# 上古漢語とビルマ文語の母音体系の解釈 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳(部分)である。 - Pulleyblank, Edwin G. (1963). An Interpretation of the Vowel Systems of Old Chinese and Written Burmese. *Asia Major* 10(2): 200–221. 誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 Pulleyblankによる中古漢語・上古漢語の音形の表記には以下の修正を加えた。 - 切韻体系の再構音および中古漢語の音素は太字で表記する。 \ 上古漢語の再構音はアスタリスク形で表記する。 \ それ以外の音はイタリック体で表記する。 - 中古漢語の母音 **ɑ** は、表示環境によっては **a** と混同する可能性があるため、Karlgrenにならって **â** と表記する。 - 平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。 ::: --- ## 1. はじめに 私はPulleyblank(1962)で上古漢語の音韻論について論じた際、主に頭子音と末子音に着目したが、必然的に母音体系も考慮する必要があったため、それに関する暫定的な提案を概説した。それ以来、私は漢代の母音についてはほぼ同じ音価に固執する一方で、音韻構造について異なる解釈をするようになった。詳細についてはまだだ多くの課題が残されているが、現段階では、理論の概略を述べるとともに、同様の分析がビルマ文語に対してどのように適用できるのかを示したい。こうすることで、シナ・チベット語比較研究のために以前よりも健全な基礎を築くことができると私は信じているし、この分野でパイオニアとして多大な功績を残した私の恩師Walter Simonが、彼の70歳の誕生日を記念する本論文を喜んで受け取ってくれることを願っている。 ## 2. 主母音の音価 清代の文献学者とそれを引き継ぐ現代の研究者によって確立されている『詩経』韻部によれば、唇音で終わる韻は2つだけだが、歯音で終わる韻は3つ、軟口蓋音および喉音で終わる韻は6つ(そのうち \*-ŋ で終わる韻は5つだけ)ある。Karlgrenとそれに続く人々の大半は、多くの韻部について、単一の母音ではなく、類似していると思われる母音の集まりを構成する必要があると考えている。Karlgren体系では、同じ母音が複数の韻部にまたがって存在することもある。王力(Wang 1957)だけが、それぞれの韻部について単一かつ排他的な主母音(または二重母音)を主張している(ただし、長さの対立を持つ可能性がある)。この方針が達成できれば、より満足のいく解決策であることは明らかである。王力が主母音に与えた音価は、Karlgrenによる上古漢語体系の多くの誤りを排除した、非常に賢明なものだと思われる。しかし、彼は長母音と短母音の組み合わせを提案し、また「不規則な発展」という考え方に頻繁に頼ることで1韻部につき1母音という単純化を達成したにすぎず、非常に説得力のない体系であった。私が前稿で述べた、\*-l- (=シナ・チベット祖語 \*-r-), \*-δ- (=シナ・チベット祖語 \*-l-), \*-e̯- (=シナ・チベット祖語 \*-y-)の消失による中古漢語の母音への影響に関する仮説、および王力が開音節とした韻に対して再構される末子音に関する仮説は、そのような便宜的な方法の必要性をほとんどなくし、それぞれの韻部における主要な展開について、韻部内で特有の主母音の音価の対立を仮定する必要なく説明することを可能にした。 私は、三等韻のヨードを説明するためには、長母音と短母音が互いに自由に韻を踏んでいると仮定する必要があることを発見した。これについては後述するが、私は現在、少なくとも特定の状況(つまり、もともと介音 \*-y- または \*-r- を持っていた場合)においては、別の方法でこれを説明することが可能だと考えている。最終的にこの原理を拡張して、各韻部内の母音の対立(量であれ質であれ)をなくすことができるかどうかは、まだ明らかではない。 確立された『詩経』韻部を表1に示す。韻部の名称は、Luo & Zhou(1958)のものを引用したが、配列は異なる。Karlgrenの体系における対応する韻のクラスの番号を括弧内に示す。 :spiral_note_pad: **表1: 『詩経』の韻部** | | a. 陰声 | b. 陽声 | c. 入声 | | :--- | :---------------- | :------------ | :------------ | | Ⅰ | 之 (K. XXI) | 蒸 (K. XX) | 職 (K. XXI) | | Ⅱ | 支 (K. XIX) | 耕 (K. XVIII) | 錫 (K. XIX) | | Ⅲ | 魚 (K. II, XVII) | 陽 (K. XVI) | 鐸 (K XVII) | | Ⅳ | 侯 (K. III, XXVI) | 東 (K. XXV) | 屋 (K. XXVI) | | Ⅴ | 幽 (K. XXIII) | 冬 (K. XXII) | 沃 (K. XXIII) | | Ⅵ | 宵 (K. XXIV) | | 藥 (K. XXIV) | | Ⅶ | 微 (K. XI) | 諄 (K. IX) | 術 (K. XI) | | Ⅷ | 脂 (K. XI) | 真 (K. VII) | 質 (K. VIII) | | Ⅸ | 歌 (K. II, VI) | 元 (K. IV) | 月 (K. V) | | | 祭 (K. V) | | | | Ⅹ | | 談 (K. XII) | 盍 (K. XIII) | | Ⅺ | | 侵 (K. XIV) | 緝 (K. XV) | 上古漢語の韻は、中古漢語の反射によって陰声(母音で終わる)、陽声(鼻音で終わる)、入声(閉鎖音で終わる)に分類される。一般的に、平声の韻だけが与えられているが、陰声・陽声韻は(一定の空白を伴って)平声・上声・去声の3声調全てに存在する。Ⅸ祭部は例外的で、去声のみに出現する。以下では、例えばⅠ之部などの「韻部」と、例えばⅠ類(之蒸職部)などの「韻類」、すなわち押韻と諧声接触によって同じ母音と同じ種類の末子音(軟口蓋音・喉頭、歯音、唇音)を持つことが示された韻のグループを区別する。 表2は、各『詩経』韻部の主要な中古漢語反射を韻図に従って配列したものである。 :spiral_note_pad: **表2: 『詩経』韻部の主な中古漢語反射** | | | 一等 | 二等 | 三等 | 四等 | | :--- | :--- | :------------------------ | :-------------------- | :--------------------------- | :----------- | | Ⅰ | a 之 | 咍 *əi* | 皆 *aəi* | 之 *i̯ə* | | | | | 灰 *wəi*, 侯 *u* | 皆 *waəi* | 脂 *i̯wi*, 尤 *i̯u* | | | | b 蒸 | 登 *əŋ* | 耕 *aəŋ* | 蒸 *i̯əŋ* | | | | | 登 *wəŋ*, 東 *uŋ* | 耕 *waəŋ* | 東 *i̯uŋ* | | | | c 職 | 德 *ək* | 麥 *aək* | 職 *i̯ək* | | | | | 德 *wək* | 麥 *waək* | 職 *i̯wək*, 屋 *i̯uk* | | | Ⅱ | a 支 | | 佳 *ae* | 支 *i̯e*, *ye* | 齊 *ei* | | | | | 佳 *ae* | 支 *i̯we*, *ywe* | 齊 *wei* | | | b 耕 | | 耕 *aəŋ* | 清庚 *i̯eŋ*, *i̯aŋ*, *yeŋ* | 青 *eŋ* | | | | | 耕 *waəŋ* | 清庚 *i̯waŋ*, *yweŋ* | 青 *weŋ* | | | c 錫 | | 麥 *aək* | 昔陌 *i̯ek*, *i̯ak*, *yek* | 錫 *ek* | | | | | 麥 *waək* | 昔陌 *i̯wak*, *ywek* | 錫 *wek* | | Ⅲ | a 魚 | 模 *ou* | 麻 *a* | 魚 *i̯o*, 麻 *i̯a* | 齊 *ei* (稀) | | | | | 麻 *wa* | 虞 *i̯ou* | | | | b 陽 | 唐 *âŋ* | 庚 *aŋ* | 陽 *i̯âŋ*, 庚 *i̯aŋ* | | | | | 唐 *wâŋ* | 庚 *waŋ* | 陽 *i̯wâŋ*, 庚 *i̯waŋ* | | | | c 鐸 | 鐸 *âk* | 陌 *ak* | 藥 *i̯âk*, 昔陌 *i̯ak*, *i̯ek* | 錫 *ek* (稀) | | | | 鐸 *wâk* | 陌 *wak* | 藥 *i̯wâk*, 陌 *i̯wak* | | | Ⅳ | a 侯 | 侯 *u* | | 虞 *i̯ou* | | | | b 東 | 東 *uŋ* | 江 *auŋ* | 鍾 *i̯oŋ* | | | | c 屋 | 屋 *uk* | 覺 *auk* | 燭 *i̯ok* | | | Ⅴ | a 幽 | 豪 *âu* | 肴 *au* | 尤 *i̯u*, 幽 *yiu* | 蕭 *eu* | | | b 冬 | 冬 *oŋ* | 江 *auŋ* | 東 *i̯uŋ* | | | | c 沃 | 沃 *ok* | 覺 *auk* | 屋 *i̯uk* | 錫 *ek* | | Ⅵ | a 宵 | 豪 *âu* | 肴 *au* | 宵 *i̯eu*, *yeu* | 蕭 *eu* | | | c 藥 | 鐸 *âk*, 沃 *ok*, 屋 *uk* | 覺 *auk* | 藥 *i̯âk* | 錫 *ek* | | Ⅶ | a 微 | 咍 *əi* | 皆 *aəi* | 微 *i̯əi*, 脂 *i̯i* | 齊 *ei* | | | | 灰 *wəi* | 皆 *waəi* | 微 *i̯wəi*, 脂 *i̯wi* | | | | b 諄 | 痕 *ən* | 山 *aən* | 殷 *i̯ən*, 真 *i̯in* | 先 *en* | | | | 魂 *wən* | 山 *waən* | 文 *i̯wən*, 真 *i̯win* | | | | c 術 | 沒 *ət* | 黠 *aət* | 迄 *i̯ət*, 質 *i̯it* | | | | | 沒 *wət* | 黠 *waət* | 物 *i̯wət*, 質 *i̯wit* | | | Ⅷ | a 脂 | | 皆 *aəi* | 脂 *i̯i*, *yi* | 齊 *ei* | | | | | 皆 *waəi* | 脂 *i̯wi*, *ywi* | 齊 *wei* | | | b 真 | | 山 *aən* | 真 *i̯in*, *yin* | 先 *en* | | | | | 山 *waən* | 真 *i̯win*, *ywin* | 先 *wen* | | | c 質 | | 黠 *aət* | 質 *i̯it*, *yit* | 屑 *et* | | | | | 黠 *waət* | 質 *i̯wit*, *ywit* | 屑 *wet* | | Ⅸ | a 歌 | 歌 *â* | 麻 *a* | 支 *i̯e*, 麻 *i̯a*, 歌 *i̯â* | | | | | 歌 *wâ* | 麻 *wa* | 支 *i̯we*, (歌 *i̯wâ*) | | | | b 元 | 寒 *ân* | 刪 *an*, 山 *aən* | 仙 *i̯en*, *yen* | 先 *en* | | | | 寒 *wân* | 刪 *wan*, 山 *waən* | 仙 *i̯wen*, *ywen* | 先 *wen* | | | c 月 | 末 *ât* | 鎋 *at*, 黠 *aət* | 薛 *i̯et*, *yet* | 屑 *et* | | | | 末 *wât* | 鎋 *wat*, 黠 *waət* | 薛 *i̯wet*, *ywet* | 屑 *wet* | | | d 祭 | 泰 *âi³* | 夬 *ai³*, 怪 *aəi³* | 祭 *i̯ei³*, *yei³* | 霽 *ei³* | | | | 泰 *wâi³* | 夬 *wai³*, 怪 *waəi³* | 祭 *i̯wei³*, *ywei³* | 霽 *wei³* | | Ⅹ | b 談 | 談 *âm*, (覃 *əm*) | 銜 *am*, 咸 *aəm* | 嚴 *i̯âm*, 凡 *i̯am*, 鹽 *i̯em* | 添 *em* | | | c 盍 | 盍 *âp*, (合 *əp*) | 狎 *ap*, 洽 *aəp* | 業 *i̯âp*, 乏 *i̯ap*, 葉 *i̯ep* | 怗 *ep* | | Ⅺ | b 侵 | 覃 *əm* | 咸 *aəm* | 侵 *i̯im*, *yim* | 添 *em* | | | c 緝 | 合 *əp* | 洽 *aəp* | 緝 *i̯ip*, *yip* | 怗 *ep* | 多くの場合、各韻部に対応する中古漢語の母音は一貫しており、上古漢語の推定音価が直接示唆されている。そのため、Karlgrenと王力は、母音 \*ə をⅠ類・Ⅶ類・Ⅹ類に、母音 \*e をⅡ類とⅧ類に割り当てるという点で一致している(ただしKarlgrenはⅦ微部とⅧ脂部の区別を認めていない)。同様に、両研究者とも母音 \*a をⅢ陽鐸部・Ⅸ歌元月祭部・Ⅺ侵緝部に割り当てている。王力はこれを、Karlgrenが \*-o と \*-âg の2つのクラスに分割したⅢ魚部全体にも広げている(Pulleyblank 1962: 210参照)。Karlgrenは全体を通して、後舌母音 \*â \[ɑ] と前舌母音 \*a \[a] の両方を仮定している。王力は、Ⅲ類では後舌母音 \*ɑ を、それ以外の韻には前舌母音 \*a を仮定している。しかし、Ⅸ歌部には歯音の末子音 \*-δ が再構されるため、この区別は不要である。 このように、非円唇母音 \*ə, \*e, \*ɑ の音価は、かなり確立されたものとみなすことができる。私は以前、理論的な根拠から、\*ə をかつての前舌狭母音 \*i に由来させることを提案したが、漢代の転写音価は、中段または高い中舌母音とよく一致する。今では、このような音価は上古漢語の初期段階、さらにはシナ・チベット祖語に再構されるべきだと考えている。 Ⅳ類(侯東屋部)・Ⅴ類(幽冬沃部)・Ⅵ類(宵藥部)において軟口蓋音・喉音の前のみに現れる円唇母音は、より大きな問題を生じている。ここでは、Karlgrenと王力の再構音価は一致していない。Karlgrenは3つのグループに単母音 \*u, \*ô \[o], \*o \[ɔ] を狭い順に再構した。王力はⅣ類でのみ単母音 \*o を再構し、Ⅴ類とⅥ類には二重母音 \*əu と \*au を再構した。私は以前、Ⅳ類とⅥ類には王力の音価を採用したが、Ⅴ類には単母音 \*u を再構した。\*u と \*au のどちらを選ぶべきか、転写が示す音価からはわからないが、他の理由から、私は今では王力の音価の方が好ましいと考えている。その理由は後述するが、まず、Ⅳ類・Ⅴ類・Ⅵ類の母音の相対的な位置が、Karlgrenの音価ではなく、王力の音価と一致すると考えなければならない理由を示す必要がある。 Ⅳ東屋部とⅤ冬沃部の中古漢語反射を見ると、一等韻と三等韻の間に不思議なクロスオーバーが見られる。すなわち、中古漢語の東屋1韻 **-uŋ**, **-uk** はⅣ東屋部に由来するが、東屋3韻 **-i̯uŋ**, **-i̯uk** はⅤ冬沃部に由来する。逆に、冬沃韻 **-oŋ**, **-ok** はⅤ冬沃部に由来し、鍾燭韻 **-i̯oŋ**, **-i̯ok** はⅣ東屋部に由来する。Karlgren は、一等韻は三等韻よりも安定していると考え、それを上古漢語再構の基礎として採用した。彼は間違いなくこの点で誤っていた。上古漢語においてⅣ類(侯東屋部)の母音がⅤ類(幽冬沃部)よりも広かったことを示す証拠は豊富に存在する。それをまとめると、次のようになる。 1. 漢代の詩の押韻では、Ⅳ侯部とⅢ魚部(\*-ɑɦ)が一つの韻部を形成している。Ⅳ東部とⅢ陽部の叶韻もよく見られる。 2. 諧声関係は、Ⅳ類(侯東屋部)とⅨ類(歌元月祭部)の合口韻(\*-wɑδ, \*-wɑn など)との間に密接な関係があることを示している。証拠は少ないが、Ⅴ類(幽冬沃部)とⅦ類(微諄術部)の間にも同じような関係を指摘できるケースがいくつかある。(この2点については後述する。) 3. Ⅳ類(侯東屋部)とⅤ類(幽冬沃部)の文字を含む初期の転写では、Ⅳ類では \[o] または \[ɔ] のようなより広い音価が、Ⅴ類では \[u] のようなより狭い音価が指摘されている。このことを明確に示す例は(その中にはさらなる問題があるにせよ)、Pulleyblank 1962: 88, 90, 101, 109, 115, 117, 125, 213, 214, 221, 223, 240, 246に見られる。 音価の相対的な位置づけに関する限りでは、Ⅵ類(宵藥部)に対するKarlgrenの広母音 \*o \[ɔ] は、\*ɑw と大きく変わるものではない。しかし、多くの理由から、二重母音による解釈が好ましい。まず第一に、Ⅵ宵部の中古漢語反射(すべて **-u** の二重母音を示す)の発展を容易に説明することができる。二等を除いて末尾 \*-k の前で半母音 \*-w- が失われるのは、主母音の円唇化に起因するものもあるが、そうでないことも多い。さらに、単母音 \[ɔ] を仮定した場合、韻を踏むという点ではⅣ類よりもこのⅥ類の方がⅢ類(\*-ɑɦ)に近かったと予想されるが、実際にはそうではなかったことに注意してほしい。転写でⅥ類の文字が使用された例はあまり多くないが、そうした例は提案した解釈とよく一致している。実際、Ⅵ宵部の例は、\*-av または \*-aβ の再構、つまり半母音 \*-w- ではなく摩擦音による再構を支持するものでさえある。例えば、カブール Kabul の第一音節には 高 **kâu¹-** があり([Pulleyblank 1962: 223](/@YMLi/HyoFRGJc6#5--h-lt--ɦs-に由来する去声))、*Waxšab* の第二音節には 澡 **tsâu²** があり([1962: 222](/@YMLi/HyoFRGJc6#4--x-lt--ks-に由来する去声))、サンスクリット पुष्कलावती *Puṣkalāvatī*, ギリシャ語 Πευκελαῶτις *Peukelaôtis* (現代のペシャワール *Peshawar*)の下敷きとなったプラークリット形の転写の一つに 挑 **deu¹** がある([1962: 101](/@YMLi/r1YL4JDV6#9-軟口蓋音と喉音の口蓋化:介音--i̯--y--の起源))。また、ヴィマ・カドフィセス Vima kadphises の第2音節には 膏 **kau¹** が見られる(プラークリットの綴り *Uvima kav*\[*thisa*] と比較されたい、Ghirshman 1946: 106参照)。 \*-ɑwk の例はさらに稀であるが、かつてPelliot(1934)が長い論文の大部分を割いたトカラ語と思われる単語の転写にそのような例が1つある。この単語は、一方ではクチャの寺院の名前として、他方ではカニシカがペシャワールに建立した仏塔の名前として登場する。仏塔の名称は宋雲によって 雀離 **tsi̯âk-li̯e¹** とされており(Fan 1958: vol. 5, p. 327)、同じ形は『水經注』(vol. 2, p. 63A)にも匿名の『釋氏西域記』からの引用として見られる。鳩摩羅什の伝記では、寺院が 雀梨 **tsi̯âk-li̯i¹** と呼ばれている。またPelliotは、紀元127年の班勇のカラシャフル遠征に関連して言及された 爵離 **tsi̯âk-li̯e¹** 関(Chavannes 1906: 254)にも同じ単語が含まれているはずだと指摘した。全ての例において、MC **tsi̯âk** はかつての \*-ɑwk に遡る。寺院の名称に対する玄奘による新しい3文字の転写 照估釐 **ci̯eu¹-ɦou²-li̯ə¹** は明らかに \*cauɣri のようなものを指しており、この考えを裏付けている。したがって、トカラ語の綴りには \*caukri が予想される。Pelliotはまた、悟空(紀元788年頃)が言及したクチャ近郊の寺院の名前である 柘厥 **ci̯ek-ki̯wât** (または 拓 **ci̯a³-**)と、ほぼ同時期の賈耽の旅行記でクチャの西にあるとされる柘厥関(Chavannes 1903: 8)に、同じ名前のさらに後の形を見出そうとした。しかし、第一音節の扱いが異なることを説明するには、明らかに、玄奘の時代以降のトカラ語の言語的発展を仮定しなければならない。Pelliotは非常に暫定的に、この単語をウイグル・トルコの仏教文書に見られる、仏塔の尖塔の装飾を意味するらしい不明瞭な単語 *cäkür* と結びつけ、トカラ語の原義は「塔」と仮定できることを提案した。しかし、『水經注』の一節では、寺院の完全な名称が「大清浄」と記されている。中国語における「大清浄」がトカラ語の名称と意味的に関係があるとすれば、後者は「明るい」のような意味で、トカラ語B *cauk-*, A *cok* 「ランプ」に見られる語根の派生語かもしれない。==:bulb: このトカラ語の単語は 燭 **ci̯ok** からの借用語の可能性がある。== Ⅵ類(宵藥部)を \*-ɑw- と解釈すると、Ⅴ類(幽冬沃部)に関しても王力に従うことが非常に魅力的になる。それによって、Ⅴ類とⅥ類の一等韻の合流を簡単に説明することができる(\*-əwɦ > 豪韻 **-âu**)。\*ə が \*ɑ に下がることは、後に 覃韻 **-əm** と 談韻 **-ām**、合韻 **-əp** と 盍韻 **-āp** (さらに咍韻 **-əi** と泰韻 **-âi**)の合流を引き起こしたのと並行的である。\*-ŋ と \*-k の前でも同様に母音が低くなり、冬沃韻 **-oŋ**, **-ok** となった。Ⅴ類とⅥ類の二等韻と「純」四等韻も合流し、肴韻 **-au**, 江韻 **-auŋ**, 覺韻 **-auk**, 蕭韻 **-eu**, 錫韻 **-ek** となった。 ## 3. 上古漢語の母音体系の音韻解釈 現在、『詩経』韻部について確立されている主母音体系は次の通りである。 1. 軟口蓋音・喉音の末子音の前 $$ \begin{array}{l} & \text{ə} & & \text{əw} \\ \text{e} & & \text{o} & \\ & \text{ɑ} & & \text{ɑw} \end{array} $$ 2. 歯音の末子音の前 $$ \begin{array}{l} & \text{ə} \\ \text{e} & \\ & \text{ɑ} \end{array} $$ 3. 唇音の末子音の前 $$ \begin{array}{l} & \text{ə} \\ & \\ & \text{ɑ} \end{array} $$ 私は以前、異なるクラス間で末子音の分布が不均衡であることを説明するために、『詩経』の体系は、かつての5母音体系から発展したと考えていた。 $$ \begin{array}{l} \text{i} & & & & \text{u} \\ & \text{e} & & \text{o} & \\ & & \text{ɑ} & & \end{array} $$ 私は、(1) \*i は \*ə に中舌化され、(2)歯音の前の \*u と \*o は \*wə, \*wa に分解され、(3)唇音の前の \*u と \*o は異化によって非円唇化して \*ə と \*ɑ と合流したと考えた。唇音の前の元々の \*e がどうなったかは明らかではなかった。 この枠組みの概要を発表した後、私はJaxontov(1960)が歯音の前の \*u と \*o について既に同様の提案をしていたことを知った。別の研究者が基本的に同じ証拠を使って同じ結論に達していることがわかり、勇気づけられた。しかし私は今では、我々は二人とも間違っていて、正解はまったく逆の方向、すなわち唇音終わりの韻が示す2母音 \*ə/\*a 体系こそがより古いものだと考えている。 Ⅴ類(幽冬沃部)とⅥ類(宵藥部)に関する王力の分析を採用することで、\*əw, \*ɑw は \*əm, \*ɑm と正確に並行するため、我々はすでにそのような解決策の道のりへ一歩進んでいるはずである。あとは \*o と \*e について分析するのみである。 \*o に関する限り、歯音の前の \*wɑ と軟口蓋音・喉音の前の \*o を関連付けた主要な洞察を保持することができる。この最初の手がかりは、Ⅳ類(侯東屋部)とⅨ類(歌元月祭部)の合口韻とが、唇音・軟口蓋音・喉音以外の頭子音の後で相補的に分布していることである。つまり、\*twɑn, \*tswɑδ や \*toŋ, \*tsoɦ を反射するような音節は存在するが、\*twɑŋ, \*tswɑk を反射するような音節は存在しない。 同様の相補分布は、次のような諧声関係からも示される。 :spiral_note_pad: **表3a: Ⅳ類とⅨ類の諧声関係** | | Ⅳ類 | Ⅸ類 | | :--- | :------------- | :------------ | | 1 | 豆 **du³** | 短 **twân²** | | 2 | 重 **ḍi̯oŋ¹** | 畽 **thwân²** | | 3 | 儿 **ji̯ou¹** | 朵 **twâ²** | | 4 | 儒 **ńi̯ou¹** | 耎 **ńi̯wen²** | | 5 | 取 **tshi̯ou²** | 菆 **dzwân¹** | | | | 最 **tswâi³** | | 6 | 从 **dzi̯oŋ¹** | 坐 **dzwâ²** | 軟口蓋音の頭子音を持つ場合も同様に対応する。 :spiral_note_pad: **表3b: Ⅳ類とⅨ類の諧声関係** | | Ⅳ類 | Ⅸ類 | | :--- | :---------- | :----------- | | 7 | 寇 **khu³** | 完 **ɦwân¹** | :::warning :bulb: **補足** 古文字の形状からして(3)儿 ~ 朵、(6)从 ~ 坐 の諧声関係は成り立たない。(7)寇 ~ 完 の諧声関係も非常に疑わしく、一般には認められていない。(2)畽 **thwân²** は同化による不規則的な \*-ŋ > \*-n の例と考えられる。 ::: 私は以前こうした証拠から、Jaxontovと同じように、元の \*o は歯音前で \*wɑ に音割れしたと結論づけた。しかし、少なくとも反対方向にも同様に論じることができ、すなわち軟口蓋音・喉音の末子音の影響で元の \*wɑ が \*(w)o に円唇化されたと仮定することができる。前者の仮定では、上古漢語の母音前に位置にする独立した音素として半母音 \*-w- は排除されることになる(**kwâŋ** のような音節は、頭子音に唇化軟口蓋音・喉音というカテゴリーを別個に仮定することで説明できる)。しかし、これまで見てきたように、主母音の後に \*-w を残すのには十分な理由がある。そこから類推すれば、主母音の前にも発生すると考えられる。唇化軟口蓋音・喉音の仮説は、**kwâŋ¹** < \*kʷɑŋ と **kuŋ¹** < \*koŋ < \*kwɑŋ の違いを説明するものとして、少なくとも暫定的には維持される。 Ⅳ類(侯東屋部)の \*o が \*wɑ に由来するとすれば、『詩経』では区別されていたⅣ侯部(\*-oɦ)とⅢ魚部(\*-ɑɦ)が漢代には一つの韻部を形成するようになった理由を容易に説明することができる。もしこれを、もともと別々に韻を踏んでいた2つの韻部が合流したケースと考えると、なぜ中古漢語の反射が一般的に区別されているのか説明し難いだろう。一方、仮に軟口蓋音・喉音の前で \*wɑ > \*(w)o の順で変化したのすれば、これを理解できる。ある方言、つまり『詩経』の方言では、\*-ŋ や \*-k だけでなく \*-ɦ の前でもすでに変化が完了していた可能性がある。それに対して他の方言、特に漢代に支配的だった方言はより保守的だった。『詩経』では \*-wɑn, \*-wɑt, \*-wɑδ の単語は \*-ɑn, \*-ɑt, \*-ɑδ の単語とは別々に韻を踏む傾向があるというJaxontovが実証した事実についても、この線で説明できると思う。彼は、鋭音の頭子音を持つ単語(中古漢語で見組 **t-**, 精組 **ts-**, 章組 **c-**, 莊組 **tṣ-**, 來母 **l-** などを与える単語)は、押韻において合口と開口がはっきりと分けられることを示した(泉 **dzi̯wen¹** のように常に開口韻として韻を踏む1つか2つの単語を除く;この文字はMC **dzi̯en¹** を書くために頻繁に仮借されることに注意)。さらに、(いくつかの例外を除いて)唇音の頭子音を持つ単語と軟口蓋音・喉音を持つ合口の単語は、\*-ɑn として韻を踏むものと \*-wɑn として韻を踏むものに分けられることを示した。『詩経』の方言が後の標準中国語の直接の祖先であると仮定するならば、これはもともと独立した韻 \*-on があり、それが \*-wɑn に変化した証拠と考えざるを得ない。一方これは、私の提案するように、後の標準中国語よりも \*wɑ を \*(w)o に円唇化させる傾向が強かった『詩経』の方言の異常さを示す例だとも言える。『詩経』が後世の標準中国語にはない方言的特徴を示していることに関する証拠については、別の論文(Pulleyblank 1960)で述べた。\*wɑ が \*o に円唇化される(\*wə も \*u に円唇化される)のは、同じく『詩経』の方言に見られる前舌母音の後の \*-ŋ > \*-n や \*-k > \*-t の変化と同様、現代客家語の特徴であることは注目に値する。これが客家語の起源を知る手がかりになるかどうかはまだわからないが、ある伝承によれば、客家語は河南のどこかから長い移住を始めたと言われている。 \*o が他ならぬ \*wɑ から発展したという仮説は、Ⅲ類(魚陽鐸部)とⅣ類(侯東屋部)との間に諧声関係があるように見えるいくつかのケースを説明するのに(たとえまだ詳細には説明できないとしても)役立つだろう。 - 股, 羖 **kou²** : 殳 **ji̯ou¹** - 鼓 **kou²** : 壴 **ṭi̯ou²** - 雨 **ɦi̯ou²** : 漏 **lu³** (Benedict 1948: 204はチベット・ビルマ祖語で「雨」を意味する単語として \*r-wa を再構していることに注意) :::warning :bulb: **補足** 古文字の形状からして 股羖 ~ 殳 と 鼓 ~ 壴 の諧声関係は成り立たない。雨 ~ 漏 の諧声関係も一般には認められていない。 ::: 分布の面では、Ⅷ類(脂真質部)の状況はⅨ類(歌元月祭部)と似ているところがある。これらは、軟口蓋音・喉音の後を除いて合口韻が存在しないⅠ類(之部 \*-əɦ, 蒸部 \*-əŋ, 職部 \*-ək)とは対象的に、合口と開口の両方に鋭音の頭子音を持つ単語を持つ(後者は比較的少ないが)。また、ここでは詳細な議論を避けるが、Ⅷ類(脂真質部)とⅤ類(幽冬沃部)との間には数例の諧声接触がある。 - 媪 **ꞏâu¹** : 温 **ꞏwən¹** - 孰 **ji̯uk** (cf. 誰 **ji̯wi¹**) : 敦 **twən¹**, **ji̯win¹** - 蜼 **yu³**, **ywi³**, **li̯wi³** : 隹 **ci̯wi¹** (鷕 **yeu¹** はⅥ宵部に属することに注意) :::warning :bulb: **補足** 古文字の形状からして 孰 ~ 敦 の諧声関係は成り立たない。蜼鷕 ~ 隹 の諧声関係も一般には認められていない。蜼 **yu³** の読みはおそらく同義語の 貁 **yu³** との混交によるもので継承されたものでは無い。 ::: 独立した \*-un, \*-ut, \*-uδ 韻に関するJaxontovが提出した証拠は、\*-on, \*-ot, \*-oδ の場合よりもはるかに不明瞭ではあるが、それを見る限り、『詩経』の方言的な特殊性として説明できると思う。漢代には、Ⅷ類(脂真質部)にはそのような区別がないばかりか、Ⅶ類(微部 \*-eδ, 諄部 \*-en, 術部 \*-et)とⅧ類は合流している。 Ⅴ類(幽冬沃部)の母音を \*əw と分析するのが正しいとすれば、いずれにせよ、Ⅰ類(之蒸職部)とⅤ類の間には、Ⅲ類(魚陽鐸部)とⅣ類(侯東屋部)のような関係はない。\*wə はもともと、歯音の前と同様に軟口蓋音・喉音の前にも存在していた可能性が高いと思われるが、もしそうだとしても、そのようなカテゴリーの独立性は上古漢語の押韻文にも中古漢語の反射にも反映されていないようである。もし、例えば『説文』が言うように 曾 **tsəŋ¹** と 悤 **tsuŋ¹** との間や、文字の形から推測できるように 㑞 **yəŋ³** と 廾 **ki̯oŋ¹** との間の珍しい諧声関係が存在するならば、\*wə は、ある条件下では \*wɑ と合流し、別の条件下では唇音要素が失われたようである。これは、而 **ńi̯ə¹** : 儒 **ńi̯ou¹**, 耎 **ńi̯wen²** などや、耳 **ńi̯ə²** : 取 **tshi̯ou²** なども説明するかもしれない。 :::warning :bulb: **補足** 耳 ~ 取 の諧声関係は一般には認められていない。而 ~ 耎儒 の諧声関係も疑わしい。 ::: このように母音 \*o を音韻的に \*wɑ に分解できるのであれば、対応する非円唇母音 \*e も同様に \*y + a または \*y + ə に分解できる可能性が高い。中古漢語の「純」四等韻(青韻 **-eŋ**, 錫韻 **-ek**, 齊韻 **-ei**, 先韻 **-en**, 屑韻 **-et**, 蕭韻 **-ew**, 添韻 **-em**, 帖韻 **-ep**)は、一部は『詩経』の別々の韻部、すなわち軟口蓋音・喉音の末子音を持つⅡ類(支耕錫部)と歯音の末子音を持つⅧ類(脂真質部)に遡るが、一部はⅠ類(之蒸職部)とⅣ類(侯東屋部)を除く他のすべての『詩経』韻部に由来する(ただしⅢ類(魚陽鐸部)の例は稀)。Karlgren(私の中古漢語 **e** を彼は *ie* と表記)はこのことを説明するために、これらの韻部の主母音に「母音的 *i*」を伴って再構した(例えば、\*-iôg > 蕭韻 *-i̯eu*, \*-ian > 先韻 *-i̯en* など)。Karlgrenの中古漢語における「母音的 *i*」に対する多くの学者による異論(特に、MC e が先行するiやyの痕跡を残さずに規則的にeを表す仏教の転訛の証拠)を別にしても、この解決策は、「純」四等韻(**e**)と関連付けられる各韻部には、仙A韻 **-yen**, 幽A韻 **-yiu** などの特別なヨード化四等韻も存在するという事実を考慮に入れていない。 私が以前の論文で採用した解決策は、半母音 \* -e̯- を仮定することであった。これは、その音価について明確な定義付けの無い一種の代数的記号とみなされ、後続する短母音と長母音にそれぞれ異なる影響を与える。\*-e̯- + 短母音は **e** を与え、\*-e̯- + 長母音は四等韻を与える。後に、この \*e̯ は、少なくとも場合によってはシナ・チベット祖語 \*y と同一視でき、また同様に中国語の母音体系の発展に様々な影響を及ぼした \*-l- (シナ・チベット祖語 \*-r-)や \*-δ- (シナ・チベット祖語 \*-l-)と並ぶ介音とみなせることができることが明らかになった。 さらに一歩進んで、Ⅱ類(支耕錫部)とⅧ類(脂真質部)の主母音 \*e も同様に \*y + ə または \*y + ɑ で構成されていると分析することができる。Ⅷ類の場合、そのどちらを選ぶかは簡単である。Ⅸ類(歌元月祭部)において、\*y + ɑ の単語は特別なカテゴリーを形成している。一方Ⅶ類(微諄術部)にはそのようなカテゴリーが見当たらないため、Ⅷ類がこのギャップを埋めていると考えられる(Ⅶ類に由来する先韻 **-en** には、頭子音に心母 **s-**, 端母 **t-**, 定母 **d-** を持つ単語がいくつかあるが、同時に、これらの頭子音を持つ痕韻 **-ən** の単語はない)。Ⅶ類とⅧ類の密接な関係は、漢代にはこれらが一つの韻部を形成しており、これはⅢ類(魚陽鐸部)とⅣ類(侯東屋部)と並行的であるという事実によって裏付けられる。 Ⅱ類(支耕錫部)の場合、選択はそれほど明白ではない。少数のⅢ鐸部に由来する錫韻 **-ek** の例は、このグループの中に独立した \*y + ɑ カテゴリーを仮定することを正当化するほど十分とは言い難く、私がかつて考えていたように、麻韻 **-a**, **-i̯a** がこの方法で部分的に説明できるかどうか、今となっては疑問である。諧声関係を見ると、Ⅱ類はⅠ類(之蒸職部)とⅢ類(魚陽鐸部)の両方と接触が有り、Ⅳ類(侯東屋部、すなわち \*o = \*wɑ、一部は \*wə から)に匹敵する位置を占めている。したがって対称性からすれば、『詩経』の体系に関する限り、Ⅱ類の \*e は \*y + a と分析できる。このことは、この韻部の中古漢語反射が、\*y + ə ではなく \*y + a の反射に対応していることからも確証される。すなわち、Ⅱ類は ==支部 >== 齊韻 **-ei**, 支A韻 **-ye**、==耕部 >== 青韻 **-eŋ**, 清韻 **-yeŋ**、==錫部 >== 錫韻 **-ek**, 昔韻 **-yek** を与えるが、これはⅥ宵部が蕭韻 **-eu**, 宵A韻 **-yeu** を与えⅨ元部が先韻 **-en**, 仙A韻 **-yen** を与えるのと並行的で、Ⅴ幽部が蕭韻 **-eu**, 幽A韻 **-yiu** を与えⅧ真部が先韻 **-en**, 真A韻 **-yin** を与えるのと対照的である。 --- これまで私は、\*y は常に主母音の前にあると仮定してきた。しかしこの仮定は、主母音の前にも後にも現れたと考えられる \*w の振る舞いとは対照的なだけでなく、現代中国語方言や、例えばビルマ語などで見られる状況とも著しく対照的である。\*y についても、\*w と同様に両方の位置に現れる可能性があると考えた方が自然だろう。 さらに、中古漢語の純四等(**-e-**)韻は \*-yə-, \*-yɑ- からではなく \*-əy-, \*-ɑy-から発展したものとする方が、音声学的に説明するのがはるかに容易であることが明らかである。したがって、\*y が母音化し、主母音がウムラウトして \[e] になったと考えるしかない。その結果、二重母音 \[ei] は単母音 \[e] として発音される傾向があったかもしれないが、転写の証拠に基づけば必ずしもそう仮定する必要はない。もともと二重母音 \*ai であったインド諸語の *e* が、この時代には純粋な単母音として発音されていたとしても、(フランス語の \[e] が英語の発音では \[ei] になるように)二重母音 \[ei] は外国語の \[e] を表すのに使われたかもしれない。\*-ei- が二重母音のままであったと仮定すれば、唐代に起こった \*-ie- への変化は単純な音位転換として扱うことができる(その結果、先行する軟口蓋音の頭子音が最終的に口蓋化され、例えば 見 **ken³** すなわち **kein³** は現代北京語で *jiàn* となった)。 対応する中古漢語の重紐四等(**-y-**)韻や、\*-y- の影響に伴う軟口蓋音の口蓋化は、私が以前提唱せざるを得なかった、短母音と長母音に対する \*-y- の効果の違いを伴う複雑な仮説を立てることなく、上古漢語 \*-yə-, \*-yɑ- の結果として直接説明することができるようになった。例えば、釗 **keu¹**, **ci̯eu¹** の2つの読みは、以前は \*kyɑuɦ > **keu¹**, \*kyāuɦ > \*kēu > \*kyeu > **ci̯eu¹** と解釈されていたが、単純に \*kɑywɦ > **keiu¹** (= **keu¹**), \*kyɑwɦ > **ci̯eu¹** と説明できる。 私が考えうるこの解決策に対する最大の反論は、\*-əy-/\*-yə-, \*-ɑy-/\*-yɑ- はすべての韻部において自由に一緒に韻を踏むことが許されていたはずであり、それは、軟口蓋音・喉音の末子音の前を除いて、それぞれ \*-ə-, \*-ɑ- とも韻を踏むことを意味するというものである。これは、\*-y- を母音性ではなく子音性と見なせば、それほど驚くことではないかもしれない。なぜなら、例えば \*-t と \*-ts、\*-k と \*-ks のように、韻を踏むことにある種の自由があったことが知られているからである。 実際には、『詩経』の特にⅤ類(幽冬沃部)とⅨ類(歌元月祭部)では、\*-əy-/\*-yə- と \*-ɑy-/\*-yɑ- の単語が、一つの韻部の中で別々のサブグループとして韻を踏む傾向が見られる。これはおそらく、\*-ywɦ ⇔ \*-wɦ や \*-yn ⇔ \*-n の区別というよりは、主母音の音色の違いによるものだろう。Ⅱ類(支部 \*-ɑyɦ/\*-yɑɦ, 耕部 \*-ɑyŋ/\*-yɑŋ, 錫部 \*-ɑyk/\*-yɑk)とⅧ類(脂部 \*-əyδ/\*-yəδ, 真部 \*-əyn/\*-yən, 質部 \*-əyt/\*-yət)における異なる韻部としての発展と比較されたい。 --- 同様の議論は、介音 \*-l- (シナ・チベット祖語 \*-r-)の喪失による二等母音の発展にも適用できる。この母音と \*-l- の喪失との関連は非常に明確だが、\*klɑn > **kan** などの直接的発展という音声学的説明は決して明白ではない。一方、もし音素配列が \*kɑln (\*kɑrn) であったと仮定すれば、\*-l- (\*-r-) が \*-ï- に母音化して \*kɑïn となったと考えることができる。これは主母音をウムラウトさせるが、\*-y- によるものほどではなく、\*kɑïn > \*kɛïn となった。おそらく場合によっては単母音の発音 \[kɛn] になる傾向があり、**kan** となったのだろう。同時に、\*klɑn (\*krɑn) は \*kïɛn へと発展した。このような単語は『切韻』ではMC **kyen** と韻を踏むものと扱われるが、主母音がさらに高くなることを意味するので、MC **ki̯en** と表記する。ただし以前の論文で述べたように、他の方言では、韻を踏む **ki̯aŋ** \[kïɛŋ] と並行的に、**ki̯an** \[kïɛn] という発音が維持されていたと考える理由がある。 闌 **kan¹** が北京語 *jiān* となるように二等韻が口蓋化されるのは、**e** の韻の場合とまったく同じ方法、つまり音位転換 \*kɛïn > \*kïɛn > \*kien として説明できる。 同様に、主母音がもともと \*ə であった場合は、\*kəln (\*kərn) > kəïn (= **kaən**), \*kəlm (\*kərm) > kəïm (= **kaəm**), \*kəlŋ (\*kərŋ) > kəïŋ (= **kaəŋ**) などのようになる。これらの韻と \*kɑïn, \*kɑïm, \*kɑïŋ との区別は、一定期間維持されたが、後におそらく \*ɑ と \*ə の両方を \[ɛ] にウムラウトさせる変化によって失われた。その後 **-ɛïm** は、**-ɛïn** と同様、音位転換を経て **-ïɛm** となった。しかし、軟口蓋音の末子音を持つ場合は異なる発展を経た。おそらく、前述したようにMC **kauŋ** (すなわち **kɛïuŋ**)が **kɛïŋ** に簡略化される傾向の圧力の下で、 **kɛïŋ** < \*kɑïŋ/\*kəïŋ の主母音は上方に推移し、再び **kəïŋ** が生じたのだろう。喉音の後を除いて半母音は音位転換を経ずにに失われたため、\*-əïŋ は \*-əŋ と合流した。 同じ原理が、末尾の \*-δ や喉音が失われた場合にも適用できる。 - \*-ɑlδ (\*-arδ) > \*-ɑïδ > \*-ɑï \[ɛi] \[ɛ] = 麻2韻 **-a** - \*-ɑlɦ (\*-arɦ) > \*-ɑïh > \*-ɑï \[ɛï] \[ɛ] = 麻2韻 **-a** - \*-əlδ (\*-ərδ) > \*-əïδ > \*-əïy (皆韻 **-aəi**), 後に \*-ɑïy < \*ɑlts (\*-ɑrts) (夬韻 **-ai³**) と合流 - \*-əlɦ (\*-ərɦ) (> \*-əï) > \*-əïy 同じ音節に別の半母音(\*y, \*w, \*δ)があった場合、状況はより複雑になる。さまざまな可能性を検討することは、ひとまず置いておくことにする。 上古漢語に \*karm や \*kərk のような音節があったという指摘は、並行的な \*-y- に関する指摘よりも例外的な傾向が強いのは間違いない。韻についての難しさを除けば \*-y- の場合と状況はほとんど同じであるが、現在の東アジア諸語で \*-l- や \*-r- を伴う末子音クラスターはほとんど知られていないようである。しかし、このような観察に基づく先験的な反論は、2千年前の中国語に関しては限られた力しか持たないし、他方で、この理論の説明力の魅力は非常に大きいと私には思える。 隔昆 **kaək-kwən¹** < \*kelk (kəyrk)-kwən = \*Qïrqïr (キルギス Kirghiz)のような場合、音節の前頭ではなく後方に \*-l- (\*-r-) を仮定することで、転写の正確性が向上することは注目に値する([Pulleyblank 1962: 122]((/@YMLi/SydgEgbKa#10--l--クラスターが単純化された時期)))。これは 監 **kam¹** < \*kɑlm (kɑrm)- = フルム Khulm- にも当てはまるが、藍 **lâm¹** と書く異表記も存在するため、あまり明確ではない。阿蠻 **ꞏâ¹-man¹** < \*ꞏɑδ-mɑïn < \*ꞏɑδ-mɑln (mɑrn) = アルメニア Armenia には当てはまらないが、これはかなり後の時代であり、\*-l- はすでに母音化されていた可能性がある。虎魄 **hou²-phak** = \*ἅρπαξ hárpax ? 「琥珀」にも当てはまらないだろうが、いずれにせよこの等式は非常に不確かである([p .124](/@YMLi/SydgEgbKa#10--l--クラスターが単純化された時期))。また 蘇薤 **sou¹-ɦaəi³** = \*Soɣδak ([p. 125](/@YMLi/SydgEgbKa#10--l--クラスターが単純化された時期))にも当てはまらないだろうが、これも誤った等式だったと現在では考えている。これはむしろサカラウカエ(*Sacaraucae*, Σαγάραυλοι *Sagárauloi*)の名前などが隠されているのではないかと思われる。 このように \*-yɑ-/\*-yɑ̄-, \*-yə-/\*-yə̄-, \*-lɑ-/\*-lɑ̄-, \*-lə-/\*-lə̄- を \*-ɑy-/\*-yɑ-, \*-əy-/\*-yə-, \*-ɑr-/\*-rɑ-, \*-ər-/\*-rə- に置き換えることができれば、ヨード化韻と非ヨード化韻の交替を説明するために上古漢語に長母音と短母音の対立を仮定する必要があった他のケースについても、最終的には同様の方法で処理できる可能性があることを示唆している。もう一つ考慮しなければならないのは、明らかに介音 \*-δ- と、複数の半母音の組み合わせである。同時に、中古漢語の **-i̯-** は唐代以前の転写では無視されることが多いという議論も依然として有効である。満足のいく理論を構築するにはさらなる研究が必要であり、この問題についてのさらなる議論は、現時点では保留しておかなければならない。 ## 4. ビルマ文語の母音体系 本論文で上古漢語に対して提案した母音体系は、その一般的特徴において、Hartmann(1944)、Hockett(1947)、Rygaloff(1955)による現代北京語の分析と驚くほどよく似ていることがわかる。詳細な定式化は異なるものの、高さによって区別される2つまたは3つの中舌的な主母音を核とし、それが半母音とさまざまに組み合わされるという点では一致している。Stimson(1961)は、このような分析は他の多くの中国語方言にも適用できると主張している。Halliday(1959)による韻律分析とも本質的に一致している。伝統的な正書法に示されているビルマ語の音韻論を調べると、同様の分析がビルマ語にも適用可能であることがわかる(ビルマ語とモン語の表記の問題についてコメントと助言をくれたH. Shorto氏に感謝する)。 ビルマ語はインド系文字の一種で表記される。当初パーリ語の経典を書くのに使われたこの文字は、その後モン語の表記に採用され、最終的にさらなる改良を経てビルマ語に引き継がれた。現在の正書法が採用されて以来、発音は明らかにかなり変化したが、かつては綴りが示す発音にもっと近かったと考えるのが妥当だろう。古ビルマ語の碑文はより古風な正書法が見られ、この言語のさらに初期の段階を知る手がかりとなる。現在、古ビルマ語の資料の多くは専門家以外には入手困難であるが、ミャゼディ碑文だけは、多くの研究者によって完全に公開され、研究されている(特にNishida 1955–1956とその引用文献を参照)。 ビルマ語は基本的に、チベット語や中国語と同様の単音節構造である。ある種の前置接頭辞もあり、最も一般的なのは *a-* で、おそらくチベット語の *ḫ-* に対応する。他のシナ・チベット諸語と同様に重複形成も一般的であり、複合語の接合部の連音特徴も現代の話し言葉の記述において考慮されなければならない。しかし、本論文の目的にとってこれらの特徴は無視してもよいため、ここでは頭子音または頭子音クラスター、母音、そして閉鎖音・鼻音・ゼロ音のいずれかを取る末子音から構成される、独立した主音節の構造のみを論じることにする。鼻音で終わる音節と開音節は、低平調・下降調・高平調の3つの声調のうちのどれかを取る。 Judsonのビルマ語-英語辞典に掲載されているビルマ語の固有語には、以下の単子音が見られる(うち *bh* は単に *b* の異表記であるようだ)。 - ∅- - က *k-*, ခ *kh-*, ဂ *g-*, င *ŋ-* - စ *c-*, ဆ *ch-*, ဇ *j-*, ည *ń-* - တ *t-*, ထ *th-*, ဒ *d-*, န *n-* - ပ *p-*, ဖ *ph-*, ဗ *b-*, ဘ *bh-*, မ *m-* - ယ *y-*, ရ *r-*, လ *l-*, ဝ *w-* - သ *s-*, ဟ *h-* また有気共鳴音 *hŋ-*, *hń-*, *hn-*, *hm-*, *hr-*, *hl-*, *hw-* は、表記としてはクラスターであるが、音韻的には有気閉鎖音に対応する単一の子音とみなすことができる。頭子音クラスターは、*-w-* (すべてのタイプの頭子音)または *-y-*, *-r-*, *-yw-*, *-rw-* (軟口蓋音と唇音系列、また *ly-*, *hly-* もある)を伴う。 音節末子音として現れるのは以下の子音である。 - က် *-k*, င် *-ŋ* - စ် *-c*, ဉ် *-ń* - တ် *-t*, န် *-n* - ပ် *-p*, မ် *-m* - ယ် *-y* (母音 *ai* の低平調の表記に見られる) アヌスヴァーラ(​ံ *-ṁ*)は、末子音 *-m* の代替表記として用いられる。ヴィサルガ(​း *-ḥ*)は、鼻音や特定の母音記号の後で高平調を示すために用いられる。それに似た下付きドット ​့ は下降調を表す。 母音記号として、(インド系文字の観点から言えば) *a* (ヴィラーマが付加されない場合の子音記号に固有), ာ *ā*, ​ိ *i*, ​ီ *ī*, ​ု *u*, ​ူ *ū*, ေ *e*, ​ဲ *ai*, ော *o*、そしてビルマ語特有の上付きの *i* と下付きの *u* の複合母音記号 ​ို が使われる。最後の記号は通常 *ui* と転写される。短い *a*, *i*, *u* はデフォルトで下降調を伴う。これに対応する低平調は *ā*, *ī*, *ū*、高平調は *āḥ*, *īḥ*, *ūḥ* である。この表記規則は、ビルマ語に母音長の音韻的対立があったことを意味するものとして受け取られることがあるが、実際には長さの対立は声調と正確に相関している。この表記規則についてはモン語における用法から説明することもできるかもしれない。そこでは、短母音は他の子音が後続しない場合は常に声門閉鎖音を伴い、長母音記号が末尾に来るのは外国語からの借用語の開音節のみであった([Pulleyblank 1962: 211](/@YMLi/HyoFRGJc6#1-語末子音)参照)。古ビルマ語では、小さな *a* が末尾の声門閉鎖音(=下降調)の表記に用いられた。 声調は母音記号によって様々な方法で区別される。母音 *e* と *ui* はデフォルトで低平調であり、2つの声調記号(下付きドットとヴィサルガ)が下降調・高平調を表記するために使われる。母音 *ai* はデフォルトで高平調である。下降調には下付きドットが用いられ、低平調の場合は *ay* と表記される。母音 *o* もデフォルトで高平調で、下降調には下付きドットが用いられる。低平調は、通常子音記号の固有母音を削除するためにのみ使用されるヴィラーマを母音記号に付加することで示される。 以下は、綴り通りに転写された、可能な韻の一覧である。角括弧内にStewart(1945)による現代の発音を示す。 :spiral_note_pad: **表4: ビルマ語の韻** | | 低平調 | 下降調 | 高平調 | | 入声 | | | :--- | :----- | :----- | :----- | :---------- | :---- | :----- | | (a) | *ā* | *a* | *āḥ* | \[a] | | | | | *aŋ* | *aŋ.* | *aŋḥ* | \[iŋ] | *ak* | \[ɛʔ] | | | *ań* | *ań.* | *ańḥ* | \[iŋ, i, ɛ] | *ac* | \[iʔ] | | | *an* | *an.* | *anḥ* | \[aŋ] | *at* | \[aʔ] | | | *am* | *am.* | *amḥ* | \[aŋ] | *ap* | \[aʔ] | | (i) | *ī* | *i* | *īḥ* | \[i] | | | | | *in* | *in.* | *inḥ* | \[eiŋ] | *it* | \[eiʔ] | | | *im* | *im.* | *imḥ* | \[eiŋ] | *ip* | \[eiʔ] | | (u) | *ū* | *u* | *ūḥ* | \[u] | | | | | *un* | *un.* | *unḥ* | \[ouŋ] | *ut* | \[ouʔ] | | | *um* | *um.* | *umḥ* | \[ouŋ] | *up* | \[ouʔ] | | (e) | *e* | *e.* | *eḥ* | \[e] | | | | (ai) | *ay* | *ai.* | *ai* | \[ɛ] | | | | (o) | *oʻ* | *o.* | *o* | \[ɔ] | | | | | *oŋ* | *oŋ.* | *oŋḥ* | \[auŋ] | *ok* | \[auʔ] | | (ui) | *ui* | *ui.* | *uiḥ* | \[o] | | | | | *uiŋ* | *uiŋ.* | *uiŋḥ* | \[aiŋ] | *uik* | \[aiʔ] | 母音 *ai* は単母音として発音されるようになったが、綴り、特に子音記号 *y* を使用して低平調を示すことから、二重母音に由来すると考えられる。この分析は、ミャゼディ碑文の正書法では常に *āy* と表記されることからも裏付けられる(低平調と高平調は区別されない;下降調は、他の子音記号の後と同様に、声門閉鎖音を示す小さな *a* で示される)。 *o* と *ui* と書かれる母音も同じ分布を持つペアを形成し、-∅, *-k*, *-ŋ* の前にのみ現れる。*o* に関しては、二重母音 /aw/ として容易に分析できる。実際これは *au* と転写されることもあり、また *-oŋ*, *-ok* は現在では \[auŋ], \[auʔ] と発音される。開音節における単母音 \[ɔ] への発展は、*ai* の \[ɛ] への変化と並行している。ミャゼディ碑文の正書法は、開音節を *ow* と書くことから、この分析を裏付けている。後に低平調をヴィラーマで表記するようになったのは、おそらく *-ou* の省略形であり、*ai* の低平調を *ay* で表記するようなものであろう。ミャゼディ碑文に *aw* ではなく *ow* があるのは、間違いなく母音が *w* を伴う場合に円唇化されることを示しているが、これはおそらく非音韻的なものとみなせるだろう。また、ビルマ文語 *-wa*, *-wan* に対して *-wo*, *-won* (あるいは単独で *-on*)という表記も見られる。*w* が後続しない広い *o* は、*u* の代替表記と思われ、ビルマ文語の *o* とは決して一致しない。 分布的に、*e* が *ai* に対応するように、*ui* は *o* に対応する。このことから、*ui* は音韻的には /iw/ であるという仮説が成り立つ。現代の発音における開音節における狭い \[o] への発展は、*iy* から \[e] への発展とまったく並行的である。ただし、*-k* と *-ŋ* の前における \[aiʔ], \[aiŋ] への発展は並行的ではないので、別途説明が必要である(Shorto氏によれば *-uik*, *-uiŋ* の単語はビルマ語固有のものではないかもしれないとのことだが、いずれにせよ、碑文に既に見られる)。もし *ui* という記号がビルマ人によって発明され、その後モン族に借用されたのだとしたら(Shorto氏によればそのような解釈も可能とのことである)、この記号はもともと *iu* という読みを意図していたのだろう。ミャゼディ碑文の正書法では、この韻の低平調または高平調の開音節は常に記号 *-w* で閉じられており、この見解は確かなようだ。*-uiw* /-iuw/ の他に、*-iw* や *-eiw* という表記も見られる。後のビルマ語では、下降調の単語では末尾の *-w* が落とされ、声門閉鎖音の記号に置き換えられている。これは末尾 *-k*, *-ŋ* を伴う場合に対応する。*-iʔ*, *-eiʔ* という表記もあるが、これはおそらく末尾 *-u* がかなり衰退した非常に短い発音を示している。 - 注:ミャゼディ碑文の正書法における *e* の意味は、ビルマ文語の *e* (=ミャゼディ碑文の *iy*)とは無関係である。Shafer(1943: 326 n. 31)は、「8」を意味する単語 *het* (WB ရှစ် *hrac*、cf. チベット語 བརྒྱད་ *brgyad*)の綴りを根拠に、これは *ya* と同等であるとした。実際、*hyat* という綴りが別の碑文に見られる。その他の例としては、*leh* = WB လည်း *lańḥ*、*teh* = WB တည်း *tańḥ*、*eʔ*, *yeʔ* = WB *i* があり、またShaferは *hleŋʔ* をビルマ文語 လျှင် *hlyaŋ* と解釈している(ただし声調は間違っている;これは西田の *hloŋ* とする推測にも当てはまる)。このうち2つの単語で末尾 *-h* が使われているのは興味深い。これは、後に高平調の表記にヴィサルガが使われるようになったこととは無関係のようである。上記の助詞以外に、*rwoh* = WB ရွာ *rwā* 「村」でも一貫して用いられている。これは、シナ・チベット祖語の末尾 \*-ɦ の痕跡と考えたくなる。 最後に、ビルマ文語の母音 *u* も複合母音として扱うことができ、音韻的には /wi/ と等価である。その証拠として、以下の点を挙げることができる。 1. ビルマ文語 *wi* は、パーリ語由来の単語と、ごく少数の感嘆詞や擬音語由来の単語にしか見られない。これは *wu* にも当てはまる。したがって、母音 *u* は *wa* と相補分布を形成していると考えられる。*u* が軟口蓋音や硬口蓋音の末子音の前には現れないのに対して *wa* は出現するのは事実だが、このような分布の制限は *i* にも見られる。 2. ビルマ文語 *e* はミャゼディ碑文では *iy* と表記されるため、ビルマ文語 *we* は *wiy* と表記されると予想される。しかし実際には *uy* が見られる。 3. ビルマ語の単独の ဥ *u* と下付きの ​ု *u* は、インド式アルファベットと同じフックを使う。しかし ==単独の== ဦ *ū* は独特の書き方をする。*u* の記号の上に、長い *ī* を示すのに使われる横棒付きの円があるのである。また、短い *u* に短い *i* の記号を冠した形もある。Shorto氏が指摘するように、これらは類推的な拡張に過ぎないかもしれないが、正書法が確立された当時、母音 *u* が複合母音(= *wi* または *ui*)とみなされていたことを確かに示唆している。 そのため、ビルマ文語の7つの母音は、*a* と *i* (かつては前舌狭母音ではなく中舌狭母音 \[ï] であったと思われる)の2つと、半母音 *y* と *w* との組み合わせに減らすことができる。可能な韻の分布は、声調を抽象化すると次のようになる(頭子音に *w* は含まれるが *y* は含まれない)。 - /i/, /it/, /in/, /ip/, /im/, /iy/, /iw/, /iwk/, /iwŋ/ - /a/, /ak/, /aŋ/, /ac/, /ań/, /at/, /an/, /ap/, /am/, /ay/, /aw/, /awk/, /awŋ/ - /wi/, /wit/, /win/, /wip/, /wim/, /wiy/ [^1] - /wa/, /wak/, /waŋ/, /wat/, /wan/, /wap/, /wam/, /way/ この分布の最大の空白は、軟口蓋音と硬口蓋音の末子音の前に *i* がないことである。比較証拠から、シナ・チベット諸語の中でビルマ語を特徴付けている末尾の硬口蓋音は、*-k*, *-ŋ* が口蓋化した結果であり、*-ac*, *-ań* は *-ik*, *-iŋ* の欠如によって残ったこの空白を補うものであることが明らかである。例えば、次の単語を比較されたい。 :spiral_note_pad: **表5: ビルマ語 *-ac*, *-ań* の比較** | ビルマ語 | チベット語 | 中国語 | | :----------------- | :-------------------------------------- | :-------------------------------- | | တစ် *tac* 「1」 | གཅིག་ *gcig* | ==:bulb: 隻 **tśyek** < \*tyək== | | ဆစ် *chac* 「関節」 | ཚིགས་ *tshigs* | 節 **tset** < \*tsəyk | | မည် *mań* 「名前」 | མིང་ *miṅ* (初期の文書では མྱིང་ *myiṅ*) | 名 **myeŋ¹** < \*myəŋ | | မြည် *mrań* 「鳴る」 | | 鳴 **mi̯aŋ¹** < \*mrəyŋ or \*mryəŋ | これ以外の例はShafer(1941: 20)を参照。 ビルマ語の母音体系のこの解釈が、その分野の専門家に受け入れられるかどうかはまだわからない。私は比較研究の観点からこの解釈には大きな利点があると感じている。そのため次節では、ビルマ語とチベット語の関係を理解する上でこの解釈がどのように役立つかを予備的にスケッチしておこうと思う。 ## 5. チベット語の母音体系 チベット文語は、一見すると「普通」の5母音体系で、中国語やビルマ語に見られるパターンからは外れているように見える。しかし、ビルマ語とチベット語の母音の基本的な対応関係を見れば、チベット語の5つの母音が、我々がシナ・チベット語の単語家族が原始的に持つと仮定した2母音のパターンとどのように関連しているかが、少なくとも大まかには、すぐに明らかになる。 ビルマ語とチベット語の同源語の比較は既に複数の研究者によって行われており、祖形の再構は限られた程度しか進んでいないが、特定の規則的な音の対応関係についてはかなり確立されているとみなすことができる。母音に関する限り、以下の等式はすべて例によって十分に裏付けられている。それぞれのケースについて、ここではほんの一例を挙げる。さらなる証拠は、Shafer(1940)とMiller(1957)を参照されたい。 1. チベット語 *a* = ビルマ語 *a* | チベット語 | ビルマ語 | | :---------------- | :--------- | | ང་ *ṅa* 「私」 | ငါ *ŋā* | | ཉ་ *nya* 「魚」 | ငါး *ŋāḥ* | | ཟླ་ *zla* 「月」 | လ *la* | | ལྔ་ *lṅa* 「5」 | ငါး *ŋāḥ* | | ཚྭ་ *tshwa* 「塩」 | ဆား *chāḥ* | | སྣ་ *sna* 「鼻」 | နှာ *hnā* | 2. チベット語 *e* = ビルマ語 *i* | チベット語 | ビルマ語 | | :------------------- | :------- | | མེ་ *me* 「火」 | မီး *mīḥ* | | ཉེ་ *nye* 「近い」 | နီး *nīḥ* | | མཇེ་ *mje* 「ペニス」 | လီး *līḥ* | | ཤེས་ *śes* 「知る」 | သိ *si* | 3. チベット語 *i* = ビルマ語 *e* (/iy/) | チベット語 | ビルマ語 | | :------------------------------------- | :------------------------------------- | | ཁྱི་ *khyi*「犬」 | ခွေး *khweḥ* ==:bulb: < OB ခုယ်း *khuyḥ*== | | བཞི་ *bźi* 「4」 | လေး *leḥ* ==:bulb: < OB လိယ် *liy*== | | ཉི་ *nyi* 「太陽、日」 | နေ *ne* ==:bulb: < OB နိယ် *niy*== | | འཆི་བ་ *ḫchi-ba*, ཤི་བ་ *śi-ba* 「死ぬ」 | သေ *se* ==:bulb: < OB သိယ် *siy*== | 4. チベット語 *u* = ビルマ語 *ui* (/iw/) | チベット語 | ビルマ語 | | :------------------- | :--------------------------------------- | | ངུ་བ་ *ṅu-ba*「泣く」 | ငို *ŋui* | | དགུ་ *dgu* 「9」 | ကိုး *kuiḥ* | | རྐུ་ *rku* 「盗む」 | ခိုး *khuiḥ* ==:bulb: < OB ခိုဝ်း *khuiwḥ*== | | རུས་ *rus* 「骨」 | ရိုး *ruiḥ* ==:bulb: < OB ရိုဝ်း *ruiwḥ*== | 5. チベット語 *o* = ビルマ語 *u* (/wi/) または *wa* | チベット語 | ビルマ語 | | :------------------------------------------------------------- | :------------------------- | | ཚོ་བ་ *tsho-ba* 「太った」 | ဆူ *chū* | | ཐོ་བ་ *tho-ba* 「ハンマー」, མཐོ་བ་ *mtho-ba* 「大きなハンマー」 | ထု *thu* 「ハンマーで叩く」 | | འབོ་བ་ *ḫbo-ba* 「芽が出る」 | ဖူး *phūḥ* 「芽が伸びる」 | | སོ་ *so* 「歯」 | သွား *swāḥ* | | མཐོ་ *mtho* 「スパン」 | အထွာ *athwā* | これらの例は、チベット語が末尾 *-s* を持つ数例を除いて、両言語とも開音節の場合に限られる。末尾に閉鎖音や鼻音、あるいはチベット語で *-r* や *-l* を持つ場合、その対応は必ずしも同じではない。例えば、 :spiral_note_pad: **表6: チベット語とビルマ語の非開音節の比較** | チベット語 | ビルマ語 | | :----------------- | :------------------------------------------------------------ | | གསུམ་ *gsum* 「3」 | သုံး *suṁḥ* (= /swim/ < \*/siwm/?) | | དངུལ་ *dṅul* 「銀」 | ငွေ *nwe* ==:bulb: < OB ငုယ် *ṅuy*== (= /nwiy/ = \*/nwil/ or \*/niwl/ ?) | | དྲུག་ *drug* 「6」 | ခြောက် *khrok* (= /khrawk/ < \*/khriwk/ ?) | 完全な体系を作り上げるにはさらなる研究が必要だが、ひとまず開音節の対応関係に基づくと、以下の点は非常に明確である。 1. チベット語の *e* と *a* は、ビルマ語の *i* と *a*、すなわちシナ・チベット祖語に仮定される2つの基本主母音 \*ə/\*a に対応する。 2. チベット語の *i* は、ビルマ語の /iy/、シナ・チベット祖語の \*/əy/ に対応する。したがってチベット語では /ey/ と分析できる。 3. チベット語の *u* は、ビルマ語の /iw/、シナ・チベット祖語の \*/əw/ に対応する。したがってチベット語では /ew/ と分析できる。 4. チベット語の *o* は、ビルマ語の /wi/ に対応し、/wa/ に対応することもある。したがってチベット語では /we/ と分析できる(まれではあるが、*wa* という綴りはチベット語に存在することに注意されたい)。 これは問題の予備的なスケッチに過ぎず、このような分析がチベット語の内部構造を説明する上でどこまで役に立つかはまだわからない。しかし、Sprigg(1961)が広⇔狭母音対立の体系に基づいてラサ・チベット語の母音調和体系を記述していることに注目してほしい。これは、チベット語が北京語同様、今日でもシナ・チベット語族のこの明らかに基本的な特徴の痕跡を示していることを示唆している。 また、チベット語における動詞の母音交替の主要なタイプのひとつに、現在形 *e* と完了形・未来形 *a* の交替があることも興味深い(命令形の問題は置いておく;これは母音 *o* によって特徴付けられるが、他の形の母音とは無関係であるように思われる)。例えば、འགེགས་པ་ *ḫgegs-pa*, Perf. བཀག་ *bkag*, Fut. དགག་ *dgag* 「妨げる」。私の分析によれば、この *e*/*a* の交替は、実際には狭い主母音と広い主母音との交替(\*ə/\*a)である。中国語には形式的な動詞の活用体系はないが、単語家族に同じタイプの交替がよく見られる。 :spiral_note_pad: **表7: 中国語の \*ə/\*a 交替を伴う単語家族** | \*ə 単語 | 意味 | \*a 単語 | 意味 | | :--------------------- | :------------------------- | :--------------------- | :------------------------------------------- | | 庤 **ḍi̯ə²** | 保存する、準備する | 儲 **ḍi̯o¹** | 貯蓄 | | 置 **ṭi̯ə¹** | 設置する、配置する、並べる | 著 **ṭi̯o³** | 場所、並び、位置 | | 硋礙 **ŋəi³** | 妨げる | 忤 **ŋou³** | 背く(cf. チベット語 *ḫgegs-pa* 「妨げる」) | | 貽 **yə¹** | 与える | 予 **yo²** | 与える | | 而 **ńi̯ə¹** | 接続助詞 | 如 **ni̯o¹** | ~のような、例えば | | 等 **təŋ²** | 段階、種類 | 黨 **tâŋ²** | 種類、カテゴリー | | 譚 **dəm¹** | ~について話す | 談 **dâm¹** | 話す、会話する | | 嘾 **dəm²** | 口に含む | 啖 **dâm²** | 貪る | | 合 **ɦəp** | つなぐ、合わせる、閉じる | 盍 **hâp** | 葺く、覆う | | 依 **ꞏi̯əi¹** | 寄りかかる | 倚 **ꞏi̯e²** | 寄りかかる | | 螘 **ŋi̯əi²** | アリ | 蟻 **ŋi̯e²** | アリ | | 微 **mi̯əi¹** | 小さい、ない | 靡 **mi̯e²** | 小さい、ない | | 隤 **dwəi¹** | 崩れる | 墮 **dwâ²**, **hywe²** | 滅ぼす、転覆させる | | 尸 **śi̯i** | 並べる、示す | 施 **śi̯e** (< \*-ɑδ) | 広げる、さらす | | 阜 **kâu¹** (< \*-əwɦ) | 高い | 高 **kâu¹** (<\*-ɑwɦ) | 高い | | 學 **ɦauk** (< \*-əw-) | 学ぶ、学校 | 效 **ɦau¹** (< \*-ɑw-) | 真似る、従う、指示する | | 斅 **ɦau³** (< \*-əw-) | 教える | 校 **ɦau³** (< \*-ɑw-) | 学校 | 他にも多くの例を挙げることができる。また、単語間で \*ə/\*ɑ 対立以外(場合によっては声調)の違いを含むケースを考慮すれば、さらに多くの例を挙げることができる。例えば、似 **zi̯ə²** 「似ている」 : 像 **zi̯ɑŋ²** 「似る、像」など。Karlgren(1934)にも多くの事例が掲載されている。 こうした \*ə/\*ɑ 対立に関連する文法的・意味的区別の性質がどのようなものであったかをすべてのケースで明らかにするには、多くの語彙的調査が必要だろう。「アリ」を指す単語のように、まったく違いが見られない場合もある。それ以外のケースでは、例えば第1例と第2例を視ると、\*ə 形は能動態で、\*ɑ 形は完了した動作やその結果を指しているようで、したがって現在形と完了形のアスペクト対立に似ている。チベット語にも、*e*/*a* 型動詞の同源語であることが明らかな *a* 形名詞の例がある。例えば、གག་པ་ *gag-pa* 「喉の腫れ」 : འགེགས་པ་ *ḫgegs-pa* 「妨げる、止める」、ཁལ་ *khal* 「荷物」 : འགེལ་བ་ *ḫgel-ba* 「積載する」など。 それ以外のチベット語の動詞における主要な母音交替には、現在形が *o*、完了形と未来が *a* となるものがある。これは同じ *e*/*a* 対立の円唇化した形(\*wə/\*wa)を表していると思われる。チベット語の *o* は、これまで見てきたように、\*wə だけでなく \*wa に対応することもあるが、\*wa が *a* を与える状況もあったかもしれない。円唇化には、半母音 \*w と、唇化軟口蓋音・喉音の頭子音という、おそらく2つの原因があったことを忘れてはならない。この仮説を実証するためには、さらなる研究が必要だろう。 ## 6. おわりに この二母音対立体系は東アジア言語に限られるものではない。実際、言語学者にとっては、北西コーカサス諸語の記述、特にAllen(1956)によるアバザ語やKuipers(1960)によるカバルド語が最もよく知られている。さらに、AllenとKuipersの両氏は、(先)インド・ヨーロッパ祖語に関する最近の理論が、母音体系を \*e/\*o (ゲルマン祖語の \*i/\*a)の2母音対立、あるいは1母音体系(Lehmann 1952)まで縮小させているという事実に注目し、2つの言語グループの間のその他の構造的類似点に注意を促している。例えば、Kuipersが「外向型」⇔「内向型」と呼ぶカバルド語における ∅/*a* (音韻的には *ə*/*a*)交替は、確かにインド・ヨーロッパ祖語のアプラウトに類似している(Kuipersはこれを量的アプラウトに例えているが、「外向型」⇔「内向型」の対立は、むしろ質的(*e*/*o*)アプラウトに関連する動詞⇔名詞、現在⇔完了の対立に類似しているように思われる)。もし今、シナ・チベット祖語が同じパターンを持つことが判明したなら、それは大きな関心事であり、何らかの説明を求めないわけにはいかない。この問題については、近いうちにまた触れたいと思う。 :::warning :bulb: **補足** 本論文以降、Pulleyblankはシナ・チベット祖語と上古漢語(ひいては中古漢語や現代中国語各方言)に対する ə/a の2母音体系による音韻論的・形態論的解釈に心血を注ぐようになる。しかしながらこの2母音解釈は他の学者にはほとんど受け入れられていない。 ::: ## 参考文献 - Allen, W. Sydney. (1956). Structure and system in the Abaza verbal complex. *Transactions of the Philological Society* 55(1): 127–176. [doi: 10.1111/j.1467-968x.1956.tb00566.x](https://doi.org/10.1111/j.1467-968x.1956.tb00566.x) - Benedict, Paul K. (1948). Archaic Chinese \*g and \*d. *Harvard Journal of Asiatic Studies* 11(1–2): 197–206. [doi: 10.2307/2718083](https://doi.org/10.2307/2718083) - Chavannes, Édouard. (1903). *Documents sur les Tou-Kiue (Turcs) occidentaux*. Saint Petersburg. - ⸺. (1906). Trois généraux chinois de la dynastie des Han orientaux. *Tʼoung Pao* 7(2): 210–269. [doi: 10.1163/156853206x00112](https://doi.org/10.1163/156853206x00112) - Fan, Xiangyong 范祥雍. (1958). *Luòyáng qiélán jì jiàozhù* 洛陽伽藍記校注. Shanghai: Shanghai guji chubanshe 上海古籍出版社. - Ghirshman, Roman. (1946). *Bégram: recherches archéologiques et historiques sur les Kouchans*. Cairo: Imprimerie de l'Institut français d'archaeologie orientale. - Halliday, M. A. K. (1959). *The language of the Chinese “Secret history of the Mongols”*. Oxford: Basil Blackwell for the Society. - Hartman, Lawton M. (1944). The Segmental Phonemes of the Peiping Dialect. *Language* 20(1): 28–42. [doi: 10.2307/410379](https://doi.org/10.2307/410379) - Hockett, Charles F. (1947). Peiping phonology. *Journal of the American Oriental Society* 67(4): 253–267. [doi: 10.2307/596062](https://doi.org/10.2307/596062) - Jaxontov, Sergej E. (1959). Fonetika kitajskogo jazyka 1 tysjačeletija do n. e. (sistema finalej) Фонетика китайского языка I тысячелетия до н. э. (система финалей). *Problemy Vostokovedenija* Проблемы востоковедения 2: 137–147. ⇒[日本語訳](/@YMLi/SkmmxC7-a) - ⸺. (1960). Fonetika kitajskogo jazyka 1 tysjačeletija do n. e. (labializovannye glasnye) Фонетика китайского языка I тысячелетия до н. э. (лабиализованные гласные). *Problemy Vostokovedenija* Проблемы востоковедения 6: 102–115. ⇒[日本語訳](/@YMLi/SJjf4buza) - Judson, Adoniram. (1826). *A dictionary of the Burman language*. Calcutta: The Baptist Mission Press. - ⸺. (1849). *A dictionary: English and Burmese*. Maulmain: American Baptist Mission Press. - ⸺. (1893). *Judson’s Burmese-English dictionary*. Rangoon: Printed by the superintendent, Government printing, Burma. - Karlgren, Bernhard. (1933). Word families in Chinese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 5: 9–120. - ⸺. (1957). Grammata Serica Recensa: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 29: 1–332. - Kuipers, Aert H. (1960). *Phonemic and Morphemic Analysis of the Kabardian Language (Eastern Adyghe)*. Hague: Mouton. - Lehmann, Winfred P. (1952). *Proto-Indo-European phonology*. Austin, Texas: University of Texas Press and Linguistic Society of America. - Luo, Changpei 羅常培; Zhou, Zumo 周祖謨. (1958). *Hàn Wèi-Jìn Nán-běi cháo yùnbù yǎnbiàn yánjiū* 漢魏晋南北朝韻部演變硏究. Beijing: Kexue chubanshe 科學出版社. - Miller, Roy Andrew. (1956). The Tibeto-Burman ablaut system. *Transactions of the International Conference of Orientalists in Japan* 国際東方学者会議紀要 1: 29–56. - ⸺. (1957). The phonology of the Old Burmese vowel system as seen in the Myazedi inscription. *Transactions of the International Conference of Orientalists in Japan* 国際東方学者会議紀要 2: 39–43. - Nishida, Tatsuo 西田龍雄. (1955–1956). Myazedi hibun ni okeru chūko biruma go no kenkyū Myazedi碑文における中古ビルマ語の研究. *Kodaigaku* 古代學 4(1): 17–32, 5(1): 22–40. - Pelliot, Paul. (1934). Tokharien et Koutchéen. *Journal Asiatique* 224: 23–106. - Pulleyblank, Edwin G. (1960). Studies in Early Chinese Grammar, Part I. *Asia Major* 8(1): 36–67. - ⸺. (1962). The Consonantal System of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265. ⇒[日本語訳](/@YMLi/rJIytCsGT) - Rygaloff, Alexis. (1955). La Phonologie Du Pékinois. *T’oung Pao* 43(3–4): 183–264. [doi: 10.1163/156853254x00083](https://doi.org/10.1163/156853254x00083) - Shafer, Robert. (1940). The Vocalism of Sino-Tibetan, part 1. *Journal of the American Oriental Society* 60(3): 302–337. [doi: 10.2307/594419](https://doi.org/10.2307/594419) - ⸺. (1941). The Vocalism of Sino-Tibetan, part 2. *Journal of the American Oriental Society* 61(1): 18–31. [doi: 10.2307/594341](https://doi.org/10.2307/594341) - ⸺. (1943). Further Analysis of the Pyu Inscriptions. *Harvard Journal of Asiatic Studies* 7(4): 313–366. [doi: 10.2307/2717831](https://doi.org/10.2307/2717831) - Sprigg, R. K. (1961). Vowel Harmony in Lhasa Tibetan: Prosodic Analysis Applied to Interrelated Vocalic Features of Successive Syllables. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 24(1): 116–138. [doi: 10.1017/s0041977x00140431](https://doi.org/10.1017/s0041977x00140431) - Stewart, J. A. (1945). *Manual of colloquial Burmese*. London: Luzac and Company. - Stimson, Hugh M. (1961). Review of Egerod and Glahn (eds.) 1959 “*Studia serica Bernhard Karlgren dedicata*”. *Language* 37(1): 180–186. [doi: 10.2307/411270](https://doi.org/10.2307/411270) - Wang, Li 王力. (1957). *Hànyǔ shǐ gǎo* 漢語史稿. Beijing: Kexue chubanshe 科學出版社. [^1]: *w* が頭子音クラスターの一部を構成する場合、末子音として *w* が後続することはない。独立した音節として *wiw*, *wiwk*, *wiwŋ*, *waw* が見られるが、Shorto氏によればこれらはすべて借用語であろうとのことである。