# 古典中国語における声調交替による派生 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳である。 - Downer, Gordon B. (1959). Derivation by tone-change in Classical Chinese. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 22(1–3): 258–290. 原文には表見出しがないが、追加した。誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 中古漢語の形は、原文ではKarlgren(1957)の再構形を一部修正した表記が用いられているが、本訳文では以下の修正を加えた。 - 有気音の記号「*‘*」は「*ʰ*」に置き換える。 - 本訳文では平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では、平声は左下、上声は左上、去声は右上に丸印を付加することで声調を表記している。 また、Karlgrenによる中古漢語再構形の隣に、スラッシュを挟んで、[切韻拼音](https://phesoca.com/tupa/)(“TUPA”)の表記を加えた。 原文では『左傳』と『禮記』の出典箇所について四部備要本の巻・頁数が示されているが、本訳文では省略した。『經典釋文』の出典箇所については、通志堂本の巻・頁・行数を数字で示したものに差し替えた。 ::: --- ## 1. はじめに Karlgren(1933)が初めて上古漢語における同源語の大きなグループの存在に注目して以来、その主要な音韻交替をより厳密に定義し、音韻交替に規則的に対応する意味的関係を見出す努力がなされてきた[^1]。Karlgren自身は、一般的にいって音韻の対応に規則的な意味的・文法的相関を見出すことは不可能であり、上古漢語はかつての屈折体系の最後の痕跡を示しているに過ぎないという結論に達した(Karlgren 1949: 96–97)[^2]。同源語間の音韻交替の大部分に関して言えば、このような結論はおそらく避けられないだろう。しかしそれとは対照的に、豊富な事例があることから、より良い結果をもたらしている交替も存在する。それは声調の交替、すなわち2つの同源語の声調のみが異なる場合である。例えば、 - 好 *χâu²*/*hawq* 「好ましい」 : *χâu³*/*hawh* 「好む」[^3] また、入声の単語とそれに対応する去声が、諧声原則に従って交替する場合も存在する。例えば、 - 惡 *ꞏâk*/*qak* 「悪い」 : *ꞏuo³*/*qoh* 「憎む」 実際には、ほとんどの声調交替は、ペアの一方が去声を持つ。これは非常に規則的なことであるため、本論文では、特に断りのない限り「声調交替」とは、ペアの一方が平声・上声・入声を持ち、他方が去声を持つ交替を指すことにする。この種の交替は既に周祖謨(Zhou 1957 \[1945])と周法高(Zhou 1953)によって研究されており、ある種の文法的・意味的交替が声調交替と規則的に関連していることが示されている。また、どちらの研究者とも、それ以外の音韻交替についても言及している。例えば、見 *kien³*/*kenh* 「見る」 : *ɣien³*/*ghenh* 「現れる、見せる」のような、頭子音における無声音と有声音の交替である。しかし両者とも、声調交替において去声が果たす役割については納得のいく説明を行っていない。実際、周祖謨はこの去声の特殊な性質を認識していなかったようである。周法高は、特定の声調が「通用」する傾向があるとして、去声の発生について「音韻的」な説明を行ったが、これでは、なぜ声調交替が規則的な意味的関係を伴うのかの理由が説明できない[^4]。 筆者の意見では、王力はこの問題の解決策を見つけた。彼は、声調交替は単語の派生装置であり、平声・上声・入声の単語が基本形で、それに対応する去声の単語は派生形であると解釈した(Wang 1957: 213ff.)。実際には、このような説明は古くから、数少ない単語に対してMaspero(1930: 327 note 1)や、最近ではHaudricourt(1954)によってなされており、また明言はしていないものの周祖謨のいくつかの発言[^5]や周法高の言葉の端々にも暗黙のうちに含まれているように思われる。王力が挙げた同源語ペアの総合的な効果は非常に説得力があり、彼が提示した解決策は既知の事実をカバーしているように見える。 とはいえ、この問題については、再度研究することを正当化するのに十分な疑問点が残っている。第一に、同源語のペアのうち、どれが「基本形」でどれが「派生形」かを判断する基準はこれまで議論されたことがない。第二に、この派生体系の年代をもう一度調べ、中国語の一般的な歴史における位置づけを論じることが望ましい。第三に、問題の意味的側面についてこれまでの研究では主に伝統的な辞書の定義に頼ってきたが、その前段階として、去声読みについて一貫した資料に基づいて、実際の文献に見られる用法と定義を結びつけることが望ましいと思われる。この目的のためには、陸德明による音義書『經典釋文』が最適であることは言うまでもない[^6]。これは、年代が早く(紀元7世紀)、それ以前の注釈を幅広く引用しており、多くの音義を掲載しているという利点がある。彼の読みを調査すると、去声⇔非去声の交替のみからなる同源語ペアが驚くほど多いことがわかる。また、陸德明が交替形をどのように扱っていたかを調査すると、交替の意味的側面がかなり複雑であることがわかり、この分野の先行研究の結論には疑問を抱かざるを得ない。最後に、陸德明の著作に見られる去声の最も明確な派生の例を列挙する。しかし、去声派生は彼の扱いに限ったことではなく、初期の中国語の一般的な特徴であったことを示すことができるので、他の作者による例も含まれている。 ## 2. いわゆる「声調交替」の性質 一見同源のように見える単語家族に含まれる単語の中には、方言的な形が標準語に入り込んだものもある(そして、そのような単語を検出するのはおそらく非常に困難である)。しかし、規則的な音韻関係が規則的な意味対立と相関していることを示すことができれば、同じ方言における関連する形を扱っていると考えるのが正当である。 本論文末尾のリストで紹介した例は、この条件を容易に満たす。グループAからGには、共通の音韻的対立と、一般的な性質の共通の意味的対立を持つ単語のペアが多数存在する。これらが同一方言の中で内部的に分化した同源語であることを疑う理由はない。しかし、王力らはさらに踏み込んで、それぞれの単語のペアにおいて、非去声メンバーが基本形であり去声メンバーが派生形であると仮定することで、これらの形の出現を歴史的に説明することが可能であると提案している。この仮定の根拠はこれまで明言されてこなかった。筆者はこの仮説に同意し、その正当性を以下の点に見出すことができると提唱する。 1. 文字の形がこの仮説を裏付けている。ほとんどの場合、その文字は基本形(非去声)の単語の意味を表すために構成されていることが明らかである。これは特にグループAとグループBの文字で明白である。また、ペアの片方のみに余分に意味要素が付加されている場合、それは通常去声メンバーであることにも注意されたい。 2. 上記の点から、文字の製作者は非去声形を基本形とみなしていたことがわかる。このことは、許慎の『説文』における定義、すなわち、その文字の「基本的」な意味(と許慎が考えたもの)からも確証できる。ほとんどの場合、これは非去声メンバーの意味である[^7]。 3. 陸德明も、非去声の方を通常の読みとし(「如字」と表記)、去声の方は特別な読みとして扱っている(したがって特別な注釈を付記)[^8]。 4. ほとんどの去声読みが時代とともに標準的な発音からも口語からも消えていったという事実は、これが常に特殊なケースとして認識され、やがて有用性が失われた、形態論的現象であることを示唆している。 5. ある種の二音節表現(グループH)には特殊な去声形が用いられているが、意味が変化しているようには見えず、この去声は句形成に使われた形態論的過程の名残としてしか説明できない。 6. 多くの場合、特にグループAとBでは、一般的な言語学の経験がこの主張を裏付けている。これらのグループでは、非去声形が基本で、去声形はそこから派生したものであることが「自然」であるように思われる。また、中国語とその英訳が、基本形と派生形(または二次的な形)の分布に関して一致していることが多いことにも注目されたい。この印象は主に意訳によるものであり、それだけではほとんど役に立たないが、他の理由と合わせれば、全く価値がないわけではない。 結局のところ、この仮説が受け入れられるかどうかは、発見できた例の数によって決まる。筆者は、音韻と意味の規則性を示す200以上の単語のペアは、初期中国語において、去声は他の声調とは異なり[^9]派生語を作るという特別な機能を持っており、これらの去声語の特別な性質はおそらく陸德明の時代まで初期の作者によって認識されていた、という仮説を受け入れるのに十分な例があると考えている。 それでも、いくつか問題も残されている。他にも多くの同源語が存在する中で、去声形と非去声形を一対一対応させることが可能なのか、と疑問に思うかもしれない。例えば、なぜ 斅 *ɣau³*/*ghaewh* 「教える」は 學 *ɣåk*/*ghoeuk* 「学ぶ」とペアになり、教 *kau³*/*kaewh* 「教える」とはペアにならないのだろうか。あるいは、去 *kʰi̯wo²*/*khyoq* 「去る」は 去 *kʰi̯wo³*/*khyoh* 「取り除く」と組み合わされ、なぜ 祛 *kʰi̯wo¹*/*khyo* 「祓う」とは組み合わされないのか。どちらの場合も、後者の形が同源であることはほぼ間違いないが、ここで声調交替の例として選ばれたペアが同じ文字(またはそれに近い文字)で書かれているという事実は、少なくとも文字が現在の形に落ち着いた漢代には、それぞれのペアのメンバーの間に、他の単語よりも密接な関係があると感じられていたことを示している。この議論は、声調交替が言語の生きた特徴であったと仮定できる時期にかかっている。 一つの形態的特徴(去声)が、名詞を動詞に変えたり動詞を名詞に変えたり、あるいは他動詞を自動詞に変えたり自動詞を他動詞に変えたりするなど、多様な意味機能を持つのは奇妙だと反論されるかもしれない。この反論は、既にKarlgren(1949: 96、別の音変化についての発言)によって多くの言語に見られる一般的な現象であると指摘されており、解決されている[^10]。とはいえ、特に去声派生をインド・ヨーロッパ語族や他の語族における単語形成過程のようなものとみなすなら、疑問が残るかもしれない。筆者は、現在の古典中国語の知識では、去声派生に関してかつてのインド・ヨーロッパ語型の屈折体系の名残としてではなく、単なる派生体系以上のものではないと見なすのがよいと考えている。すなわち、新しい単語が必要となった場合には、基本形を去声で発音することによって作られたのである。多くのケースで見られる文法的な規則性は、文法的な屈折の結果ではなく、新しい単語を作る必要性から生まれた、ある意味偶然の産物である。これは非常に「精神論」的な説明だが、このような古代言語の特徴の説明を求めるのであれば、やむを得ないだろう。 しかし、他の可能性もある。この現象に複数の起源がある可能性もなくはない。去声形がある種の複合語の第一要素として現れることは、かつて去声が従属語として使われていた可能性を示唆している(グループH、[§4](#4-陸德明による去声派生の用法)参照)。もう一つの可能性は、これらの単語に見られる去声は、かつて使われていたが現在では使われていない接尾辞の名残であるというものである。これはHaudricourt(1954: 364)によって少数の単語に対して提案されたもので[^11]、かなり信憑性があるが、現在の我々の知識では、派生体系の起源に関する説明はすべて純粋に推測にすぎない。 去声派生形と思われるが意味の違いが見出せない文字(後述、表5)について、少し述べておかなければならない。このような例はかなり多く見られる。単に意味の違いを見逃しているだけでなければ、このような交替形は方言の違い(空間的または時間的な性質の違い)に起因していると考えなければならない[^12]。ただし、いったん派生過程が確立されれば、類推によって意味変化を持たない並行例が作られる可能性はある。これらの文字の興味深い特徴は、ほとんどの場合、現代の読みは去声形であり、非去声形は廃れていることである。これは、通常は去声メンバーが失われる真の去声派生とは対照的である。 当然ながら、全ての去声の単語が派生形であるとは言えない。そうであることを示すことができるのは全体のごく一部であり、大部分はそれ自体が基本形である。例えば、面 *mi̯än³*/*mienh*, 賤 *dzʰi̯än³*/*dzienh*, 卦 *kwai³*/*kweeh*, 大 *dʰâi³*/*dajh* といった単語が去声以外の読みを持っていたことを示す証拠は何もない[^13]。したがって、「去声」と分類されるものの下には、(a)大 などのように基本形の去声語と、(b)好 などのように他の声調の単語から派生して去声となったものという、形態論的に異なる2種類のタイプの単語が存在することになる。 このことは、基本形の去声語からの派生語を形成するのにはどのような方法が使われたのかという疑問を提起する。 この場合、古代の言語では頭子音の清濁交替を利用していた可能性が高い。これは去声⇔非去声の交替を除けば、頻繁に確認できる唯一の交替である。表1に『禮記』と『左傳』に見られる例を挙げる。 :spiral_note_pad: **表1: 清濁交替の例** | | 無声音 | 意味 | 有声音 | 意味 | | :--- | :---------------- | :--------------------- | :----------------- | :----------------- | | 見 | *kien³*/*kenh* | 見る | *ɣien³*/*ghenh* | 見られる;示す | | 繫 | *kiei³*/*kejh* | つなぐ、結ぶ | *ɣiei³*/*ghejh* | 付く | | 壞 | *kwăi³*/*kweejh* | 破壊する | *ɣwăi³*/*ghweejh* | 破壊される | | 敗 | *pwai³*/*paejh* | 打ち負かす、破滅させる | *bʰwai³*/*baejh* | 敗北する、破滅する | | 背 | *puậi³*/*pojh* | 背中 | *bʰuậi³*/*bojh* | 背中を向ける | | 葬 | *tsâng³*/*tsangh* | 埋める | *dzʰâng³*/*dzangh* | 墓穴[^14] | この清濁交替は、去声を伴う単語に限って確認できるものではない[^15]。他の声調の例も見られる。 清濁交替形の間の意味関係は、一般に去声派生に見られるものと同じのようである。さらに、多くの場合、無声形を基本形とする根拠があるように見える。 また、表2のように、去声派生と清濁交替の両方を持つ単語の例も存在する。 :spiral_note_pad: **表2: 清濁交替を伴う去声派生の例** | | 非去声 | 意味 | | 去声 | 意味 | | :--- | :------------- | :------------------- | :--- | :--------------- | :-------------- | | 糴 | *dʰiek*/*dek* | 穀物を買う | 糶 | *tʰieu³*/*thewh* | 穀物を売る[^16] | | 分 | *pi̯uən¹*/*pun* | 分離する | 份 | *bʰi̯uən³*/*bunh* | 取り分[^17] | | 割 | *kât*/*kat* | 着る | 害 | *ɣâi³*/*ghajh* | 傷つける[^16] | | 感 | *kậm²*/*komq* | 動かす、影響を与える | 憾 | *ɣậm³*/*ghomh* | 憤慨する | 去声派生の観点からは、これらの例は意味的には完璧であるように思われるが、有声音や無声音の出現を説明するのは難しい。ここでは交替があるだけで、派生体系は論証できないようである。 ## 3. 去声派生の時代 本論文の末尾のリストに挙げた声調交替の単語ペアは、大まかに2つのグループに分けられる。すなわち、2つのメンバーが通常同じ文字で書かれるもの(大多数)と、異なる文字で書かれるもの(少数)である。後者のグループには何の問題もなく、その正当性が疑われたことは一度もない。しかし、特に紀元16世紀に歴史的音韻論の研究が盛んになって以来、顧炎武、錢大昕、段玉裁など多くの学者が、前者の文字群における声調の区別は後期のものであり、おそらく紀元5~6世紀の教育者の創作であろうという見解で一致している[^18]。 この主張は事実からは支持されない。これらの区別が実際には後期の衒学者による創作であったとしたら、仮に他に使える情報がなかったとしても、大多数の学者に受け入れられる可能性は本質的に低い。しかし、声調交替による意味の区別の原則は、唐代やそれ以前の例をいくつか挙げると、顔之推(『顔氏家訓』参照)、陸法言(『切韻』の序文参照)と彼の後を継いだ韻書の編纂者たち、張守節(『史記正義』の序文参照)などに受け入れられていた。さらに、これらの区別は教育者によって作られたという意見は、これらが古典を読む際に使われる特別な発音であったことを意味しているが、実際には、この現象は古典の読み方に限ったことではなかった。衒学者の伝統に従う必要はないであろう古典以外における例はかなり早い時期から存在する(例えばC2)。また最近になって、唐代の詩人たちは詩の中の多くの単語において、意味と関連する去声交替を頻繁に観察していたことが証明された(Wang 1958a: 133–142参照)。これらの事実に加え、学問的な形と同じ原理で形成された去声派生語が、北京語などの現代の方言に時折残っている。これらの事実と、学問的な発音と同じ原理で形成された去声派生語が北京語などの現代方言に時折残っているという事実(表3参照、Lu 1956より引用)は、六朝時代の教育者たちが新しく風変わりな発音を作り出したわけではなく、彼らの読みはすでに存在していた普通の会話の特徴を反映したものに過ぎないことを示している。 :spiral_note_pad: **表3: 北京語における去声交替** | | 非去声 | 意味 | | 去声 | 意味 | | :--- | :----- | :------------- | :--- | :----- | :------------------- | | 磨 | *mó* | 挽く | 磨 | *mò* | 1. 製粉, 2. 製粉する | | 瓦 | *wǎ* | 瓦 | 瓦 | *wà* | 瓦を敷く | | 泥 | *ní* | 泥 | 泥 | *nì* | 泥を塗る | | 鑽 | *zuān* | 穴を開ける | 鑽 | *zuàn* | ドリル | | 搧 | *shān* | あおぐ | 扇 | *shàn* | 扇 | | 牽 | *qiān* | 引く、引っ張る | 縴 | *qiàn* | 曳き綱、胴綱 | したがって、先験的な根拠からすれば、声調交替が言語の歴史の後期に現れたという仮定は、あまり納得のいくものではない。周祖謨は最近、これらの去声交替の多くが漢代に存在していたことを説得力を持って証明した(Zhou 1957: 52ff. \[1945])。これは、その初登場の時期を数世紀早めている。さらに言えば、声調変化による単語派生体系を漢代の創作であると考える理由もなく、漢王朝は、単語の発音に関する明確な記述が見られる最も古い時代であるに過ぎない[^19]。実際には、音変化の時期についてはさらなる証拠がある。その証拠は、入声の単語とその去声派生語の音韻的関係から得られる。本論文末尾の単語リストには、以下のように基本形が入声である例が存在する[^20]。 :spiral_note_pad: **表4: 入声と去声の交替** | | | 上古漢語 | 中古漢語(入声) | | 上古漢語 | 中古漢語(去声) | その他の例 | | :--- | :------ | :------- | :------------------- | :--- | :-------------------- | :---------------------- | :------------------------------------- | | E1 | 告 | \*kôk | > *kuok*/*kok* | 告 | \*kôg | > *kâu³*/*kawh* | | | G3 | 復 | \*bʰi̯ôk | > *bʰi̯uk*/*buk* | 復 | \*bʰi̯ôg | > *bʰi̯ə̯u³*/*buh* | A54 宿, A57 畜, B39 肉, D10 祝, H15 牧 | | C7 | 足 | \*tsi̯uk | > *tsi̯wok*/*tsuok* | 足 | \*tsi̯ug | > *tsi̯u³*/*tsuoh* | A64 欲 | | A28 | 責 | \*tsĕk | > *tṣɛk*/*tsreek* | 責 | \*tsĕg | > *tṣai³*/*tsreeh* | A62 畫 | | A61 | 獲[^21] | \*gʰwăk | > *ɣwɛk*/*ghweek* | 擭 | \*gʰwăg | > *ɣwa³*/*ghwaeh* | | | A14 | 度 | \*dʰâk | > *dʰâk*/*dak* | 度 | \*dʰâg | > *dʰuo³*/*doh* | C14 惡 | | A40 | 鑿 | \*dzʰåk | > *dzʰâk*/*dzak* | 鑿 | ―[^22] | > *dzʰi̯âu³*/*dzawh* | | | F1 | 覺 | \*kộk | > *kåk*/*koeuk* | 覺 | \*kộg | > *kau³*/*kaewh* | C19 學, H7 濯 | | A48 | 削 | \*si̯ok | > *si̯ak*/*syak* | 削 | \*si̯og | > *si̯äu³*/*siewh* | A30 炙, C6 借, C10 藉 | | A24 | 縛 | \*bʰi̯wak | > *bʰi̯wak*/*buak* | 縛 | ― | > *bʰi̯uâ³*/*buah* [^23] | | | F8 | 射 | \*d̑ʰi̯ăk | > *dźʰi̯äk*/*zjiaek* | 射 | \*d̑ʰi̯ăg | > *dźʰi̯a³*/*zjiaeh* | | | A29 | 積 | \*tsi̯ĕk | > *tsi̯äk*/*tsiaek* | 積 | \*tsi̯ĕg | > *tsie̯³*/*tsieh* | A35 刺 | | A31 | 織 | \*t̑i̯ək | > *tśi̯ək*/*tjyk* | 織 | \*t̑i̯əg | > *tśi³*/*tjyh* | C11 識, E5 憶 | | A16 | 滌 | \*dʰi̯ôk | > *dʰiek*/*dek* | 條 | \*dʰi̯ôg | > *dʰieu³*/*dewh* | | | A45 | 塞 | \*sək | > *sək*/*seok* | 塞 | \*səg | > *sậi³*/*seojh* | | | D3 | 渴 | \*kʰât | > *kʰât*/*khat* | 渴 | \*kʰâd | > *kʰâi³*/*khajh* | | | C8 | 出 | \*t̑ʰi̯wət | > *tśʰi̯uĕt*/*tjhwit* | 出 | \*t̑ʰi̯wəd | > *tśʰwi³*/*tjhwih* | A53 帥 | | C2 | 乞 | \*kʰi̯ət | > *kʰi̯ət*/*khyt* | 气 | \*kʰi̯əd | > *kʰje̯i³*/*khyjh* | | | A67 | 列 | \*li̯at | > *li̯ät*/*liet* | 例 | \*li̯ad | > *li̯äi³*/*liejh* | | | A7 | 結 | \*kiet | > *kiet*/*ket* | 髻 | \*kied | > *kiei³*/*kejh* | | | A20 | 納 | \*nəp | > *nập*/*nop* | 内 | \*nwəb > \*nwəd [^24] | > *nuậi³*/*nojh* | D6 答 | | A32 | 執 | \*t̑i̯əp | > *tśi̯əp*/*tjip* | 執 | \*t̑i̯əb | > *tśi³*/*tjih* | | 上古漢語における基本形と派生形の音韻的関係は、ほとんど全ての例で秦またはそれ以前の時代にまで遡ることができる諧声関係に見られるものと一致している[^25]。 筆者は、去声派生の出現の正確な年代を特定することはできないが、上古漢語後期、おそらくは秦代に起こった可能性が高いと見ている。実際には、これは上古漢語における形態的単語派生過程の中では最も新しいものである可能性がある。なぜなら、他のほとんどの音韻交替が、以前の派生過程の名残を示していたとしても、その生産性を維持していた時期はとうに過ぎているのに対して、去声派生は初期の注釈書に規則的な意味的相関関係を伴って大量に出現するからである[^26]。去声派生体系は漢代にもまだ生きており、5世紀後の陸德明の時代よりもはるかに広く使用されていた。漢代の後、去声形は徐々に失われていった。 隋・唐代でもまだ多くの読みが実際に使われていたが、それ以外の読みは古典文献に使われる特別な読み方としてのみ残った。このことは、当時の(例えば前述したような)学者たちによって特別に注目されていたことや、陸德明が『經典釋文』の序文で特別に言及していることからも示唆される。宋代には去声読みはほとんど残っていなかった、当時特別なリストや表記が発表されたことからもわかるように、その保存に関心が持たれていた[^27]。この時期に発表された朱熹の注釈書には、陸德明の著作に見られるような去声形はほとんど記されていない。現在では、古典文献の読み以外では、発音の違いはわずかに見られる程度である。 ## 4. 陸德明による去声派生の用法 本論文末尾のリストで去声派生を複数のカテゴリーに分類しているのは、主に声調交替の派生性質を説明するためである。これらは、多くの言語で見られるよく知られた文法上の区別に対応する抽象的カテゴリーであり、厳密な文法分析はまだなされていないとはいえ、ほとんどの場合、古典中国語でも有効であろうと思われる。カテゴリーは以下に示す通りである。 - A. 基本形は動詞 : 派生形は名詞 これは最も一般的な派生である。基本動詞からは、動作主名詞(例えばA9, A2, A51(1))、手段の名詞(例えばA10, A15, A42)、行為の結果を表す名詞(例えばA7, A31, A29, A50)、抽象名詞(例えばA19, A47, A64)などが派生する。興味深いグループはA1, A5, A17, A49, A60で、これらの派生形は一般的に数量の後に続けて用いる。例えば、 > 壘厚一丈,高二丈。 > > 「塁壁の厚さは1丈、高さは2丈だった。」(『左傳・哀公1年』杜預注) - B. 基本形は名詞 : 派生形は動詞 脱名詞動詞のほとんどは他動詞だが、自動詞もいくつかある。文字の半分が基本的な意味を表す表意文字(指事・象形・会意)であることに注意されたい。これは単なる交替ではなく、派生を主張するものである。 - C. 派生形は使役 このカテゴリーには、通常の使役動詞のほかに、何らかの形で基本形が「受け取る」ことを意味し、派生形が「与える」ことを意味する、よく確立されたサブグループが存在する(C2, C5, C6, C10, C13)。 - D. 派生形は「Effective」 このグループを定義するのはかなり難しい。共通する主な特徴は、それぞれの派生形は対象に対して何らかの作用を及ぼすことである。これは基本形が自動詞、派生形が他動詞の場合、十分に明らかである。基本形と派生形の両方が他動詞の場合、その違いは、基本形が特定の行為を指すのに対し、派生形はその行為が(通常は個人的な)対象に及ぼす影響を表すのに使われるという事実にある。したがって、私はこのグループには暫定的に「Effective」というラベルを付けた。 このカテゴリーに入るかどうか疑わしい単語ペアもある。実際、このグループとグループCやEとの境界はやや曖昧である。 - E. 派生形は意味が限定的 このグループでは、派生形は基本形よりも専門的な意味を持つ。いくつかの敬語もここに分類される。派生語の多くは、感覚的にはインド・ヨーロッパ語族の強意・反復動詞(「intensive」「meditative」)を連想させる(ラテン語 *jaciō* ~ *jactō* 「投げる」, *volō* ~ *volitō* 「飛ぶ」参照)。前の2つのグループに含まれるいくつかの単語をここに入れることもできるだろう。 - F. 派生形は受動または中性 このグループは概念的に非常によく確立されており、グループCの逆であると思われる。 - G. 派生形は副詞 このカテゴリーには、派生形が副詞的に使われる例が5つ含まれる。基本形は動詞である。 - H. 派生形は複合語で使われる このグループは非常に興味深い。ほとんどの場合、意味上の区別はないようである。特に、派生形が複合語の第一要素である例が当てはまる。派生語が複合語の最終要素である場合、単独で出現していれば他のグループのいずれかに入る可能性があった。しかし、前者のケースで意味上の区別が見られないことから、去声は(少なくとも場合によっては)従属を示すために使われたと考えられる。 リストで紹介した去声派生の例は、決して発見された事例を網羅しているわけではない。基本的に、リストに含める文字を選ぶ際には、読み方や意味が明確なものを採用することを原則とした。『經典釋文』にはそれ以前の注釈者による読みも含まれているためである。これらはおそらく、当該文献に対する実際の解釈の違いによるものがほとんどであろう。しかし、(前述したように)去声派生は陸德明の時代には廃れていたと考える根拠がある。これはおそらく、以前の注釈者が去声読みを示しているにもかかわらず、陸德明が基本形を好むケース(すなわち、リストの中で「又音」または「徐(邈)」と標記されているもの)を説明するものであろう。これは、文字が基本形の意味で使用される場合、通常は読みが全く注記されないのとは対照的である。また、陸德明が非常に多くの異なる読み方や多くの又音を記したものもリストから省かれている。これについては去声読みの機能を解明することができなかったため、後の研究に委ねることにしたい(例えば「折」「解」「要 ~ 約」「斷」など)。意味上の区別を示す証拠が不十分であったためリストから除外したものもある。例えば 兼 *kiem¹*/*kem* という文字については、一箇所でのみ去声の異読を持つことが記されている[^28]。この文字は他の箇所でも同じ意味を持つように思われるため、この読みの説明は他の文献の研究を待たなければならない。 声調だけが異なる2つの読みを持つが意味の違いを認識できない文字がかなりの数残っている。以下にいくつかの例を挙げる。 :spiral_note_pad: **表5: 機能が不明な去声派生** | | | 非去声 | 去声 | 出典 | | :----- | :------------- | :--------------------- | :------------------ | :------------------------------ | | 壽 | 老年、長寿 | *źi̯ə̯u²*/*djuq* | *źi̯ə̯u³*/*djuh* | 左傳・隱公11年 15.7.13 | | 互 | 互いに | *ɣuo¹*/*gho* | *ɣuo³*/*ghoh* | 禮記・王制 11.25.4 | | 囿 | 庭園[^29] | *ji̯uk*/*uk* (「舊」) | *ji̯ə̯u³*/*uh* | 左傳・昭公9年 19.9.7 | | 淡 | 淡白な、温和な | *dʰâm²*/*damq* | *dʰâm³*/*damh* | 禮記・中庸 14.7.9 | | 錫, 賜 | 与える | *siek*/*sek* | *sie̯³*/*sieh* | 左傳・文公1年 16.16.15 | | 醵 | 酒を酌み交わす | *gʰi̯ak*/*gyak* | *gʰi̯wo³*/*gyoh* | 禮記・禮器 12.9.12 | | 罻 | 小さい網 | *ꞏi̯uət*/*qut* | *ꞏjwe̯i³*/*qujh* | 禮記・王制 11.24.15 | | 搖 | 揺れる | *i̯äu¹*/*jiew* | *i̯äu³*/*jiewh* | 禮記・喪大記 13.16.5 | | 閉 | 閉める、閉じる | *piet*/*pet* | *piei³*/*pejh* | 左傳・成公8年 17.10.14 | | 迭 | 順々に、互いに | *dʰiet*/*det* | *dʰiei³*/*dejh* | 禮記・禮運 12.7.3 | | 蹷 | 引き上げる | *ki̯wɐt*/*kuot* | *ki̯wäi³*/*kuejh* | 左傳・襄公19年 18.4.9 | | 斃 | 倒れる | *bʰi̯ät*/*biet* | *bʰi̯äi³*/*biejh* | ==:bulb: 左傳・隱公1年 15.3.5== | | 蚋 | 蚊 | *ńźi̯wät*/*njwiet* | *ńźi̯wäi³*/*njwiejh* | 禮記 11.32.11 | | 匃 | 求める | *kât*/*kat* (「舊」) | *kâi³*/*kajh* | 左傳・昭公16年 19.17.22 | これらについてはすでに述べた。より広範な研究によって、これらの意味上の区別が明らかになるかもしれない。 リストのカテゴリーに名前をつける際、統語論的用法を示唆する文法用語はできる限り避けるように努めた。古典中国語の文法的分析がなければ、このような用語の使用は無意味であり、事実、本論文の主張を無効にしてしまいかねない。「他動詞」や「自動詞」といった用語も、厳密な定義がなければ誤解を招くだけだが、グループC, D, Eの派生語の用法を論じる上では大いに歓迎されるだろう。例えばC22について、遠 *ji̯wɐn²*/*uonq* (基本形)を自動詞、遠 *ji̯wɐn³*/*uonh* (派生形)を他動詞と呼ぶのは非常に魅力的である。しかし、この基本形は「遠くにあるものとみなす」という意味で他動詞のように使われることがある(『孟子・梁惠王上』の 不遠千里而來 *bù yuǎn qiān lǐ ér lái* 「千里を遠いとせずに来た」参照)。この種の多くの単語について同じことが言える。しかし、仮に古典中国語の文法的分析が満足のいくものであったとしても、去声派生を文法レベルで扱えるかどうかは疑問である。リストのカテゴリー名として(やむを得ず)用いられている「名詞」と「動詞」でさえも、単語の分類としては疑わしい用語である。例えば、家 *ka¹*/*kae* (基本形)は通常名詞的に使われ、派生形の *ka³*/*kaeh* は通常動詞的に使われる。しかし、基本形が動詞的に使われることもある。 > 待西施毛嬙而爲配,則終身不家矣。 > > 「西施や毛嬙が妻になるのを待っていたら、死ぬまで結婚できない。」(『淮南子・齊俗訓』) 派生形が(感覚的に)名詞的用法と動詞的用法の両方を持つ場合もある。その場合、(1)のような発展経路を想定することは可能だが、(2)のような発展経路を想定することも同様に可能である。 - (1) 単純動詞 > 派生動詞 > 名詞 \ 例えば、D15 使 「~させる > 使命を与える > 使節」 - (2) 単純動詞 > 派生名詞 > 派生動詞 \ 例えば、E3 陳 「並べる > 戦列 > 戦列を組む」 実際には、どちらの発展についてもそれを裏付ける証拠はない。前者の可能性が高い場合もあれば、後者の可能性が高い場合もあり、その判断はおそらく単語の意味の翻訳によって左右される。このような形を解釈する別の方法は、派生形の2つの用法は、単に1つの単語クラスの2つの側面であると仮定することである。これはおそらく、現段階では大がかりなことだろう。したがって、このような形はすべて、派生動詞の適切な場所に任意に列挙されている。ただし、動詞と名詞の間に感覚的関係がわずかしかないと思われる場合は例外で、その場合は二重に列挙されている。 去声派生の用法はこの他にも多数確認できる。少なくとも2つのケース[^30]で謙譲語の動詞を区別するために声調交替が用いられているのは、かつてはもっと広く見られた現象の名残かもしれない。また、派生形が受動態として使われるようになったこととも関係があるかもしれない。すなわち受動態は、他では見られない発展を遂げ、やがて身分の違いを表す意味合いを持つようになったのである(日本語はその一例である)。A21 把 とA22 秉, 柄 では基本形が動詞としても「類別詞」としても使われ[^31]、A52 數 では基本形が動詞としても「数」としても使われ[^32]、3つの場合とも派生形が名詞であるのとは対照的である。このことは、中国古典文法を理解する上で、陸德明の去声派生の用法や彼の読み方全般について、より広範な調査が大きな価値を持つであろうことを示唆している[^33]。 ## 単語リスト 一般的な用法と考えられるものは、基本的に出典を1箇所のみ示した。より問題のあるケースでは、2箇所または3箇所の出典を示したものもある。ペアの両方に出典がないものは、その交替はすべてのテキストに共通して見られる、つまり一般的な中国語の一部であるとみなすことができるものである。 「又」は、陸德明が基本形と派生形の両方を示していることを意味する。「徐」は、陸德明が引用している徐邈による読み方を示す。 各グループの文字は、伝統的な36字母の順に並んでいる。 ### A. 基本形は動詞 : 派生形は名詞 1. - 高 *kâu¹*/*kaw* 「高い」 - 高 *kâu³*/*kawh* 「高さ」(左傳・隱公1年 15.3.3) 2. - 監 *kam¹*/*kaem* 「監督する」(左傳・宣公7年 16.23.21) - 監 *kam³*/*kaemh* 「監督者」(禮記・王制 11.23.18) 3. - 過 *kuâ¹*/*kwa* 「通過する」(左傳・莊公10年 15.15.6、僖公16年 16.1.5;D2も参照) - 過 *kuâ³*/*kwah* 「過失、過剰」 4. - 觀 *kuân¹*/*kwan* 「見る」(C1, H3も参照) - 觀 *kuân³*/*kwanh* 「見晴らし、塚、塔」(左傳・宣公12年 17.3.9、禮記・禮運 12.5.2) 5. - 廣 *kwâng²*/*kwangq* 「広い」 - (1) 廣 *kwâng³*/*kwangh* 「幅」(左傳・莊公28年 15.19.3) \ (2) 廣 *kwâng³*/*kwangh* 「部隊、集団」(左傳・宣公12年 17.2.9) 6. - 經, 徑 *kieng¹*/*keng* 「通り抜ける」(左傳・成公13年 17.13.7) - 經, 徑 *kieng³*/*kengh* 「小道;直径」(左傳・隱公1年 15.3.3) 7. - 結 *kiet*/*ket* 「結ぶ」 - 髻 *kiei³*/*kejh* 「髪の結び目、髪束」(左傳・襄公4年 17.20.2) 8. - 卷 *ki̯wän²*/*kuenq* 「巻く」(禮記・喪大記 13.13.3) - 卷 *ki̯wän³*/*kuenh* 「ひと巻き、巻」 9. - 騎 *gʰjie̯¹*/*gye* 「乗る」(H4も参照) - 騎 *gʰjie̯³*/*gyeh* 「騎手」(禮記・曲禮 11.7.9) 10. - 研 *ngien¹*/*ngen* 「研ぐ」 - 硯 *ngien³*/*ngenh* 「硯」 11. - 擔 *tâm¹*/*tam* 「運ぶ」(左傳・昭公7年 19.7.13) - 擔 *tâm³*/*tamh* 「荷物、負荷」(左傳・襄公2年 17.18.11) 12. - 登 *təng¹*/*teong* 「登る」 - 鐙 *təng³*/*teongh* 「足掛け」 13. - 張 *t̑i̯ang¹*/*tryang* 「伸ばす、延長する」(F4も参照) - 帳 *t̑i̯ang³*/*tryangh* 「テント;網」 14. - 度 *dʰâk*/*dak* 「測る」(禮記・王制 11.25.9) - 度 *dʰuo³*/*doh* 「測定、定規」(禮記・王制 11.25.9) 15. - (1) 彈 *dʰân¹*/*dan* 「弾く」(禮記・樂記 13.2.21) \ (2) 彈 *dʰân¹*/*dan* 「(クロスボウで)射る」(左傳・宣公2年 16.21.21) - 彈 *dʰân³*/*danh* 「クロスボウ」 16. - 滌 *dʰiek*/*dek* 「洗う、清める」 - 滌 *dʰieu³*/*dewh* 「厩舎」(徐;禮記・曲禮 11.10.16、郊特牲 12.12.20) 17. - 長 *d̑ʰi̯ang¹*/*dryang* 「長い」 - 長 *d̑ʰi̯ang³*/*dryangh* 「長さ」(禮記・檀弓 11.13.14) 18. - 傳 *d̑ʰi̯wän¹*/*drwien* 「伝える」 - 傳 *d̑ʰi̯wän³*/*drwienh* 「記録」 19. - 難 *nân¹*/*nan* 「難しい」 - 難 *nân³*/*nanh* 「困難、苦労」(左傳・桓公5年 15.10.5) 20. - 納 *nập*/*nop* 「持ち込む」 - 内 *nuậi³*/*nojh* 「内部」 21. - 把 *pa²*/*paeq* 「つかむ」 - 把 *pa³*/*paeh* 「取っ手」(禮記・曲禮 11.6.9、少儀 12.29.14) 22. - 秉, 柄 *pi̯wɐng²*/*pyaengq* 「つかむ」 - 秉, 柄 *pi̯wɐng³*/*pyaengh* 「取っ手」(左傳・昭公7年 19.7.18) 23. - 封 *pi̯wong¹*/*puong* 「封土する」 - 封 *pi̯wong³*/*puongh* 「封土」(徐;書・蔡仲之命 4.9.11) 24. - 縛 *bʰi̯wak*/*buak* 「縛る」 - 縛 *bʰi̯uâ³*/*buah* 「束縛」(「舊」;左傳・昭公4年 19.2.15、莊公9年 15.14.20) 25. - 飯 *bʰi̯wɐn²*/*buonq* 「食べる」(禮記・曲禮 11.5.8、檀弓 11.15.10) - 飰 *bʰi̯wɐn³*/*buonh* 「食べ物」(禮記・曲禮 11.5.4の陸注を参照) 26. - 縫 *bʰi̯wong¹*/*buong* 「修理する、縫う」(左傳・僖公26年 16.6.12) - 縫 *bʰi̯wong³*/*buongh* 「布の縫い目」(禮記・深衣 14.14.5) 27. - 磨 *muâ¹*/*ma* 「研ぐ」 - 磨 *muâ³*/*mah* 「砥石」 28. - 責 *tṣɛk*/*tsreek* 「要求する、支払いを求める」 - 債 *tṣai³*/*tsreeh* 「借金」 29. - 積 *tsi̯äk*/*tsiaek* 「積み上げる、蓄積する」 - 積 *tsie̯³*/*tsieh* 「貯蔵品、在庫」(左傳・僖公33年 16.10.20、襄公5年 17.20.10) 30. - 炙 *tśi̯äk*/*tjiaek* 「焼く」(禮記・禮運 12.5.22) - 炙 *tśi̯a³*/*tjiaeh* 「焼肉」(左傳・哀公15年 20.24.3、禮記・曲禮 11.4.22) 31. - 織 *tśi̯ək*/*tjyk* 「織る」 - 織 *tśi³*/*tjyh* 「柄入りの布」(禮記・玉藻 12.21.2、少儀 12.27.22) 32. - 執 *tśi̯əp*/*tjip* 「拾う、捕らえる」(H8も参照) - 執 *tśi³*/*tjyh* 「贈り物、奉納品」(禮記・檀弓 11.21.16) 33. - 采 *tsʰậi²*/*tsheojq* 「摘む、取る」 - 菜 *tsʰậi³*/*tsheojh* 「薬草」 34. - 操 *tsʰâu¹*/*tshaw* 「つかむ、持つ」(禮記・曲禮 11.2.13) - 操 *tsʰâu³*/*tshawh* 「原則」 35. - 刺 *tsʰi̯äk*/*tshiaek* 「刺す、突く」(D11も参照) - 刺 *tsʰie̯³*/*tshieh* 「とげ」 36. - 稱 *tśʰi̯əng¹*/*tjhyng* 「名付ける、要求する」(禮記・曲禮、陸注は無い) - 稱 *tśʰi̯əng³*/*tjhyngh* 「呼称」(左傳・隱公1年 15.3.11) 37. - 處 *tśʰi̯wo²*/*tjhyoq* 「住む」 - 處 *tśʰi̯wo³*/*tjhyoh* 「場所」(左傳・僖公25年 16.6.3) 38. - 吹 *tśʰwie̯¹*/*tjhwie* 「吹く」 - 吹 *tśʰwie̯³*/*tjhwieh* 「音楽」(禮記・月令 11.33.1, 11.34.19) 39. - 裁 *dzʰậi¹*/*dzeoj* 「(布を)切る」 - 裁 *dzʰậi³*/*dzeojh* 「仕立て、ファッション」(禮記・喪大記 13.15.5) 40. - 鑿 *dzʰâk*/*dzak* 「穴を開ける、ドリルで穴を開ける」 - 鑿 *dzʰâu*/*dzawk* 「穴」(周禮・考工記 9.22.7) 41. - 藏 *dzʰâng¹*/*dzang* 「隠す、保管する」 - 藏 *dzʰâng³*/*dzangh* 「倉庫」(左傳・僖公24年 16.4.17、禮記・昏義 14.20.22) 42. - 乘 *dźʰi̯əng¹*/*zjyng* 「乗る」 - 乘 *dźʰi̯əng³*/*zjyngh* 「戦車」(左傳・隱公1年 15.3.6) 43. - 聚 *dzʰi̯u²*/*dzuoq* 「集める」 - (1) 聚 *dzʰi̯u³*/*dzuoh* 「収蔵物、蓄え」(左傳・襄公9年 17.22.15) \ (2) 聚 *dzʰi̯u³*/*dzuoh* 「集まり、集団」(左傳・成公13年 17.12.22) 44. - 坐 *dzʰuâ²*/*dzwaq* 「座る」 - 坐 *dzʰuâ³*/*dzwah* 「座席」(左傳・襄公27年 18.14.5) 45. - 塞 *sək*/*seok* 「塞ぐ」(左傳・僖公20年 16.2.6) - 塞 *sậi³*/*seojh* 「境界、辺境」(左傳・莊公28年 15.19.1) 46. - 算 *suân²*/*swanq* 「数える、計算する」 - 筭 *suân³*/*swanh* 「算木」 47. - 思 *si¹*/*sy* 「考える」 - 思 *si³*/*syh* 「思考」(左傳・襄公29年 18.17.8、昭公7年 18.25.5) 48. - 削 *si̯ak*/*syak* 「削る」(禮記・曲禮 11.5.18) - 削 *si̯äu³*/*siewh* 「短刀」(禮記・少儀 12.29.14) 49. - 深 *śi̯əm¹*/*sjim* 「深い」 - 深 *śi̯əm³*/*sjimh* 「深さ」(禮記・檀弓 11.21.20) 50. - 收 *śi̯ə̯u¹*/*sju* 「集める、受け取る」 - 收 *śi̯ə̯u³*/*sjuh* 「収穫」(又;左傳・文公2年 16.12.13、禮記・月令 11.32.22) 51. - 守 *śi̯ə̯u²*/*sjuq* 「守る、保守する」(F12, H14も参照) - (1) 守 *śi̯ə̯u³*/*sjuh* 「知事」(左傳・僖公24年 16.4.19) \ (2) 狩 *śi̯ə̯u³*/*sjuh* 「領土」(禮記・王制 11.24.2;『孟子・梁惠王下』巡狩者巡所守也 も参照) 52. - 數 *ṣi̯u²*/*sruoq* 「数える」(左傳・隱公5年 15.3.11) - 數 *ṣi̯u³*/*sruoh* 「数」(左傳・序 15.1.21) 53. - 帥, 率 *ṣi̯wĕt*/*sruit* 「導く」(左傳・襄公10年、陸注は無い) - 帥, 率 *ṣwi³*/*sruih* 「先導者、元帥」(左傳・桓公6年 15.10.10、哀公17年 20.25.16) 54. - 宿 *si̯uk*/*suk* 「泊まる」 - 宿 *si̯ə̯u³*/*suh* 「天宮」(左傳・昭公10年 19.10.8) 55. - 上 *źi̯ang²*/*djyangq* 「上昇する」(左傳・成公16年 17.14.21) - 上 *źi̯ang³*/*djyangh* 「上、頂上」 56. - 樹 *źi̯u²*/*djuoq* 「立ち上がる、直立させる、植える」 - 樹 *źi̯u³*/*djuoh* 「木」(禮記・祭義、陸注は無い) 57. - 畜 *χi̯uk*/*huk* 「育てる」(H15も参照) - 畜 *χi̯ə̯u³*/*huh* 「農場の動物」(左傳・僖公19年 16.2.1、禮記・月令 11.30.9) 58. - 含 *ɣậm¹*/*ghom* 「口に含む」 - 唅, 琀 *ɣậm³*/*ghomh* 「死体の口に入れる真珠」(左傳・文公5年 16.13.19) 59. - 號 *ɣâu¹*/*ghaw* 「呼ぶ、叫ぶ」(左傳・成公7年 17.9.19、禮記・曲禮 11.10.11) - (1) 號 *ɣâu³*/*ghawh* 「爵位、称号」(左傳・僖公26年、陸注は無い) \ (2) 號 *ɣâu³*/*ghawh* 「号令、命令」(禮記・樂記 13.6.5) 60. - 厚 *ɣə̯u²*/*ghouq* 「厚い」 - 厚 *ɣə̯u³*/*ghouh* 「厚さ」(禮記・月令 11.33.13) 61. - 獲 *ɣwɛk*/*ghweek* 「捕まえる、得る」 - 擭 *ɣwa³*/*ghwaeh* 「罠」(禮記・中庸 14.1.14) 62. - 畫 *ɣwɛk*/*ghweek* 「描く、区画する」(左傳・襄公4年 17.19.17) - 畫 *ɣwai³*/*ghweeh* 「絵」 63. - 行 *ɣâng¹*/*ghang* 「歩く、進む;実践する、実行する」(D18も参照) - 行 *ɣɐng³*/*ghaengh* 「行動、振る舞い」(左傳・襄公2年 17.18.8) 64. - 欲 *i̯wok*/*juok* 「欲する、望む」 - 慾 *i̯u³*/*juoh* 「欲望」(又;禮記・曲禮 11.1.9、學記 13.2.2) 65. - 沿 *i̯wän¹*/*jwien* 「従う、一緒に行く」(左傳・文公10年 16.16.7) - 緣 *i̯wän³*/*jwienh* 「縁、境界」(禮記・樂記 13.5.5) 66. - 量 *li̯ang¹*/*lyang* 「測る」(左傳・隱公11年 15.7.17) - 量 *li̯ang³*/*lyangh* 「測定、量」(左傳・隱公3年 15.4.1) 67. - 列 *li̯ät*/*liet* 「一列に並べる」 - 例 *li̯äi³*/*liejh* 「用法、規則」 68. - 論 *luən¹*/*lon* 「議論する」 - 論 *luən³*/*lonh* 「理論」(左傳・序 15.2.3) 69. - 染 *ńźi̯äm²*/*njiemq* 「漬ける、染める」(左傳・宣公4年 16.23.3) - 染 *ńźi̯äm³*/*njiemh* 「布の一種」(禮記・禮運 12.6.6) ### B. 基本形は名詞 : 派生形は動詞 1. - 家 *ka¹*/*kae* 「家庭」 - 嫁 *ka³*/*kaeh* 「嫁ぐ」 2. - 間 *kăn¹*/*keen* 「間隔」 - 間 *kăn³*/*keenh* 「間に位置する(置く)」(左傳・隱公3年 15.4.6) 3. - 膏 *kâu¹*/*kaw* 「軟膏;豊かさ」(左傳・序 15.1.12) - 膏 *kâu³*/*kawh* 「油を塗る;豊かにする」(禮記・内則 12.14.14、左傳・襄公19年 18.3.22) 4. - 棺 *kuân¹*/*kwan* 「棺」 - 棺 *kuân³*/*kwanh* 「棺に入れる」(左傳・僖公28年 16.7.10) 5. - 冠 *kuân¹*/*kwan* 「帽子」 - 冠 *kuân³*/*kwanh* 「(成人式で)帽子をかぶる」(左傳・僖公9年 15.24.8) 6. - 魚 *ngi̯wo¹*/*ngyo* 「魚」 - 漁 *ngi̯wo³*/*ngyoh* 「釣りをする」(Zhou 1957: 52 \[1945]) 7. - 中 *t̑i̯ung¹*/*trung* 「中央」(H6も参照) - (1) 中 *t̑i̯ung³*/*trungh* 「中央に当てる」(左傳・成公16年 17.15.1) \ (2) 中 *t̑i̯ung³*/*trungh* 「中央に位置する」(書・堯典 3.3.8) 8. - 種 *tśi̯wong²*/*tjuongq* 「種、種類」(左傳・僖公33年 16.11.9) - 種 *tśi̯wong³*/*tjuongh* 「植える」(禮記・禮運 12.7.16) 9. - 道 *dʰâu²*/*dawq* 「道路、道」 - 導 *dʰâu³*/*dawh* 「導く」(左傳・隱公5年 15.5.19) 10. - 弟 *dʰiei²*/*dejq* 「弟」 - 悌 *dʰiei³*/*dejh* 「弟がすべきように行動する」(禮記・禮運 12.6.22) 11. - 蹄 *dʰiei¹*/*dej* 「蹄」 - 蹄 *dʰiei³*/*dejh* 「踏みつける?;蹴る?」(禮記・月令 11.31.3) 12. - 田 *dʰien¹*/*den* 「畑」 - 佃 *dʰien³*/*denh* 「畑を耕す」(詩・齊風・甫田 5.28.6) 13. - 泥 *niei¹*/*nej* 「泥」 - 泥 *niei³*/*nejh* 「くっつく、固執する」 14. - 女 *ńi̯wo²*/*nryoq* 「娘」 - 女 *ńi̯wo³*/*nryoh* 「娘を嫁に出す」(左傳・桓公11年 15.11.17) 15. - 賓 *pi̯ĕn¹*/*pin* 「客」 - 儐 *pi̯ĕn³*/*pinh* 「客を迎える;敬意を表す」(禮記・禮運 12.6.14) 16. - 氷 *pi̯əng¹*/*pying* 「氷」 - 氷 *pi̯əng³*/*pyingh* 「凍る、凝固する」(『新唐書・韋思謙傳』涕泗氷須) 17. - 風 *pi̯ung¹*/*pung* 「風」 - (1) 風 *pi̯ung³*/*pungh* 「(風が)吹く」(『説苑・貴德』以春風風人) \ (2) 風 *pi̯ung³*/*pungh* 「噂する、風刺する」(詩・周南・關雎 5.1.18) 18. - 帆 *bʰi̯wɐm¹*/*buom* 「帆」 - 帆 *bʰi̯wɐm³*/*buomh* 「扇いで風を起こす?」(左傳・宣公12年 17.3.4) 19. - 旁 *bʰwâng¹*/*bang* 「側」 - 傍 *bʰwâng³*/*bangh* 「傍にいるまたは行く」(左傳・哀公27年 20.28.21) 20. - 名 *mi̯äng¹*/*miaeng* 「名前」 - 命 *mi̯äng³*/*miaengh* 「名付ける」(左傳・桓公2年 15.9.6、文公11年 16.16.19) 21. - 文 *mi̯uən¹*/*mun* 「印、文学」 - 文 *mi̯uən³*/*munh* 「注釈をつける」(禮記・檀弓 11.11.18) 22. - 左 *tsâ²*/*tsaq* 「左(側)」 - 佐 *tsâ³*/*tsah* 「助ける」(左傳・隱公6年 15.6.5、襄公10年 17.24.1) 23. - 子 *tsi²*/*tsyq* 「子供、息子」 - (1) 子 *tsi³*/*tsyh* 「子供のように扱う」(徐;禮記・中庸 14.3.7) \ (2) 子 *tsi³*/*tsyh* 「子供のように行動する」(禮記・樂記 13.7.8) 24. - 枕 *tśi̯əm²*/*tjimq* 「枕」 - 枕 *tśi̯əm³*/*tjimh* 「枕にする」(左傳・僖公28年 16.9.1) 25. - 妻 *tsʰiei¹*/*tshej* 「妻」 - 妻 *tsʰiei³*/*tshejh* 「妻として与える」(左傳・隱公7年 15.6.11) 26. - 先 *sien¹*/*sen* 「前、前面」 - 先 *sien³*/*senh* 「先に位置する」(左傳・序 15.1.10、禮記・玉藻 12.22.11) 27. - 首 *śi̯ə̯u²*/*sjuq* 「頭」 - 首 *śi̯ə̯u³*/*sjuh* 「頭を向ける」(禮記・檀弓 11.13.18) 28. - 衣 *ꞏje̯i¹*/*qyj* 「衣服」 - (1) 衣 *ꞏje̯i³*/*qyjh* 「(服を)着る」(禮記・樂記 13.7.5) \ (2) 衣 *ꞏje̯i³*/*qyjh* 「衣服を着せる」(左傳・閔公2年 15.21.7) 29. - 麾 *χjwie̯¹*/*hue* 「軍旗」(左傳・桓公5年 15.10.1) - 麾 *χjwie̯³*/*hueh* 「振る」(又;左傳・隱公11年 15.7.11) 30. - 下 *ɣa²*/*ghaeq* 「下」 - 下 *ɣa³*/*ghaeh* 「下に位置する」(左傳・昭公5年 19.3.21) 31. - 後 *ɣə̯u²*/*ghouq* 「後ろ」 - 後 *ɣə̯u³*/*ghouh* 「後に位置する」(左傳・序 15.1.10、禮記・玉藻 12.22.11) 32. - 環 *ɣwan¹*/*ghwaen* 「円、輪」 - (1) 環 *ɣwan³*/*ghwaenh* 「囲む」(徐;襄公10年 17.23.17) \ (2) 擐 *ɣwan³*/*ghwaenh* 「自分自身を囲む、着る」(左傳・成公2年 17.6.15) 33. - 鹽 *i̯äm¹*/*jiem* 「塩」 - 鹽 *i̯äm³*/*jiemh* 「塩をかける、漬ける」(禮記・内則 12.18.3) 34. - 油 *i̯ə̯u¹*/*ju* 「油」 - 油 *i̯ə̯u³*/*juh* 「油を塗る」(蔡襄『茶録』以珍膏油其面) 35. - 右 *ji̯ə̯u²*/*uq* 「右(側)」 - 佑 *ji̯ə̯u³*/*uh* 「助ける」(左傳・襄公10年 17.23.18, 22) 36. - 雨 *ji̯u²*/*uoq* 「雨」 - 雨 *ji̯u³*/*uoh* 「降らせる」(「粒を降らす」という他動詞;左傳・隱公9年 15.6.19) 37. - 王 *ji̯wang¹*/*uang* 「王」 - 王 *ji̯wang³*/*uangh* 「(~の)王である」(左傳・成公2年 17.7.8) 38. - 耳 *ńźi²*/*njyq* 「耳」 - 刵 *ńźi³*/*njyh* 「耳を切り落とす」(書・康誥 4.5.18) 39. - 肉 *ńźi̯uk*/*njuk* 「肉」 - 肉 *ńźi̯uk*/*njuk* 「肉厚である、豊かである(主に音楽に使われる)」(禮記・樂記 13.4.13, 7.12) ### C. 派生形は使役 1. - 觀 *kuân¹*/*kwan* 「見る」(A4, H3も参照) - 觀 *kuân¹*/*kwan* 「示す」(左傳・昭公5年 19.5.6、禮記・月令 11.29.18) 2. - 乞 *kʰi̯ət*/*khyt* 「乞う」 - 乞 *kʰje̯i³*/*khyjh* 「与える」(『晋書・謝安傳』、Zhou 1957: 65 \[1945]) 3. - 近 *gʰi̯ən²*/*gynq* 「近い」 - 近 *gʰi̯ən³*/*gynh* 「近付く」(左傳・桓公2年 15.9.4) 4. - 沈 *d̑ʰi̯əm¹*/*drim* 「沈む」 - 沈 *d̑ʰi̯əm³*/*drimh* 「沈める、浸す」(左傳・成公11年 17.11.16) 5. - 買 *mai²*/*meeq* 「買う」 - 賣 *mai³*/*meeh* 「売る」 6. - 借 *tsi̯äk*/*tsiaek* 「借りる」(禮記・王制 11.25.7) - 借 *tsi̯a³*/*tsiaeh* 「貸す」(左傳・莊公18年 15.16.22、この箇所に対する孔穎達の注釈も参照) 7. - 足 *tsi̯wok*/*tsuok* 「十分である」 - 足 *tsi̯u³*/*tsuoh* 「完成させる、形成する」(左傳・襄公11年 17.24.5、襄公25年 18.10.20、襄公26年 18.13.10) 8. - 出 *tśʰi̯uĕt*/*tjhwit* 「出現する」(H10も参照) - 出 *tśʰwi³*/*tjhwih* 「出す」(又;左傳・序 15.1.22) 9. - 齊 *dzʰiei¹*/*dzej* 「平らである」 - 齊 *dzʰiei³*/*dzejh* 「等分する」(左傳・昭公20年 19.23.11、禮記・曲禮 11.10.12) 10. - 籍 *dzʰi̯äk*/*dziaek* 「借りる」(禮記・王制 11.25.7) - 籍 *dzʰi̯a³*/*dziaeh* 「貸す」 11. - 識 *śi̯ək*/*sjyk* 「知る、認識する」 - (1) 幟 *śi³*/*sjyh* 「示す、記す」(禮記・檀弓 11.18.15) \ (2) 幟 *śi³*/*sjyh* 「軍旗」(左傳・宣公12年 17.1.20) 12. - 善 *źi̯än²*/*djienq* 「良い」 - 繕 *źi̯än³*/*djienh* 「修理する」(左傳・隱公1年 15.3.6) 13. - 受 *źi̯ə̯u²*/*djuq* 「受け取る」 - 授 *źi̯ə̯u³*/*djuh* 「与える」 14. - 惡 *ꞏâk*/*qak* 「悪い」 - 惡 *ꞏuo³*/*qoh* 「嫌う」 15. - 飲 *ꞏi̯əm²*/*qyimq* 「飲む」 - 飲 *ꞏi̯əm³*/*qyimh* 「飲み物を与える」(左傳・桓公16年 15.12.19) 16. - 陰 *ꞏi̯əm¹*/*qyim* 「暗い」 - 廕, 蔭 *ꞏi̯əm³*/*qyimh* 「庇う」(左傳・文公7年 16.15.4) 17. - 好 *χâu²*/*hawq* 「良い」 - 好 *χâu³*/*hawh* 「愛する」 18. - 享, 饗 *χi̯ang²*/*hyangq* 「楽しむ」(禮記・曲禮 11.1.17) - 享, 饗 *χi̯ang³*/*hyangh* 「宴会を開く;贈る」(左傳・成公12年 17.12.5、禮記・曲禮 11.9.21) 19. - 學 *ɣåk*/*ghoeuk* 「学ぶ」 - 斅 *ɣau³*/*ghaewh* 「教える」(禮記・檀弓 11.22.19) 20. - 和 *ɣuâ¹*/*ghwa* 「調和している」 - 和 *ɣuâ³*/*ghwah* 「調和させる;韻を踏む」(左傳・昭公12年 19.12.13) 21. - 永 *ji̯wɐng²*/*uaengq* 「長い、永遠である」 - 詠 *ji̯wɐng³*/*uaengh* 「(言葉を)長くする;歌う」(書・舜典 3.5.16) 22. - 遠 *ji̯wɐn²*/*uonq* 「遠い、遠くにある」 - 遠 *ji̯wɐn³*/*uonh* 「距離を保つ」(左傳・閔公2年 15.21.8) 23. - 來 *lậi¹*/*leoj* 「来る」 - 徠, 勑 *lậi³*/*leojh* 「来させる;励ます」(左傳・閔公1年 15.20.7) 24. - 勞 *lâu¹*/*law* 「労働する;功績」 - 勞 *lâu³*/*lawh* 「報いる」(左傳・桓公5年 15.10.2) 25. - 任 *ńźi̯əm¹*/*njim* 「請け負う、耐える」 - (1) 任 *ńźi̯əm³*/*njimh* 「雇う」(左傳・隱公3年 15.4.5、禮記・緇衣 14.8.5) \ (2) 任 *ńźi̯əm³*/*njimh* 「職、公職」 ### D. 派生形は「Effective」 1. - 禁 *ki̯əm¹*/*kyim* 「克服する」 - 禁 *ki̯əm³*/*kyimh* 「禁止する」 2. - 過 *kuâ¹*/*kwa* 「通過する」(A3も参照) - 過 *kuâ³*/*kwah* 「超える、上回る」(左傳・隱公1年 15.3.2、禮記・曾子問 12.1.16、學記 13.2.5) 3. - 渴 *kʰât*/*khat* 「渇いている」 - 愒 *kʰi̯äi³*/*khyejh* 「切望する」(左傳・昭公1年 19.24.6) 4. - 仰 *ngi̯ang²*/*ngyangq* 「上を向く」 - 仰 *ngi̯ang³*/*ngyangh* 「尊敬する、望む」(徐;左傳・襄公19年 18.3.21) 5. - 語 *ngi̯wo²*/*ngyoq* 「話す、話題にする」 - 語 *ngi̯wo³*/*ngyoh* 「伝える」(左傳・隱公1年 15.3.9) 6. - 答 *tập*/*top* 「(挨拶などに)応答する」 - 對 *tuậi³*/*tojh* 「(人に)返答する」 7. - 聽 *tʰieng¹*/*theng* 「聞く」(左傳・成公5年 17.9.1、禮記・大傳 12.27.4) - 聽 *tʰieng³*/*thengh* 「従う」(左傳・僖公24年 16.5.1) 8. - 分 *pi̯uən¹*/*pun* 「分割する」 - 分 *pi̯uən³*/*punh* 「分配する、救済を与える」(左傳・僖公1年 15.21.17、昭公14年 19.16.1) 9. - 奉 *bʰi̯wong¹*/*buong* 「両手で持つ」(禮記・曲禮 11.3.2) - 奉 *bʰi̯wong³*/*buongh* 「提示する」(左傳・僖公33年 16.11.2) 10. - 祝 *tśi̯uk*/*tjuk* 「祈る、祈りの主人」(禮記・祭義 13.18.8) - 祝 *tśi̯ə̯u³*/*tjuh* 「呪う」(左傳・成公17年 17.16.13) 11. - 刺 *tsʰi̯äk*/*tshiaek* 「刺す、突く」(左傳・襄公28年 18.16.3) - (1) 刺 *tsʰie̯³*/*tshieh* 「殺す」(左傳・僖公28年 16.7.3) \ (2) 刺 *tsʰie̯³*/*tshieh* 「攻撃する、風刺する」(左傳・莊公31年 15.19.16) 12. - 將 *tsi̯ang¹*/*tsyang* 「導く;送り出す」 - (1) 將 *tsi̯ang³*/*tsyangh* 「導く、指揮を執る」(左傳・宣公2年 16.21.15) \ (2) 將 *tsi̯ang³*/*tsyangh* 「将軍」(左傳・莊公10年 15.15.1) 13. - 取 *tsʰi̯u²*/*tshuoq* 「取る」 - 娶 *tsʰi̯u³*/*tshuoh* 「(女性と)結婚する」(禮記・曲禮 11.4.17) 14. - 從 *dzʰi̯wong¹*/*dzuong* 「従う」(H11も参照) - 從 *dzʰi̯wong³*/*dzuongh* 「出席する」(禮記・曲禮 11.3.4) 15. - 使 *ṣi²*/*sryq* 「使用する、~させる」(禮記・曲禮 11.8.17) - (1) 使 *ṣi³*/*sryh* 「派遣する」(禮記・曲禮 11.10.8) \ (2) 使 *ṣi³*/*sryh* 「大使」(左傳・文公10年 16.16.7) 16. - 施 *śie̯¹*/*sjie* 「実施する」(左傳・僖公24年 16.5.9) - 施 *śie̯³*/*sjieh* 「施しを与える」(禮記・祭義 13.20.2) 17. - 喜 *χji²*/*hyq* 「喜ぶ」 - 喜 *χji³*/*hyh* 「好む、楽しむ」(徐;周易・蹇 2.15.13) 18. - 行 *ɣɐng¹*/*ghaeng* 「歩く、進む;実行する」(A63も参照) - 行 *ɣɐng³*/*ghaengh* 「巡回する」(左傳・襄公31年 18.20.22) 19. - 回 *ɣuậi¹*/*ghoj* 「戻る」 - 回 *ɣuậi³*/*ghojh* 「めぐる、道を通る」(左傳・襄公18年 18.3.10) 20. - 遺 *wi¹*/*jwi* 「失う、放棄する、置き去りにする」(禮記・祭義 13.19.13) - 遺 *wi³*/*jwih* 「残す、与える」(左傳・文公6年 16.14.12) 21. - 與 *i̯wo²*/*jyoq* 「一緒である」 - 與 *i̯wo³*/*jyoh* 「参加する」(左傳・序 15.1.15、隱公1年 15.2.17) 22. - 援 *ji̯wɐn¹*/*uon* 「描く、引く」 - 援 *ji̯wɐn³*/*uonh* 「助ける」 23. - 爲 *jwie̯¹*/*ue* 「行う、作る、存在する」 - 爲 *jwie̯³*/*ueh* 「~のために行う、~を代表して行う」 24. - 臨 *li̯əm¹*/*lim* 「見落とす、危機に瀕する」 - (1) 臨 *li̯əm³*/*limh* 「嘆く」(左傳・襄公12年 17.25.1) \ (2) 臨 *li̯əm³*/*limh* 「哀悼の部屋」(禮記・曲禮 11.7.5) 25. - 令 *li̯äng¹*/*liaeng* 「引き起こす」(左傳・序 15.1.11) - 令 *li̯äng³*/*liaengh* 「命令する」(左傳・僖公9年 15.24.14) ### E. 派生形は意味が限定的 1. - 告 *kuok*/*kok* 「(上司に)伝える」(禮記・曲禮 11.2.16) - 誥 *kâu³*/*kawh* 「(部下に)告げる」(禮記・禮運、陸注は無い) 2. - 輕 *kʰi̯äng¹*/*khiaeng* 「軽い」 - 輕 *kʰi̯äng³*/*khiaengh* 「不注意である」(左傳・隱公9年 15.6.22、襄公18年 18.3.5) 3. - 陳 *d̑ʰi̯ĕn¹*/*drin* 「並べる、整理する」 - (1) 陳 *d̑ʰi̯ĕn³*/*drinh* 「戦列を組む」(左傳・莊公11年 15.15.7、文公2年 16.12.18) \ (2) 陳 *d̑ʰi̯ĕn³*/*drinh* 「戦列」 4. - 少 *śi̯äu²*/*sjiewq* 「少ないである」 - 少 *śi̯äu³*/*sjiewh* 「若い」 5. - 憶 *ꞏi̯ək*/*qyk* 「覚えている」 - (1) 意 *ꞏji³*/*qyh* 「考える」 \ (2) 意 *ꞏji³*/*qyh* 「思考、考え」 6. - 呼 *χuo¹*/*ho* 「呼ぶ、名付ける」 - 呼 *χuo³*/*hoh* 「叫ぶ」(左傳・隱公11年 15.7.11) 7. - 厭 *ꞏi̯äm²*/*qiemq* 「満足する、満ちる」(左傳・昭公13年 19.14.12、閔公1年 15.20.6) - 厭 *ꞏi̯äm³*/*qiemh* 「飽きる、うんざりする」(左傳・昭公13年 19.14.20、定公1年 20.6.5) 8. - 横 *ɣwɐng¹*/*ghwaeng* 「横になる、横切る」(左傳・哀公17年 20.25.21) - 横 *ɣwɐng³*/*ghwaengh* 「難解である、扱いにくい」(左傳・昭公25年 19.28.7) 9. - 養 *i̯ang²*/*jyangq* 「育てる、養う」 - 養 *i̯ang³*/*jyangh* 「世話をする」(左傳・文公18年 16.20.7) 10. - 引 *i̯ĕn²*/*jinq* 「引く、引っ張る」 - (1) 引 *i̯ĕn³*/*jinh* 「棺の縄を引く」(禮記・曾子問 12.2.8) \ (2) 引 *i̯ĕn³*/*jinh* 「霊柩車を引くための縄」(禮記・檀弓 11.18.6) 11. - 斂 *li̯äm²*/*liemq* 「覆う」(禮記・檀弓 11.20.10) - 斂 *li̯äm³*/*liemh* 「死体に衣装を着せる」(左傳・隱公1年 15.2.18) 12. - 如 *ńźi̯wo¹*/*njyo* 「似ている、~のようである」 - 如 *ńźi̯wo³*/*njyoh* 「~と同じくらい良い」(左傳・僖公4年 15.22.18、哀公11年 20.20.12) ### F. 派生形は受動または中性 1. - 覺 *kåk*/*koeuk* 「意識する、明確にする」(左傳・文公4年 16.13.18) - 覺 *kau³*/*kaewh* 「目を覚ます」(左傳・成公10年 17.11.9) 2. - 去 *kʰi̯wo²*/*khyoq* 「取り除く」(左傳・序 15.1.19) - 去 *kʰi̯wo³*/*khyoh* 「去る」(禮記・玉藻 12.22.2) 3. - 知 *t̑ie̯¹*/*trie* 「知っている」 - (1) 智 *t̑ie̯³*/*trieh* 「賢い」(左傳・文公2年 16.13.2) \ (2) 智 *t̑ie̯³*/*trieh* 「知識」 4. - 張 *t̑i̯ang¹*/*tryang* 「伸ばす、引く」(A13も参照) - 脹 *t̑i̯ang³*/*tryangh* 「伸ばされる、膨らむ」(左傳・成公10年 17.11.11) 5. - 治 *d̑ʰi¹*/*dry* 「統治する」 - (1) 治 *d̑ʰi³*/*dryh* 「よく統治されている」(禮記・大學 14.18.1) \ (2) 治 *d̑ʰi³*/*dryh* 「政府」 6. - 動 *dʰung²*/*doungq* 「動く」 - 慟 *dʰung³*/*doungh* 「感情的に動かされる」(『論語・先進』子哭之慟) 7. - 聞 *mi̯uən¹*/*mun* 「聞く;嗅ぐ」 - (1) 聞 *mi̯uən³*/*munh* 「聞こえる;臭う」(左傳・桓公6年 15.10.13、文公15年 16.18.13) \ (2) 聞 *mi̯uən³*/*munh* 「評判」(左傳・宣公8年 16.24.2) 8. - 射 *dźʰi̯äk*/*zjiaek* 「射撃する」(左傳・桓公5年 15.10.1、宣公10年 16.24.15) - 射 *dźʰi̯a³*/*zjiaeh* 「弓術を練習する」(禮記・曲禮 11.8.17) 9. - 散 *sân²*/*sanq* 「散らす、解放する」(禮記・樂記、陸注は無い) - (1) 散 *sân³*/*sanh* 「緩い」(禮記・曾子問 12.2.7) \ (2) 散 *sân³*/*sanh* 「閑職」 10. - 傷 *śi̯ang¹*/*sjyang* 「傷つける」 - 傷 *śi̯ang³*/*sjyangh* 「悼む」(禮記・曲禮 11.7.2) 11. - 勝 *śi̯əng¹*/*sjyng* 「克服する」(左傳・襄公6年 17.20.13、昭公12年 19.13.10) - 勝 *śi̯əng³*/*sjyngh* 「勝利する」(禮記・少儀 12.28.10、樂記 13.3.15) 12. - 守 *śi̯ə̯u²*/*sjuq* 「守る、維持する」(A51, H14も参照) - 守 *śi̯ə̯u³*/*sjuh* 「警戒する、注意深い」(左傳・昭公27年 20.1.20) 13. - 盛 *źi̯äng¹*/*djiaeng* 「満たす」(左傳・宣公11年 16.24.20) - 盛 *źi̯äng³*/*djiaengh* 「満ちている、豊富である」(禮記・王制 11.23.15) 14. - 離 *ljie̯¹*/*lie* 「分ける」(禮記・大學、陸注は無い) - (1) 離 *ljie³*/*lieh* 「去る」(禮記・檀弓 11.14.11) \ (2) 離 *ljie³*/*lieh* 「~と異なる」(禮記・曲禮 11.2.4) ### G. 派生形は副詞 1. - 更 *kɐng¹*/*kaeng* 「変更する」 - 更 *kɐng³*/*kaengh* 「再び;さらに」 2. - 並 *bʰieng²*/*bengq* 「並べる」 - 並 *bʰieng³*/*bengh* 「一緒に、さらに、また」 3. - 復 *bʰi̯uk*/*buk* 「戻る」(禮記・樂記 13.6.21) - 復 *bʰi̯ə̯u³*/*buh* 「再び」(左傳・隱公1年 15.3.2) 4. - 三 *sâm¹*/*sam* 「3」 - 三 *sâm³*/*samh* 「三度」(又;襄公10年 17.23.2) 5. - 有 *ji̯ə̯u²*/*uq* 「持つ、存在する」 - 又 *ji̯ə̯u³*/*uh* 「さらに、また」 ### H. 派生形は複合語で使われる 1. - 巧 *kʰau²*/*khaewq* 「賢い、巧妙である」 - 淫巧 *i̯əm¹ kʰau³*/*jim khaewh* 「贅沢な扱い」(禮記・月令 11.29.21) 2. - 遣 *kʰi̯än²*/*khienq* 「送る」 - 遣車 *kʰi̯än³ tśʰi̯a¹* /*khienh tjhiae* 「供え物を運ぶための馬車」(禮記・檀弓 11.19.8) \ 遣奠 *kʰi̯än³ dʰien³* /*khienh denh* 「供え物」(禮記・禮運 12.5.17) 3. - 觀 *kuân¹*/*kwan* 「見る、見なす」(C1, A4も参照) - 觀臺 *kuân³ dʰậi¹* /*kwanh deoj* 「展望塔」(左傳・僖公9年 15.23.3) 4. - 騎 *gʰjie̯¹*/*gye* 「乗る」(A9も参照) - 騎賊 *gʰjie̯³ dzʰək*/*gyeh dzeok* 「馬に乗った盗賊」(左傳・宣公12年 17.1.20) 5. - 迎 *ngi̯ɐng¹*/*ngyaeng* 「会いに行く」(禮記・月令、陸注は無い) - 親迎 *tsʰi̯ĕn¹ ngi̯ɐng³* /*tshin ngyaengh* 「花嫁を迎える」(左傳・莊公1年 15.13.9、禮記・曲禮 11.11.11) 6. - 中 *t̑i̯ung¹*/*trung* 「中央」(B7も参照) - 中分 *t̑i̯ung³ pi̯uən¹* /*trungh pun* 「中央で分割する」(左傳・襄公14年 17.25.20) \ 夜中 *i̯a³ t̑i̯ung³* /*jiaeh trungh* 「真夜中に」(又;左傳・莊公7年 15.14.5) 7. - 濯 *d̑ʰåk*/*droeuk* 「洗う」 - 濡濯 *nuân¹ d̑ʰau³*/*nwan draewh* 「洗った後の汚水」(禮記・喪大記 13.14.2) 8. - 執 *tśi̯əp*/*tjip* 「掴む、捕らえる」(A32も参照) - 摯獸 *tśi³ śi̯ə̯u³*/*tjih sjuh* 「狩猟獣、凶暴な獣」(禮記・曲禮 11.7.9) 9. - 親 *tsʰi̯ĕn¹*/*tshin* 「愛する」 - 親家 *tsʰi̯ĕn³ ka¹*/*tshinh kae* 「婚姻による親戚」(『廣韻』) 10. - 出 *tśʰi̯uĕt*/*tjhwit* 「出現する」 - 出日 *tśʰwi³ ńźi̯ĕt*/*tjhwih njit* 「昇る太陽」(又;書・堯典 3.3.7) 11. - 從 *dzʰi̯wong¹*/*dzuong* 「従う」 - 從母 *dzʰi̯wong³ mə̯u²*/*dzuongh mouq* 「母の姉妹」(禮記・檀弓 11.15.21) \ 從弟 *dzʰi̯wong³ dʰiei²*/*dzuongh dejq* 「いとこ」(左傳・昭公25年 19.28.22) 12. - 生 *ṣi̯ɐng¹*/*sryaeng* 「出産する;生まれる」 - 雙生 *ṣång¹ ṣi̯ɐng³*/*sroeung sryaengh* 「双子」(又;左傳・昭公11年 19.11.11) 13. - 燒 *śi̯äu¹*/*sjiew* 「燃える」 - 燒石 *śi̯äu³ źi̯äk*/*sjiewh djiaek* 「調理用の石」(禮記・禮運 12.5.14) 14. - 守 *śi̯ə̯u²*/*sjuq* 「守る、維持する」(A51, F12も参照) - 守臣 *śi̯ə̯u³ źi̯ĕn¹*/*sjuh djin* 「担当官」(左傳・莊公14年 15.16.2) \ 守心 *śi̯ə̯u³ si̯əm¹*/*sjuh sim* 「伝統の意識」(左傳・宣公12年 17.3.21) \ 守犬 *śi̯ə̯u³ kʰiwen²*/*sjuh khwenq* 「番犬」(禮記・少儀 12.29.7) 15. - 畜 *χi̯uk*/*huk* 「(動物を)育てる」(A57も参照) \ 牧 *muk*/*mouk* 「群れる」 - 畜牧 *χi̯ə̯u³ mə̯u³*/*huh mouh* 「群れ」(左傳・昭公9年 19.9.18) 『*Grammata Serica*』(Karlgren 1957)は、『切韻』に従ってこの文字の読みを *mi̯uk*/*muk* としている。陸德明は、この箇所に対して「目 *mi̯uk*/*muk* のように発音する」と記しており、『切韻』と一致している。しかし、他の場所では 木 *muk*/*mouk* のように発音すると記している(例えば『禮記・王制』11.23.16)。後者の読みの方が、派生語の読みとよく一致すると考えられる。 ## 参考文献 - Haudricourt, André-George. (1954). Comment Reconstruire Le Chinois Archaïque. *Word & World* 10(2-3): 351–364. [doi: 10.1080/00437956.1954.11659532](https://doi.org/10.1080/00437956.1954.11659532) ⇒[日本語訳](/@YMLi/ry5lQanlT) - Karlgren, Bernhard. (1933). Word families in Chinese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 5: 9–120. - ⸺. (1949). *The Chinese language: an Essay on its Nature and History*. New York: Ronald Press. - ⸺. (1956). Cognate words in the Chinese phonetic series. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 28: 1–18. - ⸺. (1957). Grammata Serica Recensa: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 29: 1–332. - Kennedy, George. (1957). A Re-examination of the Classical Pronoun-forms ‘ngo’ and ‘nga’ 再論吾我. *Bulletin of the Institute of History and Philology Academia Sinica* 中央研究院歷史語言研究所集刊 28(1): 273–281. - Lu, Zongda 陸宗達; Yu, Min 俞敏. (1954). *Xiàndài Hànyǔ yufa* 現代漢語語法. Beijing: Qunzhong Shudian 群集書店. - Lu, Zhiwei 陸志韋. (1956). *Běijīng huà dānyīncí cíhuì* 北京話單音詞詞彙. Beijing: Rénmín chūbǎnshè 人民出版社. - Maspero, Henri. (1930). Préfixes et dérivation en chinois archaïque. *Mémoires de la Société de Linguistique de Paris* 23: 313–327. - Wang, Li 王力. (1936). Nán-běi cháo shīrén yòng yùn kǎo 南北朝詩人用韻考. *Tsing Hua Journal of Chinese Studies* 11: 783–842. Reprinted in Wang 1958: 1–76. - ⸺. (1957). *Hànyǔ shǐ gǎo* 漢語史稿. Beijing: Kēxué chūbǎnshè 科學出版社. - ⸺. (1958a). *Hànyǔ shīlǜ xué* 漢語詩律學. - ⸺. (1958b). *Hànyǔ shǐ lùnwénjí* 漢語史論文集. Beijing: Kēxué chūbǎnshè 科學出版社. - Yu, Min 俞敏. (1948). Lùn gǔyùn hé, tiē, xiè, mò, hé wǔ bù zhī tōngzhuǎn 論古韻合怗屑没曷五部之通轉 \[Word derivation in Archaic Chinese through the annexing of the suffix ‘d’]. *Yānjīng xuébào* 燕京學報 34: 29–48. - Yu, Wenbao 俞文豹. (1958). *Chuījiànlù quánbiān* 吹劍録全編. Beijing: Gǔdiǎn wénxué chūbǎnshè 古典文學出版社. - Zhou, Fagao 周法高. (1953). *Zhōngguó yǔfǎ zhájì* 中國語法札記 \[Notes on the Chinese Grammar]. *Bulletin of the Institute of History and Philology Academia Sinica* 中央研究院歷史語言研究所集刊 24: 197–281. - Zhou, Zumo 周祖謨. (1942). Tángběn Máoshīyīn zhuànrén kǎo 唐本毛詩音撰人考. In: Zhou 1957: 1–3. - ⸺. (1945). Sìshēng biéyì shìlì 四聲別義釋例. *Fǔrén xuézhì* 輔仁學誌 13(1–2): 75–112. Reprinted in Zhou 1957: 51–74. - ⸺. (1957). *Hànyǔ yīnyùn lùnwénjí* 漢語音韻論文集. Beijing: Commercial Press 商務印書館. [^1]: この分野の他の研究としては、Maspero(1930)、Yu(1948)、Karlgren(1956)がある。 [^2]: Maspero(1930: 327)や、後に俞敏もこの結論に達した(Lu and Yu 1954参照)。 [^3]: 特に断りのない限り、本論文ではKarlgren(1957)による中古漢語の転写を用いて単語を表記する。 [^4]: 周法高(Zhou 1953: 211)は、入声⇔去声・平声の交替と上声⇔去声の交替を別々に扱い、上古漢語では去声と入声は韻が異なるが声調が類似しており、去声・平声・上声は声調が異なるが韻が同じであったと仮定して、両方の交替に去声形が現れたと説明している。そのため、平声・上声・入声はすべて去声と「通用」する傾向があったという。しかしこれでは、平声と上声が同じように交替しない理由を説明できない。 [^5]: 例えば 與 について、上声の形は「本音」で、去声の形は「轉音」であるとしている(Zhou 1957: 54 \[1945])。 [^6]: 本論文では『經典釋文』の全ての項目ではなく、鄭玄による『禮記』の注釈と、杜預による『左傳』の注釈のみを用いる。 [^7]: その例は王力のリストから確認できる(Wang 1957: 213ff.)。 [^8]: 非去声メンバーを基本形として扱うのは、おそらく陸德明の時代に去声読みが一般的に廃れつつあったことと関係があるのだろう。詳細は後述。 [^9]: 別の文脈での例外として、終助詞における声調があるようである。Kennedy(1957: 276–277)参照。 [^10]: 例えば現代日本語の *-eru* で終わる動詞は、単純動詞が他動詞の場合は自動詞・受動態となり(例えば、*miru* : *mieru*, *toru* : *toreru*, *yaku* : *yakeru*, *kiru* : *kireru* など)、単純動詞が自動詞の場合は他動詞・使役となる(例えば、*komu* : *komeru*, *tatu* : *tateru*, *aku* : *akeru*, *iru* : *ireru* など)。したがって、これは去声派生のグループCとFに類似している。 [^11]: Maspero(1930: 326)は、声調の変化を接頭辞の影響として説明することを提案している。この可能性は低いと思われる。 [^12]: 特に表5の最後の4つの例は、『切韻』の変則的な去声韻に属しており、この可能性が高い。これらの韻の単語が六朝期まで末尾に閉鎖音を持っていたことを示す証拠(詩の押韻による)は豊富にある。Wang(1958b: 49–53 \[1936])参照。 [^13]: 最後の2つの例は、諧声関係などによれば、上古漢語では末尾に閉鎖音を持っていた。これについては、他の閉鎖音を持つ音節との違いを明確にする必要がある。その方法の一つは、単純に声調を上古漢語に遡らせることである。注25参照。 [^14]: 『禮記・檀弓』11.11.18(徐邈による読み)。 [^15]: 全ての声調の例を示した長いリストについては、Karlgren(1956: 9)を参照。 [^16]: これらの韻の関係については表4参照。 [^17]: 単純な去声派生語 *pi̯uən³*/*punh* 「安心させる」(D8)と比較されたい。 [^18]: 顧炎武と錢大昕については、Zhou(1957: 51–52 \[1945])とZhou(1953: 197)を参照されたい。段玉裁の考えは、彼の『説文解字注』における「好」や「食」などの項目における発言からも明らかである。 [^19]: 周祖謨はこの証拠に基づいて、その派生過程は漢代に始まったと結論づけた(Zhou 1957: 52 \[1945])。周法高は既にその推論の不合理性を指摘している(Zhou 1953: 209)。 [^20]: 上古漢語と中古漢語の読みは『*Grammata Serica*』(Karlgren 1957)から引用した。『*Grammata Serica*』に派生形が含まれていない少数の例では、同音異義語に去声の発音が見られることがある。 [^21]: 『*Grammata Serica*』(Karlgren 1957 #784)は、この系列のいくつかの文字の中古漢語の読みが不規則的であることを指摘している。この例では、派生形は規則的だが、基本形は不規則的である。 [^22]: 対応する上古漢語の形はないようである。 [^23]: この読みは『廣韻』にも見られるが、『切韻』の体系では非常に奇妙に視える。 [^24]: Karlgrenは、A20とD6の去声形の上古漢語の読みに唇音性の半母音を再構した。これは、他の数組の似たようなペアにも見られる(頭子音が不規則なのでリストには含めていない)。 | | 上古漢語 | 中古漢語(入声) | 意味 | 上古漢語 | 中古漢語(去声) | 意味 | | :--- | :------- | :---------------- | :--- | :------- | :--------------- | :--- | | 泣 | \*kʰli̯əp | > *kʰi̯əp*/*khyip* | 泣く | \*li̯wəd | > *ljwi³*/*lwih* | 涙 | | 立 | \*gli̯əp | > *li̯əp*/*lip* | 立つ | \*gi̯wɛd | > *jwi³*/*uih* | 位置 | この全ての場合について、\*-d で終わる形の唇音性の半母音を、元々の唇閉鎖音の末子音の痕跡とみなすことが可能である。その結果、元々の形に半母音を再構せず、\*nəb > \*nwəd > *nuậi³*/*nojh* となる。 しかしA32が示すように、唇音性の半母音は、全ての場合において元々の唇閉鎖音の痕跡として存在しているわけではない。その発生がランダムなのか、他のデータから判断できるのかはまだわからない(官話では、古代の唇音の末子音を示す唯一の痕跡として、いくつかの単語で合口母音が現れる場合がある;例えば、尋 *xún*, 淋 *lín*, 入 *rù*)。 [^25]: 去声派生の時代を上古漢語に求めると、Karlgrenの再構によれば、上記の場合の交替は声調間ではなく末尾の閉鎖音の清濁の交替であるという困難に直面する。これは派生体系の議論には影響しないが、音韻的記述の複雑さを増すことになる。しかし筆者は、上古漢語の時代でも、これらの単語は声調交替のケースとして説明するのが適切ではないかと考えている。この問題については今後の研究に譲る。 [^26]: 例えば、Karlgren(1949)のリストを参照。去声派生が比較的遅い時代のものであることを示すもう一つの証拠は、他の同源語ペアが通常異なる文字で書かれるのに対し、去声派生では単純形と派生形の両方に同じ文字が使われていることである。 [^27]: 最も詳しいリストは、賈昌朝『群經音辨』(宝元2年=紀元1039年までに完成)にある。これは『經典釋文』から2つ以上の読みを持つ文字を収集したものである。その他の宋代や元代に作られた同様の単語集は、歐陽德隆が編纂し、景定年間(紀元1264年)に郭正己が校訂した『押韻釋疑』に収められている。特にその序文を参照。またYu(1958: 75)も参照。 [^28]: 或兼職焉 *huò jiān zhí yān* 「それぞれの役割を兼ねるかもしれない」(『禮記・内則』12.13.17)。 [^29]: 周祖謨は別の文脈で、(徐邈が示した)入声読みを、韻を踏ませるための人為的な読みとしている(Zhou 1958: 1 \[1942])。しかし『左傳』においてこれは韻を踏む単語ではないので、おそらくこの読みは正真正銘のものだろう。 [^30]: E1とE9参照。『群經音辨』(注27参照)にはそれ以外にも多くの例が掲載されている。 [^31]: 例えば、『左傳・昭公27年』20.1.17, 18では、どちらの単語も基本形の声調で「手のひら」として使われている。 [^32]: 例えば、『左傳・昭公16年』19.17.15では、「複数の」という意味である。ここでは、現代の用法は陸德明の用法とは異なる。 [^33]: 彼の読みは非常に不可解なものが多い。例えば ⟨樂⟩ という字は、しばしば「音楽」ではなく「楽しい」を意味することが明らかであるにもかかわらず *ngåk*/*ngoeuk* と読まれることがある。