# 上古漢語の末子音 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳である。 - Pulleyblank, Edwin G. (1977). The final consonants of Old Chinese. *Monumenta Serica* 33: 180–206. [doi: 10.1080/02549948.1977.11745046](https://doi.org/10.1080/02549948.1977.11745046) 原文には表見出しがないが追加した。誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。原文では有気音を「*‘*」で表記しているが、「*h*」(一部は「*ʰ*」)に置き換えた。 ::: --- (原注) *転写について*: 漢字に付加されるIPA転写は、特に断りのない限り初期中古漢語(EMC)である。EMCとは、私が新たに再構した『切韻』の音韻体系のことで、その要約とやや古い形はPulleyblank(1978)に掲載されている。本稿では、上声と去声をそれぞれ *ˀ* と *ʰ* で表記する。いくつかのケースでは、後期中古漢語(LMC、Pulleyblank 1970–71参照)の音価を付記している。『切韻』より前の再構音価にはアスタリスクを付している。 ## 1. 序論 中古漢語の内的再構には、韻図と韻書が提供する確固たる指針がある。それ以前の時代については、そのような同時代の中国音韻学者による分析はなく、さまざまな種類の証拠から間接的に推測できることに頼らざるを得ない。 中国の詩歌は古くから韻を踏んでおり、『詩経』の韻が時間の経過とともに次第に不完全になっていったことは、中国において歴史音韻学への関心が早くから高まった主な理由の一つである。韻が不完全なのは音が変化したためであると正しく推測され、古代の韻体系がどのようなものであったかを特定するために、ますます洗練された努力がなされた。音声を表記する方法がないため、古代の単語の実際の発音に関する推測は曖昧なままであったが、清の時代の言語学者たちは少しずつ改良を加えながら、今日この分野の研究の基礎となっている韻の分類を確立することができた。 表1は、羅常培と周祖謨による漢代の韻律研究の前文(Luo and Zhou 1958 ==: 9–15==)に記載されているものに基づいている。韻は、その中古漢語の反射が(a)母音またはわたり音で終わるか、(b)鼻音で終わるか、(c)閉鎖音で終わるかによって、陰声・陽声・入声に分類される。陰陽韻が複数の声調で出現する場合は、平声のラベルがすべての声調を代表するものとする。各韻部の横にはKarlgrenによる上古漢語再構音を示した。それぞれの韻部について、Karlgrenは複数の母音、あるいは母音と介音の組み合わせを再構しているが、私はそれぞれの場合において、韻図の一等に対応するもの、または一等の形が欠けている韻については純四等に対応するものを選んだ。2つの形が示されているものは、他の学者が1つのカテゴリーとして扱い続けているものをKarlgrenが分割したためか(歌部、魚部、侯部)、分類について羅常培と周祖謨が従っているものとは異なる研究に従っているためである(脂部)。 :spiral_note_pad: **表1: 上古漢語の韻部** | | a. 陰声 | b. 陽声 | c. 入声 | | :--- | :----------- | :---------- | :---------- | | Ⅰ | | 侵 -əm | 緝 -əp | | Ⅱ | | 談 -âm | 盍 -âp | | Ⅲ | 微 -ər | 諄 -ən [^1] | 術 -ət [^2] | | Ⅳ | 祭 -âd | 元 -ân | 月 -ât | | | 歌 -â, -âr | | | | Ⅴ | 脂 -ied, -ər | 真 -ien | 質 -iet | | Ⅵ | 支 -ieg | 耕 -ieng | 錫 -iek | | Ⅶ | 之 -əg | 蒸 -əng | 職 -ək | | Ⅷ | 魚 -âg, -o | 陽 -âng | 鐸 -âk | | Ⅸ | 幽 -ôg | 冬 -ông | 毒 -ôk [^3] | | Ⅹ | 侯 -ug, -u | 東 -ung | 屋 -uk | | Ⅺ | 宵 -og | | 藥 -ok | 母音と末子音の分布が非常に不均衡であることがすぐにわかる。中舌母音 \*ə と \*â はすべての末子音(唇音・歯音・軟口蓋音)の前に現れるが、前舌母音 \*e は歯音と軟口蓋音の前にのみ現れ、後舌母音 \*u, \*ô, \*o \[ɔ] は軟口蓋音の前にのみ現れる。これは自然言語としては非常にあり得ない体系である。 私は1963年に発表した論文で、\*ə と \*a という2つの母音をすべての韻部に一般化し、前舌母音や後舌円唇母音を主母音の前後に置かれた口蓋化・円唇化半母音の影響として説明する解決策を提案した。主母音の対立を高低の二者対立に限定するという一般的原則は間違いなく正しかったが、提案された特殊な解決策は、少なくとも分布の異常を実際に説明するものではなかったため、多くの点で満足のいくものではなかった。例えば、半母音の分布が末子音の種類によって異なることや、韻が半母音の影響を受けるときと受けないときがあることについての説明はされなかった。しかし、硬口蓋音・唇化軟口蓋音・口蓋垂音を加えて末子音の種類を増やせば、このような難問を解決する方法はすぐに見つかる。上古漢語から中古漢語へ至る発展の過程で元々6種類あった末子音は後に見られる3種類に減少したが、硬口蓋音・唇化軟口蓋音・口蓋垂音は声調にその痕跡を残した。 この仮説は、詩経韻部に対する良い解決策を提供するだけでなく、上古漢語の子音系列の目録が頭子音と末子音とで同じであったという結論に行き着く。東アジアの単音節言語では、最終的に子音セットが当初よりも単純化されることが一般的で、時には劇的に単純化されることもある。しかし歴史的な発展をたどれば、音節の末尾で複雑さが減少する傾向が強く、そして継続的に見られることも、一般的には事実である。過去にさかのぼって考えてみると、頭子音でも末子音でも同じ音素対立が存在した段階があったという仮説を立てることができる。この仮説は、シナ祖語における「単語家族」の問題に重要な意味を持つ(cf. Pulleyblank 1973a)。 母音を2つに減らすことは、一見すると言語として自然ではないように思えるかもしれないが、現存する言語、すなわち北西コーカサス地方の言語には、まさにそうなっているものがある。さらに、別のところでも論じたように、中国語ではどの時代でもこのパターンが根底にあったと考える十分な理由がある。中古漢語では、初期の韻図で音韻学者が「内転」(ə)と「外転」(a)の対立を設定したときに認識され、さまざまな変化を経て現代中国語方言でも認識されるようになった。上古漢語では、これは「内向」(a)と「外向」(ə)という意味上の対立を伴う、重要な形態論的交替(アプラウト)の基礎であった。例えば、譚 *dəm* 「話題にする」 : 談 *dam* 「話す、会話」、似 *zɨʔ* 「似る」 : 象 *zɨɑŋʔ* 「真似る、図象」などである(Pulleyblank 1965b)。私は、この交替はもともとあらゆる種類の音節で可能だったと推測している。 ## 2. 上古漢語の韻部の一般的特徴 本稿では、詩経韻部から切韻体系の韻に至る発展について完全な理論を述べるつもりはない。しかし、最初に全体的な枠組みについて多少述べておく必要がある。 ### 2.a. タイプA音節とタイプB音節 中国語音韻論全体における重要な問題のひとつは、韻図における三等の解釈、より適切には、『切韻』において全部または一部が三等に属する韻とそうでない韻との間にある大きな対立である。Karlgrenによる解決策は、すべての三等韻(実際には韻図で二等または四等に分類される韻の一部も含む)に、介音としてヨード *-i̯-* (IPA表記では \[j])を再構することであった。私は上古漢語の子音体系に関する論文(1962)で、このヨードを上古漢語に遡らせて再構することを否定し、かつての母音長の対立に由来すると提案した。私はその後、Karlgrenのヨードは中古漢語においても妥当ではないという結論に達した。LMCの三等と四等では、開口では母音性介音 *-i-*、合口ではそれに対応するの前舌円唇性の *-y-* が特徴であり、わたり音 *-j-* は二等と四等の特定の頭子音の後のみに見られる(Pulleyblank 1970–71)。EMC、すなわち『切韻』自身の言語では、*-i-*, *-ɨ-*, *-u-* という3種類の高い中舌性介音があり、そこから *-ɨ-* が *-i-* に、*-u-* が *-y-* に前進することでLMC体系に発展した(後者は部分的にEMCの *-wi-* と *-wɨ-* にも由来する)。 したがってEMCでは、ヨード化(三等)と非ヨード化(一等・二等・四等)の音節の対立の代わりに、頭子音の直後に高母音(*-i-*, *-ɨ-*, *-u-*)があるかないかの対立を設定しなければならない。本稿では、このような介音を伴わない音節をタイプA、介音を伴う音節をタイプBと呼ぶことにする。切韻体系の韻と、それが生まれた詩経韻部を比較すると、各カテゴリーから少なくとも1つのタイプA韻と少なくとも1つのタイプB韻が生まれていることがわかる。それぞれが複数存在する場合、共通の特徴という点から、一般的にはペアとして一致させることができる。したがって、詩経の元部 \*-an の発展は表2のようになる(参考としてKarlgrenによる切韻体系の再構を括弧内に示す)。 :spiral_note_pad: **表2: 上古元部 \*-an のEMC反射** | | タイプA | タイプB | | :-------------- | :------------------ | :------------------------ | | 通常 | 寒韻 *-an* (*-ân*) | 元韻 *-ɨan* (*-i̯ɐn*) | | *j*-ウムラウト | 先韻 *-en* (*-ien*) | 仙A韻 *-(j)ian* (*-i̯än*) | | *r*-ウムラウト | 刪韻 *-aṛn* (*-an*) | 仙B韻 *-\(r)ian* (*-i̯än*) | | *rj*-ウムラウト | 山韻 *-eṛn* (*-ăn*) | 仙B韻 *-\(r)ian* (*-i̯än*) | 詩経韻部がタイプAとタイプBに分かれるのは、韻律的特徴を反映したものであり、本稿ではタイプAをアキュート・アクセント、タイプBをグレイヴ・アクセントで表記する(ここで \*-ʲ-, \*-ʳ-, \*-ʳʲ- は、各ウムラウトを生み出した頭子音や末子音の特徴を表す)。 :spiral_note_pad: **表3: 上古元部 \*-an の発展** | | タイプA | タイプB | | :-------------- | :--------------- | :------------------- | | 通常 | \*-án > *-an* | \*-àn > *-ɨan* | | *j*-ウムラウト | \*-ʲán > *-en* | \*-ʲàn > *-(j)ian* | | *r*-ウムラウト | \*-ʳán > *-aṛn* | \*-ʳàn > *-\(r)ian* | | *rj*-ウムラウト | \*-ʳʲán > *-eṛn* | \*-ʳʲàn > *-\(r)ian* | タイプA音節では、ウムラウトは主母音の後にあり、主母音 \*ə を前舌母音、そり舌母音、または(上図にはないが *w*-ウムラウトの場合に)後舌円唇母音に変えた。末子音も影響を受けることがあった。例えば、Ⅺ藥部の末子音 \*-q やⅨ毒部の末子音 \*-kʷ は、*j*-ウムラウトの影響で口蓋化された。例えば、笛 *dek* < \*dec < \*-ʲə́kʷ, 激 *kek* < \*kec < \*-ʲáq。タイプB音節では、ウムラウトは主に主母音ではなく介音に影響を与えるが、介音と主母音の両方に影響を与える場合もある。本稿の末尾に、詩経韻部がどのように切韻の韻に発展したかを示す表を付した。 タイプA音節とタイプB音節の区別を生み出した韻律的対立は、韻だけでなく頭子音にも顕著な影響を与えた。中古漢語の軟口蓋音の頭子音(見組)は、タイプA音節では後舌性の異音、タイプB音節では前舌性の異音を持つ。また有声軟口蓋閉鎖音 *g-* (群母)は前舌異音のみを持ち、タイプB音節に限定された。これは、タイプAのみに現れ前舌異音を持たない摩擦音 *ɣ-* (匣母)と相補分布を形成していた。上古漢語の歯閉鎖音はタイプB音節では硬口蓋破擦音となり、鼻音 \*n- は硬口蓋音 *ȵ-* (日母)となった。これに対応して、上古漢語の \*l- は、タイプBでは *ʑ-* (船母)または *j-* (以母)に口蓋化し、タイプAでは閉鎖音 *d-* (定母)に強化された。上古漢語 \*lʰ- も同様に、タイプBでは *ɕ-* (書母)となり、タイプAでは *tʰ-* (徹母)となった。詳しい議論は別の機会に譲る。 ### 2.b. 声調 中古漢語の上声と去声は、それぞれ末尾の声門閉鎖音と \*-s に由来する。これについては他の場所で議論されているため、本稿ではこれ以上議論せずに受け入れる(Pulleyblank 1962; 1973b; Mei 1970)。実際には、\*-s と \*-ʔ は最終的により複雑な起源を持つかもしれないが、上古漢語についてはこの再構で十分である。\*-s は閉鎖音を含む他のあらゆる種類の末子音に付加することができ、これが去声と入声の間の諧声関係や押韻の理由である。\*-ps (おおむねKarlgrenの再構の \*-b に相当)は早くから \*ts- に同化しており、Ⅲ微部における 内 *nojʰ* < \*nə́ps (cf. 納 *nəp*)のような単語の韻がその例である。漢代(あるいはその前)には、\*-ts は \*-s になり(本来の \*-s と合流した?)、その後遅くは紀元6世紀まで維持された(Pulleyblank 1973b)。\*-ks は、\*-s に比べると証拠は少ないが、漢代には軟口蓋摩擦音になっていたようである。鼻音の後の \*-s は、おそらく漢代には \*-h になっていた。 上声と去声は、『切韻』の時代になっても、音程や輪郭だけでなく末尾の喉音の特徴によって区別されていた可能性が高いと思われる。したがって私は、EMCの声調の表記として上付き文字の *-ˀ* と *-ʰ* を使用する。 ### 2.c. 陰声韻 閉鎖音後の \*-s の再構は、陰声韻の去声の多くを説明するが、私はそれとは別に、有声継続音をさまざまな陰声韻に再構した(Pulleyblank 1962: 209ff.)。Ⅲ微部とⅣ歌部には末子音 \*-l を再構する。これは、私が1962年にシナ・チベット祖語 \*l に対応する音として頭子音にも末子音にも仮定した \*δ に替わるものである(中古漢語の來母 *l-* はシナ・チベット祖語 \*r- に対応する)。私はその後、この音素は頭子音としては漢代においても外国語の *l* に使われたという理由から、上古漢語でもそのように再構すべきだと結論づけた。 末子音の \*-l は、\*ə の後(Ⅲ微部)では非常に早い時代に \*-j になった。このことは、『詩経』の押韻で既にⅢ微部とⅤ脂部が統合されていたことからもわかる。この点については後述する。\*-al (Ⅳ歌部)も同様に、やや遅れて \*-aj になったに違いない。しかし、本来の \*-aj (Ⅵ支部)とただちに合流したわけではなかった。おそらく、後者はその間に \*-ɛj に前進し、さらに \*ɛ に単母音化したからであろう(後述)。しかし、周代後期には時折韻を踏んでいる。Ⅳ歌部に対する \*-aj という音価は、この韻部の閩語(白話)における反射によって示唆される。 :spiral_note_pad: **表4: 上古歌部の閩語の反射の例** [^4] | | EMC | 福州 | 厦門 | 潮州 | 隆都 | | :--- | :------ | :------------- | :------------- | :------------- | :------------------- | | 我 | *ŋɑˀ* | ŋuai | gua | ua | wâa (cf. 客家語 ŋai) | | 舵 | *dɑ* | tuai | tua | tua | (cf. 広東語 tʰai) | | 破 | *phɑʰ* | pʰuai | pʰua | pʰua | phua | | 麻 | *maṛ* | muai | muã | mua | mua | | 沙 | *ʂaṛ* | sai | sua | sua | sua | | 火 | *xwɑˀ* | xuei | he | hue | fuaj | | 坐 | *dzwɑˀ* | sœy | tse | ==:bulb: tso== | soj | | 倚 | *ʔiăˀ* | ai | ua | ua | | | 蛇 | *ʑiaṛ* | ==:bulb: sie== | ==:bulb: sia== | tsua | sua | また、初期のベトナム語や韓国語の借用語にも *-j* の形が見られる。Haudricourt(1954: 363)はベトナム語から次のような例を挙げている。 :spiral_note_pad: **表5: ベトナム語で *-i* を示す上古歌部の借用語** | | EMC | 初期借用語 | 意味 | 漢越語 | | :--- | :------------ | :---------------- | :------- | :----- | | 蛾 | *ŋa* | *ngài* | カイコガ | *nga* | | 磨 | *ma* | *mài* | 挽く | *ma* | | 瓦 | *ŋwarˀ* | *ngói* | 屋根瓦 | *ngoã* | | 移 | *jiǎʰ* | *dời* | 変わる | *di* | | 騎 | *giǎ*, *giǎʰ* | *cỡi*, *cữi* [^5] | 馬に乗る | *kị* | | 寄 | *kiǎʰ* | *gởi*, *gửi* | 託す | *kí* | 朝鮮語には次の例がある(Kono 1968: 87–90)。 - 馱 *dɑ* → 타 *tʰaj* \[tʰæ] - 磨 *mɑ* → 마 *maj* \[mæ] - 倭 *ʔwɑ* → 와 *oaj* \[wæ] - 妥 *thwɑˀ* → 타 *tʰaj* \[tʰæ] タイプA音節における末尾のわたり音 \*-j の消失による切韻体系の歌韻 *-ɑ* への変化は、まず後漢代に北部中国語で起こった。これは、2世紀の終わりの仏典転写でこのような単語が開音節 *-a* に使われていることからわかる。例えば、阿 *ʔɑ* = *a*, 羅 *lɑ* = *la*, *ra* など。しかし、この変化は閩祖語には影響しなかった。 軟口蓋音類の ==(すなわち入声韻が軟口蓋音の末子音を持つ)== Ⅶ類とⅧ類の陰声韻 ==(之部と魚部)== の末子音は、(以前の論文の \*-ɦ の代わりに)本稿では \*ɣ- と書く。これは少なくとも漢代には、摩擦をほとんど伴わずに発音されていたに違いなく、私が母音体系の構成要素として仮定している中舌非円唇半母音 \*ɨ (Pulleyblank 1969; 1972)を割り当てるのがよいかもしれない。これは音声的には /aɨ/ = \[ɑ] のように、先行主母音の後退と長音化として実現されたのだろう。漢代には、この魚部の平声は通常、外国語の開音節を転写するのに使われた。例えば、 - 烏 *ʔɔ* < \*ʔaɨ \[ʔɑ] = *a* - 奴 *nɔ* < \*naɨ \[nɑ] = *na* - 蒲 *bɔ* < \*bɑɨ \[bɑ] = *ba* シナ・チベット諸語の同源語も開音節 *-a* を示している。 :spiral_note_pad: **表6: 魚部の単語とシナ・チベット諸語の比較** | 中古漢語 | 意味 | チベット文語 | ビルマ文語 | | :--------------- | :--- | :----------- | :-------------------- | | 五 *ŋɔˀ* | 5 | ལྔ་ *lṅa* | ==:bulb: ငါး *ṅāḥ*== | | 苦 *khɔˀ* | 苦い | ཁ་ *kha* | ==:bulb: ခါး *khāḥ*== | | 魚 *ŋɨă* < \*ŋàɨ | 魚 | ཉ་ *ña* | ငါး *ṅāḥ* | また東南アジアへの借用語も比較されたい。 - タイ語 ห้า *ha* 「5」 - クメール語 ស្នា *sna* 「クロスボウ」 ← 弩 *nɔˀ* - ベトナム語 *mả* 「墓」 ← 墓 *mɔʰ* < \*max Ⅶ之部の高い主母音 \*ə の後では、末子音の明白な証拠がより多く見られる。Li(1945: 341)はタイ語への借用語を説明するために、\*g (Karlgrenの上古漢語再構に従う)がまず \*ɣ になり、次に \*ɯ (私の \*ɨ あるいはわたり音 \*ɨ̯ に相当)になるという中間段階を仮定した。これが本当に本来の閉鎖音の消失の中間段階なのか、それとも上古漢語までそのまま遡るものなのかはは別の問題であり、今のところその根拠はほとんどない。 硬口蓋音と唇化軟口蓋音に対応する陰声韻は、それぞれ \*-j と \*-w として再構され、口蓋垂音類のⅪ宵部の末子音は \*-ʁ となる。これらの再構については、後ほど詳しく説明する。 ## 3. 硬口蓋音の末子音 KarlgrenがⅤ類(脂真質部)とⅥ類(支耕錫部)に同じ前舌母音 \*e と、それぞれ歯音と軟口蓋の末子音を再構した根拠は、中古漢語では陽声(鼻音)韻と入声(閉鎖音)韻に前舌母音とこれらのタイプの末子音があるからである。この仮説に対して、少なくとも2つの重大な反論がある。まず第一に、唇音の末子音の前にこの母音を持つ韻部が存在してはならない明白な理由がない。第二に、2つの韻部に仮定された同じ前舌母音は、上古漢語から中古漢語に至るまでに全く異なる発展を遂げる。V類はⅣ類(歌部 \*-əl, 元部 \*-ən, 月部 \*-ət)と融合し、「内転」韻として発展する一方、Ⅵ類はⅧ類(魚部 \*-aɣ, 陽部 \*-aŋ, 鐸部 \*-ak)と最も接点を持ち、「外転」韻として発展する。 Karlgrenの再構(またはKarlgrenの \*e を \*i に置き換えた李方桂の再構)を採用するならば、軟口蓋音の前で母音が極端に下がるか、歯音の前で母音が上がるか、あるいはその両方があったと考えざるを得ない。しかし、そのような推移があったという証拠は少しもない。また、同じ末子音の前で中舌母音の \*ə と \*a が全く区別されたまま維持されたという事実から考えても、末尾の歯音や軟口蓋音がそのような影響を及ぼしたとは考えられない。 Ⅴ類(脂真質部)とⅥ類(支耕錫部)は、同じ母音に異なる末子音を持っていたのではなく、\*ə と \*a という異なる母音に同じ末子音、すなわち硬口蓋音を持っていたという仮説を立てれば、この2つの困難は同時に解決される。Ⅴ類の高い主母音の後では、硬口蓋閉鎖音・鼻音は前進して歯音と合流した(\*-ə́ȵ > \*-en, \*-ə́c > \*-et)。一方Ⅵ類の低い主母音の後では、それらは後退して軟口蓋音と合流した(\*-aȵ > \*-ɛŋ, \*-ac > \*-ɛk)。どちらの場合も、元の口蓋化特徴は母音に移された。 Ⅴ真質部のⅢ諄術部への合流は、両者がまったく別個のものであった『詩経』の時代から、詩韻において両者が完全に統合されている漢代にかけて起こった。対応する陰声の統合はさらに早く、逆方向の \*-əl から \*-əj への変化によって行われたに違いない。既に述べたように、『詩経』韻では両者は不完全にしか区別されず、清の文献学者やKarlgrenによって分離されることはなかった。20世紀の言語学者の中には、董同龢や王力のように諧声関係や押韻に基づいて区別を確立しようとする者もいたが、特定の単語が正しく割り当てられるかどうかについては不確かなままである。 Ⅵ類(支耕錫部)はⅧ類(魚陽鐸部)と統合されなかったが、後漢代には一部のⅧ陽部の単語がⅥ耕部に推移した。これらは 京 *kiɛṛŋ*, 兵 *piɛṛŋ*, 行 *ɣɛṛŋ*, 猛 *mɛṛŋˀ* のように『切韻』では庚韻 *-(i)ɛṛŋ* に含まれる。利用可能な証拠は、これがどのような音声的変化だったかを確実に語るには不十分である。しかし、Karlgrenや李方桂の体系で認められているような母音のわずかな変化という観点から考えるよりも、\*-ŋ > \*-ȵ の前進が関与していると仮定した方が明らかに説明しやすい。李方桂によると、\*-aŋ は頭子音クラスターの第二要素の \*r の影響を受けて庚2韻 *-ɐng* ==(李方桂の表記、以下同)== に変化し、同時に \*-jiaŋ と \*-ljaŋ は庚3韻 *-jɐng* に変化したという。これらのどの変化が、関連する特徴からみてどのような意味を持つのか、また庚2韻 *-ɐng*, 庚3韻 *-jɐng* の中舌低母音が唐韻 *-âng*, 陽韻 *-jang* (< Ⅷ陽部)の中舌母音ではなく耕韻 \*-ɛng, 庚3韻 *-jɐng*, 青韻 \*-ieng (< Ⅵ耕部)の前舌母音と韻を踏まなければならない理由は明らかではない。たとえ *-ɐng*, *-jɐng* という表記の母音音価を額面通りに受け取らなかったとしても、なぜこのような韻の変化が陽部 \*-aŋ には影響し元部 \*-an や談部 \*-am ==(刪韻 *-an*, 銜韻 *-am*)== には影響しなかったのか説明できない。 実際に起こったと思われる変化は、複合頭子音の *r* 特徴が末子音前に移され、末尾の軟口蓋鼻音の同化的前進を引き起こしたというものである(\*-ʳáŋ > \*-aṛŋ > \*-aṛȵ)。これはタイプA音節では全種類の頭子音の後で起こり、*r*-ウムラウトに関する限り、他のすべての韻部で起こったこと(\*-ʳám > 銜韻 *-aṛm*, \*-ʳán > 刪韻 *-aṛn* など)と並行的である。ただし、漢代の比較的ゆるい押韻では明らかに、通常の母音とそり舌母音が韻を踏むことが可能であった(寒韻 *-an* : 刪韻 *-aṛn* 等)。5世紀後半に確立されたより厳格な押韻の基準によって初めて、両者は区別されるようになったのである。しかし \*-ŋ の場合は、母音がそり舌化しただけでなく末子音も前方で調音されるようになり、これが押韻の習慣に反映された。 \*-ŋ が先行する *r*-特徴と完全に同化すれば、末子音としてそり舌鼻音 \*-ṇ が得られるはずだが、\*-ȵ と \*-ṇ は調音位置が近いため、調音方法の違いがあったとしても音韻的には区別されないものとして無視されたと考えざるを得ない。これは原理的に、EMCとLMCの間にそり舌音の頭子音と硬口蓋音の頭子音との間で起こった音素統合と似ている。 Ⅷ類(魚陽鐸部)のみに見られる *r*-ウムラウトのユニークな特徴は、タイプA音節だけでなく、いくつかのタイプB音節も末子音が影響を受けたことである。これは頭子音が軟口蓋音・唇化軟口蓋音・唇音の場合に起こった。例えば、京 \*kràŋ > \*krɨaŋ > \*kiaṛŋ > \*kiaṛȵ (のちEMC *kiɛṛŋ* や唐代初期の *kiɛŋ* になる)(cf. 涼 *lɨaŋ*)に対して 張 \*tràŋ > \*trɨaŋ となる。そり舌音特徴が母音後方に投げ出される条件は、\*-rɨ- が \*-ri- に変化し、その後に \*r が失われることであったようだ(\*-ri- > \*-i-)。歯音と硬口蓋音(後の歯擦音)の頭子音の後では、頭子音自体が後続する \*r を吸収してそり舌音になるため、このようなことは起こらなかった(\*tr- > \*t͜r- [私の中古漢語再構では依然 *tr-* と表記されるが、構造的にはクラスターではなく単一分節である], \*cr- > \*tʂ-)。この現象についてはもっと詳しく説明する価値があるが、一般的な原則は正しいと思われる。 後漢代の *r*-ウムラウトは、押韻から判断する限り、鼻音 \*-ŋ に影響を与えただけで、閉鎖音 \*-k には影響を与えなかったようである。しかし、入声における同様の変化は、『切韻』よりはかなり前に起こった。例えば、格 \*krák > \*kaṛc > *kɛṛk*, 白 \*brák > \*baṛc > *bɛṛk*, 戟 \*kràk > \*kiaṛc > *kiɛk* など。 \*-k から \*-c への同化は、Ⅷ類(魚陽鐸部)からⅥ類(支耕錫部)への移行を伴い、後漢代には、歯擦音(上古漢語の硬口蓋音)および口蓋化歯音(中古漢語の硬口蓋音)の頭子音を持つタイプBの単語でも起こった。例えば、石 \*dʲàk > \*djɨak > \*dʑiac > *dʑiɛk*, 迹 \*càk > \*cɨăk > \*tsiăc > *tsiɛk* など。この場合、変化の第一段階は、介音 \*-ɨ- の \*-i- への前進であり、その後 \*-k が口蓋音同化を受けたに違いない。この場合、末子音 \*-ŋ は影響を受けなかった。 Ⅵ類(支耕錫部)における末子音の口蓋化特徴は、橋本万太郎が多くの論文で強調しているように、中古漢語でもまだ強く残っていた。実際、橋本はその場合に中古漢語に硬口蓋音の末子音を再構しようとしている ==(cf. Hashimoto 1970)==。少なくともLMC時代には、硬口蓋音の末子音は音韻的に軟口蓋音と同一視され、口蓋化特徴が母音に移動していたことは明らかだと思われるが(Pulleyblank 1970–71)、橋本の証拠と主張が、このカテゴリーにおける硬口蓋音が元からの末子音であるという考えを支持していることは間違いない。 陰声韻(支部) \*-aj の上古漢語から中古漢語までの発展についても簡単に触れておこう。漢代までに、\*-aj は \[ɛj] に前進し、その後 \[ɛ] に単母音化されたに違いない[^6]。したがって、Ⅳ歌部 \*-al から発展した新しい \*-aj とは区別が維持された。しかし後漢代になると、Ⅵ支部のタイプB音節は /(j)iă/ \[iɛ] となり、Ⅳ歌部のタイプB音節も末尾のわたり音を失って /iă/ となった。これらが統合されて、『切韻』の支韻が生まれた。後にタイプA音節 /ái/ \[ɛ] は \[e] に上昇し、さらに \[ej] に二重母音化した。これはⅤ脂部のタイプA音節(もともとⅢ微部に属した単語を含む)と合流して、『切韻』の齊韻となった。 現在のところ、Ⅴ類(脂真質部)とⅥ類(支耕錫部)に硬口蓋音を再構する論拠は内的再構に基づいている。つまり、このような再構は、上古漢語における韻の分布と、その中古漢語への発展について、より単純で言語学的に説得力のある説明を与えることが示されている。2つの韻部の間の諧声関係・押韻・単語家族から、さらなる裏付けを得ることもできる。ただしそのような証拠は、硬口蓋音仮説と一致するものの、他の解釈とも一致するかもしれないので、ここでは強調しないことにする。 このような内的証拠に加えて、ビルマ語から得られた重要な比較証拠もある。ビルマ語では、文字が生まれた当初、硬口蓋音の末子音 *-ñ* と *-c* が残っていた。チベット・ビルマ語の分野で比較研究をしている人たちの多くは、ビルマ語における硬口蓋音の末子音は、\*i の後の歯音と軟口蓋音の口蓋化から生じた二次的なものだと考えているようだ。しかし私の知る限り、その逆の仮説は真剣に検証されていない。いくつかのケースでは、このような硬口蓋音が二次的なものであることは間違いない。例えば ရှစ် *rhac* 「8」という単語は、ミャーゼディー碑文で ဟေတ် *het* と書かれており、もともと末子音 \*-t を持っていたに違いない。チベット語 བརྒྱད་ *brgyad* や漢語 八 *peṛt* < \*prját と比較されたい。しかしこのことは、それらとは別に硬口蓋音の末子音系列も存在した可能性を排除するものではない。また、この地域の現代語にそのような子音がないことも、さほど重要な問題ではない。音節末の対立の減少は、東アジア全体の長期的な傾向として見られるものである。実際、この持続的な傾向そのものが、ビルマ語がある時期に新しい硬口蓋音系列を作った後にそれを再び失ったという考えを否定する論拠となる。これはもちろん、(前述した漢語におけるⅧ類からⅥ類へのさまざまな移行で起こったように)硬口蓋音系列が存在していた時代に、他のタイプの末子音が様々な影響を受けて口蓋化され、既存の硬口蓋音と統合された可能性を否定するものではない。 非常に印象的なことに、前述の「8」を指す単語を除けば、ビルマ文語の *-ac*, *-añ* の単語について中国語で適切な同源語を見つけることができた場合、それらはⅤ類(脂真質部)とⅥ類(支耕錫部)のいずれかに分類される。 :spiral_note_pad: **表7: ビルマ文語 *-ac*, *-añ* の同源語** | ビルマ語 | 意味 | 中古漢語 | チベット語 | | :---------- | :----------- | :-------------------- | :------------ | | သစ် *sac* | 新しい | 新 *sin* | | | သစ် *sac* | 木 | 薪 *sin* | ཤིང་ *śiṅ* | | နှစ် *nhac* | 2 | 二 *ȵijʰ* < \*nə̀ɕ | གཉིས་ *gñis* | | အဆစ် *achac* | 関節 | 節 *tset* | ཚིགས་ *tshigs* | | အစ် *ac* | 絞る、締める | 噎 *ʔet* 「絞殺する」 | | | အစ် *ac* | 単位、1 | 一 *ʔjit* | | | ဆစ် *chac* | 切り落とす | 切 *tshet* | | | နှစ် *nhac* | 年 | 年 *nen* | ནིང་ *niṅ* | | မည် *maññ* | 名前 | 名 *mjiɛn* | མིང་ *miṅ* | | တည် *taññ* | 直進する | 正 *tɕiɛŋʰ* | | | မြည် *mraññ* | 音を出す | 鳴 *miɛṛŋ* | | また、Ⅴ脂部 \*-əj とチベット・ビルマ諸語の末尾 \*-i または \*-j を持つ単語との間にも、いくつかの良い対応関係がある。 :spiral_note_pad: **表8: Ⅴ脂部 \*-əj の同源語** | 中古漢語 | 意味 | ビルマ語 | チベット語 | | :-------- | :----- | :---------------- | :----------------------------- | | 死 *sijˀ* | 死ぬ | သေ *se* < \*səj | འཆི་བ་ *ḫčhi-ba*, perf. ཤི་ *śi* | | 屎 *ɕijˀ* | 排泄物 | အချေး *akhyeḥ* [^7] | ལྕི་བ་ *lči-ba* < \*lhyi | 洗洒 \*sejˀ, \*senˀ 「洗う」 : チベット語 བསིལ་བ་ *bsil-ba* 「洗う」の比較では、チベット語 *-l* と上古漢語 \*-əl (Ⅲ微部)が対応している。[^8] 上古漢語 \*-aj (Ⅵ支部)は、舐 *ʑiăˀ* < \*lajˀ 「舐める」に見られる(広東語の口語読み *lai*, *sai* と比較、いずれも高い上昇調) : Tib. ལྕེ་ *lče* < \*lhaj 「舌」に見られる(Benedict ==1972: 64 et passim. #281== はシナ・チベット祖語 \*s-lay、m-lay を再構している)。 上古漢語に硬口蓋音の末子音を再構することを支持する最後の論拠として、私は、それらを硬口蓋音の頭子音系列に対応するものとして同定したい。後述するように、唇化軟口蓋音を再構する重要な論拠は、それが頭子音にも必要だということである。硬口蓋音にも同じことが当てはまる。現代官話の硬口蓋音は勿論、ごく最近になって、前舌高母音やわたり音の前にある軟口蓋音や歯擦音から発展したものである。中古漢語の硬口蓋音(官話ではそり舌音または歯擦音になっている)も同様に、上古漢語の主に歯閉鎖音あるいは部分的に軟口蓋音から発展したものである。しかし、まだ中古漢語の歯擦音系列が残っている。場合によっては、Bodmanと私が提案したように、これらの頭子音は \*st- などから音位転換によって生まれたのかもしれない。一方、この系列が主にチベット語の歯破擦音 *ts*, *tsh*, *dz* やビルマ語の *c*, *ch* (現在は \[s], \[sʰ] と発音される)に対応していることを示す十分な比較もある。現代の発音が硬口蓋音であるケースはないが、ビルマ文字の表記は、これらの頭子音が当時硬口蓋音として発音されたことを示している。ビルマ語が音素文字を借用したモン語の対応する頭子音は、今でも硬口蓋閉鎖音であり、ビルマ語でも対応する鼻音 *ñ* は硬口蓋音として発音される。ビルマ語の末子音 *-c*, *-ñ* が上古漢語の硬口蓋音の末子音と対応するという私の考えが正しければ、これはビルマ語の頭子音 *c-*, *ch-*、ひいてはチベット語や中国語の *ts-*, *tsh-*, *dz-* と形式的につながりを持つことになる。 シナ・チベット祖語の本来の硬口蓋音は、中国語、チベット語、ビルマ語において、それぞれ異なる起源を持つ新しい硬口蓋音に押されて、独立的に歯音に推移したに違いない。こうした過程は、他の言語、例えばスラブ語や古フランス語に多くの並行例を見出すことができる。 私が以前(1962: 109)示したように、中古漢語の硬口蓋音が出現する以前の漢代には、中古漢語の歯破擦音が外国語の硬口蓋音の転写に使われていた。例えば、 - 龜茲 *kuw-tsɨ* : Kuča - 且末 *tshiăṛ-mat* : Calmadana - 子合 *tsɨˀ-ɣəp* : 後に朱駒波 *tɕuă-kuă-pɑ* (宋雲)や 斫句迦 *tɕɨɑk-kow-kɨă* (玄奘)と転写される地名 - 丘就却 *khuw-dzuw-kɨɑk* (劫 *kɨăp* ?; Pelliot 1914: 401) - 師子 *ʂi-tsɨˀ* 「ライオン」 : トカラ語B *ṣecake* もちろん、中古漢語の硬口蓋音がまだ発達していなければ、歯擦音が中国語において利用できる唯一の音素であったかもしれないので、漢代に中古漢語の歯破擦音が外国語の硬口蓋音に一貫して使用されていることは、当時それが硬口蓋音であったことの証明にはならないが、中古漢語の歯擦音が漢代には実際に硬口蓋音であったと信じる根拠があれば、この音の対応は明らかにずっと良くなる。 ## 4. 唇化軟口蓋音の末子音 開口と合口の対立が、多くの中古漢語の韻において軟口蓋音・喉音の後にのみ見られるという事実は、上古漢語に唇化軟口蓋音の頭子音系列を再構することによって最もよく説明される(Pulleyblank 1962: 95)。このことはさらに、中古漢語の後舌母音に続く軟口蓋音を生み出した3つの詩経韻部のうち1つ以上を、唇化軟口蓋音の末子音を再構することで説明できることを示唆している。実際、この種の提案は過去にも多くの学者によってなされてきた。 頼惟勤(Rai 1953; 1958)は、この3つすべてに唇化軟口蓋音・口蓋垂音を再構した。王力(Wang 1958)は、Ⅸ幽部とⅪ宵部に二重母音 \*-əu と \*-au を、対応する陽声韻と入声韻にはそれに続く \*-ŋ と \*-k を再構した。この二重母音は唇音や歯音の末子音の前には出現しないので、王力の提案は唇化軟口蓋音を仮定することと多かれ少なかれ同じである。また、私が1963年に採用した解決策も基本的にこれと同様だった。李方桂は現在(Li 1971)、王力と同じ2つのグループに唇化軟口蓋音を加えた新しい体系を発表している。周法高(Zhou 1969)は、Ⅸ類、Ⅹ類、Ⅺ類に唇音性わたり音+軟口蓋音を再構している。 私が今提案したい解決策は、私が以前提案したものとも、王力や李方桂が提案したものとも異なり、Ⅸ類(幽冬毒部)とⅪ類(宵藥部)の代わりに、Ⅸ類とⅩ類(侯東屋部)に唇化軟口蓋音を再構するものである。Ⅺ類は、他の2つとは異なり鼻音の末子音を持たないため、次のセクションで説明する別の解決策が必要となる。 混乱の原因の一つは、KarlgrenがⅩ類(侯東屋部)に彼の3種類の後舌円唇母音のうち最も高い \*u を仮定したことである。こうして彼は、この韻部から派生したタイプA(一等)韻の中古漢語再構音を上古漢語に逆投影させた。一方、対応するタイプB韻は、EMCで低母音を持つ。私はこれらを鍾韻 *-uɔŋ*, 燭韻 *-uɔk*, 虞韻 *-uă* \[uɔ] と再構した。Karlgrenは *-i̯wong*, *-i̯wok*, *-i̯u* としている。これは陰声の虞韻においてのみ、母音の高さの点で私のものと大きく異なっている。ここではEMC音価について完全に論じることはできないが、以下のようなベトナム語への初期の借用語の存在に注目することで、私の再構を裏付けることができるだろう(その他の例についてはHaudricourt 1954: 360参照)。 - ベトナム語 *búa* ← 斧 *puăˀ* (漢越語 *phủ*) - ベトナム語 *chúa* ← 主 *tɕuăˀ* (漢越語 *chủ*) 同様の形は閩語の口語読みにも見られる。 - 斧 *puăˀ* : 福州 *phuɔ* - 朱 *tɕuă* : 福州 *tsuɔ* - 鑄 *tɕuăʰ* : 福州 *tsuɔ* - 厨 *druă* : 福州 *tuɔ* - 句 *kuăʰ* : 福州 *kuɔ* この虞韻には、Ⅹ侯部のタイプB音節だけでなく、Ⅷ魚部の合口の単語も含まれる。この合流は、Ⅷ類からⅥ類へのさまざまな音節における合流と同様、低い主母音を持つことの一応の証拠である。 低母音 \*a の後に唇化軟口蓋音の末子音があったと想定されるⅩ類の発展は、以下の比較でわかるように、実際にはⅥ類のそれとまったく並行的だった(簡略化のため、*r*-ウムラウトの影響下で発展した二等韻は省略した)。 :spiral_note_pad: **表9: Ⅹ類とⅥ類の並行的発展** | | | タイプA | タイプB | | :--- | :--- | :-------------------------- | :------------------------ | | Ⅵ | 耕部 | \*-áȵ > \*-ɛŋ > 青韻 *-eŋ* | \*-àȵ > 清韻 *-iɛŋ* | | | 錫部 | \*-ác > \*-ɛk > 錫韻 *-ek* | \*-àc > 昔韻 *-iɛk* | | | 支部 | \*-áj > \*-ɛ > 齊韻 *-ej* | \*-àj > 支韻 *-(j)iă* | | Ⅹ | 東部 | \*-áŋʷ > \*-ɔ́ŋ > 東韻 *-oŋ* | \*-àŋʷ > 鍾韻 *-uɔŋ* | | | 屋部 | \*-ákʷ > \*-ɔ́k > 屋韻 *-ok* | \*-àkʷ > 燭韻 *-uɔk* | | | 侯部 | \*-áw > \*-ɔ́ > 侯韻 *-ow* | \*-àw > \*-ɔ́ > 虞韻 *-uă* | 漢代には既に陰声韻が \*ɔ に単母音化する段階に達していたと考えなければならない。この韻は当時、非円唇性の後舌低母音 \[ɑ] (上記参照)を持っていたⅧ魚部と自由に韻を踏んでいた。前述したタイプBの合口の単語のⅧ類からⅩ類への移行以外には、音韻の統合は見られなかった。\[ɔ] と \[ɑ] の押韻は、完璧ではないものの、当時の比較的緩い基準からすれば十分に近いものであったことは明らかである。当時の転写では、Ⅹ侯部の文字の使用は比較的稀であるのに対し、Ⅷ魚部の文字は非常に一般的である。このような違いはそれ自体、音韻の統合が実際にあったという考えを否定するものである。この時期のⅩ類全体の転写音価として、一般的に \[ɔ] はよく当てはまる。ここでは 高附 *kaw-buăʰ* < \*kaβ-bɔx = κάβουρα *káboura* (カブール)の一例のみを挙げる(Pulleyblank 1962: 223)。 Ⅹ類がⅥ類と並行的に発展したように、Ⅸ類は、タイプB音節に関する限り、Ⅴ類と並行的に発展した。 :spiral_note_pad: **表10: Ⅴ類とⅨ類の並行的発展** | Ⅴ | Ⅸ | | :---------------------- | :----------------------- | | 真部 \*-ə̀ŋ > 真韻 *-in* | 冬部 \*-ə̀ŋʷ > 東韻 *-un* | | 質部 \*-ə̀c > 質韻 *-it* | 毒部 \*-ə̀cʷ > 屋韻 *-uk* | | 脂部 \*-ə̀j > 脂韻 *-ij* | 幽部 \*-ə̀w > 尤韻 *-uw* | しかし、タイプA音節では並列性は崩れる。Ⅴ類では母音が緊喉化して高くなり、齊韻 *-ej*, 先韻 *-en*, 屑韻 *-et* となる。幽部 \*-əw は豪韻 *-aw* に変化した。冬部と毒部も同様に \*-ə́ŋʷ > \*-əwŋ > \*-awŋ, \*-ə́kʷ > \*-əwk > \*-awk となり、後に単母音化されて冬韻 *-ɔŋ*, 沃韻 *-ɔk* になったと考えなければならない。 このような発展の結果、Ⅸ類(幽冬毒部)とⅩ類(侯東屋部)は奇妙にクロスオーバーすることになった。すなわち、中古漢語では、Ⅸ類のタイプA韻はⅩ類のタイプB韻と韻を踏む(その逆も同じ)ようになった。 :spiral_note_pad: **表11: Ⅸ冬部とⅩ東部の発展** | タイプA | タイプB | | :------------------------- | :------------------------- | | 東1韻 *-oŋ* < Ⅹ東部 \*-áŋʷ | 東3韻 *-uŋ* < Ⅸ冬部 \*-ə̀ŋʷ | | 冬韻 *-ɔn* < Ⅸ冬部 \*-áŋʷ | 鍾韻 *-uɔn* < Ⅹ東部 \*-àŋʷ | 東1韻 *-oŋ* と東3韻 *-uŋ* は、音韻的には異なるものの、韻を踏めるほど十分類似しており、『切韻』では同じ韻として扱われた。対応する陰声の侯韻 *-ow* と尤韻 *-uw* は韻書では区別されているが、詩では自由に韻を踏んでいる。我々が指摘したクロスオーバーは、広東語でLMCの *-aw* と *-əw* が高さを逆転させて *-ow* と *-aw* になったことと比較できるかもしれない。 陽声のⅠ侵部 \*-əm とⅨ冬部 \*-əŋʷ の密接な関係について言わなければならないことがある。『詩経』ではこの2つが頻繁に韻を踏んでおり、王力はこれをⅨ冬部が実際には \*-m で終わっていた証拠だと考えた。しかし、全体としてこの2つは別の韻部であり、時折韻を踏むことを説明するためにそのような仮定は必要ない。Ⅸ冬部における唇化軟口蓋音の末子音は、ベトナム語 *-ông* が唇音と軟口蓋音の二重調音 \[əuŋ͡m] として実現される (Henderson 1966: 166)のと同様に発音された可能性がある。このような二重調音は、閩語方言において *-w* の二重母音に軟口蓋音の末子音が続く場合にも見られる。紀元前2千年紀前半におけるこのような押韻上の接触は、漢代に実際に起こった、唇音の頭子音と末子音との異化の結果生じたⅠ侵緝部からⅨ冬毒部への移行とは区別されるべきである。その最もよく知られている例は 風 *puŋ* 「風」で、これは 凡 *buăm* を声符とし、前漢代にはまだ \*-m として韻を踏んでいた。『釈名』(遅くとも紀元200年)には、異なる地域における \*-m と \*-ŋ の2つの発音が記録されている(Bodman 1954)。 ## 5. 口蓋垂音の末子音 Ⅺ類(宵藥部)には、Ⅸ類(幽冬毒部)やⅩ類(侯東屋部)と明らかに異なる点がいくつかある。まず第一に、鼻音の末子音を持たない。一部の研究者が行っているようにⅨ類にも唇化軟口蓋音を仮定すると、このような分布のずれを説明しなければならなくなる。Ⅸ類の鼻音の末子音を \*-wəm から導く王力の解決法は、唇化軟口蓋鼻音を再構する必要性を取り除くが、頭子音に唇化軟口蓋閉鎖音と共にそのような鼻音も再構する必要があるため、実質的な問題解決にはならない。この解決策を否定するその他の理由は、前述のとおりである。 Ⅺ類は、鼻音の末子音がないだけでなく、*w*-特徴の後期の発展において、Ⅸ類やⅩ類よりもはるかに少ない証拠を示している。陰声韻(宵部)は中古漢語において *-w* で終わるが、後述するように、これは両唇摩擦音 *-β* からの二次的発展として説明できる。Ⅸ類とⅩ類から発展する三等韻とは異なり、Ⅺ類から発展する韻は開口(宵韻 *-iăw* と藥韻 *-ɨɑk*)であり、また、これらは ==LMCで== 唇閉鎖音から唇摩擦音を発展させることはない。表 EMC *piăwˀ* LMC *piăwˀ* (Ⅺ)と、缶 EMC puwˀ LMC fuwˀ (Ⅸ)や 府 EMC puăˀ LMC fuəˀ (Ⅹ)とを比較されたい。タイプA入声音節は、中古漢語では円唇性を示さない ==(鐸韻 *-ɑk*)== ことが多い。例えば、樂 *lɑk*, 鑿 *dzɑk*, 鶴 *ɣɑk*, 爆 *pɑk* など。一方、二等(*r*-ウムラウト)はⅨ類とⅩ類に由来する二等韻と融合して覺韻 *-ɔṛk* となり、一等のいくつかの単語も円唇母音を示す。例えば 隺 *ɣɔk*, 暴 *bok*, 濼 *lɔk* (, *lɑk*, *lek*) など。これらの点から、Ⅺ類には先行母音を円唇化させる一定の傾向がありつつも、子音自体が固有の円唇性特徴を持つわけではないことが示唆される。 このような再構の可能性を確立する上で、硬口蓋音や唇化軟口蓋音に対応する頭子音系列を容易に特定できたことは大きな助けとなった。口蓋垂音の場合はそれほど簡単なことではないが、中古漢語の軟口蓋音のいくつかは、別個の口蓋垂音系列に由来するという仮説を支持するいくつかの兆候がある。Haudricourt(1954)は、口蓋垂音の頭子音を示すタイ語への初期の借用語に基づき、そのような提案を行った。彼は特に、タイ祖語 \*qaŋ 「鋼鉄」 = 鋼 *kɑŋ* とタイ祖語 \*ɢəm 「金」 = 金 *kɨm* という例を挙げている。当然ながら、上古漢語における口蓋垂音の再構を成功させるには、口蓋垂音と軟口蓋音の諧声系列を区別できる何らかの基準を見つけることが必要である。軟口蓋音と声門閉鎖音が交替する場合には、暫定的に口蓋垂音を仮定できるかもしれない。例えば、可 *kʰɑˀ* : 阿 *ʔɑ*、甲 *kaṛp* : 押 *ʔaṛp*、今 *kɨm* : 陰 *ʔɨm* などがある。一方、定母 *d-* や以母 *j-* と交替する場合は、本来の軟口蓋音を示しているのかもしれない。例えば、庚 *kɛṛŋ* : 唐 *dɑŋ*、谷 *kok*, *juɔk*、姜 *kɨɑŋ* : 羊 *jɨɑŋ*、姬 *kɨ* : 𦣞 *jɨ* などがある[^9]。現時点では、これらの提案はさらなる研究を期待する暫定的なものでしかない。 上古漢語が口蓋垂音と軟口蓋音の頭子音を区別していた可能性を示すもう1つの証拠は、EMCに存在した、中~低母音(タイプA音節)と高母音(タイプB音節)の前の軟口蓋音の異音的区別である。前者では軟口蓋音系列は後部軟口蓋音または口蓋垂音として発音され、後者が真の軟口蓋音であった。このことは特に、唐以前のほとんどの仏典転写において、インド諸語の軟口蓋音を表す音節としてタイプB音節が独占的に使用されていることからもわかる(Pulleyblank 1965a)。これは、EMCで群母 *g-* がタイプB音節のみに見られ、タイプA音節では匣母 *ɣ-* (EMCの南部方言では *ɦ-*)に置き換えられることの説明にもなる。有声口蓋垂閉鎖音は発音が難しく、通常、無声化または摩擦音化する傾向がある。この対立は、EMCでは同音素の異音であるが、元々区別されていた口蓋垂音と軟口蓋音が統合された段階を表している可能性がある。 Ⅺ類(宵藥部)の口蓋垂音は、軟口蓋音 \*-ɣ (or \*-ɨ)、唇化軟口蓋音 \*-w、硬口蓋音 \*-j、歯音 \*-l と並行して、有声口蓋垂摩擦音または非摩擦音の継続音を表すIPA記号で表記されることになる。しかし、漢代までに両唇音 \*-β となったことを示す証拠がある。このような口唇摩擦音から口唇摩擦音への変化は、*laugh* や *cough* などの単語において中英語 *gh* \[χ] が現代英語 \[f] に置き換わったことと比較することができる。両唇音の調音の証拠は漢代の転写に見られる(Pulleyblank 1963: 206)。両唇音から唇化軟口蓋音への変化は、漢の後すぐに起こったに違いない。 口蓋垂鼻音の末子音がないことは驚くべきことではない。そのような音素はありうるが、比較的まれなはずである。共通タイ語には口蓋垂鼻音はない。この分布の空白は、口蓋垂音はかつて喉音または咽頭音として発音されたと仮定すればより良く説明できるだろうが、今のところはそのような推測を裏付ける証拠はない。 もう一つの分布上の空白は、高い主母音 \*ə に続く口蓋垂音を持つ12番目の韻部がないことである。Ⅺ類(宵藥部)とⅨ類(幽冬毒部)の単語家族関係は、\*-əq, \*-əʁ が早期に \*-əkʷ, \*-əw に推移したことを示唆している(Ⅸ類とⅩ類(侯東屋部)の間にも単語家族関係があることに注意してほしい)。 :spiral_note_pad: **表12: Ⅸ類とⅪ類(またはⅩ類)の単語家族** | | Ⅸ類 | 意味 | Ⅺ類 | 意味 | | :--- | :---------------- | :------------- | :------------------ | :----------- | | 1 | 學 *ɣɔṛk* | 学ぶ | 校 *ɣarwʰ* < \*-áqs | 学校 | | 2 | 瘳 *trhuw*, *lew* | 治る、回復する | 療 *liăwʰ* | 治す、癒やす | | 3 | 摎 *luw* | 結ぶ、絞める | 繚 *liăwˀ*, *lewˀ* | 縛る、包む | | | 繆 *mjiw* | 巻きつける | | | | 4 | 簫 *sew* | パンパイプ | 箾 *sew* | 管楽器、笛 | | 5 | 蠕 *sew* | 蜘蛛 | 蛸 *sew* | 蜘蛛 | --- ここでは、唇化軟口蓋音と口蓋垂音の比較証拠については、簡単に触れるにとどめる。正確な対応関係を確立するには、もっと多くの研究が必要である。唇化軟口蓋音に関しては、硬口蓋音と同じように、ビルマ文語では通常 *ui* や *o* と表記される母音の後には、軟口蓋音はあっても歯音や唇音はないことに注意する必要がある。これらの母音は、歴史的に /əw/ と /aw/ に由来すると分析できる(Pulleyblank 1963)。したがって、硬口蓋音と唇化軟口蓋音との間には、ベトナム語や中国語の福州方言に見られるような構造的な対称性がある。ビルマ語のこれらの末子音と、上古漢語に再構された唇化軟口蓋音との間にも対応関係がある。紛れもなく良い同源語は数詞「6」と「9」である。 :spiral_note_pad: **表13: 「6」と「9」の同源語比較** | 漢語 | ビルマ語 | チベット語 | | :----------------- | :------------------- | :--------- | | 六 *luk* < \*-rə̀kʷ | ခြောက် *khrok* /kʰrawk/ | དྲུག་ *drug* | | 九 *kuwˀ* < \*kə̀wˀ | ကိုး *kuiḥ* /kəw/ | དགུ་ *dgu* | 末子音に軟口蓋音と口蓋垂音の対立を持つ現代シナ・チベット語の例を私は知らない。しかし、「目」を意味する単語と、上で引用した「6」を意味する単語を比べてみてほしい。中国語の 目 *muk* もⅨ類(毒部)に由来し、中古漢語において「6」と韻を踏んでいる。しかし、チベット語 མིག་ *mig* とビルマ語 မျက် *myak* はまったく異なる対応関係を示し、後舌母音の痕跡はない(他のチベット・ビルマ諸語の形についてはBenedict 1972 ==: 84 et passim. #402== 参照)。この違いは、\*mjə̀q を再構することで説明できる。この単語はおそらく 皃 *mɔṛk*, *maṛwʰ* < \*-áq(s) 「描く、顔、外見」と同源であろう。 ## 6. 歯音・硬口蓋音の頭子音の後の合口 開合の対立(後舌円唇性介音の有無)が軟口蓋音の頭子音の後以外では限定的にしか見られないことは、上古漢語に別個の唇化軟口蓋音系列を仮定する理由として前述した。しかし、歯音(あるいはそれに由来する)末子音を伴う中古漢語の韻において、歯音・硬口蓋音の頭子音の後に開合対立が見られることを説明する必要がある。Jaxontov(1960)は、これを上古漢語の歯音の前に後舌円唇母音 \*u と \*o を再構する根拠として用いており、私自身の最初の見解もそうであった(Pulleyblank 1962: 142)。この仮説を否定した今、別の方法でこの現象を説明する必要がある。 その答えの一部は、タイプB音節の \*i の前の唇化軟口蓋音 \*xʷ- の口蓋化に起因している。例えば 恤 *swit* < \*xʷə̀c の声符に 血 *xwet* < \*xʷə́c が用いられていることは、これで説明できる。もし \*xʷi- が上古漢語の時代に \*ɕʷi- に口蓋化したとすれば、硬口蓋閉鎖音が歯破擦音になった(\*c- > *ts-*)のと同じように、中古漢語では *swi-* になると予想される。その他の *sw-* < \*xʷ- の例には以下がある。 - 荀 *swin* (cf. 洵 *xwenʰ*) - 戌 *swit* およびそれを声符とする 歲 *swiăjʰ* (cf. 翽 *xwɑjʰ*, etc.) - 宣 *swiăn* (cf. 喧 *xwɨăn*) - 㨹 *swiăt* (cf. 嘒 *xwejʰ*) - 巂 *swiăˀ* (cf. 攜 *ɣwejʰ*) また、対応する有声音 *zwi-* もこの種の諧声系列で見られ、おそらくかつての \*ʑwi- < \*ɣʷi- を指すものと思われる。例えば 旬 *zwin*, 彗 *zwijʰ*, 穗 *zwijʰ* (cf. 惠 *ɣwejʰ*), 還 *zwiăn* (, *ɣwaṛn*) など。*zwi-* がかつての \*ʑwi- < \*ɣʷi- を指すという仮定は、Paul Pelliotがいくつかの初期の仏典転写で指摘した、中古漢語 *zwi-* がサンスクリットまたはプラークリットの *vi* または *ve* を表すという不思議な現象を説明するのに役立つだろう(Pelliot 1933)。Pelliotはこれを不可解に思い、未知の中央アジアの言語か方言の特殊性だと考えたが、おそらく \*ɣʷ- が口蓋化しなかった中国語方言を反映しているのだろう。 それ以外の歯音・硬口蓋音の頭子音を伴う合口の例は、\*-w で終わる単語に歯音接尾辞が付加されたために生じた可能性がある。例えば 脱 *thwat* < \*lhwát 「奪い去る、脱ぐ」は、間違いなく 偷 *thow* < \*lhaw 「盗む」に関連しており、\*lhaw + \*t からの音節構造規則による \*w の主母音の前への音位転換に由来する可能性がある。同様に、耎 *ȵwiănˀ* < \*nwànˀ 「柔らかい、弱い」も \*naw + n に由来する。懦 *ȵuă* < \*naw 「弱い、臆病な」と比較されたい。 さらに他のケースでは、唇音性介音は、失われた唇音・唇化軟口蓋音の頭子音に由来する可能性が非常に高いと思われる。例えば、 - 䜌 *lwan*, 攣 *lwiăn* : 變 *piănʰ* < \*pràns, 蠻 *marn* < \*mrán - 律 *lwit*, 聿 *jwit* : 筆 *pit* < \*prə̀t - 論 *lon*, 倫 *lwin* : 論 *konʰ* < \*kʷ- すなわち、\*Pr-, \*Kʷr- のようなクラスターで唇音・唇化軟口蓋音の頭子音が失われると、介音 \*r が頭子音となり、中古漢語では來母 *l-* に変化するが、元の頭子音の唇音性は介音 *-w-* として保存された。しかし、これは歯音の末子音を持つ場合にのみ起こった。以下のように、他の種類の末子音を持つ諧声系列で唇音と來母 *l-* の交替が見られる場合、*l-* の後に唇音性介音は見られない。 - 里 *lɨˀ* : 埋 *meṛj* - 廬 *lɨă* : 膚 *puă* このことは、これまで述べてきたような仮定で生じた \*Cw- クラスターの簡略化規則が、歯音や \*-j 以外にも存在したことを示唆している。しかし、現時点ではその明確な証拠を見つけることは難しい。 ## 7. 結論 まとめると、[p. 181](#1-序論)に記載した詩経韻部に対する私の再構は表14の通りである。 :spiral_note_pad: **表14: 上古漢語の韻部の新しい再構** | | 陰声 | 陽声 | 入声 | | :--- | :----------------- | :------ | :------ | | Ⅰ | | 侵 -əm | 緝 -əp | | Ⅱ | | 談 -am | 盍 -ap | | Ⅲ | 微 -əl | 諄 -ən | 術 -ət | | Ⅳ | 祭 -ats > -as | 元 -an | 月 -at | | | 歌 -al, -aj | | | | Ⅴ | 脂 -əj | 真 -əȵ | 質 -əc | | Ⅵ | 支 -aj > /ai/ \[ɛ] | 耕 -aȵ | 錫 -ac | | Ⅶ | 之 -əɣ > /əɨ/ \[ɤ] | 蒸 -əŋ | 職 -ək | | Ⅷ | 魚 -aɣ > /aɨ/ \[ɑ] | 陽 -aŋ | 鐸 -ak | | Ⅸ | 幽 -əw | 冬 -əŋʷ | 毒 -əkʷ | | Ⅹ | 侯 -uw > /au/ \[ɔ] | 東 -aŋʷ | 屋 -akʷ | | Ⅺ | 宵 -aʁ > -aβ | | 藥 -aq | いくつかの陰声韻の後に示した二次的音価は、漢代に想定されなければならないものである。 ## 付記:詩経韻部から『切韻』韻目への発展 以下の表では、多くの特殊な現象は考慮から外して、各詩経韻部から『切韻』韻目への基本的な発展を示している。 | 韻類 | 韻部 | タイプ | | \*-ʲ- | \*-ʳ- | \*-ʳʲ- | \*-ʷ- | | | :--- | :--- | :------- | :------- | :------ | :------------------ | :------ | :-------------- | :--------------- | | Ⅰ | b 侵 | A \*-ə́m | əm 覃 | em 添 | eṛm 咸 | | | | | | | B \*-ə̀m | ɨm 侵 | | | | uŋ 東 ※ | ※ e.g. 風 puŋ | | | c 緝 | A \*-ə́p | əp 合 | ep 帖 | eṛp 洽 | | | | | | | B \*-ə̀p | ɨp 緝 | | | | | | | Ⅱ | b 談 | A \*-ám | am 談 | im 添 | aṛm 銜 | eṛm 咸 | | | | | | B \*-àm | ɨăm 嚴 | iăm 鹽 | | | ɨăm 凡 | | | | c 盍 | A \*-áp | ap 盍 | ip 帖 | aṛp 狎 | eṛp 洽 | | | | | | B \*-àp | ɨăp 業 | iăp 葉 | | | ɨăp 法 | | | Ⅲ | a 微 | A \*-ə́l | əj 治 | ej 齊 | eṛj 皆 | | oj 灰 | | | | | B \*-ə̀l | ɨj 微 | ij 脂 | | | uj 微 | | | | b 諄 | A \*-ə́n | ən 痕 | en 先 | eṛn 山 | | on 魂 | | | | | B \*-ə̀n | ɨn 殷 | in 眞 | | | un 文 | | | | c 術 | A \*-ə́t | ət 沒 | et 屑 | eṛt 黠 | | ot 沒 | | | | | B \*-ə̀t | ɨt 迄 | it 質 | | | ut 物 | | | Ⅳ | a 祭 | A \*-áts | ajh 泰 | ijh 霽 | aṛjh 夬 | eṛjh 皆 | | | | | | B \*-àts | ɨăjh 廢 | iăjh 祭 | | | uăjh 廢 | | | | b 元 | A \*-án | an 寒 | en 先 | aṛn 刪 | eṛn 山 | | | | | | B \*-àn | ɨăn 元 | iăn 仙 | | | uăn 元 | | | | c 月 | A \*-át | at 末 | et 屑 | aṛt 鎋 | eṛt 黠 | | | | | | B \*-àt | ɨăt 月 | iăt 薛 | | | uăt 月 | | | | a 歌 | A \*-ál | â 歌 | | aṛ 麻 | | | | | | | B \*-àl | ɨă 支 | | | | | à:l(?) > iăṛ 麻 | | Ⅴ | a 脂 | A \*-ə́j | ej 齊 | | eṛj 皆 | | | | | | | B \*-ə̀j | ij 脂 | | | | | | | | b 真 | A \*-ə́ȵ | en 先 | | eṛn 山 | | | | | | | B \*-ə̀ȵ | in 真 | | | | | | | | c 質 | A \*-ə́c | et 屑 | | eṛt 黠 | | | | | | | B \*-ə̀c | it 質 | | | | | | | Ⅵ | a 支 | A \*-áj | ej 齊 | | eṛ(j) 佳 | | | | | | | B \*-àj | (j)iă 支 | | | | | | | | b 耕 | A \*-áȵ | eŋ 青 | | eṛŋ 耕 | | | | | | | B \*-àȵ | iɛŋ 清 | | iɛṛŋ 庚 ※ | | | ※ e.g. 敬 kiɛṛŋh | | | c 錫 | A \*-ác | ek 錫 | | eṛk 麥 | | | | | | | B \*-àc | iɛk 昔 | | | | | | | Ⅶ | a 之 | A \*-ə́ɣ | əj 昭 | | eṛj 皆 | | ow 侯 | ʷə́:ɣ(?) > oj 灰 | | | | B \*-ə̀ɣ | ɨ 之 | | | | uw 尤 | ʳʷə̀ɣ > wij 脂 | | | b 蒸 | A \*-ə́ŋ | əŋ 青 | | eṛŋ 耕 | | oŋ 東 | | | | | B \*-ə̀ŋ | ɨŋ 蒸 | | | | uŋ 東 | | | | c 職 | A \*-ə́k | ək 德 | | eṛk 麥 | | | | | | | B \*-ə̀k | ɨk 職 | | | | uk 屋 | | | Ⅷ | a 魚 | A \*-áɣ | ɔ 模 | | aṛ 麻 | | | à:ɣ(?) > iaṛ 麻 | | | | B \*-àɣ | ɨa 魚 | | | | ua 虞 | | | | b 陽 | A \*-áŋ | âŋ 唐 | | ɛṛŋ 庚 | | | | | | | B \*-àŋ | ɨâŋ 陽 | | iɛṛŋ 庚 | | | | | | c 鐸 | A \*-ák | âk 鐸 | | ɛṛk 陌 | | | | | | | B \*-àk | ɨâk 藥 | iɛk 昔 | iɛṛk 陌 | | | | | Ⅸ | a 幽 | A \*-ə́w | aw 豪 | ew 蕭 | aṛw 肴 | | | | | | | B \*-ə̀w | uw 尤 | iw 幽 | | | | | | | b 冬 | A \*-ə́ŋʷ | ɔŋ 冬 | | ɔṛŋ 江 | | | | | | | B \*-ə̀ŋʷ | uŋ 東 | | | | | | | | c 毒 | A \*-ə́kʷ | ɔk 沃 | ek 錫 | ɔṛk 覺 | | | | | | | B \*-ə̀kʷ | uk 屋 | | | | | | | Ⅹ | a 侯 | A \*-áw | ow 侯 | | \(r)ow > \(r)u 尤 ※ | | | ※ e.g. 鄒 tʂuw | | | | B \*-àw | uă 虞 | | | | | | | | b 東 | A \*-áŋʷ | oŋ 東 | | ɔṛŋ 江 | | | | | | | B \*-àŋʷ | uɔŋ 鍾 | | | | | | | | c 屋 | A \*-ákʷ | ok 屋 | | ɔṛk 覺 | | | | | | | B \*-àkʷ | uɔk 燭 | | | | | | | Ⅺ | a 宵 | A \*-áʁ | aw 豪 | ew 蕭 | aṛw 肴 | | | | | | | B \*-àʁ | iăw 宵 | | | | | | | | c 藥 | A \*-áq | âk 鐸 | ek 錫 | ɔṛk 覺 | | ɔk 沃 (~ ok 屋) | | | | | B \*-àq | ɨâk 藥 | | | | | | ## 参考文献 - Benedict, Paul K. (1972). *Sino-Tibetan: A Conspectus*. Cambridge: Cambridge University Press. [doi: 10.1017/CBO9780511753541](https://doi.org/10.1017/CBO9780511753541) - Bodman, Nicolas C. (1954). *A linguistic study of the Shih Ming*. Cambridge: Harvard University Press. [doi: 10.4159/harvard.9780674430105](https://doi.org/10.4159/harvard.9780674430105) - Dong, Tonghe 董同龢. (1948). Shànggǔ yīnyùn biǎogǎo 上古音韻表稿. *Bulletin of the Institute of History and Philology Academia Sinica* 中央研究院歷史語言研究所集刊 18: 1–249. - Hashimoto, Mantaro J. (1970). Internal evidence for Ancient Chinese palatal endings. *Language* 46(2): 336–365. [doi: 10.2307/412283](https://doi.org/10.2307/412283) - Haudricourt, André-George. (1954). Comment Reconstruire Le Chinois Archaïque. *Word & World* 10 (2-3): 351–364. [doi: 10.1080/00437956.1954.11659532](https://doi.org/10.1080/00437956.1954.11659532) ⇒[日本語訳](/@YMLi/ry5lQanlT) - Henderson, Eugénie. J. A. (1966). Towards a prosodic statement of Vietnamese syllable structure. In: Bazell, C. E.; J. C. Catford, M. A. K. Halliday (eds.). *In memory of J. R. Firth*. London: Longmans. 163–197. - Jaxontov, Sergej E. (1960). Fonetika kitajskogo jazyka 1 tysjačeletija do n. e. (labializovannye glasnye) Фонетика китайского языка I тысячелетия до н. э. (лабиализованные гласные). *Problemy Vostokovedenija* Проблемы востоковедения 6: 102–115. ⇒[日本語訳](/@YMLi/SJjf4buza) - Karlgren, Bernhard. (1957). Grammata Serica Recensa: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 29: 1–332. - Kono, Rokuro 河野六郎. (1968). *Chōsen kanjion no kenkyū* 朝鮮漢字音の研究. - Li, Fang-kuei 李方桂. (1945). Some old Chinese loanwords in the Tai languages. *Harvard Journal of Asiatic Studies* 8(3–4): 333–342. [doi: 10.2307/2717820](https://doi.org/10.2307/2717820) - ⸺. (1971). *Shànggǔ yīn yánjiū* 上古音研究. *Tsing Hua Journal of Chinese Studies* 清華學報 9(1–2): 1–61. Reprinted: Shāngwù yìnshūguǎn 商務印書館, 1980. - Luo, Changpei 羅常培; Zhou, Zumo 周祖謨. (1958). *Hàn Wèi-Jìn Nán-běi cháo yùnbù yǎnbiàn yánjiū* 漢魏晋南北朝韻部演變研究. Beijing: Kexue chubanshe 科學出版社. - Mei, Tsu-lin 梅祖麟. (1970). Tones and Prosody in Middle Chinese and The Origin of The Rising Tone. *Harvard Journal of Asiatic Studies* 30: 86–110. [doi: 10.2307/2718766](https://doi.org/10.2307/2718766) - Pelliot, Paul. (1914). Les Noms propres dans les traductions chinoises du Milindapañha. *Journal Asiatique* 11(4): 379–419. - ⸺. (1933). *Pāpīyān* > 波旬 *Po-siun*. *Tʼoung Pao* 30(1): 85–99. [doi: 10.1163/156853233x00040](https://doi.org/10.1163/156853233x00040) - Pulleyblank, Edwin G. (1962). The Consonantal System of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265. ⇒[日本語訳](/@YMLi/rJIytCsGT) - ⸺. (1963). An Interpretation of the Vowel Systems of Old Chinese and Written Burmese. *Asia Major* 10(2): 200–221. ⇒[日本語訳](/@YMLi/SJ9kUL2RT) - ⸺. (1965a). The transcription of Sanskrit *k* and *kh* in Chinese. *Asia Major* 11(2): 199–210. ⇒[日本語訳](/@YMLi/H1B1Sv09T) - ⸺. (1965b). Close/open ablaut in Sino-Tibetan. *Lingua* 14: 230–240. [doi: 10.1016/0024-3841(65)90043-4](https://doi.org/10.1016/0024-3841(65)90043-4) - ⸺. (1969). The Semivowel ï in Vietnamese and Mandarin. *Bulletin of the Institute of History and Philology Academia Sinica* 中央研究院歷史語言研究所集刊 39(2): 203–218. - ⸺. (1970–1971). Late Middle Chinese. *Asia Major* 15(2): 197–239, 16(1): 121–168. - ⸺. (1972). The analysis of vowel systems. *Acta Linguistica Hafniensia* 14(1): 39–62. [doi: 10.1080/03740463.1973.10412223](https://doi.org/10.1080/03740463.1973.10412223) - ⸺. (1973a). Some New Hypotheses Concerning Word Families in Chinese. *Journal of Chinese Linguistics* 1(1): 111–125. ⇒[日本語訳](/@YMLi/B1rIN7s56) - ⸺. (1973b). Some further evidence regarding Old Chinese -s and its time of disappearance. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 36(2): 368–373. [doi: 10.1017/s0041977x00134342](https://doi.org/10.1017/s0041977x00134342) - ⸺. (1978). Linguistic evidence for the date of Han-shan. In: Miao, Ronald C. *Studies in Chinese Poetry and Poetics, vol. 1*. San Francisco: Chinese Material Center. 163–195. - Rai, Tsutomu 頼惟勤. (1953). Jōko Chūgokugo no kōon inbi ni tsuite 上古中国語の喉音韻尾について. *Ochanomizu jōshi daigaku jinbun kagaku kiyō* お茶の水女子大学人文科学紀要 3(2): 51–64. - ⸺. (1957). Jōko Chūgokugo no inbo ni kansuru nisan no mondai 上古中国語の韻母に関する二三の問題. *Tōyō gakuhō* 東洋学報 40(1): 62–81. - Schuessler, Axel. (1974). Final *-l* in Archaic Chinese. *Journal of Chinese Linguistics* 2(1): 79–87. - Wang, Li 王力. (1958). *Hànyǔ shǐ gǎo* 漢語史稿. Beijing: Kexue chubanshe 科學出版社. - Zhou, Fagao 周法高. (1969). Lùn shànggǔ yīn 論上古音. *Journal of the Institute of Chinese Studies of the Chinese University of Hong Kong* 中國文化研究所學報 2(1): 109–178. [^1]: ==:bulb: 「文部」がより一般的な呼称である。== [^2]: ==:bulb: 「物部」がより一般的な呼称である。== [^3]: ==:bulb: 「覺部」がより一般的な呼称である。== [^4]: EMCは早期中古漢語(Early Middle Chinese)を表す。閩南語ではわたり音 *-j* が失われているが、これは 賴 *lajʰ* 厦門 *lua* のように中古漢語で *-j* を持つ単語にも当てはまる。 [^5]: ==:bulb: 通常の語形は *cưỡi* である。== [^6]: 近世英語の *day* のような単語における中英語の *-aj* から \[ɛ] への変化や、フランス語の *-ai-* から \[ɛ] への変化と比較されたい。 [^7]: ==:bulb: < 古ビルマ語 ခ္လိယ်း *khliyḥ*== [^8]: Schuessler(1974)は他にもいくつかの例を挙げているが、その多くは音韻的・意味的対応が十分に近くなく、さらなる証拠がなければ説得力に欠ける。SchuesslerはKarlgrenと同様にⅢ微部とⅤ脂部を区別せず、シナ・チベット祖語 \*-y (私の表記では \*-j)は中国語の \*-lˀ または \*-lVl (Vは任意の母音)に対応するという、ありそうもない仮説に導かれていることに注意されたい。 [^9]: 私は以前、このような単語には \*-l- クラスターを再構する傾向があったが、これは単に上古漢語 \*l の発展との並行性に基づくものであり、比較証拠による裏付けはなかった。