# 『詩経』における上古漢語の幽部 \*-u と \*-iw :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳である。 - Baxter, William H. (1986). Old Chinese \*-u and \*-iw in the Shi-jing. In: McCoy, John; Light, Timothy (eds.). *Contributions to Sino-Tibetan studies*. Leiden: Brill. 258–282. [doi: 10.1163/9789004655409_011](https://doi.org/10.1163/9789004655409_011) 誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 原文では中古音の表記にKarlgren(1957)の再構音を一部修正した表記が用いられているが詳細は説明されていない。本訳文では[Baxter(1980)とその訳文](/@YMLi/ByvkRqgi6)で用いた表記に差し替えた。スラッシュの後の表記は[切韻拼音](https://phesoca.com/tupa/)である。 ::: --- ## 1. 序論 私は学位論文(Baxter 1977; Baxter 1980も参照)において上古漢語の韻の再構体系について述べ、伝統的な「幽部」(Karlgrenが \*-ôg と再構したグループ)には、\*-u という韻を持つ単語と \*-iw という韻を持つ単語の両方が含まれると考えた[^1]。通常 \*-u と \*-iw は韻を踏むことができないと考えられるので、この提案は上古漢語の押韻に関する伝統的な分析とは相容れないものであり、幽部を2つの韻部に分割すべきであると提案するものである。本研究は、『詩経』の押韻の証拠がこの仮説を支持するかどうかを検証する試みである。データ分析を行う([§4](#4-押韻分析))前に、まず上古漢語の押韻に関する伝統的な分析の性質について述べ([§2](#2-伝統的な分析の性質))、提案する再構の根拠となる仮定について要約する([§3](#3-提案する再構の前提))。不規則と思われる押韻については[§5](#5-混合押韻ペアの説明)で、結論とその含意については[§6](#6-結論と含意)で述べる。 ## 2. 伝統的な分析の性質 上古漢語の押韻に関する「伝統的な分析」とは、王念孫(1744–1832)と江有誥(–1851)を筆頭とする清代の中国人研究者によって開発された韻部のセットを意味する。この伝統的な分析は、現代の研究者にも基本的に正しいものとして認められている。今世紀に入ってから、特に王力(Wang 1937)と董同龢(Dong 1948)の研究によって若干の修正が加えられているが、この改訂は本論文で論じる韻部には影響しない。 清代の研究者は韻部の分析について素晴らしい成果を上げたが、私はいくつかの点で伝統的な分析に反対するつもりなので、まず非表音的な文字で書かれた詩から押韻の証拠を分析する際に生じるいくつかの問題について簡単に論じるのが適切であろう。中国語の話者ならば、『詩経』を読んですぐに、==位置から判断して== 韻を踏んでいそうな単語が、現代の発音では韻を踏んでいないことに気づくだろう。例えば、『邶風・燕燕』28の第3節を見てみよう。 > 燕燕于飛、下上其音。 *Yàn yàn yú fēi, xià shàng qí yīn.* \ > 之子于歸、遠送于南。 *Zhī zǐ yú guī, yuǎn sòng yú nán.* \ > 瞻望弗及、實勞我心。 *Zhān wàng fú jí, shí láo wǒ xīn.* この節は明らかに 音 *yīn*, 南 *nán*, 心 *xīn* で韻を踏むことを意図しているが、南 *nán* は現代の発音ではもはや 音 *yīn* や 心 *xīn* とは韻を踏んでいない。このケースでは、上古漢語の時代以降に韻の対立が生まれたからである。 『詩経』からこの種の特異な押韻を発見するのが容易であるのに対して、韻の対立が「失われた」ケースを発見するには入念な調査が必要である。例えば、後期中古漢語(Pulleyblank 1970–71参照)以降、南 *nán* はほとんどの方言で 談 *tán* 「しゃべる」や 甘 *gān* 「甘い」と韻を踏んでいる。したがって、最近の中国語方言の話者が 南 *nán* の例から一般化して、談 *tán* と 甘 *gān* も 音 *yīn* と 心 *xīn* と同じ韻部に属すると結論付けるのは簡単であろう。顧炎武(1613–1682)は、上古漢語で韻を踏んでいる単語を10の韻部に分類して分析し、まさにこの結論を導き出した。彼の体系では、音 *yīn*, 心 *xīn*, 南 *nán*, 談 *tán*, 甘 *gān* はすべて「第十部」に分類されている(Wang 1935: 285–7)。江永(1681–1762)は、顧炎武の第十部を二つに分割し、南 *nán* は 音 *yīn* と 心 *xīn* と同じ韻部に属するが、談 *tán* と 甘 *gān* はそれとは別の韻部に属するべきことを最初に発見したようである(Wang 1935: 296–9)。顧炎武の第十部は、段玉裁や後の学者たちにも受け入れられた。 単一の韻部だと思われていたものが、証拠を深く調べると2つ以上の韻部に細かく分割できることがわかったというケースは他にもたくさんある。このことは、認識された韻部の数が、伝統的な上古漢語の押韻研究の歴史の中で徐々に増えていった理由を説明している。前述したように顧炎武は上古漢語に10の韻部を仮定したが、段玉裁は17、孔広森は18、王念孫と江有誥はそれぞれ21の韻部を仮定した。王念孫は後に孔広森の区別を取り入れ、最終的にその数は22となった。このような発展をまとめると、初期の中国の研究者は上古漢語の韻部は非常に広いものであるという印象を持っていたが、後に、上古漢語は後の中国語に比べて韻部の数が少なかったわけではなく、しばしば現代の発音に基づく区分を横断することもある、異なる区分を持つという特徴があることを発見したということである。 後世に失われた上古漢語の韻の対立を認識するという問題は、原理的には、単語ごとに現代の発音とは関係なく韻部を決めることで解決できる。しかし、『詩経』には例外的な押韻、すなわち伝統的な分析による境界を明らかに踏み越えた押韻が存在するため、問題は複雑である。このような例外は、部分的には方言の違いによるものであることは間違いない。少なくとも『詩経・国風』に収録されている詩は、王国のさまざまな地域から採られたようであり、したがってさまざまな方言を代表している可能性がある。一方で、Karlgrenが「ヘッジ」韻と呼ぶ、詩人自身の方言で考えても非音韻的な押韻が行われるケースも間違いなく存在している。 もちろん、ある押韻が例外的なものかどうか、どのように判断するかが問題となる。例えば、AとBという2つの単語グループがあり、それぞれのグループの単語がそのグループ内で自由に韻を踏んでいるとする。AとBを1つの韻部にまとめるべきかどうかを判断するにはどうすればよいだろうか。明らかに、Aグループの単語がBグループの単語と韻を踏むことがない場合、2つのグループは全く別の韻部とみなすことができる。しかし、AとBが一つの韻部を形成していると結論づけるには、AグループとBグループが韻を踏んでいる例がいくつ存在すればいいのだろうか。これは、コーパスの総サイズ、各グループに含まれる単語の数とその頻度などに依存する、かなり複雑な問題である。[§4](#4-押韻分析)では、このような疑問を統計的手法によって原理的な方法で扱うことができると私が考える方法を提案する。これは伝統的な中国の研究者にはなかった手法である。新しい分析技術や上古漢語の再構から導き出された新しい仮説が利用可能になったことで、上古漢語の押韻に関する伝統的な分析に再検討が求められる可能性があることを示したい。 ## 3. 提案する再構の前提 よく言われることだが、上古漢語に関する我々の知識は、主に2つの証拠に基づいている。時に見落とされがちなのは、上古漢語の構造に関する多くの推測が、中古漢語の音韻要素の分布から導き出せるということである。この分布から、音韻パターンに基づく一種の内的再構を行うことが可能である(中古漢語では稀か、少なくとも痕跡的なものしか残っていない形態論的交替に基づくものではない)。 例えば、中古漢語の頭子音体系は非常に複雑であるが、その中には分布が極端に限定された頭子音クラスがある。例えば、Karlgrenが *tś-*, *tśh-*, *dźh-*, *ź-*, *ś-*, *nź-* と再構した硬口蓋音(以下、章組 *TŚ-*/*Tj-*)は、韻図三等に置かれる韻とのみ共起する。一方、単純な歯閉鎖音はそのような韻とはまったく共起しない(明らかに例外的な発展を示すいくつかの単語を除く。不思議なことに、一般的な単語である 地 *di³*/*dih* 「土地」がそうである)。章組 *TŚ-*/*Tj-* は、少なくとも部分的には、もともと通常の歯音であったのが三等韻に特徴的な介音 *-j-* の影響を受けて二次的に発展したものと論理的に結論づけられる[^2]。この結論は、当然ながら諧声系列の証拠によっても裏付けられているが、中古漢語の音韻パターンだけから導き出すことも可能なのである。 私が提案する上古漢語の韻体系の再構は、特に中古漢語の音韻パターンから得られる証拠に依拠している。一般的に、私は再構体系が以下の条件を満たすことを念頭に置いていた。 1. 中古漢語のすべての対立を説明するものでなければならない。 2. 加えて、伝統的な分析に組み込まれている上古漢語の韻のすべての対立を説明し、諧声系列の証拠と一致していなければならない。 3. 共時的な音韻構造としてもっともらしいものであるべきである。 段玉裁以来、『詩経』の押韻パターンが諧声系列が示す音韻体系とほぼ一致していることはよく知られている(ただし、諧声系列は時折やや初期の段階を示しているようであり、どちらの証拠も特定の時間や場所に結びつけることはできない)。しかし、中古漢語の音韻構造から逆算して再構された体系が、これらの証拠のどちらかに反映される体系と同時代であるとは限らない。この3種類の証拠すべてを単一の体系で説明しようとすれば、どの ==1種類の証拠のみによる== 体系よりもある程度早い段階の体系が得られると予想される。こうした理由から、私は提案する再構体系が上古漢語の押韻に関する伝統的な分析と完全に一致することを必要条件とはしなかった。私は、伝統的な分析で認められているすべての対立を説明しようと努めたが、伝統的な分析では見出されなかった対立についても、中古漢語の証拠がそれを示唆していると考えられる場合には取り入れることとした。 この点については、私が提案する上古漢語の母音体系の再構を検討することで明らかににすることができるだろう。前述したように、中古漢語の頭子音クラスのうちのいくつかは、その分布から、音節における介音要素の存在によって条件付けられた二次的な発展であると思われる。こうした二次的発展に関して、私の体系にもほぼ踏襲されている李方桂の再構(Li 1971)では、以下のように再構されている。 - \*Tj- > 章組 *TŚj-*/*Tj-* - \*Tr(j)- > 知組 *Ṭ(j)-*/*Tr-* - \*TSr(j)- > 莊組 *TṢ(j)-*/*TSr-* (なお、私はPulleyblankに従って、章組 *TŚj-*/*Tj-* には時に \*Kj- などの他の起源も含まれると仮定している。また、中古漢語のある種の頭子音のいわゆる「ヨード化」異音の発達も、後続する介音 \*j の影響によるものと考えられる。) 中古漢語のある種の韻、すなわち一等韻と「純」四等韻は、これらの二次的な頭子音とは決して共起しない。したがって、この韻を持つ音節は上古漢語の段階では介音要素を持たず、こうした音節に見られる対立は、頭子音や末子音に帰することができない場合には主母音に帰すべきであると論理的に結論付けられる。末尾 *-n* の音節を例にとると、「単純」な頭子音とのみ共起するのは以下の韻である。 | 等 | 韻 | | :--- | :------------------ | | 一等 | 寒韻 *-ân*/*-an* | | | 桓韻 *-uân*/*-wan* | | | 痕韻 *-ən*/*-eon* | | | 魂韻 *-uən*/*-on* | | 四等 | 先韻 *-ien*/*-en* | | | 先韻 *-iwen*/*-wen* | 痕韻 *-ən*/*-eon* ⇔ 魂韻 *-uən*/*-on* と 先韻 *-ien*/*-en* ⇔ *-iwen*/*-wen* の場合、開合の対立(円唇性の介音を持つかどうか)は頭子音に軟口蓋音か喉音を持つ単語に限定されるため、(Pulleyblank 1962: 95–6が示すように)頭子音に唇化軟口蓋音・喉音の系列を仮定することで説明できる。しかし寒韻 *-ân*/*-an* ⇔ 桓韻 *-uân*/*-wan* は、他の種類の頭子音の後でも対立がある。したがって、中古漢語の音韻パターンは、以下の4つの韻に対してそれぞれ異なる母音を再構する必要があることを示唆しているのである。 | 等 | 韻 | | :--- | :----------------------- | | 一等 | 寒韻 *-ân*/*-an* | | | 桓韻 *-uân*/*-wan* | | | 痕魂韻 *-(u)ən*/*-(e)on* | | 四等 | 先韻 *-ien*/*-en* | しかし、上古漢語の押韻に関する伝統的な分析によれば、先韻 *-ien*/*-en* の単語は元部・文部・真部の3つの韻部にわたって分布しているため、さらに母音の対立を追加する必要があるとされている。したがって、中古漢語の韻と伝統的な分析による韻の対立の両方を説明するためには、以下の各行に対応する、合計6つの母音が必要である。 | | MC | OC韻部 | | :--- | :----------------------- | :----- | | 1 | 寒韻 *-ân*/*-an* | 元部 | | 2 | 桓韻 *-uân*/*-wan* | 元部 | | 3 | 痕魂韻 *-(u)ən*/*-(e)on* | 文部 | | 4 | 先韻 *-ien*/*-en* | 元部 | | 5 | 先韻 *-ien*/*-en* | 文部 | | 6 | 先韻 *-ien*/*-en* | 真部 | Bodman(1971)が提案するような6母音の体系は、この条件を満たしている(本論文ではBodmanの \*ə の代わりに \*ɨ を用いる)。 $$ \begin{array}{l} \text{i} & \text{ɨ} & \text{u} \\ \text{e} & & \text{o} \\ & \text{a} & \end{array} $$ このような体系は、[±後舌][±高][±円唇]の3つの特徴によって定義される(後舌母音は冗長的に円唇化する)と分析できる(詳細はBaxter 1977, 1979, 1980参照)。介音を伴わない *-n* 終わりの音節の発展は次のように説明される。 | | OC韻部 | MC | | :---- | :----- | :--------------------------------- | | \*-in | 真部 | 先韻 *-ien*/*-en* | | \*-ɨn | 文部 | 先韻 *-ien*/*-en* (鋭音の後) | | | | 痕韻 *-ən*/*-eon* (鈍音の後)[^3] | | \*-un | 文部 | 魂韻 *-uən*/*-on* | | \*-en | 元部 | 先韻 *-ien*/*-en* | | \*-an | 元部 | 寒韻 *-ân*/*-an* | | \*-on | 元部 | 桓韻 *-uân*/*-wan* | この6母音体系は、*-n* で終わる音節だけでなく、それ以外の音節においても必要な対立をすべて説明できるようである。したがってこの体系は、7種の異なる主母音タイプ(\*a, \*ə, \*i, \*u, \*ia, \*iə, \*ua)を想定している李方桂の体系よりもやや緊密である(この2つの体系の比較とさらなる議論はBaxter 1980参照)。例外もあるが、一般的には、中古漢語の一等韻は後舌母音で再構され、四等韻は非後舌母音で再構される。 この再構体系は、上古漢語の押韻に関する伝統的な分析のすべての対立を説明してはいるが、その分析と矛盾しているようにも見える。\*-en, \*-an, \*-on で終わる音節は韻を踏むことができないはずだが、この3つのタイプはすべて、元部という単一の韻部に含まれる。同様に、\*-in と \*-un の音節が韻を踏むことはないはずだが、この2つの音節はともに文部に含まれる。 私の提案する再構体系と伝統的な分析との間には、このような矛盾と思われるものが他にも多く存在している。なぜなら、伝統的な韻部の中には中古漢語の一等韻と四等韻の両方を含むものがいくつか存在するが、この再構案では一等韻と四等韻に通常異なる母音が用いられるためである。 もちろん、この再構案に反映されている体系は『詩経』よりも前の段階を代表している可能性があるため、それと『詩経』の押韻に関する伝統的な分析との間の矛盾は、『詩経』の時代までに押韻のパターンに影響した音変化を仮定することで説明することができる。例えば、再構した \*-en と \*-on が \*-an と同じ韻部に含まれる理由を説明するには、\*-en > \*-ian と \*-on > \*-uan という二重母音化を仮定すればよい。同様に、\*-un と \*-ɨn が同じ韻部に含まれる理由を説明するには、\*-un > \*-uɨn という二重母音化を仮定すればよい。このような二重母音化の結果生じる体系は、李方桂の再構(Li 1971)によく似ている。 しかし、もう一つの可能性として、中古漢語の音韻パターンから得られた証拠が、伝統的な分析が単に見落としていた対立を明らかにしたという可能性もある。[§2](#2-伝統的な分析の性質)の議論では、このようなことがあり得ること、そして過去にあったことを示した。実際、元部のうち特定の合口の単語は \*-on で再構されるべきであると最初に主張したJaxontovは、\*-on で再構された単語は『詩経』でも依然として別の韻部を構成していたと主張している(Jaxontov 1960)。\*-en と \*-an との間で韻を踏んだ痕跡があるかどうかは、まだ調査中である。 このような背景を念頭に置いて、今度は幽部に目を向け、提案した再構による仮定がどのように適用されるかを見てみよう。伝統的な分析(Luo & Zhou 1958:19)によれば、この韻部には中古漢語の以下の韻を持つ単語が含まれる。 1. 豪韻 *-âu*/*-aw* の一部の単語(この韻には宵部に由来する単語も含まれる) 2. 肴韻 *-au*/*-aew* の一部の単語(この韻には宵部に由来する単語も含まれる) 3. 蕭韻 *-ieu*/*-ew* の一部の単語(この韻には宵部に由来する単語も含まれる) 4. 尤韻 *-jə̯u*/*-u* のほぼすべての単語(之部に由来する少数の単語を除く) 5. 幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* のすべての単語 6. 侯韻 *-ə̯u*/*-ou* の少数の単語 7. 宵韻 *-jäu*/*-iew* の少数の単語 8. 脂B韻合口 *-jwi₃*/*-ui* の少数の単語 上記の *n-* で終わる音節で説明したのと同じ推論に従えば、この韻部に再構されるべき基本的な母音タイプを知る手がかりとして、一等韻と四等韻の音節を使うことができる。一等韻の豪韻 *-âu*/*-aw* に対して、私は \*-u を再構する(Pulleyblank 1962や、最近ではWang 1978と同様)[^4]。四等韻の蕭韻 *-ieu*/*-ew* に対しては、私は \*-iw を再構する。上で最後に挙げたもう一つの一等韻である侯韻 *-ə̯u*/*-ou* については、この韻部では非常に珍しいので、Li(1971: 31)と同様に例外的なものとして扱うことにする[^5]。先行する介音要素を加えると、この韻部から発展する中古漢語の韻は次のように説明される(より詳細な議論についてはBaxter 1977, 1980を参照)。 | OC | > MC | | OC | > MC | | :--------------- | :------------------ | :--- | :--------- | :---------------------------- | | \*-u | > 豪韻 *-âu*/*-aw* | | \*-iw | > 蕭韻 *-ieu*/*-ew* | | \*-ru | > 肴韻 *-au*/*-aew* | | \*-riw | > 肴韻 *-au*/*-aew* | | \*-\(r)ju | > 尤韻 *-jə̯u*/*-u* | | \*-\(r)jiw | > 幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* (鈍音) | | (ただし \*Kwrju | > *Kjwi₃*/*Kui*) | | | > 尤韻 *-jə̯u*/*-u* (鋭音) | 宵韻 *-jäu*/*-iew* の単語は非常に少ないため、私は例外的な発展と考えている。 伝統的な分析に従って、この韻部のすべての単語が自由に韻を踏んでいたと仮定するならば、\*-u の単語と \*-iw の単語とがどのようにして韻を踏むようになったのかを説明するためには、再構された段階と『詩経』の方言との間に何らかの発展があったと仮定しなければならない。これを解決する方法の一つは、\*-u > \*-ɨw と \*-iw > \*-iɨw という二重母音化を仮定することである(この変化を経たこの韻部の体系は、李方桂の再構とは、\*-əgw が私の \*-u に対応し、\*-iəgw がほぼ私の \*-iw に対応するという表面的な違いのみとなる)。しかし、上古漢語の押韻に関する伝統的な分析についての前述の議論に照らせば、本来の \*-u と \*-iw の韻の対立は『詩経』でも維持されており、伝統的な分析ではそれが見落とされていただけであるという可能性を調べる必要がある。もし、そのような韻の対立が見つかれば、もちろん、提案した再構体系のさらなる裏付けとなるだろう。 ## 4. 押韻分析 『詩経』の押韻を用いて \*-u と \*-iw は別々に韻を踏むという仮説を検証するためには、伝統的な幽部の単語のうちどれを \*-u で再構し、どれを \*-iw で再構するかを決めなければならない。この境界を引くのに押韻の証拠を使うと循環論法となる危険性がある。そこで、代わりに中古漢語の読みと諧声関係の証拠のみに基づいて \*-u と \*-iw の単語を同定する。 中古漢語の韻には、\*-u のみに由来するもの(豪韻 *-âu*/*-aw*、脂B韻 *-jwi₃*/*-ui*、鈍音の後の尤韻 *-jə̯u*/*-u*)や、\*-iw のみに由来するもの(蕭韻 *-ieu*/*-ew*、幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw*)があるため、中古漢語の読みのみから、\*-u か \*-iw かが強制的に決まることもある。しかし、中古漢語の読みが \*-u にも \*-iw にも遡ることができる場合も多い。例えば、肴韻 *-au*/*-aew* (< \*-ru or \*-riw) の単語、鋭音の後の尤韻 *-jə̯u*/*-u* (< \*-ju or \*-jiw) の単語がそうである。このような場合、同じ諧声系列にある他の単語の中古漢語の読みを基に単語を再構できることが多い。例えば、膠 *kau(H)*/*kaew(h)* (GSR 1069)の諧声系列には、中古漢語で蕭韻 *-ieu*/*-ew* や幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* の読みを持つ単語が多く含まれ、一等韻の読みを持つ単語は1つだけである(GSR 1069r: 醪 *lâu*/*law* 「濁り酒」)。これに基づいて、私は 膠 を \*kru ではなく \*kriw と再構する。同様の理由で、1028 肅, 1031 叔, 1064 丩 (also 1103, 1139), 1069 翏, 1077 攸, 1079 由, 1083 周, 1092 秋 の諧声系列の単語にも \*-iw を再構する。しかし、諧声系列に含まれる全ての(少なくともGSRに掲載されている)単語が中古漢語で曖昧な韻を持っているために、諧声系列が何の役にも立たないケースもある。例えば、GSR 1095 秀 と 1096 酉 がそうである。本研究では一般的に、幽部の単語については、そうしなければならない特別な理由がある場合のみに \*-iw を再構し、それ以外の場合は暫定的に \*-u で再構することとする[^6]。付録1には、幽部の韻を踏む単語を諧声系列の別に列挙し、その中古漢語の読みと諧声関係が示すと思われる \*-u または \*-iw の同定を付記した。このリストは、Zhou(1966b)のリストに若干の変更(Karlgren 1950で提案されたいくつかの修正を含む)を加えたものに基づく。 『毛詩韻讀』、Karlgren(1950)、Lu(1948)を参照して『詩経』における幽部の押韻を特定し、本研究のコーパスを構築した。幽部の単語が単独で他の韻部の単語と韻を踏んでいる場合、不規則的なものとして除外した(複数の幽部の単語が他の韻部と韻を踏んでいる場合、幽部の単語だけで構成される押韻ペアのみをコーパスに含め、不規則的な押韻韻ペアは除外した。押韻ペアに関する後述の議論を参照)。幽部のみで構成される押韻であれば、複数の中古漢語の声調を含むものであっても、不規則的なものとは扱わないこととした。どれが韻を踏む単語として意図されているのか、また、ある韻列を2つ以上に分けるべきかどうかについて、研究者によって完全に意見が一致することは稀である。このような疑問について、私は自分の判断を正当化するつもりはない。付録2にはコーパスに含まれる韻文を列挙している。 付録2からわかるように、\*-u の単語のみを含む押韻が105個、\*-iw の単語のみを含む押韻が10個、両方を含む押韻が10個あり、その合計は125個である。しかし、この情報を解釈するためには、次の理由からさらなる分析が必要である。 1. 韻列内で同時に韻を踏んでいる単語の数はバラバラなので、「韻列」の数は、韻を踏んだ数として適切ではない。 2. 観察された押韻の分布が仮説を支持するかしないかを判断する基準を開発しなければならない。 2番目の問題を最初に取り上げることにする。 カイ二乗検定として知られる統計手法は、与えられた事象の分布が、与えられた仮説によって予測される分布と有意に異なるかどうかを判定するのに使用できる。まず簡単な例として、コインを投げることを考えてみよう。「公平」なコインを100回投げた場合、最も可能性の高い表と裏の分布は、表が50回、裏が50回である。つまり、このテストが何度も繰り返される場合、これが最も頻繁に起こる表と裏の分布である。しかし、公平なコインであっても、全ての試行で正確に50%が表になるとは限らない。例えば、表が51回、裏が49回となる可能性は、表が50枚、裏が50枚よりわずかに低いだけである。一方、コインの表が100回続いたら、ほとんどの人は「このコインは公平ではない」と結論づけるだろう。しかし、ある表と裏の分布(例えば、表が70回、裏が30回)が、コインが公平でないことを示すのに十分なほど「偏っている」かどうか、どのように判断するのだろうか。 このような質問には、カイ二乗検定を使って答えることができる。この手法では、ある事象が観測された頻度と、ある仮説によって期待される頻度を比較することによって、$\chi ^ 2$ という値が算出される。観察された頻度と期待される頻度との間の不一致が大きければ大きいほど、$\chi ^ 2$ の値は大きくなる。$\chi ^ 2$ の大きさから、統計表を用いて、観察された頻度が偶然に起こりうる確率を求めることができる。 例を挙げると、コインを100回投げて表が70回出た場合、$\chi ^ 2$ は表1のように計算される。表1の最初の列は、観測された頻度($f_o$)、すなわち70回の表と30回の裏を示している。2列目は、コインが公平であるという仮説に基づいて期待される頻度($f_e$)、すなわち50回の表と50回の裏を示している。3列目は最初の2つの差である($f_o - f_e$)。4列目ではこの値が2乗されている。5列目では $\chi ^ 2$ 自体が計算されている。表と裏のそれぞれの可能性について、観察された頻度と期待される頻度との差の2乗が、期待される頻度で割られる。この列の合計が $\chi ^ 2$ である。この場合、$\chi ^ 2 = 16$ であることがわかる。$\chi ^ 2$ の分布表(Senter 1969: 501など、統計学の基礎的教科書にあるようなもの)を参照すると、今回の例(「自由度」[^7]が $1$)では、$\chi ^ 2$ の値が $10.827$ を超えると、信頼度 $.001$ の水準で有意であることがわかる。これは、観察された頻度と期待される頻度との間にこのような大きな不一致が偶然に起こる確率が $0.001$ 未満、すなわち1000分の1未満であることを意味する。統計学では、仮説によって期待される頻度が、信頼度が $0.05$ 未満、つまり20分の1より小さいほど十分に観察された頻度と異なる場合、仮説を棄却するのが通例である。このように、カイ二乗検定によって、公平なコインがこのコインのような振る舞いをする可能性は極めて低いことがわかり、このコインが公平であったという仮説を合理的に棄却することができる(このカイ二乗検定に関する議論は、主にSenter 1969: 345–62に基づく)。 :spiral_note_pad: **表1** $$ \def\arraystretch{1.3} \begin{array}{lrrrrr} \hline \hline & f_o & f_e & f_o - f_e & (f_o - f_e) ^ 2 & \frac{(f_o - f_e) ^ 2}{f_e} \\ \hline \text{表} & 70 & 50 & 20 & 400 & 8 \\ \text{裏} & 30 & 50 & -20 & 400 & 8 \\ & \overline{100} & \overline{100} & & & \overline{\chi ^ 2 = 16} \\ \hline \end{array} $$ コインの例では、(1)コインは公平である、(2)コインは公平ではない、という2つの仮説のどちらかを選ぼうとしていた。カイ二乗分析で検証されたのは前者の仮説であったが、それはこの仮説が期待される頻度について具体的な予測をするからである。後者の仮説は、表と裏の特定の分布を予測するほど具体的なものではない。同様に、カイ二乗検定を用いて \*-u と \*-iw の単語が互いに自由に韻を踏むという「帰無仮説」を検定することで、この2つの韻の単語が別々の韻部を形成しているという仮説を検証することができる[^8]。期待頻度と観測頻度が比較される事象は、幽部の単語の押韻の種類、すなわち、\*-u の単語のみからなる数、\*-iw の単語のみからなる数、そして両方の単語を含む数である。しかし、これらの出来事の期待頻度を計算するためには、「互いが自由に韻を踏む」とは何を意味するのかを正確に定義し、その事象を数えるための「韻列」よりも均一な単位を開発しなければならない。 私は「互いに自由に韻を踏む」とは、詩人がいったん韻部を選べば、その韻部内では自由に単語を選択できるようになる、ことと解釈している。これは、韻部内のすべての単語が等しく韻を踏む単語として選ばれる可能性があるということを意味するものではない。韻にかかわらず、ある単語は他の単語よりも出現する可能性が高いからである。しかし、ある韻部から韻を踏むための単語が1つ選ばれた後、押韻を完成させるために他の任意の単語が選ばれる可能性は、その単語の全体的な出現頻度に比例するはずである。仮の例として、単語A, B, Cは自由に韻を踏むと仮定し、大規模コーパスの中でBはCの2倍の頻度で韻を踏んでいるとしよう。もしこれらの単語が本当に自由に韻を踏むのであれば、AがBと韻を踏む頻度は、AがCと韻を踏む頻度の約2倍になると予想される。コーパスの中ではBの方がCよりも頻出するにもかかわらず、AがBと韻を踏むのは稀で、Cとは頻繁に韻を踏むとしたら、AとBは自由に韻を踏まないという結論になる。 したがって、3種類の押韻(全て \*-u、全て \*-iw、混合)の予想頻度を計算するためには、韻を踏む単語の出現頻度を考慮しなければならない。また、異なる長さの韻列をどのように数えるかも決めなければならない。10語の \*-iw 単語からなる韻列は、たった2語の \*-iw 単語からなる韻列よりも、\*-iw という韻部の実在性を示すはるかに強力な証拠となることは明らかである。しかし、ある単純化された仮定がなされない限り、様々な長さの韻列を韻を押韻行動モデルに組み込むことは難しい。この問題に対しては、韻列は事実上ペアとして選ばれると仮定して対処することにする。すなわち、詩人は韻を踏む単語を、直前の韻を踏む単語とだけ韻を踏むように選んだということである。この仮定のもとでは、3語からなる韻列A-B-Cは、連続する2つのペア(A-BとB-C)として分析できる(これは事実上、韻列をマルコフ連鎖として扱うことを意味する)。韻を踏むという行為はこれよりもずっと複雑なものであることは確かだが、この仮定は、さまざまな種類の押韻を数えるための均一な大きさの単位を提供するものであり、私の仮説に賛成でも反対でも偏りがあるとは思わない。 本研究では以降、韻列ではなく、押韻ペアについて議論することとする。この扱いは、規則的な押韻と不規則的な押韻を数える方法と、与えられた押韻の頻度を計算する方法の両方に影響する。例えば \*ku - \*liw - \*tu という韻列は、2つの押韻ペア \*ku - \*liw と \*liw - \*tu として分析される。どちらのペアも、\*-u と \*-iw のカテゴリーの境界を越えているため、不規則的な押韻に数えられる。さらに、単語 \*liw は2つの異なるペアで出現するため、出現回数は2回と数えられるが、\*ku と \*tu はそれぞれ1回だけとして数えられる。しかし、もし \*ku \*tu \*liw という順番であれば、この韻列は規則的なペア(\*ku \*tu)と不規則的なペア(\*tu \*liw)として1回ずつ数えられることになり、また \*tu の出現回数は2回と数えられる。したがってこの韻列は、最初の韻列の半分の不規則性を持つものとして扱われる。なぜなら、\*-u グループと \*-iw グループの境界を越えたのが2回ではなく、1回だけだからである。他にも押韻行動モデルを考案することが可能であることは承知しているが、これは私が考案した中で最も満足のいくものである。 この押韻ペアという概念を付録2の韻列に適用すると、125の韻列は228の押韻ペアからなり、そのうち201組は \*-u の単語のみ、12組は \*-iw の単語のみ、15組は\*-u と \*-iw の混在であることがわかる(これらの例外的な押韻については、[§5](#5-混合押韻ペアの説明)で適切と考えられる説明をするつもりだが、この時点で説明するつもりはない)。 \*-u と \*-iwの出現頻度は次のように計算できる。すべての押韻ペアは2つの単語から構成されるので、このコーパスにおける単語の出現回数は単純に 2 × 228 = 456 回となる。この456回のうち、417回(91.45%)が \*-u の単語であり、39回(8.55%)が \*-iw の単語である。 異なる種類の押韻ペアの期待頻度を計算するには、この456回の出現頻度セットを、漢字が書かれた456個の球が入った瓶と考えることができる。すなわち、幽部の各単語について、このコーパスにおけるその単語の出現回数と同じ数の球が瓶の中に入っているのである。さらに、私が提案した再構によれば、各ボールは \*-u か \*-iw のどちらかのラベルが貼られていると仮定できるだろう。瓶から球を1つ取り出した場合、それが \*-u の球である確率は $.9145 = 91.45\%$ であり、\*-iw の球である確率は $.0855 = 8.55\%$ である[^9]。つまり、1つの球を取り出す(そのたびに球を瓶に戻す)ことを何度も繰り返せば、\*-u の球を引いた割合は91.45%に近づき、\*-iw の球を引いた割合は8.55%に近づく。 \*-u と \*-iw は自由に韻を踏むという仮説の下での期待頻度は、瓶から2つの球を続けて取り出した場合にどうなるかを考えることで計算できる(今回は、2つ目の球を引く前に1つ目の球を瓶に戻すと仮定するが、やはりここでも、他のモデルを使うことは可能である)。1つ目の球と2つ目の球の両方が \*-u の球である確率は、$.9145 × .9145 = .8363$ である。同様に、1つ目の球と2つ目の球の両方が \*-iwの球である確率は、$.0855 × .0855 = .0073$ である。混合ペアは、最初に \*-u の球を取り出し次に \*-iw の球を取り出す(確率 $.9145 × .0855 = .0782$)か、最初に \*-iw の球を取り出し次に \*-u の球を取り出す(確率 $.0855 × .9145 = .0782$)か、2通りの取り出し方がある。どちらかの方法で混合ペアを引く確率は、あわせて $.0782 + .0782 = .1564$ である。これらの確率にそれぞれ $228$ を乗じるだけで、228組のコーパスに含まれる押韻ペアの期待頻度を求めることができる。観測頻度と期待頻度を表にして、$\chi ^ 2$ を計算したものを表2に示す。 :spiral_note_pad: **表2** $$ \def\arraystretch{1.3} \begin{array}{lrrrrr} \hline \hline & f_o & f_e & f_o - f_e & (f_o - f_e) ^ 2 & \frac{(f_o - f_e) ^ 2}{f_e} \\ \hline \text{*-u ペア} & 201 & 190.68 & 10.32 & 106.50 & 0.56 \\ \text{混合ペア} & 15 & 35.66 & -20.66 & 426.84 & 11.97 \\ \text{*-iw ペア} & 12 & 1.66 & 10.34 & 106.92 & 64.41 \\ & \overline{228} & \overline{228.00} & & & \overline{\chi ^ 2 = 76.94} \\ \hline \end{array} $$ こうして算出された $\chi ^ 2$ の値は $76.94$ である。今回の自由度が $2$ の問題では、$\chi ^ 2$ の値が $13.82$ を超えるものは、$.001$ の水準で有意である。つまり、期待頻度からこのような大きな変動が偶然に起こる確率は1000分の1以下である。平たく言えば、\*-iw の単語のみからなる押韻があまりにも多く、\*-u と \*-iw が混在する押韻があまりにも少ないため、\*-u と \*-iw は互いに自由に韻を踏むという仮説と適合しない。観察された押韻パターンを説明するには、何か別の仮説を立てなければならない。 ## 5. 混合押韻ペアの説明 カイ二乗検定は、\*-u と \*-iw が自由に韻を踏むという「帰無仮説」を棄却することはできるが、その代わりにどのような仮説を立てればよいかは教えてくれない。特に、幽部の単語のすべてが自由に韻を踏んでいるわけではないことは確認できたが、グループをどのように分ければよいかをカイ二乗検定から正確に知ることはできない。\*-u グループと \*-iw グループの境界は、中古漢語の読みと、対象の単語の諧声関係に基づいて引かれたものである。今のところ、こうして引かれた境界は、『詩経』の押韻を説明するのに特に良い方法とは思えない。統計の結果にかかわらず、\*-iw の押韻ペアよりも混合押韻ペアの方が多いからである。 ちなみに、中古漢語の韻が曖昧な単語について、もし諧声関係の証拠だけでなく、押韻の証拠をも用いて再構を決定していれば、混合押韻ペアの数を減らし、提案した再構とより一致させることができたかもしれない。繡, 悠, 滺, 妯, 抽, 裯 はすべて中古漢語で尤韻 *-jə̯u*/*-u* であり、\*-ju か \*-jiw のどちらかに由来する。これらの単語はすべて蕭韻 *-ieu*/*-ew* または錫韻 *-iek*/*-ek* の単語と諧声関係を持つため、\*-iw グループとした。しかしどの単語も、その中古漢語の韻が排他的に \*-iw を示すような単語とは韻を踏んでいない。もしこれらの単語を『詩経』の押韻に基づいて \*-ju で再構し、諧声関係を単純に不規則的なものとみなせば、15組の混合押韻ペアのうち13組を除外できただろう。 しかし、この手法は私には循環的なものに思える。まずは諧声関係の証拠と『詩経』の押韻の証拠を別々に検討し、それから2種類の証拠の含意を比較するのが望ましいと考えられる。今回の場合、諧声関係の証拠と『詩経』の押文の証拠との間に見られる矛盾は、『詩経』の押韻が諧声系列に代表されている段階よりも後の段階を反映していることがあると仮定することで解決できる。 \*-u の単語と \*-iw の単語が混在した押韻に関する重要な事実は、そのような押韻の \*-iw の単語は例外なく中古漢語で尤韻 *-jə̯u*/*-u* を持つということである。Karlgrenによるこの *ə̯* は「非常に短く、従属的な要素」(1954: 268)を表すことを意図しているが、実際には、この韻のいくつかの方言の反射に見られる \[ə] はおそらく『切韻』の時代以降に発達したものであり、中古漢語の初期段階では単に「*-ju*」と書くべきであろう(Pulleyblank 1962: 85参照)。したがって、『詩経』における全ての \*-iw と \*-u の間の押韻は、ある方言において、鋭音の後の \*-jiw が既に \*-ju に変化していたと仮定することで説明できる。幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* < \*-jiw は鈍音の後に限られるため、==鋭音の後の== 中古漢語の反射を説明するには、いずれにせよこの変化を ==上古漢語から中古漢語に至るどこかの段階に== 想定する必要がある。 この変化の地理的な状況は、『詩経・国風』における混合押韻の分布からうかがい知ることができる。分布は、この変化が北中部と北西部で起こったことを示している可能性がある。混合押韻が見られるのは、『召南』(小星 21.2B)、『邶風』(泉水 39.4)、『鄘風』(載馳 54.1)、『衛風』(竹竿 59.4)、『鄭風』(清人 79.3)、『唐風』(揚之水 116.2、有杕之杜 123.2)、『秦風』(小戎 128.1)で、主に北部・西部地域である。\*-jiw の単語は、『王風』(中谷有蓷 69.2、采葛 72.2)や『曹風』(下泉 153.2)ではまだ \*-iw の単語のみと韻を踏んでおり、鋭音の後で \*-jiw を維持する地域があったことを示している。 鋭音の後の \*-jiw は、『切韻』では \*-ju となったが、『玉篇』(紀元543年)の頃まではいくつかの方言で維持されていたという証拠がある。周祖謨は空海の『万象名義』に保存されている原本『玉篇』の反切の研究(Zhou 1966a)の中で、いくつかの幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* の単語が下字に尤韻 *-jə̯u*/*-u* を持つ反切で注記されていることを指摘している(表3参照)。彼は、『玉篇』の方言ではおそらくこの2つの韻は区別されなかったのだろうと結論づけた。しかし、幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* の単語の反切下字に用いられている尤韻 *-jə̯u*/*-u* の単語は、1例を除けば全て \*-jiw で再構される。したがって、これらの『玉篇』の反切は、\*-jiw (> 幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw*) が鈍音の後だけでなく鋭音の後でも維持された方言を反映しているのかもしれない[^10]。 :spiral_note_pad: **表3: 原本『玉篇』における幽韻 *-jĕu*/*-(y)iw* の反切(Zhou 1966a: 381より)** | | 単語 | | 反切 | | | | :--- | :----- | :------------------------------------ | :--- | :------------------- | :------------------------ | | 平声 | 樛 | *kjĕu*/*kiw* | 居愁 | *kjwo*/*kyo* | + *dẓjə̯u*/*dzru* < \*-jiw | | | 丩𦭺 | *kjĕu*/*kiw* | 居稠 | *kjwo*/*kyo* | + *ḍjə̯u*/*dru* < \*-jiw | | | 虯觓璆 | *gjĕu*/*giw* | 奇樛 | *gje₃*/*gye* | + *kjĕu*/*kiw* | | | 聱 | *ngjĕu*/*ngiw* | 魚幽 | *ngjwo*/*ngyo* | + *ꞏjĕu*/*qiw* | | | 彪 | *pjĕu*/*pyiw* | 補虯 | *puoX*/*poq* | + *gjĕu*/*giw* | | | 驫 | *pjĕu*/*pyiw* | 風幽 | *pjung*/*pung* | + *ꞏjĕu*/*qiw* | | | 淲 | *bjĕu*/*byiw* | 被彪 | *bjeX₃*/*byeq* | + *pjĕu*/*pyiw* | | | | | 扶彪 | *bju*/*buo* | + *pjĕu*/*pyiw* | | | 䨂 | *tsjĕu*/*tshiw* | 子幽 | *tsjɨX*/*tsyq* | + *ꞏjĕu*/*qiw* | | | | (広韻: *tshjə̯u*/*tshu*) | | | | | | 𢆶幽 | *ꞏjĕu*/*qiw* | 於稠 | *ꞏjwo*/*qyo* | + *ḍjə̯u*/*dru* < \*-jiw | | | 𧍘 | *ꞏjĕu*/*qiw* | 於攸 | *ꞏjwo*/*qyo* | + *jə̯u*/*ju* < \*-jiw | | | 怮 | *ꞏjĕu*/*qiw* | 於流 | *ꞏjwo*/*qyo* | + *ljə̯u*/*lu* < \*-ju ? | | | | (広韻の又音: *ꞏjə̯u*/*qu*) | | | | | | 飍 | *xjĕu*/*hiw* | 香幽 | *xjang*/*hyang* | + *ꞏjĕu*/*qiw* | | | 烋 | *xjĕu*/*hyiw* | 虚樛 | *xjwo*/*hyo* | + *kjĕu*/*kiw* | | | 鏐蟉 | *ljĕu*/*liw* | 力幽 | *ljək*/*lyk* | + *ꞏjĕu*/*qiw* | | | | (広韻の又音: 鏐 *ljə̯u*/*lu*) | | | | | | | (広韻の又音: 蟉 *gjĕu(X)*/*giw(q)*) | | | | | 上声 | 糾赳 | *kjĕuX*/*kiwq* | 居黝 | *kjwo*/*kyo* | + *ꞏjĕuX*/*qiwq* | | | 黝泑 | *ꞏjĕuX*/*qiwq* | 於糾 | *ꞏjwo*/*qyo* | + *kjĕuX*/*kiwq* | | 去声 | 䠗 | *khjĕuH*/*khiwh* | 丘幼 | *khjə̯u*/*khu* | + *ꞏjĕuH*/*qiwh* | | | 𧾻 | *gjĕuH*/*giwh* | 渠幼 | *gjwo*/*gyo* | + *ꞏjĕuH*/*qiwh* | | | 謬 | *mjĕuH*/*myiwh* | 靡幼 | *mjeX₃*/*myeq* | + *ꞏjĕuH*/*qiwh* | | | 椆 | *tśjĕuH*/*tjiwh* | 之幼 | *tśjɨ*/*tjy* | + *ꞏjĕuH*/*qiwh* | | | | (広韻: *tśjə̯uH*/*tjuh*) | | | | | | 㾭 | *tṣjĕuH*/*tsryiwh* | 壯幼 | *tṣjangH*/*tsryangh* | + *ꞏjĕuH*/*qiwh* | | | | (広韻: *tṣjə̯uH*/*tsruh*) | | | | | | 幼 | *ꞏjĕuH*/*qiwh* | 伊謬 | *ꞏji₄*/*qi* | + *mjĕuH*/*myiwh* | また『詩経』には、いくつかの方言で \*-iw が \*-ew に下がるという一般的な兆候も見られる。この展開は、幽部の単語に時折見られる宵韻 *-jäu*/*-iew* < \*-jiw (韻を踏む 椒 *tsjäu*/*tsiew* や 荍 *gjäu₄*/*giew* を含む)を説明することができる(ただし、幽部に由来する宵韻 *-jäu*/*-iew* がすべて \*-iw の単語として現れるわけではない)。\*-iw と \*-ew の混合押韻は、『陳風』(月出 143.1 皎僚<u>糾</u>悄、下線は \*-iw を表す)と『豳風』(七月 154.4 葽<u>蜩</u>、鴟鴞 155.4 譙<u>翛</u>翹搖嘵)に見られる。一般的に幽部と宵部の区別は維持されているが、Luo & Zhou(1958: 19)によれば、この種の押韻は漢代には珍しくないという。 ## 6. 結論と含意 『詩経』における伝統的な幽部の押韻を統計的に調べた結果、このグループを \*-u 部と \*-iw 部に分割するのが妥当であることが証明されたと思う。\*-u と \*-iw との間で韻を踏んでいるケースはいくつかあるが、そのようなケースはすべて、独立した理由で仮定されなければならない音変化、すなわち鋭音の頭子音の後で \*-jiw が \*-ju に変化することによって説明される。このような \*-u と \*-iw の区別が、初期の中国語方言の調査や、中国語とチベット・ビルマ諸語との比較に役立つことが期待される。 押韻パターンを研究する際に統計的手法を用いることも、さらなる研究の有望な分野であるように思う。ここで使用した統計的手法は、上古漢語の押韻に関する他の仮説にも適用できるものであり、より洗練された技術が開発されることが期待される。そうすることで、上古漢語の押韻に関する分析が正しい部分についてはは確証を得ることができ、間違っている部分については修正ができる。もちろん、他の時代の詩もこの方法で調べることができる。 最後に、いくつかの方言で早期に \*-jiw が \*-ju に変化したと仮定することは、「一次ヨード」と「二次ヨード」(すなわちチベット・ビルマ諸語の類似する分節に対応する、あるいは対応しない \*j のケース。Bodman 1975, 1976, 1980参照。この2種類のヨードは、主に外的比較から再構されたものであるで、私の再構では区別されていない)に関する最近の議論に示唆を与える可能性があることを指摘しておきたい。高い前舌性の介音の後で \*-iw が \*u に変化するのは、とても自然なことのように思える[^11]。もし『詩経』の時点で実際にこれらの単語が音声的に \[j] を含んでいたとすれば、(1)二次ヨードがすでに発達していたか、(2)これらの単語の \*j は一次ヨードであったか、のどちらかであろう。特に2番目の可能性は興味深い問題を提起している。一次ヨードは一般に、後続母音の質に影響を与えたのだろうか。一次ヨードと二次ヨードの区別が押韻パターンに反映されることはあるのだろうか。こうした疑問については、今後の研究を待たなければならない。 ## 付録1: 幽部の韻を踏む単語 | GSR番号 | 韻を踏む単語 | 再構 | | :--------------- | :------------------------------------------------- | :---- | | 986 | 簋 | \*-u | | 989 | 逵 | \*-u | | 992 | 軌鳩究仇 | \*-u | | 1025 | 祝 | \*-u | | 1028 | 繡歗蕭潚 | \*-iw | | 1031 | 椒 | \*-iw | | 1039 | 皓 (cf. 1051造) | \*-u | | 1041 | 考朽栲 (cf. 1055老, 1168孝 ?) | \*-u | | 1042 | 昊 | \*-u | | 1044 | 好 | \*-u | | 1047 | 陶綯 (cf. 1059寶, 1107缶, 1113包, 1144䍃) | \*-u | | 1048 | 道 (cf. 1102首) | \*-u | | 1049 | 草 | \*-u | | 1050 | 棗 | \*-u | | 1051 | 造 (cf. 1039告) | \*-u | | 1053 | 曹漕 | \*-u | | 1054 | 皁 | \*-u | | 1055 | 老 (cf. 1041考, 1168孝) | \*-u | | 1056 | 牢 | \*-u | | 1057 | 保 | \*-u | | 1058 | 報 | \*-u | | 1059 | 寶 (cf. 1047匋, 1107缶, 1113包, 1144䍃) | \*-u | | 1060 | 鴇 | \*-u | | 1062 | 冒 | \*-u | | 1063 | 牡 | \*-u | | 1064, 1103, 1139 | 糾收荍 | \*-iw | | 1065 | 韭 | \*-u | | 1066 | 求球絿觩逑銶救 | \*-u | | 1067 | 舅 | \*-u | | 1068 | 咎鼛櫜 | \*-u | | 1069 | 瘳蓼膠 | \*-iw | | 1070 | 休 | \*-u | | 1071 | 憂優 | \*-u | | 1076 | 杻 | \*-u | | 1077 | 悠脩條滺 | \*-iw | | 1078 | 舀慆滔稻蹈 | \*-u | | 1079 | 妯抽 | \*-iw | | 1080 | 遊游 | \*-u | | 1083 | 周裯 | \*-iw | | 1084 | 舟輈 | \*-u | | 1085 | 受 | \*-u | | 1086 | 洲 | \*-u | | 1087 | 埽 | \*-u | | 1088 | 臭 | \*-u | | 1089 | 醜 | \*-u | | 1090 | 壽醻魗擣禱翿 | \*-u | | 1091 | 讎售 | \*-u | | 1092 | 秋 | \*-iw | | 1093 | 就 | \*-u | | 1094 | 囚 | \*-u | | 1095 | 秀莠誘 | \*-u | | 1096 | 酒酋遒猶 | \*-u | | 1097 | 叟搜 | \*-u | | 1099 | 狩 | \*-u | | 1101 | 手 | \*-u | | 1102 | 首 (cf. 1048道) | \*-u | | 1103 | 收 see 1064 | \*-u | | 1104 | 流旒 | \*-u | | 1105 | 柔蹂 (cf. 1109 矛) | \*-u | | 1107 | 缶 (cf. 1047匋, 1059寶, 1113包, 1144䍃) | \*-u | | 1108 | 歸 | \*-u | | 1109 | 矛茅𩭾 (cf. 1105 柔) | \*-u | | 1110 | 牟 | \*-u | | 1112 | 蚤慅騷 | \*-u | | 1113 | 包苞飽匏炮袍 (cf. 1047匋, 1059寶, 1107缶, 1144䍃) | \*-u | | 1114 | 卯茆昴柳罶懰 | \*-u | | | 聊 | \*-iw | | 1115 | 幽 | \*-iw | | 1116 | 鳥 | \*-iw | | 1139 | 荍 see 1064 | \*-u | | 1168 | 孝 (cf. 1041考, 1055老) | \*-u | | 1230 | 裒 | \*-u | | 1231 | 戊茂 | \*-u | | 1233 | 孚罦浮 | \*-u | | 1244 | 怓 | \*-u | ## 付録2: 幽部の韻列 数字は詩と節と通し番号を示す。大文字のB, Cなどは、Lu(1948)による、節内の2番目または3番目の韻を示す。 ### \*-u の韻列(105) - 国風 - 周南:『關雎』1.1, 2、『兔罝』7.2B、『漢廣』9.1 - 召南:『野有死麕』23.1B - 邶風:『柏舟』26.1、『日月』29.2、『擊鼓』31.4B、『匏有苦葉』34.2、『谷風』35.4, 5 - 鄘風:『柏舟』45.1-2、『牆有茨』46.1 - 衛風:『木瓜』64.1B-2B-3B - 王風:『黍離』65.1C-2C-3C、『子陽陽』67.2 - 鄭風:『兔爰』70.2、『緇衣』75.2、『叔于田』77.2、『大叔于田』78.3、『遵大路』81.2、『女曰雞鳴』82.2B, 3C - 齊風:『還』97.2 - 唐風:『蟋蟀』114.3B、『山有樞』115.2、『羔裘』120.2 - 秦風:『駟驖』127.1、『小戎』128.2、『無衣』133.1B、『權輿』135.2 - 陳風:『宛丘』136.3、『月出』143.2 - 豳風:『七月』154.6B, 7D, 8B、『破斧』157.3 - 小雅:『常棣』164.2B、『伐木』165.4、『天保』166.6B、『采薇』167.2B、『魚麗』170.1-2-3、『南山有臺』172.4、『湛露』174.2、『彤弓』175.3、『菁菁者莪』176.4、『采芑』178.4、『車攻』179.2、『吉日』180.1、『斯干』189.1B、『節南山』191.8、『十月之交』193.1, 8B、『雨無正』194.5B、『小旻』195.3、『小弁』197.2, 7、『巷伯』200.5, 6C、『北山』205.6、『楚茨』209.6C、『信南山』210.5、『大田』212.2、『桑扈』215.4、『頍弁』217.3、『魚藻』221.1B、『角弓』223.8、『菀柳』224.1, 2、『白華』229.2、『瓠葉』231.2-3-4, 4、『苕之華』233.3、『何草不黄』234.4B - 大雅:『文王』235.7B、『下武』243.2、『文王有聲』244.3B、『生民』245.5, 7、『公劉』250.4B、『卷阿』252.2、『民勞』253.2、『蕩』255.3C、『抑』256.6B、『桑柔』257.1, 6D、『崧高』259.5B、『烝民』260.3、『韓奕』261.1B、『江漢』262.1, 6、『常武』263.3B, 5、『瞻卬』264.6B - 頌 - 周頌:『臣工』276B、『雝』282.2, 4、『載見』283.2、『閔予小子』286.1、『良耜』291.5、『絲衣』292B - 魯頌:『有駜』298.2、『泮水』299.3, 5, 7 - 商頌:『長發』304.4 ### \*-iw の韻列(10) - 国風 - 王風:『中谷有蓷』69.2、『采葛』72.2 - 鄭風:『風雨』90.2 - 唐風:『椒聊』117.1B-2B - 陳風:『東門之枌』137.3 - 曹風:『下泉』153.2B - 小雅:『隰桑』228.3 - 大雅:『瞻卬』264.1D - 頌 - 周頌『小毖』289B、『良耜』291.5 ### 混合押韻の韻列(10) - 国風 - 召南:『小星』21.2B - 邶風:『泉水』39.4B - 鄘風:『載馳』54.1B - 衛風:『竹竿』59.4 - 鄭風:『清人』79.3 - 唐風:『揚之水』116.2、『有杕之杜』123.2 - 秦風:『小戎』128.1 - 小雅:『鼓鍾』208.3 - 頌 - 周頌:『訪落』287 ## 参考文献 - Baxter, William H. (1977). *Old Chinese origins of the Middle Chinese chóngniǔ doublets: a study using multiple character readings*. Ph.D. dissertation, Cornell University. - ⸺. (1979). Studies in Old Chinese rhyming: some further results. Paper presented for the Twelfth International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguistics, Paris, October 19–21. - ⸺. (1980). Some proposals on Old Chinese phonology. In: van Coetsem, Frans; Waugh, Linda R. (eds.). *Contributions to historical linguistics: issues and materials*. Leiden: Brill. 1–33. [doi: 10.1163/9789004655386_003](https://doi.org/10.1163/9789004655386_003) ⇒[日本語訳](/@YMLi/ByvkRqgi6) - Bodman, Nicholas C. (1971). A phonological interpretation for Old Chinese. Paper read for the Chinese Linguistics Project, Princeton. - ⸺. (1975). Tibeto-Burman correspondences to the Chinese *teng* (divisions 1, 2, 3, 4) and the concept of ‘primary yod’ in Sino-Tibetan. Paper presented to the Eighth International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguistics, Berkeley, October 24–26. - ⸺. (1980). Proto-Chinese and Sino-Tibetan: Data towards establishing the Nature of the Relationship. In: van Coetsem, Frans; Waugh, Linda R. (eds.). *Contributions to historical linguistics: issues and materials*. Leiden: Brill. 34–199. [doi: 10.1163/9789004655386_004](https://doi.org/10.1163/9789004655386_004) - Campbell, Alistair. (1959). *Old English grammar*. Oxford: Clarendon Press. - Dong, Tonghe 董同龢. (1948). Shànggǔ yīnyùn biǎogǎo 上古音韻表稿. *Bulletin of the Institute of History and Philology Academia Sinica* 中央研究院歷史語言研究所集刊 18: 1–249. - Jaxontov, Sergej E. (1960). Fonetika kitajskogo jazyka 1 tysjačeletija do n. e. (labializovannye glasnye) Фонетика китайского языка I тысячелетия до н. э. (лабиализованные гласные). *Problemy Vostokovedenija* Проблемы востоковедения 6: 102–115. ⇒[日本語訳](/@YMLi/SJjf4buza) - Karlgren, Bernhard. (1950). *The Book of Odes: Chinese Text, Transcription and Translation*. Stockholm: Museum of Far Eastern Antiquities. - ⸺. (1954). Compendium of Phonetics in Ancient and Archaic Chinese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 26: 211–367. - ⸺. (1957). Grammata Serica Recensa: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 29: 1–332. - Li, Fang-kuei 李方桂. (1971). *Shànggǔ yīn yánjiū* 上古音研究. *Tsing Hua Journal of Chinese Studies* 9: 1–61. - Lu, Zhiwei 陸志韋. (1948). *Shī yùn-pǔ* 詩韻譜. Beiping: Hafo Yanjing xue she 哈佛燕京學社. - Luo, Changpei 羅常培; Zhou, Zumo 周祖謨. (1958). *Hàn Wèi-Jìn Nán-běi cháo yùnbù yǎnbiàn yánjiū* 漢魏晋南北朝韻部演變硏究. Beijing: Kexue chubanshe 科學出版社. - Máo-shī yǐn-dé 毛詩韻讀. (1962). Tokyo: Tōyō Bunko 東洋文庫. - Pulleyblank, Edwin G. (1962). The Consonantal System of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265. ⇒[日本語訳](/@YMLi/rJIytCsGT) - ⸺. (1970–1971). Late Middle Chinese. *Asia Major* 15(2): 197–239, 16(1): 121–168. - Senter, R. J. (1969). *Analysis of data: introductory statistics for the behavioral sciences*. Glenview, Ill.: Scott, Foresman. - Wang, Li 王力. (1935). *Zhōngguó yīnyùnxué* 中國音韻學. Shanghai: Shāngwù yìnshūguǎn 商務印書館. (Reprinted as Wang 1956) - ⸺. (1937). Shànggǔ yùnmǔ xìtǒng 上古韻母系統. *Tsinghua Journal of Chinese Studies* 清華學報 12: 473–540. - ⸺. (1956). *Hànyǔ yīnyùnxué* 漢語音韻學. Beijing: Zhonghua Shuju 中華書局. - ⸺. (1978). *Tóngyuán zì lún* 同源字論. *Zhōngguó yǔwén* 中國語文 144: 28–33. - Zhou, Zumo 周祖謨. (1966a). *Bansyō myōgi* zhōng zhī yuánběn *Yùpiān* yīnxì 萬象名義中之原本玉篇音系. In: *Wèn xué jí* 問學集. Beijing: Zhonghua Shuju 中華書局. 270–404. - ⸺. (1966b). Shījīng yùnzì biǎo 詩經韻字表. In: *Wèn xué jí* 問學集. Beijing: Zhonghua Shuju 中華書局. 218–269. [^1]: 本論文は、1978年10月20–22日、ツーソンで開催された第11回国際シナ・チベット言語学会議で発表した原稿を改定したものである。なお、場合によっては幽部の一部として扱われる場合もある、Karlgrenが \*-ôk と再構した単語 ==(覺部)== については、本論文では扱わない。 [^2]: Pulleyblank(1962)やLi(1971)はこれを採用している。このベースとなる考え方は既に清代の研究者である錢大昕(1727–1786)によって発見されていたが、彼は分裂の条件となる要因を述べることはできなかった。Wang(1935: 336–7参照)。 [^3]: 例えば、先 \*sɨn > *sien*/*sen* に対して 根 \*kɨn > *kən*/*keon* となる(「鈍音」「鋭音」という用語は、Jakobsonの特徴システムから採ったもので、中国語の子音の分類を表す便利な用語である。軟口蓋音・喉音・唇音の頭子音は鈍音で、それ以外は全て鋭音である)。この \*-ɨn の再構理論は、\*-ɨn は全て先韻 *-ien*/*-en* となり \*-un は頭子音によって痕韻 *-ən*/*-eon* か魂韻 *-uən*/*-on* のどちらかになるという私の以前の再構とは異なる。この修正は、Baxter(1979: §3 pp. 16–17)で論じた押韻の証拠によって裏付けられている。 [^4]: もう一つの候補は、私の体系には存在しない \*-uw を再構することだろう(例えばBodman 1980: §6.1参照)。現在の体系では、唇音性の分節が円唇母音に後続することはない。 [^5]: この韻部には、第3のタイプの韻として \*-ɨw が再構できる可能性がある。現在の体系にはそのような韻はなく、これは音韻体系における空白である。 [^6]: 豪韻 *-âu*/*-aw* と侯韻 *-ə̯u*/*-ou* の対立は、前述した、さらなる \*-u ⇔ \*-ɨw の対立を示しているのかもしれない。しかし、この更なる対立の問題は、\*-iw の単語が正しく同定されていると仮定すれば、この研究の結果には影響しないはずである。 [^7]: これは、与えられた試行回数に対して、表か裏のどちらか1つの頻度だけが、他方から独立して変化しうることを意味する。100回の試行で表が70回起こったなら、裏の数は30回でなければならない。 [^8]: 代わりに「\*-u と \*-iw は韻を踏まない」という仮説を直接検定しようとするならば、不規則的な押韻の可能性を許容することはできないだろう。この場合、数学的には、\*-u の単語と \*-iw の単語が韻を踏む期待頻度($f_e$)はゼロである。しかし、$\chi ^ 2$ を計算するためには $f_e$ で割らなければならないが、ゼロで割ることは許されない。この問題を解決するために、2つのカテゴリーの間の不規則的な押韻の数を少ないがゼロではない数にしようとすると、期待される不規則的な押韻の数を決めるという問題に直面することになる。 [^9]: これらの確率が有効数字4桁まで正確であると主張するわけではないが、$.915$ や $.92$ ではなく $.9145$ を使ったほうが、期待頻度の合計が正確に $228$ となるため有用である。 [^10]: 唯一の例外は、怮 *ꞏjĕu*/*qiw* に対する反切 於流 *ꞏjwo*/*qyo* + *ljə̯u*/*lu* である。『広韻』には 怮 の又音として *ꞏjə̯u*/*qu* があり、『説文』は 怮 を 憂 *ꞏjə̯u*/*qu* と説明している。おそらく、怮 を *ꞏjə̯u*/*qu* と読むのは、この2つの単語が混同された結果であろう。 [^11]: これは、古英語のある方言において、硬口蓋音の頭子音の影響を受けて *cēosan* の二重母音が *ceōsan* に推移した、「Akzentumsprung」と並行するものである。チョーサーの方言ではこのような変化は起こらず、*ēo* は *cēosan* > *chesen* という通常の発展を遂げた。Campbell(1959: 128–9)参照。