# 院試体験記 ## これは何? 書きたくなったから書いた、というのが2割。反省が3割。今後の人生イベントの際に振り返ってメンタル崩壊を乗り切る参考資料にするのが5割。 はてブロに書くか迷いましたがそこまで表立って公開するものでも無いのでこちらに書きます。 ## ご報告 そこそこ前の話になりますが、志望していた大学院の入学試験に無事合格しました。現在私は物理学科に居ますが、来年からは(所謂)情報科学/情報工学を専攻します。 具体的な教育機関名や院試形式は省きますが、Twitterの相互フォロワーで気になる方は個人的に聞いてください。もっとも、後述の内容である程度特定は出来るかもしれません。 ## 専攻を変える 研究室の居心地が良く、研究室の先生が提案してくれた研究内容も面白そうだったので3月ぐらいまでは在籍している大学の物理の院に進む予定でした。しかし、いざ院試勉強をしようとするとなると全く手が動かず"何が面白いんだこの学問"となって4月中旬まで何も出来ませんでした。 このままだと落ちることを察したので前々からやりたかった情報科学の研究が出来てかつ、現状でも合格可能性のある場所を探して出願しました。 ## 出願前 受ける先を決め、資料請求やらオンライン説明会、オンラインオープンキャンパス等に参加しました。また、志望研究室を幾つか決めてそこの先生方と面談もし、志望順位を確定させました。 最終的に数学とセキュリティが交差している研究室を3つ選びましたが、第1志望以外に行く未来はあまり思い描けず、とにかく第1志望の研究室に入りたいという意思が固まりました。 その後COVID-19の影響で例年と違う形の入試になると発表されましたが、大きく変わったところはありませんでした。とりあえず出願まで時間があったのでやりたい研究内容のサーベイ論文(面談の時に紹介して頂いた)を読んだり、それに関する本を購入して読んだりしていました。が、CTFに数ヶ月ぶりにハマってしばらくはそれに全てを捧げていました。 ## 出願直前 エントリーシートを書くのが面倒でした。TSGCTFに出ていたりして締切の1週間前まで脳内以外で内容をメモする事はありませんでしたが、書き始めてからは結構早かったです。 主にその大学院を志望した理由とやりたい研究の事を書き連ねました。当時はほぼ毎日1000文字程度日記を書いていたせいか、長い文章を書くことに慣れており、特に筆が進まなくて苦しむことはなかったです。 先頭から終わりまで一気に書くのでは無く、予め書きたい事を段階毎(モチベーション, 背景, 内容等)に洗い出し、その内容を箇条書きでメモしてから文章にしました。結果として700文字ぐらいの箇条書きからなるメモから1000文字弱の研究内容に関する小論文が生まれました。 この方法は口頭試問で研究内容を発表する際の原稿にも応用しました。全体をバラしてそれぞれを構成し、最後に関連箇所を繋ぎ合わせてまとまりのある文章に仕上げるというのは個人的にやりやすかったので今後も使うと思います。 ## 出願 出来たエントリーシートを一晩寝かしてから自分で読み、誤字脱字等の問題が無かったので友人に見てもらって少しだけ表現を修正したりしました。 結局、締切の2日前に出しました。当日消印有効だったので感覚的には3日ぐらい前でしたが今振り返ると結構ギリギリでした。 この為に書留や速達の出し方を人生で初めてググって社会性がちょっと上がりました。 ## 当日まで(前半) 出願で結構体力を使ったので2週間ぐらい院試関連以外の事をしていました。部屋の水回りを入居以降初めてまともに掃除したり、InCTFに出たり、エロゲをやったりしていました。 この頃は凄く意識が高く、自分はもう計算機に全てを捧げるんだと思っていました(実際ツイート内容も日常内容や性癖関連が大幅に削減されてそういうのは全部日記に書くようになった)。今は多少戻りましたが、計算機に全てを捧げる覚悟はあまり揺らいでいません。 InCTFに出たところで、チームメイトに院試に専念するのでしばらく出ない旨を宣言しました。 この頃までは出願したという解放感と情報科学への憧れからかなりメンタルは良かったです。 ## 当日まで(後半) InCTF終了後に面接の原稿生成と発表練習、想定質問、その他の口頭試問対策をするつもりでしたが全く手に付きませんでした。気でも狂ったのかSatisfactoryという工場を作るゲームを起動し、5日間で60時間とちょっとプレイするというニート学生っぷりを発揮しました。流石に当日が近づくにつれてやめましたが、工場を放置するだけのフェーズに入っていたので当日の数日前に起動して発表練習の合間に工場のリファクタリングや拡張をしていました。 また、出ては居ませんがCTFのRev問題を解くのに1日費やしたりするなど現実逃避が目立ちました(楽しかったです)。 残り日数に反比例して焦燥感が増していったにも関わらず実際に取り掛かったのは当日から1週間を切るくらいだったと思います。 それも研究内容に関する本の前半と主要な部分を掻い摘んで読むだけ、原稿のメモを生成するだけでそれぞれ1日ずつ(但し実質作業時間は数時間程度)使う等で、長時間集中して取り組む事はあまり叶いませんでした。 結局、原稿を生成しきったのは前日の夜で発表練習もその直後に数回、数時間の睡眠を経てから当日の朝に数回でした。 想定質問とその解答のリストアップも脳内で考えていたのは1ヶ月前からでしたが、実際にメモに書き起こしたのは数日前からでした。 改めて振り返るとよくこんな態度で面接を突破できたなと思います。実際に口に出す練習は前日までしていませんでしたが、イメトレや脳内発表、脳内質疑応答は結構していたのでそれが上手く働いてくれたのだと思います。思い返せば数カ月間院試のことが頭を抜けた日は殆ど無く、大げさに言えば常に院試対策をしていたということになります。これは常に重りを抱えているということでもありますが、何もしないということは避ける事ができました。 明らかに準備不足だと自分でも分かっていたので前日と当日のメンタルは最悪でした。このままだと落ちると思い込んで半分泣きそうになりながら発表練習をしていました。こんなことになるならCTF休止宣言した直後から対策を施しておけばと何度も思っていました。 ## 当日 睡眠時間が6時間を下回る日が続いていたにも関わらず、原稿生成が遅れた上に発表練習もまともにしていないせいで数時間しか眠れませんでした。 9:30までには家を出なくてはならなかったので、7:00に起きて(実際はもう少し遅かったかも)その後はずっと声に出しながら発表練習をしていました。前日にどのスピードなら時間内に収まるかをある程度推定できていたので時間内に収めることは簡単に出来、後は吃ったり言葉が出てこない事を防ぐための練習に徹しました。 そしてスーツを着て家を出ました。流石に道中で口に出して練習は出来なかったので原稿や想定質問リストを眺めてイメトレをしていました。 結構余裕を持って出たはずでしたが、受付開始時間ちょうどに着きました。 受付終了から試験開始まで30分あったのでやっぱり脳内発表練習をしていました。 実際に自分の発表が始まりました。直前の練習の甲斐あり、吃ることや言葉に詰まることもありませんでした。どうせどこかで詰まって時間を超えてしまうと思ったのでやや早口でしたが詰まることは無く、時間内に無事に発表しきれました。声量も特に問題なく、発表内容はともかく発表態度に問題は無かったと思います。発表直後に"つまり君のやりたい研究はこういうことなんですね?"と聞かれてその通りだったのでよくある"君の研究は何がしたいのかよくわからない"という反応では無く、安心しました。 そして先生方からの質問タイムが始まりました。研究の新規性や社会貢献、なぜその領域のその分野を選んだかのような質問が来ると思って解答を用意していたのですが、志望している先生からは終始数学の問題が飛んできました。 私の研究がそこそこ数学に関わるのでこういった質問が飛んでくることは当然なのですが、事前にあまり想定していなかったこともあり半分ぐらいは答える事が出来ませんでした。特に抽象度が高い問題は抽象代数学に慣れていないのが丸バレでものすごく恥ずかしい思いをしました。整数論の簡単な定理(フェルマーの小定理等)は会場に用意されたホワイトボードに書くことが出来ましたが、"この場合の自明な準同型写像を構成せよ"というような問題には答えられず、略解を教えてもらう等、情けない応答になってしまいました。 一方で志望している先生以外の先生からの質問は特に問題ありませんでした。主にセキュリティの攻撃に関する研究の発表をしたので"なぜ防衛やセキュアなシステム構築ではなく攻撃を選んだのですか?これらに興味はありませんか?"というような質問でした。"興味はありますし、今後自分で何らかの概念を提唱して社会で使われるという夢はありますが、その際も攻撃的なアプローチを自分で加えることは忘れないようにしたいです"というような返答をしました。 あとは専攻を変える事から"これまで学部で情報系の講義を取ったことはありますか?"や"入学後に取ってみたい科目はなんですか?"というような事を聞かれました。前者は"数科目しか取らず、後は独学です"、ということをいった記憶があります。エントリーシートの得意科目にそれらの科目を挙げていたので追加で聞かれたらそのことを答えようと思っていましたが、特に聞かれませんでした。後者は研究内容に関連する科目は当然のこと、計算理論やコンピュータアーキテクチャ、暗号周辺の代数学についてしっかり学びたいという事をアピールしました。実用的な科目では無く、如何にして計算機が成り立っているかについて知りたいという事を伝えました。 嬉しい誤算だったのはCTFについて反応してくれたことでした。セキュリティに興味を持ったのがCTFで、そこから攻撃に関する研究をしたいと発表したことから反応されました。 "実際にどのような問題を解いたのか説明、あるいは実演してください"と言われたのでPwnかCryptoか迷って後者のRSA問題について説明しました。素因数分解出来れば解けてしまうような簡単な場合やWiener's Attack、Coppersmith's Attackまで説明し、Coppersmithについては定理を利用してモニック合同方程式を解ける、ということまで説明を加えました(反応からして志望している先生は知っているようでした)。 ホワイトボードも交えた説明のせいか、ここが凄く長くなってしまい、先生方から"君が暗号に対する攻撃について詳しいしセキュリティコンテスト(CTF)を頑張っているのはわかりました"というような事を言われたのが嬉しかったです。 ですがその直後に"暗号の研究をするのであれば、攻撃の知識だけでなくむしろ先程答えられなかったような抽象的な問題を理解する必要があります"と言われ、まさにその通りだと思いました。 おそらく被害妄想ですが、問題を解けなかったことで志望している先生にやや呆れられたような感じもしました。 1つ2つ漏れはあるかもしれませんが、だいたいこれが面接の全てだと思います。事前にこういった面接だったという情報を幾つか得ており、そこによくあった"なぜ弊学なのか?"や"英語はどの程度出来るか?TOEICのスコアは幾つか?"、"得意科目に書いてあるこの科目ではどういうことをしたか?"というような事は一切聞かれませんでした。 前述したように数学の問題をかなり出されてややパニックに陥ってしまったのが反省点です。入学までに数学はやれるところまで一通りやり直そうと思います(特に線形代数と抽象代数学)。 これは先生によるのかもしれないのでもし入学後に同じ先生を志望していた人に(というか将来の研究室同期)出会ったら聞いてみたいです。 ## 合格発表まで 生きた心地がしませんでした。 毎日Satisfactoryを半日に渡って寝食以外の時間にプレイし、気晴らししていました。一回始めると1日中やり続ける事が出来るタイプのゲームなので合格発表まで長いという事はありませんでした。 しかし、常に内臓の辺りに圧迫感に近いような嫌な感覚が残っていたり、数時間に1回、落ちていた時の事が頭を過ぎって心臓が痛くなったりしました。 結果がインターネット等ではなく、郵送限定で合格だと速達で来るらしいので発送日の翌日は朝から生きた心地がしませんでした。結局、12時過ぎぐらいにインターホンが鳴りましたが、午前中(10時ぐらい)に来ると思っていたので11時以降からインターホンが鳴るまでは落ちたと思い、陰鬱な気持ちでSatisfactoryをプレイしていました。 そして速達を受け取り、合格の2文字を目にして郵便局員さんが去ったであろうタイミングで部屋で叫びました(近隣の方、申し訳有りませんでした)。 ## これから ひとまず面接で問われた数学の問題は解けるようにしておきます。その為に、先月まで息を吸うようにしていたCTF関連の活動の内、幾らかを数学に割り当てようと思います。 また、合格しても書類手続きというかなり面倒なモノが残っているのでまずはこれを無事に済ませたいです。 ## 全体を通して こう書いて振り返ってみると、直前で専攻を変えたり準備不足があったりと順調な受験ではありませんでした。決して"そのような状況でも受かった俺凄い"とは微塵も思っておらず、むしろしっかり対策していれば終始良いメンタルで一連の流れを終えることが出来たり、より高いレベルの大学院を志望出来たりと、より良い可能性があったことからかなり反省している面が強いです。 特にメンタル面での弱さが尽く露呈しました。合格発表前日から当日の朝までは"簡単な気持ちで専攻を変えることが出来るなんていうのが間違っていたんだ"という思いに苛まれ、面倒くさい人間関係に巻き込まれて引き籠もるようになった時や2留が決まった時以上に酷いメンタルでした。これまで根拠のない自信で色々と乗り切ってきましたが、それもとうとうここで終わりだと何度も思いました。 結局これらが杞憂だったことから単に悪く考えがちだという癖があることがわかりました。ただこれは日頃の準備不足を小手先のテクニックや締切駆動で乗り切ったという偶発的で悪い成功体験を自覚しているが故だと思うのでまずはそこを直していけたらと思います。 反省点は確かに多々ありますが、学部の進学振り分けで失敗した上に留年もし、一度は諦めてしまった情報科学の専攻をようやく勝ち取れたという嬉しさが一番大きいです。これを無駄にしないよう充実した修士課程にするとここに誓います。 ## 結び 二度と受けたくないです。就活はこうならないよう願っています。 ## 謝辞 院試までの期間中以下の方々にお世話になりました。この場を借りて感謝の意を申し上げます。 * 夕飯に誘ってくれたり提案に乗ってくれた大学同期と後輩(私が2留しているので学年上は彼の方が上): * 彼らが居なかったらまともな話し相手がおらず、本当に発狂していたと思います。食事の度に心が休まって安心しました。 * 合格発表直後に真っ先に祝杯を上げに行ったのも彼らでした。 * 受けた大学院に昨年合格し、紹介してくれた高校同期: * 彼が紹介してくれなかったらきっとそこを受けることもなく、やる気の無い自大の物理の院試を受けて落ちていたと思います。前々から抑えていた情報科学を専攻したいという欲求を最高の形で引き出してくれました。 * また、入試制度やエントリーシート、面接に関するアドバイスも沢山頂きました。 * 来年は先輩としてよろしくお願いします、もちろんタメ口で接するけど。 * 嫌な顔ひとつせず、院試の受験料を出してくれ、健康の心配もしてくれた両親: * 同じ大学の同じ専攻の同じ研究室という(普通なら)安牌のコースを取らずに外部へ挑戦する事を伝えても応援してくれました。 * 合格発表後も(祝った直後に)手続きやお金の心配をしてくれて、在学期間中に息子の俺がやらかした事をよく分かっていることを実感しました(ごめんなさい)。 * 物理の院進学を見込んだ研究に一度は同意したものの、それを反故にした私の受験に理解を示してくれた現研究室の先生: * COVID-19のせいで申請書類の手続きが難航する中、その方法を提供してくれたり、教務課に連絡してくれたりと、制度面でのアシストをして頂きました。 * 共同研究先に私を売り込んだり、適性を物理では無く情報にあると見抜いてそれに近い研究(実験に関するソフトウェア開発やFPGAでの回路開発)を提案してくれたり等、現行の研究の面でもご支援を頂きました。 * そのような状況で自大の院進学を反故にするという裏切りに近い行為をしてしまった私の進学も支援してくださり、本当に頭が上がりません。 * 常日頃から私の妄言に付き合ってくれたリアフレ達: * 院試期間中は都合の良い時だけ飯や通話に参加したりとご迷惑をおかけしました。 * 私の書類関係が終わって少ししたら、COVID-19に気をつけながらご飯でも行きましょう。 * 院試の気晴らしに呼んだら集まってくれたCTFチームメイト達: * CTFをしている最中は嫌なことを忘れて熱中出来る貴重な瞬間でした。そんな楽しい時間を一緒に過ごせて本当に幸いです。 * これで落ち着いたのでまた一緒にフラグを取りに行きましょう。
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