# 上古漢語の子音クラスター
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:pencil2: **編注**
以下の論文の和訳である。
- Jaxontov, Sergej E. (1960). Consonant combinations in Archaic Chinese. In: *Papers presented by the USSR delegation at the 25th International Congress of Orientalists, Moscow*. Moscow: Oriental literature publishing house. 1–17.
- Я́хонтов, Серге́й Е. (1963). Сочетания согласных в древнекитайском языке. In: *Труды двадцать пятого Международного конгресса востоковедов, Москва, 9-16 августа, 1960*. Moscow: Изд-во восточной лит-ры. vol. 5, 89–95.
原文には要旨・表見出しがないが、追加した。セクション立てには変更を加えた。誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。
中古漢語の形は、原文ではKarlgren(1940)の再構形を一部修正した表記が用いられているが、本訳文ではKarlgren(1957)の再構形を一部修正した表記に置換した。Karlgren(1957)の表記との違いは以下の通りである。
1. 有気音の記号「*‘*」は「*h*」に置き換える(原文同様)。
2. 曉母の記号「*χ*」は「*x*」に置き換える(原文同様)。
3. 本訳文では平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「Ⅱ」「Ⅲ」の上付き文字が用いられている。
4. 原文では、知組声母の表記「*t̑*」等が「*tʼ*」等に置き換えられ、合口介音の表記「*w*」が上付き文字「*ʷ*」に置き換えられている。本訳文ではKarlgren(1957)の通り表記する。
本文中でJaxontovが提案している上古漢語再構形の表記も上記に倣い、またアスタリスクを先頭に付加する。
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:pushpin: **要旨**
上古漢語の初頭子音体系の再構において諧声関係は重要な証拠となる。本稿では、音声的に類似していないにもかかわらず頻繁に同一諧声系列上に見られる子音のペア、(1)任意の子音と *l*、(2)無声摩擦音と共鳴音、について考察する。諧声系列を横断的に観察した結果、以下の結論が得られた。(1)は上古漢語の介音 \*-l- を含む子音クラスターに由来するが、この \*-l- は中古漢語において一等音節と二等音節の対立、精組声母と莊組声母の対立をもたらすものでもある。(2)は派生接頭辞 \*s- と共鳴音からなる子音クラスターに由来する。
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## 1. はじめに
我々は、上古漢語の初頭子音(声母)を判断する際、主に形声文字を証拠として使っている。
形声文字に分類される漢字は、複数の要素から構成される。そのうち「声符」と呼ばれる要素は、漢字全体のおおよその発音を示している。声符となる文字が単独で使用された場合、声符として機能する場合とほぼ同じように発音される。したがって、同じ声符を持つ漢字で書かれた単語は、漢字が作られた時代にはすべてほぼ同じ発音だった。同じ声符を持つ漢字(単独で使用する場合も含む)で書かれた単語のグループを「諧声系列」と呼ぶ。
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:pencil2: **編注**
原文では諧声系列を「графической группой」(図形のグループ)と呼び、中国語訳版では「字族」と翻訳されている。どちらもほとんど使われない用語であり、少なくとも現代では「諧声系列」と呼ぶ方が一般的である。
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1つの諧声系列に属する全ての単語が同じ子音で始まるとは限らない。通常、1つの諧声系列には、音声的に類似する ==が完全には同じではない== 子音で始まる複数の単語が含まれる。2つの音の差が小さければ小さいほど、1つの諧声系列内でこれらの音が交替して現れる頻度が高くなる。個々のケースでは、互いに共通点のない子音が交替することもある。原則として、このような交替は例外にとどまり、いかなる系列も形成しない。
しかし、異なる音の交替の中には、例外と考えるにはあまりに頻繁に見られるものもある。例えば、*k-* : *l-* や *m-* : *x-* の交替がそうである。
これらを説明するために、通常、上古漢語では、例えば \*kl- や \*xm- のように、1つの単語に2つの子音を組み合わせることが可能であったと仮定される。しかし、このような組み合わせの再構には一貫性がなく、子音クラスターの問題は、交替する音のペアごとに、時には交替が観察される諧声系列ごとに、個別に解決されている。
一方、再構が十分な説得力を持つのは、ある特定のケースではなく、多数の類似した事実に及ぶ、より広範な音声的規則性に基づいている場合に限られる。
本論文では、このような2つの大まかなパターンを、子音交替の2つのグループ、(1)任意の子音と *l* の交替、(2)鼻音と無声摩擦音の交替、に分けて検討する。
## 2. 任意の子音と *l* の交替
### 2.1 中古漢語の來母 *l-* 音節と二等音節の親和性
中古漢語では、すべての音節が4つの「等」に分類されていたことが知られている。三等と四等の音節は介音 *-i̯-* または *-i-* を含み、一等と二等の音節は主母音の質が異なっていた。二等は一等よりも前方または広い母音を持つ(一等は *â*, *ə*, *o*, *u* 、二等は *a*, *ε*, *ɐ*, *å*, *ă*)。さらに、介音 *-i̯-* が含まれる場合でも、非口蓋化シュー音(莊母 *tṣ-*, 初母 *tṣh-*, 崇母 *dẓh-*, 生母 *ṣ-*)で始まる音節は、常に二等に分類されていた。
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:bulb: **補足**
本論文の「等」は、韻図の配置に基づく分類、いわゆる「韻図等」の意味である。現在では中古漢語の理解が進み、『切韻』ベースの韻体系に従って再分類された等、いわゆる「中古等」が用いられる。
初頭子音が「非口蓋化シュー音」(莊母 *tṣ-*, 初母 *tṣh-*, 崇母 *dẓh-*, 生母 *ṣ-*)の音節は、「中古等」で言えば二等音節にも三等音節にも(それぞれKarlgrenの表記で介音 *-i̯-* が含まれない音節と含まれる音節)なり得る。しかし、これらの音節は後に音声的に接近したこともあって、韻図では常に二等に配置され、すなわち「韻図等」では全てが二等である。
全ての中古二等韻とKarlgren(1957)による表記を以下に示す(開口のみ)。
| 陰声 | 入声 | 陽声 |
| :------- | :-------- | :--------- |
| | 洽 *-ăp* | 咸 *-ăm* |
| 皆 *-ăi* | 黠 *-ăt* | 山 *-ăn* |
| | 覺 *-åk* | 江 *-ång* |
| 佳 *-ai* | 麥 *-ɛk* | 耕 *-ɛng* |
| 肴 *-au* | 狎 *-ap* | 銜 *-am* |
| 夬 *-ai* | 鎋 *-at* | 刪 *-an* |
| 麻2 *-a* | 陌2 *-ɐk* | 庚2 *-ɐng* |
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二等音節が初頭子音 *l-* で始まる ==(すなわち「來母」の声母カテゴリーに属する)== ことはほとんどない。董同龢の音韻表(Dong 1948)からわかるように、『説文解字』には *l-* を含む二等の単語は3つしかなく、そのうちごく一般的なのは 冷 *lɐng²*「寒い」の1つだけ(他の2つは 犖 *låk*「まだら模様の牛」と 醶 *lăm²*「酢」)である。
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:bulb: **補足**
- 冷 *lɐng²* については、『切韻』よりも早い反切資料では四等の読み *lieng¹* が与えられている。二等の読みは四等読みよりも遅れてできた(方言間借用等による)例外的な音である。打 *tieng²* → *tɐng²* はこれと並行する変化を経ている。
- 犖 *låk* と 醶 *lăm²* という読みは、Jaxontovが注記した意味の純粋な単語ではなく、実際にはオノマトペ 犖确 *låk ɣåk* 、醶䤘 *lăm² tṣhăm²* の一部である。どちらも第二要素と同じ韻であることに注意。
したがって例外は説明され、上古漢語から規則的音変化のみによって継承された単語が *l-* の二等音節になることは完全に無かったということができる。
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一方、*l-* 音節の単語と他の頭子音を持つ単語が同じ諧声系列に現れる場合、後者は(介音 *-i̯-* または *-i-* を持たない限り)ほとんどの場合、一等ではなく二等の音節である。(1)*l-* 音節の文字は、その他の子音を持つ二等音節の文字の声符になることがあり、(2)逆に、*l-* 以外の子音を持つ二等音節の文字が、*l-* 音節の文字の声符になることがある。最後に、(3)一つの文字が、*l-* 音節と、それ以外の子音の二等音節の両方を表すことがある。一方で一等音節は、*l-* 音節との関係を持たない。例えば、音節 *lân*(一等)は音韻的には音節 *kan*(二等)よりも音節 *kân*(一等)に近いが、(中古漢語において)*kan* と読む文字は音節 *lân* の声符になりうるのに対して、*kân* と読む文字はなりえない。表1はその例である ==(左列の数字は上記の1~3に対応)==。
:spiral_note_pad: **表1: 來母 *l-* 音節と二等音節が同じ文字・声符で表記される例**
| | 声符 | 単独の読み | 形声文字の例 |
| ---: | :--- | :----------------------- | :------------------------------------------- |
| 1 | 翏 | *li̯ə̯u³*, *lieu¹* | 膠 *kau¹*、嘐 *xau¹* |
| | 彔 | *luk* | 剝 *påk* |
| | 來 | *lậi¹* | 麥 *mwɛk* |
| | 婁 | *lə̯u¹*, *li̯u¹* | 數 *ṣi̯u²*, *ṣi̯u³*, *ṣåk* |
| | 麗 | *liei³* | 釃 *ṣie̯²*, *ṣi̯wo¹*、灑 *ṣai²*, *ṣie̯²*, *ṣa²* |
| 2 | 柬 | *kăn²* | 闌 *lân¹*、鍊 *lien³* |
| | 監 | *kam¹*, *kam³* | 濫 *lâm³* |
| | 降 | *kång³*, *ɣång¹* | 隆 *li̯ung¹* |
| | 卯 | *mau²* | 柳 *li̯ə̯u²*、留 *li̯ə̯u¹*、聊 *lieu¹* |
| | 史 | *ṣi²* | 吏 *lji³*、使 *ṣi²* |
| 3 | 鬲 | *liek*, *kɛk* | |
| | 樂 | *ngåk*, *lâk* | |
| | 龍 | *li̯wong¹*, *mång¹* | |
| | 率 | *ṣi̯wĕt*, *ṣwi³*, *li̯uĕt* | |
### 2.2 來母 *l-* 音節と一等音節の例外的関係
來母 *l-* 音節が一等音節と直接つながっているが、二等音節とはつながっていないケースもいくらか存在する。しかし、これらのケースはすべて、読みあるいは文字が登場したのが比較的遅い漢字を扱っている。
例えば、各 *kâk*「それぞれ」の文字は、洛 *lâk*(河川名)の声符となっているが、*kâk*「それぞれ」は一等音節である。しかし、⟨各⟩ という文字はもともと別の単語、*kɐk*「来る」(二等音節)を表すために作られたもので(Yang 1954)、後に*kâk*「それぞれ」に仮借されたにすぎない(その後、*kɐk*「来る」には ⟨格⟩ という文字が使われるようになり、その後完全に使われなくなった)。したがって、⟨各⟩ の古代の読み方は一等ではなく二等音節であった。
また 裸 *luâ²*「裸」は現代では 果 *kuâ²*「果実」を声符として表記されるが、*kuâ²*「果実」という単語は一等音節であり、二等音節ではない。しかし、⟨裸⟩ という表記は古い略字であり、『説文解字』によれば、もともとは 𧝹 *luâ²*「裸」と(異なる声符で)表記されていた。
さらに 谷 *kuk*「谷」(一等音節)については、韻書では *luk* という別の読み方が示されているが、この読み方(匈奴の称号 谷蠡 *luk ljie̯¹*)は漢代以前には見られないものである。
したがってこうした例は、初頭子音に來母 *l-* を持つ音節は表記の上で二等音節としか関係せず、一等音節とは関係しないという記述の反例とすることはできない。
### 2.3 二等音節の起源の考察
二等音節が上古漢語でどのようなものであったかについては、コンセンサスが得られていない。この問題に対してKarlgrenは、音節の種類によって異なる解決策を示している。董同龢は、すべての場合において、二等/三等/四等の母音は対応する一等音節のそれよりも前舌であったと考えている。しかし、上古漢語時代は、中古漢語時代とは異なり、一等と二等の区別は、韻部における音節の分布とは関係がなく、各韻部には通常4つの等すべての音節が含まれていた[^1]。したがって、一等音節と二等音節が異なる母音を持っていたとは考え難く、介音の有無によって区別されていたと考えられる。王力は、二等音節に介母音 *-e-*(合口音節では *-u-* の代わりとなる *-o-*)を再構している。
二等音節は、==中古漢語では== 表1で示したように來母 *l-* 音節と密接な関係があるため、==上古漢語では== 介音 \*-l- を伴う \*kl-, \*pl-, \*ml- などの子音クラスターで始まっていたに違いないと思われる。当然、このような子音クラスターを持つ音節は、音声的に *l-* 音節に近いため、それと同じ諧声系列に含まれる。さらに、二等音節の起源をこのように説明すると、頭子音 *l-* を持つ音節が二等に属し得ない理由が明らかになる。それはすなわち、頭子音 \*l- の後に介音 \*-l- が存在することはありえないからである。
漢語の二等音節に *l* のような音があったことは、例えば *l* や *r* に相当する音を持つ他の言語との比較によって確認できる場合がある(表2)。
:spiral_note_pad: **表2: 中古漢語の二等音節と他言語の *-l-*/*-r-* を持つ単語の比較**
| 文字 | 中古漢語 | 上古漢語 | 意味 | 他の言語 |
| :--- | :------- | :--------- | :--- | :--------------------------- |
| 八 | *pwăt* | < \*plat | 8 | チベット語 བརྒྱད་ *b-r-gyad* |
| 百 | *pɐk* | < \*plâk | 100 | チベット語 བརྒྱ་ *b-r-gya* |
| 馬 | *ma²* | < \*mlâ² | 馬 | ビルマ語 မြင်း *mrang²* |
| 江 | *kång¹* | < \*klong¹ | 川 | タイ語 คลอง *khlong*「運河」 |
| 甲 | *kap* | < \*klap | 甲羅 | チベット語 ཁྲབ་ *khrab* |
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:pencil2: **編注**
表2(原文では表ではなく箇条書き形式)のチベット語・ビルマ語・タイ語形のアルファベット表記は、「Ⅱ」の上付き文字を「²」に変更したことを除いて原文の表記を維持している。チベット語の翻字に含まれるハイフンが何を意味しているのかは明らかにされていない。
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このように、上古漢語の一等音節と二等音節は、二等音節が介音 \*-l- を持つのに対し、一等音節には介音がないという点で互いに区別されていた。同じ韻部内の一等音節と二等音節の主母音は同じであった。
その後、二等音節の介音 \*-l- は、何らかの半母音または母音(おそらく \*e)に置き換えられ、後者はさらに主母音に変化をもたらした。これは1世紀の初め頃に起こった。その時点で、いくつかの二等音節は、対応する一等音節と韻を踏まなくなった(例えば、魚部の二等音節は歌部に合流した)。
### 2.3 來母 *l-* 音節と三等・四等音節の関係
表3の例から判断できるように、介音 *-i̯-* または *-i-* を持つ音節でも、*l* を含む子音クラスターが可能であった。
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:bulb: **補足**
Jaxontovはここで「*-i̯-* または *-i-*」 と記しているが、表3でもそうであるように、二等音節と諧声関係を持つのはそのうち介音 *-i̯-* を持つ音節(三等音節)だけで、介音 *-i-* を持つ音節(四等音節)とは通常関係を持たない。
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:spiral_note_pad: **表3: 來母 *l-* 音節と三等・四等音節が同じ文字・声符で表記される例**
| | 声符 | 単独の読み | 形声文字 | 中古漢語 |
| ---: | :--- | :---------------- | :------- | :------- |
| 1 | 䜌 | *li̯wän³*, *luân¹* | 變 | *pi̯än³* |
| | 林 | *li̯əm¹* | 禁 | *ki̯əm³* |
| 2 | 兼 | *kiem¹* | 廉 | *li̯äm¹* |
| | 京 | *ki̯ɐng¹* | 凉 | *li̯ang¹* |
| | 品 | *phi̯əm²* | 臨 | *li̯əm¹* |
| | 文 | *mi̯uən¹* | 吝 | *li̯ĕn³* |
表3の子音 *k-*, *p-*, *ph-*, *m-* は、明らかに \*kl-, \*pl-, \*phl-, \*ml- クラスターに由来する。しかし、子音と介音 *-i̯-*, *-i-* の間にあった \*-l- は跡形もなく消えており、ほとんどの場合、主母音は変わっていない。
### 2.4 莊組声母の起源
非口蓋化シュー音(莊母 *tṣ-*, 生母 *ṣ-* 等)で始まる音節は、特別な状況を見せる。これらの子音を持つ音節は、介音 *-i̯-* を含む場合もあるが、常に二等に属する。二等音節は、既に述べたように上古漢語の介音 \*-l- を持つ音節に遡る。したがって、非口蓋化シュー音は、かつて \*-l- を含んでいた音節においてのみ生じたということになる。非口蓋化シュー音は、常にスー音 ==(精母 *ts-*, 心母 *s-* 等)== と ==諧声系列上で== 交替するため、スー音と *l* 音のクラスター(\*tsl-, \*sl- 等)に由来することは明らかである。このケースでは、 *l* 音は頭子音に変化をもたらしただけでなく、スー音を非口蓋化シュー音に変化させたのである。
### 2.5 上古漢語 \*l のまとめ
このように、*l* 音を伴う子音クラスターは、古くは中古漢語で二等に属するすべての音節に存在した。また、*l* 音を伴う子音クラスターは、多くの三等・四等音節(介音 *-i̯-*, *-i-* を含む音節)にもあったが、ほとんどの場合、*l* 音は跡形もなく消えてしまったため、(声符の証拠を利用することで)個々のケースでのみ再構することができる。
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:bulb: **補足**
本論文以前より上古漢語の \*Cl- クラスターの再構は行われていたが、それは個々の諧声関係を説明するための比較的アドホックなものだった。Jaxontovによる最大の貢献は、その *-l- が中古漢語の一等音節と二等音節の対立、精組声母と莊組声母の対立の要因でもあることを発見したことにある。
本論文の数年後、Pulleyblank(1962: 110–114)はさらに、中古漢語の三等重紐の対立、端組声母と知組声母の対立の要因でもあることを確認した(したがって本論文§2.3における三等音節では痕跡を残さず失われたという記述は部分的に誤りである)。李方桂(Li 1971 \[1980]: 24)とPulleyblank(1973: 116–117)は音価を \*-l- ではなく \*-r- に変更した。
Jaxontovの理論は、上記の2つの修正を経て、現在では広く受け入れられている(cf. Zhengzhang 1987: 75–77; Starostin 1989: 327 et passim; Baxter 1992: 258–269; Schuessler 2007: 80–87; Baxter & Sagart 2014: 213–215)。
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## 3. 無声摩擦音と共鳴音の交替
### 3.1 鼻音と無声摩擦音の交替の例の検証
初頭子音 *m-* と *x-* で始まる ==(すなわち、中古漢語においてそれぞれ「明母」と「曉母」の声母カテゴリーに属する)== 単語が同じ諧声系列に属する例はよく知られている(表4)。
:spiral_note_pad: **表4: 明母 *m-* 音節と曉母 *x-* 音節が同じ文字・声符で表記される例**
| 声符 | 単独の読み | 形声文字の例 |
| :--- | :--------- | :----------------------- |
| 勿 | *mi̯uət* | 忽 *xuət* |
| 亡 | *mi̯wang¹* | 荒 *xwâng¹* |
| 麻 | *ma¹* | 麾 *xjwie̯¹* |
| 無 | *mi̯u¹* | 幠 *xuo¹* (撫 *phi̯u²*) |
| 微 | *mjwe̯i¹* | 徽 *xjwe̯i¹* |
| 每 | *muậi²* | 晦誨 *xuậi³*、海 *xậi²* |
| 毛 | *mâu¹* | 秏 *xâu³* |
| 黑 | *xək* | 墨默 *mək* |
このような場合は通常、*x* 音は上古漢語の子音クラスター \*xm- に由来すると考えられている。
しかし、明母 *m-* と曉母 *x-* の交替は、1つの諧声系列の中に(中古漢語における)鼻音と無声摩擦音で始まる単語が同時に存在する唯一のケースではない。これ以外にも、鼻音はしばしば透母 *th-* (あるいは、かつての \*th- に遡る徹母 *t̑h-*)と交替する。表5はその例である。
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:pencil2: **編注**
Jaxontovは表5(原文では表ではなく箇条書き形式)で例となる文字をランダムに挙げているように見えるが、おおむね(1)疑母 *ng-* と非鼻音との交替、(2)疑母以外の鼻音と心母 *s-* または書母 *ś-* との交替、(3)疑母以外の鼻音と透母 *th-* または徹母 *t̑h-* との交替、さらにその内部では(a)鼻音声符が非鼻音を表す、(b)非鼻音声符が鼻音を表す、の順で例を挙げているように見える。この番号を左列に追加した。ただし、声符ではなくそれを含む形声文字(例えば 兒 *ńź-* ではなく 倪 *ng-*)に従って配列されているものもあり、最後の 戌~滅 の例はどれにも当てはまらない。
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:spiral_note_pad: **表5: 鼻音と無声摩擦音または透母 *th-* の音節が同じ文字・声符で表記される例**
| | 声符 | 単独の読み | 形声文字の例 |
| :--- | :--- | :----------------------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------- |
| 1a | 艾 | *ngâi³* | 餀 *xâi³* |
| | 義 | *ngjie̯³* | 羲 *xjie̯¹* |
| | 虐 | *ngi̯ak* | 謔 *xi̯ak* |
| | 嚴 | *ngi̯ɐm¹* | 玁 *xi̯äm²* |
| | 午 | *nguo²* | 汻 *xuo²* [^2]、許 *xi̯wo²* (杵 *tśhi̯wo²*) |
| | 玉 | *ngi̯wok* | 頊 *xi̯wok* |
| | 兒 | *ńźie̯¹* (倪輗霓 *ngiei¹*) | 鬩 *xiek* |
| | 堯 | *ngieu¹* (饒蕘 *ńźi̯äu¹*、撓 *ńau²*, *xâu¹*) | 曉 *xieu²*、燒 *śi̯äu¹* (澆驍 *kieu¹*、翹 *ghi̯äu¹*) |
| | 疑 | *ngji¹* | 癡 *t̑hi¹* |
| | 𡴎 | *ngi̯ät* (孼蠥櫱 *ngi̯ät*) | 嶭 *si̯ät* |
| 1b | 化 | *xwa³* | 訛吪 *nguâ¹* |
| | 卸 | *si̯a³* | 御 *ngi̯wo³* |
| 2a | 念 | *niem³* (稔 *ńźi̯əm²*) | 諗淰 *śi̯əm²* |
| | 女 | *ńi̯wo²* (如 *ńźi̯wo¹*) | 恕 *śi̯wo³*、絮 *si̯wo³*, *t̑hi̯wo³* |
| | 爾 | *ńźie̯²*, *niei²* [^3] | 璽 *sie̯²* |
| | 聶 | *ńi̯äp*, (*tśi̯äp*) (讘 *ńźi̯äp*) | 攝 *niep*, *śiäp*、欇懾 *śi̯äp* (, *tśi̯äp*) [^4] |
| | 藝 | *ngi̯äi³* (熱 *ńźi̯ät*) | 勢 *śi̯äi³*、暬褻 *si̯ät* |
| 2b | 襄 | *si̯ang¹* (饟 *śi̯ang³*) | 攘禳穰 *ńźi̯ang¹*、釀 *ńi̯ang³*、曩 *nâng²* |
| | 需 | *si̯u¹* | 儒濡 *ńźi̯u¹* |
| 3a | 能 | *nậi¹*, *nậi* | 態 *thậi³* |
| | 内 | *nuậi³* | 𢓇 *thuậi³* [^5] |
| | 若 | *ńźi̯ak* (諾 *nâk*、匿 *ńi̯ək*) | 婼 *t̑hi̯ak*、慝 *thək* |
| | 耳 | *ńźi²* | 恥 *t̑hi²* |
| | 難 | *nân¹* | 歎 *thân³*、灘 *thân¹*, *xân²*、漢暵 *xân³*、熯 *ńźi̯än²*, *xân³* |
| 3b | 丑 | *t̑hi̯ə̯u²* (羞 *si̯ə̯u¹*) | 狃紐 *ńi̯ə̯u²* |
| | 妥 | *thuâ²* (綏 *swi¹*, *swie̯³*, *xjwie̯³*, *thuâ³* [^6]) | 餒 *nuậi²*、桵 *ńźwi¹* |
| 4 | 戌 | *si̯uĕt* (怴 *xi̯uĕt*、烕 *xi̯wät*) | 滅 *mi̯ät* |
:::warning
:bulb: **補足**
Jaxontovは表5で、『王韻』や『広韻』よりも後期の韻書(おそらく『集韻』)から例を引用しているようである。後期の韻書ほど借用・類推・誤読等による不規則的発音や新語・俗語が増補される傾向にあるため、諧声関係に言及する場合に『集韻』から例を収集することは一般的ではないと思われる。『広韻』に存在しない読みについては注釈をつけた。
:::
このようなケースも、*m-* : *x-* の交替と同様、無声摩擦音 ==(および *th-*, *t̑h-*、以下同)== は例えば \*xng-, \*sn-, \*thn- などの子音クラスターに由来すると考えられる。
すべての子音交替が同じ頻度で起こるわけではないことに注意されたい。通常、1つの諧声系列には、調音位置を同じくする鼻音と非鼻音が含まれる。原則として、疑母 *ng-* は曉母 *x-* と、日母 *ńź-* は書母 *ś-* と、泥母 *n-*(および孃母 *ń-* < \*n-)は透母 *th-*(および徹母 *t̑h-* < \*th-)と交替する。鼻音のうち明母 *m-* だけが、調音位置が同じ音とではなく(上古漢語には *f-* のような音はまったく存在しなかった)、曉母 *x-* と交替する(より正確には、通常 *xu-* または *xw-* と交替する)。*ng-* : *t̑h-* と *n-*, *ńź-* : *x-* が交替するケースが3つあるが、これらの起源については未解決のままである。最後に、心母 *s-* は主に日母 *ńź-* と交替するが、しばしば他の鼻音とも交替する。しかし、その分布はもう一つの点で限られており、介音 *-i̯-* または主母音 *-i-*(これは上古漢語の介音 \*-i̯- を伴う韻に遡る)を含む音節にのみ出現する。
これらのパターンから、\*xm-, \*xng-, \*thn- などのクラスターは、第一子音はもともとどれも同じで、後続する第二子音(部分的には介音 *-i̯-*)の影響を受けて異なる音に変化しただけであることが示唆される。
これらのクラスターの元の音が、*x-*, *th-*, *s-* のどれかだったのか、あるいはそれ以外の音だったのかはまだわからない。
### 3.2 関連語ペアの証拠を用いた考察
多くの場合、鼻音に先行する音は単語を形成する接頭辞として機能した。つまり、表6のように、一方が鼻音で始まり、もう一方が無声摩擦音で始まる関連語のペアがある場合、それは2つの子音のクラスターに遡る。
:spiral_note_pad: **表6: 鼻音と無声摩擦音の関連語ペア**
| 鼻音字 | 中古漢語 | 意味 | 非鼻音字 | 中古漢語 | 意味 |
| :------- | :-------- | :--------------------- | :------- | :------------- | :----------------- |
| 墨 | *mək* | 墨 | 黑 | *xək* | 黒い |
| 亡 | *mi̯wang¹* | 無くなる | 荒 | *xwâng¹* | 空虚な、放棄された |
| 訛(譌) | *nguâ¹* | 変わる、偽の | 化 | *xwa³* | 変わる |
| 岸 | *ngân³* | 高い崖 | 厂 | *xân³*, *xân²* | 高い崖 |
| 蕘 | *ńźi̯äu¹* | 燃料として燃やされる草 | 燒 | *śi̯äu¹* | 燃やす |
同じ接頭辞は、(中古漢語において)*ṣ-* で始まり、*l-* の単語と関連する単語にも見出すことができる。
:spiral_note_pad: **表7: 來母 *l-* と生母 *ṣ-* の関連語ペア**
| 鼻音字 | 中古漢語 | 意味 | 非鼻音字 | 中古漢語 | 意味 |
| :----- | :------- | :--- | :------- | :------- | :------- |
| 吏 | *lji³* | 使者 | 使 | *ṣi²* | 派遣する |
| 林 | *li̯əm¹* | 森 | 森 | *ṣi̯əm¹* | 茂る |
我々は既に、*ṣ-* という音が子音クラスター \*sl- に由来することを知っている ==([§2.4](#24-莊組声母の起源))==。すなわち、使 *ṣi²* (< \*s-li̯ə²) や 森 *ṣi̯əm* (< \*s-li̯um) という単語は接頭辞 \*s- を伴っていた。どうやら、黑 *xək*「黒い」や 燒 *śi̯äu*「燃やす」のような単語でも、接頭辞はもともと \*s- と発音されていたようで、上古漢語の発音として 黑 は \*s-mək(チベット語 སྨག་ *s-mag*「暗い」参照)、燒 は \*s-ni̯ü などが再構されるべきであろう。したがって、上古漢語で鼻音の前に何らかの子音が想定できる単語では、その最初の子音は \*s- であった。
\*s- と共鳴音のクラスターは、さらに次のように発展した。
- \*sm- > \*xʷm- > 曉母合口 *x(ʷ)-*
- \*sng- > \*xng- > 曉母 *x-*
- \*sn- > \*thn- > 透母 *th-*, 徹母 *t̑h-*
- \*sń- > \*śń- > 書母 *ś-*
- \*sl- > \*ṣl- > 生母 *ṣ-*
さらに、半母音 *-i̯-* を含む多くの単語では、*-i̯-* の前で介音 \*-l- が脱落するのと同様に、\*s- の後の鼻音は痕跡を残さずに脱落した。
### 3.3 上古漢語 \*s + 共鳴音クラスターのまとめ
したがって、中古漢語で *x-*, *th-*, *t̑h-*, *ś-*, *s(i̯)-* で始まり、鼻音の単語と同じ諧声系列に属する単語は、上古漢語の \*s- と鼻音からなるクラスターで再構されるべきである。曉母 *x-* は同じ諧声系列内で明母 *m-* または疑母 *ng-* と交替し、それぞれ \*sm-, \*sng- に遡る。透母 *th-*, 徹母 *t̑h-*, 書母 *ś-* はそれぞれ泥母 *n-*, 孃母 *ń-*, 日母 *ńź-* と交替し、最初の2つは \*sn- に、最後のものは \*sń- に遡る。最後に、*s-* は任意の鼻音と交替することができる。
さらに、*x-*, *th-*, *t̑h-*, *ś-*, *s-* で始まる単語は、他の子音で始まる単語と文字上で関連がなくても、\*sm- タイプのクラスターが再構される可能性が非常に高い。ほんの一例を考えてみよう。
火 *xuâ²*「火」は形声文字ではなく象形文字で書かれているため、綴りから発音を判断することはできない。しかし、この単語はチベット語 མེ *me*「火」と同源である。また、『方言』という辞書は、斉の方言における「火」として 𤈦 *xjwie̯²* を記録している[^7]。この単語は声符 尾 *mjwe̯i²* によって表記されるため、上古漢語では \*sm- で始まっていたに違いない。この2つの事実に基づけば、火 という単語の上古漢語の発音は、\*s-mar² と再構できる。
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:bulb: **補足**
Jaxontovが挙げた交替のうち、本論文以前から知られている *m-* : *x-* 交替について、董同龢(Dong 1948:12–14)は *x-* の起源として \*xm- や \*sm- ではなく無声鼻音 \*m̥- を再構している。その後、Pulleyblank(1962: 92–93, 121)は董同龢の提案をその他の交替パターンにも拡張した。
現在ではJaxontovの理論ではなく董同龢・Pulleyblankの理論を支持する研究者が多いが(cf. Baxter 1992: 89 et passim; Schuessler 2007: 51; Baxter & Sagart 2014: 111–116)、その動機の一つは、Jaxontovが明言を避けた鼻音と心母 *s-* の交替パターンを説明するために \*s- +鼻音クラスターを再構するためである(Sagart & Baxter 2012)。
接頭辞の問題は歴史言語学の多方面と関連する可能性があるため、今後も進展が見られることは間違いない。
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## 4. 結論
以上のことから、上古漢語では次のような頭子音クラスターが再構できる。
1. 任意の子音とそれに後続する \*l のクラスター
2. \*s とそれに後続する共鳴音のクラスター
## 参考文献
- Dong, Tonghe 董同龢. (1948). Shànggǔ yīnyùn biǎogǎo 上古音韻表稿. *Bulletin of the Institute of History and Philology Academia Sinica* 中央研究院歷史語言研究所集刊 18: 1–249.
- Yang, Shuda 楊樹達. (1954). Shì “各” 釋各. In: *Jīwēi jū xiǎoxué shùlín* 積微居小學述林. Beijing: Zhongguo kexueyuan chubanshe 中國科學院出版. 69–70.
### 参考文献(追加)
- Baxter, William H. (1992). *A Handbook of Old Chinese Phonology*. Berlin, New York: De Gruyter Mouton. [doi: 10.1515/9783110857085](https://doi.org/10.1515/9783110857085)
- Baxter, William H.; Sagart, Laurent. (2014). *Old Chinese: A New Reconstruction*. Oxford: Oxford University Press. [doi: 10.1093/acprof:oso/9780199945375.001.0001](https://doi.org/10.1093/acprof:oso/9780199945375.001.0001)
- Jaxontov, Sergej E. (1959). Fonetika kitajskogo jazyka 1 tysjačeletija do n. e. (sistema finalej) Фонетика китайского языка I тысячелетия до н. э. (система финалей). *Problemy Vostokovedenija* Проблемы востоковедения 2: 137–147. ⇒[日本語訳](/@YMLi/SkmmxC7-a)
- Karlgren, Bernhard. (1957). Grammata Serica Recensa: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese. *Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities* 29: 1–332.
- Li, Fang-kuei 李方桂. (1971). *Shànggǔ yīn yánjiū* 上古音研究. *Tsing Hua Journal of Chinese Studies* 9: 1–61. Reprinted: Shāngwù yìnshūguǎn 商務印書館, 1980.
- Pulleyblank, Edwin G. (1962). The consonantal system of Old Chinese. *Asia Major* 9(1): 58–144, 9(2): 206–265. ⇒[日本語訳](/@YMLi/rJIytCsGT)
- ⸺. (1973). Some New Hypotheses Concerning Word Families in Chinese. *Journal of Chinese Linguistics* 1(1): 111–125. ⇒[日本語訳](/@YMLi/B1rIN7s56)
- Sagart, Laurent; Baxter, William H. (2012). Reconstructing the \*s- prefix in Old Chinese. *Language and Linguistics* 13(1): 29–59.
- Schuessler, Axel. (2007). *ABC Etymological Dictionary of Old Chinese*. Honolulu: University of Hawaii Press. [doi: 10.1515/9780824861339](https://doi.org/10.1515/9780824861339)
- Starostin, Sergej A. (1989). *Rekonstrukcija drevnekitajskoj fonologičeskoj sistemy* Реконструкция древнекитайской фонологической системы. Moscow: Izdatel’stvo ‘Nauka’ Издательство «Наука».
- Zhengzhang, Shangfang 郑张尚芳. (1987). Shànggǔ yùnmǔ xìtǒng hé sìděng, jièyīn, shēngdiào de fāyuán wèntí 上古韵母系统和四等、介音、声调的发源问题. *Wēnzhōu shīyuàn xuébào (Shèhuì kēxué bǎn)* 温州师院学报(社会科学版) 4: 67–90.
[^1]: ==:bulb: 「韻部」という概念の基礎的理解についてはJaxontov(1959)を参照。==
[^2]: ==:bulb: 通常の表記は ⟨滸⟩ である。『広韻』には 滸 *xuo²*「岸」および 汻 *xâng²*(姓)はあるが、汻 *xuo²* は無い。==
[^3]: ==:bulb: 爾 *niei²* という読みは『広韻』には無い。==
[^4]: ==:bulb: 『広韻』には 欇 *śi̯äp*(樹名)および 懾 *tśi̯äp*「怯える」はあるが、欇 *tśi̯äp* や 懾 *śi̯äp* は無い。==
[^5]: 『説文』に見られる ⟨退⟩ の異体字。
[^6]: ==:bulb: 綏 *swi¹*「落ち着かせる」以外の読みは『広韻』には収録されていない。『集韻』によれば後者3つの読みは全て同じ祭祀の名称のようであり、⟨隋⟩, ⟨墮⟩, ⟨挼⟩ 等の表記も存在する。==
[^7]: ==:bulb: 『方言』10.6。なお、ここでJaxontovは斉方言の 𤈦 の読みとして *xjwie̯²* を記しているが、『広韻』で斉方言の 𤈦 の読みとして与えられているのは *xjwe̯i²* だけであり、*xjwie̯²* という読みに対して斉方言という注釈は無く、かつ ⟨燬⟩ という文字で表記されている(すなわち、𤈦 *xjwe̯i²* および 燬 *xjwie̯²* はあるが、𤈦 *xjwie̯²* は無い)。『王韻』でもほぼ同様だが、燬 *xjwie̯²* の注釈には異体字として ⟨𤈦⟩ が挙げられている。==