国語の単語の一部分である可能性が高いと思われる。これは、単語が不可分の全体であることを暗示する、草冠を追加した異表記によっても示されている。この文字の又音 **hou¹** は、「大きなアリウム」という意味に限定されているため、無視してもよい。中古漢語 **ɦou¹** は、理論的には \*gɑɦ か \*ɦɑɦ のどちらかに遡ることになる。この文字が「なぜ」という意味で使われていることからすると、後者の可能性が高い。この文字が表す単語は明らかに 何 **ɦâ¹** < \*ɦɑδ 「何」に関連している(インド諸語の有声有気音を表すこの文字の用法については前述 [p. 87](/@YMLi/r1YL4JDV6#1-上古漢語における頭子音-g--と-ɦ-) を参照)。漢語の形が閉鎖音の頭子音を持たないことは、イラン語の *g-* を表すことの障害とはならない。なぜなら、この単語は有声閉鎖音が規則的に摩擦音 *ɣ-* になるソグド語を経由してきた可能性が非常に高いからである。残念ながら、この単語自身のソグド語形の記録は残っていないようである。
異表記の 荾 **si̯wi¹** は、諧声系列に \*n- が存在するという証拠がないため(允 **ywin²**, 夋 **tshi̯win¹**, 俊 **tsi̯win³** 等)、非常に興味深い。おそらく、**ywin²** < \*nδ- を再構すべきであろう(『説文』によれば、已 **yə²** < \*δə̄ (< \*ɦδī- (?)) [前述 [pp. 119](/@YMLi/SydgEgbKa#6-δ--θ--クラスター), [129](#2-歯擦音のそり舌音化) 参照]が声符である)。
允 の系列は、以母 **y-** < \*nδ- (?) と歯破擦音の間に接点があるという点で珍しい。この説明に役立つかもしれないのが、\*n- と歯擦音、特に清母 **tsh-** との間の諧声接触である。すなわち、千 **tshen¹** 「1000」は、古い文字の形では 人 **ńi̯in¹** を声符としており、また 年(秊) **nen¹** 「年」の声符となっている(信 **si̯in¹** の文字もおそらく 人 を声符としているが、『説文』では認識されていない)。これらの単語はおそらく元々は \*-ŋ で終わっていたのだろう。Benedict(1948: 200)によって再構されたチベット・ビルマ祖語 \*ning 「年」や、間違いなく 仁 **ńi̯in¹** を声符としている 佞 **neŋ¹** を参照。先に仮定した \*skh- > **tṣh-** との類推から、\*sth- > **tsh-** を再構することができる。これによって、千 **tshen¹** 「1000」をチベット語 སྟོང་ *stoṅ* (< \*sthoṅ ?) 「1000」と比較することができる。ただし、母音の違いはまだ説明できていない。
清母 **tsh-** と \*n- の交替は次の系列でも見られる。
- 次 **tshi̯i³** 「次ぐ」 : 二 **ńi̯i³** 「2」
この2つの単語が同源であることは間違いない。したがって、**tṣh-** < \*skh- と **ṣ-** < \*sŋh- との関係のように(前述 [p. 129]((#2-歯擦音のそり舌音化)) 参照)、この有気破擦音はなんらかの条件下で有気鼻音から発展したことが疑われる。この諧声系列には 恣 **tsi̯i³** と 茨 **dzi̯i¹** も見られるため、もしこの系列の清母 **tsh-** が \*sth- に由来するのであれば、\*st- > **ts-**, \*sd- > **dz-** も仮定する必要がある。これは、クラスターを音韻体系にすでに存在する同じ要素からなる単一音素に置き換えるという、すべての子音クラスターが単純化されつつあった時代にかなりありそうな音声的変化である。
揵陀訶盡 **gi̯en¹-dâ¹-hâ¹-tsi̯in²** (**dzi̯in²**) = Skt. गन्धहस्तिन् *Gandhahastin* (T224: 470a12) では、精母 **ts-** (あるいは從母 **dz-**)がインド語 *-st-* を転写している。もちろん、音韻体系に *st* が存在しない場合、その転写に音位転換を通して *ts* が使われる可能性は十分にあるため、これは決定的な例とはない。
夋 **tshi̯win¹** の話に戻ると、ここには頭子音として \*sth- を再構することができる。**n-** ~ **s-** ~ **tsh-** 間の関係を説明する問題は、**ŋ-** ~ **ṣ-** ~ **tṣh-** の問題と正確に並行的である。
\*st- > **ts-** などの仮説は、次のようなケースを説明することができる。すなわち、歯破擦音系列と歯閉鎖音系列は厳密に区別されるのが普通であるが、それに反して両方のタイプで同じ声符が使われているケースである。
:spiral_note_pad: **表11: 歯破擦音系列(精莊組)と歯閉鎖音系列(端知章組)の諧声接触**
| 歯破擦音 | 歯閉鎖音 |
| :-------------------------- | :-------------------------- |
| 七 **tshet** < \*sthit [^9] | 𠮟 **chi̯it** < \*thīt |
| 崔 **dzuəi¹** | 隹 **ci̯wi¹** |
| 全 **dzi̯wen¹** | 輇 **ji̯wen¹**, **tshi̯wen¹** |
| 才 **dzəi¹**, 𢦏 **tsəi¹** | 戴 **təi³** |
次のようなケースも存在する。
- 酉 **yu²** < \*δū : 酋 **dzi̯u** < \*sdūɦ, 酒 **tsi̯u²** < \*stūꞏ.
---
Skt. विष्णु *Viṣṇu* の仏典転写には、\*sn- がまだ存在していれば、それが使われると予想される。パーリ語 *Veṇhu* のような中央インドの形では歯擦音が失われたが、ホータン語の固有名詞に見られる *Viṣṇa-* という形から判断すると、中央アジアのプラークリットではそうではなかった(Bailey 1942: 922, 1954: 23 l. 5, 35 l. 25, 62 l. 1, 70 l. 13 参照)。実際には、毗紐(鈕) **byi-ṇi̯u²**, 韋(違)紐 **ɦi̯wəi¹-ṇi̯u²**, 葦紐 **ɦi̯wəi²-ṇi̯u²** が見られる(歯擦音が明示的に表現されている他の例としては、『法寶義林』: 67 を参照)。注目すべきは、第一音節に、この時期に歯擦音を表す去声(**-i³**)の単語が見られないことである(Bailey 1947を参照、この問題については韻との関連で後述する)。したがって、歯擦音が完全に表現されているとすれば、それは **ṇi̯u²** に示されているに違いない。この系列には 羞 **si̯u²** があるので、紐 と 鈕 には \*snl- > \*ṣṇ- ~ \*ẓṇ- を仮定することができる。
## 6. 唇閉鎖音
唇閉鎖音が上古漢語と中古漢語の間で音変化を受けたことを示す証拠はほとんどない。**p-**, **ph-**, **b-** の後に二等韻と重紐三等・四等の両方が見られるという事実は、かつて \*-l- クラスターが存在し、すべてのケースにおいてその \*-l- が失われて簡略化されたことを示している。おそらく、唇閉鎖音の後には介音 \*-δ- も存在し、同様に失われたのだろう。場合によっては、それらの再構に母音の音価が役立つかもしれないが、これは今後の議論に譲る。仮に、介音 \*-l-/\*-δ- が軟口蓋音と唇閉鎖音の頭子音系列をつなぐと仮定した場合、唇音の後に \*-δ- を再構する必要がある次のようなケースに注意されたい。
:spiral_note_pad: **表12: 唇音と軟口蓋音の諧声接触**
| 唇音 | 軟口蓋音 |
| :------------------------------------------------------------------ | :-------------------------------------------------------- |
| 便 **byen³** | 綆 **kaŋ²** < \*klɑŋꞏ [^10], **pyeŋ²**, 更 **kaŋ¹** [^11] |
| 并 **pyeŋ¹**, 迸 **paəŋ¹** | 开 **ken¹**, 形 **ɦeŋ¹** |
| 妃 **phuəi³**, **phi̯əi¹**, 配 **phuəi³** [^12], 圮 **bi̯i²** < \*bl- | 己 **ki̯ə²** |
\*s- + 唇閉鎖音のクラスターも存在したと考える理由が十分にある。しかし、その直接的な証拠はほとんどない。おそらくほとんどの場合、\*s- は跡形もなく消えてしまったのだろう。しかし、次のケースに注意されたい。
- 罪 **dzuəi²** : 非 **pi̯əi¹**
これを説明するために、**dzuəi²** < \*sdwəδꞏ < \*sb- (\*b- の先行歯音との同化を伴う)と仮定できるかもしれない。この単語は ⟨辠⟩ とも表記され、自 **dzi̯i³** が声符の役割を果たすようである(ただし『説文』にその記載はない)。これは非常に多様な諧声系列を持っている。
- 䫁 **byi³** \
洎 **ki̯i³** < \*(s)klə̄ts < \*-ps (?) 「~と」(cf. 及 **ki̯ip** < \*(s)klə̄p 「~と」、諧声系列には 馺, 趿 **səp** などがある) \
臬 **ŋet** < \*(s)ŋ(δ)et (臲摰 **ŋet** 「不安定な」は同じ単語であり、また 闑槷 「仕切り」もある。後者の系列の \*s- については [p. 130](#3-ŋδ--sŋδ--クラスター) 参照) \
習 **zi̯əp** < \*sδə̄p \
息 **si̯ək** < \*sθ- (?) \
など
このことは、**dzi̯i³** < \*sb- の再構、あるいは諧声系列において介音 \*-δ-/\*-l- が頻繁に出現することを考慮すれば \*sbδ- という再構を正当化するのに十分であるように思われる。後者の選択肢は、\*sd- への同化を予想させるより強力な根拠となり、おそらくその理由からも好ましいだろう。もし \*sb- が常に從母 **dz-** を与えるのであれば、もっと多くの例が見つかるはずである。この仮説に基づけば、罪 は **dzuəi²** < \*sbδəδꞏ と再構され、𣿓𣿒 **tshuəi²** は \*sphδəδꞏ となる。⟨自⟩ は鼻を描いた形とされており、語源的には間違いなく 鼻 **byi³** < \*b(δ)ə̄ts (< \*-ps ?) 「鼻」(濞 **phi̯i³** < \*phi- の声符)と関連し、おそらくチベット語 སྦྲིད་པ་ *sbrid-pa* 「くしゃみ」とも関連している(Simon 1929: 174)。
## 7. 唇鼻音
唇鼻音 ==明母== **m-** も、上古漢語から中古漢語に至るまでほとんど変化しなかった。諧声系列では、閉鎖音と接触することもあるが、分離されていることの方が多い。しかし、曉母 **h-** との接触は頻繁に見られる。これを説明するために、Karlgrenはクラスター \*xm- を再構した。董同龢(Dong 1948: 13–14)は代わりに、無声音 \*m̥- を提案した。私は、他の鼻音や \*l- の場合と同様、有気音 \*mh- を提案したい。これは、Haudricourtによる共通タイ語の再構と一致する。音韻体系に関する限り、無声鼻音は無声無気音よりもむしろ有気音と関連付ける方が望ましいことは確かである。
以下は \*mh- の例であろう。
:spiral_note_pad: **表13: 曉母 h- と明母 m- の諧声接触**
| 曉母 | 明母 |
| :------------ | :------------------------- |
| 荒 **hwâŋ¹** | 亡 **mi̯âŋ¹** |
| 悔 **huəi²** | 每 **muəi²** |
| 麾 **hi̯we³** | 糜 **mi̯e¹** |
| 薨 **hwəŋ¹** | 瞢 **məŋ¹**, 夢 **muŋ¹** |
| 徽 **hi̯wəi¹** | 微 **mi̯əi¹** |
| 忽 **huət** | 勿 **mi̯wət** |
| 昏 **huən¹** | 民 **myin¹**, 怋 **muən¹** |
| 𤈦 **hi̯wəi¹** | 尾 **mi̯əi²** |
| 耗 **hâu³** | 毛 **mâu³** |
| 幠 **hou¹** | 無 **mi̯ou¹** |
| 烕 **hi̯wet** | 滅 **myet** |
このような場合、単なる **h-** ではなく、合口 **hw-** が見られる。ただし、母音自身が円唇性を帯びている韻では、介音 **-w-** は除去される。合口音節が見られない曉母 **h-** と明母 **m-** の接触も少数存在する。
:spiral_note_pad: **表14: 曉母 h- (開口)と明母 m- の諧声接触**
| 曉母開口 | 明母 |
| :---------- | :----------- |
| 海 **həi²** | 每 **muəi²** |
| 黑 **hək** | 墨 **mək** |
これについての検討は後述する。
\*mh- は曉母開口 **h-** ではなく曉母合口 **hw-** を与えたため、通常、介音 **-y-** によって口蓋化されることは考えられず、実際、書母 **ś-** と明母 **m-** の接触はあまり見られない(しかし、**hyw-** と明母 **m-** の間の接触も見られない。上の例の **hi̯wet** は三等母音を持つ)。
- 少 **śi̯eu²** < \*mhēɑ̄uꞏ : 眇 **myeu²** < \*mēɑ̄uꞏ
このケースでは、\*hw- は語末の唇音によって \*h- に異化したため、後続の **-y-** によって口蓋化された。
戌 **si̯wit** に \*sm- クラスターが存在する証拠は、Li(1945)によって指摘された。\*sŋ- の発展との類推から、我々は \*sm- が \*zm > **m-** と発展したと予想し、したがってこの単語には \*smh- を再構したいと考えるだろう。*s-* を含む形を持つルー語とチワン語の声調から、頭子音はもともと無声音であったことがわかる。残念ながら、*m-* が保存されているアホーム語の声調は不明瞭である。
戌 はおそらく、李方桂が提案したように 滅 **myet**, 烕 **hi̯wet** の声符であるだけでなく、『説文』が示すように 歲 **si̯wei³** の声符でもある。しかし、後者の派生的諧声系列の 翽 **hwâi³**, 顪 **hi̯wâi³**, 噦 **ꞏiwât**, **hwai³**, 劌 **ki̯wei³** は、明母 **m-** ではなく円唇化軟口蓋音を示す。唇音の頭子音を持つ単語が円唇化軟口蓋音の頭子音を持つ単語の声符として機能しうるという他の証拠(前述)を考慮すると、歲は \*smhɑ̄ts ではなく \*shwɑ̄ts だったと推測できる。
中古漢語においてヨード化韻の前の \*smh- と \*shw- が同じ反射を示すという考えが正しければ、非ヨード化韻の前でも同じことが言え、その場合、曉母合口 **hw-** が得られるはずである(前述 [p. 131](#4-s---円唇化喉音のクラスター) 参照)。しかし実際には、非ヨード化韻の前の \*s- と \*m- との間には、曉母合口 **hw-** ではなく心母 **s(w)-** を与えたことを示唆する接触がいくつもある。
- 喪 **sâŋ** (< \*swɑŋ ?) 「失う」 : 亡 **mi̯âŋ** 「なくなる」。この2つの単語は同源であり、前者のグラフは後者を声符として含む)
- 孫 **suən¹** 「孫」。これは通常、子 + 系 の複合文字とみなされるが、後者の要素は 鯀 **kuən¹**, 緜 **myen¹** に見られる。烏孫 **ꞏou¹-suən¹** < \*ꞏɑɦ-smən は、漢代に天山の北にいた遊牧民で、おそらくプトレマイオスの Ἀσμίραιοι *Asmíraioi* と同一視できる。
- 損 **suən²** は、明母 **m-** ではなく円唇化軟口蓋音と諧声関係を持つが、おそらく \*shw- ではなく \*smh- に遡る。『釈名』では、昏 **huən¹** < \*mhin の声訓に使われている(Bodman 1954: 62)。
---
\*ŋδi̯- > **y-** と \*nδi̯- > **y-** (前述 [pp. 120–21](/@YMLi/SydgEgbKa#7-歯鼻音), [130](#3-ŋδ--sŋδ--クラスター) 参照)から類推すると、\*mδi̯- も以母 **y-** を与えることが予想される。これは、次の系列を説明する。
- 黽 **maəŋ²**, **myin²** : 蠅 **yəŋ¹**, 繩 **źi̯eŋ¹**
**maəŋ²** は \*mliŋꞏ を意味するので、この系列には \*ml ~ \*mδ- の交替があると考えられることに注意されたい。
## 8. 唇摩擦音
Karlgrenは、唇音と他の頭子音との接触を説明するために、他の有声無気閉鎖音と同様、いくつかのケースで無気音 \*b- を提案した。
:spiral_note_pad: **表15: 以母 y- ・來母 l- と唇音の諧声接触**
| 以母・來母 | 唇音 |
| :------------------------ | :------------------------ |
| 聿 **ywit**; 律 **li̯wit** | 筆 **pi̯it** |
| 䜌 **lwân¹**, **li̯wen¹** | 蠻 **man¹**, 變 **pi̯en³** |
| 臨 **li̯im¹** | 品 **phi̯im²** |
| 稟 **li̯im²** | 稟 **pi̯im²** |
\*ɦl- > **l-** との類似性から、Karlgrenの \*-l- の前で失われる \*b- を、唇摩擦音 \*β- または \*v- と再解釈したい。これ以外で唇閉鎖音と \*-l- が交替する諧声系列の例は比較的少ない。**p-**, **ph-**, **b-** はすべて、二等と重紐三等に見られるので、\*pl-, \*phl-, \*bl- クラスターはすべて、ヨード化韻と非ヨード化韻の両方の前で介音要素を失ったと考えることができる。そのため、閉鎖音系列において來母 **l-** との接触の痕跡を多く見つけることは期待できない。しかし、明母 **m-** と 來母 **l-** の間には多くの諧声接触がある。明母 **m-** も二等韻と重紐三等韻の前に出現するので、\*ml- も明母 **m-** を与えたと考えなければならない。したがって、明母 **m-** と 來母 **l-** の接触は、\*ml- と \*vl-、または \*ml- と \*l- の交替によって説明されるかもしれない。しかし、これがすべてではないと考える理由もある。次のような異音同綴のケースに注意されたい。
- 龍 **li̯oŋ¹** 「ドラゴン」(チベット語 འབྲུག་ *ḫbrug* 参照), **mauŋ¹** 「まだら」(Karlgren 1957: 308 #1193a–e 参照)
もし \*vlōŋ > **li̯oŋ¹**, \*vloŋ > **mauŋ¹** を再構できれば、\*vlōŋ と読まれる文字が \*mloŋ に仮借されたと仮定するよりも、理解しやすくなるだろう。\*vl- が明母 **m-** をもたらした可能性があるという考えには、他にも裏付けがある。
- 犛 **mau¹**, **ləi¹**, **li̯ə¹** 「ヤク」(最初の2つの読みは、\*vl- の異なる発展を示している。チベット語 འབྲི་མོ་ *ḫbri-mo* 「雌ヤク」参照)
- 理 **li̯ə²** 「様式」(チベット語 འབྲི་བ་ *ḫbri-ba* 「描く、設計する」参照) : 埋 **maəi¹**
- 尨 **mauŋ¹** 「まだら」 : 㙙 **li̯oŋ²**
これらのケースでは、二等韻の前の明母 **m-** とヨードの前の來母 **l-** との間の交替が見られる。
もし \*v- という音素が上古漢語に存在したとすれば、それは\*-l- 以外とも組み合わされたと予想される。それらは通常、明母 **m-** に発展したようである。貿 **mâu³** < \*vuh (?) : 卯 **mau²** < \*vluꞏ, 珋 **li̯u¹** < \*vlūɦ 参照。それ以外の例は後述する。
\*v- に対応する無声音を示すと思われる諧声関係も存在する。
- 寵 **ṭhi̯oŋ¹** < \*lhōŋ < \*flōŋ (?)
- 荲 **ṭhi̯ək**, **ṭhi̯uk**, **hi̯uk** < \*flīk (?)
後者の例は、その曉母 **h-** と徹母 **ṭh-** が \*fl- から異なる発展を遂げたものであることを示しており、畜 **ṭhi̯uk**, **hi̯uk**, **ṭhi̯u³**, **hi̯u³** < \*flūk, \*flūks (?) におけるこの交替の説明を示唆するものである。同様に 攄 **ṭhi̯o** も \*flāɦ を指しているのかもしれない。膚 **pi̯ou¹** < \*plāɦ を参照。この場合、慮 **li̯o³** はおそらく \*vlāh に由来する(一方、盧 **lou²**, 廬 **li̯o¹** 等は \*ɦl- に由来するかもしれない)。
曉母 **h-** と交替する溪母 **kh-**、生母 **ṣ-** < \*sh- または \*sŋh- と交替する初母 **tṣh-**、心母 **s-** < \*snh- と交替する清母 **tsh-** があるように、\*f- の通常の反射の代わりに滂母 **ph-** が見られることがある。
- 窌 **phau³** < \*phluh
- 派 **phae³** : 脈 **maək** < \*vlek, 覓 **mek** < \*vek, 永 **ɦi̯waŋ²** < \*ɦwlēŋꞏ
これを \*ph- と \*f- の交替と見なすべきか、\*ph- を \*f- から異なる発展を遂げたものと見なすべきかは不明である。
唇閉鎖音や \*m-, \*mh- とは異なり、唇摩擦音は必ずしも母音の円唇化を導くわけではないようである。**pi̯ou¹** < \*plɑ̄ɦ とは対照的な ==慮, 攄== **li̯o¹**, **ṭhi̯o¹** < \*vlɑ̄ɦ, \*flɑ̄ɦ や、\*flīk から異なる発展を経た ==荲== **ṭhi̯ək** と **ṭhi̯uk** に注意されたい。したがって、黑 **hək**, 海 **həi²** はおそらく \*mh- ではなく \*fik, \*fiꞏ を表しており、また 𠩺 **hi̯ə¹** < \*fīɦ (or \*flīɦ ?) となる(同様に 𧻲 **ɦəi¹** は \*viɦ に由来し、**m-** < \*v- ではなく、**ə** < \*i の前で例外的に **ɦ-** < \*v- と発展したものであろう)。
これらの例のような \*f > **h-** の他に、\*f- の反射である可能性が高い例を次の系列から見つけることができる。
- 凶 **hi̯oŋ¹**, 㚇 **tsuŋ¹** (cf. 糉 **tṣhaun¹**, 傻 **ṣwa²**)
一見すると、この不可解な系列に唇音の頭子音を再構する理由はないように思える。しかし、馬の頭飾りの一種を意味する ⟨鍐⟩ という文字があり、これは仏教用語においてサンスクリット語の音節 *vaṁ* の転写として使われる(『法寶義林』: 5, 50)。これは『広韻』には見られない。『康煕字典』では読みが **tsuŋ¹** となっているが、『後漢書・馬融列傳上』90Aでは金偏を欠く ⟨㚇⟩ の字が同じ意味で使われており、注釈者は **mi̯âm¹** を意味する読みと、又音として **tsuŋ¹** の読みを記している ==:bulb: 李賢注「㚇:音無犯反,一音子公反」==。この **mi̯âm¹** という読みが仏教の転写音価の根底にあることは明らかである。さらに、同義の ⟨錽⟩ は **mi̯âm¹** という読みしか持たないことにも注意されたい(前述 [p. 114](/@YMLi/SydgEgbKa#3-捲舌音化と介音--l--の脱落) 参照)。また上記の系列では、精母 **ts-** が非ヨード化韻の **-uŋ** の前のみに現れ、清母 **tsh-** や 從母 **dz-** は見られない。反対に、曉母 **h-** はヨードの前にのみ現れる。明らかに、この精母 **ts-** は曉母 **h-** に対応する非ヨード化韻の前の発展を表していると推論でき、したがって \*f- > **ts-**, \*fi̯- > **hi̯-** と再構すべきである。精母 **ts-** と唇音が交替するケースがもう1つある。
- 葬 **tsâŋ³** 「埋める」 : 莽 **mâŋ²** (『説文』によれば、莫 **mâk** と同じ声符を持つ。cf. 墓 **mou³**)
\*f- > **ts-** という変化は、見かけほど驚く程度のことではない。調音方法の変化に関しては、\*θ- に起こったことと比較することができる。この摩擦音は短母音の前で有気音に置き換えられたが、ここでは無気破擦音に置き換えられている。この違いは、おそらく上古漢語において \*f の発音が \*θ よりも弱かったことを示している。調音位置の変化に関しては、逆方向のものとして、ある種の現代方言における中古漢語の破擦音から唇音への発展を思い出すことができる(Forrest 1948: 207–8)。\*f- > **ts-** という変化は、母音 \*o と \*ɑ の前でのみ起こったようである。
この系列における唇音の仮説を支持するものとして、匈 **hi̯oŋ¹** 「胸」がチベット語 བྲང་ *braṅ* と関連している可能性が高いことに注意されたい(Simon 1929: 172)。これは \*f- ではなく \*fl- を示しているのだろう。おそらく、凶, 兇 は \*fōŋ と再構されるべきであり、二次的な 匈 の系列(洶恟詾)は介音 \*-l- の存在によって区別された。\*fl- が曉母 **h-** か徹母 **ṭh-** のどちらかを与える可能性があることは前述した。この再構は、匈奴 **hi̯oŋ¹-nou¹** < \*flōŋ-nɑɦ の名前とアポロドーロスの Φροῦνοι *Froûnoi* が一致する可能性が高いことから、さらに裏付けられている(Haloun 1937: 306 n. 1)。Halounが言うように、「私見では、事実の同一性には反論の余地がない」。この方程式は、これまで考えられてきたように、匈奴の名前とインドの हूण *Hūṇa* や西洋の作家による コイネー Χοῦνοι *Khoûnoi*, 古典ギリシャ語 Οὖννοι *Hoûnnoi*, ラテン語 *Hunni* を結びつける可能性を排除するものではない。漢語における頭子音の簡略化と同じように、またおそらく同じような影響下で近隣のアルタイ諸語の頭子音クラスターが排除されたのと同じように、匈奴の言語でも頭子音の簡略化が行われたのではないかと考える理由がある。Halounは、プトレマイオスの Γρουναῖοι Σκύθαι *Grounaîoi Skúthai* は、Φροῦνοι *Froûnoi* という名称のより新しい言語段階を表しているのではないかと、鋭く指摘している。さらに、プトレマイオスに登場するモンゴルの匈奴領を占拠していた人々の名前である Γαριναῖοι *Garinaîoi* と比較することもできるだろう。トランスオクシアナに位置する Γρουναῖοι Σκύθαι *Grounaîoi Skúthai* は西方の分派を表し、おそらく紀元前50年頃にタラス川に進出した郅支の残党であろう(Dubs 1957: 6ff.)。
この見解は、匈奴の支配者の氏族名の初期と後期の転写によって大いに強化される。
- 攣鞮 **li̯wen¹-tei¹** < \*vlɑ̄n (vlōn) -teɦ (『漢書・匈奴傳上』94A: 0595.4)
- 虚連題 **hi̯o¹-li̯en¹-dei¹** (『後漢書・南匈奴列傳』119: 0907.1)
後者の転写は、匈奴に元々あった唇摩擦音が喉音または軟口蓋音の摩擦音になったことを示している。おそらくこれはギリシャ語 γ- でも示されている。さらに後に *-r-* が失われると、4世紀初頭のソグド文字表記 *xwn* が生まれた(Henning 1948: 615)。
㚇 の系列にも見られる初母 **tṣh-** と生母 **ṣ-** は、曉母 **h-** < \*ŋh- と疑母 **ŋ-** の系列にある同じ頭子音と比較しなければならない(前述 [p. 129](#2-歯擦音のそり舌音化) 参照)。\*sf- は生母 **ṣ-** を与えると予想され、既に仮定した \*skh- > **tṣh-** から類推して、\*sph- > **tṣh-** を再構すべきである。ただしこれは完全に満足できる解決策とは思えず、生母 **ṣ-** と初母 **tṣh-** の交替を説明する他の方法を見つける必要があるかもしれない。
---
\*v- と \*f- は、\*l- と同様に \*δ- の前にも出現するはずである。これはおそらく、聿 **ywit** (< \*vδūt ?) を 律 **li̯wit** < \*vlūt の声符として説明する最良の方法であろう。また、次のようなものもある。
- 甹 **pheŋ¹**, **phyeŋ¹** < \*phδeŋ, \*phδēŋ, 梬 **yeŋ¹** < \*vδēŋ, 𠷓 **heŋ¹** < \*f(δ)eŋ, 騁 **ṭhi̯eŋ1** < \*flēŋ (声符は 丁 **teŋ¹**)
- 䏌 **yit** < \*vδēt, 㞕 **suət**, **set** < \*sθet < \*fθet = \*fδet (?), 肸 **hi̯it**, **hi̯ət** < \*flēt
- 四 **si̯i³** < \*sθīts < \*fδīts (? — 前述 [p. 127](/@YMLi/SydgEgbKa#11-派生接中辞としての--l-) 参照)
ただし、唇音の頭子音と唇音の末子音を持つ諧声系列において \*δ の反射が見られる場合、それは異化の結果である可能性がある。
- 𧂄 dəm² < \*δəmꞏ < \*vemꞏ : 諂 **ɦəm²** < \*ɦwemꞏ, 閻 **yem¹** < \*ɦwēm (前述 [p. 105](/@YMLi/r1YL4JDV6#10-ɦw--gt-yw-) 参照)
それ以外で \*f-, \*v- の再構が可能と思われるケースは以下の通りである。
1. 亨 **phaŋ¹** < \*phlɑŋ (あるいは \*flɑŋ からの異なる発展か)「煮る」「性交する ==:bulb: このような意味は存在せず、「通り抜ける」の誤訳と思われる==」(= 烹), **haŋ¹** < \*flɑŋ 「通り抜ける」, **hi̯âŋ²** < \*fɑ̄ŋꞏ (?) 「供え物、祝宴」。これらは喉音・軟口蓋音・唇音の頭子音 + \*-l- の後に庚3韻 **-i̯aŋ** がつくと予想できるが、最後の読みは \*flɑ̄ŋꞏ に由来する可能性がある。中古漢語には \***hi̯aŋ¹** という音節は実際には存在しない。\*-lɑ̄ŋ に由来するそり舌音の頭子音も庚3韻 **-i̯aŋ** ではなく陽韻 **-i̯âŋ** を持ち、\*θ- と親和性のある \*f- も同様であった可能性がある。ここに \*fl- を再構するならば、同じ単語である 饗 **hi̯âŋ²** 「宴会、楽しむ」にも再構しなければならず、したがって、皂 と 香 **hi̯âŋ¹** 「香り」や 鄉, 向 **hi̯aŋ³** 「向かう」、およびこれらの系列の他の単語も同様である。卿 **khi̯aŋ¹** 「大臣」はその障害となるが、介音 \*-l- が唇音と軟口蓋音の頭子音をつなぐ他のケースを考えると、\*fl- ~ \*khl- の交替もあり得なくはない。この再構を裏付けるものとして、香 **hi̯âŋ¹** 「香り」と芳 **phi̯âŋ¹** 「香しい」の比較や、響 **hi̯âŋ²** 「響く」とチベット語 བྲག་ *brag* 「響く」(上古漢語 \*fl- : チベット語 *br-* の対応については \*flōŋ : *braṅ* 「胸」などを参照)を挙げることができる。餉 **śi̯âŋ³** と、曏 **hi̯âŋ²**, **hi̯âŋ³** の又音 **si̯âŋ²**, **si̯âŋ³** は、\*θɑ̄ŋꞏ < \*fɑ̄ŋꞏ と \*θɑ̄ŋs < \*fɑ̄ŋs を表しているのかもしれない。そうすれば、**-y-** の存在を伴わない \*h- の口蓋化を説明する難しさを避けることができる。
2. 衋 **hi̯ək** (< \*fīk or \*flīk ?), 奭 **hi̯ək**, **śi̯ək** (< \*hēk < \*fēk), 皕 **pi̯ək** (**pi̯ək** は、**pi̯uk** ではないが、おそらく \*plīk を指す)
3. 釁 **hi̯ən¹**, **hi̯in¹** : 虋 **muən¹** (声符は 分 **pi̯uən¹**)
4. 希 **hi̯əi¹** < \*fīδ : 絺 **ṭhi̯i¹** < \*flīδ, 𢓬 **haəi¹** < \*fliδ.
5. 萬 **mi̯ân³** < \*mɑ̄nh < \*vɑ̄ns, 邁 **mai³** < \*vlɑts, 厲 **li̯ei³** < \*vlɑ̄ts, 蠆 **ṭhai³** < \*flɑts, 噧 **thât**, **hai³** < \*flɑt(s), 䜕 **hai³**, **haəi³**, **mai³**.
---
上古漢語の音韻体系では、円唇化喉音と円唇化軟口蓋音の \*w はおそらく \*v と相補的な分布を持ち、これらは音韻的に同一であるとみなすことができる。上古漢語から中古漢語にかけて \*v-/\*f- が音素体系から排除されるのに伴い、\*w- の役割も頭子音体系の一部から半母音へと変化した。
## 上古漢語の音韻体系
### 1. 頭子音
| | | | | | | | | | |
| :------------- | :--- | :--- | :--- | :--- | :--- | :--- | :--- | :--- | :--- |
| 喉音 | ꞏ | | | | | h | ɦ | | |
| 軟口蓋音 | k | kh | g | ŋh | ŋ | | | | |
| 円唇化喉音 | ꞏw | | | | | hw | ɦw | | |
| 円唇化軟口蓋音 | kw | khw | gw | ŋhw | ŋw | | | | |
| 歯音 | t | th | d | nh | n | θ | δ | lh | l |
| 歯擦音 | ts | tsh | dz | | | s | | | |
| 唇音 | p | ph | b | mh | m | f | v | | |
### 2. 頭子音クラスター
1. \*-l- は、全てのタイプの頭子音に後続する。
2. \*-δ- は、軟口蓋音、\*n-、唇音の頭子音に後続する。
3. \*s- は、全てのタイプの頭子音に先行する。
### 3. 母音
1. 単母音: i, ī; e, ē; ɑ, ɑ̄; o, ō; u, ū.
2. 二重母音: eɑ, ēɑ̄; ɑu, ɑ̄u; eu. ēu.
3. 三重母音: eau, ēɑ̄u.
私は、\*-ŋ の韻で認識されている5つの『詩経』韻部に対応する、長短5つの主母音を再構した。これらの母音は、軟口蓋閉鎖音 \*-k や喉音の末子音の前にも現れる。Karlgrenの上古漢語(Archaic)体系との対応は以下の通りである。
| \*-ŋ 韻部 | 蒸部 | 耕部 | 陽部 | 東部 | 冬部 |
| :---------- | :---- | :----- | :---- | :---- | :---- |
| Karlgren | ə, i̯ə | ie, i̯ĕ | â, i̯â | u, i̯u | ô, i̯ô |
| Pulleyblank | i, ī | e, ē | ɑ, ɑ̄ | o, ō | u, ū |
前舌高母音 \*i, ī は、漢代以前にはすでに多くの環境で \*ə, ə̄ に中舌化されており、漢代の転写音価に疑問がある場合はそのように表記している。歯音の末子音の前にも同じ5つの母音が存在していたと推測されるが、『詩経』ではすでに \*o, ō は \*wɑ, wɑ̄ となって \*ɑ, ɑ̄ と韻を踏み、\*u, ū は \*wə, wə̄ となって \*ə, ə̄ < \*i, īと韻を踏んでいた。唇音の末子音の前でも、同様に前進と脱唇化が起こったが、円唇性半母音は同音節内の唇音の末子音によって除去されたため、本来の非円唇母音との混同はより完全なものとなった。\*-um と \*-om はともに覃韻 **-əm** < \*-im に合流し、\*-ūm は侵B韻 **-i̯im** となった。\*-ōm は \*-ɑ̄m と合流した。
Karlgrenの広い \*o, i̯o の代わりに、私は二重母音 \*ɑu, ɑ̄u を再構した。これらは \*-k や喉音の末子音の前に出現するが、\*-ŋ の前には出現しない(\*-u 以外の二重・三重母音と同様で、単母音とは異なる)。\*e- の二重・三重母音については、前述 [pp. 100ff.](/@YMLi/r1YL4JDV6#9-軟口蓋音と喉音の口蓋化:介音--i̯--y--の起源) を参照。
もちろん、母音体系が上古漢語から中古漢語へ発展する過程では、特殊な環境に左右される多くの展開が説明されなければならない。
### 4. 末子音
| | | | | |
| :------- | :--- | :--- | :--- | :---- |
| 喉音 | ꞏ | | (h) | ɦ |
| 軟口蓋音 | k | ŋ | (x) | |
| 歯音 | t | n | | δ |
| 歯擦音 | | | s | |
| 唇音 | p | m | | (v ?) |
声門閉鎖音は、中古漢語の上声に対して再構される。これは単独 ==(母音の後)== で(平声の \*-ɦ を置き換える形で)、または鼻音や \*-δ の後に発生する可能性があるが、閉鎖音の後では発生しない。末子音 \*-s は、他の全ての末子音の後で更に加えることができる。これは \*-ŋ, \*-n, \*-m の後では、おそらく漢代にはすでに \*-h となり、また喉音 + \*-s も \*-h に置き換えられていた。\*-ks も \*-h になったが、軟口蓋摩擦音 \*-x の段階を経たかもしれない。\*-ts と \*-ps > \*-ts はおそらく漢代には簡略化されて \*-s になったと思われるが、この歯擦音の末子音はかなり後期まで維持された。\*-δs の漢代における歴史はまだよくわかっていない。\*-s と \*-h は、最終的に中古漢語の去声の発展の原因となった。この声調の起源に関する説は、Haudricourt(1954a, b)の提案に従ったものである。それを支持する詳細な証拠と論拠は、次稿で述べる。
### 5. 上古漢語から中古漢語への頭子音の発展の概要
#### 5.1. 喉音と円唇化喉音
下記以外は変化しなかった。
1. \*h + -y- > **ś-** (\*hw- を除く)
2. \*ɦw + -y- > **yw-**
3. 例外的に、\*ꞏ(w)- > **k(w)-**, \*h(w)- > **kh(w)-** (?)
4. \*ꞏ(w)l-, \*h(w)l- > **ꞏ(w)-**, **h(w)-** \
\*ɦl- > **l-** (例外的に \*ɦ-) \
\*ɦwl- > **ɦw-**
5. \*s- + ꞏ(w)- > **ꞏ(w)-** \
\*s- + h- > **ṣ-** (例外的に **tṣh-** ?) \
\*s- + hw- > **hw-** (短母音の前), > **si̯w-** (長母音の前) \
\*s- + ɦ- > **ɦ-** (ただし \*sɦlīꞏ > **ẓi̯ə²** ?) \
\*s- + ɦw- > **ɦw-** (短母音と介音 -i̯- の前), > zi̯w (介音 -y- の前).
#### 5.2. 軟口蓋音と円唇化軟口蓋音
下記以外は変化しなかった。
1. \*g-, \*gw- > **ɦ-**, **ɦw-** (短母音[=非ヨード化母音]の前)
2. \*ŋh- > \*h- (本来の \*h- と同様に発展)
3. \*k-, \*kh-, \*g-, \*ŋ-, \*ŋh- + -y- > **c-**, **ch-**, **j-**, **ń-**, **ś-** (ただし \*sŋy- > **ŋy-** ?)
4. \*-l- はこれらすべての頭子音の後で失われたが、*-y-* を *-i̯-* に変え、上記の口蓋化を防いだ。
5. \*kδ-, \*khδ- > **k-**, **kh-** \
\*kδy-, \*khδy- > **ky-**, **khy-** (口蓋化しない)
6. \*gδ- ( > \*δ-) > **d-**/**y-** (後舌母音・広母音の前), > **ɦ-**/**gy-** (\*i/ī, \*e/ē の前)
7. \*skh- > **tsh-**, **tṣh-** (?)
#### 5.3. 歯音
下記以外は変化しなかった。
1. \*t-, \*th-, \*d- > **c-**, **ch-**, **j-** (全ての長母音[=ヨード化母音]の前)
2. \*tl-, \*thl-, \*dl- > **ṭ-**, **ṭh-**, **ḍ-**
3. \*st-, \*sth-, \*sd- > **ts-**, **tsh-**, **dz-** (?)
4. \*stl-, \*sthl-, \*sdl- > **tṣ-**, **tṣh-**, **dẓ-** (?)
#### 5.4. 歯鼻音
下記以外は変化しなかった。
1. \*nh- > **th-** (短母音の前)
2. \*n-, \*nh- > **ń-**, **ś-** (長母音[=ヨード化母音]の前)
3. \*nl-, \*nhl- > **ṇ-**, **ṭh-**
4. \*nδ- > **y-** (長母音の前), (> **n-** [短母音の前] ?)
5. \*sn-, \*snh > **n-**, **s-** (例外的に **tsh-** ?)
#### 5.5. 側面音
下記以外は変化しなかった。
1. \*lh- > **th-**, **ṭh-**
2. \*-l- は、\*ɦ- (\*ɦw- は除く)と \*v- (長母音の前)を除く子音の後で失われ、先行する歯音の頭子音のそり舌音化を引き起こした。
#### 5.6. 歯摩擦音
1. \*δ-, \*θ- > **d-**, **th-** (短母音の前)
2. \*δ-, \*θ- > **y-** (例外的に **ź-**), **ś-** (長母音[=ヨード化母音]の前)
3. \*δl-, \*θl- > **ḍ-**, **ṭh-**
4. \*sδ- > **d-** (短母音の前), > **zi̯-** (長母音の前) \
\*sθ- > **s-**
#### 5.7. 歯破擦音
下記以外は変化しなかった。
1. tsl, tshl, dzl > tṣ, tṣh, dẓ.
#### 5.8. \*s-
他の子音との組み合わせ以外は変化しなかった。
- \*sl- > **ṣ-**
#### 5.9. 唇音
下記以外は変化しなかった。
- \*sbδ- > \*zd- > **dz-** (?) \
\*sphδ- > **tsh-** (?)
#### 5.10. 唇鼻音
1. \*mδi̯-/\*mδy- > **y-** (**ź-**) を除いて、\*m- は変化しなかった。
2. \*mh- > **hw-**; \*smh- > **sw-** (上古漢語の非円唇母音の前)
3. \*mh- > **h-**/**ś-**; \*smh- > \*sh- > **ṣ-** (例外的に **tṣh-** ?)(上古漢語の円唇母音の前)
#### 5.11. 唇摩擦音
下記を除いて、\*v- > **m-**, \*f- > **h-** となった。
1. \*vl- > **l-** (長母音の前)
2. 例外的に、\*v- > **ɦ-** (?) (\*i > **ə** の前)
3. \*f- > **ts-** (短母音 \*ɑ, \*o の前)
4. \*fl- > **ṭh-** or **h-** (短母音の前では例外的に **ph-** ?)
5. \*vδ- > \*δ- > **d-**/**y-** \
\*fδ- > \*sθ* > **s-** (?)
上古漢語の韻についての詳細は、本誌の次号に掲載される予定の次稿で述べる。
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[^1]: Skt. अक्षोभ्य *Akṣobhya* の転写 ==:bulb: 阿閦 **ꞏâ¹-tṣhi̯uk** = Gd. *Akṣobha*== に用いられる(『法寶義林』: 39)。
[^2]: この諧声系列には、以母 **y-** < \*ŋδ- と邪母 **z-** < \*sŋδ- の両方があるので、\*s- の存在を示唆することはあっても、証明することはできない。チベット語 སོ་ *so* 「歯」との比較については、Simon(1956)を参照。
[^3]: 『説文』には ⟨旬⟩ の声符が ⟨勻⟩ であるとは書かれていないが、“古文”の形 ==⟨𠣙⟩== はそれを暗示している。この2つの単語(旬 **zi̯win¹** 「一周期、10日間」, 勻 **ywin¹** 「等しい、全体的な」)が同源であることは間違いない。
[^4]: 前述 [p. 105](/@YMLi/r1YL4JDV6#10-ɦw--gt-yw-)、後述 [p. 140](#8-唇摩擦音) 参照。
[^5]: これらの文字の声符は 袁 **ɦi̯wân¹** である。派生字の母音 **e** を説明するために、\*-eɑn/\*-ēɑ̄n を仮定することができる。
[^6]: Karlgren(1957: 63 #164a–e)は **si̯wen¹** という読みに疑問を呈しているが、これはサンスクリット語の *-svar-* にこの文字が使われていることから確証できる。例えば 阿會亘 **ꞏâ¹-ɦwâi³-si̯wen¹** = Skt. आभास्वर *ābhāsvara-* (『法寶義林』: 9)。==:bulb: サンスクリット語 *-svar-* はガンダーラ語 *-spar-* となる。==
[^7]: 遷 **tshi̯en¹**, 僊 **si̯en¹** も参照。これらは現代の形では「西」を含むが、古い形には声符「囟」が含まれていた。『説文』3A参照。
[^8]: 末子音 \*-δ は、ここではイラン語の *-z* を表しているようである。これについては韻との関連で後述する。
[^9]: この \*sth- も、\*snh- の可能性がある。ビルマ語 *nit* ==:bulb: ビルマ文語 နှစ် *nhac*==、ボド語 *sni* 「7」、および *n-* または *nh-* を含む同様の形を参照。ただし、カナウリ語 *stiš* にも注意されたい。Wang(1931)参照。
[^10]: Karlgren(1957: 199 #745f)。
[^11]: 丙 **pi̯aŋ²** < \*plɑ̄ŋꞏ が声符と言われている。
[^12]: 配 **phuəi³** は 匹 **pyit** と語源的に関連しており、後者は声符 八 **paət** < \*plet or \*pleat を持つため \*pδ- と再構できる。