# 中国語の単語家族に関する新しい仮説 :::info :pencil2: 編注 以下の論文の和訳である。 - Pulleyblank, Edwin G. (1973). Some New Hypotheses Concerning Word Families in Chinese. *Journal of Chinese Linguistics* 1(1): 111–125. 原文にはセクション立て・表見出しがないが、追加した。誤植と思しきものは、特にコメントを付加せずに修正した。また、引用された単語の形について、以下の修正を加えた。 - EMCとLMCの有気音の記号「*‘*」は「*ʰ*」に置き換える。 - EMCとLMCの平声を「*¹*」、上声を「*²*」、去声を「*³*」で表記する。原文では平声は無表記、上声と去声は「ˊ」「ˋ」で表記されている。 - チベット語とビルマ語の表記はHill(2019)に従う。 ::: :::success :pushpin: **要旨** 上古漢語には、意味的に関連し、発音が同一ではないものの似ている単語の集合があることが以前から明らかになっていた。Karlgrenは、このような「単語家族」は形態論的過程の遺物であると推測したが、その過程がどのようなものであったかを復元することは不可能であると結論づけた。しかし、上古漢語の再構が進んだことで、これらの過程の少なくともいくつかの性質がわかるようになった。最もよく確立されている接辞は、(a)接尾辞 \*-s で、これは去声として中古漢語にその反射を残している。(b)チベット語のアチャンと同源であり、語頭阻害音の清濁交替を生じさせる接頭辞 \*ɦ- や、(c)接頭辞 \*s-、(d)接頭辞 \*r- も同定できるかもしれない。また、(e)主母音の広狭(\*ə/\*a)アプラウト、(f)音節内のアクセント前後位置の交替も存在した。そして、このような形態論的過程では容易に説明できないようなより遠い単語家族関係は、音節単位を形成するために結合できる単子音の根形態素が存在した段階を反映しているのかもしれない。これは北西コーカサス語およびインド・ヨーロッパ語と比較できる。 (原注:本稿は、1971年1月にキャンベラで開催された第28回国際東洋学者会議で発表され、プレプリントとして *Unicorn* 9: 1–19に掲載された『*Word Families in Chinese: A Reconsideration*』と題する論文の改訂版である) ::: --- ## 1. 序論 中国語のいわゆる「孤立」形態素間の同源関係の認識は古くからあったが、中国語研究の他の多くの側面と同様に、この問題はBernhard Karlgrenの研究によって新たな定義を受け、現在でも一般的に彼がこの問題を説明するために使った用語で研究されている。Karlgrenは、その代表的な論文『*Word Families in Chinese*』(1934)の中で、同源と思われる単語を数多く収集し、音も意味も関連していると思われるこれらの単語を「単語家族」と呼んだ。また、上古漢語(「Archaic Chinese」)の再構に見られた音韻的交替をいくつかの見出しの下に分類したが、それに関わる形態論的過程の性質を分析しようとはしなかった。彼は『The Chinese Language』(1949)の中で、最も一般的な3つの交替を分離したが、同じ交替が動詞から名詞を派生させることもあれば、名詞から動詞を派生させることもあると指摘し、アクセス可能な最も古い時期に見られた状況は、すでに長い進化の結果であったに違いないと結論づけ、その根底にある本来の形態論的過程を発見できる望みはほとんどないとした。さらなる貢献は『*Cognate words in the Chinese phonetic series*』(1956)という論文でなされた。 ## 2. 去声派生(接尾辞 \*-s) 単語家族が生まれる過程を徹底的に分析するという究極の目標にはまだほど遠いものの、ある程度の進展は見られる。Karlgrenは当初、この問題について声調に関する疑問を無視していた。しかし、この分野で初めて確かなブレークスルーが達成された。単語ペアの間では、去声と他の声調(平声、上声、入声)の間の交替が頻繁に見られる。かねてより何人かの研究者が、これには規則的な形態論的過程が関係しているのではないかと考えてきたが、最初に徹底的な研究を行ったのは間違いなくDowner(1959)である。彼は、陸徳明『経典釈文』(7世紀初頭)から、このような声調に関連する単語ペアの例を大量に収集し、その交替の意味論によって8つのカテゴリーに分類した。 その変化の多様性(動詞の名詞化、名詞の動詞化、使役形成、受動・中動形成など)にはいささか驚かされるが、Downerは、一般的に非去声形をベースとし去声形を派生語とみなす必要があることを、非常に説得力のある形で示すことができた。この問題の音声学的側面に関する限り、Downerはその過程を単に声調の変化とみなすことに満足した。おそらく彼は広東語の「変音」を念頭に置いていたのだろう。これは、王 「王」(平声)→「王である」(去声)、好 「良い」(上声)→「好む」(去声)のような、平声・上声から去声への変化には納得がいくかもしれないが、惡 「悪い」(入声、*-k* で終わる)→「憎む」(去声、末子音を持たない)のように、ベースが入声であった場合には説得力に欠ける。語末に閉鎖音を持つ単語は、中国語では慣例的に明確に入声または去声に属するものとして扱われるが、これは現代の音声学理論における用語としての「声調」とは明らかに異なるものである。つまり、入声から去声への変化には、単に音程や輪郭の変化だけでなく、語末音素の変化が必然的に伴うのである(このことは中古漢語の他の「声調」にも当てはまったかもしれないが、入声の場合に最も顕著である)。 実際には、別の音声学的な説明が既にHaudricourt(1954a; b)によって提案されていた。彼は、モン・クメール諸語の同源語に基づいて、ベトナム語における中国語の去声に対応する声調は語末 \*-h (さらに以前の \*-s に遡る)に由来する可能性があることを示した。Haudricourtはさらに、中国語でも同じことが言え、それだけでなく \*-s は中国語において派生接尾辞であったと提案した。[^1] それ以来、さまざまな情報源から、Haudricourtの推測を裏付ける証拠が蓄積されてきた。一方では、中国語における去声派生の役割は、古典チベット語の接尾辞 *-s* と比較することができる[^2]。チベット語 *-s* は、(1) བྱེད་པ་ *byed-pa* 「作る」の完了形 བྱས་ *byas* や དབྱུག་པ་ *dbyug-pa* 「投げる」の完了形 དབྱུགས་ *dbyugs* のように動詞の完了形を特徴づけることもあれば、(2) འགེབས་པ་ *ḫgebs-pa*, 完了形 བཀབ་ *bkab* 「覆う」のように現在形に現れることもあり、(3) བགོ་བ་ *bgo-ba* 「着る」から派生した གོས་ *gos* 「衣服」のように動詞から派生した名詞に現れることもある。ラサ方言では、語末 *-s* が失われたことにより急激に下降する声調が生まれたという点で、音声的発展も並行している。それとは全く別の角度から見ると、中国語では紀元3~4世紀の時点で、非中国語の地名の転写や仏典翻訳の最も古い層に、特定の韻において語末の歯擦音が残っていたという明確な証拠があることが示されている(Pulleyblank 1962)。その前者の例としては以下のようなものがある。 1. 都賴 EMC[^3] *tɔ¹-laj³* < \*ta-las: 中央アジアのタラス川 *Talas* の名称(『漢書・傅常鄭甘陳段傳』70.6b) 2. 罽賓 EMC *kiaj³-pjin¹* < \*kɨas-pin: カシミール \*Kaśpir = *Kasmir*、ギリシャ語 Κάσπειρα *Káspeira* 参照(『漢書・西域傳上』96A.23a) 3. 對馬 EMC *toj¹-maṛ¹* < \*tos-: 対馬 *Tsushima* < \*Tusima (『三國志・魏書・倭人傳』30.44a) 後者の例には以下がある。 1. 舍衞 EMC *ɕiaṛ¹-wiej³* < \*-wɨas: プラークリット \*Ś\(r)avas- ==:bulb: ガンダーラ語 𐨭𐨬𐨯𐨿𐨟𐨁 *Śavasti*== = サンスクリット *Śrāvasti* 2. 波羅奈 EMC *pa¹-la¹-naj³* < \*-nas: プラークリット \*vārānaz(i) ==:bulb: ガンダーラ語 𐨦𐨪𐨣𐨯𐨁 *Baranasi*== = サンスクリット *Vārāṇasī* 3. 三昧 EMC *sam¹-moj³* < \*sam-məs: プラークリット \*samād(i) ==:bulb: ガンダーラ語 𐨯𐨨𐨯𐨁 *samasi* \[səmaːzi]== = サンスクリット *samādhi* 上記のプラークリット形はBailey(1946)から引用した。興味深いことに、彼は既に中国語の *-i* の二重母音の最後のわたり音と、外国語の歯擦音や歯摩擦音の表現との関連性を推測していたが、その全てのケースで対象の音節が去声であったことに気づかなかった。その他の同様の例はPulleyblank(1962)に挙げた。これらの例はすべて、Karlgrenが上古漢語に \*-d を再構した韻に由来するもので、紀元300年頃かその少し後までの転写では、このような単語はどこに出てきても、その解釈に語末の歯擦音が関係していることがわかる(無論、外国語の原語が特定できない場合もあるが)。 このように、まったく独立したさまざまな方向からの証拠が収束していることから、我々は正しい道を歩んでいる可能性が極めて高い。去声は、声調として中国語でもベトナム語と同様に語末の歯擦音から発展しただけでなく、形態論的カテゴリーとして古典チベット語の *-s* と同源の接尾辞 \*-s を表していることがわかった。中国語の \*-s とチベット語の *-s* の同定は非常に重要であり、中国語とチベット語を単に語彙的な対応関係によってではなく、インド・ヨーロッパ語族のように形態論的パラダイムによって関連づけられる可能性を初めて明確にしたのである。また、他にもチベット語の接辞の中から中国語の同源語を探し出し、チベット語を上古漢語や漢祖語を再構するための類型論的モデルとして用いることに、より自信を持てるようになる。 ## 3. 清濁交替(接頭辞 \*ɦ-) 中国語におけるもう一つの有力なチベット語の接辞との同源性の候補は、中国語ではかなり一般的な、頭子音における有声音と無声音の交替にある。このような交替が頻繁に見られることはKarlgrenらによってすでに指摘されている。去声派生の場合と同様に、頭子音の清濁交替はさまざまな意味上の違いと関連している。一般的なタイプとして、以下の例のように、無声音を持つ他動詞と有声音を持つ自動詞または状態動詞が対比されるものがある(読みはPulleyblank 1970–71によるLMC)。 :spiral_note_pad: **表1: 無声音の他動詞と有声音の自動詞の交替例** | | 無声音 | 意味 | 有声音 | 意味 | | :--- | :-------------- | :----------------- | :------------- | :-------------------------- | | 見 | *kjian³* | 見る | *xɦjian³* (現) | 見える、現れる | | 敗 | *pjaj³* | 打ち負かす | *pɦjaj³* | 敗北する、破滅する | | 被 | *pʰij¹* | 被る | *pɦij³* | 覆われる | | 壞 | *kwaj³* | 壊す | *xɦwaj³* | 破壊される、崩壊する | | 解 | *kjaj²* | 解く | *xɦjaj²* | 解放される、緩む | | 繫 | *kjiaj³* | 縛る | *xɦjiaj³* | 縛られる | | 屬 | *tsryok* (囑) | 付ける、指示する | *srɦyok* | 付く、所属する | | 折 | *tsriat* | 曲げる、壊す | *srɦiat* | 曲がる | | 張 | *triaŋ¹* | 伸ばす | *trɦiaŋ¹* | 長い (長 *triaŋ²* 成長する) | | 增 | *tsəŋ¹* | 足す、倍にする | *tsɦəŋ¹* (層) | 階層、倍 | | 挾 | *kjap* | 絞る | *xɦjap* (狹) | 狭い | | 覆 | *fuk* (< *pʰ-*) | 覆す、繰り返す | *fɦuk* | 戻る | | 著 | *triak* | 据える | *trɦiak* | 位置する | | 検 | *kiam²* | 制御する、制限する | *kɦiam²* (倹) | 制限された、質素な | | 降 | *kjɔŋ³* | 下げる | *xɦjɔŋ¹* | 服従する | これはチベット語の接頭辞アチャン *ḫ-* (「有声のh」とも呼ばれる)の機能と比較することができる。これは特に自動詞の形成に関連しており、例えば འགྲིབ་བ་ *ḫgrib-ba* 「薄暗くなる」は གྲིབ་ *grib* 「影」から、འགྲོགས་པ་ *ḫgrogs-pa* 「一緒にいる」は གྲོགས་ *grogs* 「友人、仲間」から派生した ==:bulb: これらは名詞から派生するものであり、他動詞から派生する漢語と比較できるかどうかは疑わしい==。音声学的には、中古漢語のいわゆる濁音声母、すなわち有声閉鎖音・摩擦音の頭子音は、上古漢語における有声音の接頭辞 \*ɦ- から生まれたと考えるのが非常に妥当である。この濁音声母は、Karlgrenが ==上古漢語に== 単なる有声音ではなく有声有気音を再構したもので、呉語では音声学的には無声閉鎖音・摩擦音の後に有声有気音が続き、LMCでもそのように分析するのが最善である。EMC(唐以前、7世紀)の証拠からすると完全な有声音と考えるのが好ましいが、これは同じ方言の初期段階ではなく、方言の違いを反映しているのかもしれない。 この濁音声母の起源に関する説は、一部の学者に閩祖語(ひいては漢祖語)に4種類の閉鎖音の対立を仮定させた、閩語方言の特殊性を説明することができると私は信じている。官話では、濁音声母は一方では無声有気音になりもう一方では無声無気音になったが、どちらになるかは声調によって完全に規則的である。それ以外の濁音声母を失った方言(閩語を除く)では、有気音⇔無気音の区別について必ずしも官話とは一致しないが、どちらになるかを決める規則があるという点では共通している。しかし閩語では、声調に関係なく有気音と無気音の反射が見られる(Yuan 1960: 259–260)。これは、上古漢語(あるいは漢祖語)には無声有気音・無気音(\*p, \*pʰ など)のみが存在し、接頭辞 \*ɦ- はどちらの前にも出現しうると考えれば説明がつく。これはチベット語の状況に対応する。チベット語には頭子音に3種類の閉鎖音(*b*, *p*, *pʰ* など)があるものの、無声無気音・有気音は、特定の接頭辞の後に出現するという点で相補分布を形成しており、接頭辞を伴わない露出的頭子音として出現する無声無気音は、助詞・擬音語・借用語などが多く、二次的な起源を持つと思われる。したがって、中国語の \*p と \*pʰ はチベット語の *b* と *pʰ* に対応し、中国語の \*ɦp, \*ɦpʰ はチベット語の *ḫb*, *ḫpʰ* に対応する。EMCとLMC(すなわち唐代およびそれ以前の標準語)および現代方言の大半の祖先となったある中国語方言では、\*ɦp, \*ɦpʰ がEMC *b* = LMC *pɦ* として統合され、清濁の対立が陰調・陽調の対立に置き換えられたときに、官話の *pʰ* (平声)と *p* (仄声)が生まれたと推定される(下図参照)。 ```mermaid --- title: "図1: 無声音の他動詞と有声音の自動詞の交替例" --- flowchart LR node_1["*ɦp-"] node_2["*ɦpʰ-"] node_3["b-/pɦ-"] node_4["pʰ-"] node_5["p-"] node_1 --> node_3 node_2 --> node_3 node_3 --"平声"--> node_4 node_3 --"仄声"--> node_5 ``` 一方、閩語では音の合流が起こらなかった。清濁の対立は、他の方言と同じように声調の対立に置き換えられたが、元々の無気音と有気音の対立は維持されたのである(下図参照)。 ```mermaid --- title: "図2: 無声音の他動詞と有声音の自動詞の交替例" --- flowchart LR node_1["*ɦp-"] node_2["*ɦpʰ-"] node_3["pʰ-"] node_4["p-"] node_1 --> node_3 node_2 --> node_4 ``` 形態論的考察から予想される形と現代語の形が一致する事例を見つけることができれば、閩語についてこの仮説を検証することができるかもしれない。この目的には純粋な口語(白話)のみが関係するので、例を見つけるのはそれほど簡単ではない。しかし興味深い例として、被 「覆われる」は閩語の口語形では頭子音 *pʰ-* を伴って現れる。上で見たように、この単語は「身を隠す」という意味の頭子音 *pʰ-* を持つ単語の濁音派生語のようである。このことは、本来の無声有気音の頭子音を持つ単語は、無声無気音の頭子音を持つ単語よりもかなり稀であるという点で、より重要である。中古漢語では並母 *b* で閩語では頭子音 *pʰ-* を持つ単語のうち、かつての \*pʰ- ==(> EMC *pʰ-*)== を持つ同源語に接続する可能性が高いと思われる他の単語は、帆 「帆を張る」(cf. 汎 「浮く」)と 浮 「浮く」(cf. 桴 「いかだ」)である。中国語でもチベット語でも、派生過程では有気音と無気音の交替も起こりうるという証拠があるため、残念ながら形態論的パターンが明確でないこのようなケースは証拠能力が低い。 チベット語の接頭辞 *ḫ-* は、འཁུར་བ་ *ḫkhur-ba* 「運ぶ」(cf. ཁུར་ *khur* 「重荷、負担」)や འབྱུག་པ་ *ḫbyug-pa* 「塗る、油を塗る」(cf. བྱུག་པ་ *byug-pa* 「軟膏」)のように、名詞に関係する動詞に現れる。しかし、例えば འཁར་བ་ *ḫkhar-ba* 「杖」(その他多数)のように名詞に見られることもあり、ཐལ་བ་ *thal-ba* ~ འཐལ་བ་ *ḫthal-ba* 「過ぎる」、བོལ་ *bol* ~ འབོལ་ *ḫbol* 「クッション、マット」のように接頭辞のある形とない形が自由に交替するかのように見える場合もある。また འབྲང་བ་ *ḫbraṅ-ba*, perf. འབྲངས་ *ḫbraṅs*, imper. འབྲོང་ *ḫbroṅ* [^4]「産む、もたらす」のように動詞の活用全体を通して保持されることもある。すなわち、*ḫ-* は明確な機能を持っているように見える場合もあれば、その機能が不明瞭になっている場合もあるのである。これはチベット語の接尾辞 *-s* にも当てはまる。このことは、中国語の去声派生と清濁交替の多様性と比較することができる。これらは多くの意味分化パターンと関連づけられるが、すべてのケースをカバーする単一の明確な意味論を定義することはできない。シナ・チベット祖語にはもともと比較的一般的な意味合いを持つ多くの接辞があり、それが娘言語でさまざまな形で特化された可能性が高いと思われる。 :::warning :bulb: **補足** Pulleyblankがここで提案した、無声音の他動詞から有声音の自動詞を形成する接頭辞 \*ɦ- に関する近年の総合的な紹介と分析はGates et al.(2022)を参照。Pulleyblankによる閩語の四種類の閉鎖音の起源に関する説明は現在受け入れられていないが、定説もない。 ::: ## 4. 接頭辞 \*s- チベット語をモデルとして中国語から探し出すべき接辞としては、接尾辞 *-s* に対する接頭辞 *s-* がある。チベット語の *s-* は、かなり明確に定義された機能を持つ接辞の一つで、他動詞から使役語を形成し、自動詞から他動詞を形成する。上古漢語における接頭辞 \*s- については、過去にさまざまな提案がなされているが、そのほとんどは単に音声学的観点からのものである。例えばJaxontov(1960)は、以下のような諧声系列内の交替において、\*s- が鼻音を無声化する役割を担っていると考えた。 - 許 EMC *hɨə²* 「許可する」 : 午 EMC *ŋə²* 「十二支の7番目」 - 態 EMC *tʰəj³* 「態度」 : 能 EMC *neŋ¹* 「~できる」 - 荒 EMC *hwaŋ¹* 「荒れ果てた」 : 亡 EMC *muaŋ¹* 「なくなる」 これは残念ながら、初期のタイ語への借用語から得られる、十二支の 午 は上古漢語において頭子音 \*sŋ- を持っていたというかなり良い証拠(Li 1945)と矛盾しており、このことは、鼻音の前の \*s- は無声化をもたらすことなく単に落とされたことを示している。 それよりも前にDong(1948)は、Jaxontovが指摘したタイプの交替を説明するために、無声鼻音 \*m̥, \*n̥, \*ŋ̊ の再構を提案していた。私は1962年に有気音 \*mh-, \*nh-, \*ŋ- を提案し、以下のような交替を説明するために、同じ再構を流音にも拡張した。 - 體 EMC *tʰej²* 「身体」, 禮 EMC *lej²* 「儀礼」 - 脱 EMC *twʰat*, 兑 EMC *dwaj³*, 説 *ɕwiet*, 悦 EMC *jwiet* 私は最初の例に \*lh-/\*l- を、2番目の例に \*δ-/\*θ- を再構したが、上古漢語 \*l はチベット語 *r* に対応し、私が \*δ として再構した音素はチベット語 \*l に対応することを認めた。私は今、上古漢語の再構を以下のように修正したい(\*l- から以母 *j-* または船母 *ʑ-* および \*lh- から書母 *ɕ-* への口蓋化は、上古漢語から中古漢語に至る間に歯閉鎖音と \*n- に口蓋化をもたらしたのと同じ条件下で起こった)。 - \*rh- > 透徹母 *tʰ\(r)-*, \ \*r- > 來母 *l-* - \*lh- > 透書母 *tʰ-*/*ɕ-*, \ \*l- > 定以母 *d-*/*j-* (時には船母 *ʑ-*) 古典チベット語に無声鼻音や有気鼻音はないが、*sr-*, *sl-*, *zl-* に加えて *hr-* と *lh-* があり、チベット語 *lh-* と上古漢語 \*lh- の間には、内的証拠によって再構された非常に優れた同源語が存在する。以下の例は、Pulleyblank(1962: 116–7)ですでに指摘したものである。 - 脱 EMC *tʰwat* < \*lhwat 「剥ぎ取る、奪う」: チベット語 ལྷོད་པ་ *lhod-pa* 「緩む、くつろぐ」 \ ビルマ語 လွှတ် *lhwat* 「自由にする、解放する」も参照。流音の頭子音を維持する形として、広東語の口語形 *lăt* (陰調)とも比較できるかもしれない。 - 鐵 EMC *tʰet* < \*lhet < \*lhəkʲ 「鉄」: チベット語 ལྕགས་ *lčags* < \*lhy- \ 共通タイ語 \*lʰĕk 参照(上古漢語の語末硬口蓋音についてはPulleyblank 1971を参照) チベット語の使役接頭辞 *s-* は、*l* の前にも *lh* の前にも出現し、それぞれ正書法上 *zl-*, *sl-* となるようである。このことは、ལྡོག་པ་ *ldog-pa* 「戻る」の完了形 ལོག་ *log* に由来する ཟློག་པ་ *zlog-pa* 「戻す」や、ལྷད་ *lhad* 「混合物、合金」に由来する སླད་པ་ *slad-pa* を比較すればわかる。ལྡོག་པ་ *ldog-pa* の語根は完了形からわかるように明らかに *l* で始まり、現在形の *ld-* は間違いなく \*ḫl- 由来である。Li(1959)が提案した *ḫdr-* < \*ḫr- と比較されたい。確かに སློག་པ་ *slog-pa* 「回す」という形も存在するが、*l* と *lh* がまさに無気閉鎖音と有気閉鎖音のように単語家族内で交替する可能性があることには、十分な証拠がある。したがって、སློག་པ་ *slog-pa* は未在証の \*lhog-pa に由来する可能性がある。ལྷོད་པ་ *lhod-pa* 「緩む」には代替形として ལོད་པ་ *lod-pa* と གློད་པ་ *glod-pa* があり、中国語でも対応する単語家族には \*lh- だけでなく \*l- を指す単語があることに注意されたい。例えば、脱(奪) *dwat* 「掠める、奪う」, 悦 *jwiet* 「喜ぶ」, 兑 *dwaj³* < \*lwats 「楽しい」など。 :::warning :bulb: **補足** チベット語 *sl* が音韻的に /sl̥/ を表す可能性については既に部分的にLi(1933: 139–140)で言及されており、*ld-* が \*ḫl- (> \*ḫdl- > \*ḫld- > *ld-*) に由来する可能性も同じ論文で言及されていた(1933: 149–150)。これらの分析に対する研究史と現在の扱いはHill(2011: 443, 446–447; 2019: 17–18)参照。 ::: Jaxontovの \*s- 説は受け入れがたいが、それ以外の場所で上古漢語の \*s- クラスターの痕跡が見つかる可能性があることは間違いない。私は以前、中古漢語の歯擦音が他のカテゴリーの諧声系列に現れるケースに関連して、この種の可能性をいくつか提案した(1962: 126ff.)。これらのケースの多くには、特に使役的な意味は見られない。最も良い例(1962では引用していない)は、飤 EMC *zɨ³* 「養う、食べ物」← 食 EMC *ʑɨək* 「食べる」かもしれない。==中古漢語の船母の音価について== Karlgrenの *dźʰ-* から *ʑ-* に修正したことについては、Pulleyblank(1962: 68)を参照。この頭子音は、上古漢語 \*l- の口蓋化形として中古漢語の以母 *j-* の代わりに見られることがあるが、どちらが出現するかについての条件は明確ではない。中古以母 *j-* 自身は初期の仏典転写において硬口蓋摩擦音の音価を持っていたようであり、また中古漢語の以母 *j-* と船母 *ʑ-* の異音同綴は非常に一般的であることに注意されたい。⟨食⟩ の文字にも、固有名詞として *jɨ³* という読みがある。上古漢語の形は、暫定的にそれぞれ \*lə́k と \*slə́ks と再構できる。この派生語は、接頭辞 \*s- だけでなく接尾辞 \*-s も持っている。もともとは \*slək 「養う」と \*sləks 「食べ物」という2つの形があったのかもしれない。 ## 5. 接中辞 \*-r- 中国語の単語形成には、接中辞 \*-r- が使役の意味に関連していると思われる非常に良い例が2つある。 - 致 EMC *tri³* 「到着させる」← 至 EMC *tɕi³* < \*t- 「到着する」 - 黜 EMC *trʰwit* 「追い出す」← 出 EMC *tɕwit* 「出て行く」 こうした例は、後続する歯音のそり舌音化として痕跡を残す、かつての接頭辞 \*r- が反射されているのかもしれない ==(すなわち例えば \*r-t- > *tr-*)==。チベット語の *r-* は動詞化接頭辞である。以下のような形態論的に関連するセットを見ると、これは能動的・強意的な意味を持つように見える。 - རློག་པ་ *rlog-pa* 「転覆させる、堕落させる」, cf. ལྡོག་པ་ *ldog-pa* ==(< \*ḫlog-、前述)== 「変える、背を向ける、戻る」等 - རླུག(ས)་པ་ *rlug(s)-pa* 「清める」, cf. ལུག་པ་ *lug-pa* 「道を譲る、倒れる」 - རྦད་པ་ *rbad-pa* 「煽動する」, cf. འབད་པ་ *ḫbad-pa* 「努力する、力を尽くす」 - རྡེབ(ས)་པ་ *rdeb(s)-pa*, རྡབ་པ་ *rdab-pa*, 「地面に投げつける」, cf. འདེབས་པ་ *ḫdebs-pa* 「投げる、放る」 - རྒྱོང་བ་ *rgyoṅ-ba* 「伸ばす、引き伸ばす」, cf. ཡངས་པ་ *yaṅs-pa* 「幅広い、広い、大きい」, རྐྱོང་བ་ *rkyoṅ-ba* 「延伸、広がり」 中国語には、単語形成における接辞としての \*r- の例が、上に挙げた2つの例以外にもたくさんあることは確かだが、これ以上の議論は別の機会に譲ることにしたい。 :::warning :bulb: **補足** Hill(2023)によれば、上記のうち རློག་ *rlog* と རླུག་ *rlug* の *r-* は使役接頭辞 *s-* がチベット語内部で変化したものである。もちろん、全ての *r-* が *s-* の異形態であるわけでは無い。 ::: ## 6. 母音交替 中国語に並行例があると思しきチベット語の形態的交替のもう一つの例は、別の論文(Pulleyblank 1963; 1965a; b)でも示した、広狭母音の交替・アプラウトである。私の解釈が正しければ、狭母音 \*-ə- と広母音 \*-a- の交替は、「外向的」対「内向的」と呼ぶことのできる意味上の交替と関連しており、音韻的にも意味的にも、カバルド語などの北西コーカサス諸語やインド・ヨーロッパ語の「質的アプラウト」と類似している。以前の論文で取り上げたもの以外では、中国語では 合 EMC *ɦəp* < \*ɦkəp 「結合する、閉じる」と 蓋 EMC *kaj³* < \*kaps 「覆い」の間に見られる交替が良い例である。⟨蓋⟩ には姓として *kap* という読みもあり、また 盍 EMC *ɦap* ==「どうして~しないのか」== の通仮字としても見られる。この *ɦap* という単語は、漢やそれ以前の文献では「門扉」あるいは「閉める」という意味で出てくる ⟨闔⟩ という文字でも表記される。これらの単語がすべて語源的に関連していることは間違いない。また、間違いなくチベット語の འགེབས་པ་ *ḫgebs-pa*, perf. བཀབ་ *bkab*, fut. དགབ་ *dgab*, imper. ཁོབ་ *khob* 「覆う」や、གབ་པ་ *gab-pa* 「隠す、隠れる」、ཁེབས་ *khebs* 「覆い」、འཁེབ་པ་ *ḫkheb-pa*, perf. ཁེབས་ *khebs* 「覆う、広がる」、སྒབ་པ་ *sgab-pa* (*ḫgebs-pa* の二次形)と同源である。 それとは別に、Karlgrenが注目した母音交替として、彼の言葉を借りるなら「*-i̯-* を挟まない単語と挟む単語」の交替がある(Karlgren 1949: 92)。私は別の論文で、Karlgrenの中古漢語再構において韻図三等を特徴づける *-i̯-* は、上古漢語から存在した分節音素ではなく、中古漢語へと変化する間にある種の韻律的特徴から二次的に生じたものであると主張した。私の新しい中古漢語の再構では、三等のヨードは完全になくなり、韻図に代表されるLMCでは母音 *-i-* (合口では *-iu-* = *-y-*)に、『切韻』に代表されるEMCでは母音 *-ɨ-*, *-i-* または *-u-* に置き換えられている。ここで、上古漢語の音節は前後どちらかのモーラにアクセントを持つ2モーラで成り立っており、アクセントのあるモーラが周囲の子音に応じて前舌・中舌・後舌の狭母音に置き換えられたと仮定してみよう。そうすると、以下のようになる(2つのモーラの各主母音を同じものとして表記)。 :spiral_note_pad: **表2: 韻律的特徴による母音体系の発展モデル** | | | | | | :----------------- | :---------------- | :------------------ | :---------------- | | Cə́ə- → Cɨə- \[ɨ] | Cəə́- → Cəɨ- \[ɤ] | Cáa- → Cɨa- \[ɨə] | Caá- → Caɨ- \[a] | | Cʲə́ə- → Cʲiə- \[i] | Cʲəə́- → Cəi- \[e] | Cʲáa- → Cʲia- \[iɛ] | Cʲaá- → Cai- \[ɛ] | | Cʷə́ə- → Cʷuə- \[u] | Cʷəə́- → Cəu- \[o] | Cʷáa- → Cʷua- \[uɔ] | Cʷaá- → Cau- \[ɔ] | 以下では、より簡単な表記法として、第1モーラにアクセントがある場合をグレイブ・アクセント \*-à- で、第2モーラにアクセントがある場合をアキュート・アクセント \*-á- で示す。このような枠組みを用いることで、『詩経』韻部が中古漢語においてどのように分裂していったかを説明することができるようになる。例えば、⟨繳⟩ という文字がEMCで *tɕɨak* と *kew* という異なる読みを持つことも、ここから容易に説明できるだろう。これと同じ声符を持つ単語は、Karlgrenによって \*-ok, \*-og と再構された韻部 ==(いわゆる宵部)== に属する。私はこれを \*-aq, \*-aβ < \*-aʁ (すなわち口蓋垂摩擦音を伴う)に改める(Pulleyblank 1971)。したがって、この文字の2つの読みは \*kjàq > \*kjɨaq > *tɕɨak* と \*kjáʁʔ > /kaiwʔ/ \[kɛwʔ] > /kəiw²/ \[kew²] として再構される。介音 \*-j- は、前者の読みでは頭子音の口蓋化を引き起こすが、後者の読みでは末子音の口蓋化を引き起こすことに注意されたい。この仮説が中古漢語の韻の発展をどのように説明するかについては、別の機会に詳しく説明する。 Karlgrenのヨードの有無による形態論的交替についても、分節的解釈よりも韻律的特徴に基づく方がよく説明できる。これは特に、次のような文法助詞の代替形の場合に明らかである。 - 安 EMC *ʔan* 「どのように、どこに」, 焉 EMC *ʔɨan¹* 「どのように、どこに」 - 于 EMC *uo¹* < \*ɦwà 「~へ、~で」, 乎 EMC *ɦɔ¹* < \*ɦwá 「~へ、~で」 これらは意味の上では区別がなく、違いがあるとすれば、それはおそらく韻律的考慮によって決定されるであろう特定の連語に出現するかどうかである。やや意味の異なるペアもある。 - 乃 EMC *nəj²* < \*nəʔ 「そして、このように、あなたの」, 而 EMC *njɨ¹* < \*nà 「そして、あなたの」 後者は、主に非強勢形であるという点で前者と異なるようだ。次のようなペアにも注目してほしい。 - 莫 EMC *mak* 「ない(者)」, 無 EMC *muo¹* < \*mà 「無い」 - 或 EMC *ɦwək* 「ある(者)」, 有 EMC *uw²* < \*ɦwə̀ʔ 「有る」 また、同じ語彙項目の同義異形も見られる。 - 編 EMC *pen¹* < \*pján, *pjien¹* < \*pjàn 「織る」 - 飦 EMC *kan¹*, *kɨan¹* 「粥」 - 貆 EMC *hwan¹*, *huan¹* < \*hwán (, *ɦwan¹*) 「アナグマ」 - 推 EMC *tʰoj¹*, *tɕʰwi¹* 「押す」 - 崖 EMC *ŋer¹* < \*ŋráj, *ŋie¹* < \*ŋràj 「川岸」 - 僂 EMC *ləw¹*, *luo¹* 「猫背」 - 貓 EMC *marw¹* < \*mráw, *miew¹* < \*mràw 「猫」 - 匍匐 EMC *bɔ¹-bək* < \*bá-bə́k or *buo¹-buwk* < \*bà-bə̀k 「這う」 注目すべきは、これらの単語の多くが擬音語か、あるいは表現的な意味合いを持っていることである。これは我々が韻の分化の原因として仮定しているアクセント交替を説明するのに役立つだろう。 もちろん、この種の音韻的交替が意味変化を伴う場合も多い。 - 承 EMC *nak* 「同意する」, 若 EMC *njɨak* 「そのように、このように」 - 傍 EMC *baŋ¹* 「わき」, 方 EMC *puaŋ¹* 「方向、地域」 さらに研究を進めることで、このような関連する形の間の意味的対照パターンが明らかになるに違いない。 提案されている音声的解釈と関係があるのは、この種の交替が、同じ文字で書かれた全く関係のない単語間の最も一般的な違いの一つであるという事実である。例えば、於 *ʔɔ¹* < \*ʔá (感嘆詞), *ʔɨə¹* < \*ʔà 「~で、~へ」。 この仮説については、ここでは簡単に述べるしかない。またチベット語とは相関関係があるのか、もしあるとすればそれはどのようなものなのかについては、まだ明らかではない。 ## 7. その他の単語家族 これまで述べてきたような様々な形態論的過程や、接辞などの同様の過程は、確かに「単語家族」現象の多くを説明することができる。しかし、同源関係にあると思われるにもかかわらず、まったく異なる、より根本的な説明を必要とするような事例もある。Karlgrenは、単語家族を収集する際、そのすべての項目が同じ種類の末子音を持つことにかなり厳しくこだわった。藤堂明保の語源辞典(Todo 1965)は、「単語家族」という概念をより完全かつ厳密に発展させる試みであるが、さらに厳しく、同じ詩経韻部に限定するよう主張している。 韻部を超えた同源関係の一つとして、私は既に広狭母音アプラウトについて述べた。これはまだ、末子音が類似しているという制限の範囲内である。しかし、このような制限を大きく逸脱する、単語家族関係を持つと思われる事例は他にも数多く存在する。同じ頭子音で意味がよく似ているものの全く異なる末子音を持つ、少なくともKarlgrenや藤堂が収集したものと同じくらいもっともらしい単語家族は、簡単に見つけることができる。 アプラウトのペアの他には、例えば以下のようなものがある。 - 嗣 *zɨ³* 「継ぐ、継承する」, 緒 *zɨə²* 「継承、相続」(=序叙 「順序、継承」) : 續 *zuɔk* 「続ける」 - 譚 *dəm¹* 「話題にする」, 談 *dam¹* 「話す、会話」 : 道 daw² 「話題にする」(『老子』『孟子』『孫子』) - 合 *ɦəp* 「つなぐ」, 闔 *ɦap* 「閉じる」など : 會 *ɦwaj³* < \*-as 「つなぐ、会う」, 和 *ɦwa¹* < \*-al 「調和する」 - 脱 *tʰwat* < \*lhwát 「脱ぐ」, 説 *ɕwiet* < \*lhwàt 「説明する」, 悦 jwiet < \*lwàt 「喜ぶ」など : 釋 *ɕiɛk* < \*lhàk 「解放する、説明する」, 懌 *jiɛk* < \*làk 「喜ぶ」, 舍 *ɕiar¹* 「解放する」, 諭 juo³ 「理解する、図示する」, 愉 *juo¹* 「楽しい、楽しむ」, 偷 *tʰəw¹* 「盗む」 以下は同種の他の例である(EMC)。 :spiral_note_pad: **表3: 単語家族の候補** | | | EMC | 意味 | | :----- | :--- | :----------------- | :----------------------------------- | | 1 | 苦 | *kʰɔ²* | 苦い、苦痛 | | | 困 | *kʰon³* | 苦悩、悩み | | | 酷 | *kʰɔk* | 残酷な | | 2 | 閑 | *ɦeṛn¹* | 余暇 | | | 暇 | *ɦar³* | 余暇 | | 3 | 下 | *ɦar²* | 下る | | | 降 | *ɦɔṛŋ¹* | 屈する | | | 降 | *kɔṛŋ¹* | 下る | | 4 [^5] | 回 | *ɦoj¹* | 回る、戻る | | | 運 | *ɦun* | 巡る | | | 圓 | *wien¹* | 円 | | | 凡 | *ɦwan¹* | 球 | | | 還 | *ɦwaṛn¹* | 戻る、転回する | | | 圍 | *uj¹* | 囲む | | | 衛 | *wiej³* | 護衛する | | | 旬 | *zwin¹* | 十日間の周期 | | | 營 | *jwiɛŋ¹* | 囲む、野営する | | 5 [^6] | 紆 | *ʔuo¹* | 曲げる、曲がった | | | 枉 | *ʔuaŋ²* | 曲げる、曲がった | | | 委 | *ʔwie²* < \*-alʔ | 曲がる、落ちる、垂れ下がる | | | 傴 | *ʔuo²* | 体が曲がった、猫背の | | | 腕 | *ʔwan³* | 手首 | | | 宛 | *ʔuan²* | しなやかな | | | 隈 | *ʔoj¹* | 曲がった、くびれた | | | 蜎 | *ʔwen¹*, *ʔjwien¹* | 芋虫のように這う、柔らかい、曲がった | | | 蠖 | *ʔwak* | 芋虫 | | | 縈 | *ʔwiɛŋ¹* | 巻きつく、絡みつく | | 6 | 柔 | *njuw¹* | 柔らかい | | | 弱 | *njɨak* | 弱い | | | 懦 | *njuo¹*, *nwa³* | 弱い、臆病な | | | 孺 | *njuo³* | 子供 | | | 軟 | *njwien²* | しなやかな | | | 軟 | *nwan¹* | 弱い | | | 飪腍 | *njim²* | 徹底的に調理した、煮すぎた | | | 荏 | *njim²* | 柔らかい | | 7 | 比 | *pjij²* | 並べる、比べる | | | 比 | *pjij³*, *bjij³* | 並んで、共に行く | | | 譬 | *pʰie³* < \*-ks | 例えば | | | 併 | *pjiɛŋ¹* | 組み合わせる | | | 並 | *beŋ²* | 並べる | | | 邊 | *pen¹* | わき、へり | | | 遍 | *pen³* | あまねく | | | 偏 | *pʰjien¹* | 偏った | | | 方 | *puan¹* | 方向、わき、比べる | | | 傍 | *baŋ¹* | わき | | 8 | 累 | *lwij¹* | 縛る、丸く包む | | | 繚 | *liew²*, *lew²* | 丸く縛る、包む | | | 摎 | *luw¹*, *kjiw¹* | 丸く縛る、絞める | | | 綸 | *lwin¹* | 紐を縒る、包む | | 9 | 膫 | *lew¹* | 腸を丸く太らせる | | | 膟 | *lwit* | 腸を丸く太らせる | | 10 | 儽 | *loj³* | 疲れ果てる | | | 勞 | *law¹* | 苦労する、疲れる | | 11 | 尼 | *nrij¹* | 近い、親しい | | | 昵 | *nrit* | 親密な、馴染みのある、接着剤 | | | 狃 | *nruw²* | 馴染みのある、軽蔑する | | | 粘 | *nriem¹* | 接着する、くっつく | | 12 | 怩 | *nrij¹* | 恥じる | | | 忸 | *nruwk* | 恥じる | | | 羞 | *suw¹* | 恥 | | | 恥 | *trʰɨ²* | 恥 (耳 *njɨ²* を声符に持つ) | この種の例を無数に増やすのは簡単だろう。たとえば、「覆う、暗い、盲目、隠された、混乱した」といった意味を持つ *m-* で始まる単語や、「切る」「叩く」といった意味を持つ *kʰ-* で始まる単語を思い浮かべることができるだろう。特にこのような場合は、「音象徴」という曖昧な概念に逃げたくなるかもしれない。しかし、そのような影響を受けにくい文法助詞の場合にも、同じようなことが見られる。以下のような *m-* で始まる否定語は、すべて互いに関連しているはずである。 :spiral_note_pad: **表4: *m-* で始まる否定語の単語家族** | | EMC | | :--- | :-------------- | | 無 | *muo¹* | | 勿 | *mut* | | 亡 | *muaŋ¹* | | 莫 | *mak* | | 罔 | *muaŋ¹* | | 未 | *muj³* < \*-s | | 微 | *muj¹* < \*-l | | 蔑 | *met* | | 末 | *mat* | | 靡 | *mie²* < \*-alʔ | *ŋ-* で始まる一人称代名詞には次のようなものがある。 :spiral_note_pad: **表5: *ŋ-* で始ま一人称代名詞の単語家族** | | EMC | | :--- | :------------- | | 吾 | *ŋɔ¹* < \*ŋá | | 我 | *ŋa²* < \*ŋálʔ | | 卬 | *ŋaŋ¹* | 他にも、「~のように」という意味の単語のセットが有る。 :spiral_note_pad: **表6: *n-* で始まる「~のように」という意味の単語家族** | | EMC | | :--- | :------------- | | 如 | *njɨə¹* | | 而 | *njɨ¹* | | 乃 | *nəj²* | | 若 | *njɨak* | | 爾 | *njie¹* | | 奈 | *naj¹* < \*-as | このような文法的な単語のセットはある程度研究されており、これらは「融合」、すなわち2つの形態素が1音節内で結合することによって生じたと説明されるのが普通である。そのような融合が存在することは、古くから 諸 = 之乎 or 之於 のような事例において認識されてきた。また、焉「その中に」、然「そのような」のように、助詞が単音節語でありながら明らかに2形態素的な意味を持つ場合、融合要素のうち2つ目を独立した形として特定することは不可能かもしれないが、融合という説明はもっともらしいと思われる。全て *-k* で終わり、主語を特定するのに使われる代名詞の形、或 *ɦwək* 「ある(者)」, 莫 *mak* 「ない(者)」, 孰 *dʑuwk* 「どの人」、そしておそらく 各 *kak* 「それぞれ」も参照されたい。これらの単語は、形態素 *-k* を分離して、有 *uw²* 「ある」, 無 *muo¹* 「ない」, 誰 *dʑwij¹* 「誰」, 舉 *kɨə¹* 「全て」(倶 *kuo¹* 「全て」, 皆 *keṛj¹* 「全て」なども参照)から形成されたと考えたくなる。しかし、これは「融合」なのだろうか、それとも複合語と表現した方がいいような、より一般的な単語形成なのだろうか。 いずれにせよはっきりしているのは、この点で助詞と「完全な」単語との間に明確な境界線がないということである。例えば、Karlgrenが指摘したように、諾 *nak* 「同意する」という動詞は、上記のリストに含まれる 若 *njɨak* 「~のような」と明らかに同源である。同じようなケースに、「征服する」という意味の 克 *kʰək* があり、初期の文献では「~できる」という助動詞としても使われている。これは 可 *kʰa²* (< \*-alʔ) 「可能である」と同源に違いない。確実に関連する単語として、他にも 堪 *kʰam²* 「可能である、負う」, 肯 *kʰəŋ²* 「同意する」がある。さらに、克 *kʰək* は「運ぶ」という意味でも使われるが、これは間違いなく、可 を声符とする 荷 *ɦa¹* 「運ぶ」と同源である。 音節よりも細かいレベルに意味的要素を探さなければならないという考えは、間違いなく驚きに値するだろう。しかし、他の言語にも、この提案の信憑性を高めてくれるような並行例があると思われる。 北西コーカサス諸語の魅力的な特徴のひとつは、広狭母音アプラウトに関連してすでに述べたように、単語形成がきわめて透明であることである。Kuipers(1960)が説明したように、カバルド語では、単語の大部分は単独の単分節形態素、あるいはその組み合わせで構成されている。一方音節は、単一の子音、または限られた種類の子音の組み合わせとそれに後続する母音、あるいは音節特徴で構成される。母音には広いか狭いかの二種類しかなく、それらの交替は外向的⇔内向的という形態的な対立を定義するため、形態素は事実上、その子音によって定義される。カバルド語には非常に多くの弁別的な子音があるが、単一子音とその組み合わせから得られる単分節形態素は200ほどしかない(もちろん、その多くは複数の意味を持つ)。この限られたストックから、より長い単語が透明な複合語のプロセスによって構築されるのである。より馴染みのある言語では単純で分析不可能な単語で表されるような、多くの概念がこの方法で表現される。例えば、「涙」は「eye-water」、「指」は「hand-nose」、「喜び」は「heart-good」などである。 インド・ヨーロッパ語でも、かつては単子音語根があった可能性が高い。比較言語学者によって再構されたように、インド・ヨーロッパ祖語の「語根」は主に2つの子音から構成され、それを区切る母音のほとんどは \*e である。インド・ヨーロッパ語の母音体系は北西コーカサス諸語と似ていたようで、どの音節も互いに交替する2つの母音のどちらかを取った。この交替母音は通常 \*e ⇔ \*o と再構されるが、おそらく ==音声的には== そのような前後の対立ではなく、広狭母音の対立(\*ə ⇔ \*a)であったと思われる。2つの母音(ちなみに、意味的には内向的⇔外向的と定義されることもある)のアプラウト関係から、語根は子音によって定義され、C-Cの形をとる。しかし、この問題をさらに詳しく調べてみると、このような単純な語根の多くでさえ、互いに関連しているかのように見えることがよくある。例えば、Pokornyによるインド・ヨーロッパ語の語源辞典には \*u- で始まる語根が多数掲載されているが、そのすべてが「転回する」という意味を持っている。 1. \*u̯ā- (喉音理論によれば \*u̯eH-)、\*-g- (Lat. *vagor*), \*-k- (Lat. *vacillo* 「揺れ動く」), \*-r- (Lat. *vārus*, *varius* 「多様な」), \*-t- 拡張形 2. \*u̯ei-、\*-b-, \*-d-, \*-g-, \*-g̑(h)-, \*-k-, \*-l- (Eng. *wily*), \*-m-, \*-n-, \*-p-, \*-r- (Eng. *wire*), \*-s-, \*-t- (Eng. *withy*) 拡張形 3. \*u̯ek-, \*u̯enk- (Lat. *convexus*) 4. \*u̯el- (Lat. *volvo*)、 \*-d- (German *wältzen*), \*-g-, \*-is- 拡張形など 5. \*u̯endʰ- (Eng. *wind*) 6. \*u̯eng- (Eng. *winch*) 7. \*u̯engʰ- 8. \*u̯er-、\*-b- (Eng. *warp*), \*-d-, \*-(n)g- (Eng. *wrench*), \*-(n)g̑h- (Eng. *wring*), \*-(n)k-, \*-m- (Eng. *worm*), \*-p-, \*-t- (Lat. *vertor*) 拡張形、およびさらに \*-i- を伴う \*-n-, \*-zd-, \*-g̑-, \*-k-, \*-p- (Eng. *wreath*) 拡張形 9. \*u̯es- インド・ヨーロッパ語では \*s- は接頭辞になりうるので、さらに特定の \*su̯- 形の語根をここに加えることができる。 1. \*su̯ei-、\*-b-, \*-d-, \*-g-, \*-k- (Eng. *sway*), \*-p- (Eng. *swift*、古英語 *swifan* 「回転する」から)拡張形 2. \*su̯eng- ~ \*su̯enk- (Eng. *swing*)。 「転回」という基本的な意味が一つの子音 \*u̯ で表現され、それが付加的な要素によって拡張されたように見える。 シナ・チベット語も、かつては単音節の語根を持ち、それがより正確に意味を定義する付加的な要素によって拡張されたと仮定すれば、「単語家族」という状況がどのように生じたかがわかる。時間の経過とともに、かつては透明な複合語であったものが固定化されて分析不可能な表現となり、また音変化によって次第に関連性が不明瞭になったため、今日我々が認識できるのはうっすらとしたヒントのみとなった。私は、我々が既にこのもつれた糸を解きほぐす段階に立っていると言うつもりはない。個々のシナ・チベット諸語の歴史を復元し、互いに比較することが可能になるためには、さらに多くの進展が必要である。多くの証拠が取り返しのつかないほど失われてしまったため、もしかしたらそこに到達することは不可能かもしれない。しかしながら、物事がどのようにあったかを想像し、暫定的かつ推測的な方法で、我々の研究の指針となる発見的モデルを設定しようとすることは、興味深く価値のあることだと思う。言語の本質と起源について根本的な疑問を投げかけることは、数年前よりも洗練されたものとなっている。 本稿はそのような状況で、中国語の歴史音韻論の理解の進展が、すでに上古漢語の形態論に対する新たな洞察につながっていること、また逆に、形態論の研究が歴史音韻論をより確かなものにする一助となることを示したつもりである。 ## 参考文献 - Bailey, H. 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[^1]: 周法高(Zhou 1962)は、去声派生と清濁交替に関する先行研究を少し長く論じているが、Haudricourtの仮説を奇妙なもの(「未免有點兒怪」p. 20 n. 1)として退けている。これは、現代方言には見られない特徴がかつての中国語にあったとは考えられないという、かなり広く見られる態度の典型である。しかし、中国語とチベット語の遺伝的関係の可能性を真剣に考えるならば、中国語がかつてそのような特徴を持っていたに違いないことは明らかである。唯一の問題は、それがいつ、どのような形で失われたかということである。 [^2]: Forrest(1960)は、チベット語の *-s* と(Karlgrenが再構した)中国語の \*-k, \*-t, \*-p ⇔ \*-g*, \*-d, \*-b の交替の機能的な対応に注目し、Haudricourtと同様に、中国語に接尾辞 \*-s を提案した。しかし、彼は声調の問題を考慮していなかった。 [^3]: この論文では、中古漢語の再構形を前期の形(Early Middle Chinese、隋代)または後期の形(Late Middle Chinese、唐代中後期)のどちらかで表記する。後者についてはPulleyblank(1970–71)を参照されたい。EMCの新たな再構は発表準備中である。 [^4]: ==:bulb: 正規の命令形は འབྲོངས་ *ḫbroṅs* である。== [^5]: これは、「丸い、回転する」という一般的な概念を持つ単語の中から、上古漢語 \*ɦw- を指す中古漢語の匣母合口 *ɦw-*, 邪母合口 *zw-*, 云母 *u-* などで始まる単語を選んだに過ぎない。 [^6]: このグループは前の \*ɦw- と関係があるかもしれない。