# ベトナム語の声調の起源 :::info :pencil2: **編注** 以下の論文の和訳である。 - Haudricourt, André-George. (1954). De L’origine Des Tons En Viêtnamien. *Journal Asiatique* 242: 69–82. 原文には要旨・セクション見出し・表見出しがないが、英訳版を参考に追加した。引用された語形のうち誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。 ::: :::success :pushpin: **要旨** Maspero(1912)は、声調体系と子音クラスの関係の類似性に注目し、ベトナム語はタイ語族に属すると結論づけた。本稿ではその洞察を再検討し、中国語、タイ語、ヤオ語、ベトナム語は、いずれも声調を持たない祖語から独自に声調を形成したことを示す。ベトナム語、漢語、タイ語のデータから、初頭音の清濁と声調の対応関係を説明し、ベトナム語と他のモン・クメール諸語との比較から、音節末尾の喉音と声調の輪郭の関係を説明する。これにより、東アジア言語における声調形成の主要メカニズムが明らかになった。 ::: --- ## 1. はじめに ### 1.1. ベトナム語の分類問題――声調は適切な基準なのか? 1912年、Henri Masperoは以下の理由から、ベトナム語はモン・クメール語族ではなくタイ語族に属すると主張した。 1. 語族を定義する上で、声調体系は重要な指標である。同一語族の言語間、例えばタイ諸語のさまざまな方言間や、中国語のさまざまな方言間では、規則的な声調の対応が見られる。 2. 声調を持たない言語が声調を持つ言語から単語を借用する場合、例えばシャム語からクメール語への借用語に代表されるように、声調を借用することはない。 3. 声調と初頭音との関係は、ベトナム語とタイ諸語とで共通している。すなわち、初頭音において高子音(有気音/摩擦音)系列が区別され、これらは中子音系列を構成する通常の無声閉鎖音と同じような影響を声調に与えない。(Maspero 1912: 114–116) 1924年、Przyluskiは次のように指摘し、ベトナム語を再びモン・クメール語族に帰属させた。 > ある言語がどのような状況で声調体系を失ったり維持されたりするのかが理解されるまでは、言語の系統を決定する際に声調体系の喪失や維持を考慮に入れない方が無難である。(Przyluski 1924: 395–396) 最後に、1948年にCœdèsは次のように述べた。 > 私見では、ベトナム語の語彙が基本的にモン・クメール語的特徴を持つことも、声調体系が基本的にタイ語的特徴を持つことも、どちらも否定できない。したがって、真の問題は、声調を持たないモン・クメール語がタイ語の声調体系を採り入れた可能性が高いのか、タイ語がモン・クメール語の語彙を大量に採り入れた可能性が高いのかを判断することである。(Cœdès 1948: 72) 一般言語学の進歩は、言語の音の物理的実現(音声学の対象)の様々な側面とは対照的に、単語を区別するもの、すなわち「特徴的」なもの(音韻論の対象)の特別な重要性を浮き彫りにすることによって、Henri Masperoの研究の一部を有益に再検討し、G. Coedèsの問いに答えることを可能にしている。 ### 1.2. 中古漢語の声調の分析 まず、Masperoが声調についてどのように述べているかを見てみよう。 > 中国語の声調は単純な現象ではなく、高さと輪郭という2つの要素から成り立っていた。高さは初頭音に依存し、輪郭は少なくともある程度韻に依存していた。母音の音色や持続時間は関係ない。中古漢語では、2種の高さと4種の輪郭があった。無声初頭音は帯気性の有無にかかわらず高く、有声初頭音は低かった。4種の輪郭は、一般的に「四声」と呼ばれるものである。このように、声調体系の最も顕著な特徴は、初頭音の影響である。(Maspero 1912: 88–89) Masperoは注釈でこう付け加えている。 > このような疑問について徹底的に研究した中国人が、高子音系列と低子音系列を指す言葉を持っていないことは興味深い。これはおそらく、四声理論に重きを置いているためだろう。彼らは一般に「清」と「濁」という言葉を使うが、これは文字どおりには初頭音に適用され、それぞれ「無声音」と「有声音」を意味する。韻書では、高低による声調の区別はなく、無声音と有声音の初頭音を持つ単語が同じ韻目の中で混在している。(Maspero 1912: 89, note 2) Masperoの文章から推測できるのは、6世紀の中国人は自国語の8種の声調を分析する際、4種の輪郭と2種の高さに分解してしまい、4種の輪郭を表す言葉を作ったが、声調の高低を表す言葉はなかったということである。一方で、Masperoは初頭音と高低の対応を主張している。 > 実際には、極東諸語の特徴は、声調の存在自体ではなく(例えばアフリカ諸語など他の言語にも見られる)、初頭音がもともと無声音だったか有声音だったかによって声調の高低が決まるという、規則的なシステムにある。(Maspero 1912: 89, note 1) しかし、Masperoはその数行前で、「ほとんどすべての現代言語において、音韻論の発展は、この現象を認識できないほどの混乱をもたらした」と認めている。現代の言語学者にとっては、初頭音と声調の間に対応関係がないからこそ、つまり、同じ子音と母音で構成される音節が、言語の5~6種の声調のどれにもなり得るからこそ、広東語、ベトナム語、シャム語は5~6種の声調を持つ言語と言われるのである[^1]。 Maspero自身の記述に従えば、中古漢語では状況が異なっていた。初頭音に *k-* を持つ単語は3種の「高音」系列のどれかしか取ることができず、初頭音に *g-* を持つ単語は3種の「低音」系列のどれかしか取ることができなかった。同じ子音と母音からなる音節は、単語を形成するのに4つ以上の声調を選ぶことはできない。こうした状況から、現代の言語学者は、みな6世紀の中国人学者の観察に同調するだろう。音の高低と初頭音の関連は、他の言語でも見られ(例えばホッテントット語、Beach 1938)、無意識的で、純粋に音声学的な現象である。 中古漢語には9世紀まで3種類の声調しかなかった。その頃、有声閉鎖音 *g-*, *j-*, *d-*, *b-* は *k-*, *c-*, *t-*, *p-* に無声化した(帯気性の有無は方言や声調に依存)。この時点から、声調の高⇔低は、単語を区別するための対立的な音韻特徴となった。もともと、一方の初頭音が *k-* で、もう一方の初頭音が *g-* であったために区別されていた2つの単語は、同じ初頭音 *k-* を持つようになり、前述の高低だけで区別されるようになった。こうして、3声調が6声調になったのである。 ### 1.3. 中国語の声調体系とタイ諸語やベトナム語の声調体系の類似性 Masperoが中国語の声調体系とタイ諸語やベトナム語の声調体系との類似性を主張したのはまったく正しかった。タイ諸語に関する古い記述はないが、シャム文字によれば、12世紀ごろのタイ諸語には3種の声調と閉鎖音の清濁対立しかなかった。その後、中国語のように有声閉鎖音が無声化すると、3声調が6声調に分かれた。中国南部やベトナム北部のタイ語方言では、今でもこの6種の声調を識別できるが、シャム語では2つの声調が統合され、その数は5つに減っている。古タイ語(声調の分裂以前)では、3種の声調を表記するに必要な記号は2つだけだった。この記号「マイエーク(ไม้เอก *mai ek*)」と「マイトー(ไม้โท *mai tho*)」は、現在でもタイ語の正書法で使われている。 タイ諸語と中国語が共有する語彙[^2]を観察すると、次のような声調の対応関係を確立することができる。 📜**表1: タイ語と中国語の声調対応** | タイ文字 | 中国語 | | :-------------- | :----- | | (無表記) | 平声 | | マイエーク「◌่」 | 去声 | | マイトー「◌้」 | 上声 | ## 2. 古ベトナム語の3種の声調 Masperoは、ベトナム語の6種の声調が2つの系列に分けられることを示した(Maspero 1912: 95–96)。*ngang*[^3], *hỏi*, *sắc*の3つの声調から構成される系列は、かつての無声の初頭音に関連しており、もう1つの*huyền*, *ngã*, *nặng*の3つの声調から構成される系列は、かつての有声の初頭音に関連している。したがって古ベトナム語(10世紀以前)の状況は、タイ祖語や中国語と同じく、3種の声調があっただけであり、それらは初頭音の推移を経て2つに分割された。ここでは、その2つの現代反射の名前を連結することによってこれらの古い声調を示す。すなわち、それぞれ「*ngang-huyền*」「*hỏi-ngã*」「*sắc-nặng*」となる。 :::warning :bulb: **補足** 現代ベトナム語には以下の6声調がある。声調名自身がその声調を代表している。 1. *ngang* [33]:声調記号が書かれないことで表記される。 2. *huyền* [21]:グレイブ・アクセント「◌̀」で表記される。 3. *sắc* [35]:アキュート・アクセント「◌́」で表記される。 4. *hỏi* [313]:フック記号「◌̉」で表記される。 5. *ngã* [3ʔ5]:チルダ「◌̃」で表記される。 6. *nặng* [21ʔ]:下ドット「◌̣」で表記される。 なお、正書法で母音の表記に使われるブレーヴェ「◌̆」、サーカムフレックス「◌̂」、ホーン記号「◌̛」は声調記号ではないので注意されたい。 ::: 古ベトナム語の3声調とタイ祖語の3声調の対応関係は、Maspero(1912: 97)のリストに記載されているが、さらにいくつかの例を加えることができる。 ### 2.1. *ngang-huyền*(平声) :::info :pencil2: **編注** 以降の表では以下の変更を加えた。 1. 原文では「シャム語」(現代タイ語)形はタイ文字表記のみが示されているが、ここでは[セデス式ローマ字](https://en.wikipedia.org/wiki/C%C5%93d%C3%A8s_transliteration_of_Thai)による転写を追加した。声調1がマイエーク、2がマイトーを表す。 2. クメール語形はクメール文字表記のみが示されているが、ここではHeadley(1997)によるローマ字転写を追加した。 3. タイ祖語の形は斜体で示されているが、アスタリスク形に改めた。 4. 中古漢語形はKarlgren(1940)に基づく再構音が示されているが、ここでは[切韻拼音](https://phesoca.com/tupa/)に差し替えた。*-q* が上声、*-h* が去声を表す。 ::: 📜**表2a: 古ベトナム語の*ngang-huyền*の対応(Masperoの例)** | | ベトナム語 | シャム語 | タイ祖語 | 中古漢語 | | ------------ | ---------- | --------------- | --------------------------- | ---------- | | 叩く | *đâm* | ตำ *ṯāṃ⁰* | \*tam | | | 分ける | *băn* | ปัน *p̱an⁰* | \*pan | 分 *pun* | | 追従する | *noi* | โดย *toy⁰* [^4] | (クメール語 ដោយ *daoj*) | | | 傾く | *nghiêng* | เอียง *īeyṅ⁰* | (クメール語 អៀង *ʔiəŋ*) | | | 鉛 | *chì* | ชิน *jin⁰* | \*jɯn | 鉛 *jwien* | | 網 | *dò* | ยอ *yạ⁰* | | | | いかだ | *bè* | แพ *bee⁰* | \*be | | | 探検する | *mòng* | มอง *mạṅ⁰* | | | | 非難する[^5] | *đòn* | ทวน *dvan⁰* | (クメール語 ទោល *toul* 打つ) | | 📜**表2b: 古ベトナム語の*ngang-huyền*の対応(追加の例)** | | ベトナム語 | シャム語 | タイ祖語 | 中古漢語 | | ---- | ---------- | ---------- | -------- | ----------- | | 芋 | *môn* | บอน *pạn⁰* | \*˓ˀbɔn | | | 婦人 | *nàng* | นาง *nāṅ⁰* | \*˓naṅ | 娘 *nryang* | | 闇 | *mù* | มัว *mvă⁰* | \*˓muo | 霧 *muoh* | | 象牙 | *ngà* | งา *ṅā⁰* | \*˓nga | 牙 *ngae* | ### 2.2. *hỏi-ngã*(去声) 📜**表3a: 古ベトナム語の*hỏi-ngã*の対応(Masperoの例)** | | ベトナム語 | シャム語 | タイ祖語 | 中古漢語 | | -------- | ---------- | -------------- | --------------- | -------- | | 泉 | *mỏ* | บ่อ *pạ¹* | \*˓ˀbɔʾ | | | 居る | *ở* | อยู่ *yū¹* | \*˓ˀyuʾ | | | 蒔く | *vãi* | หว่าน *hwān¹* | \*hwaːnʾ | | | 咲く | *nổ* | หน่อ *hnạ¹* | \*hnɔʾ 芽生える | | | 膨らむ | *phỏng* | ป่ง *p̱aṅ¹* [^6] | \*puṅʾ | | | 稲田[^7] | *rẫy* | ไร่ *rai¹* | \*rayʾ | | | 穴 | *lỗ* | รู *rū⁰* | \*ru [^8] | | 📜**表3b: 古ベトナム語の*hỏi-ngã*の対応(追加の例)** | | ベトナム語 | シャム語 | タイ祖語 | 中古漢語 | | ---------- | ------------ | ---------- | ------------ | ------------- | | 機織り | *cửi* | กี่ *kī¹* | \*kiʾ | 機 *kyj* [^9] | | 馬に乗る | *cỡi* | ขี่ *khī¹* | \*khiʾ | 騎 *gye* [^9] | | 文字 | *chữ* | ชื่อ *jị̄ạ¹* | \*jɯʾ 名前 | 字 *dzyh* | | 豆 | *đỗ* | ถั่ว *thvă¹* | \*thuoʾ | 荳 *douh* | | 平手で叩く | *vả* | ฝ่า *p̱hā¹* | \*faʾ 手の平 | | | たらい | *ảng*, *ang* | อ่าง *āṅ¹* | \*aːṅʾ | 盎 *qangh* | | 浮かべる | *lõng* | ล่อง *lạṅ¹* | \*lɔːṅʾ | | これらの対応から、シャム語の祖先となったタイ語が紅河の北東で話されていた時代、そして古ベトナム語が3声調のみだった時代には、*hỏi-ngã*は古タイ語のマイエークや中古漢語の去声と同じ音声実現を持っており、すなわち下降調だったことがわかる。ベトナム語における中国語からの借用語も同じ対応関係を示している。 📜**表4: 古ベトナム語の*hỏi-ngã*と中古漢語の去声の対応** | | ベトナム語 | 中古漢語[^10] | | ---------- | ---------- | ------------- | | 委ねる | *gởi* | 寄 *kyeh* | | 籤 | *quẻ* | 卦 *kweeh* | | からし | *cải* | 芥 *keejh* | | 嫁がせる | *gả* | 嫁 *kaeh* | | 細切りの肉 | *gỏi* | 膾 *kwajh* | | 檻 | *cũi* | 櫃 *guih* | | 解放する | *thả* | 赦 *sjiaeh* | | 試す | *thử* | 試 *sjyh* | | 年 | *tuổi* | 歲 *swiejh* | | 野ウサギ | *thỏ* | 兔 *thoh* | | 帯 | *dải* | 帶 *tajh* | | 肺 | *phổi* | 肺 *phuojh* | | 励ます | *ủi* | 慰 *qujh* | | 正義 | *nghĩa* | 義 *ngyeh* | | 治療する | *chữa* | 助 *dzryoh* | | 箸 | *đũa* | 箸 *dryoh* | | かばん | *đãy* | 袋 *deojh* | | 帽子 | *mũ* | 帽 *mawh* | | 簡単な | *dễ* | 易 *jieh* | | 利益 | *lãi* | 利 *lih* | | 目立った | *lõ* | 露 *loh* | ベトナム語における中国語の借用語の重要性を考えると、ベトナム語とタイ諸語に共通する中国語起源の単語は、2つの言語が別々に借用したものではないのかと考えるかもしれない。タイ諸語とベトナム語が近縁ではないという仮説のもとでは、借用語は、中国の影響力がピークに達した紀元3世紀から6世紀にかけて存在した文化共同体の証拠となる。 ### 2.3. *sắc-nặng*(上声) Masperoが*sắc-nặng*に与えた対応関係を表5aに、その他の例を表5bに示す。 📜**表5a: 古ベトナム語の*sắc-nặng*の対応(Masperoの例)** | | ベトナム語 | シャム語 | タイ祖語 | 中古漢語 | | -------- | ----------- | ------------- | ---------------------- | ------------ | | 物音 | *tiếng* | เสียง *sīeyṅ⁰* | \*˓sieng 音 | 聲 *sjiaeng* | | 強い | *cứng* | แข็ง *khĕeṅ⁰* | \*ʿkhɛng | 彊 *gyang* | | 到着する | *đến* | ถึง *thịṅ⁰* | \*˓thɯng | | | 逃げる | *trốn* | ผลุน *phlun⁰* | | | | 敢えて | *dám* [^11] | ย่าม *yām¹* | \*ʿˀyaːm | | | 浸す | *chấm* | จิ้ม *cim²* | | | | バナナ | *chuối* | กล้วย *klvay²* | \*ʿkluoy | | | パン | *bánh* | แป้ง *p̱eeṅ²* | \*ʿpɛng | 餅 *piaengq* | | 歪める | *méo* | เบี้ยว *pị̄eyv²* | \*ʿˀbiew | | | 腹 | *bụng* | พุง *buṅ⁰* | | | | 曲がる | *quẹo* | เคี้ยว *gị̄eyv²* | | | | それ | *nọ* | นี้ *nī²* | \*ʿni | | | 借金 | *nợ* | หนี้ *hnī²* | \*ʿhni | | | 酒 | *rượu* | เหล้า *hlau²* | \*ʿhlaw | 酒 *tsuq* | | 鈎針 | *ngạnh* | เงี่ยง *ṅīeyṅ¹* | (クメール語 ងៀង *ŋiəŋ*) | | 📜**表5b: 古ベトナム語の*sắc-nặng*の対応(追加の例)** | | ベトナム語 | シャム語 | タイ祖語 | 中古漢語 | | ---------- | ---------- | ------------ | ---------- | ----------- | | クロスボウ | *ná* | หน้า *hnā²* | \*ʿhna | 弩 *noq* | | 空心菜 | *muống* | บุ้ง *puṅ²* | \*ʿˀbung | | | 市場 | *chợ* | ซื้อ *jị̄ạ²* | \*ʿzɯ 買う | 市 *djyq* | | 下 | *đáy* | ใต้ *ṯa̱i²* | \*ʿtəy | 底 *tejq* | | 迎えに行く | *đón* | ต้อน *ṯạn²* | \*ʿtɔːn | | | 不足する | *thiếu* | เสี้ยว *sīev²* | \*ʿsiew | 少 *sjiewq* | Masperoは、ベトナム語の*sắc*とシャム語の高子音系列の「無表記」の声調との対応関係を確立する上で、表5aの冒頭の数語が十分な説得力を持つと判断した。しかし、最初の2つのタイ語は中国語由来と思われ、2つ目の中古漢語は平声と上声の2つの声調の可能性がある。表6に示すように、上声の中国語の単語は、ベトナム語の*sắc-nặng*の単語になる。 📜**表6: 古ベトナム語の*sắc-nặng*の対応(追加の例)** | | ベトナム語 | 中古漢語 | | -------- | ---------- | ---------------- | | 感じる | *cám* | 感 *komq* | | 未亡人 | *goá bụa* | 寡婦 *kwaeq buq* | | 腰掛け | *ghế* | 机 *kyiq* | | 難しい | *khó* | 苦 *khoq* | | 巧みな | *khéo* | 巧 *khaewq* | | 紙 | *giấy* | 紙 *tjieq* | | 種類 | *giống* | 種 *tjuongq* | | 主人 | *chúa* | 主 *tjuoq* | | 叔母 | *thím* | 嬸 *sjimq* | | 草書体 | *tháu* | 草 *tshawq* | | 紫色 | *tiá* | 紫 *tsieq* | | 枡 | *đấu* | 斗 *touq* | | 比べる | *ví* | 比 *piq* | | 板 | *ván* | 板 *paenq* | | もともと | *vốn* | 本 *ponq* | | 瓦 | *ngói* | 瓦 *ngwaeq* | | 納める | *chứa* | 貯 *tryoq* | | 姓 | *họ* | 戶 *ghoq* | | 染める | *nhuộm* | 染 *njiemq* | | 耐える | *nhịn* | 忍 *njinq* | | 午年 | *ngọ* | 午 *ngoq* | | 酉年 | *dậu* | 酉 *juq* | | 拝礼する | *lạy* | 禮 *lejq* | | 全ての | *mọi* | 每 *mojq* | | 冷たい | *lạnh* | 冷 *laengq* | | 似ている | *tợ* | 似 *zyq* | したがって*sắc-nặng*は、漢語の上声と同様、上昇調であった。 ## 3. 中子音系列の存在がベトナム語とタイ語に共通する特徴であるというMasperoの主張の再検討 ### 3.1. タイ諸語およびこの地域の他の語族における中子音系列の出現 ベトナム語において初頭音の高子音系列と中子音系列を区別できるかどうかを議論する前に、本当に中子音系列の存在がタイ諸語に特有の特徴なのかどうかを検証してみよう。 Masperoは声調体系を不特定の過去に投影し、中子音系列の存在をシャム語でのみ維持されているタイ祖語の性質であると考えた(Maspero 1911; 1912: 99)。これに対して、動的な観点から事実を検証すれば、3声調体系から6声調体系への変化を引き起こした初頭音推移の際に、中子音系列がどのように区別されるようになったのかがわかる。タイ祖語の初頭音には、無声音 *p*, *t*, *k*, *ph*, *th*, *kh*, …, *hm*, *hn*, *hl*, … と有声音 *b*, *d*, *g*, …, *m*, *n*, *l*, … があった。ほとんどのタイ諸語では、*b*, *d*, *g* が *p*, *t*, *k* に無声化し、清濁の対立が声調の高低の対立に変化した。すなわち、*b*, *d*, *g*, …, *m*, *n*, *l*, … で始まる単語は低子音(低音調)系列に属し、*p*, *t*, *k*, …, *hm*, *hn*, *hl*, … で始まる単語は高子音(高音調)系列に属するようになった。しかし、シャム語(および近隣のラオス方言)では、有声閉鎖音 *b*, *d*, *g* が低音調を獲得する際に無声化されるだけでなく有気音化され *ph*, *th*, *kh* となった。タイ祖語の無声無気閉鎖音 \*p, \*t, \*k は、有声閉鎖音と混同されるおそれがないので、元の音高を変更する必要がなかった。すなわち、低子音系列との対立がないため、高子音系列には属さなかった。これらは「中子音系列」と呼ばれる中間的な系列を形成し、その無表記声調(=平声)は低子音系列と合流し、有表記声調は高子音系列と合流した。 チワン語[^12]では(Li 1944によれば)、有声閉鎖音は無声無気音になった(この言語に有気音は存在しない)ため、初頭音推移によって他の系列と合流しなかったのは前声門化音 *ˀb*, *ˀd*, *ˀy* だけだった。中子音系列はこの前声門化子音に限られ、その声調の一つ(タイ祖語のマイトーに対応する声調)は低子音系列の対応する声調と合流し、それ以外は高子音系列と合流した。 タイ祖語とチワン祖語には、無声共鳴音の系列が存在した(シャム語では *hm*, *hn*, *hñ*, *hl*, *hw* と表記される音として維持されているが、\*hr と \*hṅ は *h* に統合された)ため、かつての有声共鳴音は低子音系列に属し、無声共鳴音は有声化して高子音系列を構成した。一方、唐代の中国語では、共鳴音は通常の有声共鳴音系列しか存在せず、閉鎖音と摩擦音のみに清濁の対立があった。漢越語(漢字のベトナム語読み)では、共鳴音は有声音ではあるが、中子音系列を構成しており、その平声は高子音系列の*ngang*と合流し、それ以外の声調は低子音系列の*ngã*や*nặng*と合流した(Maspero 1912: 91–95)。 ヤオ祖語(ミャオ・ヤオ語族)では、閉鎖音と共鳴音の両方に、無声有気音・無声声門化音・有声音の3系列の初頭音があった。初頭音推移によって、まず声門化音と有声音が統合された。有声閉鎖音 *b*, *d*, *g* は無声音 *p*, *t*, *k* となり、声門化共鳴音 *ˀm*, *ˀn*, *ˀl* は有声音 *m*, *n*, *l* に変化した。これが現在のミエン方言の状態で、かつての有声音が低子音系列を、かつての声門化音が高子音系列を構成している。しかしムン方言では、有気共鳴音 *hm*, *hn*, *hl* が通常の有声音 *m*, *n*, *l* に変化し、かつての有気音は中子音系列を形成し、平声は高子音系列の平声と、上声は低子音系列の去声と、去声は低子音系列の上声と、入声は高音系列の入声と合流した(Haudricourt 1954)[^13]。 ### 3.2. ベトナム語に中子音系列は存在しない 中子音系列は、その一部の声調が低子音系列と合流する一方で、それ以外の声調が高子音系列と合流するという事実によって定義される。中子音系列は、高子音系列と低子音系列を形成する初頭音推移の際に生じるが、それが生じるかどうかは、その言語の初頭音体系による。 ベトナム語では*sắc*も*ngang*も高子音系列に属するので、*ngang*が予想される対応関係に*sắc*が現れることは、中子音系列の存在を証明するものではない。またこの現象は、後述するようにモン・クメール語の単語でも見られるので、初頭音推移よりも前の段階にあると思われる。最後に、中子音系列の存在は決してタイ諸語特有の性質ではない。 ## 4. 古ベトナム語の3声調の起源:モン・クメール語の無声調言語との比較 ここで、Maspero(1912: 91–95)が示したベトナム語とモン・クメール語の対応関係を調べてみると、彼の高子音(すなわち有気音)と中子音(すなわち無気音)の区別は、*sắc*と*ngang*の分布の問題を解決していないことがわかる。彼は、ベトナム語 *tám*「8」,*lá*「葉」,*lúa*「米」等 ==*sắc*の単語== が、いくつかの言語で有気音を持つことを発見した(モン語 *sla*「葉」,*sro*「米」、バナール語 *hla*「葉」、ムノン語 *pham*「8」)。しかし彼は、*cá*「魚」,*chấy*「シラミ」,*chó*「犬」,*bốn*「4」等 ==同様に*sắc*だが==、モン・クメール語が有気音を示さない単語も挙げている。一方、「年」を意味する単語は、バナール語とムノン語で *snam* だが、ベトナム語では *năm* で、その声調は*ngang*である。 それにもかかわらずMasperoは、*hỏi-ngã*の単語が、\*-s または \*-ś を起源とする無声摩擦音 *-h* で終わるモン・クメール語の単語と対応することをはっきりと見抜いていた。例えば、ベトナム語 *bẩy*:モン語 *tpah「7」,ベトナム語 mũi*:モン語 *muh「鼻」,ベトナム語 rễ*:モン語 *rüh*:ムノン語 *ries*「根」などである。 ベトナム語がもともと声調のないオーストロアジア語であったと仮定すると、*hỏi-ngã*がどのように生まれたのかがわかる。語末の摩擦音は、喉頭の急激な弛緩によって生じる喉音 *-h* となった。声帯の弛緩は、先行する母音のピッチの低下、すなわち下降調を生じさせた。この下降調は、最初は単なる語末 *-h* の音声的結果であったが、進化の過程で語末 *-h* が消失すると、その単語を特徴付ける音韻的声調となった。 *sắc-nặng*の起源についても、未発表のデータを用いて同様の説明ができる。オーストロアジア語族は、南部のモン・クメール語だけでなく、北部のパラウン・ワ語も含まれる(Shafer 1952)。ここから、H. G. Luce(ラングーン大学教授、ロンドン大学東洋学部講師)によって記録されたシャン州で話されるリアン語 ==:bulb: Glottolog: [rian1260](https://glottolog.org/resource/languoid/id/rian1260)==、K. G. Izikowitz(ヨーテボリ民族学博物館館長)によって研究されたラメート語 ==:bulb: Glottolog: [lame1256](https://glottolog.org/resource/languoid/id/lame1256)==、W. A. Smalley牧師(コロンビア大学の元学生)によって記録されたルアンパバーンのクム語 ==:bulb: Glottolog: [khmu1256](https://glottolog.org/resource/languoid/id/khmu1256)== を引用することができる[^14]。これらの言語では、ベトナム語において*sắc*や*nặng*を持つ単語に、語末声門閉鎖音が見られる。 📜**表7: ベトナム語の*sắc-nặng*と語末声門閉鎖音の対応** | | ベトナム語 | リアン語 | クム語 | | ------ | ---------- | -------- | ------ | | 葉 | *lá* | *laʔ* | *hlaʔ* | | 米 | *gạo* | *koʔ* | *rənkoʔ* | | 魚 | *cá* | *kaʔ* | *kaʔ* | | 犬 | *chó* | *soʔ* | *soʔ* | | シラミ | *chí* | *siʔ* | | :::info :pencil2: **編注** 原文ではリアン語とクム語の形のみが本文中に羅列されているが、ここではベトナム語形と合わせて表形式で示した。すぐ前の文章に反して、本論文でラメート語形は引用されていない。 ::: 母音に続く声門閉鎖音は、声帯の緊張の増加によって生じる(語末 *-h* とは正反対)。母音の調音中、語末の声門閉鎖音を予期して声帯の緊張が高まることで、上昇調が生じる。この声調は声門閉鎖音の音声的結果であるが、声門閉鎖音が消失すると、単語を区別するための真の音韻的声調となる。残念ながらパラウン・ワ諸語では、声門閉鎖音は語末に共鳴音を持つ単語には見られないため、リアン語 *pon*「4」はベトナム語 *bốn* の声調を説明することができない。しかし、この組み合わせは、チベット・ビルマ語であるルシャイ語では証明されている(Henderson 1948)ので、原理的には不可能ではない。 📜**表8: ベトナム語の声調の起源** | 初期教会時代</br>(無声調) | 6世紀</br>(3声調) | 12世紀</br>(6声調) | 現在 | | --------------------------- | ------------------- | -------------------- | ---- | | pa | pa | pa | ba | | sla > hla | hla | la | la | | ba | ba | pà | bà | | la | la | là | là | | pas > pah | pà | pả | bả | | slas > hlah | hlà | lả | lả | | bas > bah | bà | pã | bã | | las > lah | là | lã | lã | | paX > paʔ | pá | pá | bá | | slaX > hlaʔ | hlá | lá | lá | | baX > baʔ | bá | pạ | bạ | | laX > laʔ | lá | lạ | lạ | ## 5. おわりに このようなベトナム語の声調の起源は、タイ語との関係を否定するものではない。なぜなら当初は、タイ語の祖先も上古漢語もミャオ・ヤオ祖語も、声調を持ってなかった可能性が高いからである。語頭と語末の子音の変化による声調の発展は、4つの言語すべてで並行して起こったに違いない。これは中国語の文化的影響によるもので、その影響は借用語によって証明されている。 したがって、ベトナム語の遺伝的帰属は、基礎語彙によって確定されなければならない(Haudricourt 1953)。 ## 参考文献 - Beach, Douglas M. (1938). *Phonetics of the Hottentot language*. Cambridge: Heffer. - Benedict, Paul K. (1942). Thai, Kadai and Indonesian: a new alignment in southeastern Asia. *American Anthropologist* 44(4): 576–601. [doi: 10.1525/aa.1942.44.4.02a0004](https://doi.org/10.1525/aa.1942.44.4.02a00040) - Cœdès, George. (1948). Les langues de l’Indochine. *Conférences de l’Institut de Linguistique de l’Université de Paris* 1940–48(8): 63–81. - Haudricourt, André-Georges. (1950). Les consonnes préglottalisées en Indochine. *Bulletin de la Société de Linguistique de Paris* 46(1): 172–182. - ⸺. (1953). La place du viêtnamien dans les langues austroasiatiques. *Bulletin de la Société de Linguistique de Paris* 49(1): 122–128. - ⸺. (1954). Introduction à la phonologie historique des langues miao-yao. *Bulletin de l’École Française d'Extrême-Orient* 44(2): 555–576. [doi: 10.3406/befeo.1951.5185](https://doi.org/10.3406/befeo.1951.5185) - Henderson, Eugénie J.A. (1948). Notes on the syllable structure of Lushai. *Bulletin of the School of Oriental and African Studies* 12(3–4): 713–725. [doi: 10.1017/s0041977x00083300](https://doi.org/10.1017/s0041977x00083300) - Karlgren, Bernhard. (1940). *Grammatica Serica: Script and Phonetics in Chinese and Sino-Japanese*. Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities, Stockholm, 12. - Li, Fang-Kuei. (1944). The influence of primitive Tai glottal stops and preglottalized consonants on the tone system of Po-ai. *Bulletin of Chinese Studies* 4: 59–67. - Maspero, Henri. (1911). Contribution à l’étude du système phonétique des langues thaï. *Bulletin de l’École française d’Extrême-Orient* 11(1–2): 153–169. [doi: 10.3406/befeo.1911.2678](https://doi.org/10.3406/befeo.1911.2678) - ⸺. (1912). Études sur la phonétique historique de la langue annamite: Les initiales. *Bulletin de l’École Française d’Extrême-Orient* 12(1): 1–126. [doi: 10.3406/befeo.1912.2713](https://doi.org/10.3406/befeo.1912.2713) - ⸺. (1920). Le dialecte de Tch’ang-ngan sous les T’ang. *Bulletin de l’École Française d’Extrême-Orient* 20(2): 1–119. [doi: 10.3406/befeo.1920.5549](https://doi.org/10.3406/befeo.1920.5549) - ⸺. (1927–1935). Préfixes et dérivation en chinois archaïque. *Mémoires de la Société de Linguistique de Paris* 23(5): 314–327. - Przyluski, Jean. (1924). Les langues austro-asiatiques. In: Meillet, Antoine; Cohen, Marcel (eds.). *Les langues du monde*. Paris: Librairie Édouard Champion. 385–403. - Shafer, Robert. (1952). Études sur l’austroasien. *Bulletin de la Société de Linguistique de Paris* 48: 111–156. - Wulff, Kurt. (1934). *Chinesisch und Tai: sprachvergleichende Untersuchungen*. Det Kongelige Danske Videnskabernes Selskab. Historik-filologiske Meddelelser 20. 3. Copenhagen: Levin & Munksgaard. ### 参考文献(追加) - Haudricourt, André-Georges. (1961). Bipartition et tripartition des systèmes de tons dans quelques langues d’Extrême-Orient. *Bulletin de la Société de Linguistique de Paris* 56(1): 163–180. - Izikowitz, Karl Gustav. (1951). *Lamet: Hill Peasants in French Indochina*. Göteborg: Etnografiska Museet. - Shorto, Harry Leonard. (2013). *Riang-Lang Vocabulary: Compiled from the materials collected by G. H. Luce*. Canberra: Asia-Pacific Linguistics. - Smalley, William Allen. (1961). *Outline of Khmuʔ Structure*. New Haven: American Oriental Society. [^1]: 説明を簡単にするため、ここでは非入声音節、つまり有声音(母音または鼻音)で終わる音節のみを考える。*-k*, *-t*, *-p* で終わる音節は、広東語や中古漢語では異なる声調を持つものとして扱われる。このため、広東語には9種の声調があり、中古漢語には8種の声調があったと言われている。 [^2]: 共有語彙のリストは元々、Maspero(1920: 62, 68, 84, 86, 94, 117; 1927–1935: 321–322)とWulff(1934: 171–187)によって、系統関係の仮説に基づいて確立されたものである。しかし、私はBenedict(1942)に従ってこれらが借用語であると考えており、そのためこのリストは依然として有効である。 [^3]: Masperoは、正書法で声調記号が書かれないことによって示される声調を「*bằng*」と呼称したが、「*bằng*」は実際には中国語「平 *píng*」のベトナム語読みであり、これは*ngang*と*huyềnの*2つの声調を合わせたものを指す。 [^4]: Masperoは、この単語をタイ語の固有語と考えていた。彼はこれをアホーム語やシャン語のある単語と比較したが(Maspero 1912: 64)、シャン語の単語の声調から、それは実際にはシャム語 ด้วย *tvay²* 「~も」に対応することがわかった。Masperoはここに、ベトナム語辞書には見られない *mo* 「撫でる」という単語を加えている。 [^5]: 正しい意味は「棒、長柄、竿」である。==:bulb: クメール語 ទោល *toul* は名詞「高さ、厚さ」または形容詞「孤立した、孤独な」で、本論文の「打つ」(原文では“frapper”)の出典は不明である。== [^6]: ==:bulb: 現在では โป่ง *p̱oṅ¹* と表記される。== [^7]: 正しい意味は「焼畑」である。 [^8]: Masperoはこの単語を誤って仄声としているが、正しくは平声である。マイエークの付いた รู่ *rū¹* は「引っ掻く、擦る」という意味である。 [^9]: 「機織り」と「乗る」は興味深いことに、ベトナム語とタイ語は去声で一致しているが、韻書が示す中国語の声調(平声)とは異なっている。 [^10]: ベトナム語 *g-* [ɣ-] と中古漢語 *k-*、ベトナム語 *d-* [ð-] と中古漢語 *t-* の対応については、既に別の論文で指摘した(Haudricourt 1950: 180–181)。 [^11]: Masperoはシャム語で「侮辱する」を意味する หยาม *hyām⁰* を挙げている。ここで示した単語 ย่าม *yām¹* は、意味的により満足のいくものである。ただしこの綴りは語源的ではなく、หย้าม *hyām²* と書かれるべきである。==:bulb: 低子音系列のマイエークと高子音系列のマイトーは下声として合流したため、綴りが入れ替わる可能性がある。== [^12]: ==:bulb: Haudricourtはチワン語(原文では“Dioi”)を、本稿で「タイ語(族)」と呼ばれるグループの内部に属する言語ではなく、より高次の関係にある言語と捉えていた(Haudricourt 1956)。== [^13]: ==:bulb: 後のHaudricourt(1961)にも中子音系列の発展に関する記述があるが、このヤオ語ムン方言における中子音系列の存在の主張は放棄されている。== [^14]: ==:bulb: Luceのリアン語のデータは、Shortoが1960年に書き写したものが出版されている(Shorto 2013)。Izikowitzのラメート語のデータは本論文より先に既に発表されていた(Izikowitz 1951)。Smalleyのクム語のデータは1961年に発表された(Smalley 1961)。==