# 上古漢語の子音体系(3):歯音・側面音の再構 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳(部分)である。 - Pulleyblank, Edwin G. (1962). The Consonantal System of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265. 歯音・側面音の再構に係る部分(pp. 107–126)のみを抜粋した。それ以外のページは、パートⅠ[(1)切韻体系の再構](/@YMLi/rJIytCsGT)、[(2)軟口蓋音と喉音の再構](/@YMLi/r1YL4JDV6)、[(3)歯音・側面音の再構](/@YMLi/SydgEgbKa)、[(4)歯擦音と唇音の再構・上古漢語音韻体系のまとめ](/@YMLi/rkb4b8_FT)、パートⅡ[(1)去声と上声の起源](/@YMLi/HyoFRGJc6)、[(2)鼻音と唇音の末子音の再構・補足](/@YMLi/S1x7mGPca)。 誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 Pulleyblankによる中古漢語・上古漢語の音形の表記には以下の修正を加えた。 - 切韻体系の再構音および中古漢語の音素は太字で表記する。 \ 上古漢語の再構音はアスタリスク形で表記する。 \ それ以外の音はイタリック体で表記する。 - 中古漢語の母音 **ɑ** は、表示環境によっては **a** と混同する可能性があるため、Karlgrenにならって **â** と表記する。 - 平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。 引用されているKarlgren(1957)による中古漢語表記には以下の修正を加えた。 - 有気音の記号「*‘*」は「*ʰ*」に置き換える。 - 平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。 ::: --- ## 1. 歯閉鎖音 Karlgrenが ==端組に歯閉鎖音== *t*, *tʰ*, *dʰ*、==知組に硬口蓋閉鎖音== *t̑*, *t̑ʰ*, *d̑ʰ*、==章組に硬口蓋破擦音== *tś*, *tśʰ*, *dźʰ* を再構した中古漢語の3つの頭子音系列の間の諧声系列が示す親密な関係を説明するために、Karlgren ==(1940: 15–6; また 1954: 277–278 も参照)== は、硬口蓋閉鎖音が歯閉鎖音から、主に後続する *-i̯-* による口蓋化の影響だけでなく、中古漢語の様々な母音 *a*, *ă*, *ɐ*, *ɛ*, *å* の前でも発展したと考えた(ただし、これらは歯擦音系列ではそり舌音化を引き起こしたと考えられていることに注意)。Karlgrenが上古漢語の硬口蓋閉鎖音系列に由来させた硬口蓋破擦音は、*-i̯-* の前のみに出現する。我々の再解釈によれば、Karlgrenによる「Ancient Chinese」(中古漢語)の硬口蓋閉鎖音は、実際にはそり舌音である。したがって硬口蓋破擦音は、純粋な歯閉鎖音が *-i̯-* に後続される場合に対応するものであり、そり舌音には別の起源があると考えるのが自然である。 そり舌音系列が歯閉鎖音系列と相補的な関係にあり、それと同様に硬口蓋破擦音が歯破擦音と相補的な関係にあるという考えは、韻図の対応する列の配置によって支持される。 :spiral_note_pad: **表1: 韻図における舌音・歯音の配置** | | 「舌音」 | 「歯音」 | | :--- | :---------- | :----------- | | 一等 | 端組 **t-** | 精組 **ts-** | | 二等 | 知組 **ṭ-** | 莊組 **tṣ-** | | 三等 | 知組 **ṭ-** | 章組 **c-** | | 四等 | 端組 **t-** | 精組 **ts-** | しかしこの配置は、様々な頭子音系列の起源に関して非常に誤解を招くものである。これらの頭子音を、縦方向には諧声系列で明らかにされた本来の関係に、横方向にはそれらと結合することのできる韻の種類に厳密に沿って並べ直すと、次のようになる。 :spiral_note_pad: **表2: 歯閉鎖音と歯擦音の系列の関係** | | 歯閉鎖音 | 歯破擦音 | | :------- | :----------------------- | :------------------------- | | 一等 | 端組 **t-** | 精組 **ts-** | | 二等 | 知組 **ṭ-** | 莊組 **tṣ-** | | 三・四等 | 知組 **ṭ-**, 章組 **c-** | 莊組 **tṣ-**, 精組 **ts-** | | 純四等 | 端組 **t-** | 精組 **ts-** | ここで2つのそり舌音系列は、二等と三等の両方の韻の前に出現しうるという点で対応していることがわかる。一方、硬口蓋破擦音は **-i̯-** の前の歯破擦音に対応する。 このことから、**-i̯-** が後続する場合に口蓋化されたのは歯擦音系列ではなく歯閉鎖音系列であり、それ以外の何らかの影響を受けて閉鎖音と破擦音の両方がそり舌音になったと推測できる。 ## 2. 歯閉鎖音の口蓋化 すでに軟口蓋音の口蓋化との関連で、中古漢語のヨード化韻がかつての長母音と短母音の対立から生まれたという説について述べた。口蓋化は **-i̯-** と **-y-** の前で、つまり \*ī と \*ē だけでなく上古漢語のすべての長母音の前で起こったため、歯音系列への影響は ==軟口蓋音の口蓋化と比較して== より広範囲に及んだ。上古漢語の3つの閉鎖音 \*t-, \*th-, \*d- のうち、この口蓋化が中古漢語の章組 **c-**, **ch-**, **j-** を生み出した。 このように硬口蓋破擦音を歯閉鎖音に直結させることにより、Karlgrenの提案による調音部位の異なる2つの閉鎖音が自由に交替するというものより、諧声関係をより納得のいく形で解決できる。確かに、喉音と軟口蓋音はある程度交替するが、Karlgrenの歯閉鎖音 ==\*t- > *t-*, *t̑-*== と硬口蓋閉鎖音 ==\*t̑- > *tś-*== の間に見られるほどではない。 歯閉鎖音の口蓋化は、軟口蓋音の口蓋化よりも広範であっただけではなく、その時期も早かった。中古漢語の硬口蓋音は、少なくとも紀元2世紀末以降には、インド諸語の硬口蓋音の転写に使われていた。とはいえ、口蓋化は漢代の初期にはまだ起こっていなかったことがはっきりと示されている。 Pelliotはずっと以前に、天竺 **then¹-ci̯uk** = PIr. \*Hinduka (インド)と 竺刹尸羅 **ci̯uk-tṣhaət-śi̯i¹-lâ¹** = Skt. तक्षशिला *Takṣaśilā* を引用した(1914: 412)。残念ながら、竺 にはPelliotが考慮しなかった又音 **tok** があるため、これは満足のいく証拠とは言えない。しかし、通常「インド」という意味では **ci̯uk** と読まれるため(『広韻』参照)、この古い伝統は正しいのかもしれない。『後漢書』に見られるということは、班勇が西方旅行記を書いた西暦120年頃よりも後のことである(Chavannes 1907)。*Takṣaśilā* という名前の転写は、仏典に登場する以前には見られない。 Karlgrenは、初期の仏典転写では頭子音がまだ閉鎖音であったことを示す証拠として、サンスクリット語 ध्यान *dhyāna* を転写する 禪 **ji̯en¹** < \*dɑ̄n (= K. *źi̯än* < \*d̑ʰi̯an) を引用している(1954: 279)。残念ながら、これは不健全な議論である。なぜなら、基底のプラークリット形にはおそらくパーリ語 *jhāna* のように硬口蓋音があったからである ==:bulb: ガンダーラ語 *j̄ana* 参照==。同じことが、阿踰闍 **ꞏâ¹-you¹-ji̯a¹** = Skt. अयोध्या *Ayodhyā* ==:bulb: Gd. *Ayoj̄a*== や 迦旃延 **ki̯â¹-ci̯en¹-yen¹** = Skt. कात्यायन *Kātyāyana* ==:bulb: Gd. *Kacayana*== などその他のケースにも当てはまるだろう。 中古漢語の常母 **j-**, 章母 **c-** を指す初期の非口蓋化 *d*, *t* の真の例は、私の推測が正しければ、匈奴の称号 禪于 **ji̯en¹-ɦi̯ou¹** < \*dɑ̄n-ɦwɑ̄ɦ、閼氏 **ꞏât-ci̯e¹** < \*ꞏɑt-tēɦ (後のテュルク語 *tarqan*/*tarxan* と *qaɣan*/*xaɣan* の語源、付録参照)、月氏 **ŋi̯wât-ci̯e¹** < \*ŋwɑ̄t-tēɦ = Ίάτιοι *Iátioi* (?) にある。 漢代の漢語が中古漢語のような硬口蓋音を持たないことを示す間接的な証拠は、外国語の硬口蓋音の転写に歯破擦音が用いられているいることから得られる。残念ながら、タリム盆地北部や東部では、インド系文字の表記に硬口蓋音が含まれる場合(例えば、龜茲 **ki̯u¹-tsi̯ə¹** = Kuca、且末 **tshi̯a²** (**tsi̯o¹**) **-mât** = Gd. *Calmadana* など)、漢語の破擦音の証拠は明確ではない。Pelliotは、この漢字表記を固有名に歯破擦音が含まれる証拠とし、漢語の硬口蓋音がインド諸語の硬口蓋音に使用されるようになった後も歯破擦音が使用され続けていることがこれを裏付けているとした(Pelliot 1923: 126)。すなわち、後世には Kuca に対する(語中子音の有声化を示す)丘慈 **khi̯u¹-dzi̯ə¹**, 屈茨 **ki̯uət-dzi̯i¹** や、左末 **tsâ²-mât** = Gd. *Calmadana* (6世紀初頭の宋雲による、Chavannes 1903: 391 参照)という転写が見られる。同じような疑問が、師子 **ṣi̯i¹-tsi̯ə²** 「ライオン」のような、トカラ語A *śiśäk*, トカラ語B *ṣecake* (語末については後述)に由来するであろう単語や、丘就却 **khi̯u¹-dzi̯u³-ki̯ak** (劫 **ki̯ap** ?;Pelliot 1914: 401)= Kujula kadphises (クジュラ・カドフィセス)の名前にも当てはまる。しかし、少なくとも1つ明確なケースがある。それはパミール地方の国名 子合 **tsi̯ə²-ɦəp** < \*tsə̄-gəp (『漢書・西域傳上』96A)で、これは宋雲の 朱駒波 **ci̯ou¹-ki̯ou¹-pâ¹** (Chavannes 1903: 397)や、玄奘の 斫句迦 **ci̯âk-ku¹-ki̯â¹** (おそらくサンスクリット化された形)と間違いなく同じものである。 これに対して、鄯善 **ji̯en³-ji̯en²** (または 禪 **ji̯en¹-**, **ji̯en³-**)という名前があるが、これはHamiltonによって、現代の چەرچەن *Charchan* < \*Jarjan (チェルチェン)ともっともらしく同定されている(Hamilton 1958: 121)。鄯善という名前は、紀元前1世紀に、それ以前の「楼蘭」に代わって登場する。この時代に外国語の原語に硬口蓋音があったとすれば、漢語の硬口蓋音はすでに発展し始めており、おそらくはその中間段階 \*di̯- だったと推測せざるを得ない。しかし、これには不確定要素が多すぎるため、確固たる論拠にはならない。 こうした証拠を見る限り、漢代以前に既に歯閉鎖音が口蓋化されていたとは考え難い。歯摩擦音と鼻音がより遅くまで口蓋化されていなかったことを示す、さらなる証拠については後述する。 ## 3. 捲舌音化と介音 \*-l- の脱落 \*-l- を含むクラスターは、諧声接続の証拠から非常に長い間指摘されており、Karlgrenも上古漢語にそのようなクラスターを数多く再構している。しかしKarlgrenの体系では、失われた \*-l- の再構と中古漢語の母音との関連は認識されていない。これは本質的にありえないことで、例えばイタリア語 *fiore* ←ラテン語 *florem* で起こっているように、語中の *-l-* は単に脱落するのではなく、何らかの形で母音化すると考えられる。実際には、中古漢語の介音 *-i̯-* を \*-l- の脱落と関連付ける試みはあるものの、クラスターに関する他の証拠とうまく相関させることはできていない。 Jaxontov(1960)は最近、韻図で二等に分類される韻に特有の母音(私の切韻体系の転写では母音 **a** と二重母音 **aə**, **ae**, **au**)は、脱落した \*-l- の反射であるという、間違いなく正しいと思われる別の考えを提唱した。Jaxontovの論文を知る前に、私は独自に同じ結論に達していた。それを支持する証拠をまとめると、次のようになる。 1. 來母 **l-** が二等母音の前につくことは非常に稀で、『説文』に含まれる単語では 冷 **laŋ²**, 犖 **lauk**, 醶 **laəm²** の3例しかない。 2. 一方、二等母音を持つ単語は、クラスターの証拠となる諧声系列における來母以外の頭子音の後によく見られる。 :spiral_note_pad: **表3: 來母 l- と二等母音 -a- の諧声接触** | 來母 | 二等 | | :------------ | :-------------------------------------- | | 翏 **li̯u³** | 膠 **kau¹**, 嘐 **hau¹** | | 彔 **luk** | 剝 **pauk** | | 䜌 **li̯wen¹** | 彎 **man¹**, 孿 **ṣwan³**, 灣 **ꞏwan¹** | | 闌 **lân¹** | 柬 **kaən²** | | 濫 **lâm¹** | 監 **kam¹** | | 隆 **li̯uŋ¹** | 降 **kauŋ³**, **ɦauŋ¹** | | 鬲 **lek** | 鬲 **kaək** | | 樂 **lâk** | 樂 **ŋauk** | | 龍 **li̯oŋ¹** | 龍 **mauŋ¹** | | 洛 **lâk** | 格 **kak** | 3. 中古漢語のそり舌音の頭子音 ==(知組と莊組)== は二等に特徴的で、一等には見られない。Karlgrenはすでに、諧声接触(例えば 史 **ṣi̯ə²** : 吏 **li̯ə²** や 率 **ṣi̯wit** : **li̯wit**)に基づいて、いくつかのケースで \*sl- > **ṣ-** という発展を提唱している。これは音声学的に非常に可能性の高い展開であり、さらに歯破擦音、歯閉鎖音、鼻音 **ṇ-** の説明にも一般化されるべきである。諧声証拠はあまり明確ではないが、勞 **lâu¹** : 嘮 **ṭau¹**、撩 **lâu¹** : **ṭau¹**、駗 **li̯in¹** : 珍 **ṭi̯in¹**, 診 **ḍi̯in³** などが挙げられる(徹母 **ṭh-** : 來母 **l-** の接触ケースは、\*thl- ではなく \*lh- の証拠である可能性もあるため、ここには含めていない)。 4. Jaxontovは、チベット・ビルマ語との比較において、二等母音を持つ漢語の同源語に *-r-* または *-l-* クラスターが見られるとして、次のような例を挙げている。 - 八 **paət** : チベット語 བརྒྱད་ *brgyad* - 百 **pak** : チベット語 བརྒྱ་ *brgya* - 馬 **ma²** : ビルマ語 မြင် *mraŋ* - 甲 **kap** : チベット語 ཁྲབ་ *khrab* - 江 **kauŋ¹** : タイ語 *khlong* 最後の例については、他のものよりも意味論的に満足のいくものではなく、漢語 \*-l- がチベット・ビルマ語 *-r-* と等価であることを示す対応パターンから外れているが、それを除けばこれらの比較は非常に説得力があるように思われる。 二等母音は必然的に介音 \*-l- の脱落を意味するという一般的規則には、いくつかの例外を設けなければならない。麻2韻 **-a** が上古漢語 \*-eɑɦ に由来する可能性があることはすでに述べた。それとは別に、上古漢語の \*sh- と \*sŋh- (および \*skh- ?)から、適切な二等母音を伴う中古漢語の生母 **ṣ-** と初母 **tṣh-** が発展したと考える根拠がある。これついては後述する。 しかしこれらの例外を除けば、中古漢語の母音 **-a-** と上古漢語の介音 \*-l- との関係は、可能性の高い仮説として自信を持って採用することができる。 Jaxontovはまた、中古漢語に介音 *-i̯-* がある場合のかつての \*-l- の証拠を検討し、「子音と介音 *-i̯-* の間にあった \*-l- は跡形もなく消えており、ほとんどの場合、主母音は変化を受けていない」と結論づけている。しかしそれどころか、介音 \*-l- の消失は、ヨード化韻に、非ヨード化韻への影響とほとんど同じくらい広範囲に及ぶ影響を及ぼした。それは、主母音 **i**, **e** の前の介音 **-i̯-** が2種類に分化し、軟口蓋音と唇音の頭子音の後の **-y-** が **-ï̯-** に後退した主な要因である。もちろん、**-i̯-**/**-y-** の対立は、もともとは別々の韻であったものが一緒になって生じた場合もある(皮 **bi̯e¹** < \*bɑ̄δ に対して 卑 **pye¹** < \*pēɦ)。 クラスターを示す諧声系列の **e** または **i** の前の介音 **-i̯-** の例として、以下を挙げることができる。 :spiral_note_pad: **表4: 來母 l- と三等B類 -i̯e-, -i̯i- の諧声接触** | 來母 | 三等B類 | | :----------------------- | :------------ | | 䜌 **lwân¹**, **li̯wen¹** | 變 **pi̯en³** | | 律 **li̯wit** | 筆 **pi̯it** | | 𩻜 **li̯in¹** | 猌 **ŋi̯in³** | | 立 **li̯ip** | 泣 **khi̯ip** | | 臨 **li̯im¹** | 品 **phi̯im²** | | 稟 **li̯im²** | 稟 **pi̯im²** | 失われた介音 \*-l- と後退した介音 **-i̯-** との関連性を支持するさらなる証拠は、重紐韻におけるそり舌音の頭子音を持つ単語は、反切下字として(そり舌音の頭子音を持つ他の単語や、すべてのクラスに共通する來母 **l-** を持つ単語ではないとしても)三等B類の単語で綴られる傾向があるという事実から得られる。また逆に、軟口蓋音や喉音の頭子音を持つ三等B類の単語の綴りには、そり舌音の頭子音を持つ単語が使われる。これは完全に一致するわけではないが、顕著な傾向である(Arisaka 1944: 342ff. は、**-i̯-**/**-y-** の対立を喉音・軟口蓋音・唇音の頭子音以外にも拡張することを試みている)。すなわち、以下のような状況が見られる(Li 1952 参照)。 - 支韻: \ 差 **tṣhi̯e¹**, 釃 **ṣi̯e¹** は 宜 **ŋi̯e¹** で綴られる。 \ 衰 **tṣhi̯we¹** は 危 **ŋi̯we¹** で綴られる。 - 紙韻: \ 躧 **ṣi̯e²** は 綺 **khi̯e²** で綴られる。 \ 揣 **tṣhi̯we²** は 委 **ꞏi̯we¹** で綴られる。 - 寘韻: \ 屣 **ṣi̯e²** は 寄 **ki̯e³** で綴られる。 \ (ただし 娷 **ṭi̯we³**, 諉 **ṇi̯we³** は 恚 **ywe³** で綴られることに注意) - 脂韻: \ 追 **ṭi̯wi¹** は 龜 **ki̯wi¹**, 巋 **khi̯wi¹**, 逵 **i̯wi¹** を綴る。 - 旨韻: \ 雉 **ḍi̯i²** は 几 **ki̯i²** で綴られる。 - 質韻: \ 𪗨 **dẓi̯it** は 乙 **ꞏi̯it** で綴られる。 - 獮韻: \ 撰 **dẓi̯wen²** は 免 **mi̯en²** で綴られる。 \ 篆 **ḍi̯wen²** は 圈 **gi̯wen²** を綴る。 \ 轉 **ṭi̯wen²** は 卷 **ki̯wen²** を綴る。 - 線韻: \ 𩥇 **ṭi̯en³** は 彦 **ŋi̯en³** で綴られる。 \ 𨏉 **ṣi̯wen³** は 眷 **ki̯wen³** で綴られる。 - 薛韻: \ 㔍 **tṣhiet** は 別 **bi̯et** で綴られる。 - 侵韻: \ 嵾 **tṣhi̯im¹**, 森 **ṣi̯im¹** は 今 **ki̯im¹** で綴られる。 \ 岑 **dẓi̯im¹** は 金 **ki̯im¹** で綴られる。 - 寑韻: \ 㾕 **ṣi̯im²** は 錦 **ki̯im²** で綴られ、坅 **khi̯im²** を綴る。 - 禁韻: \ 賃 **ṇi̯im³**, 闖 **ṭhi̯im³**, 譖 **tṣi̯im¹**, 滲 **ṣi̯im³** は 禁 **ki̯im¹** で綴られる。 - (ただし笑韻: 召 **ḍi̯eu¹** は 廟 **mi̯eu³** だけでなく 趬 **khyeu³**, 驃 **byeu¹** を綴る) 三等A類の単語がそり舌音を持つ単語を綴る、あるいはその逆が見られるのは、韻の分裂が部分的に異なる主母音が合流した結果によるものの場合だけである(例えば、支B韻 **-i̯e** < \*-ɑ̄δ, \*-lēɦ、宵B韻 **-i̯eu** < \*-ɑ̄uɦ, \*-lēɑ̄uɦ)。 さらに、慧琳の反切体系では、『切韻』の仙B韻 **-i̯en** と仙A韻 **-yen** が、一方は元韻 **-i̯ân**、もう一方は先韻 **-en** と、それぞれ別の韻グループとして分離されており、硬口蓋音と歯擦音の頭子音を持つ単語は四等に含まれるが、そり舌音の頭子音を持つ単語は三等に含まれる。ここでもまた、(失われた介音 \*-l- を指す)そり舌音の頭子音と後退した介音 *-i̯-* (= *-ï̯-*) との間に相関関係が見られる。 全体的には、Jaxontovの言う通り、失われた介音 \*-l- は、介音 *-i̯-* が存在する場合、主母音に影響を与えないようである。しかし、これには一つの重要な例外があり、それは庚2韻 **-aŋ**, 庚3韻 **-i̯aŋ** (陌2韻 **-ak**, 陌3韻 **-i̯ak** を含む)である。ここでは、二等の単語だけでなく三等の単語も、諧声関係において \*-l- クラスターを示す。 :spiral_note_pad: **表5: 庚陌3韻 -i̯aŋ, -i̯ak と來母 l- の諧声接触** | 庚陌3韻 | 來母 | | :----------- | :----------- | | 京 **ki̯aŋ¹** | 涼 **li̯âŋ¹** | | 隙 **khi̯ak** | 𧎾 **li̯âk** | | 命 **mi̯aŋ³** | 令 **li̯eŋ¹** | 二等母音を失われた \*-l- の証拠として受け入れると、さらに例を挙げることができる。 :spiral_note_pad: **表6: 庚陌3韻 -i̯aŋ, -i̯ak と二等母音 -a- の諧声接触** | 庚陌3韻 | 二等 | | :-------------------------- | :-------------------------------------------- | | 丙 **pi̯aŋ²** | 更 **kaŋ¹** | | 冏 **ki̯waŋ²**, 明 **mi̯aŋ¹** | 萌 **maəŋ¹** (前述 [p. 97](/@YMLi/r1YL4JDV6#8-諧声系列において唇音と関連する円唇化喉音と円唇化軟口蓋音) 参照) | | 永 **hi̯waŋ²** | 派 **phae³**, 脈 **maək** (前述 [p. 98](/@YMLi/r1YL4JDV6#8-諧声系列において唇音と関連する円唇化喉音と円唇化軟口蓋音) 参照) | | 榮 **ɦi̯waŋ¹** | 鶯 **ꞏaəŋ¹**, 謍 **ꞏwaəŋ¹** | 庚3韻 **-i̯aŋ** が庚2韻 **-aŋ** と耕韻 **-aəŋ** の両方に対応するヨード化韻であることは明らかである。すでに述べたように、この韻は清韻 **-yeŋ** に対応する重紐三等韻 **-i̯eŋ** に代わり、それを補完するものである。 ただし、脱落した介音 \*-l- が先行すると陽韻 **-i̯âŋ** と清韻 **-yeŋ** が庚3韻 **-i̯aŋ** になる、というだけでは不十分である。なぜなら、陽韻 **-i̯âŋ** の前にはそり舌音の頭子音(閉鎖音と歯擦音の両方)が出現し、**-i̯eŋ** の前にはそり舌音の頭子音(閉鎖音のみ)が出現するからである(例えば、長 **ṭi̯âŋ¹**, 創 **tṣhi̯âŋ¹**, 貞 **ṭi̯eŋ¹**)。したがって、頭子音クラスによって扱いが異なることは明らかである。軟口蓋音・喉音・唇音の頭子音の場合、\*-l- から **-a-** への母音化は、長母音のヨード化よりも前に起こったか、あるいは、ヨードが主母音への **-a-** の音色付けの影響をブロックするほど強くは発達していなかったと考えられる(すなわち、\*klɑ̄ŋ > \*ka̯ɑ̄ŋ > \*kāŋ > **ki̯aŋ¹**, \*plēŋ > \*pa̯ēŋ > \*pāə̄ŋ > \*pi̯aəŋ > **pi̯aŋ¹**)。一方、歯音の頭子音の後では、**-a-** の音色付けは拡大しなかった(歯擦音と \*-ēŋ の間は除く、生 **ṣi̯aŋ¹** < \*slēŋ 参照;[p. 74](/@YMLi/rJIytCsGT#C4-庚陌韻), [128](/@YMLi/rkb4b8_FT#2-歯擦音のそり舌音化) 参照)。これはおそらく、\*-l- は単純に母音化されたのではなく、そり舌音化として先行する頭子音に吸収され、この過程が長母音のヨード化の前に完了しなかったからであろう。 庚3韻 **-i̯aŋ** の発展に関するこの解釈が正しければ、**-m** と **-n** の韻の場合にも何らかの類似点が見つかるはずである。**-n** の場合、刪韻 **-an** と山韻 **-aən** に対応するヨード化韻は仙B韻 **-i̯en** と見なされ、『切韻』に関する限り **-i̯an** という韻は存在しない。これについては、切韻体系の背景にある発展ラインでは、介音であろうと頭子音であろうと \*l を含むすべての歯音の頭子音の後で \*-ɑ̄n が \*-ēn にウムラウトされたと解釈できる。しかし、慧琳に見られる『切韻』の仙B韻 **-i̯en** と仙A韻 **-yen** の分離について言えば、切韻体系からの発展ではなく、独立した韻として **-i̯an** が存在し、慧琳の時代に元韻 **-i̯ân** と合流したという可能性もある。 『切韻』の凡韻と嚴韻がもともと **-i̯am** と **-i̯âm** として区別されていた可能性についてはすでに述べた。これは、陽韻 **-i̯âŋ** と庚3韻 **-i̯aŋ** と同様の発展を意味する。唇音の頭子音を持つ単語に関しては、凡 **bi̯âm¹** に頭子音クラスターがあることを示す良い証拠がある。Haudricourtは、この漢語からの借用語としてタイ祖語 \*brɔm 「全て」を引用している(Haudricourt 1954: 359)。また、タイ語 *lom* 「風」と関係があるかもしれない 風 **pi̯uŋ¹** の声符でもある。サンスクリットの *brahm-* に使われる 葻 **ləm¹** や 梵 **bi̯âm³** < **bi̯am³** にも注意されたい(Pelliot 1928: 455)。一方で、氾 **bi̯âm¹** にはクラスターがなかったという有力な証拠もあり、『魏略』では、Pelliotが確信を持ってバンビュケ ==Gk. Βαμβύκη *Bambýkē*== と同定した中東の地名の第一音節の転写に使われている(Pelliot 1921)。さらに 鍐 **mi̯âm²** も、サンスクリットの *vaṁ* に使われているので(『法寶義林』: I 50)、おそらくクラスターはなかったのだろう。『切韻』ではこれらの単語はひとまとめになっているが、上述のように慧琳ではこれらが区別されており、Huang(1931)によって、鋄 **mi̯âm²** (⟨鍐⟩ の異体字)と 笵 **bi̯âm²** は *-âm* のグループに、汎, 帆, 範, 氾, 范, 乏, 泛 は *-am* のグループに置かれている。==クラスターを持たなかった証拠がある== 氾 は *-am* ではなく *-âm* に置かれると予想されるが、鍐 は ⟨氾⟩ を声符とする 笵 と共に正しく置かれている。すでに『切韻』では2つの韻は一緒になっていたのだから、この対立が慧琳に完全に継承されなくても不思議ではないだろう。 軟口蓋音の頭子音を持つ単語に関しては、『切韻』で凡韻に入る数少ない単語のひとつとして 劍 **ki̯âm³**/**ki̯am³** があることに注意されたい。ここで、斂 **li̯em²** との諧声接続はクラスターの再構を支持するだろうし(そのためKarlgrenは \*kli̯ɐm と再構している)、また母音 **-a-** を示唆する古風な日本語の綴り *ki-ya-mu* にも注目したい。また、『切韻』時代の証拠としては疑わしいが、『広韻』では凡韻にそり舌音や鼻音の頭子音を持つ単語がいくつか追加されており、逆に『広韻』や『集韻』で嚴韻に硬口蓋音の頭子音を持つ単語がいくつか追加されていることは、少なくとも前者が失われた介音 \*-l- に由来する韻であり、後者がそうではないという考えと一致する。 ## 4. 歯摩擦音 中古漢語の頭子音には、硬口蓋破擦音 ==(章組)== とそり舌閉鎖音 ==(知組)== の他にも、歯閉鎖音 ==(端組)== とのつながりを示すものがある。それは特に硬口蓋継続音の以母 **y-** と書母 **ś-** で、加えて邪母 **z-** (**-i̯-** の前のみに現れる)、時には心母 **s-** も含まれる。 - 移 **ye¹** : 多 **tâ¹**, 奓 **ṭa¹**, 趍 **ḍi̯e¹** 等 - 羶 **śi̯en¹** : 亶 **tan¹**, 儃 **tan²**, 儃 **ji̯en¹** 等 しかし、継続音が主要な役割を果たす別のタイプの系列もある。 - 余 **yo¹**, 賖 **śi̯a¹**, 敍 **zi̯o²** : 塗 **dou¹**, 除 **ḍi̯o¹**, 荼 **dou¹**, **ḍa¹**, **śi̯o¹**, 稌 **thou¹**, 稌 **dou¹** - 予 **yo²**, 序 **zi̯o²**, 紓 **śi̯o¹**, **źi̯o²**, 野 **ya²**, **ji̯o²** - 與 **yo²**, 藇 **zi̯o²**, **yo²** (また 舉 **ki̯o²**) - 俞 **you¹**, 揄 **you¹**, **du²**, 輸 **you¹**, **źi̯ou¹**, 蝓 **śi̯ou¹**, 歈 **du¹**, 偷 **thu¹** - 延 **yen¹**, 埏 **śi̯en¹**, 梴 **ṭhi̯en¹**, 誕 **dân²** - 㕣 **ywen²**, 沿 **ywen¹**, 船 **źi̯wen¹** - 世 **śi̯ei³**, 貰 **śi̯ei³**, **źi̯a³**, 抴 **yei³**, 泄 **si̯et**, **yei³**, 勩 **yei³**, **yi³**, 枼 **yep**, 偞 **yep**, **hiep**, 揲 **yep**, **sep**, **źi̯et**, **śi̯et** - 曳 **yei³**, 洩 **yei³**, **si̯et**, 絏 **si̯et** - 引 **yin²** : 紖 **ḍi̯in²** - 申 **śi̯in¹**, 朄 **yin³**, 神 **źi̯in¹**, 電 **den³** - 身 **śi̯in¹** : 𨌈 **den¹** - 失 **śi̯it**, 佚 **yit**, **det**, 抶 **ṭhi̯it**, 秩 **ḍi̯it** - 昜 **yâŋ¹**, 偒 **śi̯âŋ¹**, 餳 **dâŋ¹**, 湯 **thâŋ¹**, **śi̯âŋ¹**, 場 **ḍi̯âŋ¹**, 暢 **ṭhi̯âŋ³** - 易 **yek**, 易 **ye³**, 睗 **śi̯ek**, 緆 **sek**, **thei³** - 由 **yu¹**, 柚 **yu³**, **ḍi̯uk**, 褏 **zi̯u³**, **yu³**, 抽 **ṭhi̯u¹**, 廸 **dek** もっと多くの例を追加できるだろう。 このタイプに属する多くの諧声系列の特徴として、閉鎖音はほとんど有声音の定母 **d-**, 澄母 **ḍ-** と無声有気音の透母 **th-**, 徹 **ṭh-** に限られる。無声無気閉鎖音はほとんどなく、全ての硬口蓋破擦音は非常にまれであり、これは歯閉鎖音を特徴とする系列での頻度とは対照的である。 Karlgrenに倣って以母 **y-** を無気音 \*d- に遡らせ、それ以外の変更を加えなかった場合、なぜこのような分布が生じるのか、まったく理解できない。なぜ無声有気音 *th-* が、無声無気音 *t-* よりも有声無気音 *d-* に対して高い親和性を示すのだろうか。なぜ書母 **ś-** と邪母 **z-** (Karlgrenは \*dz- と再構した)は、精母 **ts-**, 心母 **s-** よりも、*d-*, *dʰ-*, *tʰ-* に対して高い親和性を持つのだろうか。これらの系列を理解するためには、もっと思い切った仮説が必要であることは明らかである。 この問題の鍵の一つは、中古漢語の以母 **y-** の元々の音価を見つけることである。Karlgrenは、これを主に無気音 \*d- として、時には \*z- や \*g- として再構した。我々は上古漢語に2種類の有声閉鎖音 ==(無気音と有気音)== があるという説をすでに否定した。さらに、見ての通り、以母 **y-** が出現する系列は、通常の歯閉鎖音の諧声系列とはかなり異なっている。 漢代から唐代にかけての以母 **y-** の転写音価はかなりはっきりしているようであり、それは硬口蓋摩擦音 *ź-* だった。このことは、阿育 **ꞏâ¹-yuk** = Skt. अशोक *Aśoka*、拘翼 **ki̯ou¹-yək** = Skt. कौशिक *Kauśika* ([p. 77](/@YMLi/rJIytCsGT#C8-蒸職韻))のような例で説明できる。以母 **y-** がサンスクリットの *y* を表す、閻 **yem¹** = Skt. यम *Yama* のようなケースはおそらく、プラークリットで *y* が摩擦音 *ź* になったためであろう(Bailey 1942: 909, 919 参照)。 それ以前の時代には、この音価は使えない。『後漢書』(紀元120年頃)の 粟弋 **si̯ok-yək** = Soγδik では、イラン語の δ を指す。それ以前にも、『漢書』では 烏弋山離 **ꞏou¹-yək-ṣaən¹-li̯e¹** = Lat. *Alexandria* で、外国語の *l* を表記していた。十二支の10番目 酉 **yu²** のタイ諸語の形も興味深い(アホーム語 *rāo*、ルー語 *hrau*、チワン語 *thou* (= δu)、ラーンナー語 *law*)。この単語の頭子音の *l-* との密接な関連は、漢代の著作における 老 **lâu²** と 留 **li̯u¹** による声訓からも示されている(Li 1945: 340; Egerod 1957)。これらすべての証拠に適合する最良の音価は、歯摩擦音 \*δ- であると思われる。これは音声的に *l* に近く、また同時に歯閉鎖音にも近いため、歯閉鎖音系列に時折現れても不思議ではない。もう一つの理論的な候補は \*r- だが、これは満足のいくものではない。中国人が *Alexandria* を転写する際に、*l* を *r* に、*r* を *l* に使っているとすれば驚くべきことである。 \*δ- が後続する *-i̯-* によって口蓋化されるのは、もちろん歯閉鎖音に起こったこととまったく同じであり、何の問題もない。しかし、ヨード化しない(短い)母音の前でも発生しない理由はない。先ほど見た一連の頭子音の特異な分布は、その答えを示唆している。非ヨード化韻の前の定母 **d-** は、ヨード化韻の前の以母 **y-** に対応しているようである。したがって、\*δ- > **d-**, \*δi̯- > \*źi̯- > **y-** という展開が考えられる。 これで、書母 **ś-** の起源と、透母 **th-** がこの系列に含まれる理由を説明する方法も明確になった。明らかに、\*δ- には対応する無声音 \*θ- があったはずで、したがって \*θ- > **th-**, \*θi̯- > **śi̯-** という展開になる。 これらの系列には澄母 **ḍ-** と徹母 **ṭh-** が時折見られることから、\*δl- > **ḍ-**, \*θl- > **ṭh-** を再構する必要がある。 上古漢語に \*δ- と \*θ- という頭子音があることは、シナ・チベット比較言語学の観点からは予想外かもしれない。一方、チベット・ビルマ語には *l* と *r* という2つの流音がある。我々の \*δ はチベット・ビルマ語 *l* に対応し、漢語の **l-** は主にチベット・ビルマ語 *r* に対応すると考える十分な理由がある。このことを説明するために、次のような単語の比較を提案することができる。 :spiral_note_pad: **表7: 上古漢語 \*δ- とチベット語 *l-* の対応** | 漢語 | チベット語 | | :------------------------------------------ | :----------------- | | 羊 **yâŋ¹** | ལུག་ *lug* | | 塗 **dou¹** (< \*δɑɦ < \*δɑɦ < \*δɑv?) [^1] | ལམ་ *lam* 「道」 | | 葉 **yep** | ལོབ་ *lob* 「葉」 | | 容 **yoŋ¹** | ལོང་ *loṅ* 「余暇」 | 同様に、上古漢語 \*θ- はチベット語 *lh-* に対応するかもしれない。 :spiral_note_pad: **表8: 上古漢語 \*θ- とチベット語 *lh-* の対応** | 漢語 | チベット語 | | :---------------------------------- | :------------------------- | | 脱 **thwât**, **dwât¹**, **thwâi¹** | ལྷོད་པ་ *lhod-pa* 「ゆるい」 | 同様に、鐵 **thet** も、上古漢語 \*θet < \*θek (末子音については Pulleyblank 1960: 63 参照、ただし声符は 呈 **ḍieŋ¹**)に由来するとすれば、タイ祖語 \*lʼěk と完全に一致する。チベット語 ལྕགས་ *lćags* 「鉄」も間違いなく同源語である。\*ly- はチベット語 *ź-* を与えるので、この *lć-* は \*lhy- に由来するのかもしれない(Forrest 1961: 132 参照)。 漢語が來母 **l-** を持つところにチベット語の単語が *r-* を持つ例として、以下が挙げられる。 :spiral_note_pad: **表9: 漢語 **l-** とチベット語 *r-* の対応** | 漢語 | チベット語 | その他 | | :--------------------------- | :-------------------- | :------------------------------------------------------------ | | 六 **luk** | དྲུག་ *drug* 「6」 | ==:bulb: ビルマ語 ခြောက် *khrok*== | | 龍 **li̯oŋ¹** (< \*vlōŋ 後述) | འབྲུག་ *ḫbrug* 「竜」 | | | 里 **li̯ə²** (< \*vlīꞏ? 後述) | འབྲིས་ *ḫbris* 「描く」 | ビルマ語 ရေး *reḥ* | | 劣 **li̯wet** (< \*lōt) | རུད་ *rud* 「堕落」 | 古ビルマ語 ယုတ် *yut* < \*rut, ရှုတ် *rhut* (Benedict 1939: 216) | これを根拠に、上古漢語の \*l- を \*r- に変え、\*δ- を \*l- に置き換えてみたくなるかもしれない。これは、いくつかの音価については非常によく一致するが、我々の \*δ- が歯閉鎖音の諧声系列に現れる方法とはあまり一致しない。さらに、どの段階ですべての \*r- を **l-** に変化させるべきかがわからず、非常に混乱する。したがって、上古漢語のすべての段階において \*δ- と \*θ- を保持し、それがかつては \*l- や \*lh- であったかどうかという疑問は残したままにしておくのが最善と思われる。 ## 5. \*θ- > \*h- 硬口蓋継続音系列に曉母 **h-** が含まれることがあるが、これは通常、墮 **dwâ²**, **hywe¹** や 偞 **yep**, **hi̯ep** のように、又音である。このことは、方言によっては \*θ- が \*h- に変化した可能性を示唆している。この仮説は、インドの名称の不可解な初期の転写、身毒 **śi̯in¹-dok** (『史記』123)と 天竺 **then¹-ci̯uk** (or **-tok**) (『後漢書』118)を説明するものである。天 の又音の存在は、何人かの学者によって指摘されている。Bodmanは、『釈名』の中で劉熙がこの文字に2つの注釈をつけていることを指摘している。劉熙はまずこれに 顯 **hen²** という語釈をつけ、天 という単語は豫・司・兗・冀では舌の「腹」で発音され、そして青・徐では舌の「頭」で発音されると述べている(Bodman 1954: 28)。この単語は、劉熙が指した地域、つまり首都周辺の中央部では頭子音に *h-* (あるいは軟口蓋摩擦音 *x-*)を伴って発音され、東部では頭子音に *th-* を伴って発音されたと説明しなければならない。*h-* の発音は、中国におけるゾロアスター教の呼び名である 祆 **hen¹** にも残っている。この 祆 **hen¹** は、Albert Dienが示したように、「天」の特殊な用法に過ぎない(Dien 1957)。⟨天⟩ の文字は、摩天提伽 **mâ¹-then¹** (**hen¹**) **-dei¹-gi̯â¹** = Skt. महर्द्धिक *Maharddhika* で使われている(Bailey 1946: 784)。天竺 の漢代の発音を \*hen-tūk と再構すれば、イラン語 \*Hinduka に対応する。 より早い時期の転写 身毒 **śi̯in¹-dok** の方が表面的には簡単だが、実際には同じ説明が必要である。漢語の形には歯音ではなく硬口蓋音があるため、これがインド語の形 Skt. सिन्धु *síndhu-* に直接基づいていると考えることはできないだろう。中古漢語 **śi̯in¹** は上古漢語 \*θēn を指しており、漢代の発音として \*hēn または \*hin を仮定することができる。 漢代の発音が \*h- であったという仮定は、『釈名』の中で中古漢語の透母 **th-** や書母 **ś-** が曉母 **h-**, 溪母 **kh-**, 影母 **ꞏ-** と関連付けられている多くの注釈、例えば 苦 **khou²** : 吐 **thou³** < \*θɑh (60)、烏 **ꞏou¹** : 舒 **śi̯o¹** < \*θɑ̄ɦ (50)、庫 **khou³** : 舍 **śi̯a³** (61)もうまく説明できるだろう(数字は Bodman 1954 より)。 ## 6. \*δ- (\*θ-) クラスター \*δ- がチベット語 *l-* と同源であるとすれば、他の子音と共に頭子音クラスターを形成することが予想される。次のような、軟口蓋音とのクラスターを示す諧声系列に注目することができるだろう。 :spiral_note_pad: **表10: \*δ-/\*θ- と軟口蓋音の諧声接触** | \*δ-/\*θ- | 軟口蓋音 | | :--------------------------------------- | :------------------------------------------------------- | | 唐 **dâŋ¹** | 康 **khâŋ¹** (庚 **kaəŋ¹**) | | 羊 **yâŋ¹** | 姜 **ki̯âŋ¹**, 羌 **khi̯âŋ¹** | | 與 **yo²** | 舉 **ki̯o²** | | 頌 **yoŋ¹**, **zi̯oŋ³** | 公 **kuŋ¹** | | 邪 **ya¹**, **zi̯a¹** | 牙 **ŋa¹** | | 窯 **yeu³** | 羔 **kâu¹**, 䫞 **kyeu¹**, 䅵 **ci̯âk** < \*kēōk | | 茝 **yə¹**, 姬 **yə¹** | 姬 **ki̯ə¹** | | 異 **yə³**, 翼 **yək** | 冀 **ki̯i³** | | 藥 **yâk**, 䟏 **śi̯âk** | 樂 **ŋauk**, **lâk** | | 谷 **yok**, 容 **yoŋ¹** | 谷 **kuk** | | 衍 **yen** | 愆 **khi̯en** (𩜾 **ci̯en**) | | 羑 **yu²** | 久 **ki̯u²**, 柩 **gi̯u³** | | 鹽 **yem¹** | 監 **kam¹**, 藍 **lâm¹** | | 隤 **duəi¹**, 僓 **thuəi²**, 遺 **ywi³** | 貴 **ki̯wəi³**, 樻 **ki̯wi³**, 聵 **ŋwaəi³**, 匱 **gi̯wi³** | これらの系列では、上古漢語 \*g- の反射はまれである。そのため、\*-δ- は \*k- と \*kh- の後で消失したが、\*g- は \*-δ- の前で \*ɦ- に弱まったのち消失し、定母 **d-** または以母 **y-** になったと考えられる(例えば、\*gδɑŋ > **dâŋ¹**, \*khδang > **khâŋ¹** など)。もちろん、ある諧声系列のいくつかの単語が \*-δ- を持っているからといって、すべての単語にそれがあったと考える必要はない。いくつかのケースでは、その代わりに介音 \*-l- が示されている。また、クラスターがなかったと考えられる場合もある。例えば、貴 **ki̯wəi³** が 貴霜 **ki̯wəi³-ṣi̯ân** = Kušan (クシャーナ、紀元1世紀)で使われたときには、確かにクラスターはなかった。疑母 **ŋ-** が以母 **y-** と交替する系列では、\*θ- の反射、すなわち透母 **th-** と書母 **ś-** も見られる。これはおそらく、\*ŋδ- > \*δ- > **d-**, **y-** および \*ŋhδ- (= \*ŋθ-) > \*θ- > **th-**, **ś-** のような展開を示している。樂 **ŋauk**, 聵 **ŋwaəi³** のように、*ŋ-* が維持されている単語もあるが、これは介音要素が \*-l- であったケースである。 ここまで考えてきたケースには、上古漢語の後舌・中舌母音、あるいは **yə**, **yək** の場合はクラスターが単純化されたと想定される時点ですでに \*i から \*ə に後退していた母音があった。前舌母音 **e**, **i** の前では以母 **y-** と軟口蓋音の交替はまれであり、この場合の発展パターンは多少異なっていたようである。\*g- は消滅せず、\*-δ- はもともとの長母音の前にその痕跡を残し、**-y-** のような形となったが、長母音の音割れによって先に発展した **-y-** のように、先行する軟口蓋音の口蓋化を引き起こすことはなかった。この仮説によって、『説文』が 𡈼 **theŋ¹** < \*θeŋ を 巠 **keŋ¹**, 頸 **kyeŋ¹**, **gyeŋ¹** などの声符とみなしている事実を説明することができる。我々は、上古漢語 \*kēŋ が中古漢語 **ci̯eŋ¹** を与えたと考えるべきである。実際の展開としては \*kδeŋ > **keŋ¹**, \*kδēŋ > \*kδyeŋ > \*kźyeŋ > **kyeŋ¹** が推測される。この系列には \*-l- クラスターの証拠もある(𡷨 **khaəŋ¹** < \*khleŋ, 葝 **gi̯aŋ¹** < \*glēŋ)。Bodmanはすでに 頸 **kyeŋ¹**, **gyeŋ¹** という単語にクラスターを提唱しているが、これは『釈名』による 領 **li̯eŋ¹** を用いた語釈のためである(Bodman 1954: 49)。 同様に \*-δ- も仮定することができるだろう。 - 緊 **kyin²** < \*kδīnꞏ < \*kδēnꞏ, cf. 臤 **khaən¹** < \*khlen - 棄 **khyi³** (𠫓 **thuət** が声符とされている ==:bulb: この諧声関係を支持する研究者はほとんどいない==) - 吉 **kyit**, 詰 **khyit** (『釈名』では 實 **źi̯it** の語釈がある) - 𠚽 **kye¹**, 岐 **gye¹**, 蚑 **khye³** - 遣 **khyen²** - 企 **khye²** また、枳 **ci̯e¹**, **kye²** や 甄 **ci̯in¹**, **kyen¹** の非口蓋化頭子音を伴う又音も、もしこれが単にインド諸語 *k-* の転写にこれらの文字が使われているために辞書的な読み方が残ったということでなく、本物の中古漢語の読み方であるならば、同様の例である。 短母音の前で \*-δ- が跡形もなく消えてしまったのであれば、\*-l- クラスターを示す系列があっても、母音からそれを確証できない場合には、\*-δ- が再構できる可能性がある。例えば、各 **kâk** 「それぞれ」は \*kδɑk に由来する可能性がある。これは 舉 **ki̯o²** < \*kδɑ̄ꞏ 「すべて」との語源的関係を示唆する。 已 **ye²** : 矣 **ɦi̯ə²**, 俟 **ẓi̯ə²**, 埃 **ꞏəi¹**, 騃 **ŋaəi²** など、語中の \*-δ- は諧声関係に一役買うかもしれないが、この系列はいくつかの点で変則的である。 \*nδ-, \*sδ-, \*sθ- クラスターについては後述する。また、\*-δ- と歯閉鎖音、唇閉鎖音、\*m- とのクラスターもあったと思われる。 ## 7. 歯鼻音 我々は、中古漢語に歯鼻音(泥母) **n-**、硬口蓋鼻音(日母) **ń-**、そり舌鼻音(娘母) **ṇ-** が存在することを指摘した。対応する上古漢語の歯閉鎖音の反射と同様に、これらは単一の歯鼻音に由来すると考えられる。漢代の転写には、外国語の *n* を表すために中古漢語の日母 **ń-** が使用された証拠がある。 若榴 **ńi̯a¹-li̯u³** 「ザクロ」(ソグド語 *n'r'kh* < \*nāraka 参照)。この単語の最古の出現は、紀元100年頃の張衡『南都賦』にあるようだ(『文選』4: 52)。また、『広雅』にも ⟨楉榴⟩ として登場する(『広雅疏證』10B: 1340)。⟨石榴⟩ という形は、間違いなく図形的転訛である。安石榴 **ꞏân¹-ńi̯a₁¹-li̯u³** という長い形は、パフラヴィー語 *anār* などの西域言語の形のように、語頭に *a-* を持つ。最終音節の母音にはさらなる問題があるが、今回は脇に置いておく(Laufer 1919: 276–87 参照)。 貳師 **ńi̯i¹-ṣi̯i¹** = Nesef, Nakhšab、ソグドの現在のカルチ。中国が紀元前101年に包囲して占領した大宛の首都がこのように特定される歴史的根拠については、別のところで述べる(『史記』123)。 紀元2世紀末の支婁迦讖(Lokakṣema)の写本(T.224)では、阿迦貳吒 **ꞏâ¹-ki̯â¹-ńi̯i³-ṭa¹** = Skt. अकनिष्ठ *Akaniṣṭha* ==:bulb: Gd. †aganiṭha== で、この同じ文字が歯音 *n* に使われている。一方、般若 **pân¹-ńi̯a¹** = Skt. प्रज्ञा *prajñā*, プラークリット पञ्ञा *paññā* ==:bulb: Gd. *praṃña*== のような単語には、硬口蓋音 **ń-** がすでに見られる。 このように、歯閉鎖音の硬口蓋音化と全く同じ状況が見出され、\*ni̯- > **ńi̯-** と自信を持って仮定することができる。 そり舌閉鎖音との並行性から、そり舌音の娘母 **ṇ-** は \*nl- に由来すると考えられる。娘母 **ṇ-** と來母 **l-** の諧声接続は少ないが、次のようなものがある。 - 漾 **lem¹** 「薄い氷」: 漾 **ṇi̯em¹** 「接着する、くっつく」 漾 **ṇi̯em¹** という単語は間違いなく、娘母 **ṇ-** の 昵 **ṇi̯it** 「近い、親しい、接着剤」, 䵒 **ṇi̯it** 「くっつく」, 衵 **ṇi̯it** 「体に一番近い女性の服」, 尼 **ṇi̯i¹** 「近い」などの単語の同源語である。さらに、娘母 **ṇ-** のこれらの形は、接中辞 \*-l- によって 邇 **ńi̯e²** 「近い」から派生しているようである(後述)。 また、北京語では不規則な読み方 *lìn* を持つ 賃 **ṇi̯im³** もある。 支婁迦讖の転写では、尼 **ṇi̯i¹** が歯音 *n* とそり舌音 *ṇ* の両方に使われていることから、\*nl- は紀元2世紀の終わりには **ṇ-** に簡略化されていたと思われる(サンスクリット音節の転写[Li 1952: 164]からわかるように、泥母 **n-** と 娘母 **ṇ-** は注意深い用法では区別されていたが、**i** の前の環境では歯音 *n-* が存在しないため、泥母 **n-** が使われることが多かった)。⟨尼⟩ という文字は、初期の転写ではほとんど見られない。その代わりに 泥 **nei¹** があり(cf. [p. 89](/@YMLi/r1YL4JDV6#2-語頭声門閉鎖音の転写音価))、Skt. निर्वाण *nirvāṇa* ==:bulb: Gd. *nivana*== の初期の標準的な転写 泥洹 **nei¹-ɦi̯wân¹** (or **ɦwân¹**) にこの文字が使われているのは、おそらくこのような初期の伝統によるものであろう。 いくつかのケースでは、以母 **y-** と泥母 **n-**, 日母 **ń-** が交替する。 :spiral_note_pad: **表11: 以母 y- と鼻音 n-, ń- の諧声接触** | 以母 | 鼻音 | | :------------------------ | :-------------------------- | | 孕 **yəŋ³** | 乃 **nəi²**, 仍 **ńi̯əŋ¹** | | 芮 **yei³**, 蜹 **ywei³** | 蜹 **ńi̯wei³**, 内 **nwəi³** | | 淫 **yim¹** | 壬 **ńi̯im¹** | これについては、李方桂が「すべてタイ祖語の硬口蓋鼻音を指しているようだ」(Li 1945: 338)と述べている十二支の3番目 寅 **yin²** のタイ語形とも比較しなければならない。\*nδi- > **y-** と仮定することで、この現象を説明することができる。\*nl- クラスターがある以上、\*nδ- クラスターも予想される。 --- 他の鼻音のケースと同様、上古漢語には有気音の \*nh- が仮定される。中古漢語におけるその反射は \*θ- と同じであり、\*n- はある段階で \*θ- になったと考えることができる。\*nh- は次のような諧声系列に現れる。 :spiral_note_pad: **表12: \*θ- > 透母 th-, 書母 ś- と鼻音 n-, ń- の諧声接触** | \*θ- | 鼻音 | | :--------------------- | :------------------------ | | 慝 **thək** | 匿 **ńi̯ək** | | 態 **thəi³** | 能 **nəi¹**, 能 **nəŋ¹** | | 帑 **thâŋ²**, **nou¹** | 奴 **nou¹** | | 灘 **thân¹** | 難 **nân¹** | | 耼 **thâm¹** | 耼 **nâm¹** | | 妥 **thwâ¹** | 餒 **nwəi²** | | 饟 **śi̯âŋ¹** | 曩 **nâŋ¹**, 禳 **ńi̯aŋ¹** | | 恕 **śi̯o³** | 如 **ńi̯o¹** | | 攝 **śi̯ep** | 攝 **nep**, 聶 **ńi̯ep** | 娘母 **ṇ-** < \*nl- に対応して、徹母 **ṭh-** < \*nhl- が数例見られる。 :spiral_note_pad: **表13: \*nhl- > 徹母 ṭh- と鼻音 n-, ń-, ṇ- の諧声接触** | 徹母 | 鼻音 | | :----------- | :--------------------------------------------- | | 恥 **ṭhiə²** | 耳 **ńiə²** | | 絮 **ṭhi̯o³** | 絮 **ṇi̯o³** (および **si̯o³** < \*snh-、後述) | | 丑 **ṭhi̯u²** | 杻 **ṇi̯u²** | 最後の例は十二支の2番目であり、そのためタイ語の借用語がある。これらはタイ祖語の \*pl- を意味するようである(Li 1945: 338)。しかし、この系列には唇音の痕跡がなく、\*nhl- > \*θl- を再構したい。タイ語 \*pl- は、おそらく \*θl- の代用としての \*fl- を表しているのだろう。 ## 8. 側面音 側面音の頭子音 \*l- は、ヨードの後で口蓋化を受けなかった。頭子音クラスターの簡略化によって完全に失われた場合を除けば、上古漢語から中古漢語まで安定した音素であったと思われる。 來母 **l-** が透母 **th-** や徹母 **trh-** とのみ交替するケースを説明するために、有気鼻音との並行性に基づいて、上古漢語に有気音 \*lh- を再構する必要もあると思われるが、この場合でもクラスターが疑われるケースもある。 :spiral_note_pad: **表14: \*lh- > 透母 th-, 徹母 trh- と來母 l- の諧声接触** | \*lh- | 來母 | | :-------------------- | :---------------------- | | 體 **thei²** | 禮 **lei²** | | 獺 **thât**, **ṭhat** | 剌 **lât**, 賴 **lâi³** | | 㨨 **ṭhi̯u¹** | 留 **li̯u¹** | | 离 **ṭhi̯e¹** | 離 **li̯e¹** | \*lh- を転写する例の候補として、「ラクダ」の初期の形 橐駝 **thâk-dâ** < \*lhɑk-δɑδ がある。これは紀元前2世紀に登場するが、後漢では 駱駝 **lâk-dâ** に置き換えられている。この新しい表記は、漢語の \*lh- が **th-** に変化したため、外国語の流音を表すのにふさわしくなくなったと仮定すれば、最も簡単に説明できる。残念ながら、この単語の原語はまったく不明で、匈奴の原語かトカラ語だったかもしれない。⟨橐⟩ と ⟨駝⟩ の諧声系列には來母 **l-** との接点は見られないが、どちらもそり舌閉鎖音を含み、\*-l- クラスターの形跡がある。これらの形の歴史についてはSchafer(1950)を参照。 ## 9. \*-l- クラスター これまで述べてきたそり舌閉鎖音に関する理論や、介音 \*-l- が失われることによる母音への影響から、多くの場合、\*-l- クラスターはかなりの信頼性をもって回復することができる。しかし、特に來母 **-l-** 自体がクラスターの生き残りである場合には、いくつかの問題が残る。 最も多いクラスターは軟口蓋音と喉音を伴うものである。この場合、Karlgrenは、有声無気音 \*g- を除くすべての頭子音の後で介音 \*-l- が失われたと考えた。我々はこの音素を上古漢語の体系から排除したが、その代わりに \*ɦ- があり、\*ɦl- > **l-**, \*gl- > **gi̯-**/**ɦ-** という魅力的で単純な解決策を提供する。これには乗り越えられない障害はなさそうだ。苙 **gi̯ip**, **li̯ip** や 璆 **gyeu¹** : 鏐 **li̯eu¹** (Karlgren 1957: 275–6 #1069i, b)のような二重読みや、鞻 **ki̯ou³**, **li̯ou³** (, **lu¹**) のように、同じ文字の読みの見母 **k-** と來母 **l-** とが、有声頭子音と無声頭子音のペアのように見える場合もある。しかし、このような例はほとんどなく、例外的なものと考えてよい。 もうひとつの難点は、Lou-lan (楼蘭) = Gd. *Krorayina* に 樓 **lu¹** < \*ɦloɦ が使われていることである。しかし、この地域の転写についてすでに指摘した特殊性、つまり、外国語の後軟口蓋音または口蓋垂音を表すために漢語の喉音が使われることを忘れてはならない(前述 [p. 91](/@YMLi/r1YL4JDV6#3-西漢における-ɦ-の転写音価) 参照)。ネイティブの発音の *Krorayina* は口蓋垂音で始まっていたために、漢語 \*kl- で表すことができなかったのかもしれない。同じ考察が、バクトリアの大夏と月氏の首都の名前である 藍市 **lâm¹-ji̯ə¹** (『史記・大宛列傳』123), 監氏 **kam¹-ji̯e²** (-**ci̯e¹**) (『漢書・西域傳上』96A), 藍氏 **lâm¹-ji̯e²** (-**ci̯e¹**) (『後漢書・西域傳』118)にも当てはまるかもしれない(cf. Haloun 1937: 259)。この転写の第1音節は、後にフルムとして知られる名前を表しているに違いない。フルムは、トハリスタンの中心部、バルフの東にある広大な古代遺跡で、トランスオクシアナとヒンドゥークシュを結ぶ東西の道と南北の道の交差点に戦略的に位置している。月氏が首都としたのも自然なことだ。この同定に関する歴史的見地からの詳細な考察は、また別の機会に行いたい。ここでは、後にイラン語の *X-* となる外国語の頭子音を表すための \*ɦl- と \*kl- の間の交替を指摘するだけで十分であろう。この名称の起源がトカラ語であれイラン語であれ、中国人がこの名前を最初に耳にしたのは、おそらくトカラ語を通してであり、もしかしたら \*q- を持っていたかもしれない。 --- \*ɦw- が \*-l- の前で消滅したわけではないことは、嚄 **ɦwak**, 榮 **ɦi̯waŋ¹** のような、明らかに唇化軟口蓋音ではなく唇化喉音を示すケースによって示されている。しかし、これには何の問題もない。合口韻において來母 **l-** が軟口蓋音と接触している数少ない例では、介音 **-w-** は、唇化軟口蓋音・喉音の頭子音の結果としてではなく、別の方法、すなわち、歯音の末子音の前の円唇母音の音割れか、あるいは \*vl- (後述)によって説明することができる。 ## 10. \*-l- クラスターが単純化された時期 漢代の軟口蓋音・喉頭 + \*-l- のクラスターの例はすでにいくつも挙げられており、さらに追加することもできる。例えば、キルギス(古テュルク語 𐰶𐰃𐰺𐰴𐰔 *Qïrqïz*)の初期の形である 隔昆 **kaək-kuən¹** < \*klek-kun と、少し後の 堅昆 **ken¹-kuən¹** を挙げることができる(『史記・匈奴列傳』110: 0245.1、『漢書・匈奴傳上』94A: 0596.1、cf.『漢書疏證』)。こうした例は仏典の転写にも見られる。Skt. कल्प *kalpa* ==:bulb: Gd. *kapa*== には 劫 **ki̯ap** という文字が使われる。これはおそらく、かつての \*klɑ̄p に遡る。乏韻 **-i̯âp** と業韻 **-i̯ap** は混同されたためここでは母音は指標として良いものではなく、諧声系列において \*-l- との接点はない。しかし、介音 \*-l- を持つと仮定すれば、この系列に含まれる 法 **pi̯ap** < \*plɑ̄p の存在を説明することができる。クジュラ・カドフィセスの転写 ==丘就卻 **khi̯u¹-dzi̯u³-ki̯ak**== は、最終音節の 卻 **ki̯ak** を 劫 **ki̯ap** とするPelliot(1914: 401)の修正を受け入れるなら、おそらくより早い例だろう。Peiliotはこの転写について、外国語の *l* が漢語では表現されていないと指摘した。\*klɑ̄p を再構すれば、これは \*khūɦ-dzūh-klɑ̄p となり、音位転換を通して \*kujūl(a)kap- を表すことができる。同じ文字は、劫貝 **ki̯ap-pâi³**, 劫波育 **ki̯ap-pâ¹-yuk**, 劫貝娑 **ki̯ap-pâi³-sâ¹** = Skt. कार्पास *kārpāsa*, कार्पासिक *kārpāsika* 「綿」にも見られる(Pelliot 1959: 440–1)。Pelliotは、これらの転写は *kapp-* を伴うプラークリット形に基づいていると仮定しているが、漢語の \*klɑ̄p- が音位転換を通して *kārp-* を表している可能性もある。**-yuk** の形は、*-sik(a)* に対する \*-źuk または \*-źik を表しているように見える。**pâi³** における去声の意義については、韻との関連で後述する。 *-l-* が無視されているように見えるとPelliotが指摘したもう1つの転写は、舍頭諫 **śi̯a¹-du¹-kan³** = Skt. शार्दूलकर्ण *Śārdūlakarṇa* である。ここでも、音節 **kan³** は \*kl- を意味し、音位転換を通して *-l(a)k-* を表している可能性がある。 耆 **gi̯i¹** の文字は何かと問題がある。その母音は \*glēδ を意味するはずである。しかし、クラスターを持たないはずの 焉耆 **ꞏiân¹-gi̯i¹** = \*Ārgi や、古テュルク語 *tegin* の祖形に由来すると私は考えている匈奴の称号 屠耆 **dou¹-gi̯i¹** でも使われている。また初期の仏典転写にも見られ、耆域 **gi̯i¹-ɦi̯wek** = Skt. जीवक *jīvaka*, 比耆陀 **bi̯i²-gi̯i¹-dâ¹** = विजित *vijita* (?) (T. 202、紀元425年頃の翻訳), 耆那 **gi̯i¹-nâ¹** = जिन *Jina* のように、*j-* の音価を伴うこともある。これらの転写は、辞書に残っていない **ji̯i¹** < \*gēδ という読みを指しているようである。『詩経』で 嗜 **ji̯i³** が使われていることにも注意されたい。しかし、耆闍 **gi̯i¹-ji̯a¹** = Skt. गृध्र *gṛdhra-* (T. 224)では *g-* にも使われている。パーリ語の *gijja* のような形 ==:bulb: Gd. *gij̄a*== であれば、漢語に *gl-* を仮定する必要はないだろうが、古ホータン語の『金光明経』には、プラークリットに由来する *-ṛj-* を持つ *gṛjakūlu ggaru* = 仏教サンスクリット語 गृध्रकुट *gṛdhrakuṭa-* がある(Bailey 1949: 134 参照)。最も良い解決策は、上古漢語には \*gēδ と \*glēδ の2つの読みがあり、後者だけが中古漢語に残ったという仮説のようだ。 唇音 + \*-l- のクラスターも見られる。初期の例として、虎魄 **hou²-phak** < \*hɑꞏ-phlɑk 「琥珀」(『漢書・西域傳上』96A、カシミールの地平の下)が考えられる。これはギリシャ語 \*ἅρπαξ *hárpax* 「琥珀」を表しているのかもしれない。この等式は1889年にG. Jakobによって提案されたが、Lauferによって却下された。ギリシャ語の単語は、プリニウスにおいてシリアで使われた言葉としてラテン語化形で記録されているのみだが、「ひったくり」という異称は琥珀にふさわしいもので、他のギリシャ語圏でも知られていたかもしれない。もちろん、紀元前1世紀の北西インドでギリシャの影響を受けた証拠が見つかっても驚くにはあたらない(cf. Laufer 1919: 523)。すでに言及した \*bl- クラスターの可能性が高い例は、梵 \*bi̯am³ = Skt. *Brahm-* である(前述 [p. 114](#3-捲舌音化と介音--l--の脱落) 参照)。初期の仏典の転写におけるもう一つの例は、Skt. पूर्णमैत्रायणीपुत्र *Pūrṇamaitrāyaṇīputra* における 邠祁⟨那⟩ **pi̯in¹-nâ¹** < \*plə̄n-nɑ = *Pūrṇa-* ==:bulb: Gd. *puṃna-*==(T. 224: 427b29、T. 2128: 361c09 も参照)である。 \*ml- クラスターは、卯 **mau²** のタイ語形にその痕跡が見られないことから、その存在に疑問が投げかけられている(Li 1945: 338; しかし、これはもともと \*ml- ではなく \*vl- であった可能性がある)。このようなクラスターは比較的早い時期に簡略化されたかもしれないが、可能性の高い例が1つか2つ見られるかもしれない。ひとつは 都密 **tou¹-mi̯it** < \*tɑɦ-mlīt で、『後漢書・西域傳』(118)にある月氏の5人のヤブグのうちの1人が治める都市の名称である。これはTarmita(後のテルメズ)を転写したものに違いない。テルメズはオクサス川渡河地点の北に位置し、月氏が確実に占領したであろう戦略上重要な地点である。『後漢書・西域傳』や『魏略』に記されているローマ帝国オリエント、大秦への旅の舞台のひとつに 阿蠻 **ꞏâ¹-man¹** がある。Hirthによるエクバタナとの同定は今でもよく引用されるが、音韻的には曖昧な類似点しかなく、アルメニアを表すという宮崎の指摘の方がはるかに可能性が高い(Hirth 1885; Miyazaki 1939)。この旅程については、また別の機会に詳述したい。転写は \*ꞏɑδ-mlɑn に遡り、ここでも \*-l- は音位転換を通して外国語の *-r-* を表したと考えられる。仏典転写における \*ml- の例は私は知らない。 \*sl- クラスターは、おそらく 史 **ṣi̯ə²** < \*slə̄ꞏ = *S(u)liɣ* 「ソグド人 (?)」に見られる。この文字は、中国に渡ったケシュの原住民の姓として使われた。ケシュは漢代にはソグディアナの王国の主要な中心地であったようで、おそらく初期の漢語に登場する様々な形の名称、例えば 蘇薤 **sou¹-ɦaəi³** (『史記・大宛列傳』123によれば紀元前110年頃にパルティアの安息とともに使節を派遣した国の一つ、『漢書・西域傳上』96Aによれば康居政権下の小王国の一つ、『晋書』97によれば康居の首都), 栗⟨粟⟩弋 **si̯ok-yək** (『後漢書・西域傳』118に言及のある国), 粟德 **si̯ok-dək** (『北史』97に言及のある国)が意味する場所であると思われる(Markwart 1901: 303ff.; Barthold 1928: 134; Shiratori 1928; Pelliot 1938: 148参照)。この姓の使用は、6世紀末のかなり後になってから記録されている。しかし、他の「ソグド姓」、特に 安 と 康 は2世紀にはすでに外国人僧侶の名前に使われており、史 の起源も同時期である可能性が高い(この名前については、その韻についてさらに論じる)。 歯閉鎖音 + \*-l- のクラスターの明確な例を見つけるのは容易ではない。可能性としては、因坻 **ꞏyin¹-ḍi̯i¹** < \*ꞏīn-dlīδ < \*ꞏēn-dlēδ = Skt. इन्द्र *Indra* (T. 224)がある。J. Brough教授によると、プラークリットのガンダーラ語ではこの単語に *dr* が残っていたという ==:bulb: Gd. *Iṃdra*==。 ほぼ同時期に、『魏略』に見えるアレクサンドリアの2つの転写、烏遲散 **ꞏou¹-ḍi̯i³-sân²**, 澤散 **ḍak-sân²** で、澄母 **ḍ-** < \*δl- が外国語の *l* に使われている例が見られる。それ以前は、単独の \*δ が外国語の *l* に使われていた(前述 [p. 116](#4-歯摩擦音) 参照)。\*δi̯- はこの頃に口蓋垂化し、\*ź- となった。後にヨードが続かないときに **d-** に固まったかどうかは定かではない。いずれにせよ、\*δl という組み合わせは、イラン語の *l* の特殊性を表現するための最良の手段だったのかもしれない(おそらく、この名前はイランの仲介者を介してもたらされたのだろう)(Hirth 1885: 181, 190)。 このように、\*-l- クラスターが少なくとも紀元2世紀末まで存続していたと考える十分な根拠があることは明らかである。これは、古風主義と疑われるかもしれない『釈名』における声訓の証拠と一致する。仏典転写の歴史が詳細に解明されれば、\*-l- クラスターが最終的に消滅したのはいつなのか、もっとはっきり言えるようになるかもしれない。 ## 11. 派生接中辞としての \*-l- ここで提案した新しい \*-l- クラスターの再構は、形態的接尾辞としての *l* に関するWulff(1934)の理論を大いに支持するものである。明らかに同源であるにもかかわらず、*-l-* を介した関係であることが判明した単語は非常に多い。この問題は、他の形態論的装置、例えば接頭辞 \*s- による頭子音の有声音と無声音の間の変化(後述)や去声(すなわち韻の扱いに関して後述するように、接尾辞 \*-s)とも関連する、広範な扱いを必要とする。ここでは、いくつかの例を挙げるにとどめる。この接中辞 \*-l- は、場合によっては、自動詞から他動詞を形成することもあれば、他動詞から使役動詞を作ることもある。 :spiral_note_pad: **表15: 接中辞 \*-l- による使役的な派生** | ベース動詞 | 派生動詞 | | :-------------------------------- | :----------------------------------- | | 至 **ci̯i³** < \*tīts 「到着する」 | 致 **ti̯i³** < \*tlīts 「持ってくる」 | | 出 **ci̯wit** 「出かける」 | 黜 **ṭi̯wit** 「追い出す」 | | 合 **ɦəp** 「つなぐ」 | 洽 **ɦaəp** 「合わさる」 | | 拔 **bât** 「飛び出る」 | 拔 **bat** < \*blɑt 「引き出す」 | 性 **si̯eŋ³** 「生命、生まれつきの性質」 : 生 **ṣi̯aŋ** < \*slēŋ 「生む;生まれる、生きる」も比較されたい。 しかし、この派生は他の様々な形をとることもできたようである。 :spiral_note_pad: **表16: 接中辞 \*-l- による様々な派生** | ベース動詞 | 派生動詞 | | :------------------------------------- | :-------------------------------------------- | | 齊 **dzei¹** 「等しい」 | 儕 **dẓaəi¹** 「同輩」 | | 貫 **kwân¹**, **kwân²** 「穴を開ける」 | 貫 **kwan¹** < \*kwlɑn 「慣れる、習慣とする」 | | 圈 **kiwân²** 「回転する」 | 卷 **ki̯wen²** < \*kwlɑ̄nꞏ 「巻く」 | | 跨 **khou³** 「またぐ」 | 跨 **khwa³** 「踏み越える、通過する」 | ## 参考文献 - Arisaka, Hideyo 有坂秀世. (1937–1939 \[1944]). Karlgren-shi no yō’onsetsu o hyōsu カールグレン氏の拗音説を評す. In: *Kokugo on’inshi no kenkyū* 國語音韻史の研究. Tokyo: Meiseidō shoten 明世堂書店. 319–349. - Bailey, H.W. (1942). Hvatanica IV. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 10(4): 886–924. [doi: 10.1017/s0041977x00090108](https://doi.org/10.1017/s0041977x00090108) - ⸺. (1946). Gāndhārī. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 11(4): 764–797. [doi: 10.1017/s0041977x00089801](https://doi.org/10.1017/s0041977x00089801) - ⸺. (1949). Irano-Indica II. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 13(1): 121–139. [doi: 10.1017/s0041977x0008188x](https://doi.org/10.1017/s0041977x0008188x) - Barthold, Wilhelm. (1928). *Turkestan Down to the Mongol Invasion*. London: Gibb Memorial. - Benedict, Paul K. (1939). Semantic differentiation in Indo-Chinese. *Harvard Journal of Asiatic Studies* 4(3–4): 213–229. [doi: 10.2307/2717775](https://doi.org/10.2307/2717775) - Bodman, Nicolas C. (1954). *A linguistic study of the Shih Ming*. Cambridge: Harvard University Press. [doi: 10.4159/harvard.9780674430105](https://doi.org/10.4159/harvard.9780674430105) - Chavannes, Édouard. (1903). Voyage de Song Yun dans l'Udyāna et le Gandhāra. *Bulletin de l'Ecole française d'Extrême-Orient* 3(3): 379–441. [doi: 10.3406/befeo.1903.1235](https://doi.org/10.3406/befeo.1903.1235) - ⸺. (1907). Les Pays D'Occident D'Après le “Heou Han chou”. *Tʼoung Pao* 8(2): 149–234. [doi: 10.1163/156853207X00111](https://doi.org/10.1163/156853207X00111) - Dien, Albert E. (1957). A Note on *Hsien* 祆 ‘Zoroastrianism’. *Oriens* 10(2): 284–288. [doi: 10.2307/1579642](https://doi.org/10.2307/1579642) - Egerod, Søren. (1957). The Eighth Earthly Branch in Archaic Chinese and Tai. *Oriens* 10(2): 296–299. [doi: 10.2307/1579645](https://doi.org/10.2307/1579645) - Forrest, Robert A.D. (1961). Researches in Archaic Chinese. *Zeitschrift der Deutschen Morgenländischen Gesellschaft* 111(1): 118–138. - Hamilton, James. (1958). Autour du manuscrit Staël-Holstein. *Tʼoung Pao* 46(1–2): 115–153. [doi: 10.1163/156853258x00052](https://doi.org/10.1163/156853258x00052) - Haloun, Gustav. (1937). Zur Üe-tṣï-Frage. *Zeitschrift der Deutschen Morgenländischen Gesellschaft* 91(2–3): 243–318. - Haudricourt, André-George. (1954). Comment Reconstruire Le Chinois Archaïque. *Word & World* 10(2-3): 351–364. [doi: 10.1080/00437956.1954.11659532](https://doi.org/10.1080/00437956.1954.11659532) ⇒[日本語訳](/@YMLi/ry5lQanlT) - Hirth, Friedrich. (1885). *China and the Roman Orient: Researches Into Their Ancient and Mediaeval Relations as Represented in Old Chinese Records*. Shanghai: Kelly & Walsh. - Huang, Cuibo 黄淬伯. (1931). *Huìlín Yíqiè jīng yīnyì fǎnqiè kǎo* 慧琳一切經音義反切攷. Taipei: Institute of Linguistics, Academia Sinica. - Jaxontov, Sergej E. (1960). Consonant combinations in Archaic Chinese. In: *Papers presented by the USSR delegation at the 25th International Congress of Orientalists, Moscow*. Moscow: Oriental literature publishing house. 1–17. ⇒[日本語訳](/@YMLi/Bk8JobEfp) - Karlgren, Bernhard. (1940). Grammata Serica: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 12: 1–471. - ⸺. (1954). Compendium of Phonetics in Ancient and Archaic Chinese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 26: 211–367. - ⸺. (1957). Grammata Serica Recensa: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 29: 1–332. - Laufer, Berthold. (1919). *Sino-Iranica: Chinese Contributions to the History of Civilization in Ancient Iran*. Chicago: Field Museum of Natural History. [doi: 10.5962/bhl.title.3538](https://doi.org/10.5962/bhl.title.3538) - Li, Fang-kuei 李方桂. (1945). Some old Chinese loanwords in the Tai languages. *Harvard Journal of Asiatic Studies* 8(3–4): 333–342. [doi: 10.2307/2717820](https://doi.org/10.2307/2717820) - Li, Rong 李榮. (1952). *Qièyùn yīnxì* 切韻音系. Zhongguo kexueyuan chuban 中國科學院出版. (Reprinted: Kexue chubanshe 科學出版社, 1956.) - Markwart, Josef. (1901). *Ērānšahr nach der Geographie des Ps. Moses Xorenacʿi*. Berlin: Weidmannsche Buchh. - Miyazaki, Ichisada 宮崎市定. (1939). Jōshi to Daishin to Seikai 條支と大秦と西海. *Shirin* 史林 24: 55–86. [doi: 10.14989/shirin_24_55](https://doi.org/10.14989/shirin_24_55) - Pelliot, Paul. (1914). Les Noms propres dans les traductions chinoises du Milindapañha. *Journal Asiatique* 11(4): 379–419. - ⸺. (1921). Note sur les anciens itinéraires chinois dans l'Orient romain. *Journal Asiatique* 11(17): 139–145. - ⸺. (1923). Note sur les anciens noms de Kučā, d'Aqsu et d'Uč-Turfan. *Tʼoung Pao* 22(2): 126–132. [doi: 10.1163/156853223X00078](https://doi.org/10.1163/156853223X00078) - ⸺. (1928). Review of Pierson, J.L. Jnr. 1926 “*10,000 Chinese-Japanese characters*”. *Tʼoung Pao* 25(5): 452–457. [doi: 10.1163/156853228X00244](https://doi.org/10.1163/156853228X00244) - ⸺. (1938). Le nom du χwārizm dans les textes chinois. *Tʼoung Pao* 34(1–2): 146–152. [doi: 10.1163/156853238X00045](https://doi.org/10.1163/156853238X00045) - ⸺. (1959). *Notes on Marco Polo I*. Imprimerie Nationale. - Pulleyblank, Edwin G. (1960). Studies in Early Chinese Grammar, Part I. *Asia Major* 8(1): 36–67. - Schafer, Edward H. (1950). The Camel in China Down to the Mongol Dynasty. *Sinologica* 2: 165–194. - Shiratori, Kurakichi 白鳥庫吉. (1928). A Study on Su-tʻê (粟特) or Sogdiana. *Memoirs of the Research Department of the Toyo Bunko (The Oriental Library)* 2: 81–145. - Wulff, Kurt. (1934). *Chinesisch und Tai: Sprachvergleichende Untersuchungen*. Copenhagen: Levin & Munksgaard. [^1]: 道 **dâu²** (< \*δuꞏ) (声符は 首 **śi̯u²**)も参照。